JP3941860B2 - 溶液製膜方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶液製膜方法に関し、特にセルローストリアセテート(TAC),セルロースダイアセテート(DAC)等の写真感光材料用フィルムや光学フィルムの溶液製膜方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶液製膜方法は、高分子材料を溶媒によってドープにしたあと、このドープをダイから金属支持体上へ流延して、自己支持性をもったところで剥離し、乾燥工程を経てフィルムを得るものである。この方法は、溶融押出法に比べ、光学的等方性や厚み均一性に優れたフィルムを製造することができ、さらに、精密な濾過が可能であることにより異物混入も少ないので、偏光膜保護フィルムや位相差フィルム、透明導電性フィルムなどのオプトエレクトロニクス用途に広く採用されている。
【0003】
回転走行する金属支持体に流延後、金属支持体からの剥ぎ取り用ロールとパスロールを介した後、テンターに導入し両面乾燥することによりフィルムを得るこの方法では、一般に、テンタークリップの噛み込みにより変形したフィルム耳部を、テンター出口において耳切り(以下、スリットと称する)して裁断除去する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、スリット後の耳部(以下、耳切り屑と称する)は、これを特定の搬送条件で搬送しないと、ツレシワを発生し、このツレシワが原因となってフィルムが切断してしまうことがある。図6は、ツレシワの発生状況を説明するためのものであり、シールロール10の出口でのフィルム11の両側端部にはテンタークリップによる噛み跡12がある。この噛み跡12の部分はテンタークリップによる熱伝導によって急激に乾燥し、収縮している。一方、噛み跡12よりも内側の製品部分11aは、余った状態になり、窪み13が発生する。また噛み跡12よりも外側のフィルム耳部11bは乾燥遅れによって窪み14が発生して耳伸びとなる。このようなフィルム11に対して、耳切り線15で図示しないスリッターにより耳切りする場合には、図示しないパスロールによって噛み跡12に沿ってツレシワ16が発生し、このツレシワ16によりフィルム11が切断してしまうことがある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、耳切り屑のツレシワの発生を抑制することができるようにした溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【0006】
【議題を解決するための手段】
本発明者は耳切り屑のシワの発生要因を鋭意検討した結果、溶媒を含むセルロースアシレートフィルムの両耳部をクリップにより狭持して延伸しながら乾燥するテンター乾燥工程を有する溶液製膜方法において、前記クリップは、断面がコの字形かつ前記セルロースアシレートフィルムを載せるクリップ本体、及びセルロースアシレートフィルムを前記クリップ本体とにより狭持する狭持片を備え、クリップ本体の上部に形成された開口部を介して給気ダクトから前記両耳部に乾燥風に当てて両耳部の溶媒含有率を17重量%以下にし、テンター乾燥工程を経たセルロースアシレートフィルムは、前記両耳部に対する静止摩擦係数が0.55未満であるパスロールにより次の工程に搬送されることを特徴として構成されている。なお、本発明の溶液製膜方法により得られるセルロースアシレートフィルムは液晶表示装置の偏光板や保護フィルムとして用いられる。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法での原料高分子材料は、溶液製膜方法によって製膜することができる各種高分子材料であれば特に限定されない。特に好ましくは、偏光板保護膜等のオプトエレクトロニクス用途に用いられるセルロースアシレートである。
【0008】
本発明の製造方法でのフィルムは、公知の各種溶媒を使用したドープから製造することができる。フィルムの原料高分子材料としてセルロースアシレートを用いた場合、溶媒にはメチレンクロライドなどのハロゲン化炭化水素やメタノールなどのアルコール、エステル、エーテルなどを、単独あるいは複数混合して使用することができる。またこれら溶媒を用いて製膜した場合も本発明には含まれる。
【0009】
溶解したドープは濾過により異物や未溶解原料などを除去することが一般的である。濾過には濾紙、濾布、不織布、金属メッシュ、焼結金属フィルター、多孔板等公知の各種濾材を用いることが可能である。濾過することにより、ドープの中の異物、未溶解物等を除去することができ、これらによる製品性能の低下や損傷、欠陥を低減もしくは除去することができる。
【0010】
また、一度溶解したドープを加熱して、さらに溶解度の向上を図ることもできる。加熱には静置したタンク内で攪拌しながら加熱する方法、多管式、静止型混合器付きジャケット配管等の各種熱交換器を用いてドープを移送しながら加熱する方法などがある。また、加熱工程の後に冷却工程を設け、装置内の内部を加圧することにより、ドープの沸点以上の温度に加熱することも可能である。これらの加熱処理をおこなうことにより、完全に溶解できていなかった微小な未溶解物を完全にあるいは実用的に無視してよい程度にまで溶解することができ、製品フィルム中の異物の減少、濾過の負荷低減が図れる。
【0011】
本発明におけるドープには公知の添加剤をドープに添加させることが可能である。添加剤としては紫外線吸収剤や分散剤、可塑剤などが挙げられるが、これらに限定されない。また、ドープ中には、他の添加剤としてシリカ、カオリン、タルクなどを添加することも可能である。これらの添加剤は、ドープを調製する際に同時に混合することも可能であり、また、ドープを調製した後、移送する際に静止型混合器などを用いてインライン混合することも可能である。
【0012】
図1は、本発明の溶液製膜方法を実施した溶液製膜ラインを示している。静置脱泡後、送液ポンプによってフィルターを経由させたドープ20は、ダイ21より金属支持体としてのバンド22上に流延され、熱風乾燥により徐々に溶媒が揮発して、自己支持性をもつようになる。ここでフィルム23をバンド22から剥ぎ取り用ロール24で剥ぎ取り、複数のパスロール25に接触させつつ搬送し、テンター乾燥ゾーン26に導入する。テンター乾燥ゾーン26のロール27を出たフィルム23を前記とは別のパスロール28を介してスリッター29に送り、耳部23aを切断する。耳部を裁断除去されたフィルム23bをさらに別の複数のパスロール30を介してロール乾燥ゾーン31に導入し、このロール乾燥ゾーン31にてロール32で搬送しながら熱風乾燥した後、巻き取り芯33に巻き取る。
【0013】
テンター乾燥ゾーン26では、図2に示すように、フィルム23をテンタークリップ40に噛み込ませて、引っ張り装置41により張力を加えて搬送しながら乾燥する。テンタークリップ40は断面がコの字形のクリップ本体40aと、挟持片40bとから構成されており、フィルム両耳部23aを挟持する。テンタークリップ40の上方には給気ダクト42が配置されている。
【0014】
給気ダクト42は給気ノズル42aをもち、ここからテンタークリップ40に向けて乾燥風を送る。クリップ本体40aの上面には開口部40cが形成されており、この開口部40cを介して乾燥風がテンタークリップ40による噛み跡12(図5参照)よりも外側位置のフィルム耳部23aに当たり、この部分の乾燥が促進される。乾燥風の温度及び風量はテンタークリップ40で覆われたフィルム耳部23aの溶媒含有率が17重量%以下になるように設定される。この溶媒含有率は、15重量%以下が好ましく、13重量%以下となるように設定されることがさらに好ましい。
【0015】
このように乾燥が促進されることにより、フィルム耳部23aにおいて耳伸び状態の発生が抑えられ、ツレシワ抑制効果が得られる。ここでの給気ダクト42は、テンタークリップ40に噛み込まれた部分に局所的に乾燥風を吹き付けることができるものであれば、図示したものに限定されない。なお、フィルムの溶媒含有率(単位;重量%)は、Xグラムをテンター乾燥直前のサンプル重量、Yグラムをテンター乾燥後のサンプル重量とし、計算式(X−Y)/Y ×100にて求める。
【0016】
図3は、テンター乾燥ゾーン26から耳切り後のパスロール30までの工程を示している。テンター乾燥ゾーン26のロール27を出たフィルム23を、パスロール28を介してスリッター29に送り、ここでフィルム耳部23aをスリットする。スリットしたフィルム耳部23aは裁断耳引出ロール50及び搬送ロール51により搬送された後、原料として再利用される。フィルム製品部23bは、耳部23aとは別に、搬送ロール30でロール乾燥ゾーンへと搬送される。
【0017】
図4はパスロール28の一方の端部を拡大して示している。パスロール28のフィルム耳部23aが接触する部分にはフッ素樹脂コーティング28aが施されている。このフッ素樹脂コーティング部分28aの部分と、中央部分28bとは面一に構成されている。また、中央部分28bの表面はハードクロムメッキされている。これにより、パスロール28の中央部分28bに比べてコーティング部分28aのフィルム23に対する静止摩擦係数が低くなり、0.55未満に設定される。その結果、静止摩擦係数が低下した分だけフィルム耳部23aの保持力が低下し、ツレシワ抑制効果が得られる。コーティングするフッ素樹脂としてはポリテトラフルオロエチレンの他、公知のフッ素樹脂系コーティング剤を用いることもできるが、フィルムに対する静止摩擦係数を0.55未満にできるようなコーティング剤であればフッ素樹脂に限定されない。静止摩擦係数の設定については、0.50未満がさらに好ましく、0.45未満が特に好ましい。
【0018】
なお、上記実施形態では、テンタークリップ40に保持されたフィルム耳部23aへ乾燥風を送る給気ダクト42と、両端部をフッ素樹脂コーティングされたパスロール28とを設けたが、これらは選択的に用いても、ツレシワ抑制効果が得られる。
【0019】
さらに、ツレシワ抑制効果を上げるために、図3に示す種々の対策を講じることが好ましい。例えば、ロール27のフィルム出口側に給気ダクト60を設ける。この場合には、給気ダクト60から吹き出した乾燥風によりフィルム耳部23aを浮かせて、この部分のフィルム保持力を低下させることで、同様にしてツレシワ抑制効果を得る。
【0020】
また、ロール27とその後に連なる複数のパスロール28の低ラップ角化を図ることにより、ロール27とフィルム23の接触面積及び接触面圧を小さくする。さらにはパスロール28を側端部のみ2mm程度小径化してフィルム23のパスロール28に対する接触面圧を下げてもよい。この場合にも、フィルム保持力が低下して、同様の効果が得られる。また、図5に示すように、パスロール28のフィルム耳部23aが接触する部分にフィルム進入側から給気する給気ダクト61を設けて、フィルム耳部23aの保持力を低下させてもよい。給気ダクト61は給気ノズル61aをもち、ここから乾燥風を送るが、パスロール28の前記保持力を低下させるのに必要十分な給気を行うことができるものであればよく、図示したものに限定されない。
【0021】
また、スリッター29で裁断除去したフィルムの耳切り屑23aを、裁断耳引出しロール50に前記2つの給気ダクト60,61とは別の給気ダクト62より乾燥風を吹き付けることで、浮かせながら搬送し、耳切り屑23aのツレシワを抑制してもよく、さらには、図示はしないが、流延拡散板の選択によりフィルム耳部23aの膜厚を大きくして、耳部のツレシワ発生を抑制してもよい。
【0022】
【実施例】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明の内容がこれらに限定されるものではない。原料ドープの調製については実施例、比較例とも同様なのではじめにこれを説明し、フィルム作製及び結果をそれぞれあとに説明する。フィルムのツレシワの検査については、テンター乾燥後のフィルム耳部23aとパスロール28が接する部分を目視にて検査する。
(ドープの調製)
セルローストリアセテート 100重量部
トリフェニルフォスフェート 7重量部
ビフェニルジフェニルフォスフェート 5重量部
からなる固形分を
メチレンクロライド 92重量部
メタノール 8重量部
からなる混合溶媒に適宜加え、攪拌して、固形分濃度17.5重量%のドープを調製した。ドープを静置脱泡した後、送液ポンプによってフィルターを経由させダイへ送った。
【0023】
〔実施例1〕
上記ドープを図1のような溶液製膜工程にてフィルム化した。上記ドープ20をダイ21より、回転移動速度35m/分に設定した金属支持体としてのバンド22の上に流延し、自己支持性をもつまで熱風乾燥してフィルム23として剥ぎ取った。このフィルム23をテンター乾燥ゾーン26に導入しテンタークリップ40でフィルム23の両端を保持して張力を加えつつ乾燥した。このとき、テンタークリップ40の上方から120℃の乾燥風を吹きつけ、テンタークリップ保持部の溶媒含有率を13.0重量%とした。フィルム23がテンター乾燥ゾーン26を出たら、テンタークリップ40によって保持され変形したフィルム両耳部23aを裁断除去し、ロール乾燥ゾーン31でさらに加熱乾燥した後、巻き取り芯33に巻き取った。目視にて検査したところ、テンター乾燥の後のパスロール28と接触したフィルム耳部23aにツレシワは発生せず、搬送はきわめて安定であった。
【0024】
〔実施例2〕
テンタークリップ40の上方から乾燥風の吹きつけを行わず、テンター乾燥ゾーン26を離脱後、フィルム耳部23aが接するパスロール28の両側端部にポリテトラフルオロエチレンによるコーティング処理28aを施し、フィルム23に対する静止摩擦係数を0.43としたほかは、実施例1と同様に実施した。パスロール28と接触したフィルム耳部23aにツレシワは発生せず、搬送はきわめて安定であった。
【0025】
〔実施例3〕
テンタークリップ40の上方から乾燥風の吹きつけを行わず、テンター乾燥ゾーン26を離脱後、フィルム耳部23aが接するパスロール28の両側端部に常温の乾燥風を風速40m/秒で吹き付けたほかは実施例1と同様に実施した。パスロール28と接触したフィルム耳部23aにツレシワは発生せず、搬送はきわめて安定であった。
【0026】
〔比較例1〕
テンタークリップ40の上方から乾燥風を吹きつけなかったほかは、実施例1と同様に実施した。すなわち、フッ素樹脂コーティングによるパスロール28のフィルム23に対する静止摩擦係数低下処置や、パスロール28の両端部とフィルム耳部23aとの間への乾燥風の吹きつけ処理を行わず実施した。テンタークリップ保持部の溶媒含有率は17.5重量%であり、フィルム耳部23aが接するパスロール28の両側端部の、フィルム23に対する静止摩擦係数は0.60であった。目視にて検査したところ、パスロール28と接触したフィルム耳部23aにツレシワが発生し、裁断後の耳切り屑23aが切断した。製品となるフィルム部分23bも、スリット部より切断した。
【0027】
【発明の効果】
以上のように、本発明の溶液製膜方法は、フィルムのツレシワの発生を抑制して、優れたフィルム搬送性とフィルム製造の工程安定性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶液製膜方法を実施した溶液製膜ラインを示す概略図である。
【図2】テンタークリップ部を示す概略図である。
【図3】テンター乾燥工程から耳切り後のパスロールまでのラインを示す概略図である。
【図4】両端部をコーティングしたパスロールを示す平面図である。
【図5】パスロールの両端部に給気する別の実施形態を示す平面図である。
【図6】従来の溶液製膜方法におけるテンター乾燥直後のフィルムの状態を示す平面図である。
【符号の説明】
23 フィルム
23a フィルム耳部
23b フィルム製品部
26 テンター乾燥ゾーン
28 パスロール
28a コーティング部
29 スリッター
40 テンタークリップ
42 給気ダクト
61 給気ダクト

Claims (1)

  1. 溶媒を含むセルロースアシレートフィルムの両耳部クリップにより狭持して延伸しながら乾燥するテンター乾燥工程を有する溶液製膜方法において、
    断面がコの字形かつ前記セルロースアシレートフィルムを載せるクリップ本体、及び前記セルロースアシレートフィルムを前記クリップ本体とにより狭持する狭持片を前記クリップは備え、
    前記クリップ本体の上部に形成された開口部を介して給気ダクトから前記両耳部に乾燥風に当てて前記両耳部の溶媒含有率を17重量%以下にし、
    前記テンター乾燥工程を経たセルロースアシレートフィルムは、前記前記両耳部に対する静止摩擦係数が0.55未満であるパスロールにより次の工程に搬送されることを特徴とする溶液製膜方法。
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