JP3933747B2 - 環状エーテルの重合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は環状エーテルをカルボン酸無水物と重合触媒の存在下で開環重合し、ポリオキシアルキレングリコールのエステルを製造する方法に関するものである。さらに詳しくは、重合反応液から触媒を分離することが簡便な固体酸系重合触媒を用い、該触媒の活性低下等を抑えて工業的に有利に環状エーテルからポリオキシアルキレングリコールのエステルを製造する方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリオキシアルキレングリコールは一般式HO−[(CH2 )n O]m −H(mは2以上の整数、nは1以上の整数を表す。)で示される両末端に一級水酸基を有する直鎖ポリエーテルグリコールであり、一般的に環状エーテルの開環重合により製造される。この中でとくに工業的に意味を持つ環状エーテルは、テトラヒドロフラン(THF)の重合反応により得られるポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)である。PTMGは一級水酸基を両末端に持つ直鎖ポリエーテルグリコールで、一般式HO−[(CH2 )4 O]n −H(nは2以上、4,000以下の整数で示される重合度である。)で表され、伸縮性や弾力性が要求されるウレタン系樹脂弾性繊維の原料として工業的に利用されている。
【0003】
また、最近では熱可塑性ポリエステルエラストマーの原料としての用途もある。このような弾性繊維やエラストマーの原料としての用途には、特に、数平均分子量(Mn)が約500〜3,000程度の中分子量のPTMGが用いられる。
かかるPTMGの合成法の一つとして、特開平4ー306228号公報、あるいは、米国特許第5,344,964号明細書に示されている如く、SiO2 −Al2 O3 のようなIII価とIV価の酸化物の混合物よりなるHammett Ho指数が+3.0〜−10.0の複合酸化物を重合触媒として用い、酢酸と無水酢酸1:15〜15:1の混合液の共存下にテトラヒドロフランの開環重合反応を行い、両末端がエステル化されたポリテトラメチレングリコールのアセテート(PTME)重合体を得、しかる後に加アルコール分解(アルコリシス)反応によりPTMGを得る方法が提案されている。
【0004】
これらの固体酸系重合触媒は、数平均分子量500〜4,000のPTMEを効率的且つ比較的狭い分子量分布で製造することが可能である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの方法においては、連続的にPTMEを製造しようとする場合に重合触媒の活性低下が著しい。また、酢酸を多量に必要としており、重合系に遊離の酢酸が多量に存在することとなる。これは反応器を腐食させるので好ましくない。そのためPTMEを連続的に工業的有利に生産することは不可能である。
【0006】
本発明は、環状エーテルの開環重合によりポリオキシアルキレングリコールのエステルを工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
一般的に、無水酢酸のようなカルボン酸無水物の存在下での環状エーテルの重合反応は、ルイス酸点で活性化されたカルボン酸無水物の環状エーテルへの求電子反応により反応が開始され、環状エーテルの連鎖成長で反応が進行し、アセテート等への求電子反応により反応が停止するというメカニズムである。即ち、触媒としてはルイス酸型の触媒が有効に用いられる。例えば複合酸化物、塩化アルミニウム、粘土化合物、ゼオライト等は酸点として、ルイス酸点を有することは知られているが(金属酸化物と複合酸化物」田部浩三編など)、この重合反応の様にルイス酸点が活性点である場合、ルイス酸の特性として水により触媒の活性点が被毒され、重合活性が損なわれることに、本発明者らは注目した。
【0008】
環状エーテルの重合反応においては、原料である環状エーテルに水が含まれており、例えばブタジエンを酸化的にアセトキシ化した後、加水分解し、1,4ーブタンジオールを生成せしめ、このものの脱水によりテトラヒドロフランを得る製造プロセスにおいては、加水分解及び脱水反応由来の水が生成物であるテトラヒドロフランに混入する。通常、原料THFは予め蒸留により水を除去するが、工業的には完全に水を除去することはできず、通常、原料THF中には、例えば100〜600ppmの水が存在する。この水分量はルイス酸触媒による重合反応を経時的に劣化させるのに十分な量である。
【0009】
従って、原料のテトラヒドロフランは、その水分量が100ppm以下であることが好ましいが、原料のテトラヒドロフランの水分量を100ppm以下に抑制しても、重合触媒や酸無水物等に含まれる水分が反応系に混入するため、重合触媒 の活性を低下させることが判明した。
本発明者らは水による重合触媒の劣化対策を鋭意検討した結果、重合反応系中の水分濃度を100〜500ppmよりも更に低減させ、30ppm以下、好ましくは10ppm以下になる状態にして開環重合することにより、重合触媒の経時劣化を抑制できることを見い出し、本発明に到った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、カルボン酸無水物及び実質的に重合能を有しないブレンステッド酸型固体酸触媒からなる加水分解触媒の存在下、ルイス酸型固体酸系重合触媒を用い且つ反応系中の水の濃度を30ppm以下に保持して、環状エーテルの開環重合反応を行い、重合物の末端の一部又は全てがエステル化された重合体を生成させることを特徴とする環状エーテルの重合方法に存する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明において、反応原料として用いられる環状エーテルとしては、環の構成炭素数として、2〜10のものが挙げられ、具体的には、テトラヒドロフラン(THF)、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、オキセタン、テトラヒドロピラン、オキセパン、1,4ージオキサン等が用いられる。また、2ーメチルテトラヒドロフラン等のアルキル基、ハロゲン原子等で置換された環状エーテルも使用できる。これらの中でも特にTHFはPTMGの原料であるため工業的に重要であり、本発明の重合方法の原料の環状エーテルとして好適である。
【0012】
環状エーテルは、水分が100ppm以下と極力少ないものが好ましいが、従来の100〜600ppmの水分の量のものであっても使用できる。
重合触媒としては、以下に例示するような前述の様なルイス酸性を有する固体酸系触媒を用いるのが好ましい。
a) {Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、Zn、Cd、Cu、Fe、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Y、La、Ce、Yb、Zn、Si}からなる群より選ばれる1種類および/又は2種類以上の酸化物を600℃〜1,150℃の高温で焼成処理を施して酸化物とした触媒。
【0013】
b) Si及びAlを含有する粘土化合物、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、セピオライト、マイカ等の粘土化合物
c) BEA、EMT、ERI、EUO、FAU、HEU、LTA、LTL、MAZ、MOR、MTW、NES、OFF、TONからなる群から選ばれる構造のゼオライト類(Structure Commission of the International Zeolite Associationの「ATLAS OF ZEOLITE STRUCTURE TYPES, Third Edition(1992), W.M.Meier amd D.H.Olson記載)
等が挙げられる。
【0014】
これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせることもできる。工業的に有用なPTMGは数平均分子量として、500から4,000程度の範囲のものが多いが、この数平均分子量はルイス酸の酸強度に依存する傾向が見られる。即ちルイス酸強度が強い場合、数平均分子量は低下する。ルイス酸強度は金属の組み合わせによって規定されることが田部の理論等(「金属酸化物と複合酸化物」田部浩三編など)によって知られている。従って、所望の数平均分子量のPTMGを得るには、上述のa)、b)、c)より選ばれ、かつ特定の酸強度(Hammett Index〔ハメットの指示薬を用い、H0(ハメットの酸度関数による酸点の強度)〕が≦+3.3、好ましくはH0≦−3.0)を満足する触媒を用いるのが好ましい。
【0015】
本発明では、重合触媒としてのルイス酸型触媒としては、上記(a)の特定の金属の酸化物又は複合酸化物(以下これらを単に「複合酸化物」と称す)を使用するのが好ましい。この製造法としては、次の工程を経る方法が挙げられる。まず、第一工程で前駆体を得る。具体的には{Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、Zn、Cd、Cu、Fe、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Y、La、Ce、Yb、Zn、Si}からなる群より選ばれる2種類以上の金属の塩またはそのアルコキシドを含有する混合溶液に、場合によって酸、アルカリ、又は水を添加することにより沈澱物、あるいはゲルを重合触媒前駆体として形成させる。沈澱またはゲルを得る方法として共沈法、ゾルーゲル法、混練法、含浸法などが挙げられる。適当な担体上に金属塩/又は金属アルコキシドを担持させ、固相状態(実質的に水を含まない状態)においてアルカリやアミン等の塩基性物質を接触させる過程を経て重合触媒前駆体を得る方法が特に有効である。
【0016】
第二工程としてこのようにして得られた重合触媒前駆体を、必要に応じて濾過、洗浄、乾燥を行った後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、又は空気あるいは希釈酸素ガス等の酸化性ガス雰囲気下、600〜1150℃で焼成し、所望の酸化物(固体酸系重合触媒)を得る。加熱焼成温度としては通常600〜1150℃、好ましくは600〜1000℃の高温で行われる。高温焼成することにより触媒の活性、安定性が向上する。
【0017】
本発明においては、重合反応系中に含まれる水の濃度を加水分解触媒により低減させ、30ppm以下、好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下の水分濃度となる状態に保持して環状エーテルの開環重合反応を行う。上記範囲を超えると重合触媒の活性が著しく低下し、得られる重合物の分子量分布が広くなるという点で不都合である。
【0018】
反応系中に含まれる水の濃度を上記範囲に低減する方法としては、例えば、
i)反応系中の水を、反応系中に含有されるカルボン酸無水物を加水分解させてカルボン酸にする際の原料に利用することにより低減させる方法
ii)反応系中の水を、モレキュラーシーブ等の吸着剤により吸着させて低減する方法
iii)乾燥剤処理、精密蒸留等の操作により、THF、無水酢酸それぞれ水の濃度を低減する方法
等が挙げられる。しかし、ii)の方法は吸着剤に吸着した水を除くために定期的に吸着剤の再生操作が必要となる。iii)の方法は、THFの脱水のために乾燥剤として例えば金属ナトリウム、水酸化カリウム等アルカリを用いたり、あるいはきわめて精密な蒸留塔が必要となり、工業スケールで行なうのは困難である。
それ故、i)の方法は、工業的に実施する上で最も好ましい。
【0019】
i)の反応系中の水の量を、加水分解触媒の存在下で、カルボン酸無水物を加水分解させることにより低減させる方法において、用いる加水分解触媒としては、イオン交換酸量が0.001mmol/g以上である陽イオン交換樹脂、及び固体酸触媒から選ばれる加水分解触媒が好ましい。
具体的には、以下のA)〜E)ような加水分解反応性を示すブレンステッド酸型固体酸触媒を用いることが好ましい。
【0020】
A)陽イオン交換樹脂、例えば、−SO3 H基を有するビニルベンゼン・スチレン共重合体。具体的には商品名:ダイヤイオンSKシリーズ及びダイヤイオンPKシリーズ(三菱化学(株)製品)などの強酸性陽イオン交換樹脂、
B)ゼオライト類に代表される酸性結晶性多孔体材料、
C)Si及びAlを含有する粘土化合物の触媒、
D){Nb,Ta,Al,Re,P,S,V,W,Mo,Si}よりなる群から選ばれる元素の酸化物または複合酸化物を150〜450℃の中温で焼成してなる加水分解触媒(なお、該触媒はこの150〜450℃の温度で焼成することにより、ブレンステッド酸性を発現させたものである。この際、触媒のブレンステッド酸量はイオン交換酸量として0.001mmol/g以上が必要である。150℃より低い温度で焼成を行った場合には、酸化物前駆体の熱分解によるブレンステッド酸形成が不充分である。また、450℃を越えた温度ではブレンステッド酸からルイス酸への変質が起こってしまい充分なブレンステッド酸量が得られない。)
E)水酸化アルミニウムを400℃以上の温度で処理した酸化アルミニウム
などが挙げられる。
【0021】
またA)〜E)の加水分解触媒の特徴は、THF等の環状エーテルに対して重合活性を持たない又は重合活性が極めて低いことが挙げられる。加水分解触媒が重合活性をもつ場合には、得られるPTMGの分子量分布が広くなり、好ましくない。
A)〜E)等の加水分解触媒により、重合反応系中に含まれる水の量を、カルボン酸無水物を加水分解反応させることにより低減させる方法としては、▲1▼重合反応に先立って加水分解反応を行う方法、あるいは▲2▼重合反応と平行して加水分解反応を行わせる方法とがある。
【0022】
即ち前者として
(1)重合反応に先立ち、水とカルボン酸無水物の加水分解反応の触媒である、上記のA)イオン交換樹脂、B)ゼオライト類、C)粘土化合物、D)特定の金属の複合酸化物、E)酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種類の加水分解触媒により、反応系内に存在する水を分解、消費させる方法である。
【0023】
後者としては
(2)重合触媒と、カルボン酸無水物の加水分解反応を触媒する上記A)ないしE)の中から選ばれる少なくとも一種類の加水分解触媒とを各々別の触媒として重合反応系中に共存させ、反応系内に存在する水を分解、消費させる方法、
(3)重合触媒である{Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、Zn、Cd、Cu、Fe、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Y、La、Ce、Yb、Zn、Si}からなる群より選ばれる元素を含む酸化物および/又は2種類以上の元素からなるルイス酸型複合酸化物に、カルボン酸無水物を加水分解する機能を有する上記D)の酸化物または複合酸化物を担持した加水分解触媒/重合触媒を用いて反応系内に存在する水を分解、消費させる方法がある。(尚、本発明において「加水分解触媒/重合触媒」とは、重合触媒に加水分解触媒を担持させたもので、加水分解触媒能と重合触媒能の両方を持つ触媒を意味する。)
この他、後者の方法の例としては、
(4){Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、Zn、Cd、Cu、Fe、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Y、La、Ce、Yb、Zn、Si}からなる群より選ばれる元素の酸化物および/又は2種類以上の元素からなるルイス酸型複合酸化物の重合触媒を、Si/M(Mはメタロシリケートゼオライト中のSi以外の格子内金属成分の合計を表す)比が10以上のメタロシリケートゼオライト上に600℃〜1100℃で焼成することにより得られる重合触媒/加水分解触媒を用いて反応系内に存在する水を分解する方法、(ここで重合触媒/加水分解触媒とは加水分解触媒に重合触媒を担持させたもので、重合触媒能と加水分解触媒能の両方を併せ持つ触媒を意味する。また、Si/Mが10以上であることは、充分な重合活性をしめす複合酸化物を形成させるに際し、600℃以上の高温で焼成するため、加水分解触媒であると共に触媒担体でもあるゼオライトの耐熱性が該温度でも十分であるための指標であり、Si/Mが10未満ではゼオライトの構造の一部または全部が破壊され好ましくない。)も挙げられる。さらに、
(5)(2)〜(4)に記載した触媒を用いた重合反応に先立って、前記したカルボン酸無水物の加水分解反応を触媒するA)イオン交換樹脂、B)ゼオライト類、C)粘土化合物、D)担持固体酸及びE)酸化アルミニウムの中から選ばれる少なくとも一種類の加水分解触媒により、反応系内に存在する水の少なくとも一部を分解、カルボン酸の形成に消費させたのち、更に重合反応と平行して加水分解反応を行う方法、
等もある。
【0024】
前記A)〜E)の固体酸触媒は、イオン交換酸量として0.001mmol/g以上の酸量を有する触媒が好ましい。ここで言うイオン交換酸量とは、該触媒を塩化ナトリウム水溶液でイオン交換することにより生成する遊離したプロトンを水酸化ナトリウムで滴定した値であり、プロトン酸量の目安となる。その具体的な手順の一例は以下の通りである。
[イオン交換酸量測定法]
30gのNaClを100ccの水に溶解して調製したNaCl水溶液10ccに触媒1gを懸濁させ、0℃で30分間撹拌する。触媒を濾別した後、反応液を水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、遊離したHClの量からイオン交換酸量を算出する。
【0025】
これらの(1)〜(5)の方法において、具体的には、
方法(1)の前処理方法としては、加水分解触媒としてA)のイオン交換樹脂、又はD)の特定金属のブレンステッド酸型(複合)酸化物(特にはNb及び/又はSiの(複合)酸化物)、又はE)水酸化アルミニウムを400℃以上の温度で処理して得られる酸化アルミニウムを使用し、重合触媒としては、a)のルイス酸型(複合)酸化物(特にはZr及び/又はSiの(複合)酸化物)を使用するのが好ましい。
【0026】
方法(2)としては、D)加水分解性(複合)酸化物(ブレンステッド酸型)を重合触媒のルイス酸型触媒、例えば前記i)等の複合酸化物と組み合わせて用いるのが、取扱い性、目的とする分子量分布への制御のしやすさ等の点で好ましい。
方法(3)の方法として、前記i)の重合触媒に、カルボン酸無水物の加水分解反応を触媒する能力を付与するために、例えば次の操作を行う。即ち、{Nb,Ta,Al,P,S,V,W,Mo}よりなる群から選ばれる元素の1種類以上の金属の塩又はそのアルコキシドを前述a)の重合触媒に担持する。この方法としては、共沈法、ゾル−ゲル法、混練法、含浸法などが挙げられるが、重合触媒上に塩又はアルコキシドの状態で担持させ、固相状態において塩基性物質を接触させて触媒前駆体を得る方法が特に有効である。このようにして得られた触媒前駆体は、必要に応じて濾過、洗浄、乾燥を行った後、窒素ガス、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、又は空気あるいは希釈酸素ガス等の酸化性ガス雰囲気下で焼成し、所望の加水分解触媒/重合触媒を得ることができる。
【0027】
加熱焼成温度としては通常150〜450℃、好ましくは250〜400℃の比較的低い温度で行われる。このように低い温度で焼成することにより、カルボン酸無水物と水の反応を触媒するブレンステッド酸性を発現し、この加水分解反応により反応系中の水分を消費させ、その水分濃度を低い状態に保つことができる。これより低い温度での焼成では、加水分解触媒/重合触媒前駆体の熱分解によるブレンステッド酸形成が不充分であり、充分な加水分解の活性を示さず、これより高い温度での焼成ではブレンステッド酸量が減少しカルボン酸無水物の加水分解反応の触媒能が劣るので、反応系中の水分濃度を充分に低減することができない。150〜450℃の焼成によってブレンステッド酸量がイオン交換酸量として0.005mmol/g以上増加し、反応系中の水分濃度を30ppm以下と充分に低くすることができる。
【0028】
この方法において特に好ましくは、前記i)の重合触媒として、Zr及び/又はSiの(複合)酸化物を使用し、これにD)のNbの酸化物を担持したものが挙げられる。
方法(4)において、Si/Mが10以上のゼオライト上に、重合活性をもつ複合酸化物を担持させる具体的な方法としては、{Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、Zn、Cd、Cu、Fe、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Y、La、Ce、Yb、Zn、Si}からなる群より選ばれる金属の塩またはそのアルコキシドを含有する混合溶液を担体であるSi/Mが10以上のゼオライトと混合してスラリー又はゲルとする。このスラリー又はゲルに場合によって酸、アルカリ、又は水を添加することにより金属の塩またはそのアルコキシドを加水分解し、重合触媒/加水分解触媒の前駆体を得る。
【0029】
この前駆体を固相状態において塩基性物質、または酸または水を接触させる過程を経て重合触媒/加水分解触媒の前駆体を得る方法が特に有効である。このようにして得られた重合触媒/加水分解触媒の前駆体は、必要に応じて濾過、洗浄、乾燥を行った後、窒素ガス、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、又は空気あるいは希釈酸素ガス等の酸化性ガス雰囲気下で焼成し、所望の重合触媒/加水分解触媒を得ることができる。加熱焼成温度としては通常400〜1,100℃、好ましくは600〜1,000℃の高温で行われる。高温焼成すると触媒の活性、安定性が向上するので好ましい。
【0030】
この場合担体のゼオライトが、言うまでもなく前述B)のブレントテッド酸型触媒として、加水分解触媒として機能する。
ここで、担持する金属としては、Zrが特に好ましい。
方法(5)
この方法では、前記した方法(1)(前処理方法)及び方法(2)〜(5)(系中処理方法)を組み合わせて行うこともできるというものである。
【0031】
本発明においては、前記方法(1)の前処理方法、又は方法(2)、(3)もしくは(4)の系中での処理のいずれかの方法により、反応系中の水分の量を低減させる。特に、該環状エーテルの開環重合を実質的に進めるのに先立って、環状エーテルとカルボン酸無水物の混合溶液を、上述した加水分解触媒と接触させ、カルボン酸無水物をカルボン酸に転化する原料の水として消費させて水分の量を低減する方法を採用するのが、それぞれの触媒の分離、再生、再利用という点から好ましい。
【0032】
本発明において使用するカルボン酸無水物は、好ましくは脂肪族または芳香族の2〜12個、特に2〜8個の炭素原子を有するポリ及び/または特にモノカルボン酸から誘導されるものが用いられる。
例えば、脂肪族カルボン酸の無水物では、無水酢酸、無水酪酸、無水プロピオン酸、無水バレリアン酸、無水カプロン酸、無水カプリル酸、無水ペラルゴン酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸の無水物では、無水フタル酸、無水ナフタリン酸等、脂肪族ポリカルボン酸では、無水コハク酸、無水マレイン酸等があげられる。これらのカルボン酸の中で、効果、価格及び入手の容易さを考慮すると無水酢酸が特に好ましい。カルボン酸無水物は、環状エーテルに対して、通常0.01〜1.0(モル比)の範囲で添加するのが良い。
【0033】
この酸無水物を使用して製造したPTMGは、この酸とのエステル(PTME)を形成するので、このPTMEは加水分解、又は加アルコール分解等により、PTMGに変換することが必要である。
更に、本発明においては、反応系中には重合の行きすぎを防ぎ、分子量分布を調節する助剤として極性溶媒を添加することも可能である。かかる極性溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、1,4ーブタンジオール等のアルコール類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。この様な助剤の使用量は、環状エーテル1モルに対して、通常10-4〜0.5モル比の量である。
【0034】
反応形式は、槽型、塔型等一般に用いられるものが使用され、回分方式、連続方式のいずれであっても良い。
具体的には、環状エーテルとカルボン酸無水物、触媒を反応器に仕込んで重合させる方法(回分方式)、環状エーテルとカルボン酸無水物を含む反応仕込み組成液を連続的に触媒を充填した反応器に供給し、連続的に反応液を抜きとっていく方法(連続方式)のいずれでも良い。
【0035】
重合触媒の使用量としては、触媒の種類によって決定され、特に限定はないが、例えば回分型反応器においては、触媒量が少なすぎると重合速度が遅くなり、逆に多すぎると、重合熱の除去が困難となる。また反応系のスラリー濃度が高くなるので、撹拌が困難となり、また重合反応終了後の触媒と反応液との分液にも問題を生じ易くなる。特に、前記i)の(複合)酸化物の重合触媒を使用した場合には、液相に対して通常0.001〜50重量倍、好ましくは0.01〜20重量倍の範囲から回分反応、流通反応の反応形態を勘案して選ばれる。但し流通反応の場合は、この使用量は、単位時間当たりの液相の供給量に対する触媒の量を表すものである。
【0036】
開環重合反応温度は、通常0〜200℃、好ましくは10〜80℃である。反応圧力は、反応系が液相を保持できるような圧力であれば良く、通常常圧から10MPa好ましくは常圧から5MPaの圧力の範囲から選択される。反応時間は特に限定はないが、触媒量との双方を考慮し、PTMEの収率、経済性を考慮して0.1〜20時間の範囲、好ましくは0.5〜15時間の範囲が好ましい。ここで言う反応時間とは、回分方式においては、反応温度まで上昇した時点から反応が終了して冷却を開始するまでの時間を示し、連続方式においては、反応器中での反応組成液の滞留時間のことを指している。
【0037】
本発明方法により、重合反応により生成するポリオキシアルキレングリコールの分子量分布については、環状エーテルの種類によるが、例えばTHFを重合した場合には、数平均分子量(Mn)200〜80,000、特に200〜40,000程度の低〜中分子量のPTMGを得ることができる。更に、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(Mw/Mn)の狭いPTMGを容易に製造できることも特徴の一つである。即ち、Mw/Mnが20未満、例えば1.0〜10.0のPTMGの製造ができ、工業的に需要が大きいMw/Mnが1.0〜4.0、さらには1.1〜3.0、特に本発明の好ましい条件を選ぶことによって、(Mw/Mn)が1.1〜2.0程度である分子量分布の非常に狭いPTMGを得ることができる。従って、本発明によれば、工業的に極めて利用価値が高い数平均分子量が500〜3,000、特に700〜2,000でMw/Mnが1.1〜3.0、特には1.1〜2.0という比較的低分子量で、かつ分子量分布の非常に狭いPTMGを製造することができる。
【0038】
前述したように、本発明では重合触媒としてi)の(複合)酸化物を使用することが好ましいが、この触媒系の特徴は未反応環状エーテル、及びカルボン酸の回収工程、及び得られた重合体の取りだし、及び触媒の再生が容易なことが挙げられる。例えば、回分反応方式の場合、反応終了後、先ず触媒と反応液を濾過分別し、反応液より、未反応の環状エーテル、カルボン酸無水物を溜去後、重合体のみを容易に得ることができる。更に、反応後の触媒はよく洗浄後、付着した有機物を燃焼することにより容易に活性を回復できる。
【0039】
【実施例】
以下、本発明の実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、反応開始時間、Mn、Mw、収率、φはそれぞれ次の意味を表す。
【0040】
反応開始時間: 所定の反応温度に設定されている湯浴(Water bath)に反応器を浸漬した時を反応開始時とする。
収率(φ): 供給したTHFに対するPTMGの酢酸エステルの重量%(尚「φ」の後ろの()内の時間は反応時間を表し、すなわち「φ(Xhr)」はX時間後の收率を表す。)
Mn: Gel Permeation Chromatographyにより測定した数平均分子量。
【0041】
Mw:Gel Permeation Chromatographyにより測定した重量平均分子量。
Mw/Mn(Xhr)はX時間後のMw/Mnを表す。
実施例1
市販のSiO2 担体(富士シリシア社製品、商品名:キャリアクトQ−15、10〜20メッシュ)50gを硝酸ジルコニウム2水塩11.7g、テトラエチルシリケート9.1g及び尿素5.7gを溶解したメタノール溶液70mlに浸漬した。60℃にてメタノールを減圧留去して得られた固体を空気流通下、120℃まで1時間、その後800℃まで2時間30分かけて昇温し、800℃にて3時間保持した後、冷却した。このZrO2 /SiO2 触媒のイオン交換酸量は0.005mmol/gであった。このようにして調製したZrO2 /SiO2 触媒を更に、SiO2 に対して1mol%のNbCl5 及び2.5mol%の尿素を溶解したメタノール溶液に浸漬し、減圧乾燥によりメタノールを留去した後に120℃で熱分解し、更に、300℃で10時間焼成した。
【0042】
これにより、1mol%Nb2 O5 −5mol%ZrO2 /SiO2 の構成の触媒を得た。このもののイオン交換酸量は、0.047mmol/gであった。
(重合反応)
上記で調製したNb2 O5 −ZrO2 /SiO2 の構成の触媒を管型反応器に充填し、反応温度40℃、テトラヒドロフラン/無水酢酸=1/0.036(モル比)、LHSV=0.5(hr-1)で反応を行った。この際、THF、無水酢酸の原料混合溶液に含まれる水分の濃度は130ppmであった。反応器出口部における水分量は検出限界(10ppm)以下であり、水により無水酢酸が加水分解されて酢酸に変換されたことが判る。テトラヒドロフランの転化率(φ)の低下した割合を、
活性維持率(%)= φ(500hr)/φ(200hr)×100
とし、分子量分布の広がりの大きさを
分子量分布悪化率={Mw/Mn(500hr)}/{Mw/Mn(200hr)}
と定義すると、活性維持率は58%、分子量分布悪化率は1.03の値が得られた。
参考例1
(加水分解触媒の調製)
市販のSiO2 担体(富士シリシア社製品、商品名:キャリアクトQ−15、10〜20メッシュ)56gを塩化ニオブ(V)7.79gを溶解したメタノール溶液58mlに浸漬した。溶媒であるメタノールを60℃にて減圧留去後、得られた乾燥固体を石英ガラス管に充填し、室温の窒素ガスを300ml/分の流速で28%アンモニア水溶液中に通過させた後、石英ガラス管に20分間供給したところ、直ちに発熱が起きた。1時間窒素ガスのみを通じたのち、固体を洗浄して濾液のpHを7とし、120℃で1晩乾燥させた。この乾燥固体を石英ガラス管に充填し、300℃で10時間保持した後冷却した。このNb2 O5 /SiO2 触媒のイオン交換酸量は0.04mmol/gであった。
(重合触媒の調製)
市販のSiO2 担体(富士シリシア社製品、商品名:キャリアクトQ−15、10〜20メッシュ)50gを硝酸ジルコニウム2水塩11.7g、テトラエチルシリケート9.1g及び尿素5.7gを溶解したメタノール溶液70mlに浸漬する。溶媒であるメタノールを60℃にて減圧留去後、得られた固体を空気流通下、120℃まで1時間、その後800℃まで2時間30分かけて昇温し、800℃にて3時間保持した後冷却した。このZrO2 /SiO2 触媒のイオン交換酸量は0.005mmol/gであった。
(重合反応)
上記のようにして調製したNb2 O5 /SiO 2 の加水分解触媒を前段の管型反応器に、ZrO2 /SiO2 重合触媒を後段の管型反応器にそれぞれ充填して、これらの反応器を直列につなぎ、実施例1と同様に反応を行った。この際、前段管型反応器の温度は40℃に保温した。
【0043】
前段管型反応器通過後の反応液をサンプリングしたところ、重合反応は全く進行していなかった。また、THF、無水酢酸の混合溶液に含まれる水分の濃度は、前段の反応器の直前で130ppm、前段の反応器通過後は10ppm以下(検出限界以下)であった。
後段反応器出口からの生成物から求めた活性維持率は83%、分子量分布悪化率は1.02の結果が得られた。
【0044】
参考例2
加水分解触媒として、ベーマイト(コンデア社、PURAL SB)を600℃で焼成して得られた酸化アルミニウムを用いた以外は、参考例1と同様に重合反応をおこなった。前段管型反応器通過後の反応液をサンプリングしたところ、重合反応は全く進行していなかった。また、THF、無水酢酸の混合溶液に含まれる水分の濃度は、前段の反応器の直前で130ppm、前段の反応器通過後は10ppm以下(検出限界以下)であった。
【0045】
後段反応器出口からの生成物から求めた活性維持率は80%、分子量分布悪化率は1.03の結果が得られた。
比較例1
実施例1で使用したSiO2 担体50gを硝酸ジルコニウム2水塩11.7g、テトラエチルシリケート9.1g及び尿素5.7gを溶解したメタノール溶液70mlに浸析した。60℃にてメタノールを減圧留去後、得られた固体を空気流通下、120℃まで1時間、その後800℃まで2時間30分で昇温し、800℃にて3時間保持した後冷却した。このZrO2 /SiO2 触媒のイオン交換酸量は0.005mmol/gであった。
(重合反応)
上記で調製したZrO2 /SiO2 酸化物触媒を管型反応器に充填し、実施例1と同様に反応を行った。この際THF、無水酢酸の混合溶液に含まれる水分の濃度は130ppmであった。反応器出口部における水分量は50ppmであった。しかし、この反応の結果、活性維持率は13%、分子量分布悪化率は1.07の値であった。これは、反応系中の水分量は触媒に吸着される等して、見掛け上低減されているが、この吸着水分等によって触媒が失活してしまい、水分を加水分解により消費させた実施例1〜3の結果に比べ、大幅に活性低下したものと考えられる。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、環状エーテルをカルボン酸無水物と触媒の存在下で開環重合し、ポリオキシアルキレングリコールのエステルを製造する方法において、触媒の分離が簡便な触媒を用い、該触媒の活性低下等を抑えて工業的に有利な分子量、かつ分子量分布の狭いポリオキシアルキレングリコールを製造する方法を提供するものである。
Claims (6)
- カルボン酸無水物及び実質的に重合能を有しないブレンステッド酸型固体酸触媒からなる加水分解触媒の存在下、ルイス酸型固体酸系重合触媒を用い且つ反応系中の水の濃度を30ppm以下に保持して、環状エーテルの開環重合反応を行い、重合物の末端の一部又は全てがエステル化された重合体を生成させることを特徴とする環状エーテルの重合方法。
- 実質的に重合能を有しないブレンステッド酸型固体酸触媒からなる加水分解触媒が、下記の酸化物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の環状エーテルの重合方法。
Nb、Ta、Al、Re、P、S、V、W、Mo及びSiより成る群から選ばれた元素の酸化物又は複合酸化物であって、150〜450℃の温度で焼成処理を施して酸化物としたもの - ルイス酸型固体酸系重合触媒が下記の酸化物のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の環状エーテルの重合方法。
Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、Zn、Cd、Cu、Fe、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Ti、Zr、Hf、Y、La、Ce、Yb及びSiより成る群から選ばれる1種又は2種以上の元素の酸化物又は複合酸化物であって、600〜1150℃の温度で焼成処理を施して酸化物としたもの - 反応系中の水の濃度を10ppm以下に保持して重合反応を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の環状エーテルの重合方法。
- 環状エーテルがテトラヒドロフランであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の環状エーテルの重合方法。
- カルボン酸無水物が、無水酢酸であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の環状エーテルの重合方法。
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