JP3927358B2 - 摺動部材用組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦特性に優れた摺動面を形成することが可能な摺動部材用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
摺動部材には、大別して、ブレーキディスク等のように相手材との摩擦力を大きくして相手材の運動エネルギを摩擦熱エネルギに変換し相手材の運動を抑制するものと、ピストン、シリンダ等のように相手材との摩擦力を小さくして相手材の運動エネルギの減少を防ぎ相手材の運動を維持するものの2種類がある。後者に該当する摺動部材の摺動面においては、摩擦係数が小さいこと、耐摩耗性が高いこと、相手攻撃性が小さいこと等、摩擦特性が良いことが要求される。このため、摺動部材の摺動面は、摩擦特性が良好な組成物(以下「摺動部材用組成物」と称す)で形成される場合が多い。
【0003】
例えば、ピストンのスカート部とシリンダ内壁面とは、通常運転時においては両者の間にオイル膜が介在して摺動するが、エンジン始動時等においては両者がとが直接接触することになるため、フッ素樹脂等の摺動部材用組成物をピストンのスカート部表面にコーティングして摺動面を形成する場合が多い。例えば、特開昭54−162014号公報には、フッ素樹脂を基材としこの基材に固体潤滑剤を分散させた摺動部材用組成物でピストンのスカート部表面をコーティングし、スカート部の摩擦特性を向上させる技術が紹介されている。フッ素樹脂は摩擦係数が小さく、また固体潤滑剤は自己摺動性が高いため、この摺動部材用組成物は固体としては摩擦特性が良好である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開昭54−162014号公報で紹介された技術には以下の問題がある。まず、上記公報で紹介された摺動部材用組成物は摩擦特性に優れているが、そのレベルは満足のいくものではない。すなわち、従来から存在する固体潤滑剤を分散させていないフッ素樹脂等の摺動部材用組成物と比較すれば、固体潤滑剤を分散させた効果により摩擦特性は向上しているものの、フッ素樹脂および固体潤滑剤は流体潤滑ほどには摩擦係数が低くないこともあり、スカート部とシリンダとの間に液体であるオイル膜が存在する場合と比べると摩擦特性は劣っている。
【0005】
また、黒鉛等、一般的に固体潤滑剤を形成する物質の結晶は層状構造を有しており、結合力の弱い層間の結合(例えばファンデルワールス結合)が破壊され層滑りを起こすことで自己摺動性を確保している。このため、固体潤滑剤自体は耐摩耗性が低く、固体潤滑剤の配合割合によっては、スカート部にコーティングされた被膜の耐久性が悪くなるおそれがある。さらに、被膜から脱落した固体潤滑剤はスラッジとなってシリンダ内に存在し、このスラッジはエンジン特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
本発明者は、上記問題点を解決するため鋭意、研究を重ね、液体状の潤滑剤が配合された摺動部材用組成物で摺動面を形成することにより、その摺動面の摩擦特性を向上させることができるとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、摩擦特性の良好な摺動面を形成することの可能な摺動部材用組成物を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の摺動部材用組成物は、ポリアミドイミド樹脂と、該ポリアミドイミド樹脂に分散され、樹脂からなる膜と該膜に包まれるオイルまたはグリースからなる潤滑剤とからなるマイクロカプセルとを含んでおり、ポリアミドイミド樹脂は、引っ張り強度が78.4〜98MPaであり、縦弾性係数が1960〜2940MPaであり、伸び率が10〜20%であり、マイクロカプセルを構成する樹脂は、ウレア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂のいずれか2種類以上からなる混合樹脂であることを特徴とする。つまり、本発明の摺動部材用組成物は、基材(マトリクス)に、ポリアミドイミド樹脂(PAI)を用い、このPAIに液体潤滑剤であるオイルまたはグリースを内包するマイクロカプセルを分散させたものである。言い換えれば、オイルまたはグリースを内包するマイクロカプセルをPAIで結着したものである。
【0008】
本発明の摺動部材用組成物の基材となるPAIは、耐摩耗性に優れた特性を持つ。そして、本発明の摺動部材用組成物では液体潤滑剤をマイクロカプセルに充填しPAI中に分散させていため、本組成物で摺動面を形成してその面を摺動させた場合、表出したマイクロカプセルが相手材との摩擦により破泡し、オイルまたはグリースが流出して摺動面を覆い、潤滑を確保することになる。本発明の摺動部材用組成物で用いる潤滑剤は、液体状であり、固体潤滑剤と比較して摩擦係数、相手攻撃性が小さく、またスラッジ等が発生するおそれがない。
【0009】
したがって、本発明の摺動部材用組成物は、基材となるPAIの良好な耐摩耗性と液体潤滑剤の有する小さな摩擦係数および小さな相手攻撃性とが相俟って、摩擦特性の極めて良好な摺動面を形成することが可能な摺動部材用組成物となる。また、本発明の摺動部材用組成物では、摺動面の摩耗が進行するにつれ、新たなマイクロカプセルが表出することで、定常的な液体潤滑剤の摺動面への供給が可能となり、本摺動部材用組成物で形成された摺動面は優れた摩擦特性を安定して維持することが可能となる。
【0010】
また、本発明の摺動部材用組成物は、熱硬化性樹脂を基材としており、摺動させられる表面をもつ機械部品等(以下「摺動部材」という)のその摺動させられる表面に塗布して熱硬化させることにより容易に被膜として形成(コーティング)することができる。したがって、各種摺動部材の摩耗特性を向上させることができ、幅広い用途に適用することが可能である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の摺動部材用組成物の実施の形態を、組成物の基本的構成、固体潤滑剤を含む態様、製造方法、コーティング被膜としての態様の項目に分けてそれぞれ説明する。
【0012】
(1)組成物の基本的構成
本発明の摺動部材用組成物の基本的構成は、ポリアミドイミド樹脂と、該ポリアミドイミド樹脂に分散され、樹脂からなる膜と該膜に包まれるオイルまたはグリースからなる潤滑剤とからなるマイクロカプセルとを含んでなる(請求項1に対応)。以下、ポリアミドイミド樹脂、マイクロカプセルのそれぞれについて説明する。
【0013】
(a)ポリアミドイミド樹脂
基材となるポリアミドイミド樹脂(PAI)は、マイクロカプセルを分散、結着する機能に加え、耐摩耗性を担保する機能を果たす。したがって、機械的強度に優れたものであることが必要で、特に引張強度が適度に高いことが要求される。PAIは、同じ熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等に比較して機械的強度に優れ、この要求を満たしている。
【0014】
ポリアミドイミド樹脂は、引張強度が78.4〜98MPaであり、縦弾性係数が1960〜2940MPaであり、伸び率が10〜20%である。引張強度が78.4MPa以上であれば、本組成物を被膜として形成した場合であっても、実用的な範囲において、充分な耐摩耗性が得られ、その被膜が破壊することは少なく、一方、98MPaを越えてもそれ以上の耐摩耗性向上効果は小さいからである。
【0015】
縦弾性係数は、本組成物を被膜として摺動部材表面に形成した場合に特に影響する。縦弾性係数が低いと、被膜が変形しやすくなり、相手材との接触応力を分散することができる。すなわち、接触応力を被膜の広範囲の面で分散して受けることができるため単位面積あたりの接触応力(すなわち接触圧力)は小さくなり、摩擦係数も小さくなる。しかし、被膜が変形しすぎると基材である摺動部材との接着性が悪くなるおそれがある。一方、縦弾性係数が高いと、被膜の変形量は小さくなるが、相手材との接触圧力が大きくなるため摩擦係数が大きくなる、焼き付きやすい、摩耗しやすいおそれがある。これらの理由から、PAIの縦弾性係数は、上記1960〜2940MPaの範囲である。
【0016】
伸び率とは、無負荷状態における材料の長さに対する負荷状態の材料の変形量(伸び)の割合を百分率で示したものである。本発明の組成物を摺動部材にコーティングした場合、基材となるPAIの伸び率が大きいと、コーティング被膜が変形しやすくなり、相手材との接触応力を分散することができる。すなわち、接触応力を被膜の広範囲の面で分散して受けることができるため接触圧力は小さくなり、摩擦係数も小さくなる。しかし、被膜が変形しすぎると摺動部材との接着性が悪くなるおそれがある。一方、伸び率が小さいと、被膜の変形量は小さくなるが、相手材との接触圧力が大きくなるため摩擦係数が大きくなる、焼き付きやすい、摩耗しやすいおそれがある。これらの理由から、PAIの伸び率は、上記10〜20%範囲である。
【0017】
(b)マイクロカプセル
マイクロカプセルは、樹脂からなる膜と該膜に包まれるオイルまたはグリースからなる潤滑剤とから構成される。そして、基材となるPAI中において、あたかも、液体状あるいは半液体状の潤滑剤を含んだ泡のような状態で存在し、破泡することで潤滑剤が摺動面を覆うことになり、摺動面の潤滑性を確保する。この機能を果たすものである限り、マイクロカプセルの形状は特に問わない。例えば、球状であっても、円盤状であってもよい。また、膜の一部に孔や溝等があり、潤滑剤が膜により完全に密閉されるものでなくてもよい。
【0018】
マイクロカプセルを構成する膜は樹脂からなる。この樹脂は、ウレア樹脂、メラミン樹脂及びベンゾグアナミン樹脂のいずれか2種類以上の樹脂からなる混合樹脂である。実験により明らかになったことであるが、マイクロカプセルの膜を単一の樹脂により形成する場合、膜に溝や孔ができてしまい、潤滑剤であるオイル、グリースを膜内に密閉して内包するのはある程度の困難性を伴う。カプセル膜を混合樹脂により形成すると、その膜に溝や孔ができにくく、このため、オイル、グリースを密閉して内包することが容易に可能で、液密性に優れた膜を形成することができる。膜が液密性に優れていると、組成物内部でカプセル膜からオイル、グリースが漏れることが無く、マイクロカプセルを相手材との摩擦により破泡させることができる。このため、本発明の摺動部材用組成物が有する良好な摩擦特性を、長期間維持することができる。
【0019】
ウレア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂のいずれか2種類以上から形成される混合樹脂でマイクロカプセル膜が形成されている。これらの樹脂は熱硬化性を有しておりアミノ樹脂と総称されるものである。ウレア樹脂(UF)は耐熱性があり、硬度も高い。メラミン樹脂(MF)は耐衝撃性に優れており、耐熱性もあり、耐炎性にも優れている。また、ベンゾグアナミン樹脂(UBGF)はMFの耐クラック性を改善したものである。これらの樹脂の混合樹脂によれば特性のよりよいカプセル膜が容易に形成できる。この場合、混合樹脂におけるUF、MF、UBGFのいずれか2種の配合比(質量比)を3:7〜7:3とすることがより好ましい。配合比をこの範囲内とすることにより、この範囲外のものに比べ、より密閉性に優れた膜を形成することができる。
【0020】
マイクロカプセルに内包されるオイル、グリースは通常、潤滑剤として用いられているものであり、また、本発明の摺動部材用組成物の使用環境温度に適合するものであり、かつ、液体状あるいは半液体状のものである限り、特にその種類を問わない。摺動面に要求される摩擦特性に応じた粘度等を有するものを適宜選択して用いればよい。
【0021】
PAI中におけるマイクロカプセルの存在割合は、PAI100重量部に対し、マイクロカプセルを1〜60重量部とすることが望ましい。この好適範囲のものと比較して、マイクロカプセルが1重量部未満では、充分な摩擦係数軽減効果、耐焼き付き性向上効果が小さく、また、マイクロカプセルが60重量部を越えると、PAI基材の相対量が少なくなるため、組成物自体の強度が低下し、耐摩耗性が低下するからである。
【0022】
(2)固体潤滑剤を含む態様
本発明の摺動部材用組成物は、基材となるポリアミドイミド樹脂と、該ポリアミドイミド樹脂に分散され潤滑剤を内包するマイクロカプセルとに加え、ポリアミドイミド樹脂に分散された固体潤滑剤を含んだ態様で実施することができる(請求項2に対応)。固体潤滑剤は自己摺動性を有するため、本態様で実施される摺動部材用組成物は、さらに摩擦係数が小さく、相手攻撃性が低い組成物となる。
【0023】
固体潤滑剤としては、その種類を特に限定するものではない。例えば、黒鉛、硫化物、フッ素化合物、六方晶型BN等の一般的な潤滑剤を、得ようとする摩擦特性に応じて適宜選択して使用することができる。ただし、固体潤滑剤を、硫化物、フッ素化合物、黒鉛から選ばれる1種以上とすることが望ましい(請求項3に対応)。摺動部材用組成物は、広い温度条件下で使用される場合が少なくない。例えば、自動車エンジン用ピストンは、エンジン始動時は常温環境下において使用されることになるが、エンジンが昇温すると高温条件下において使用されることになる。このため、本発明の組成物に含有させる固体潤滑剤も広い温度条件下において、安定して高い自己摺動性を維持することが要求される場合がある。固体潤滑剤の中でも、特に硫化物、フッ素化合物、黒鉛は、他の固体潤滑剤と比較して自己摺動性に優れており、またその優れた自己摺動性を比較的広範囲の温度条件下において、安定して維持することができる。
【0024】
固体潤滑剤として硫化物を用いる場合、その硫化物は、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンの少なくとも1種であることが望ましい。これらは、硫化物の中でも特に自己摺動性に優れ、またこの優れた自己摺動性を比較的広範囲の温度条件下において安定して維持することが可能である。
【0025】
固体潤滑剤としてフッ素化合物を用いる場合、そのフッ素化合物は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−バ−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレンから選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。これらの化合物またはこれら化合物の混合物は、フッ素化合物の中でも特に自己摺動性に優れ、またこの優れた自己摺動性を比較的広範囲の温度条件下において安定して維持することが可能である。
【0026】
固体潤滑剤を含んだ態様で実施する場合、PAI中の固体潤滑剤の存在割合は、PAI:100重量部に対し、固体潤滑剤を1〜500重量部とすることが望ましい。この好適範囲のものと比べ、1重量部未満とすると、充分な摩擦係数軽減効果、耐焼き付き性向上効果が得られず、500重量部を越えるとすると、相対的に基材となるPAIの量が減少するため充分な強度が得られず、また、固体潤滑剤脱落によるスラッジが増加するおそれがあるからである。
【0027】
なお、本発明の摺動部材用組成物は、さらに硬質粒子を含んだ態様で実施することができる。本態様の摺動部材用組成物は、硬質粒子の硬度特性が組成物全体に現れるため、より耐摩耗性の高い摺動部材用組成物となる。ここで、硬質粒子としては立方晶系窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)等を使用することができる。
【0028】
(3)製造方法
本発明の摺動部材用組成物は、その製造方法を特に限定するものではなく、既に実施されている組成物製造に関する技術を駆使して製造すればよい。以下、その一例となる製造方法について説明する。
【0029】
基材となるポリアミドイミド(PAI)は、通常PAIの生成に用いられる種々の方法により生成することができ、例えば、ジイソシアネートと無水トリメリット酸のようなトリカルボン酸無水物を反応させて生成することができる。また、マイクロカプセルも、通常マイクロカプセルの形成に用いられる種々の方法により形成することができる。例えば、潤滑剤であるオイル、またはグリースを添加、分散した水系混合液に、カプセル膜を形成する樹脂の原料を加え、pH調整し、縮重合させ生成させることができる。
【0030】
PAIにマイクロカプセルを混合分散する際には、PAIの粘度を調整し混合を容易にするため、適切な有機溶剤を選択して添加することができる。この有機溶剤は、PAIを溶解することができるものであれば特に限定するものではない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることができる。また、NMPに対して、芳香族系溶剤(キシレン等)又はケトン系溶剤(メチルエチルケトン等)を適量加えた混合溶剤を用いることもできる。粘度調整したPAIに固体潤滑剤(MoS2、PTFE等)が入る場合、PAIと固体潤滑剤をボールミル等で分散させ、その後マイクロカプセルを添加し、プロペラ攪拌機等で攪拌、分散する。マイクロカプセルのみ添加する場合はPAIにマイクロカプセルを加えプロペラ攪拌し、適切な時間混合することにより摺動部材用組成物の前駆体を調製することができる。なお、固体潤滑剤を含む摺動部材用組成物の場合は、マイクロカプセルの混合分散の際、同時に添加して混合分散させればよい。
【0031】
こうして得られた前駆体を加熱し、基材となるPAIを熱硬化させることにより、PAI中にマイクロカプセルおよび必要に応じて固体潤滑剤が分散した本発明の摺動部材用組成物を製造することができる。
【0032】
(4)コーティング被膜としての態様
本発明の摺動部材用組成物は、その形状を特に限定するものではない。例えば、本組成物を種々の形状に成形して、本組成物のみからなる摺動部材の態様で実施することが可能である。実用的な態様として、例えば金属、セラミック等からなる摺動部材の摺動面となる部分に本発明の組成物をコーティングして形成されたコーティング被膜としての態様で実施することができる(請求項4に対応)。
【0033】
コーティング被膜として形成する場合のコーティング方法は、特に限定するものではなく、通常の樹脂コーティングに用いられる公知の方法を採用すればよい。例えば、上記のように調製した組成物前駆体をエアースプレーや、刷毛で摺動部材に塗布して摺動部材に付着させた後、電気炉等の加熱機器を用いてPAIを熱硬化させコーティング被膜を形成することができる。
【0034】
薄い被膜を形成する場合は、PAIを一気に硬化させるため180〜270℃の温度に加熱するのが望ましい。また、厚い被膜を形成する場合は、例えば、まず80℃程度の温度に前駆体を予備加熱して半硬化状態の被膜を形成し、次いでこの被膜の上にさらにエアースプレー等により前駆体を積層させさらに加熱する方法を用いることができる。この方法では、中間層となる被膜を積層させる場合は80℃程度の温度に加熱し、最上層となる被膜を積層させた後は180〜270℃の温度に加熱すればよい。積層を適宜繰り返すことにより所望の厚さを有するコーティング被膜を容易に形成することができる。
【0035】
なお、コーティングの際には、被膜の接着性を良くするため摺動部材の表面を予め洗浄、脱脂等して汚れ、油分等を除去することが好ましい。また、コーティングされた被膜のはじき、垂れを少なくし、均一な被膜を形成するため摺動部材の表面を、例えば50〜120℃の温度に、予めプレヒートしておくのが好ましい。
【0036】
コーティング被膜としての態様で実施する場合、マイクロカプセルの径は、コーティング被膜の膜厚の10〜100%であることが望ましい(請求項5に対応)。この好適範囲のものと比較して、マイクロカプセルの径が被膜の10%未満では、充分な摩擦係数軽減効果、耐焼き付き性向上効果が得られなくなるおそれがあり、また、マイクロカプセルの径が被膜の100%を越えると、摺動面からマイクロカプセルが突出した状態となり、相手材との最初の接触により一度に全てのマイクロカプセルが破泡してしまうからである。例えば、ピストンのスカート部に使用される被膜の厚さは20μm程度に形成されることが多く、この場合にはマイクロカプセルの径は2〜20μmとするのがよい。なお、マイクロカプセルを継続的に順次破泡させることを考えると、被膜の厚さに対するマイクロカプセルの径は10〜66%であることがより望ましい。なお、マイクロカプセルの径は、実用的には平均粒径によって管理すればよい。
【0037】
また、固体潤滑剤を含んでコーティング被膜が形成される場合、固体潤滑剤の粒径は被膜の膜厚の2.5〜75%とすることが望ましい。この好適範囲のものと比較して、2.5%未満の場合は、固体潤滑剤を添加したことによる充分な摩擦係数低減効果、耐焼き付き性向上効果が得られず、また、75%を越える場合は、相手材との摩擦により固体潤滑剤が被膜から脱落しやすくなるおそれがあるためである。なお、固体潤滑剤の粒径も、同様に実用的には平均粒径によって管理すればよい。
【0038】
(5)以上、本発明の摺動部材用組成物の実施形態について説明したが、上述した実施形態は一実施形態にすぎず、本発明の摺動部材用組成物は、上記実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0039】
【実施例】
本発明の摺動部材用組成物を摺動部材にコーティングしたサンプル、これらのサンプルのコーティング被膜を形成する組成物の摩擦係数、焼き付き荷重、摩耗量を測定するための実験方法および実験装置、実験結果について、本実施例の項において説明する。
【0040】
〈サンプルの製造〉
(1)実施例1のサンプル
摺動部材にコーティングする摺動部材用組成物は、PAI(日立化成株式会社製、商品名HPC4250)と、このPAIに分散されたマイクロカプセルからなる。
【0041】
PAIの引っ張り強度は88.2MPa、縦弾性係数は2009MPa、伸び率は17%とした。またマイクロカプセルは、ベンゾグアナミン樹脂(UBGF)とメラミン樹脂(MF)との混合樹脂からなる膜にオイル(商品名キャッスルネオSJ30から添加剤を除去したもの)が内包されて形成されているものを使用した。このマイクロカプセルの平均粒径は4μmとし、マイクロカプセル添加量はPAIを100重量部として3重量部とした。また、オイルを100重量部とした場合、膜を50重量部とし、膜を形成するUBGFとMFとの配合比(質量比)は1:1とした。
【0042】
この組成物は、PAI100重量部に対し、400重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加した後、上記マイクロカプセルを投入し、プロペラ攪拌機で8時間攪拌することにより調製した。また調製した組成物を、脱脂後100℃にプレヒートした板状の摺動部材の摺動面に、エアースプレーで塗布し、電気オーブンを用いて180℃〜200℃で100分間焼成することによりコーティング被膜を形成した。コーティング被膜の厚さは約15μmであった。このようにして作製したサンプルを実施例1のサンプルとした。
【0043】
(2)実施例2のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例1のものと同様とした。この摺動部材用組成物を、ブロック状摺動部材の摺動面に実施例1のサンプルを作製した場合と同様の方法によりスプレーし、コーティング被膜を形成した。このようにして作製したサンプルを実施例2のサンプルとした。
【0044】
(3)実施例3のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、PAI(日立化成株式会社製、商品名HPC4250)と、このPAIに分散されたマイクロカプセルと、さらにこのPAIに分散された固体潤滑剤とからなる。
【0045】
PAIの引っ張り強度は88.2MPa、縦弾性係数は2009MPa、伸び率は17%とした。またマイクロカプセルは、UFとMFとの混合樹脂からなる膜にオイル(出光石油化学株式会社製、商品名出光ポリブデン15R)が内包されて形成されているものを使用した。このマイクロカプセルの平均粒径は10μmとし、マイクロカプセル添加量はPAIを100重量部として20重量部とした。また、オイルを100重量部とした場合、膜を100重量部とし、膜を形成するUFとMFとの配合比(質量比)は1:2とした。
【0046】
さらにまた、固体潤滑剤は2硫化モリブデン(MoS2)(商品名ウルトラピュア)を使用した。この固体潤滑剤の平均粒径は1μmとし、添加量は、PAIを100重量部として200重量部とした。すなわち、本実施例のサンプルのコーティング被膜を形成する組成物は、実施例1のサンプルの組成物に、さらに固体潤滑剤としてMoS2を分散したものである。
【0047】
摺動部材用組成物の製造方法は、PAI100重量部に対し、400重量部のNMPを添加した後、ボールミルで分散させた後、マイクロカプセルを加え、プロペラ攪拌機で5時間攪拌し分散した。
【0048】
上記摺動部材用組成物を、板状摺動部材の摺動面に実施例1のサンプルを作製した場合と同様の方法によりスプレーし、コーティング被膜を形成した。このようにして作製したサンプルを実施例3のサンプルとした。
【0049】
(4)実施例4のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例3のものと同様とした。この摺動部材用組成物を、ブロック状摺動部材の摺動面に実施例3のサンプルを作製した場合と同様の方法によりスプレーし、コーティング被膜を形成した。このようにして作製したサンプルを実施例4のサンプルとした。
【0050】
(5)実施例5のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例1のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として8重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセルの材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例1のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例5のサンプルとした。
【0051】
(6)実施例6のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例1のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として20重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセルの材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例1のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例6のサンプルとした。
【0052】
(7)実施例7のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例1のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として30重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセルの材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例1のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例7のサンプルとした。
【0053】
(8)実施例8のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例1のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として50重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセルの材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例1のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例8のサンプルとした。
【0054】
(9)実施例9のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例1のサンプルの組成物に固体潤滑剤を分散した実施例3のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として3重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセルの材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例3のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例9のサンプルとした。
【0055】
(10)実施例10のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例3のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として5重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセル、固体潤滑剤の材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例3のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例10のサンプルとした。
【0056】
(11)実施例11のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例3のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として10重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセル、固体潤滑剤の材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例3のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例11のサンプルとした。
【0057】
(12)実施例12のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例3のサンプルの組成物において、マイクロカプセル添加量を、PAI100重量部として35重量部としたものである。使用したPAI、マイクロカプセル、固体潤滑剤の材質、組成物の調製方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例3のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを実施例12のサンプルとした。
【0058】
(13)比較例1のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例3と同様のPAIと、固体潤滑剤(MoS2)とからなる。すなわち、実施例3のサンプルのコーティング被膜を形成する組成物において、マイクロカプセルを添加しないものと同様である。固体潤滑剤の添加量は、PAIを100重量部として230重量部とした。組成物の調整方法はPAIに固体潤滑剤を入れボールミルで8時間攪拌する方法で製作した。コーティング被膜の形成方法等は実施例3のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを比較例1のサンプルとした。
【0059】
(14)比較例2のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、比較例1のサンプルと同様とした。この摺動部材用組成物を、ブロック状摺動部材の摺動面に比較例1のサンプルを作製した場合と同様の方法によりスプレーし、コーティング被膜を形成した。このようにして作製したサンプルを比較例2のサンプルとした。
【0060】
(15)比較例3のサンプル
摺動部材にコーティングする組成物は、実施例1と同様のPAIのみからなる。すなわち、実施例1のサンプルのコーティング被膜を形成する組成物において、マイクロカプセルを添加しないものと同様である。組成物の調整方法、コーティング被膜の形成方法等は実施例1のサンプルを作製した場合と同様である。このようにして作製したサンプルを比較例3のサンプルとした。
【0061】
〈実験方法および実験装置〉
(1)実験条件は、摺動部材の表面にコーティングされたコーティング被膜と、相手材との間に何も潤滑剤が無い条件(以下「無潤滑条件」と称す)と、コーティング被膜と相手材との間に潤滑剤であるオイル(商品名キャッスルネオSJ30から添加剤を除去したもの)がある条件(以下「潤滑条件」と称す)の2条件とした。なお、添加剤を除去したのはマイクロカプセルの効果を明確にするためである。
【0062】
また、測定項目は、摩擦係数、焼き付き荷重、摩耗量の3項目とした。摩擦係数、焼き付き荷重の測定には、スラスト試験機を用いた。図1にスラスト試験機の概要を示す。図1に示すように本試験機は回転する板状サンプル1のコーティング面10に、固定した鋼製の外周径25mmφ、内周径20mmφの中空円柱部材(硬度500Hv)2の円形面20を押しつけることにより、コーティング被膜を形成する摺動部材用組成物の摩擦係数および焼き付き荷重を測定するものである。今回の実験では、押しつけ荷重は、196Nごとにステップアップしながら徐々に上げていった。また、板状サンプル1の回転数は潤滑条件下で1000rpm、無潤滑条件下で100rpmとした。なお、焼き付き荷重の測定に用いたサンプルは、実施例1、実施例3、実施例5〜実施例12、比較例1、比較例3のサンプルである。また、摩擦係数の測定に用いたサンプルは、実施例1、実施例3、比較例1のサンプルである。
【0063】
ここで、焼き付きとは、中空円柱部材が回転するコーティング面に押しつけられるとき、摩擦係数が0.3を超えた時を焼き付きと判断した(0.3を超える場合コーティング被膜は急激に摩耗、剥離してしまう状態となっている)。また、摩擦係数は、押しつけ荷重1960Nにおける値を用いた。
【0064】
(2)摩耗量の測定には、ブロック−オン−リング試験機、および表面粗度計を用いた。ブロック−オン−リング試験機の概要を図2に示す。図2に示すようにブロック−オン−リング試験機は回転する鋼製の外周径35mmφのリング部材(硬度500〜600Hv)3の周方向面30上に固定したブロック状サンプル4のコーティング面40を押しつけることにより、コーティング被膜を形成する組成物を摺動、摩耗させるものである。
【0065】
今回の実験では、サンプル4の押しつけ荷重は98Pa、押しつけ時間は20分とした。また、リングの回転数は30rpmとした。なお、摩耗量の測定に用いたサンプルは、実施例2、実施例4、比較例2のサンプルである。
【0066】
実験後、コーティング面を表面粗度計で走査し、コーティング面の非摺動部に対する摺動部のコーティング面垂直方向深さを測定し、この値を摩耗量とした。
【0067】
〈実験結果〉
表1および表2に実施例のサンプル、比較例のサンプルのコーティング被膜を形成する摺動部材用組成物の構成、焼き付き荷重、摩擦係数、摩耗量を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
(1)まず、潤滑条件、無潤滑条件における、1)PAI+固体潤滑剤、2)PAI+マイクロカプセル、3)PAI+マイクロカプセル+固体潤滑剤という各々構成の異なる摺動部材用組成物の焼き付き荷重について検討する。実験に用いたサンプルは実施例1(PAI+マイクロカプセル)、実施例3(PAI+マイクロカプセル+固体潤滑剤)、比較例1(PAI+固体潤滑剤)である。これらのサンプルのコーティング被膜を形成する摺動部材用組成物(以下、単に「サンプル」と称す)についてスラスト試験機により焼き付き荷重を測定した結果を図3に示す。なお、比較例1のサンプルは、無潤滑条件では押しつけ荷重の初期ステップ値である196(N)で焼き付いてしまったため、焼き付き荷重は測定できなかった。
【0071】
まず、マイクロカプセル添加の有無による焼き付き荷重の差異について検討する。図3より、潤滑条件および無潤滑条件において、マイクロカプセルを添加した実施例1および3のサンプルの方が、マイクロカプセルを添加しない比較例1のサンプルよりも焼き付き荷重が高いことが判った。すなわち、マイクロカプセルを添加した方が、組成物の焼き付き荷重は高いことが判った。なお、焼き付き荷重が高いということは、その荷重まで焼き付きが生じないということであり、摩擦力が小さいことを意味する。
【0072】
次に、固体潤滑剤添加の有無による焼き付き荷重の差異について検討する。図3において、固体潤滑剤を添加しない実施例1のサンプルと、固体潤滑剤を添加した実施例3のサンプルとを比較すると、潤滑条件においては、焼き付き荷重はともに4704(N)であり(表1参照)、差異は見られなかった。一方、無潤滑条件においては、実施例1のサンプルよりも実施例3のサンプルの方が焼き付き荷重が高いことが判った。すなわち、特に無潤滑条件においては、固体潤滑剤を添加した方が、組成物の焼き付き荷重は高いことが判った。
【0073】
(2)次に、潤滑条件、無潤滑条件における、上記1)、2)、3)という各々構成の異なる組成物の摩擦係数(荷重1960Nにおける値)について検討する。実験に用いたサンプルは実施例1(PAI+マイクロカプセル)、実施例3(PAI+マイクロカプセル+固体潤滑剤)、比較例1(PAI+固体潤滑剤)である。これらのサンプルについてスラスト試験機により摩擦係数を測定した結果を図4に示す。なお、比較例1のサンプルの無潤滑条件での摩擦係数は、比較例1のサンプルが196(N)以下の荷重で焼き付いてしまったため測定できなかった。
【0074】
まず、マイクロカプセル添加の有無による摩擦係数の差異について検討する。図4より、潤滑条件および無潤滑条件において、マイクロカプセルを添加した実施例1および3のサンプルの方が、マイクロカプセルを添加しない比較例1のサンプルよりも摩擦係数が小さいことが判った。すなわち、マイクロカプセルを添加した方が、組成物の摩擦係数は小さいことが判った。
【0075】
次に、固体潤滑剤添加の有無による摩擦係数の差異について検討する。図4において、固体潤滑剤を添加しない実施例1のサンプルと、固体潤滑剤を添加した実施例3のサンプルとを比較すると、潤滑条件においては、実施例1のサンプルの摩擦係数は0.033であるのに対し、実施例3のサンプルの摩擦係数は0.028であり(表1参照)、実施例3のサンプルの方が若干摩擦係数は小さいことが判った。また、無潤滑条件においても、実施例1のサンプルよりも実施例3のサンプルの方が摩擦係数が小さいことが判った。すなわち、潤滑条件および無潤滑条件双方において、固体潤滑剤を添加した方が、組成物の摩擦係数は小さいことが判った。
【0076】
(3)次に、潤滑条件における、上記1)、2)、3)という各々構成の異なる組成物の摩耗量について検討する。実験に用いたサンプルは実施例2(PAI+マイクロカプセル)、実施例4(PAI+マイクロカプセル+固体潤滑剤)、比較例2(PAI+固体潤滑剤)である。これらのサンプルについてブロック−オン−リング試験機、および表面粗度計により摩耗量を測定した結果を図5に示す。
【0077】
まず、マイクロカプセル添加の有無による摩耗量の差異について検討する。図5より、マイクロカプセルを添加した実施例2および4のサンプルの方が、マイクロカプセルを添加しない比較例2のサンプルよりも摩耗量が少ないことが判った。すなわち、マイクロカプセルを添加した方が、組成物の摩耗量は少なく、耐摩耗性が良いことが判った。
【0078】
次に、固体潤滑剤添加の有無による摩耗量の差異について検討する。図5において、固体潤滑剤を添加しない実施例2のサンプルと、固体潤滑剤を添加した実施例4のサンプルとを比較すると、実施例2のサンプルの方が、実施例4のサンプルよりも摩耗量は少ないことが判った。すなわち、固体潤滑剤を添加しない方が、組成物の耐摩耗性は高いことが判った。
【0079】
(4)次に、無潤滑条件における、マイクロカプセル添加量(以下単に「添加量」と称す)と、焼き付き荷重との関係について検討する。実験に用いたサンプルは、実施例1(添加量3重量部)、実施例5(添加量8重量部)、実施例6(添加量20重量部)、実施例7(添加量30重量部)、実施例8(添加量50重量部)、比較例3(添加なし)である。なお、これらのサンプルには固体潤滑剤は添加されていない。これらのサンプルについてスラスト試験機により、焼き付き荷重を測定した結果を図6に示す。なお、比較例3のサンプルは、押しつけ荷重の初期ステップ値である196(N)で焼き付いてしまったため、焼き付き荷重は測定できなかった。
【0080】
図6より、マイクロカプセルを添加した実施例1、5、6、7、8のサンプルの方が、マイクロカプセルを添加しない比較例3のサンプルより焼き付き荷重が高いことが判った。また、添加量が比較的少ないサンプル(実施例1)であっても、ある程度の焼き付き抑制効果が得られることが判った。すなわち、無潤滑条件においては、マイクロカプセルを添加すると焼き付きを抑制することができ、またこの効果は添加量が少なくてもある程度得ることができることが判った。
【0081】
(5)次に、潤滑条件における、添加量と、焼き付き荷重との関係について検討する。実験に用いたサンプルは、実施例9(添加量3重量部)、実施例10(添加量5重量部)、実施例11(添加量10重量部)、実施例3(添加量20重量部)、実施例12(添加量35重量部)、比較例1(無添加)である。なお、これらのサンプルには固体潤滑剤が添加されている。これらのサンプルについてスラスト試験機により、焼き付き荷重を測定した結果を図7に示す。
【0082】
図7より、マイクロカプセルを添加した実施例9、10、11、3、12のサンプルの方が、マイクロカプセルを添加しない比較例1のサンプルより焼き付き荷重が高いことが判った。また、マイクロカプセル添加量が比較的少ないサンプル(実施例9)であっても、充分な焼き付き抑制効果が得られることが判った。すなわち、潤滑条件においても、マイクロカプセルを添加すると焼き付きを抑制することができ、またこの効果は添加量が少なくても得ることができることが判った。
【0083】
〈まとめ〉
以上の実験から、本発明のマイクロカプセルを添加したPAIからなる組成物によると、従来の固体潤滑剤を添加したPAIからなる組成物と比較して、焼き付き荷重を高くすることができ、摩擦係数を小さくすることができ、摩耗量を少なくすることができることが判った。
【0084】
また、本発明のマイクロカプセルおよび固体潤滑剤を添加したPAIからなる組成物によると、さらに、焼き付き荷重を高くすることができ、摩擦係数を小さくすることができることが判った。
【0085】
【発明の効果】
本発明のマイクロカプセルを添加したPAIからなる摺動部材用組成物によると、摩擦係数が小さく、耐摩耗性に優れ、相手攻撃性の低い摺動部材用組成物を提供することができる。また、上述した優れた摩擦特性を安定して、継続維持できる摺動部材用組成物を提供することができる。また、破泡したマイクロカプセルにもオイルが摺動時に入り毛細管現象で保持されるため、長期間作動せずオイルが少なくなった条件においてもカプセル内のオイルが作用し焼き付き、高μ等の問題がおきにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 スラスト試験機の概要を示す図である。
【図2】 ブロック−オン−リング試験機の概要を示す図である。
【図3】 潤滑条件、無潤滑条件における焼き付き荷重を示す図である。
【図4】 潤滑条件、無潤滑条件における摩擦係数を示す図である。
【図5】 潤滑条件における摩耗量を示す図である。
【図6】 無潤滑条件におけるマイクロカプセル添加量と焼き付き荷重との関係を示す図である。
【図7】 潤滑条件におけるマイクロカプセル添加量と焼き付き荷重との関係を示す図である。
【符号の説明】
1:板状サンプル 2:中空円柱部材 3:リング部材
4:ブロック状サンプル 10:コーティング面 20:円形面
30:周方向面 40:コーティング面
Claims (5)
- ポリアミドイミド樹脂と、
該ポリアミドイミド樹脂に分散され、樹脂からなる膜と該膜に包まれるオイルまたはグリースからなる潤滑剤とからなるマイクロカプセルと、
を含んでおり、
前記ポリアミドイミド樹脂は、引っ張り強度が78.4〜98MPaであり、縦弾性係数が1960〜2940MPaであり、伸び率が10〜20%であり、
前記マイクロカプセルを構成する前記樹脂は、ウレア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂のいずれか2種類以上からなる混合樹脂であることを特徴とする摺動部材用組成物。 - さらに前記ポリアミドイミド樹脂に分散された固体潤滑剤を含む請求項1に記載の摺動部材用組成物。
- 前記固体潤滑剤は、硫化物、フッ素化合物、黒鉛から選ばれる1種以上である請求項2に記載の摺動部材用組成物。
- 摺動部材にコーティングされたコーティング被膜として形成される請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の摺動部材用組成物。
- 前記マイクロカプセルの径は、前記コーティング被膜の膜厚の10〜100%である請求項4に記載の摺動部材用組成物。
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