JP3916944B2 - 神経細胞保護物質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脳内の酸化ストレスから神経細胞を保護することができる神経細胞保護物質及びその製造法並びにそれを有効成分とする神経変性疾患治療薬に関する。
【従来の技術】
パーキンソン病は、脳内の黒質線条体と呼ばれる部位の神経細胞が変性脱落する疾患である。黒質線条体神経細胞は酸素ラジカルに非常に脆弱であり、モノアミンオキシゲナーゼによって代謝される、酸素ラジカル産生物質によって細胞死が誘導されると考えられている。未だ脳内でモノアミンオキシゲナーゼによって代謝される内因性毒物は同定されていないが、その一つとしてL-DOPAが考えられている。L-DOPAは、神経伝達物質ドーパミンの前駆体であり、パーキンソン病治療薬として使用されてきたが、ラジカル産生等の神経毒性が指摘されるようになり、逆に神経細胞死を誘導した結果、かえってパーキンソン病を悪化させる原因ともなっている。その他、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側策硬化症(ルーゲーリック病)および脳卒中なども酸素ラジカルを含む活性酸素種(Reactive Oxygen Species。以下、ROSと記す。)が関与する疾患であるとして、以下の文献により報告されている。
【0002】
▲1▼ アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病と酸化ストレスに関する文献:
Butterfield, D. A., Howard, B. J. and LaFontaine, M. A., Brain oxidative stress in animal models of accelerated aging and the age-related neurodegenerative disorders, Alzhaimer's disease and Huntington's disease, Curr. Med. Chem., 8(7), 815-828 (2001)
▲2▼ アルツハイマー病とグルタミン酸毒性に関する文献:
Harkany, T., Abraham, I., Timmerman, W., Laskay, G., Toth, B., Sasvari, M., Konya, C., Sebens, J. B., Korf, J., Nyakas, C., Zarandi, M., Soos, K., Penke, B., Luiten, P. G., beta-amyloid neurotoxicity is mediated by a glutamate-triggered excitotoxic cascade in rat nucleus basalis, Eur. J. Neurosci., 12(8), 2735-2745 (2000)
▲3▼ ハンチントン舞踏病とグルタミン酸毒性に関する文献:
Zeron, M. M., Chen, N., Moshaver, A., Lee, A. T., Wellington, C. L., Hayden, M. R. and Raymond, L. A., Mutant huntingtin enhances excitotoxic cell death, Mol. Cell Neurosci., 17(1), 41-53 (2001)
▲4▼ 筋萎縮性側策硬化症と酸素ストレスに関する文献:
Liu, D., Wen, J., Liu, J. and Li, L., The roles of free radicals in amyotrophic lateral sclerosis: reactive oxygen species and elevated oxidation of protein, DNA, and membrane phospholiquids, FASEB J., 13, 2318-2328 (1999)
▲5▼ グルタミン酸毒性と脳卒中と酸化ストレスに関する文献:
Coyle, J. T., and Puttfarcken, P., Oxidative stress, glutamate, and neurodegenerative disorders. Science, 262, 689-695 (1993);Choi, D. W., Cerebral hypoxia: some new approaches and unanswered questions. J. Neurosci., 10, 2493-2501 (1990)
▲6▼ 筋萎縮性側策硬化症とグルタミン酸毒性に関する文献:
Couratier, P., Hugon, J., Sindou, P., Vallat, J. M. and Dumas, M., Cell culture evidence for neutonal degeneration in amyotrophic lateral sclerosis being linked to glutamate AMPA/kainate receptors, Lancet, 30, 265-268 (1993)
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、脳内の酸化ストレスを除去することによりパーキンソン病等の神経変性疾患を治療し得る新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
前記目的の達成のために、種々の微生物代謝産物から検討した結果、特定構造を有する化合物が脳内の酸化ストレスから、神経細胞を保護する作用を有することを見出した。すなわち、本発明は、下記構造式(I)で表される化合物を提供する。
【0004】
【化3】
【0005】
(式中、R1は及びR2はそれぞれ独立して、水素、水酸基、アルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基を表し、R3はアルキル基を表す。)
また、本発明は次の一般式(II)で示される化合物JC-29、その製造法、及びそれらを有効成分とする神経変性疾患治療薬を提供するものである。
【0006】
【化4】
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における化合物(I)において、アルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基は、必要によりハロゲン、水酸基等の置換基を有してもよく、好ましくは炭素数1から30個の炭素原子を有するものである。化合物(I)のうち、R1及びR2が水素、水酸基、又は1から18個の炭素原子を有するアルキル基、アルコキシ基又はアシルオキシ基を表し、R3が1から18個の炭素原子を有するアルキル基を表す化合物が好ましく、特に、上記構造式(II)で表される化合物JC-29が最も好ましい。
本発明の化合物JC-29は、JC-29を産生する産生菌を培養し、培養物よりJC-29を分離・採取することにより製造することができる。JC-29産生菌としては、JC-29産生能を有するものであれば、いずれも使用できるが、特にストレプトマイセス(Streptomyces以降Sと略す。)属に属するものがよく、具体的には本発明者らの分離したS.ハルステデイ(S. halstedii)4029-SVS1が有利に使用できる。その他、抗生物質生産菌単離の常法によって適当なものを自然界より分離することも可能である。また、S.ハルステデイ4029-SVS1を含めてJC-29の産生菌を放射線照射その他の変異処理に付して、JC-29の産生能を高めたものも使用できることはいうまでもない。
【0008】
本発明における化合物JC-29を産生する菌株4029-SVS1は広島県竹原市で採取された土壌試料から分離した放線菌であり、微生物の名称「Streptomyces halstedii 4029-SVS1」及び受託番号「FERM BP-7764」として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。本菌株同定の方法はISPの方法に従って行った。本菌株の“特徴づけ”は、「特許庁産業別審査基準」記載の方法によった。
本菌株の基生菌糸は液体培地上で球状あるいは捍状の分断が観察された。気菌糸は長い主軸を形成し、そこより不規則に分枝した先端に、10から50個又はそれ以上からなる直状あるいは曲状の胞子鎖を形成する。胞子は、非運動性で、円柱形を呈し、幅0.4から0.6μm、長さ1.0から1.4μmで、胞子表面は平滑である。菌核、胞子のう、その他の特殊形態は観察されない。
細胞壁化学型は(I)型であり、DNAのGC含量は73.2モル%であった。
培養性状は表1に示す。集落表面の菌叢色は灰色系列である。裏面色は淡黄色から黄味茶色などの不鮮明色を呈し、pHで変化しない。拡散性色素はイースト・麦芽寒天培地で濁黄味橙色を呈し、オートミール寒天培地で明黄色が認められた。
【0009】
【表1】
【0010】
生理的性状は、表2に示す。本菌株は、中温性であり、メラニン様色素の産生は認められなかった。本菌株は胞子が直状又は曲状に長く連鎖する形態と細胞壁化学型が(I)であることからS属に位置する菌種であると考えられる。
【0011】
【表2】
【0012】
上述の諸性状をもとに「細菌名承認リスト, 1980」及びそれ以降の有効名リストに記載されたS属の種について検索し、近縁種を選出した。S.ハルステデイ(S. halstedii)の性状を比較すると本菌株とS.ハルステデイの性状はよく一致しており、炭素源の同化のみ異なっている(表3)。従って、本菌株はS.ハルステデイに最も近似であるので本菌株4029-SVS1株はS.ハルステデイに含まれる一菌株と同定し、ストレプトマイセス ハルステデイ(Streptomyces halstedii)4029-SVS1株と称する。
【0013】
【表3】
【0014】
本発明における化合物JC-29は、該化合物の産生菌を好適な培地で好気的に培養し、培養物から目的物を分離、精製することによって得ることができる。培地は、通常の微生物が利用しうる栄養物を含有するものである。栄養源としては、従来から培養に利用されている公知のものが使用できる。具体的には、炭素源としては、グルコース、水飴、デキストリン、澱粉、糖蜜、油脂類などが使用できる。また、窒素源としては大豆粉、小麦胚芽、綿実粕、コーンステイープリカー、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、などの有機物ならびに硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウムなどの無機物が利用できる。その他必要に応じて、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、塩素、燐酸、硫酸及びその他のイオンを生成することができる無機塩類を添加することができる。また、菌の発育を助け、本発明におけるJC-29の生産を促進するような有機および無機物を適当に添加することができる。培養方法としては、好気的液体培養法が最も適している。培養に適当な温度は、20〜30℃であるが、多くの場合27℃付近で培養する。このようにしてJC-29が蓄積した培養物から目的化合物を単離精製する。
【0015】
培養物からの採取にあたっては、その性状を利用した通常の分離手段、例えば溶媒抽出法、イオン交換樹脂法、吸着または分配カラムクロマト法、ゲル濾過法、透析法、沈澱法等を単独で又は適宜組み合わせて抽出精製することができる。例えば、培養液中に蓄積されたJC-29は、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム等で抽出すると有機溶剤層に抽出される。JC-29を更に精製するには、シリカゲル、アルミナ、等の吸着クロマトグラフィーあるいは合成吸着剤例えばダイヤイオンHP-20(三菱化学社製)、あるいはゲル濾過等のクロマトグラフィー例えばセファデックスLH-20(ファルマシア社製)、あるいはODSカラムクロマトグラフィーやHPLCを適宜組み合わせて実施することができる。
さらに、採取されたJC-29を置換反応又は付加反応等の化学修飾することにより、本発明における化合物(I)を得ることができる。
【0016】
本発明の化合物(I)及びJC-29は、脳内酸化ストレスから神経細胞を保護する作用を有する化合物には、次の用途が期待される。すなわち、パーキンソン病などの神経変性疾患の治療薬としての用途である。また、別の用途としては、公知の神経変性疾患治療薬(例えばL-DOPA)の副作用抑制剤、すなわち、公知の神経変性疾患治療薬の投与によって亢進する脳内酸化ストレスに起因する神経細胞死の誘導に伴う上記疾患の悪化を抑制する医薬としての用途である。本発明の化合物(I)及びJC-29を有効成分とする神経変性疾患治療薬は、任意の投与経路で、また採用投与経路によって決まる剤型、例えば錠剤、カプセル、坐剤、溶液、シロップ、乳液等で投与することができる。薬剤としては、製薬上許容される担体あるいは希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ラクトース、コンスターチ、アルギン酸、スターチ、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテート等で希釈された形態が普通である。神経変性疾患治療薬として本発明における化合物(I)及びJC-29を実際に投与する場合には、これらを注射用蒸留水または生理食塩水に溶解して注射する方法が代表的なもののひとつとして挙げられる。具体的には、動物の場合には腹腔内注射、皮下注射、静脈または動脈への血管内注射および注射による局所投与などの方法が、ヒトの場合は静脈または動脈への血管内注射または注射による局所投与などの方法がある。本発明における化合物(I)及びJC-29の投与量は、種々の状況を勘案して、連続的または間欠的に投与したときに総投与量が一定量を越えないように定められる。具体的な投与量は、投与方法、患者または被処理動物の状況、たとえば年齢、体重、性別、感受性、食餌、投与時間、併用する薬剤、患者またはその病気の程度に応じて変化することは言うまでもなく、また一定の条件のもとにおける適量と投与回数は、上記指針をもとにして専門医の適量決定試験によって決定されなければならない。具体的には、成人1日あたり0.1〜1g程度である。
【0017】
【実施例】
【実施例1】
(培養)
以下に示す前々培地15mlを50ml容大型試験管に分注、殺菌後、本菌株を接種し、27℃にて48時間培養したものを種母とした。
【0018】
以下に示す前培地(生産培地)100mlを分注した500ml容三角フラスコを殺菌し、上記種母2mlを添加した後、27℃にて72時間培養した。さらに、以下に示す生産培地(前培地)30リットルを60リットルジャーファーメンターに分注、殺菌を行い、上記の前培溶液600mlを添加し、27℃、72時間培養を行った。
【0019】
(単離)
上記で得た培養液30リットルを遠心分離(10000rpm、15分)し、菌体を破棄した。上清を等量の酢酸エチルで2回抽出し、酢酸エチルを除去した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (Wako C-200)に吸着させ、クロロホルム-メタノール (40 : 1)の混合溶媒で溶出した。得られた画分をゲル濾過クロマトグラフィー(Toyopearl HW-40F)に吸着させ、100%メタノールにより溶出した。さらに得られた画分を中圧液体クロマトグラフィー (Senshu-Pak ODS)に吸着させて、40%メタノールにより溶出した。さらに、高圧液体クロマトグラフィー (Senshu-Pak ODS) に吸着させて、35%メタノールにより溶出し、化合物JC-29 を得た(3.9 mg)。得られた化合物は、下記の物理化学的性質を有するものであり、各種スペクトルデータの解析の結果、前記式(I)で示される化学構造を有することがわかった。
【0020】
(JC-29の理化学的性質)
外観:赤色粉末
融点:201〜202℃
分子式:C14H11NO4
高分解能FAB-MS 実測値:258.0793 (M+H)+ 計算値:258.0766
溶解性:メタノール、クロロフォルム、酢酸エチル、アセトニトリルに可溶。水に難溶。
紫外線吸収スペクトル λnm (ε) (メタノール中、図1に示す):204 (18307), 253 (13537), 366 (9965), 456 (4710)
赤外吸収スペクトルcm-1(KBrディスク法、図2に示す):3393, 1640, 1580
13C and 1H NMR データ(図3a及びbに示す):
【0021】
【実施例2】
N18-RE-105 細胞における JC-29 の生物活性
神経細胞死の原因の一つとして高濃度のグルタミン酸 (Glu) による興奮毒性が知られている。神経細胞死の原因として、高濃度グルタミン酸(Glu)による興奮毒性が知られている。グルタミン酸が関与する中枢疾患は、酸化ストレスが関与する変性疾患と同様、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側策硬化症および脳卒中等がある。そこで、グルタミン酸に高い感受性を有する、マウス神経芽細胞腫とラット初代網膜神経細胞とのハイブリドーマであるN18-RE-105細胞に対してグルタミン酸を過剰投与したときにおけるJC-29の保護作用を調べた。
N18-RE-105細胞を200ユニットのペニシリン、0.1μg/mLストレプトマイシン、HAT (0.1mMヒポキサンチン、40nMアミノプテリン、0.14mMチミジン)、および10%牛胎児血清を含むダルベッコ変法MEM培地にて2.0×104cells/wellとなるように細胞の調製を行い、96穴マイクロプレートに100μl/wellづつ播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。24時間後、各濃度に調製した試験物質およびグルタミン酸(最終濃度10mM)を添加した。さらに培養を24時間続けた後、培地中に遊離した乳酸脱水素酵素 (LDH) 活性を測定することにより、細胞の生死および細胞生存率を求めた。LDHの活性測定は和光純製薬LDH測定キット (LDH-細胞毒性テストワコー) を用いて行った。
各試料のLDH遊離率は下記の (1) 式より算出した。
(1)式
LDH遊離率 (%)=培地中のLDH活性/(培地中のLDH活性+細胞内LDH活性)×100
対照群に対するLDH遊離率は、それぞれのLDH遊離率を用いて (2) 式から算出した。
(2)式
LDH遊離率 (% コントロール)= (試料−Glu無処理群) / (Glu処理群−Glu無処理群)×100
評価した結果を図4に示す。JC-29はグルタミン酸によって引き起こされた酸化ストレスからN18-RE-105細胞を保護した。
【0022】
【実施例3】
C6 グリオーマ細胞における JC-29 の生物活性
N18-RE-105細胞にて示したグルタミン酸毒性機構はグリオーマ腫であるC6グリオーマ細胞株についても報告されている。そこで、C6グリオーマ細胞に対してグルタミン酸を過剰投与したときにおけるJC-29の保護作用を調べた。
C6グリオーマ細胞を200ユニットのペニシリン、0.1μg/mLストレプトマイシン、および10%牛胎児血清を含むダルベッコ変法MEM培地にて2.0×104cells/wellとなるように細胞の調製を行い、96穴マイクロプレートに100μl/wellづつ播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。24時間後、各濃度に調製した試験物質およびグルタミン酸(最終濃度20mM)を添加した。さらに培養を24時間続けた後、培地中に遊離した乳酸脱水素酵素 (LDH) 活性を測定することにより、細胞の生死および細胞生存率を求めた。LDHの活性測定は和光純製薬LDH測定キット (LDH-細胞毒性テストワコー) を用いて行った。
各試料のLDH遊離率は下記の (3) 式より算出した。
(3)式
LDH遊離率(%)=培地中のLDH活性/(培地中のLDH活性+細胞内LDH活性)×100
対照群に対するLDH遊離率は、それぞれのLDH遊離率を用いて (4) 式から算出した。
(4)式
LDH遊離率(% コントロール)=(試料−Glu無処理群)/(Glu処理群−Glu無処理群)×100
評価した結果を図5に示す。JC-29はグルタミン酸によって引き起こされた酸化ストレスからC6グリオーマ細胞を保護した。
【0023】
【実施例4】
PC12 細胞における JC-29 の生物活性
L-DOPAは神経伝達物質であるドーパミンの前駆物質であり、脳内に広く分布するカテコールアミン系の物質であるが、過剰に発現するとラジカル産生を引き起こし、その結果アルツハイマー病やパーキンソン病等の神経変性疾患を引き起こすといわれている。そこで、カテコールアミン系の物質の合成や貯蔵、放出を行うなどL-DOPAに対して高い感受性を持つラット副腎髄質褐色細胞腫であるPC12細胞に対して、L-DOPAを過剰に投与したときにおけるJC-29の保護作用を調べた。
PC12細胞を200ユニットのペニシリン、0.1μg/mLストレプトマイシン、10%牛胎児血清および、5%馬血清を含むダルベッコ変法MEM培地にて1.0×105cells/wellとなるように細胞の調製を行い、96穴マイクロプレートに100μl/wellづつ播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。24時間後、各濃度に調製した試験物質およびL-DOPA(最終濃度50μM)、MnCl2(最終濃度0.2mM)を添加した。さらに培養を24時間続けた後、PBSにて溶解した5mg/mLのMTT溶液を培地に10%添加した。さらに3時間培養を続けた後、培地を除き、生成したホルマザンをDMSO (100μL)に溶解し550nmの吸光度を測定した。
各試料のMTT reductionは下記の (5) 式より算出した。
(5)式
MTT reduction (%)=(試料−L-DOPA処理群)/(L-DOPA無処理群−L-DOPA処理群)×100
評価した結果を図6に示す。JC-29はL-DOPAによって引き起こされた酸化ストレスからPC12細胞を保護した。
【0024】
【発明の効果】
本発明の化合物(I)およびJC-29は、脳内の酸化ストレスから神経細胞を保護することができる。従って、本発明の化合物(I)およびJC-29を有効成分とする医薬は、パーキンソン病の治療神経変性疾患の治療薬として期待される。また、本発明の化合物(I)およびJC-29は、神経変性疾患治療薬として公知のL-DOPA等の治療薬の副作用、すなわち前記治療薬の投与により亢進する脳内酸化ストレスが神経細胞死を誘導して神経変性疾患を悪化させるという副作用を抑制する医薬として期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 JC-29の紫外線吸収スペクトルである。
【図2】 JC-29の赤外線吸収スペクトルである。
【図3a】 JC-29の13C NMRスペクトルである。
【図3b】 JC-29の1H NMRスペクトルである。
【図4】 N18-RE-105細胞におけるJC-29の生物活性評価結果のグラフである。
【図5】 C6グリオーマ細胞におけるJC-29の生物活性評価結果のグラフである。
【図6】 PC12細胞におけるJC-29の生物活性評価結果のグラフである。
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