本発明の実施形態に係る摺動部材用組成物は、基材、第一潤滑剤及び第二潤滑剤を含む。第一潤滑剤は、摺動初期に作用するように構成される。第二潤滑剤は、摺動初期以降に作用するように構成され、第一潤滑剤より粘度が高い。
本発明の実施形態における第一潤滑剤は、第二潤滑剤より相対的に低い粘度を有するため、摺動面全体に迅速に広がることができる。すなわち、摺動開始時から移着膜が形成されるまでの間は、摺動面の表面突起を第一潤滑剤が速やかに被覆し、潤滑膜を形成する。一方で、潤滑膜が形成された後は、第一潤滑剤上を第二潤滑剤が被覆する。そして、第二潤滑剤は、第一潤滑剤よりも粘度が高いため、摺動面以外で第二潤滑剤の余分なブリードアウトが発生せず、第一潤滑剤のような相対的に低粘度の潤滑剤のみの場合より潤滑作用を長期間維持することが可能である。
第一潤滑剤は、摺動初期に作用するように構成される。このような構成としては、例えば、外力が負荷された場合、所定の圧力以上になった場合、所定の温度以上になった場合等のように外部環境からの作用をきっかけとして、第一潤滑剤が摺動面に流出し得るように構成することが挙げられる。より具体的には、第一潤滑剤が担体に担持されるように構成することができる。担体は、前述のような外部環境からの作用により崩壊し、第一潤滑剤が流出するように構成することができる。このような担体の構成としては、マイクロカプセル、多孔性微粒子等が挙げられる。
多孔質性微粒子としては、無機物質製の多孔質微粒子、有機物質製の多孔質微粒子いずれでもよい。無機物質としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩;リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウム、アパタイトなどのリン酸塩;二酸化ケイ素(シリカ)、アルミナなどの金属酸化物;黒鉛;ゼオライト;層状粘土鉱物等が挙げられる。層状粘土鉱物としては、層状ケイ酸塩鉱物が好ましく、層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、カオリナイト等の蚊紋石-カオリン族、タルク等のタルク-パイロフィライト族、サポナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、金雲母、黒雲母、白雲母等の雲母族、脆雲母族、緑泥石族が挙げられる。有機物質としては、ポリエチレン、ポリウレタン、セルロース、ポリアミド、ポリビニルホルマール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。但し、例えば摺動部材とした場合に、相手材に対してアブレシブな作用をしないものである必要がある。
多孔質微粒子に第一潤滑剤を担持する方法としては、例えば、多孔質微粒子に第一潤滑剤を含浸させる方法が挙げられる。含浸させる方法としては、例えば、多孔質微粒子を第一潤滑剤に浸漬し、加熱処理したり、減圧処理したり、これらの両者を行ったりする方法等が挙げられる。
マイクロカプセルは、例えば樹脂を含有する組成物により形成された膜であり、その内部に、第一潤滑剤が包含されている。一般に、摺動部材は、特に凝着摩耗においては、摺動開始時から相手材表面に移着膜が形成されるまでの間、摺動面の接触面積が広がることに伴う相対面の表面突起の影響で摩擦係数が大きくなる。一方、本発明でマイクロカプセルを用いた実施形態では、摺動開始時から表面突起により、マイクロカプセルが破裂し、内包する第一潤滑剤が摺動面全体に迅速に広がる。良好な潤滑膜が形成された後は、凝着膜間の摩擦となるため、摺動面以外で第一潤滑剤の余分なブリードアウトが発生しない。これにより、本発明の実施形態では、ブリードアウトを発生することなく、摺動開始時から移着膜形成以降も、安定して低摩擦係数の摺動特性を発現するのである。
マイクロカプセルの構造は特に限定はなく、単層膜でもよいし、多層膜でもよい。ピンホールの発生を抑制する観点からは、多層膜が好ましい。
マイクロカプセルに含まれる樹脂としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレア系樹脂、フェノール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、セルロース、ゼラチン等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上含まれてもよい。
マイクロカプセルは、従来公知の方法を採用して得ることができる。例えば、封入する物質表面に被覆する物質を沈積させる方法(界面沈積法)、封入する物質表面での反応を利用して皮膜を形成させる方法(界面反応法)を採用することができる。界面沈積法としては、例えば、相分離法、液中乾燥法、融解分散冷却法、スプレードライング法、パンコーティング法、気中懸濁被覆法、粉床法等が挙げられる。界面反応法としては、例えば、界面重合法、insitu重合法、液中硬化皮膜法等が挙げられる。これらの方法は、第一潤滑剤、マイクロカプセルを構成する材質等を考慮して適宜選択することができる。
以上のような担体のうち、摺動初期に良好な潤滑性を付与させる観点からは、マイクロカプセル、黒鉛製の多孔質微粒子及び層状粘土鉱物製の多孔質微粒子が好ましく、マイクロカプセル及び黒鉛製の多孔質微粒子がより好ましい。
マイクロカプセル及び多孔質微粒子の平均粒子径は、特に限定はないが、マイクロカプセル及び多孔質微粒子が破裂して摺動面に随時第一潤滑剤を供給させるという観点からは、15μm以上が好ましい。また、摺動部材用組成物を製造する際の破損を抑制する観点、摺動部材用組成物中のマイクロカプセル及び多孔質微粒子の含有量を一定以上確保する観点からは、100μm以下が好ましい。したがって、マイクロカプセル及び多孔質微粒子の平均粒子径は、15~100μmが好ましい。より好ましくは、20~90μmであり、さらに好ましくは、30~80μmである。平均粒子径は、レーザー回折乱法、ふるい分け法等の測定方法により測定することができる。
第一潤滑剤のマイクロカプセル及び多孔質微粒子に対する含有量は、良好な潤滑性を付与する観点並びにマイクロカプセルの膜の強度及び多孔質微粒子への吸着保持量の観点から、40~80質量%が好ましい。
第一潤滑剤を包含するマイクロカプセル及び多孔質微粒子の摺動部材用組成物中の含有量は、良好な潤滑性を付与する観点及び摺動部材の強度を確保する観点から、2~10質量%が好ましく、2~7質量%がより好ましい。
第一潤滑剤は、第二潤滑剤より粘度が低いものを採用する。摺動部材の摺動初期に摺動面に広がり易くする観点からは、流動性の良好な潤滑剤が好ましく、液状潤滑油がより好ましい。例えば、40℃における動粘度が1500mm2/s以下のものが好ましく、1000mm2/s以下のものがより好ましく、500mm2/s以下のものがさらに好ましく、100mm2/s以下のものが特に好ましく、50mm2/s以下のものが最も好ましい。尚、液状潤滑油はオイルとも称する。
第一潤滑剤としては、例えば、シリコーン系潤滑剤、石油系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、グリコール系又はエーテル系潤滑剤及び合成炭化水素系潤滑剤等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上含んでいてもよい。
シリコーン系潤滑剤としては、シリコーン系オイルが好ましい。シリコーン系オイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を変性した変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
石油系潤滑剤としては、石油系オイルが好ましい。石油系オイルとしては、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素(パラフィン系オイルとも称する。)、ナフテン系炭化水素などが挙げられる。
フッ素系潤滑剤としては、フッ素系オイルが好ましい。フッ素系オイルとしては、フルオロエチレン、3フッ素塩化エチレン、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロポリアルキルエーテル等が挙げられる。
グリコール系又はエーテル系潤滑剤としては、グリコール系又はエーテル系オイルが好ましい。グリコール系又はエーテル系オイルとしては、芳香族系のグリコール系又はエーテル系オイル、脂肪族系のグリコール系又はエーテル系オイル等が挙げられる。芳香族系のグリコール系又はエーテル系オイルとしては、例えば、アルキルジフェニルエーテル、モノアルキルトリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等が挙げられる。脂肪族系のグリコール系又はエーテル系オイルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル;等が挙げられる。
合成炭化水素系潤滑剤としては、合成炭化水素系オイルが好ましい。合成炭化水素系オイルとしては、例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリα-オレフィン又はその水素化物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
以上のようなオイルのうち、第一潤滑剤としては、シリコーンオイル、石油系オイル、フッ素系オイル、グリコール系又はエーテル系オイル及び合成炭化水素系オイルから選択される少なくとも1種を主成分として含有するものが好ましい。尚、「主成分」とは、第一潤滑剤全体中で50質量%以上含有することを意味する。
第二潤滑剤は、摺動初期以降に作用するように構成され、第一潤滑剤より高い粘度を有する。摺動初期以降、一層長期に亘り潤滑作用を付与する観点から、第二潤滑剤の粘度は、40℃以上の融点あるいは、40℃以上で軟化するものが好ましい。ここで、第二潤滑剤は第一潤滑剤より高い粘度とは、第一潤滑剤が石油系オイル等のような液体潤滑剤であり、第二潤滑剤が石油系ワックス等のような固体潤滑剤であることを意味する。
第二潤滑剤の基材中の大きさは、良好な摺動特性を発揮させる観点から、平均粒子径が5μm以上300μm以下であるのが好ましく、10μm以上200μm以下であるのがより好ましく、15μm以上100μm以下であるのがさらに好ましい。このような大きさの場合、摺動特性を良好に発揮させるとともに、摺動部材の靱性、表面硬さも良好に維持できる傾向にある。
第二潤滑剤の大きさを調整する方法は特に限定されないが、簡便さの観点からは、例えば、各種ミキシング機を用いて強制的に混合分散する方法、添加する第二潤滑剤の種類と基材の種類に応じた適切な分散剤を添加する方法、第二潤滑剤を添加する際の基材の溶融粘度を上昇させる物質を添加する方法などが挙げられる。
摺動初期以降、より一層長期に亘り潤滑効果を付与する観点からは、第二潤滑剤は固形の潤滑剤であるのが好ましい。尚、「固形」とは、常温から摺動部材の作動温度で固形であることを意味する。
第二潤滑剤が、グリースやペースト状のように半固形状である場合は、固体状にするための固化剤と混合してもよい。このような固化剤としては、例えば、金属石鹸、金属複合石鹸、ウレア化合物、シリカゲル、ベントナイト、ウレタン化合物、ウレア・ウレタン化合物、ナトリウムテレフタラメート化合物、フタロシアニン、フッ素樹脂等が挙げられる。
第二潤滑剤としては、例えば、シリコーン系潤滑剤、石油系潤滑剤、フッ素系潤滑剤及び合成炭化水素系潤滑剤等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上含んでいてもよい。
シリコーン系潤滑剤としては、シリコーン系ワックスが好ましい。シリコーン系ワックスとしては、例えば、アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体等が挙げられる。
石油系潤滑剤としては、石油系ワックスが好ましい。石油系ワックスとしては、例えば、JIS K 2235に規定される、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス及びペトロラム並びにこれらの加工・変性ワックス等が挙げられる。このうち、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、加工・変性ワックスが好ましい。ペトロラムは、半固形状であるため、前述のように固形化剤を用いるのが好ましい。パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスは、用途に応じて好適な融点のものを採用することができる。加工・変性ワックスは、石油系ワックスを化学的処理により変性させたり、ワックスと相溶性の良好な合成樹脂を配合したりしたワックスである。このような加工・変性ワックスとしては、例えば、アルコール型ワックス、マレイン化ワックス等の酸化ワックス、配合ワックス等が挙げられる。酸化ワックスとしては、例えば、日本精蝋社製のNPS-9210、9215等のアルコール型ワックス、OX-1949、020T等のアルコール型酸化ワックス、MAW-9088等のマレイン化ワックスが挙げられる。
フッ素系潤滑剤としては、フッ素系ワックスが好ましい。フッ素系ワックスとしては、例えば、ポリエチレン/PTFEワックス、PTFE変性ポリエチレンワックス等が挙げられる。
合成炭化水素系潤滑剤としては、合成炭化水素系ワックス及びその加工・変性ワックスが好ましい。合成炭化水素系ワックスとしては、例えば、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられる。合成炭化水素系ワックスの加工・変性ワックスは、合成炭化水素系ワックスを化学的処理により変性させたり、ワックスと相溶性の良好な合成樹脂を配合したりしたワックスである。このような加工・変性ワックスとしては、酸化ワックス、配合ワックス等が挙げられる。酸化ワックスとしては、例えば、三井化学株式会社製のハイワックス(登録商標)-4052E等が挙げられる。
以上のようなワックスのうち、第二潤滑剤としては、シリコーンワックス、石油系ワックス、フッ素系ワックス及び合成炭化水素系ワックスから選択される少なくとも1種を主成分として含有するものが好ましい。尚、「主成分」とは、第二潤滑剤全体中で50質量%以上含有することを意味する。
第二潤滑剤の摺動部材用組成物中の含有量は、良好な潤滑性を付与する観点及び摺動部材の強度を確保する観点から、3~25質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
第一潤滑剤と第二潤滑剤とは、それぞれ任意に選択することができるが、本発明の効果を一層効果的に発揮させる観点からは、それぞれの分子構造、極性が大きく異ならないものを選択することができる。例えば、第一潤滑剤と第二潤滑剤の両者が、シリコーン系潤滑剤同士、石油系潤滑剤、フッ素系潤滑剤同士及び合成炭化水素系潤滑剤同士の組み合わせである、若しくは、石油系潤滑剤とグリコール系又はエーテル系潤滑剤の組み合わせであるのが好ましい。第一潤滑剤と第二潤滑剤がこのような特定の組み合わせの場合、両者が同時に摺動面に存在しやすい傾向にあると考えられ、両者が併存する場合に、双方の潤滑作用を同時に発揮させ易くなると考えられる。また、このような特定の組み合わせの潤滑剤を含む摺動部材用組成物を摺動部材とした場合に、特に凝着摩耗が生じる領域において、相手材の表面粗さによらずに摩擦摩耗を一層低く抑制できる。尚、第一及び第二潤滑剤における、シリコーン系潤滑剤、石油系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、グリコール系又はエーテル系潤滑剤及び合成炭化水素系潤滑剤は前述のとおりである。
このような組み合わせとしては、例えば以下のようなものが好適例として挙げられる。(a)第一潤滑剤が、シリコーンオイルを主成分とする液状潤滑剤で、第二潤滑剤が、シリコーン系ワックスを主成分とする固形潤滑剤である、(b)第一潤滑剤が、石油系オイルを主成分とする液状潤滑剤で、第二潤滑剤が石油系ワックスを主成分とする固形潤滑剤である、(c)第一潤滑剤が、フッ素系オイルを主成分とする液状潤滑剤で、第二潤滑剤がフッ素系ワックスを主成分とする固形潤滑剤である、(d)第一潤滑剤が、合成炭化水素系オイルを主成分とする液状潤滑剤で、第二潤滑剤が合成炭化水素系ワックスを主成分とする固形潤滑剤である、(e)第一潤滑剤が、グリコール系又はエーテル系オイルを主成分とする液状潤滑剤で、第二潤滑剤が石油系ワックスを主成分とする固形潤滑剤である。尚、各種の潤滑剤は、1種でもよいし、同じ系統のものを2種以上組み合わせてもよい。例えば、シリコーン系であれば、シリコーン系のものが1種でもよいし、2種以上でもよい。
基材としては、摺動部材の用途において使用可能な材料を採用することができる。材料としては、樹脂成分等が挙げられる。
樹脂成分としては、摺動部材として使用可能なものを採用することができる。このような樹脂成分としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が例示でき、より具体的には、例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びフッ素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。また、樹脂が熱硬化性樹脂の場合、樹脂成分には、反応前の状態のものを含み得るものとする。
ポリアミドとしては、例えば、脂肪族系ポリアミド、芳香環を含むポリアミド等が挙げられる。脂肪族系ポリアミドとしては、例えば、ナイロン(ポリアミド)6、11、12、46、66、610、612等が挙げられる。芳香族を含むポリアミドとしては、例えば、ポリアミドMDX-6等が挙げられる。ラクタム類を開環重合して得られるポリアミド(ナイロン)は、水重合法で得られるものであってもよいし、アニオン重合法により得られるものであってもよい。後者は所謂モノマーキャスティングナイロンとして知られているものであり、摺動部材用のポリアミド(ナイロン)として知られているものである。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。ポリエチレンとしては、超高分子PE(UHMWPE)、高密度PE(HDPE)、低密度PE(LDPE)の何れでもよく、直鎖状低密度PE(LLDPE)でもよい。
ポリフェニレンサルファイド(PPS)としては、直鎖型のものでもよいし、架橋型のものでもよい。
ポリアセタール(POM、ポリオキシメチレンとも称する。)としては、単独重合体型のものでもよいし、共重合体型のものでもよい。
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニリデンフルオライド(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が挙げられる。これらは1種でもよいし、2種以上組み合わせたものでもよい。
フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類との反応物であればよく、公知のものを採用することができる。フェノール類は、特に限定されず、アルキルフェノール(クレゾール、キシレノールなど)、多価フェノール類(レゾルシンなど)、フェニルフェノール、アミノフェノールなどが挙げられる。また、アルデヒド類は、特に限定されず、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどが挙げられる。また、フェノール樹脂は、レゾール型、ノボラック型の何れでもよい。変性フェノール樹脂でもよい。これらは、摺動部材の用途等に応じて適宜選択することができる。後述するように、レゾール型又はノボラック型フェノール樹脂等を含むプリプレグを調製する場合、生地とのより良好な一体の観点からは、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
レゾール型フェノール樹脂は、例えば、フェノール類とアルデヒド類をアルデヒド類過剰かつ塩基触媒下で反応させたものである。ノボラック型フェノール樹脂は、例えば、フェノール類とアルデヒド類をフェノール類過剰かつ酸触媒下で反応させたものである。このようなレゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂は、市販のものを使用することができる。例えば、住友ベークライト株式会社製のスミライトレジン(登録商標)PRシリーズ等が挙げられる。
レゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂を硬化させることで摺動部材とし得る。レゾール型フェノール樹脂は加熱又は酸添加により硬化させることができる。ノボラック型フェノール樹脂は、架橋剤の存在下で加熱することで硬化させることができる。ノボラック型フェノール樹脂を硬化させる際の架橋剤は、例えばヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。また、硬化の際の条件は、レゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂の種類等に応じて、適宜選択することができる。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、環状脂肪族型、長鎖脂肪族型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型等が挙げられる。
ウレタン樹脂としては、イソシアネート類と活性水素を有する化合物との反応生成物であり、用途に応じて、イソシアネート類及び活性水素を有する化合物の種類を選択することで、摺動部材用途として所望の特性を有するものを採用することができる。イソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート等のジイソシアネート類、ジイソシアネート類と多価アルコールの付加体、イソシアネートの多量体等が挙げられる。活性水素を有する化合物としては、ポリヒドロキシ化合物(ポリオール)、ポリアミン等が挙げられる。
基材の含量は、摺動部材用組成物中48~93質量%が好ましい。
摺動部材用組成物には、他の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、耐熱剤、補強剤、難燃剤、耐衝撃剤、着色剤、結晶核剤等が挙げられる。特に、結晶核剤を含有する場合は、第一潤滑剤、第二潤滑剤に起因する表面硬度の低下を抑制することができる。補強剤を含有する場合は、摺動部材とした場合の機械的特性の向上、耐摩耗性の向上を図ることができる。このような補強剤としては、例えば、短繊維、長繊維及び連続繊維で編まれたクロスや帆布等が挙げられる。繊維の種類は、人造繊維及び天然繊維の何れでもよい。人造繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ナイロン繊維、フッ素樹脂繊維等の合成繊維;ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維;等が挙げられる。天然繊維としては、綿、麻、亜麻等のセルロース(植物)繊維等が挙げられる。
摺動部材用組成物は、例えば、所定の構成の第一潤滑剤、所定の構成の第二潤滑剤、基材、必要に応じて添加する任意の補強剤を含む添加剤を混合することで得ることができる。基材が熱可塑性樹脂の場合は、例えば、前述の材料を、溶融混練機を用いて混練することができる。また、溶融混練機へ供給する前に、前述の材料をヘンシェルミキサー等の混合機で混合することができる。溶融混練機としては、例えば、単軸押出混練機、二軸押出混練機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ等が挙げられる。第一潤滑剤が担体に担持されている場合、特にマイクロカプセルに包含されている場合や多孔質微粒子に含浸されている場合は、マイクロカプセル及び多孔質微粒子の破損が抑制される条件で行う点に留意する。このように混練して得られる摺動部材用組成物は、押出成形、射出成形、圧縮成形、回転成形等に適用し、成形体を得ることができる。
基材が熱硬化性樹脂の場合、例えば、モノマーやプレポリマー、開始剤や架橋剤等の反応性成分と、所定の構成の第一潤滑剤、所定の構成の第二潤滑剤、必要に応じて添加する添加剤を混合することで、或いは、それら各成分を混合し、反応性成分を反応させることで摺動部材用組成物を得ることができる。尚、プレポリマー等を溶剤に溶解したワニスも摺動部材用組成物に含まれる。また、このワニスを生地に含浸させた後、乾燥させてプリプレグとし、これを積層して加熱加圧することで摺動部材用組成物と生地との積層体で構成される成形体を得ることもできる。このような積層体は、樹脂成分が例えばフェノール樹脂の場合に好適である。また、積層体を形成する場合に、ワニスを浸漬させる生地としては、公知のものを使用でき、例えば、綿布、各種合成繊維の織物、編物、不織布等が挙げられる。尚、生地と基材の密着性向上のため、生地にワニスを浸漬させる前に、シランカップリング処理、チタンカップリング処理、及びプラズマコート処理等の公知の表面処理を行っても良い。
得られた成形体は摺動部材として好適に使用することができる。また、得られた成形体を切削加工等の機械加工を行うことにより所望の形状の摺動部材を得ることもできる。
樹脂成分が、モノマーキャスティング(MC)法により生成される場合は、樹脂成分のモノマー成分又はプレポリマー成分(モノマー成分等)、所定の構成の第一潤滑剤、所定の構成の第二潤滑剤、必要に応じて添加する任意の添加剤、モノマーの重合反応に必要な触媒等と助触媒を、モノマー成分等、添加剤及び雰囲気中の環境湿度を考慮し、かつ、重合後の解重合、変形などに影響を及ばさない範囲量及び条件で添加することで、基材として樹脂成分を含む摺動部材用組成物が得られる。また、同法では、所望の注型内でモノマーを重合させることにより、所望の形状の成形体が得られる。そして、その成形体を摺動部材として使用することができる。また、得られた成形体を切削加工等の機械加工を行う事により摺動部材を得ることもできる。尚、モノマーキャスティング法により得られる摺動部材用組成物は成形体である。
樹脂成分としてポリアミド(ナイロン)6を、MC法により生成することで摺動部材用組成物を得る場合の例を以下に説明する。尚、以下では、MC法で生成したポリアミド6をMCポリアミド6と称する場合がある。
モノマーであるε-カプロラクタム、アルカリ金属触媒、助触媒、所定の構成の第一及び第二潤滑剤並びに任意の添加剤をε-カプロラクタムの融点以上の温度で混合し、この混合物を160~180℃の温度範囲で型内に注入すると、数分程度で硬化し、摺動部材用組成物(成形体)が得られる。
アルカリ金属触媒としては、例えば、ε-カプロラクタムNa塩、ε-カプロラクタムK塩、ε-カプロラクタムLi塩、ε-カプロラクタムMgBr塩、ε-カプロラクタムMgCl塩などが挙げられる。助触媒としては、アシルラクタム、酸クロライド、イソシアネート、カーボネート、エステル、尿素などが挙げられる。イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
所定の構成の第一及び第二潤滑剤を混合物中に均一分散させる観点から、極性基と非極性基とを有する化合物を添加しても良い。このような化合物としては、例えば分散剤等が挙げられる。分散剤としては、例えば、陽イオン性界面活性剤型分散剤、陰イオン性界面活性剤型分散剤、両性界面活性剤型分散剤、高分子型分散剤等が挙げられる。但し重合反応に影響を及ぼさないものを用いることは勿論のことである。尚、このような化合物は、摺動部材用組成物を製造する段階で添加してもよいし、マイクロカプセルや多孔性微粒子に直接添加してもよし、その両方でもよい。また、MCポリアミド6の製造に限らず、用いることができる。
ε-カプロラクタムの重合がアニオン重合であることから、安定なポリマーを得るためには、反応を阻害する物質、特に系中に含まれる水分量をコントロールすることが重要である。例えば、水分はアルカリ金属触媒の活性を失活するため、この失活を見込んでアルカリ金属触媒を過剰に添加することが考えられる。しかし、過剰に添加し過ぎると、重合後のポリアミド6の分子量が低くなり、内部応力緩和、結晶化度の向上などの目的で熱処理を施した際に重合体が変形してしまう可能性がある。そこで、この水分の影響を考慮し、モノマーであるε-カプロラクタム98.65質量%、触媒であるε-カプロラクタムNa塩1.10質量%、助触媒であるヘキサメチレンジイソシアネート0.25質量%を基本配合比(これら三者の合計を100質量%とする。)として、ε-カプロラクタムNa塩、ヘキサジイソシアネートともに基本配合比の5倍までの範囲で重合を行うのが好ましい。即ち、ε-カプロラクタムは、91.90~98.65質量%、ε-カプロラクタムNa塩は、1.10~5.50質量%、ヘキサメチレンジイソシアネートは、0.25~1.25質量%で、3者の合計が100質量%とするのが好ましい。
ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタムNa塩、ヘキサメチレンジイソシアネートの添加の仕方は特に限定はなく、(i)これらの重合系の3成分をそれぞれ個別に所定量を添加してもよいし、(ii)ε-カプロラクタムNa塩、ヘキサメチレンジイソシアネートをそれぞれε-カプロラクタム中に高濃度に溶かしておいて、所定の添加量になるようにε-カプロラクタムの添加量を調整しても良いし、(iii)混合物とした時に所望の濃度になるように調整したε-カプロラクタムNa塩とε-カプロラクタムの液と、混合物とした時に所望の濃度になるように調整したヘキサメチレンジイソシアネートとε-カプロラクタムの液とを混合してもよい。また、この際の所定の構成の第一及び第二潤滑剤や任意の添加剤の添加の仕方も特に限定はなく、それぞれ個別に所定量を添加してもよいし、上記(ii)や(iii)の場合に、いずれかのε-カプロラクタムの液に、所望の量を添加して、混合物とした時に所望の濃度になるようにしてもよい。
重合反応の温度条件に関しては、重合反応の結果生成した摺動部材用組成物の成形体の大きさに応じて、前述の温度範囲で適宜選択することができる。加熱時間は、成形体の大きさ、温度条件に応じて適宜選択することができる。例えば、φ50mmの円柱形状の場合は、140℃に加熱した後、160℃~180℃で2時間反応させるのが好ましい。反応終了後は、常温迄冷却させる。また、反応終了後、内部応力緩和の観点、結晶化度の向上の観点等から、熱処理を施すのが好ましい。
MCポリアミド6は、耐摩耗性に優れ、摩擦係数が小さく、優れたPV値特性を示すことが知られている。そのため、MCポリアミド6、前述の所定の構成の第一及び第二潤滑剤を含有する摺動部材用組成物は、MCポリアミド6より一層優れた摺動部材としての特性を有する。
摺動部材用組成物の成形体又は摺動部材は、摺動部材として好適に機能する観点から、表面硬度がショアDで75~85が好ましい。表面硬度は、JIS K 7215に準じて測定することができる。
以上のようにして得られた摺動部材用組成物の成形体は、摺動部材として好適に使用することができる。摺動部材としては、例えば、軸受、歯車、ピストンリング、シール部材、エアコン用チップシール等が挙げられる。このうち、摺動初期に摺動面に負荷される圧力が高いため、軸受、歯車が好適である。このうち特に軸受及び歯車は、摺動初期の摺動面における接触面積及び摩擦係数が増大する摺動部材であるため、本発明の効果が顕著となる。
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
(製造例1):第一潤滑剤を包含したマイクロカプセルの製造
ポリエチレン無水マレイン酸(SIGMA-ALDRICH JAPAN社製)3.5gを蒸留水50gに溶解した後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液1.065gを用いてpHを約4に調整した。この水相に有機相の石油系オイル(株式会社MORESCO製、製品名モレスコフードマシンルブ FPL-32、動粘度:29.9mm2/s)34.9gを加え、ホモジナイザー(POLYTRON社製、PT3100)にて5000rpm、10分間撹拌することでO/Wエマルションを作製した。作製後のO/Wエマルションは、ジャケット付きセパラブルフラスコに移した。このO/Wエマルションにメラミン5.66g、37wt%ホルムアルデヒド水溶液10.93g、蒸留水6.75g、10質量%水酸化ナトリウム水溶液1.065gを混合した添加相を加え(pH約12)、さらに10質量%クエン酸水溶液24.98gを加えることで反応系全体のpHを約4に調整した。その後、80℃にてテフロン製4枚羽根撹拌翼を使用して300rpm(EYERA社製、NZ-1000)、3時間撹拌することで界面重合反応を進行させ、マイクロカプセルを調製した。マイクロカプセルの入った懸濁液を遠沈管に入れ、遠心分離機(MX-307、TOMY社製)にて8000rpm、15分間遠心分離した。上澄み液を除去した後、蒸留水を遠沈管に注ぎ、上述と同様の遠心分離操作を10回行うことで、マイクロカプセルを洗浄した。回収したマイクロカプセルは、真空デシケーター内で48時間、低圧下にて乾燥した。得られたマイクロカプセルの平均粒子径は、キーエンス社製、製品名レーザーマイクロスコープ VK-8700で測定したところ、φ50μmであった。第一潤滑剤のマイクロカプセルに対する含有量は、80質量%であった。
(製造例2):第一潤滑剤含有黒鉛の製造
黒鉛(CPB-3、株式会社中越黒鉛工業所製)を100℃で2時間乾燥した後直ちに過剰の石油系オイル(株式会社MORESCO製、製品名モレスコフードマシンルブ FPL-32)を添加し、さらに100℃で2時間加熱した。その後、常温まで冷却した後、濾過し、乾燥させ、石油系オイルを担持した黒鉛を得た。石油系オイルの担持量は、黒鉛に対して25質量%であった。
(実施例1):マイクロカプセル4.6質量%、第二潤滑剤9.7質量%
ε-カプロラクタムNa塩(バイオシンス社製):6.27g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):46.79gを試験管に取りドライ窒素で試験管内を満たし140℃に保持した。
ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製):1.02g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):130.55g、マイクロクリスタリンワックスHi-Mic-1080(日本精蝋株式会社製):21g、製造例1のマイクロカプセル10gを300mL三角フラスコにとりドライ窒素で三角フラスコ内を満たし、140℃に保持した。
試験管内溶液、三角フラスコ内溶液が140℃の状態で、速やかに試験管内溶液を三角フラスコ内に注ぎ、十分に攪拌した。撹拌後、160℃に保たれたオイルバス中に設置した内径が50mmの重合管(型)に攪拌溶液を流し込んだ。約1分から2分でMCポリアミド6の硬化物が得られ、1時間静置することで摺動部材用組成物の成形体を得た。得られた成形体は、2時間かけて常温まで冷却した。得られたφ50mmの成形体に、切削加工を施すことで、外径φ5.5mmの円柱状の摺動部材を得た。この摺動部材を試験片として以下の評価に使用した。
(評価)
ピンオンディスク型の摩擦摩耗試験機(スターライト工業株式会社製、オートピンディスクAPD-101)を用いて、実施例1で得られた試験片の摩擦係数の経時変化を測定した。試験条件は、荷重が1MPa、摺動速度が0.15m/sとした。相手材は、研磨加工の表面粗さRaが0.07μmのステンレス鋼(SUS440C)及び旋盤加工の表面粗さRaが0.45μmの炭素鋼(S45C)とした。比較対照として、クオドラントポリペンコジャパン株式会社製、MCナイロン(登録商標) MC901(比較対照1)、MC900NC(比較対照2)、MC703HL(比較対照3)を用いた。これらはモノマーキャスティング法で得られたポリアミド6であり、MC900NC及びMC901は一般的なグレードであり、MC703HLは摺動グレードである。評価結果を図1~4に示す。
図1は、相手材がSUS440Cの場合の結果であり、図2は、図1の試験時間の初期の拡大図である。図3は相手材がS45Cの場合の結果であり、図4は、図3の試験時間の初期の拡大図である。図1、3から分かるように、実施例1は、相手材の表面状態によらず摩擦係数が概ね同程度であるのに対して、比較対照1~3は何れも相手材の表面粗さが大きくなると摩擦係数が大きくなっていることが分かる。また、図2、4から分かるように、実施例1は摺動初期から摩擦係数が増加していないことが分かる。このように、摺動初期に作用するように構成された第一潤滑剤及び摺動初期以降に作用するように構成され、第一潤滑剤より粘度が高い第二潤滑剤を併用することで、凝着摩耗が生じる領域において相手材の表面状態によらず良好な潤滑性を示し、摺動初期及びそれ以降も長期間に亘り潤滑性が維持され得ることが分かる。
(実施例2):マイクロカプセル5.0質量%、第二潤滑剤15.4質量%
ε-カプロラクタムNa塩(バイオシンス社製):4.57g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):47.41gを試験管に取りドライ窒素で試験管内を満たし140℃に保持した。
ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製):1.49g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):106.48g、マイクロクリスタリンワックスHi-Mic-1080(日本精蝋株式会社製):31g、製造例1のマイクロカプセル10gを300mL三角フラスコにとりドライ窒素で三角フラスコ内を満たし、140℃に保持した。
その後、実施例1と同様にして、外径φ5.5mmの摺動部材を得た。これを試験片として用い、実施例1と同様の「評価」を行った。但し、相手材は、研磨加工の表面粗さRaが0.07μmのステンレス鋼(SUS440C)のみとした。評価結果を図5、6に示す。
(比較対照4):マイクロカプセル:0質量%、第二潤滑剤9.7質量%
ε-カプロラクタムNa塩(バイオシンス社製):4.21g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):51.19gを試験管に取りドライ窒素で試験管内を満たし140℃に保持した。
ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製):0.9g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):129.19g、マイクロクリスタリンワックスHi-Mic-1080(日本精蝋株式会社製):20gを300mL三角フラスコにとりドライ窒素で三角フラスコ内を満たし、140℃に保持した。
その後、実施例1と同様にして、外径φ5.5mmの摺動部材を得た。これを試験片として用い、実施例1と同様の「評価」を行った。但し、相手材は、研磨加工の表面粗さRaが0.07μmのステンレス鋼(SUS440C)のみとした。評価結果を図7、8に示す。
(比較対照5):マイクロカプセル:0質量%、第二潤滑剤13.6質量%
ε-カプロラクタムNa塩(バイオシンス社製):4.27g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):50.41gを試験管に取りドライ窒素で試験管内を満たし140℃に保持した。
ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業株式会社製):0.76g、ε-カプロラクタム(和光純薬工業株式会社製):134.63g、マイクロクリスタリンワックスHi-Mic-1080(日本精蝋株式会社製):30gを300mL三角フラスコにとりドライ窒素で三角フラスコ内を満たし、140℃に保持した。
その後、実施例1と同様にして、外径φ5.5mmの摺動部材を得た。これを試験片として用い、実施例1と同様の「評価」を行った。但し、相手材は、研磨加工の表面粗さRaが0.07μmのステンレス鋼(SUS440C)のみとした。評価結果を図7、8に示す。
図5は、実施例2で得られた試験片の摩擦係数の経時変化を示した図であり、図6は、図5の試験時間初期の拡大図である。図7は、比較対照4、5で得られた試験片の摩擦係数の経時変化を示した図であり、図8は、図7の試験時間初期の拡大図である。図5、6から分かるように、第二摺動部材の含有量を実施例1より所定値に増加させた場合に、図1、2で示す比較対照1~3、図7、8に示す比較対照5に比べて、摺動初期の摩擦係数が低く、且つ、摺動初期から摩擦係数が増加しておらず、摺動初期及びそれ以降も長期間に亘り潤滑性が維持され得ることが分かる。また、図1~6に示す、実施例1と比較対照4、実施例2と比較対照5との対比から、所定の構成の第一潤滑剤と所定の構成の第二潤滑剤を併用することで所望の効果が得られることが分かる。
(比較対照6~10)
比較対照4で得られた試験片に対し、その摺動面に石油系オイル(40℃における動粘度:29.9mm2/s)を0.6~0.7mL付着させたもの(比較対照6)、摺動面に芳香族系のグリコール系又はエーテル系オイル(40℃における動粘度:15.8mm2/s)を0.6~0.7mL付着させたもの(比較対照7)、摺動面にシリコーン系オ
イル1(40℃における動粘度:4000mm2/s)を0.6~0.7mL付着させたもの(比較対照8)、摺動面にシリコーン系オイル2(40℃における動粘度:1335mm2/s)を0.6~0.7mL付着させたもの(比較対照9)、摺動面にマイクロクリスタリンワックスを0.7mg付着させたもの(比較対照10)を用いて、実施例1と同様にして評価した。評価結果をそれぞれ図9~13に示す。
図9~13は、それぞれ比較対照6~10の摩擦係数の経時変化を示した図である。図9、10に示すように、所定の構成の第一潤滑剤に替えて、第一潤滑剤である石油系オイル又は芳香族系のグリコール系又はエーテル系オイルを別途摺動面に直接添加した場合は、試験開始からある程度の期間までは、実施例1と同程度の低い摩擦係数を維持するが、それ以降は摩擦係数が大きくなっていることが分かる。また、図11、12に示すように、所定の構成の第一潤滑剤に替えて、第一潤滑剤であるシリコーン系オイルを別途摺動面に直接添加した場合は、試験開始から実施例1より摩擦係数が高いことが分かる。さらに、図13に示すように、所定の構成の第一潤滑剤を用いずに、第二潤滑剤である石油系ワックスを別途摺動面に直接添加した場合は、試験開始から実施例1より摩擦係数が高いことが分かる。これらの結果から、例えば実施例1のように第一潤滑剤を所定の構成として含有させることで、摺動初期及びそれ以降も長期間に亘り潤滑性が維持され得ることが分かる。
一方、図9、10に示すように、比較対照6、7では、試験開始からある程度の期間までは、低い摩擦係数を維持しているのに対して、図11、12に示すように、比較対照8、9では、試験開始から、摩擦係数が高いことが分かる。これらの結果、及び、比較対照4では、第二潤滑剤として石油系ワックスを含有していることを考慮すると、第二潤滑剤と同じ石油系潤滑剤である石油得系オイルを摺動面に添加した比較対照6、及び、グリコール系又はエーテル系オイルを摺動面に添加した比較対照7では、その存在下では、摩擦係数を低く維持することが可能であることを示唆しているといえる。
(実施例4)
ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、スミライトレジン(登録商標)PR-50252)46重量%、架橋剤(ヘキサミン)4重量%、溶剤(メタノール)38重量%、製造例1で得られたマイクロカプセル4重量%、第二潤滑剤(日本精蝋株式会社製、NPS-9210 250μm以下の粉状)8重量%のワニス(摺動部材用組成物)を調製した。このワニスを綿布(東工コーセン社製、11号帆布、密度:340g/m2、厚み:0.6mm、引張強度:30N/mm2)に含浸させた後、70℃で60分間乾燥させてプリプレグを得た。プリプレグにおける、マイクロカプセルと第二潤滑剤を含むフェノール樹脂の含浸率は50%とした。プリプレグを厚み方向に22層積層した後、180℃、5MPaで60分加熱加圧し、摺動部材用組成物と綿布とで構成された成形体を得た。この成形体に、切削加工を施すことで、外径φ5.5mmの円柱状の摺動部材を得た。この摺動部材を試験片として、試験条件を、荷重を0.83MPaとした以外は、実施例1と同様の「評価」を行った。
(比較対照11)
マイクロカプセル及び第二潤滑剤を添加せず、溶剤38重量%を50重量%としてワニスを調製した以外は、実施例4と同様にして、摺動部材を得、同様の評価を行った。
(比較対照12)
マイクロカプセルを添加せず、溶剤38重量%を42重量%としてワニスを調製した以外は、実施例4と同様にして、摺動部材を得、同様の評価を行った。
実施例4、比較対照11、12の評価結果を図15、16に示す。図16は、図15の試験時間の初期の拡大図である。図15、16に示すように、フェノール樹脂のような熱硬化性樹脂を用いた場合でも、実施例1~3と同様に、第一及び第二潤滑剤を含むことで、摺動初期及びそれ以降も長期間に亘り潤滑性が維持され得ることが分かる。