JP3933748B2 - ワイヤソー用水溶性切削液 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は水溶性のワイヤソー用切削液に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、シリコンやGaAs等の硬脆材料製の比較的大きなインゴット等の切断には、厚さの均一な切断が可能なだけでなく、切り屑の発生量が少なく、一回の切断で多数のウェハーを作成できるという利点を有するワイヤソーが利用されている。
ワイヤソーの使用に際しては、鉱物油を主成分とする切削油に炭化ケイ素等の砥粒を1:1〜1:1.5(重量比)の割合で分散させたスラリー状切削処理剤が切断加工面に供給され、切り出されたウェハーはトリクロロエタンやジクロロメタン等のハロゲン系溶剤を用いる洗浄処理に付されている。
【0003】
一方、この種のハロゲン系溶剤の使用は、作業衛生や環境保全等の見地から実質的に禁止されるようになっているために、水溶性の切削液の開発が要請され、既に種々の水溶性切削液が提案されている。
このような水溶性切削液としては、(i)アルカリ水溶性または酸水溶性を含有する切削液(特開平2−262955号公報および特開平3−239507号公報参照)、(ii)グリコール、水溶液増粘剤(メチルセルロースおよびポリアクリル酸等)および水を含有する切削液(特開平4−216897号公報および特開平4−218594号公報参照)、(iii)脂肪酸イミダゾール水溶液を含有する切削液(特開平8−57848号公報参照)および(iv)有機または無機ベントナイトおよび水を含有する切削液(特開平8−57847号公報参照)が例示される。
【0004】
しかしながら、これらの水溶液切削液(i)〜(iv)には下記の問題点がある。
切削液(i):切削液の粘度が低いために砥粒をほとんど保持することができないだけでなく、水の蒸発に起因して砥粒スラリー濃度が使用中に変化するために、均一な切削加工ができない。
切削液(ii):水溶液増粘剤の十分な溶解性と水溶性溶剤に対する十分な安定性を確保するために比較的多量の水(10〜99重量%)を必要とするために、水の蒸発に起因して砥粒スラリー濃度が使用中に変化して均一な切削加工が困難となる。また、この切削液の場合には、含水量が約30重量%以下、特に約20重量%以下になると、調製後の分散安定性が悪くなる。
切削液(iii):保水性向上剤が配合されているが、多量の水(約35〜47重量%)を含有するために、水の蒸発に起因して砥粒スラリー濃度が使用中に変化して均一な切削加工ができない。
切削液(iv):多量の水を配合しないとベントナイトの分散安定性が悪く、また、使用中の多量の発泡と水の蒸発に起因して砥粒スラリー濃度が変化するために、均一な切削加工が困難となる。
【0005】
出願人は先に、従来の水溶性切削液の上記のような問題点を解決し、低含水量または無含水量の条件下でも安定であって、砥粒を安定に分散させると共にワイヤソーへの砥粒の付着性を向上させることによって被加工物の均一な切削加工を可能にするワイヤソー用水溶性切削液として、所定量のヘクトライトと水をエチレングリコール等の水溶液に配合して成る切削液を提供した(特願平9−67852号明細書参照)。
しかしながら、この水溶性切削液にはチキソトロピー性が非常に高いためゲル化をもたらすことがあるだけでなく、潤滑性が十分でないために被加工物の切削効率が劣るという問題があることが判明した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は先の出願に係る水溶性切削液の優れた特性を損うことなく、上記問題点を解決するためになされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は、ヘクトライト0.2〜5重量%、ポリカルボン酸塩0.001〜0.2重量%非イオン界面活性剤0〜10重量%、および水2〜30重量%を水溶性溶剤に配合して成るワイヤソー用水溶性切削液に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
ヘクトライトとしては、天然ヘクトライトおよび/または天然ヘクトライトと類似の構造と組成を有する合成ヘクトライトを適宜使用すればよいが、増粘効果を安定的に発揮する無着色切削液を調製するためには合成ヘクトライトが好ましい。このような合成ヘクトライトとしては日本シリカ工業株式会社製の「合成ヘクトライト(粒径:0.02μm)」が例示される。
【0009】
ヘクトライトの粒径は特に限定的ではないが、通常は10〜200nm、好ましくは20〜100nmであり、200nmよりも大きくなると、ヘクトライトの分散安定性が悪くなり、また、10nmよりも小さくなると砥粒の沈降抑制が困難となる。
【0010】
ヘクトライトの配合量は0.2〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%であり、0.2重量%よりも少ないと砥粒の沈降を効果的に抑制できず、また、5重量%よりも多くなると、切削液に対して砥粒を多量に(例えば、重量比1:1になる量)配合することが困難となる。
【0011】
また、本発明においては、ヘクトライトの高いチキソトロピー性に起因するゲル化を遅延または防止するためにポリカルボン酸塩を配合する。
ポリカルボン酸塩としては、アクリル酸塩や、メタクリル酸塩のホモポリマーまたはこれらとエチレン、プロピレンもしくはスチレン等とのコポリマー、(無水)マレイン酸塩とエチレン、スチレン、プロピレンもしくはアミレン等とのコポリマーおよびアルギン酸塩等が例示されるが、特に好適なポリカルボン酸塩は次式(I)で表される化合物である:
【化2】
式(I)において、Mはアルカリ金属原子(好ましくはNaまたはK)またはNH4を示し、nは2〜10、好ましくは3〜6の数を示し、mは10〜1000、好ましくは20〜200の数を示す。
【0012】
ポリカルボン酸塩の配合量は、0.001〜0.2重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%であり、該配合量は0.001重量%よりも少なくなると所期の効果が得難く、また、0.2重量%よりも多くなると、スラリー中の砥粒の沈降が起こる。
【0013】
本発明においては、水溶性切削液にさらに十分な潤滑性を付与するために非イオン界面活性剤を配合するのが好ましい。
非イオン界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンスチレン化アリールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキルメルカプタンのおよび多価アルコール脂肪酸エステル等が適宜選定して使用すればよいが、特に好適な非イオン界面活性剤はヒドロキシカルボン酸(好ましくはリシノール酸およびヒドロキシステアリン酸等)とジグリセリンまたはトリグリセリンとのエステルのエチレンオキシド付加物、例えば、ひまし油エチレンオキシド付加物および水添ひまし油エチレンオキシド付加物等である。
【0014】
非イオン界面活性剤の配合量は0〜10重量%間で、好ましくは0.01〜5重量%であり、該配合量が0.01重量%よりも少ないと所期の効果は得難く、また、10重量%よりも多くなると、不経済なだけでなく、発泡や液の不安定化という問題がもたらされる。
【0015】
水の配合量は2〜30重量%、好ましくは10〜20重量%であり、2重量%よりも少なくなるとヘクトライトを水溶性溶剤中に安定に分散させることが困難となり、また、30重量%よりも多くなると、従来技術の場合のように、水の蒸発による砥粒スラリー濃度の変化に起因する不均一な切削加工の問題が顕在化する。なお、水はイオン交換水または純水が好ましい。
【0016】
上記のヘクトライト微粉末等を分散させる水溶性溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体およびこれらの任意の混合物等が例示されるが、グリコール系溶剤が好ましい。
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体は分子量が1000を越えないものが好ましい。
【0017】
本発明による水溶性切削液には、所望により、粘度調整のために水溶性増粘剤を適宜配合してもよい。
水溶性増粘剤としてはポリビニルピロリドン(好ましくは、分子量が10000〜2000000、特に1000000〜2000000のポリビニルピロリドン)が特に好ましい。
水溶性増粘剤の配合量は通常は0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜3重量%であり、5重量%よりも多くなると、粘度が上がりすぎ、作業性を低下させる。
【0018】
本発明による水溶性切削液には、該切削液の前記の特性を損なわない範囲内において、所望によりさらに各種の添加剤、例えば、消泡剤(例えば、シリコン系消泡剤)および防錆剤(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等)等を適宜配合してもよい。
【0019】
本発明によるワイヤソー用水溶性切削液は上記配合成分を高速撹拌により均一な分散液とすることによって調製されるが、水溶性増粘剤を配合する場合には上記水溶性溶剤にヘクトライト、非イオン界面活性剤、ポリカルボン酸塩および水等を高速撹拌により均一に分散させた後、これに水溶性増粘剤を添加して溶解させるかまたは水溶性増粘剤の水溶性溶剤溶液を添加して調製してもよい。
【0020】
本発明によるワイヤソー用水溶性切削液の粘度はヘクトライト、非イオン界面活性剤およびポリカルボン酸塩の種類および配合量並びに水溶性溶剤の種類および配合量等によって左右され、特に限定的ではない。一般的には10〜1000cp、好ましくは50〜500cpである。一般に、粘度が10cpよりも低くなると、砥粒の分散性が低下し、また、粘度が1000cpよりも高くなると、作業性が低下する。
【0021】
被加工物、例えばシリコンやGaAs等の硬脆材料製のインゴットやフェライトヘッド等をワイヤソーを用いて切断するに際しては、上記の水溶性切削液に砥粒、例えばSiC製砥粒等を1:1〜1:1.5(重量比)で添加した切削加工液を調製し、該切削加工液を加工部に供給し、ワイヤソー切断をおこなう。砥粒の粒径は被加工物の種類や寸法等によって左右され、特に限定的ではないが、通常は5〜30μm、好ましくは10〜20μmである。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって説明する。
実施例1〜9
表1に示す配合処方により、ホモミキサー(回転数:5000rpm)を用いてワイヤソー用水溶性切削液1〜9を調製した。
【0023】
【表1】
【0024】
得られた水溶性切削液1〜9の表面張力を測定し、また、調製から24時間静置後の分散安定性およびゲル形成性を調べた。
さらに、水溶性切削液1〜9に関する炭化ケイ素砥粒(GC#800)の分散性およびワイヤソーへの該砥粒の付着性を以下の方法によって調べた。
炭化ケイ素砥粒の分散性
被験液に等重量のGC#800を添加し、この分散液をメスシリンダーに入れ、48時間静置後、ケイ素砥粒の沈降状態を透明液部分の容量%で評価する。
ワイヤソーへの炭化ケイ素砥粒の付着性
上記分散液中にワイヤを1分間浸漬した後、引きあげ、ワイヤソーへの砥粒の付着性を目視によって評価する。
上記の評価結果を切削液の表面張力、分散安定性およびゲル形成性と共に以下の表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
比較例1〜4
前記実施例の手順に準拠し、表1に示す配合処方により切削液1'〜4'を調製し、これらに関する炭化ケイ素砥粒の分散性およびワイヤソーへの該砥粒の付着性並びに切削液の表面張力、粘度、分散安定性およびゲル形成性を調べた。
結果を表2に示す。
【0027】
【発明の効果】
本発明によるワイヤソー用水溶性切削液を使用することにより、砥粒を安定に分散させてワイヤソーへの付着性を向上させることができ、さらに該切削液のゲル化が防止されると共に該切削液が十分な潤滑性を発揮するので、ワイヤソーによる被加工物(例えば、シリコンやGaAs等の硬脆材料製のインゴットやフェライトヘッド、水晶、セラミックス、光学ガラス、ネオジム磁石、サファイヤ、リチウムタンタレート等)の均一で効率的な切削加工が可能となる。
Claims (4)
- ヘクトライト0.2〜5重量%、ポリカルボン酸塩0.001〜0.2重量%、非イオン界面活性剤0〜10重量%および水2〜30重量%を水溶性溶剤に配合して成るワイヤソー用水溶性切削液。
- 非イオン界面活性剤がヒドロキシカルボン酸とジグリセリンまたはトリグリセンとのエステルのエチレンオキシド付加物である請求項1記載の切削液。
- 水溶性溶剤がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合体から成る群から選択される1種または2種以上の溶剤である請求項1記載の切削液。
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