JP3932866B2 - 重合性液体組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重合性液体組成物に関する。詳しくは本発明は、重合反応により優れた光学特性を有する架橋樹脂組成物を与える重合性液体組成物に関する。この架橋樹脂組成物は、透明性や低複屈折性等の光学物性、機械物性及び耐熱性等の優れた基本的材料特性に加えて、表面硬度、帯電防止性、光吸収飽和特性、高屈折率、あるいは紫外線吸収等の機能特性を有する。かかる特性を利用して、この架橋樹脂組成物は種々の光学材料や電子材料に有利に利用できる。例えば、眼鏡用レンズ、光コネクタ用マイクロレンズ、発光ダイオード用集光レンズ等の各種レンズ、光スイッチ、光ファイバー、光回路における光分岐、接合回路、光多重分岐回路、光度調器等の光通信用部品、液晶基板、タッチパネル、導光板、位相差板等各種ディスプレイ用部材、光ディスク基板や光ディスク用フィルム・コーティングを初めとする記憶・記録用途、更には機能性フィルム、反射防止膜、光学多層膜(選択反射膜、選択透過膜等)等各種光学フィルム・コーティング用途に利用できる。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体などの超微粒子の量子効果を利用した光学材料の開発が進められている。半導体超微粒子において量子効果を顕著とするためには、粒径をボーア半径と同程度に小さくする必要がある。しかもその粒径を揃えることが、例えば量子効果による吸発光帯の波長幅を小さくする目的、あるいは超微粒子が規則的に配列した構造(超格子)を形成させる目的等において望ましい場合が多い。このような要請により、超微粒子、特に「シングルナノ粒子」と呼ばれる粒径が10nm未満程度のナノ粒子を、できる限り狭い粒径分布をもって合成すること自体が最先端の研究課題となっているのが現状である。
【0003】
かかる量子効果を発揮する超微粒子を利用する新材料を得る観点において重要なもう1つの技術的課題は、該超微粒子を高分子材料中に望ましい状態に分散させることである。しかしその際、粒径が小さいため超微粒子の2次凝集が起こりやすいという問題点があった。
このような問題点を解決するため、超微粒子の表面の化学構造や化学組成を制御することが提案されている。
【0004】
例えば特開平11−43556号公報には、半導体超微粒子に表面修飾を施し、更にその表面修飾の持つ官能基と樹脂とを反応させることにより、粗大粒子の生成を抑制しかつ凝集を抑えつつ半導体超微粒子を分散させた透明性に優れた樹脂組成物を得ることが報告されている。しかしこの方法で得られる材料は、その光学特性が十分ではない。例えば光学歪みについては、この公報に記載されている材料を用いる限り、その使用する材料自体に大きな光学歪みが存在し、また特段の光学歪みを低減する措置も採られていないことから、結果として得られる成形体の光学歪みは非常に大きくならざるを得ず、光学用途に利用しようとする場合などは大きな問題となる。また、耐熱性も十分ではないため、材料を使用する工程において加熱を要するような場合は、変形や変色などのトラブルを引き起こす可能性が大きい。
【0005】
更に、上記公報の方法で半導体超微粒子を分散した樹脂組成物を得る場合、煩雑な工程を要し、しかも精密な寸法精度を要する成形性に限界があるという問題があった。例えば、この方法において樹脂マトリクスとしてポリメチルメタクリレートに代表されるラジカル重合により合成される高分子を用いる場合は、溶媒に重合性単量体を溶解させた後、重合を完結させるために数時間程度の長時間の反応を行い、更に溶媒を除去する必要があるため、生産性や経済性に問題を残しているだけでなく、溶媒の除去による成形時の寸法変化及び成形残留歪みによる成形後の寸法精度が問題となる場合があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その課題は、光学歪みが小さく、機械的強度、耐熱性及び寸法精度に優れており、かつ超微粒子を2次凝集が従来になく低減された状態で含有する、透明性に優れた樹脂組成物を、良好な生産性のもとに与える技術を提供することに存する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の化学構造を有する重合性単量体に特定の粒径の超微粒子を分散させた液体混合物(本発明では「重合性液体組成物」という)を用いると、これを重合させて得る架橋樹脂組成物中に分散した該超微粒子の2次凝集が非常に抑制され、かつ該架橋樹脂組成物が非常に低い複屈折性、優れた機械的強度、耐熱性及び寸法精度を有することを見いだし、かかる知見に基づいて本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、下記成分A及び成分Bからなる群から選ばれた少なくとも1種の、分子内に2個以上の重合性官能基を有する重合性単量体を主体とし、数平均粒径0.5〜50nmの超微粒子(但しシリカを除く)を含有することを特徴とする重合性液体組成物、
成分A:下記一般式(1)で表される含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート。
【0009】
【化3】
(上記一般式(1)において、RaおよびRbはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、RcおよびRdはそれぞれ独立して炭素数6以下のアルキレン基を、xは1又は2を、yは0または1を、それぞれ表す。)
成分B:下記一般式(2)で表される硫黄原子含有ビス(メタ)アクリレート。
【0010】
【化4】
(上記一般式(2)において、RaおよびRbは上記一般式(1)の場合と同一であり、各Reはそれぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を表す。各Arはそれぞれ炭素数が6〜30であるアリーレン基又はアラルキレン基を表し、これらの水素原子はフッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。各Xはそれぞれ酸素原子または硫黄原子を表し、各Xが全て酸素原子の場合、各Yのうち少なくとも一つは硫黄原子又はスルホン基(−SO2−)を、各Xのうち少なくとも1つが硫黄原子の場合、各Yはそれぞれ硫黄原子、スルホン基、カルボニル基(−CO−)、並びにそれぞれ炭素数1〜12のアルキレン基、アラルキレン基、アルキレンエーテル基、アラルキレンエーテル基、アルキレンチオエーテル基及びアラルキレンチオエーテル基のいずれかを表し、j及びpはそれぞれ独立して1〜5の整数を、kは0〜10の整数を表す。またkが0の時はXは硫黄原子を表す。)、に存する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明する。
(重合性液体組成物)
本発明が新規に提供する重合性液体組成物は、前記成分A及び成分Bからなる群から選ばれた少なくとも1種の、分子内に2個以上の重合性官能基を有する重合性単量体を主体とし、数平均粒径0.5〜50nmの超微粒子を含有する液体混合物であって、熱又は活性エネルギー線(例えば紫外線)によって重合反応が進行するものである。かかる重合性液体組成物は、分子内に1個の重合性官能基を有する重合性単量体を含有していてもよく、また上記重合性単量体の重合性を著しく阻害しない限りにおいて重合性を有さない液体(溶媒)を含有していてもよい。
【0014】
上記熱又は活性エネルギー線(例えば紫外線)によって進行する重合反応を開始させるために、通常、重合開始剤を添加することが好ましい。かかる重合開始剤としては、光によりラジカルを発生する性質を有する化合物である光ラジカル発生剤及び熱によりラジカルを発生する性質を有する化合物である熱ラジカル発生剤が一般的であり、公知のかかる化合物が使用可能である。重合反応の進行の均質性や加熱が必ずしも必要でない点から、好ましい重合開始剤は光ラジカル発生剤であり、かかる光ラジカル発生剤としては、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が例示され、これらの複数種を併用してもよい。これらのうち好ましいのは、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド及びベンゾフェノンである。かかる重合開始剤の添加量は、重合性単量体の総和100重量部に対し通常0.001〜3重量部、好ましくは0.01〜1重量部、更に好ましくは0.02〜0.3重量部であり、この添加量が多すぎると重合反応が急激に進行して複屈折の増大をもたらすだけでなく色相も悪化する場合があり、また少なすぎると組成物を十分に硬化させることができなくなる場合がある。
【0015】
上記重合性液体組成物が液状であることにより、所望の形状の成形体を得るのに有利であるという成形時の寸法精度上の特徴を発揮する。特に、紫外線等の活性エネルギー線によって重合させることが可能な重合性液体組成物は、重合開始から終了までの時間が短いという特徴を有するので生産性の点で有利であり、しかも重合による高分子生成に起因する超微粒子の凝集を防ぐのにも好都合である。
【0016】
上記重合性液体組成物が起こす重合反応は分子内に2個以上の重合性官能基を有する上記重合性単量体が生成する高分子の架橋点として働くため通常いわゆる架橋反応となるので、かかる重合反応の結果、3次元網目構造が形成される。十分な量の熱又は活性エネルギー線を照射することにより、後述する架橋樹脂組成物が得られる。
【0017】
上記超微粒子については後に詳述するが、上記重合性液体組成物における含有量は、重合性単量体の全量と該超微粒子との総重量に対して通常0.01〜80重量%、好ましくは0.1〜60重量%、より好ましくは1〜50重量%であり、後述する有機配位子をその表面に結合していてもよい。かかる超微粒子の含有量が小さすぎると高屈折率性や紫外線吸収能等の機能特性を付与する効果が小さくなる場合があり、逆に大きすぎると重合反応により生成する架橋樹脂組成物の機械強度や透明性が低下する場合がある。上記有機配位子を超微粒子の表面に結合させると、超微粒子の分散性が向上する場合が多い。
【0018】
上記超微粒子が半導体の超微粒子(以下、これを半導体超微粒子と称することがある)である場合には、上記重合性液体組成物並びにこれを重合させて得られる架橋樹脂組成物が、半導体が有する有用な性質、例えば電磁波を吸収又は発生する特性(以下「吸発光性」という)や高屈折率性といった性質を獲得するので好ましい。特に、該半導体超微粒子が酸化チタン結晶、酸化亜鉛結晶又は酸化セリウム結晶を含有するものである場合には、優れた紫外線吸収能、無色性(即ち可視波長領域での光吸収が殆どないこと)、低毒性、低コストといった特徴が更に付与されるので非常に有用である。
【0019】
上記重合性液体組成物が含有する重合性単量体の総和に対する分子内に2個以上の重合性官能基を有する重合性単量体の割合は、通常0.1〜100モル%であり、重合反応により生成する架橋樹脂組成物の寸法精度や機械的強度の点で該下限値は好ましくは1モル%、更に好ましくは3モル%である。
本発明の重合性液体組成物には、製造される架橋樹脂組成物が本発明の目的を著しく逸脱しない限りにおいて、各種添加剤を加えてもよい。かかる添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、あるいは光吸収剤等の安定剤類、ガラス繊維、ガラスビーズ、マイカ、タルク、カオリン、粘土鉱物、金属繊維、金属粉等のフィラー類、炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、C60等のフラーレン類等の炭素材料、帯電防止剤、可塑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤等の改質剤類、顔料、染料、色相調整剤等の着色剤類等が例示される。
【0020】
上記重合性液体組成物の製造方法については、その構成成分、即ち前記成分A及び成分Bからなる群から選ばれた少なくとも1種の、分子内に2個以上の重合性官能基を有する重合性単量体、上記超微粒子及び必要に応じて使用される追加成分(分子内に1個の重合性官能基を有する重合性単量体、重合性を有さない液体、上記重合開始剤、あるいは上記各種添加剤等)を混合して実施する。かかる混合は、公知の機械的攪拌装置を有していてもよい混合装置を使用して行うことが可能であり、重合開始挙動を制御する目的等の必要に応じて遮光、冷却、不活性雰囲気の使用などを併用してもよい。
【0024】
本発明の重合性液体組成物は、重合により、低複屈折性、高い光線透過率及び耐熱性を有する架橋樹脂組成物を与える。すなわち複屈折については光路長1mmにおける複屈折が10nm以下、光線透過率についてはナトリウムD線波長における光路長1mm当りの光線透過率が80%以上の架橋樹脂組成物を与えることができる。また耐熱性については示差熱分析(DCS)、熱機械測定(TMA)又は動的粘弾性により測定されるガラス転移温度が120℃以上の架橋樹脂組成物を与えることができる。
【0026】
本発明の重合性液体組成物が無機物質の超微粒子を含有する場合、これを重合して得られる架橋樹脂組成物において、この超微粒子は有機物である架橋樹脂マトリクスと異なる光学特性を有する物質であるため、該架橋樹脂組成物が総体として有機物単独では実現し得ない特異な屈折率とアッベ数とのバランスを有するという特徴を有する場合がある。かかる特異な屈折率とアッベ数とのバランスは、レンズやプリズム等光の屈折を利用し、複屈折が小さいことが望ましい用途において有用である場合があり、具体的にはナトリウムD線波長において23℃で測定される屈折率nDとアッベ数νDとの関係を表す下記数式(A)の定数項Cが1.70〜1.82の範囲を逸脱するような場合をいう。
【0027】
(数1)
nD=0.005νD+C (A)
樹脂材料の成形体では、一般に厚みが大きくなるに従って複屈折も大きくなる。本発明において、上記超微粒子(特に無機物質の超微粒子)を使用することにより、得られる架橋樹脂組成物は厚みの増大の割には従来になく複屈折の増加率が小さくなるという特徴を獲得する場合がある。従って、後述する光学部材のように、厚み0.1mm以上という比較的厚い成形体としてこの架橋樹脂組成物を使用する場合、低複屈折率化の点で有利である。
【0028】
架橋樹脂組成物は架橋樹脂マトリクスを有するため優れた耐溶剤溶解性を発揮するので、かかる性能を要求される光学部材用途において好ましい特徴となる。
本発明の重合性液体組成物には、これを重合して得られる架橋樹脂組成物がその目的を著しく逸脱しない限りにおいて、各種添加剤を加えてもよい。かかる添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、あるいは光吸収剤等の安定剤類、ガラス繊維、ガラスビーズ、マイカ、タルク、カオリン、粘土鉱物、金属繊維、金属粉等のフィラー類、炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、C60等のフラーレン類等の炭素材料、帯電防止剤、可塑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤等の改質剤類、顔料、染料、色相調整剤等の着色剤類等が例示される。
【0029】
(重合性単量体)
重合性液体組成物に使用される分子内に2個以上の重合性官能基を有する重合性単量体としては、透明性と低複屈折性を有する架橋樹脂組成物を与える点で2官能性以上の(メタ)アクリレート類が好ましく用いられる。ただしここで「(メタ)アクリレート」なる表記は、アクリレート又はメタクリレートのいずれか、という意味である。具体的には、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(オキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、p−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]キシリレン、4,4’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]ジフェニルスルホン等の2価の(メタ)アクリレート類、トリメチロールプロパントリス(メタ)アクリレート、グリセリントリス(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリス(メタ)アクリレート等の3価の(メタ)アクリレート類、ペンタエリスリトールテトラキス(メタ)アクリレート等の4価の(メタ)アクリレート類、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等の不定多価の(メタ)アクリレート類等が例示される。これらのうち、架橋生成反応の制御性から上記2価の(メタ)アクリレート類は好ましく用いられる。
【0030】
前記に例示の(メタ)アクリレート類のうち、得られる重合体の透明性と低複屈折性をバランスよく実現する点で特に好ましいのは、下記成分A及び下記成分Bの単独もしくは併用での使用である。
成分Aは、下記一般式(1)で示される脂環骨格を有するビス(メタ)アクリレートである。
【0031】
【化5】
ただし上記一般式(1)において、RaおよびRbはそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を、RcおよびRdはそれぞれ独立して炭素数6以下のアルキレン基を、xは1又は2を、yは0または1を、それぞれ表す。
【0032】
上記一般式(1)で示される成分Aの具体例としては、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物、ビス(ヒドロキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物等が挙げられる。これらのトリシクロデカン化合物及びペンタシクロデカン化合物は、複数種を併用してもよい。
成分Bは下記一般式(2)で表される硫黄原子を有するビス(メタ)アクリレートである。
【0033】
【化6】
ただし上記一般式(2)において、RaおよびRbは上記一般式(1)の場合と同一であり、各Reはそれぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を表す。各Arはそれぞれ炭素数が6〜30であるアリーレン基又はアラルキレン基を表し、これらの水素原子はフッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。各Xはそれぞれ酸素原子または硫黄原子を表し、各Xが全て酸素原子の場合、各Yのうち少なくとも一つは硫黄原子又はスルホン基(−SO2−)を、各Xのうち少なくとも1つが硫黄原子の場合、各Yはそれぞれ硫黄原子、スルホン基、カルボニル基(−CO−)、並びにそれぞれ炭素数1〜12のアルキレン基、アラルキレン基、アルキレンエーテル基、アラルキレンエーテル基、アルキレンチオエーテル基及びアラルキレンチオエーテル基のいずれかを表し、j及びpはそれぞれ独立して1〜5の整数を、kは0〜10の整数を表す。またkが0の時はXは硫黄原子を表す。
【0034】
上記一般式(2)で示される成分Bを具体的に例示すれば、α、α’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]−p−キシレン、α、α’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]−m−キシレン、α、α’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]−2,3,5,6−テトラクロロ−p−キシレン、4,4’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ]ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]ジフェニルスルフィド、4,4’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]ジフェニルケトン、2,4’−ビス[β−(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]ジフェニルケトン、5,5’−テトラブロモジフェニルケトン、β,β’−ビス[p−(メタ)アクリロイルオキシフェニルチオ]ジエチルエーテル、β,β’−ビス[p−(メタ)アクリロイルオキシフェニルチオ]ジエチルチオエーテル等が挙げられ、これらは複数種を併用してもよい。
【0035】
上記各成分の中でもビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレートは優れた透明性及び耐熱性を有し、特に好適に用いられる。
(超微粒子)
本発明の重合性液体組成物において用いられる前記超微粒子を構成する物質種に制限はなく、遷移金属(例えば、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、亜鉛、銅、ニッケル、鉄等の遷移金属単体、あるいはこれら遷移金属の合金等)、半導体、金属の塩などの無機超微粒子や、有機化合物の超微粒子、あるいは有機金属超微粒子などを用いることができる。これらのうち半導体超微粒子が、表面硬度、帯電防止性、光吸収飽和特性、高屈折率、あるいは紫外線吸収等の機能特性を組成物に付与する効果が大きいため好ましい。
【0036】
本発明における超微粒子の数平均粒径は、0.5〜50nm、好ましくは1〜30nm、更に好ましくは2〜20nm、最も好ましくは3〜15nm程度とする。かかる超微粒子の数平均粒径の決定には、透過型電子顕微鏡(TEM)観察像より測定される数値を用いる。即ち、観察される超微粒子像と同面積の円の直径を該粒子像の粒径と定義する。こうして決定される粒径を用い、例えば公知の画像データの統計処理手法により該数平均粒径を算出するが、かかる統計処理に使用する超微粒子像の数(統計処理データ数)は可及的多いことが当然望ましく、本発明においては、再現性の点で無作為に選ばれた該粒子像の個数として最低でも50個以上、好ましくは80個以上、更に好ましくは100個以上とする。該数平均粒径が大きすぎると、凝集性が極端に増大したり、量子効果によるエキシトン吸発光能が顕著でなくなる場合があり、一方該数平均粒径が小さすぎると例えば半導体結晶等の独立した結晶としての機能(例えば発光能を与えるバンド構造の形成)が低下したり、製造時の単離収率が極端に低下する場合がある。
【0037】
前記のように決定される超微粒子の粒径分布は、これが小さいほど分散性の均質性が向上し、エキシトン吸発光帯を有する場合にはその波長幅が小さくなるので好ましい場合がある。従って、該粒径分布はその標準偏差として通常20%以下、好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下に制御する。但し、超微粒子の高屈折率性や基礎吸収を利用する用途(紫外線吸収膜、反射制御膜、あるいは光導波路等)においては、かかる粒径分布は問題とならない場合もある。
【0038】
本発明に用いられる超微粒子は、混晶や後述するコアシェル構造(内核であるコアとこれを包含する外殻であるシェルの2層構造)等の不均一構造を有していてもよい。特にコアシェル構造は、例えばコアである半導体結晶の光触媒能が樹脂マトリクスの分解を促進する等コア物質が好ましくない作用を有する場合、かかる好ましくない作用を有しない別物質のシェルを設けてこれを改善する優れた効果を奏する場合がある。従って、化学的に比較的不活性な物質がシェルを構成することが望ましく、具体的にはシリカ(酸化珪素)やアルミナ(酸化アルミニウム)等の非遷移金属の酸化物、窒化ホウ素等の窒化物、黒鉛状炭素や非晶性炭素等の炭素単体、あるいは貴金属類(銀、金、白金、銅等)が好ましいシェル物質として例示される。
【0039】
本発明の重合性液体組成物が含有する超微粒子は複数種から構成されていてもよく、あるいは同種物質からなる超微粒子でも、例えば2山分布等その粒径分布を必要に応じて任意に変化させてもよい。ただし、該重合性液体組成物又はこれを重合して得られる架橋樹脂組成物の透明性、即ち光散乱の低減の点で、粒径が100nmを越える超微粒子が含有されていないことが望ましい。
【0040】
(半導体超微粒子)
本発明における半導体超微粒子とは、後述する任意の半導体結晶を含有する超微粒子であり、該半導体結晶の構造や組成は、例えば半導体単結晶、複数半導体結晶組成が相分離した混晶、相分離の観察されない混合半導体結晶のいずれでもよく、後述するコア−シェル構造をとっていてもよい。また該半導体結晶超微粒子はその表面に有機配位子等の配位子を配位していてもよい。半導体結晶は、価電子帯と伝導帯とのエネルギー差(バンドギャップ)に応じた電磁波吸収(以下、特に断りのない限り単に「吸収」という)や高屈折率といった特性を有する物質であり、半導体ナノ結晶(Nanocrystal)等と呼ばれる数ナノメートル(nm)程度の結晶粒径とした場合には量子効果が顕著に見られるようになる。かかる量子効果により、エネルギー準位の量子化によりエネルギー準位が互いに離れた状態となり、かつそれらが結晶粒径の関数として制御されるようになる。かかる半導体ナノ結晶において、半導体結晶の基礎吸収(Fundamental absorption)の長波長側吸収端よりもわずかに低エネルギーに現れるエキシトン(Exciton、励起子)吸収帯はエネルギー幅が極めて小さいだけでなく、エキシトン準位が伝導帯準位から孤立しており近接したエネルギー準位との相互作用確率が比較的小さいという特徴を有する。
【0041】
なお、上記半導体超微粒子が発光特性を有する場合には、本発明の重合性液体組成物を重合して得られる架橋樹脂組成物はかかる発光特性を利用する用途にも有用となる。特に、エキシトン準位からの発光は、発光帯の線幅が小さいので色純度の優れた発光となり、しかも前記の量子効果により半導体結晶超微粒子の粒径により発光波長が制御可能であるので、特に有用である。また、かかるエトキシ吸収帯の特徴は、例えば、該吸収帯での光吸収飽和特性を利用して光ディスクにおける入射光ビーム径を実効的に絞って高密度記録を達成させる超解像技術等に応用することができる。
【0042】
上記半導体超微粒子が含有する半導体結晶の組成には特に制限はないが、具体的な組成例を元素記号あるいは組成式として例示すると、C、Si、Ge、Sn等の周期表第14族元素の単体、P(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、SeやTe等の周期表第16族元素の単体、SiC等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、SnO2、Sn(II)Sn(IV)S3、SnS2、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、BN、BP、BAs、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、Al2S3、Al2Se3、Ga2S3、Ga2Se3、Ga2Te3、In2O3、In2S3、In2Se3、In2Te3等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、TlCl、TlBr、TlI等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII−VI族化合物半導体)、As2S3、As2Se3、As2Te3、Sb2S3、Sb2Se3、Sb2Te3、Bi2S3、Bi2Se3、Bi2Te3等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、Cu2O、Cu2Se等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、CuCl、CuBr、CuI、AgCl、AgBr等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、NiO等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、CoO、CoS等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、α−Fe2O3、γ−Fe2O3、Fe3O4等の酸化鉄類、FeS等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、MnO等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、MoS2、WO2等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、VO、VO2、Ta2O5等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、TiO2、Ti2O5、Ti2O3、Ti5O9等の酸化チタン類(結晶型はルチル型、ルチル/アナタースの混晶型、アナタース型のいずれでもよい)、ZrO2等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、Y2O3、La2O3、Ce2O3等の周期表第3族元素(ランタノイド元素を含む)と周期表第16族元素との化合物、MgS、MgSe等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、CdCr2O4、CdCr2Se4、CuCr2S4、HgCr2Se4等のカルコゲンスピネル類、あるいはBaTiO3等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF2)15F15や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0043】
これらのうち実用的に重要なものは、例えばSnO2、SnS2、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb等のIII−V族化合物半導体、Ga2O3、Ga2S3、Ga2Se3、Ga2Te3、In2O3、In2S3、In2Se3、In2Te3等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS、HgSe、HgTe等のII−VI族化合物半導体、As2O3、As2S3、As2Se3、As2Te3、Sb2O3、Sb2S3、Sb2Se3、Sb2Te3、Bi2O3、Bi2S3、Bi2Se3、Bi2Te3等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、α−Fe2O3、γ−Fe2O3、Fe3O4等の酸化鉄類やFeS等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、前記の酸化チタン類やZrO2等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、Y2O3、Ce2O3等の周期表第3族元素(ランタノイド元素を含む)と周期表第16族元素との化合物である。
【0044】
これらの中でも、SnO2、GaN、GaP、In2O3、InN、InP、Ga2O3、Ga2S3、In2O3、In2S3、ZnO、ZnS、CdO、CdS、前記の酸化鉄類、ルチル型やアナタース型二酸化チタン、ZrO2、Y2O3、Ce2O3、MgS等は毒性の高い陰性元素を含まないので耐環境汚染性や生物への安全性の点で好ましく、この観点ではSnO2、In2O3、ZnO、ZnS、α−Fe2O3、ルチル型やアナタース型二酸化チタン、ZrO2、Y2O3、Ce2O3等の毒性の高い陽性元素を含まない組成は更に好ましい。
【0045】
ZnO、α−Fe2O3、ルチル型やアナタース型二酸化チタン、Ce2O3等の金属酸化物半導体結晶は、光吸収能、高い屈折率、安全性、安価であることから、紫外線吸収材料や高屈折率コーティング等の用途に最も好ましいものである。また、α−Fe2O3等の酸化鉄類等、可視領域に吸収能のある着色した半導体結晶は、顔料等の色材用途に重要である。本発明の重合性液体組成物から得られる架橋樹脂組成物を無色透明としかつ優れた紫外線吸収能を発揮させる目的において最も重要な半導体結晶は、上記酸化チタン類(代表的にはルチル型やアナタース型二酸化チタン)、ZnO又はCe2O3である。
【0046】
半導体結晶の発光能を利用する場合には、可視領域とその近傍に発光帯を有するGaN、GaP、GaAs、InN、InP等のIII−V族化合物半導体、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS等のII−VI族化合物半導体、In2O3、In2S3等が重要であり、中でも半導体結晶の粒径の制御性と発光能から好適なのはZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe等のII−VI族化合物半導体であり、特にZnO、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe等がこの目的では更に好適に用いられる。
【0047】
前記で例示した任意の半導体結晶には、必要に応じて微量のドープ物質(故意に添加する不純物)として例えばAl、Mn、Cu、Zn、Ag、Cl、Ce、Eu、Tb、Er等の元素を加えてもよい。例えば、Y2O3へのEuの添加、ZnSへのAg、Cu、Tb、Mn等の添加により、該ドープ物質を発光源とする蛍光体とすることができる。また、上記二酸化チタン、ZnO及びCe2O3にZr等の適当なドープ元素を添加するとその光触媒能を低減させる効果を奏する場合がある。かかるドープ元素の本発明における主要な効果は、電磁波吸収のエネルギーを発光や発熱等、化学反応以外の現象により散逸させて樹脂マトリクスの分解劣化を抑制又は防止のように樹脂組成物の化学的安定性を向上させることにあると考えられる。
【0048】
本発明における半導体超微粒子は、例えばA.R.Kortanら;J.Am.Chem.Soc.,112巻,1327頁(1990)あるいは米国特許5985173号公報(1999)に報告されているように、内核(コア)と外殻(シェル)からなるいわゆるコアシェル構造の半導体結晶を主体としてもよい。かかるコアシェル型半導体結晶では、エキシトン吸発光帯を利用する用途に好適な場合がある。この場合、シェルの半導体結晶の組成として、禁制帯幅(バンドギャップ)がコアよりも大きなものを起用することによりエネルギー的な障壁を形成せしめることが一般に有効である。これは、外界の影響や結晶表面での結晶格子欠陥等の理由による望ましくない表面準位等の影響を抑制する機構によるものと推測される。かかる半導体シェルに好適に用いられる半導体結晶の組成としては、コア半導体結晶のバンドギャップにもよるが、バルク状態のバンドギャップが温度300Kにおいて2.0電子ボルト以上であるもの、例えばBN、BAs、GaNやGaP等のIII−V族化合物半導体、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS等のII−VI族化合物半導体、MgSやMgSe等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物等が好適に用いられる。これらのうちより好ましいシェルとなる半導体結晶組成は、BN、BAs、GaN等のIII−V族化合物半導体、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS等のII−VI族化合物半導体、MgS、MgSe等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物等のバルク状態のバンドギャップが温度300Kにおいて2.3電子ボルト以上のものであり、最も好ましいのはBN、BAs、GaN、ZnO、ZnS、ZnSe、MgS、MgSe等のバルク状態のバンドギャップが温度300Kにおいて2.5電子ボルト以上のものであり、化学合成上、ZnSが最も好適に使用される。特に好適な上記コア−シェル構造の組み合わせ例を組成式で表現すると、CdSe−ZnS、CdSe−ZnO、CdSe−CdS、CdS−ZnS、CdS−ZnO等が挙げられる。
【0049】
本発明の半導体超微粒子を紫外領域等特定波長範囲の光を吸収する用途に使用する場合、そのコアを構成する半導体結晶の吸収スペクトルの吸収端波長が300〜600nmの範囲内にあることが好ましい。この吸収端波長の範囲の下限値は合成樹脂等の有機物マトリクスを変質させる紫外領域を吸収させる目的でより好ましくは330nm、更に好ましくは370nmであり、一方、該上限値は可視領域における透明性の点でより好ましくは550nm、更に好ましくは500nm、最も好ましくは450nmである。
【0050】
(半導体超微粒子の製造方法)
前記半導体超微粒子の製造方法に制限はないが、例えば以下の3つの液相法が例示される。
(1)原料水溶液を非極性有機溶媒中の逆ミセルとして存在させ、該逆ミセル相中にて結晶成長させる方法(以下「逆ミセル法」という)であり、例えばB.S.Zouら;Int.J.Quant.Chem.,72巻,439(1999)に報告されている方法である。汎用的な反応釜において公知の逆ミセル安定化技術が利用でき、比較的安価かつ化学的に安定な塩を原料とすることができ、しかも水の沸点を超えない比較的低温で行われるため工業生産に適した方法である。但し、下記のホットソープ法の場合と比べて現状技術では発光特性に劣る場合がある。
(2)熱分解性原料を高温の液相有機媒体に注入して結晶成長させる方法(以下「ホットソープ法」という)であり、例えばJ.E.B.Katariら;J.Phys.Chem.,98巻,4109−4117(1994)に報告されている方法である。前記逆ミセル法に比べて粒径分布と純度に優れた半導体結晶粒子が得られ、生成物は発光特性に優れ有機溶媒に通常可溶である特徴がある。ホットソープ法における液相での結晶成長の過程の反応速度を望ましく制御する目的で、半導体構成元素に適切な配位力のある配位性有機化合物が液相成分(溶媒と有機配位子とを兼ねる)として選択される。かかる配位性有機化合物の例としては、トリアルキルホスフィン類、トリアルキルホスフィンオキシド類、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等のω−アミノアルカン類等が挙げられる。これらのうち、トリオクチルホスフィンオキシド(略称TOPO)等のトリアルキルホスフィンオキシド類やヘキサデシルアミン等のω−アミノアルカン類等が好適である。
(3)酸塩基反応を駆動力として半導体結晶やその前駆体を、水やエタノールなどのプロトン性溶媒中において100℃以下程度の比較的低い温度で生成させる工業生産に適した方法(以下「ゾル生成法」という)である。例えば、酸化チタンナノ結晶の合成例が伊藤征司郎ら;色材,57巻6号,305−308(1984)に、酸化亜鉛ナノ結晶の合成例がL.Spanhelら;J.Am.Chem.Soc.,113巻,2826頁(1991)にそれぞれ報告されている。ゾル生成法における好適な原料として、例えば酸化チタンナノ結晶の合成には硫酸チタニルが、酸化亜鉛ナノ結晶の合成には酢酸亜鉛や硝酸亜鉛等の亜鉛塩が、それぞれ例示される。テトラエチルオルトシリケート(略称TEOS)やテトライソプロポキシオルトチタネート等の金属アルコキシド類も原料として好適に使用可能である。特にゾル生成法により酸化物ナノ結晶を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いる酸化チタンナノ結晶の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し、次いで酸やアルカリにより(好ましくは酸により)これを脱水縮合又は解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や沈殿分離(必要であれば遠心分離)等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。該ヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子(即ち半導体又はその前駆体のナノ粒子)を非水溶化させて単離してもよい。
【0051】
前記半導体原料物質が複数種ある場合、これらをあらかじめ混合しておいてもよく、あるいはこれらをそれぞれ単独で反応液相に注入してもよい。これら原料は、適当な希釈溶媒を用いて溶液にして使用してもよい。
(その他の超微粒子の製造方法)
前記遷移金属超微粒子の製造には、例えばG.Schmid編;”Clusters and Colloids”,VCH社(Weinheim,1994)等に総説されている公知の酸化還元反応を利用する金属コロイドの製造方法が使用可能である。例えば、塩化金酸、硝酸銀、過塩素酸銀等の遷移金属イオン化合物又はその塩を、クエン酸又はその塩、水素化ホウ素塩、エタノール等のアルコール類等の還元剤と接触させる溶液反応、あるいは超音波や光の照射等物理的作用を利用する還元反応により合成可能である。M.Brustら;J.Chem.Soc.Chem.Commun.,801頁(1994)に報告があるように、該酸化還元反応を水相で行う際に有機溶媒に可溶の有機配位子で表面修飾するとともに超微粒子を該有機相に抽出する目的で、かかる有機配位子の有機溶液との2相系で反応を行ってもよい。あるいは前記W.W.Weareら著の文献に最近報告された改良法、即ち、塩化金酸等の原料金属化合物とテトラオクチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩とを窒素で溶存空気を置換した水/トルエン2相系に溶解し、ここにトリフェニルホスフィン(PPh3と略記)を作用させて生成するAuCl(PPh3)なる化学種を更に水素化ホウ素ナトリウムで還元して、平均粒径1.5nm程度で非常に狭い粒径分布を持つPPh3を有機配位子とする金ナノ結晶(理論組成はAu101(PPh3)21Cl5)を得る方法も好適に本発明に利用可能である。なお、Nanoprobes,Inc.社から供給される金のナノ結晶等の市販品を本発明に使用してもよい。
【0052】
前記の酸化還元反応で得る遷移金属超微粒子は、チオール類やアミン類による有機配位子交換反応により所望の表面修飾が可能である。即ち、L.O.Brownら;J.Am.Chem.Soc.,119巻,12384−12385(1997)に報告のある1−オクタデカンチオール等のアルカンチオール類による有機配位子交換、あるいはL.O.Brownら;J.Am.Chem.Soc.,121巻,882−883(1999)に報告のある1−ペンタデシルアミン等のアミノアルカン類による有機配位子交換が可能であり、特に後者の方法を例えば塩化メチレン等の有機溶媒中で室温にて3日程度かけてゆっくりと行うことで、1.5nm程度の初期粒径から5nm程度まで精密に制御可能である点で好ましい反応である。従って、所望の官能基を有する有機配位子を使用してかかる制御された有機配位子交換反応を行うことにより、原理的に所望の官能基を導入する表面修飾を精密な粒径制御とともに行うことが可能である。
【0053】
遷移金属の塩や各種機能分子の結晶の超微粒子については、粉砕法の他、溶液からの沈殿法や超臨界液体中での反応を利用する方法等の溶液法による製造が可能である。
(超微粒子の分散方法)
本発明の重合性液体組成物が含有する前記各種超微粒子を分散させる方法に制限はないが、該超微粒子の表面に適当な有機分子(有機配位子)を結合させる表面修飾を施すと、分散性改善、あるいは吸発光能等の電磁気学的特性の改良に有効である場合が多い。これは、該表面修飾により超微粒子同士の凝集が抑制される効果、適切な有機分子による表面修飾により前記重合性単量体又は架橋樹脂(以下総合して「有機マトリクス」という)への相溶性が向上する効果、あるいは表面修飾による超微粒子表面に結合した有機分子と上記媒質の構成成分との化学反応による結合生成の効果等の複合効果によるものと考えられる。
【0054】
かかる表面修飾の効果が特に顕著に表れるのは、該超微粒子の材質が遷移金属(単体あるいは合金)、化合物半導体、非遷移金属の酸化物類、あるいはゼオライト類等の無機材質の場合である。これは、上記有機マトリクスと該無機材質の超微粒子との界面自由エネルギーを可及的に小さくするために有機分子による表面処理が非常に大きな効果を発揮するためである。かかる無機材質の超微粒子の表面処理方法とそれに使用する有機分子(本発明では「有機配位子」という)に制限はないが、かかる有機配位子の概念は下記一般式(3)で表されるものである。
【0055】
【化7】
X−R−Y (3)
上記一般式(3)において、Xは超微粒子の表面と任意の化学結合(例えば共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等)を形成する官能基を表し、Yは上記有機マトリクスとの親和性あるいは化学結合形成性を有する官能基を表し、RはXとYとを連結する炭素原子数1〜30の2価有機残基を表す。
【0056】
上記一般式(3)における官能基Xは、好ましくは使用する超微粒子の表面と共有結合又は配位結合を、最も好ましくは共有結合を形成するものである。前記官能基Yについては、例えば上記有機マトリクスに超微粒子を優先的に結合させることを目的とする場合には、該官能基Yは該有機マトリクスとの化学結合形成性を有する官能基(例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アミド基等の求核又は求電子置換反応性官能基、アクリロイル基、メタクリロイル基、マレオイル基、ビニルフェニル基、ビニルエステル基、ビニルアミノ基、エチニル基等のラジカル重合性基等)である必要がある。前記2価有機残基Rの炭素原子数については、官能基Yを十分に機能させるに必要な可動性の確保と超微粒子表面を保護する点から、その下限値は好ましくは3以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは9以上であり、一方架橋樹脂マトリクスの耐熱性や機械的強度を極端に低下させない目的では好ましくは25以下、更に好ましくは20以下とする。
【0057】
上記官能基Xの具体例としては、シリカ、アルミナ、チタニア等の酸化物の表面処理に従来使用されているシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤等の活性官能基である金属アルコキシド基、あるいは周期表第15族又は第16族元素を含有する以下のような官能基、即ち、1級アミノ基(−NH2)、2級アミノ基(−NHR;但しRはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基等の炭素数6以下の炭化水素基である;以下同様)、3級アミノ基(−NR1R2;但しR1及びR2は独立にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基等の炭素数6以下の炭化水素基である;以下同様)、ピリジル基、アミド結合等の窒素含有官能基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、リン酸基、亜リン酸基、ホスフィンセレニド基等のリン含有官能基等の周期表第15族元素を含有する官能基、水酸基、カルボキシル基、β−ジケトン基、β−ジケトネート基等の酸素含有官能基、メルカプト基(又はチオール基)、スルフィド結合、スルホキシド基、チオ酸基(−COSH)、ジチオ酸基(−CSSH)、スルホン酸基、キサントゲン酸基、キサンテート基、イソチオシアネート基、チオカルバメート基、チオフェン環等の硫黄含有官能基等の周期表第16族元素を含有する官能基等が例示される。これらのうち好ましく利用されるのは、ピリジル基や1級アミノ基等の窒素含有官能基、ホスフィン基やホスフィンオキシド基等のホスフィン誘導体基、リン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性基、メルカプト基等の硫黄含有官能基である。これらのうち、ホスフィンオキシド基とメルカプト基は超微粒子表面の遷移金属元素への結合力に優れ、リン酸基、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性基は酸化物半導体表面への結合力に優れるので最も好ましく用いられる。
【0058】
以下、上記有機配位子の具体例を挙げるが、これら例示中(b)〜(e)における官能基は上記一般式(3)における官能基Xに該当するものである。
(a)金属アルコキシド基含有有機配位子:3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシエチルトリメトキシシラン、3−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン類、3−グリシジルオキシプロピルトリイソプロピルオキシチタン等のアルコキシチタン類等。
【0059】
(b)硫黄含有有機配位子:メルカプトエタン、1−メルカプト−n−ブタン、1−メルカプト−n−ヘキサン、メルカプトシクロヘキサン、1−メルカプト−n−オクタン、1−メルカプト−n−デカン等のメルカプトアルカン類、下記一般式(4)で表される片末端がメルカプト基となったポリエチレングリコール類、下記一般式(5)で表されるポリエチレングリコール類のω−メルカプト脂肪酸エステル類、下記一般式(6)で表される1H,1H,2H,2H−パーフルオロアルキル−1−チオール類、チオフェノール、4−メチルチオフェノール、4−t−ブチルチオフェノール、4−ヒドロキシチオフェノール等のチオフェノール誘導体、6−メルカプト−n−ヘキサノール等のω−メルカプトアルコール類、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジオクチルスルフィド等のジアルキルスルフィド類、ジメチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ジオクチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシド類、ジブチルジスルフィド、ジヘキシルジスルフィド、ジオクチルジスルフィド等のジアルキルジスルフィド類、チオ尿素、チオアセタミド等のチオカルボニル基を有する化合物、チオフェン等の硫黄含有芳香族化合物、オクチルスルホン酸、デシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸等のスルホン酸類、あるいは下記一般式(5)のエステル類の原料となるω−メルカプト脂肪酸類等。
【0060】
【化8】
HS−(CH2CH2O)n−R1 (4)
【0061】
【化9】
HS−(CH2)m−COO−(CH2CH2O)n−R1 (5)
上記一般式(4)及び一般式(5)において、R1は水素原子、炭素数6以下の炭化水素基、又はベンゼン環を表し、nは重合度を表す自然数であり、通常2≦n≦15、過度の立体的障害を避ける観点で好ましくは2≦n≦10、更に好ましくは2≦n≦5である。また、一般式(5)においてmは自然数であり、通常1≦n≦20、過度の立体的障害を避ける観点で、その上限値は好ましくは15、更に好ましくは12であり、一方、該mの下限値は超微粒子表面を外界から遮蔽する観点で、好ましくは5、更に好ましくは8である。
【0062】
【化10】
HS−(CH2)2−RF (6)
上記一般式(6)において、RFはトリフルオロメチル基(CF3−)又はジフルオロメチレン基(−CF2−)を含有する炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を表す。
【0063】
(c)リン含有有機配位子:トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリデシルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類、トリエチルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド(略称TOPO)、トリデシルホスフィンオキシド等のトリアルキルホスフィンオキシド類、トリフェニルホスフィン等の芳香族ホスフィン類、トリフェニルホスフィンオキシド等の芳香族ホスフィンオキシド類、n−ブチルホスホン酸、n−ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、ベンジルホスホン酸等のホスホン酸類、ジオクチルホスフィン酸等のホスフィン酸類等。
【0064】
(d)窒素含有有機配位子:ピリジンやキノリン等の窒素含有芳香族化合物、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリフェニルアミン、メチルジフェニルアミン、ジエチルフェニルアミン、トリベンジルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン等の2級アミン類、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン等の1級アミン類、ニトリロ三酢酸トリエチルエステル等のアミノ基を有するカルボン酸エステル類等。
【0065】
(e)カルボン酸有機配位子:ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、オクタデカン酸等の炭素数4〜20の脂肪酸類、安息香酸、4−オクチル安息香酸、4−ドデシル安息香酸等の安息香酸誘導体等。
また、上記有機配位子は、半導体結晶等の超微粒子を大気(特に酸素ガスや水)や光等の外界からの影響から遮蔽して保持する効果(以下「遮蔽効果」という)をも有する。かかる遮蔽効果の点では、該有機配位子は炭素数4以上のメチレン基連鎖を含有するものであることが好ましく、特に水やエタノール等のプロトン性溶媒を併用する場合にその効果を顕著に発揮する。これは、該メチレン基連鎖がその疎水性により一種の疎水障壁を半導体結晶表面に形成し、プロトン性溶媒分子等の極性化学種が半導体結晶等の表面に接近して金属元素を溶出する等の悪影響を妨げる、といった機構によるものと推測される。かかる炭素数4以上のメチレン基連鎖を有する有機配位子の使用により、具体的には、半導体超微粒子の量子効果の安定化が見られる場合が多い。このメチレン基連鎖の炭素数は通常4〜20、好ましくは5〜16、最も好ましくは6〜12程度とする。
【0066】
半導体結晶等の無機超微粒子の表面への上記有機配位子の具体的な配位化学構造は十分に解明されていないが、本発明においては前記一般式(3)における官能基Xは必ずしもそのままの構造を保持していなくてもよい。例えば、メルカプト基(SH)の場合、半導体結晶や遷移金属結晶終端に存在する遷移金属元素M(例えばII−VI族化合物半導体における亜鉛やカドミウム、III−V族化合物半導体におけるガリウムやインジウム等)との共有結合を形成した構造(例えばS−Mなる構造)への変化、ホスフィンオキシド基(P=O)の場合、該遷移金属元素Mとの共有結合を形成した構造(例えばP−O−Mなる構造)への変化等も考えられる。
【0067】
上記有機配位子の超微粒子への結合量は、半導体結晶や遷移金属等の超微粒子主体と該有機配位子との総和に対する重量百分率(wt%)として、通常5〜80wt%、好ましくは10〜60wt%、更に好ましくは15〜40wt%である。かかる重量百分率は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、元素分析、あるいは熱重量分析(TG)等の各種分析手法の組み合わせによって分析することにより見積もることが可能である。
【0068】
(架橋樹脂組成物の製造方法)
本発明の重合性液体組成物から架橋樹脂組成物を製造する方法に制限はないが、例えば、重合性液体組成物の熱又は活性エネルギー線の照射による重合反応の開始により好適に製造可能である。かかる方法につき以下説明する。
上記重合反応の形式に制限はなく、例えばラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合、縮重合、開環重合などの公知の重合形式を用いることができる。これらの重合形式の例示のうち、厳密な脱水や脱気が必ずしも必要でない等重合条件を幅広く取ることができる観点で好適なのはラジカル重合、縮重合及び開環重合であり、中でもラジカル重合が更に好ましい。一方、光学部材としての諸特性、例えば光線透過率や低複屈折性などを高めるためには、活性エネルギー線照射による任意の重合形式が好ましく、その理由は定かではないが、重合反応の開始が重合系内で均質かつ短時間に進行することによる生成物の均質性によるものと推定される。従って、最も好ましい重合形式は活性エネルギー線照射によるラジカル重合である。
【0069】
上記活性エネルギー線とは、必要とする重合反応を開始する重合開始剤に作用して該重合反応を開始する化学種を発生させる働きを有する電磁波(ガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線等)又は粒子線(電子線、α線、中性子線、各種原子線等)である。本発明において好ましく用いられる活性エネルギー線は上記電磁波であり、エネルギーと汎用光源を使用可能であることから紫外線と可視光線が更に好ましく、最も好ましくは紫外線である。
【0070】
従って、もっとも好ましい重合態様は、紫外線によりラジカルを発生する光ラジカル発生剤(前記例示参照)を重合開始剤とし紫外線を活性エネルギー線として使用する方法である。この時、必要に応じて増感剤を併用してもよい。
上記光ラジカル重合開始剤の添加量は、重合性単量体の総和100重量部に対し通常0.01〜1重量部、好ましくは0.02〜0.3重量部であり、この添加量が多すぎると、重合が急激に進行して複屈折の増大をもたらすだけでなく色相も悪化する場合があり、また少なすぎると組成物を十分に硬化させることができなくなる場合がある。上記紫外線は、波長が通常200〜400nmの範囲であり、この波長範囲は好ましくは250〜400nmである。一方、該紫外線の強度は通常0.1〜200J/cm2のエネルギー範囲で照射し、該照射時間は通常1秒〜3時間、反応促進と生産性の点で好ましくは10秒〜1時間程度とする。かかる活性エネルギー線の照射エネルギーや照射時間が極端に少ない場合は重合が不完全なため架橋樹脂組成物の耐熱性,機械特性が十分に発現されない場合があり,逆に極端に過剰な場合は黄変等光による色相悪化に代表される劣化を生ずる場合がある。該活性エネルギー線の照射は,一段階でも、あるいは複数段階で照射してもよく、その線源として通常は活性エネルギー線が全方向に広がる拡散線源を用い、通常、型内に賦形された前記重合性液体組成物を固定静置した状態又はコンベアで搬送された状態とし、光源を固定静置した状態で照射する。また、前記重合性液体組成物を適当な基板(例えば樹脂、金属、半導体、ガラス、紙等)上の塗布液膜とし、次いで活性エネルギー線を照射して該塗布液膜を硬化させることも可能である。
【0071】
重合形式としてカチオン重合やアニオン重合を行う場合には、光酸塩基発生剤を通常併用する。
(光学部材)
本発明の重合性液体組成物から得られる架橋樹脂組成物は、複屈折で代表される光学歪みが小さく、良好な透明性を有し、優れた耐熱性を有するほか、屈折率制御性や表面硬度、帯電防止性、吸発光特性(特に紫外線吸収能)等などの種々の機能特性を有する。従って、この架橋樹脂組成物は光学部材として好適である。ここでいう光学部材とは、それを構成する材料の光学特性、例えば透明性、吸発光特性、外界との屈折率差、複屈折の小ささ、前記の特異な屈折率とアッベ数とのバランス等を利用する用途に用いられる成形体一般を指す。具体例としては、ディスプレイパネル、タッチパネル、レンズ、プリズム、導波路、光増幅器等のオプティクス、オプトエレクトロニクス用部材が挙げられる。
【0072】
なお、この架橋樹脂組成物を用いた光学部材は2種類に大別される。第1の光学部材は前記架橋樹脂組成物の成形体である光学部材であり、第2の光学部材は前記架橋樹脂組成物の薄膜を表面に有する成形体である光学部材である。つまり、前者は光学部材の主体が前記架橋樹脂組成物でありその表面に該架橋樹脂組成物でない材質の任意の薄膜(コート層)を有していてもよいものであり、一方、後者は光学部材の主体は前記架橋樹脂組成物でなくてもよい材質で構成され、その表面に架橋樹脂組成物の薄膜を有するものである。いずれの光学部材も、樹脂、ガラス、セラミクス、無機物結晶、金属、半導体、ダイヤモンド、有機物結晶、紙パルプ、木材等の任意の固体素材基板上に密着して成形されたものであってもよい。
【0073】
上記第1の光学部材の寸法に制限はないが、前記架橋樹脂組成物の部分の光路長は通常0.01〜10000mmであり、光学部材の機械的強度の点で該下限値は好ましくは0.1mm、更に好ましくは0.2mmであり、一方、光線強度の減衰の点で該上限値は好ましくは5000mm、更に好ましくは1000mmである。上記第1の光学部材の形状に制限はないが、例えば平板状、曲板状、レンズ状(凹レンズ、凸レンズ、凹凸レンズ、片凹レンズ、片凸レンズ等)、プリズム状、ファイバー状等の形状が例示される。
【0074】
上記第2の光学部材の寸法に制限はないが、前記架橋樹脂組成物薄膜の膜厚は通常0.05〜3000μmであり、該膜厚の下限値は、機械的強度や光学特性の点で好ましくは0.1μm、更に好ましくは0.5μmである。一方、該膜厚の上限値は、薄膜の成形加工性や費用対効果バランスの点で好ましくは2000μm、更に好ましくは1000μmである。かかる薄膜の形状に制限はないが、必ずしも平面状でなくてもよく、例えば球面状、非球面曲面状、円柱状、円錐状、あるいはボトル状等の任意の形状の基板上に成形されていてもよい。
【0075】
光学部材には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、半導体結晶粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、基材と塗布面との接着性を改善する下引き層、電極層等、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
【0076】
本発明の重合性液体組成物の重合物を用いた光学部材の具体例を更に詳細に例示すると、眼鏡用レンズ、光コネクタ用マイクロレンズ、発光ダイオード用集光レンズ等の各種レンズ、光スイッチ、光ファイバー、光回路における光分岐、接合回路、光多重分岐回路、光度調器等の光通信用部品、液晶基板、タッチパネル、導光板、位相差板等各種ディスプレイ用部材、光ディスク基板や光ディスク用フィルム・コーティングを初めとする記憶・記録用途、更には機能性フィルム、反射防止膜、光学多層膜(選択反射膜、選択透過膜等)、超解像膜、紫外線吸収膜、反射制御膜、光導波路、及び識別機能印刷面等各種光学フィルム・コーティング用途等が挙げられる。
【0077】
【実施例】
以下に本発明の内容及び効果を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の例によって限定されるものではない。
また合成例における各種同定や分析、実施例及び比較例における評価は以下の方法で実施した。なお、原料試薬は、特に記載がない限り、Aldrich社より供給されるものを精製を加えずに使用した。ただし、市販の溶剤を以下のような精製操作により精製溶媒とした。
【0078】
精製トルエン:濃硫酸、水、飽和重曹水、更に水の順序で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾紙で濾過し、五酸化二リン(P2O5)を加えて大気圧にて蒸留した。
精製メタノール:硫酸カルシウムと水素化カルシウムで乾燥した後、更に水素化ナトリウムを加え、ここから大気圧にて直接蒸留したもの、又はAldrich社より供給された無水(「Anhydrous」)グレードを使用した。
【0079】
(評価方法)
(1)核磁気共鳴(NMR)スペクトル:日本電子社製JNM−EX270型FT−NMR(1H:270MHz、13C:67.8MHz)。溶媒は特に断らない限り重水素化クロロホルムを溶媒として使用し、テトラメチルシランを0ppm対照として23℃にて測定した。
(2)赤外吸収(IR)スペクトル:日本分光工業社製FT/IR−8000型FT−IR。23℃にて測定した。
(3)X線回折(XRD)スペクトル:リガク(株)製RINT1500(X線源:銅Kα線、波長1.5418Å)。23℃にて測定した。
(4)透過型電子顕微鏡(TEM)観察:日立製作所(株)社製H−9000UHR型透過型電子顕微鏡(加速電圧300kV、観察時の真空度約7.6×10-9Torr)にて行った。
(5)光励起発光(PL)スペクトル:日立製作所(株)社製F−2500型分光蛍光光度計にて、スキャンスピード60nm/分、励起側スリット5nm、蛍光側スリット5nm、フォトマル電圧400Vの条件で室温にて測定した。
(6)吸収スペクトルと光線透過率:ヒューレットパッカード社製HP8453型紫外・可視吸光光度計にて室温で測定した。
(7)熱重量分析(TG):セイコーインスツルメンツ(株)製TG−DTA320により、200mL/分の窒素気流下、アルミニウム皿の上で、昇温速度は10℃/分、140℃で保温30分、次いで最高設定温度590℃(サンプル直下の実測温度は602〜603℃程度)で保温120分の条件で行った。
(8)複屈折:0.5mm厚の試験片で複屈折測定装置(オーク社製)を用いて25℃で測定した。
(9)耐熱性:3mm×30mm×0.5mmの短冊状試験片を用いて、ガラス転移温度Tgを引っ張り法熱機械測定(TMA)にて加重2gで測定した。
【0080】
(有機配位子及び半導体超微粒子の合成例)
[合成例1:有機配位子の合成例]
11−メルカプトウンデカン酸(1.70g)とトリエチレングリコールモノメチルエーテル(以下「MTEG」という;50mL)、及び濃硫酸(国産化学(株)社製;5滴)を乾燥窒素雰囲気のフラスコ内で混合し、60℃で攪拌しながら30mmHg以下の圧力での減圧脱水を延べ約36時間行った。反応液を大量の氷水に攪拌しながら徐々に加えて得た析出物をn−ヘキサン/酢酸エチル(共に純正化学(株)社製)混合溶媒で抽出し、この有機相を飽和重曹水、次いで水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥した後、濾過して濃縮し、室温で真空乾燥した。この生成物は、IRスペクトルにおいて1735cm-1にエステル基、2920cm-1及び2845cm-1のピークを含むMTEG由来の炭化水素構造にそれぞれ帰属される吸収帯を与えた。更に1H−NMRスペクトルにおいて、後述するように予想構造に合致する合理的なシグナルと積分値を与えたので、下記式(7)に示される11−メルカプトウンデカン酸MTEGエステル(以下「MTEG−C11SH」という)を単離したものと結論した。
1H−NMRスペクトル:1.25〜1.67(マルチプレット,18プロトン,脂肪族鎖)2.33(トリプレット,2プロトン,J=7.6Hz,原料カルボン酸残基由来のメチレン基)、3.38(シングレット,3プロトン,メチル基)、3.54〜3.58(マルチプレット,2プロトン)、3.63〜3.72(マルチプレット,8プロトン)、4.23(トリプレット,2プロトン,J=5.0Hz,エステル結合に隣接するMTEG残基のメチレン基)。
【0081】
【化11】
HS(CH2)10COO(CH2CH2O)3CH3 (7)
[合成例2:CdSe超微粒子]
空冷式のリービッヒ還流管と反応温度調節のための熱電対を装着したパイレックスガラス製3口フラスコにトリオクチルホスフィンオキシド(以下「TOPO」と略記;4g)を入れ、マグネチックスターラーで攪拌しながら乾燥アルゴンガス雰囲気で360℃に加熱した。別途、乾燥窒素雰囲気のグローブボックス内で、セレン(単体の黒色粉末;0.1g)をトリブチルホスフィン(以下「TBP」と略記;6.014g)に溶解した液体に更にジメチルカドミウム(Strem Chemical社製;97%;0.216g)を混合溶解した原料溶液Aを、ゴム栓(Aldrich社から供給されるセプタム)で封をし、アルミニウム箔ですき間なく包んで遮光したガラス瓶中に調製した。この原料溶液Aの一部(2.0mL)を、前記のTOPOの入ったフラスコに注射器で一気に注入し、この時点を反応の開始時刻とした。反応開始20分後に熱源を除去し約50℃に冷却された時点で精製トルエン(2mL)を注射器で加えて希釈し、更に前記の精製メタノール(10mL)を注入して不溶物を生じさせた。この不溶物を遠心分離(3000rpm)し、デカンテーションにより上澄み液を除去して分離し、室温にて約14時間真空乾燥して固形粉体を得た。この固形粉体のXRDスペクトルにおいて、Wurtzite型CdSe結晶の002面及び110面に帰属される回折ピークを観測したことからCdSeナノ結晶の生成を確認した。また、このCdSeナノ結晶の平均粒径は、TEM観察によれば約4nmであった。こうして得たCdSe超微粒子は、精製トルエン溶液において、水銀灯の366nm波長の励起光を照射すると赤色の発光帯(ピーク波長595nm、半値幅43nm)を与えた。
【0082】
[合成例3:ZnSシェルを有するコアシェル構造CdSe超微粒子]
B.O.Dabbousiら;J.Phys.Chem.B,101巻,9463頁(1997)に記載の方法に準じて行った。これを以下説明する。乾燥アルゴンガス雰囲気の褐色ガラス製の3口フラスコ中にTOPO(15g)を入れ、減圧下130〜150℃での溶融状態で約2時間攪拌した。この間、残留する空気及び水等の揮発性分を置換する目的で、乾燥アルゴンガスにより大気圧に復圧する操作を数回行った。温度設定を100℃として約1時間後、合成例2で得たCdSe超微粒子の固形粉体(0.094g)のトリオクチルホスフィン(1.5g、以下「TOP」と略記)溶液を加えて、CdSeナノ結晶を含む透明溶液を得た。これを100℃の減圧下で更に約80分間攪拌後、温度を180℃に設定して乾燥アルゴンガスで大気圧に復圧した。別途、乾燥窒素雰囲気のグローブボックス内で、ジエチル亜鉛の1N濃度n−ヘキサン溶液(1.34mL;1.34ミリモル)とビス(トリメチルシリル)スルフィド(0.239g;1.34ミリモル)とをTOP(9mL)に溶解した原料溶液Bを、セプタムで封をしアルミニウム箔ですき間なく包んで遮光したガラス瓶中に調製した。この原料溶液Bを、注射器により、前記の180℃のCdSe超微粒子を含む透明溶液に20分間かけて滴下し、90℃に降温後、約1時間攪拌を継続した。室温で約14時間静置した後、再び90℃で3時間加熱攪拌した。熱源を除去し、Aldrich社から供給される無水グレード(99.8%)のn−ブタノール(8mL)を反応液に加えて室温まで冷却して、透明な赤色溶液を得た。この赤色溶液には、原料のビス(トリメチルシリル)スルフィド等の硫黄化合物の臭気はなく、代わりにセレン特有のニラ様臭気があった。合成例2で得たCdSe超微粒子の溶液にはこのようなセレン臭はなかったので、該CdSeナノ結晶表面での意図した硫化物生成反応の進行とともに、該ナノ結晶表面における硫黄原子によるセレン原子の置換反応等何らかの機構によるセレンの遊離があったものと推測され、前記文献記載同様にZnSシェルを有するコアシェル構造CdSe超微粒子が生成したものと考えられた。この赤色溶液の一部(8mL)を、乾燥窒素気流下、室温で精製メタノール(16mL)中に滴下し、20分間攪拌を継続する沈殿操作により赤色不溶物を得た。この赤色不溶物を合成例2同様に遠心分離及びデカンテーションにより分離し、精製トルエン(14mL)に再溶解した。この再溶解トルエン溶液を用いて、再び同様の沈殿操作、遠心分離、及びデカンテーションの一連の精製操作を行って固体生成物を得た。この固体生成物は、1mLの精製メタノールと振り混ぜて洗浄後、デカンテーションで分離した。この固体生成物の平均粒径は、TEM観察によれば約5nmであった。この固体生成物は透明赤色のトルエン溶液を与え、ここに468nm波長の励起光を照射すると赤色の発光帯(ピーク波長597nm、半値幅41nm)を与えた。この発光は同程度の溶液濃度において、合成例2で得たCdSe超微粒子の場合よりも明らかに発光強度が大きかったことから、ZnSシェルを有するコアシェル構造CdSeナノ結晶に変換され、表面準位等を経由する非発光過程の寄与が抑制されたものと考えられた。また、この生成物のIRスペクトルは、TOPOのアルキル基に由来すると考えられる3つの吸収帯を2940,2920,及び2850cm-1に与えたので、TOPOがナノ結晶表面に結合しているものと考えられた。
【0083】
[合成例4:MTEG−C11SHを有機配位子として有するコアシェル構造CdSe超微粒子]
合成例3で得たZnSシェルを有するコアシェル構造CdSe超微粒子(0.5g)を、窒素雰囲気下、エタノール(純正化学(株)、8mL)中で攪拌して分散しながら、ここに合成例1で合成したMTEG−C11SH(0.4g)を加え、約20分間加熱還流させた。この加熱還流により上記コアシェル構造CdSe超微粒子が溶解して濁りのない赤色エタノール溶液を与えた。反応液を減圧濃縮して得た残渣にn−ヘキサンを加えて約20秒間超音波照射して分散させ、次いで遠心分離(4000rpm、6分間)とデカンテーションにより不溶物を分離した。こうして分離した不溶物を精製トルエンに再溶解し、約10倍容量のn−ヘキサン中に注入して析出物を生成させ、これを前記同様に遠心分離とデカンテーションにより分離した。この再溶解、析出及び分離の操作をもう1度繰り返して精製した。この生成物を室温で真空乾燥して得た固体は、エタノール又は50重量%のエタノール水溶液に可溶で濁りのない赤色溶液を与えた。かかるエタノール溶液は合成例3の場合と同一の発光帯を与え、該固体生成物のIRスペクトルはMTEG−C11SH由来のエステル基及び炭化水素構造部分にそれぞれ帰属される吸収帯を与え、しかも合成例3で述べたTOPOのアルキル基に由来すると考えられる3つの鋭い吸収ピークは観測されなかったので、MTEG−C11SHが半導体結晶部分には実質的に化学変化を及ぼさずにTOPOを置換した半導体超微粒子が得られたものと考えられた。この固体生成物の有機物含量をTG測定で定量したところ29重量%であった。
【0084】
[合成例5:ジアルキルスルホスクシネートを有機配位子として有するTiO2超微粒子の合成]
前記伊藤ら著の文献記載の方法を参考として行った。以下、手順を説明する。0.1モル/Lの濃度の塩化チタニル水溶液を攪拌しながら、同容量の1.5モル/Lの濃度の炭酸ナトリウム水溶液を室温で25分かけて滴下した。こうして得た白色の超微粒子の懸濁液を、遠心分離(4000rpm)、上澄み液のデカンテーションによる除去及び水洗の3工程をこの順に繰り返す操作により精製した。但し、該精製は、上澄み液に水酸化バリウム水溶液を加えても硫酸バリウムの白色の濁りが目視観察されなくなるまで行った。こうして得た白色沈殿を0.3モル/Lの濃度の希塩酸中に攪拌分散しながら60℃で約1時間加熱して透明感のある酸性ヒドロゾルを得た。この酸性ヒドロゾルに氷冷し、アルキル基の一方がアリル基でありラジカル重合性を有するジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名はエレミノールJS−2、ロット番号0804831)の水溶液を加えたところ白色沈殿を生じたので、これを遠心分離とデカンテーションにより分離した。この白色沈殿は酢酸エチル等の有機溶媒に可溶であったのでこれを大量の水中に分散してよく攪拌して水洗し、次いで酢酸エチルとn−ヘキサンの混合溶媒で抽出し、乾燥した後、濃縮した。この濃縮残渣のXRDとTEMより、アナタース型TiO2超微粒子のナノ結晶(数平均粒径は約5nm)の生成を確認した。この濃縮残渣も有機溶媒に可溶であったことから、上記ジアルキルスルホスクシネート残基がアナタース型二酸化チタンのナノ結晶表面にスルホン酸基を介して結合したTiO2超微粒子であるものと考えられた。
【0085】
[合成例6:ZnO超微粒子]
L.Spanhelら;J.Am.Chem.Soc.,113巻、2826頁(1991)に記載されている方法により合成した。即ち、関東化学社製の酢酸亜鉛二水和物(0.8789g)を遮光したガラスフラスコ内でエタノール(40mL)に溶解し、窒素ガスバブリングを30分間行って溶在空気を置換し、窒素雰囲気下にて溶液を加熱し、エタノールの一部(24mL)を蒸留して共存する水を共沸除去した。液温を室温に戻してエタノール(24mL)を加え、ここにキシダ化学社製の水酸化リチウム一水和物(0.2352g)の粉末を加えて10分間超音波照射して非沈殿性固体粒子を含まない溶液を得た。この溶液の吸収スペクトルは314nmに極大を有するエキシトン発光帯を示したことから、上記文献記載の通りZnO超微粒子が生成していることが確認された。またこの溶液は、300nmの励起光により496nmに極大を有するブロードな発光帯を与えた。この発光は目視で白緑色であった。このZnO超微粒子の平均粒径は、TEM観察によれば約4nmであった。
【0086】
(実施例及び比較例)
[実施例1:コアシェル構造CdSe超微粒子を含有する架橋樹脂組成物の熱ラジカル重合による調製]
合成例4で得たMTEG−C11SHを有機配位子として有するコアシェル構造CdSe超微粒子1重量部、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート99部、熱ラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリル(通称AIBN)1重量部を精製トルエンに溶解して濁りのない溶液を得た。これを乾燥窒素気流下約80℃で加熱してトルエンを留去しながらラジカル重合を進行させ、更に120℃で1時間加熱することにより、濁りのない架橋樹脂組成物を得た。この架橋樹脂組成物の光路長1mmにおける複屈折は約9nmであり、ナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率は約88%であった。この架橋樹脂組成物はトルエン、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフランのいずれの溶媒に溶解しようとしても実質的に不溶であった。また、合成例3及び4に記載したコアシェル構造CdSe超微粒子と同様の発光能を保持していた。
【0087】
[実施例2:コアシェル構造CdSe超微粒子を含有する架橋樹脂組成物の光ラジカル重合による調製(その1)]
合成例4で得たMTEG−C11SHを有機配位子として有するコアシェル構造CdSe超微粒子5重量部、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート95部、光ラジカル発生剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF社製「ルシリンTPO」)0.1部、ベンゾフェノン0.1部を加え均一に攪拌混合した後、脱泡して重合性液体組成物を得た。これを、スペーサーとして厚さ0.5mmのシリコーン板を用いた光学研磨ガラスの型及びスペーサーとして厚さ1mmのシリコーン板を用いた光学研磨ガラスの型にそれぞれ注液し、ガラス面より距離40cmで上下に設置された出力80W/cmのメタルハライドランプの間にて、5分間紫外線を照射した。紫外線照射後脱型し、120℃で1時間加熱して硬化物を得た。硬化物の諸物性は表−1の通りであった。この架橋樹脂組成物のナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率は、約85%であった。この架橋樹脂組成物はトルエン、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフランのいずれの溶媒に溶解しようとしても実質的に不溶であった。また、合成例3及び4に記載したコアシェル構造CdSe超微粒子と同様の発光能を保持していた。
【0088】
[実施例3:コアシェル構造CdSe超微粒子を含有する架橋樹脂組成物の光ラジカル重合による調製(その2)]
実施例1のビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレートの代わりにα、α’−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)−p−キシレンを用いたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、重合性液体組成物を経て架橋樹脂組成物を得た。組成物の諸物性は表−1の通りであった。この架橋樹脂組成物のナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率は約83%であった。この架橋樹脂組成物はトルエン、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフランのいずれの溶媒に溶解しようとしても実質的に不溶であった。また、合成例3及び4に記載したコアシェル構造CdSe超微粒子と同様の発光能を保持していた。
【0089】
[実施例4:TiO2超微粒子を含有する架橋樹脂組成物の熱ラジカル重合による調製]
合成例5で得たジアルキルスルホスクシネートを有機配位子として有するTiO2超微粒子10重量部、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート90部、熱ラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリル(通称AIBN)1重量部を酢酸エチルとn−ヘキサンの混合溶媒に溶解して濁りのない溶液を得た。これを乾燥窒素気流下約110℃で加熱して該混合溶媒を留去しながらラジカル重合を進行させ、更に120℃で1時間加熱することにより、濁りのない架橋樹脂組成物を得た。この架橋樹脂組成物の光路長1mmにおける複屈折は約8nmであり、ナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率は約81%であった。この架橋樹脂組成物はトルエン、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフランのいずれの溶媒に溶解しようとしても実質的に不溶であった。また、TiO2超微粒子に由来する紫外線吸収能を有するものであった。
【0090】
[実施例5:TiO2超微粒子を含有する架橋樹脂組成物の光ラジカル重合による調製]
実施例2において、超微粒子として合成例5で得たジアルキルスルホスクシネートを有機配位子として有するTiO2超微粒子45重量部を、重合性単量体としてビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート45部及びn−ブチルメタクリレート10重量部の混合物をそれぞれ用い、重合性液体組成物の温度を約80℃として紫外線を照射した他は同様の操作を行い、重合性液体組成物を経て架橋樹脂組成物を得た。こうして得た架橋樹脂組成物の光路長1mmにおける複屈折は約5nmであり、ナトリウムD線波長における光路長1mm当たりの光線透過率は約75%であった。この架橋樹脂組成物はトルエン、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフランのいずれの溶媒に溶解しようとしても実質的に不溶であった。また、TiO2超微粒子に由来する紫外線吸収能を有するものであった。
【0091】
[比較例1]
ポリメチルメタクリレート(東京化成社製;平均分子量7〜7.5万;以下PMMAという)90部をプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(以下「PEGMEA」という)400部に40℃で攪拌溶解した後、合成例5で得たジアルキルスルホスクシネートを有機配位子として有するTiO2超微粒子10重量部を加え、更に2時間攪拌し、均一に分散させ、溶液を得た。エバポレータによってPEGMEAを半分程度蒸発除去した後、この溶液(以下 溶液Aという)をガラス基板上にバーコート法によって塗布し、120℃で乾燥させて薄膜を得た。その薄膜の上に更にバーコート塗布を行い、以下同様に操作を繰り返し、厚さ0.5mm及び1mmの超微粒子分散PMMAシートを得た。このPMMAシートの諸物性は表−1の通りであり、実施例に比べて複屈折が非常に大きく、しかもガラス転移温度が低く、耐熱性に劣ることが明らかである。また、この樹脂組成物は架橋樹脂組成物でないので、トルエンやテトラヒドロフランにより容易に溶解するものであった。
【0092】
[比較例2]
比較例1の溶液Aを、ガラス基板とシリコーンスペーサーで構成された注型型に厚さ0.5mm及び1mmで注型し、120℃で乾燥させたところ、無数の気泡を生じ、透明性が著しく損なわれ、光学歪みが増大した。乾燥条件を80〜150℃の範囲で変化させ、あるいは加熱速度を10℃/分に抑えたが、気泡の発生は抑制できなかった。
【0093】
【表1】
【0094】
【発明の効果】
本発明の重合性液体組成物を重合して得られる架橋樹脂組成物は、優れた透明性と小さな光学歪み(例えば複屈折)を有し、機械的強度、耐熱性及び寸法精度に優れており、しかも架橋樹脂マトリクスを有するため優れた耐溶剤溶解性をも有するので、幅広い光学部材用途に使用される。
Claims (9)
- 下記成分A及び成分Bからなる群から選ばれた少なくとも1種の、分子内に2個以上の重合性官能基を有する重合性単量体を主体とし、数平均粒径0.5〜50nmの超微粒子(但しシリカを除く)を含有することを特徴とする重合性液体組成物。
成分A:下記一般式(1)で表される含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート。
成分B:下記一般式(2)で表される硫黄原子含有ビス(メタ)アクリレート。
- 下記成分A及び成分Bからなる群から選ばれた少なくとも1種の、分子内に2個以上の重合性官能基を有する重合性単量体を主体とし、数平均粒径0.5〜50nmの半導体の超微粒子を含有することを特徴とする重合性液体組成物。
成分A:下記一般式(1)で表される含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート。
成分B:下記一般式(2)で表される硫黄原子含有ビス(メタ)アクリレート。
- 半導体の超微粒子が酸化チタン結晶、酸化亜鉛結晶、酸化セリウム結晶又は酸化ジルコニウム結晶を含有するものである、請求項2に記載の重合性液体組成物。
- 半導体の超微粒子がコア・シェル構造のものである、請求項2に記載の重合性液体組成物。
- コア・シェル構造が、CdSe−ZnS、CdSe−ZnO、CdSe−CdS、CdS−ZnS及びCdS−ZnOより成る群から選ばれた少なくとも1種である請求項4に記載の重合性液体組成物。
- 超微粒子の数平均粒径が3〜15nmである、請求項1ないし5のいずれかに記載の重合性液体組成物。
- 超微粒子の含有量が、重合性単量体の全量と該超微粒子との総重量に対して0.1〜60重量%である、請求項1ないし6のいずれかに記載の重合性液体組成物。
- 超微粒子が有機配位子を結合したものである、請求項1ないし7のいずれかに記載の重合性液体組成物。
- 有機配位子の結合量が、超微粒子と有機配位子との総和に対する重量百分率として10〜60重量%である、請求項8に記載の重合性液体組成物。
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