JP3901534B2 - 制電性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、永久制電性を有する制電性樹脂組成物の改良に関し、特に汚染物質の付着性が極めて少なく、安定的に美麗な外観の成形物を与える制電性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的なプラスチックスは絶縁体であり帯電して微粒子を吸引するので、従来汚染物質は気相中に漂う微粒子を対象としていた。微粒子汚染に関しては静電気対策をすることが有効であり大別すると、次の方法で樹脂組成物あるいはその成形物に制電性を付与することが検討されている。
【0003】
1.帯電防止剤の内部練込み法
2.帯電防止剤の表面塗布法
3.シリコン系化合物の表面塗布法
4.プラスチックス構造の化学的改質法。
【0004】
このうち帯電防止剤の内部練込み法は、永久的な帯電防止には充分でなく、表面に存在する帯電防止剤を洗浄、摩擦等の手段で除去してしまうと制電効果が失われること。また帯電防止剤が表面にブリードしすぎると、ゴミやホコリの粘着がおこること。透明性を損なうこと、等の欠点がある。
【0005】
帯電防止剤やシリコン系化合物を表面に塗布する方法は、洗浄、摩擦等の手段で除去してしまうと帯電防止効果が激減してしまい、実用上大きな問題がある。
【0006】
プラスチックスの構造を化学的に改質する方法は、プラスチックスに親水基を重合したりその他の方法で導入する方法であるが、一般的に制電効果を発揮するためにはかなり多量の親水基を含ませる必要があり、そのために吸湿によって機械的性質や他の物性に悪影響を及ぼす。
【0007】
かかる問題を解決し、プラスチックスに永久的な制電性を付与する方法として、親水性ポリマーと絶縁性の熱可塑性樹脂からなる制電性樹脂組成物を用いることが知られている。親水性ポリマーとしてポリエチレンオキシド、ポリエーテルエステルアミド、4級アンモニウム塩基含有共重合体等を、熱可塑性樹脂としてのポリスチレン、ABS、PMMA等に配合する方法が紹介されている(「静電気学会誌」第21巻、第5号212〜219頁(1997))。ここで、「永久制電性」とは、帯電防止剤の塗布あるいは通常の熱可塑性樹脂に練り込まれた帯電防止剤の成形物表面へのブリードアウトにより得られるが、表面のフキ取りにより顕著に低減される、非持続性の制電性とは異なり、成形物を構成する熱可塑性樹脂の内部に安定に保持された帯電防止剤により発現され、成形物表面のフキ取りによっても本質的に低減されない、永久持続的に発現される制電性をいう。
【0008】
このような永久制電性樹脂組成物の好ましい態様として、本出願人は、既に、アルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体のグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂に、好ましくは更にアニオン系界面活性剤を配合することにより永久制電性を有し且つ透明性も良好な熱可塑性樹脂組成物を開発している(特公昭59−2462号公報)。
【0009】
上記熱可塑性樹脂組成物が、永久制電性を発現する作用機構は未だに明確となっていないが、アルキレンオキサイド基を有する単量体を含む共役ジエン又はアクリル酸エステルを1成分とするゴム状幹重合体からなる親水性ポリマーが加工時にマトリックス成分であるグラフト成分樹脂又はグラフト成分樹脂と熱可塑性樹脂との混合物中に互いにブリッジ状(網目状)となって分散して電荷の移動経路を形成するとともに、好ましくは、添加した帯電防止剤としてのアニオン系界面活性剤が、更に主としてこのゴム状幹重合体に選択的に吸着し、帯電体が接触すると接触面に反対電荷が主として帯電防止剤を吸着したゴム状幹重合体相を通って速やかに蓄積されて帯電体の電荷を打消し中和するためと考えられる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した一連の親水性ポリマーをベースとする制電性樹脂組成物についても、いくつかの実用上の問題点が見出された。例えば、上記本出願人の開発したグラフト共重合体型の制電性樹脂組成物をはじめとして、制電性樹脂組成物のいくつかは、制電性に加えて透明性のよい成形体を与えることを特徴とするが、場合により、ガス状汚染物質により成形体にくもりや変色による透明性の低下が生ずることが見出された。特に気相中に通常存在する濃度の酸性ガスや塩基性ガスにより成形体にくもりが生ずる問題点が見出された。また、このような制電性樹脂組成物を成形して得られた容器に収納された電子部品あるいは光学部品に、くもりや変色を与える場合も見出された。
【0011】
従って、本発明は、安定的に美麗な外観と永久制電性を保持し得る成形体を与える制電性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明の別の目的は、収納された電子部品や光学部品に対し悪影響を与える付着物を生じさせることのない、収納容器としての成形体を与え得る制電性樹脂組成物を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らの研究によれば、上述の目的が、特定の親水性ポリマーをベースとする制電性樹脂組成物に、組成的改良を加えることにより達成されることが見出された。
【0014】
すなわち、本発明の制電性樹脂組成物は、(a)親水性ポリマー3〜100重量部、(b)熱可塑性樹脂0〜97重量部((a)との合計量100重量部)、及び(c)2価以上の金属塩0.001〜0.5重量部からなり、親水性ポリマー(a)が下記グラフト共重合体からなることを特徴とするものである:
(i)共役ジエン及びアクリル酸エステルから選ばれた1種以上の単量体50〜95重量%、
(ii)4〜500個のアルキレンオキサイド基を有しエチレン系不飽和結合を有する1種以上の単量体5〜50重量%、及び
(iii)共役ジエン及びアクリル酸エステルと共重合可能な1種以上のエチレン系不飽和単量体0〜40重量%からなるゴム状幹重合体5〜95重量部、に
(iv)1種以上のエチレン系不飽和単量体5〜95重量部(ゴム状幹重合体との合計量が100重量部)、をグラフト共重合したグラフト共重合体。
本発明者らが、上述の目的で研究して本発明に到達するに至った経緯について、若干付言する。
【0015】
上記した親水性ポリマーをベースとする永久制電性樹脂組成物(「静電気学会誌」第21巻、第53行212〜219頁(1997)、特公昭59−2462号公報)について見出されたガス状汚染物質による成形体のくもりや変色問題は、制電性樹脂組成物に要求される性能水準の変化により見出されるようになった。すなわち、帯電による微粒子吸引付着を防止する制電性樹脂組成物は、粒子状物質の付着が特に問題になる半導体製造工程のような分野でも使用されているが、半導体製造工程の進歩により問題になる微粒子の大きさがより微小になってきた。親水性ポリマーをベースとして良好な永久制電性を有する樹脂組成物を使用していても、微小な微粒子による成形体表面のくもりや変色、あるいは容器状の成形体の場合、その収容物の表面にくもりが生じ得ることが明らかになった。このくもりや変色は気相中に漂う微粒子の吸引付着ではなく、気相中に含まれるガス状物質が吸着して結晶化することによる微粒子汚染であることが明らかになってきた。ガス状物質は、非極性ガス、酸性ガス、塩基性ガスに分類されるが、非極性ガスに比べて、酸性ガスと塩基性ガスの吸着が微粒子生成原因になることも明らかになった。特に、制電性容器に収容される光学部品としてのフォトマスクあるいはその保護膜(ペリクル)はフォトリソグラフィーに供されるが、照射光が、KrFレーザー光、ArFレーザー光、更にはF2レーザー光へと紫外領域に短波長化されるに従って、その化学的活性により、結晶化を伴う微粒子汚染の問題も顕著となってきた。
【0016】
しかしながら、本発明者らが、上記した親水性ポリマーをベースとする永久制電性樹脂組成物について、種々、組成の改良を検討したところ、樹脂100重量部に対し、0.001〜0.5重量部という比較的少量のCa、Al等の2価以上の金属塩を添加することにより、上述した酸性ガスや塩基性ガスによる成形体表面のくもりや変色、あるいは容器状成形体の場合、その内容物の表面のくもり発生を防止する効果が発現することが見出されて、本発明に到達したものである。
【0017】
なお、本発明で利用される2価以上の金属塩の添加効果は、(イ)制電性強化のために、この種の制電性樹脂組成物に添加されることのある界面活性剤、特にアニオン系界面活性剤としての2価金属塩(アルカリ土類金属塩)、あるいは(ロ)親水性ポリマーの回収のために塩析剤として加えられ制電性樹脂組成物中に残存する2価以上の金属塩とは区別されるべきものである。第1に、上記(イ)、(ロ)のような形態で制電性樹脂組成物に存在する2価以上の金属塩は、通常樹脂100重量部に対し、0.5重量部を超える量となるからである。第2に、(イ)のようにアニオン系界面活性剤として添加される場合、アルカリ土類金属塩がアルカリ金属塩と併記される例が多いが、前者は後者に対し付随的に(ある意味では均等物として)記載されるのが通例であり、前者が後者に優先して使用されることはほとんどない。これに対し、本発明で利用する制電性樹脂組成物成形体の透明性改善効果は、1価の金属塩の添加によっては得られない(アニオン系界面活性剤としてアルカリ金属塩のみを含む後記比較例1および3参照)2価以上の金属塩に特有の効果である。その明確な機構は今だ明らかでないが、1価の金属と比べて、2価以上の金属は酸性ガスや塩基性ガスが吸着すると錯体を形成することで、成形物表面でのガス状物質の結晶成長を阻害する働きがあると推定している。また、(ロ)塩析剤としての2価以上の金属塩について云えば、本発明においても親水性ポリマーとして好ましく用いられるアルキレンオキサイド基を有するゴム状幹重合体を含むグラフト共重合体の回収に塩析剤として用いられる2価以上の金属塩は、これが製品樹脂中に残存して、その後に添加されるアニオン系界面活性剤(c)の吸着を阻害して、永久制電性の発現を阻害し、ひいては成形品透明性の低下を起すと記載されていたものである(WO 00/27917号公報第4頁19〜23行、第19頁19〜22行)。しかしながら、本発明者らが更に研究した結果、(ロ)上述した塩析等により樹脂中に残存するレベル、あるいは(イ)制電性強化のために加えられるアニオン系界面活性剤としてのアルカリ(土類)金属塩よりは少量の2価の金属塩を製品樹脂組成物中に含ませることにより、上述した酸性ガスや塩基性ガスによる成形体表面のくもりや変色、あるいは容器状の成形体の場合、その内容物の表面のくもりの発生、を防止するという本発明所定の効果が得られたのである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の制電性樹脂組成物のベース樹脂としての親水性ポリマー(a)は、本出願人が開発した前記特公昭54−2462号公報に記載のものと基本的に同様の、下記の組成を有するグラフト共重合体からなる。すなわち、
(i)共役ジエン及びアクリル酸エステルから選ばれた1種以上の単量体50〜95重量%、
(ii)4〜500個のアルキレンオキサイド基を有し且つ好ましくは4個以上のエチレンオキサイドブロックを有しエチレン系不飽和結合を有する1種以上の単量体5〜50重量%、及び
(iii)共役ジエン及びアクリル酸エステルと共重合可能な1種以上のエチレン系不飽和単量体0〜40重量%からなるゴム状幹重合体5〜95重量部、に
(iv)1種以上のエチレン系不飽和単量体5〜95重量部(ゴム状幹重合体との合計量が100重量部)、をグラフト共重合したグラフト共重合体、である。
【0019】
本発明の制電性樹脂組成物は、上記したような親水性ポリマー(a)3〜100重量部に対し、熱可塑性樹脂(b)0〜97重量部および上記(a)、(b)の合計量100重量部に対し、(c)2価以上の金属塩を最終樹脂組成物に0.001〜0.5重量部含まれる量で添加することにより得られる。
【0020】
親水性ポリマー(a)とともに用いられる熱可塑性樹脂(b)としては、基本的には、任意の熱可塑性樹脂が用いられる、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、芳香族ビニルポリマー、ニトリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステルの単独または共重合体からなる(メタ)アクリル樹脂、ABS樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、弗素系樹脂等が使用されるが、好ましくは親水性ポリマーと相溶性のよい樹脂が用いられる。但し、スチレン等の芳香族ビニル成分を含むABS樹脂等は、くもりや変色の原因となるガス状成分を発生し易いので、本発明の目的には好ましくなく、実質的に芳香族重合体成分を含まない脂肪族樹脂が好ましく、より好ましい熱可塑性樹脂(b)の例としては、(メタ)アクリル樹脂とニトリル樹脂が挙げられる。
【0021】
熱可塑性樹脂(b)は、本発明の制電性樹脂組成物の用途に応じて加工性、強度等を考慮して、親水性ポリマー(a)に加えて適宜用いられるもので、省略することもできる。親水性ポリマー(a)と熱可塑性樹脂(b)の混合物として用いられる場合、親水性ポリマー(a)は、(a)と(b)の合計量100重量部に対し、3重量部以上、好ましくは5〜60重量部、存在させることにより、必要な制電性を確保することが好ましい。また親水性ポリマー(a)としてのグラフト共重合体中のゴム幹状重合体が、グラフト共重合体量100重量部に対し、5〜80重量部、特に10〜60重量部含まれることが好ましい。
【0022】
2価以上の金属塩(c)は、酸性ガスや塩基性ガスによる成形体表面のくもりや変色、あるいは容器状の成形体の場合、その内容物表面のくもりを防止する目的で用いられる。本発明の目的のためには、親水性ポリマー(a)と熱可塑性樹脂(b)との合計量100重量部当り、0.001〜0.5重量部、好ましくは0.001〜0.3重量部、更に好ましくは0.001〜0.1重量部、の割合で用いられる。0.001重量部未満では、くもり防止効果が乏しく、また0.5重量部を超えて用いると、それ自身がブリードアウトする問題が生じる。
【0023】
2価以上の金属塩(c)の添加は、重合時、混合時、成形時等のいずれでもよい。例えば、混合時や成形時に添加する場合、2価以上の金属塩(c)を例えば10重量%濃度で含有するマスターバッチを、樹脂の合計量100重量部当り、0.01〜5重量部の割合で添加すればよい。
【0024】
2価以上、好ましくは2〜4価の金属塩(c)の例としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、オレイン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩類や、塩化アルミニウムやステアリン酸アルミニウム等のIIIA族金属塩類が挙げられる。これら金属塩が酸性ガスや塩基性ガスによるくもりの生成を防止する明確な機構は今だ明らかでないが、前述したようにこれら2価以上の金属塩は、酸性ガスや塩基性ガスを吸着した場合、錯体を形成することで成形物表面でのガス状物質の結晶成長を阻害する働きがあると推定している。
【0025】
界面活性剤(d)は、親水性ポリマー(a)に吸着させて、永久制電性を向上させるために用いるものであり、省略することもできる。良好な耐熱性を与えるために、JIS−K7120に定める熱重量減少開始温度(以下「Tng」と略記することがある)が250℃以上のアニオン系界面活性剤(d)が好ましく用いられる。熱重量減少開始温度は、アニオン系界面活性剤の構造とある程度の相関性が認められており、熱重量減少開始温度が250℃以上であるアニオン系界面活性剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩などが挙げられる。
【0026】
熱重量減少開始温度が250℃未満のアニオン系界面活性剤を用いて得られた制電性樹脂組成物は、大量生産等により成形加工条件が酷しくなった際に、成形加工時に、おそらくはアニオン系界面活性剤の分解や飛散等により、成形体のくもりや変色、アニオン系界面活性剤の減少による制電性の低下等が起り易い。
【0027】
参考までに、熱重量減少開始温度が250℃未満となるアニオン系界面活性剤の例としては、アルキル硫酸エステル塩、こはく酸エステルスルホン酸塩、燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸塩等が挙げられる。
【0028】
アニオン系界面活性剤を構成する金属種の選択もアニオン系界面活性剤の帯電防止剤としての効果に関係があり、本発明の目的のためには、原子番号が19(カリウム相当)以上であるアルカリ金属塩は、比較的少量の添加で必要な制電性が得られるので、親水性ポリマー(a)および熱可塑性樹脂(b)とのブレンド時間の短縮、成形品物性(特に耐温水白化性)の向上等の点で好ましく用いられる。
【0029】
界面活性剤(d)は、グラフト共重合体(a)と熱可塑性樹脂(b)との合計量100重量部当り、0.1〜5重量部の割合で用いることが好ましい。0.1重量部未満では、制電性改良効果が乏しく、また5重量部を超えて用いると成形体表面へのブリードアウトが顕著となり、成形体の特性上好ましくない。
【0030】
本発明の制電性樹脂組成物には、上記成分(a)〜(d)以外にも、必要に応じて紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、充填剤、染顔料などの添加剤を加えることができ、これらの添加は、重合時、混合時、成形時等の何れでもよい。
【0031】
また、本発明の制電性樹脂組成物は、有機溶媒に分散させて塗布型あるいはフィルム成形性の分散液とすることもできる。有機溶媒としては、好ましくはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム等の含塩素化合物類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素化合物類が良い。また2種類以上の溶媒を混合して使用しても良い。
【0032】
分散液の濃度は特に限定されないが、5〜60重量%、更には5〜30重量%程度が好ましい。
【0033】
本発明の制電性樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法あるいは真空成形法等の通常の加工方法により、シート、フィルム、管、繊維、異形成形体、二色成形体等の任意の成形体に加工可能である。また有機溶媒分散液を使用して、刷毛塗り法、スプレー法、キャスト法、ロール法、あるいはスピン法等の通常の塗工方法により、任意の成形体表面に塗装可能である。
【0034】
具体的な応用分野としては、エレクトロニクス製品、光学製品、家電製品、OA機器製品、半導体製造装置関連製品、フォトリソグラフィー関連製品、液晶・PDP・関連製品等である。フォトマスク(レチクルを含む)あるいはその保護膜としてのペリクルのケース、カラーフィルターケース、ウエハキャリア、ウエハカセット、トートビン、ウエハーボート、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、ICカード、テープ、リールパッキング、各種ケース、保存用トレー、保存用ビン、軸受や搬送ローラー等の搬送装置部品、磁気カードリーダー、OA機器分野では、記録装置用転写ロール、転写ベルト、現像ロール、記録装置用転写ドラム、プリント回路基板カセット、ブッシュ、紙及び紙幣搬送部品、紙送りレール、フォントカートリッジ、インクリボンキャニスター、ガイドビン、トレー、ローラー、ギア、スプロケット、コンピュータ用ハウジング、モデムハウジング、モニターハウジング、CD−ROMハウジング、プリンターハウジング、コネクター、コンピュータースロット、通信機器分野では、携帯電話部品、ベーガー、各種摺動材、自動車分野では内装材、アンダーフード、電子電気機器ハウジング、ガスタンクキャップ、燃料フィルター、燃料ラインコネクター、燃料ラインクリップ、燃料タンク、機器ビージル、ドアハンドル、各種部品、その他の分野では、電線及び電力ケーブル被覆材、電線支持体、電波吸収体、床材、カーペット、防虫シート、パレット、靴底、テープ、ブラシ、送風ファン、などが挙げられる。なかでも、くもり等の付着物を極度に嫌う電子部品あるいは、光学部品のケース成形体として用いることが好ましい。
【0035】
【実施例】
以下に、本発明を実施例によって、更に具体的に説明する。なお、実施例中の「部」は「重量部」を意味し、記載される物性は、代表的に以下の方法で測定したものである。
【0036】
(i)熱重量減少開始温度(Tng):JIS−K7120に準拠して、予め80℃で予備乾燥した試料8mgを、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で、加熱して、熱天秤測定機TG50(メトラー製)により測定した。
【0037】
(ii)体積固有抵抗率:JIS K−6911に準拠して、温度23℃、湿度23%RHで3日間調湿して、極超絶縁計SM−10E(東亜電波工業製)で測定した:
成形体の制電性は、材料組成物の体積固有抵抗率(Ω・cm)と相関があり、ここでは体積固有抵抗率が1012以下であれば制電性が優れている;1012を超え1013以下では、制電性が劣る;1013を超えると制電性がない、と判定している。
【0038】
(iii)透明性:JIS K−7105に準拠して、ヘーズメーター「TC−H3DP」(東京電色製)で測定した。
【0039】
(iv)IR分析:成形体表面をアルミ箔で拭取り、付着物について、「IR−500」(日本分光製)を用いて、FT−IR分析を行った。
【0040】
(v)紫外レーザー光照射試験
制電性樹脂からなる6インチ用フォトマスクケース(5枚収納用縦型、概略寸法:底面160mm×80mm×160mmH、樹脂量:約510g)に、1枚のフォトマスク用石英ガラス板(概略寸法:152L×152W×6.4t(mm)を収納し、40℃で3日間加熱放置した。その後、概石英ガラスを取出して、擬似エアー(純品N279%、O221%の混合物)流通下、ArFレーザー光(波長:193nm)を1mJ/cm2/パルスで、計20kJ/cm2の線量を石英ガラスに照射した。次いで、レーザー光照射後の石英ガラスの表面状態を目視観察し、更に石英ガラス表面をアルミ箔で拭取り、付着物について、上記(iv)と同様に、「IR−500」(日本分光製)を用いて、FT−IR分析を行った。
【0041】
≪制電性樹脂組成物の製造≫
<親水性ポリマー>
(親水性ポリマー1(a−1))
撹拌機、温度計、圧力計を付した耐圧反応容器に
(イ)ゴム状幹重合体形成用組成物
1,3−ブタジエン(i) 23 部
アクリル酸ブチル(i) 30 部
メトキシポリエチレングリコールメタクリレ−ト(ii)
12 部
(エチレンオキサイド基の数が平均約23個)
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.03 部
ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート 0.015 部
エチレンジアミンテトラ酢酸鉄(III)塩 0.0015部
ピロリン酸ナトリウム 0.2 部
オレイン酸カリウム 2.0 部
脱イオン水 200 部
を仕込み、60℃で10時間撹拌した。収率99%で平均粒子径80nmのゴム状幹重合体のラテックスが得られた。
(ロ)上記ゴム状幹重合体(固形分として65部)のラテックスにエチレン系不飽和単量体(iv)混合物として、
メタクリル酸メチル 35 部
ノルマルオクチルメルカプタン 0.3 部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.02 部
ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート 0.02 部
オレイン酸カリウム 1.0 部
脱イオン水 50 部
を添加し、窒素置換し、60℃で10時間撹拌グラフト共重合した。このラテックスを取出し、塩酸水溶液(濃度0.7重量%)200部を添加し析出させた。脱水洗浄後、含水率43重量%で湿った粉末状のグラフト共重合体が得られた。これを気流式瞬間乾燥機により熱風温度100℃の条件で乾燥することにより収率97%で白色粉末の親水性ポリマー1(a−1)(グラフト共重合体)が得られた。
(親水性ポリマー2(a−2))
屈折率1.51の市販ポリエーテルエステルアミド(三洋化成工業(株)社製「ペレスタット6321」)を使用した。
(親水性ポリマー3(a−3))
屈折率1.49の市販4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート共重合体(第一工業製薬(株)社製「レオレックスAS−170」)を使用した。
【0042】
[実施例1]
親水性ポリマー1(a−1)の粉末50部(ゴム状幹重合体量32.5部)に、屈折率1.49のメタクリル樹脂(住友化学製「スミペックスB−MHG」)50部と、熱重量減少開始温度(Tng)が430℃のドデシルベンゼンスルフォン酸カリウム(アニオン系界面活性剤)1.0部と塩化カルシウム0.05部(特級試薬、和光純薬工業製)、をヘンシェルミキサーにて混合した。次にこの粉末をシリンダー径20φの平行二軸押出し機(東洋精機製「ラボプラストミル」)でペレット化した。
【0043】
このペレットを、射出成形機(東芝機械製「IS−80EPN」)に、平板金型(100L×50W×3t(mm))を取り付け、シリンダー温度220℃、金型温度40℃、シリンダー内樹脂滞留時間40秒で成形した。得られた平板状成形体を超純水中に入れ超音波洗浄15分行い、続いて40℃のオーブンで30分乾燥後に体積固有抵抗率、透明性を測定した。この平板を空気気流のグローブボックスに1週間放置した後に、体積固有抵抗および透明性の測定ならびに表面付着物のFT−IR測定を行った。
【0044】
[実施例2]
塩化カルシウムの代りにステアリン酸カルシウム0.05部(一級試薬、関東化学製)とした以外は、実施例1と同様な方法で評価した。
【0045】
[実施例3]
塩化カルシウムの代りにステアリン酸アルミニウム0.05部(一級試薬、関東化学製)とした以外は、実施例1と同様な方法で評価した。
【0046】
[比較例1]
塩化カルシウムを除いた以外は、実施例1と同様な方法で評価した。
【0047】
上記実施例1〜3および比較例1の評価結果をまとめて次表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
上表1に示すように、2価以上の金属塩を実質的に含まない比較例1の組成物を用いて得られた成形体は、1週間のグローブボックス空気流中放置により、アミド化合物の表面付着が原因と考えられる曇価の上昇(および透過率の低下)を起したが、2価以上の金属塩を添加して得られた実施例の組成物を用いて得られた成形体は、いずれもこのような光学特性の低下を起さずに美麗な外観を維持した。
【0050】
[実施例4]
実施例1の組成物からドデシルベンゼンスルホン酸カリウムを除いた制電性樹脂組成物を、実施例1と同様にしてペレット化した。
【0051】
このペレットを、射出成形機に6インチ用フォトマスクケース金型を取り付け、シリンダー温度200℃、金型温度40℃、シリンダー内樹脂滞留時間40秒で成形した。得られたフォトマスクケースの一部を切り取った試料(50L×50W×3.5t(mm))について、実施例1と同様に、超純水で表面を洗い、40℃のオーブンで30分乾燥したのち、体積固有抵抗率測定を行った。
【0052】
別途同様に成型したフォトマスクケースを用いて、前記紫外レーザー光照射試験を行い、照射後の石英ガラス板上の付着物(くもり成分)の有無の判定および付着物のFT−IR分析を行った。
【0053】
制電性樹脂組成物の概容および評価結果を、以下の実施例および比較例についての結果とまとめて、後記表2に記す。
【0054】
[実施例5]
実施例4の組成物に1.0部のドデシルベンゼンスルホン酸カリウム(アニオン系界面活性剤、Tng=430℃)を加えて得た制電性樹脂組成物のペレット(すなわち、実施例1と実質的に同じペレット)を用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0055】
[実施例6]
実施例5において、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムの代りに1.0部(同量)のノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(アニオン系界面活性剤、Tng=460℃)を用いて得た制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0056】
[実施例7]
実施例5において、塩化カルシウムの代りに0.05部(同量)のステアリン酸カルシウム(一級試薬、WAKO純薬製)を用いて得た制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0057】
[実施例8]
塩化カルシウムの代りに0.05部(同量)のステアリン酸アルミニウム(一級試薬、WAKO純薬製)を用いる以外は、実施例5と同様にして得た制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0058】
[参考例1]
親水性ポリマー2(ポリエーテルエステルアミド)のペレット12部に、屈折率1.51の透明ABS樹脂(東レ製「トヨラック900」)88部と、塩化カルシウム0.05部(特級試薬、WAKO純薬製)を加え、リボンブレンダーにて混合した。得られた制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0059】
[参考例2]
透明ABS樹脂の代りに、88部(同量)の屈折率1.51の透明ニトリル樹脂(三井化学製「バレックス3000N」)を用いる以外は参考例1と同様にして得た制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0060】
[参考例3]
親水性ポリマー3(第4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート共重合体)の粉末10部に、屈折率1.49のメタクリル樹脂(住友化学製「スミペックスB−MHG」)90部と、塩化カルシウム0.05部(特級試薬、WAKO純薬製)、をヘンシェルミキサーにて混合した。得られた制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0061】
[比較例2]
塩化カルシウムを除いた以外は、実施例4と同様にして得られた制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0062】
[比較例3]
塩化カルシウムを除いた以外は、実施例5と同様にして得られた制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0063】
[比較例4]
塩化カルシウムを除いた以外は、参考例1と同様にして得られた制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0064】
[比較例5]
塩化カルシウムを除いた以外は、参考例2と同様にして得られた制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0065】
[比較例6]
塩化カルシウムを除いた以外は、参考例3と同様にして得られた制電性樹脂組成物のペレットを用いて、実施例4と同様にして、フォトマスクケースの成形および評価を行った。
【0066】
上記実施例4〜11および比較例2〜6の評価結果をまとめて次表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
上表2を見れば分るように、本発明の制電性樹脂組成物(実施例4〜8)は、いずれも制電性があり(体積固有抵抗率が低く)、且つその成型物に石英ガラス板を保管した後に石英ガラス板にArFレーザー光を照射しても硫酸アンモニウムからなるくもりが生じていない。
【0069】
一方、2価の金属塩を含まない制電性樹脂組成物(比較例2〜6)は、いずれも制電性(低体積固有抵抗率)はあるが、その成型物に石英ガラス板を保管した後に石英ガラス板にArFレーザーを照射した場合硫酸アンモニウムからなるくもりが生じている。
【0070】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、特定のゴム状幹重合体へのエチレン系不飽和単量体をグラフトしたグラフト共重合体からなる親水性ポリマーを含む熱可塑性樹脂に、少量の2価以上の金属塩を混合することにより、工業的に効率良く製造可能であり、且つ空気中の酸性ガスや塩基性ガスによるくもりや変色のない安定的に美麗な外観と永久制電性を保持する成形体を与え得る制電性樹脂組成物が得られる。また該成形体容器中に保存した光学部品等に紫外レーザー光を照射した際にも、くもりや変色の原因となる結晶性物質の発生の少ない制電性樹脂組成物が得られる。
Claims (11)
- (a)親水性ポリマー3〜100重量部、
(b)熱可塑性樹脂0〜97重量部((a)との合計量100重量部)、及び
(c)2価以上の金属塩0.001〜0.5重量部
からなり、親水性ポリマー(a)が下記グラフト共重合体からなる制電性樹脂組成物。
(i)共役ジエン及びアクリル酸エステルから選ばれた1種以上の単量体50〜95重量%、
(ii)4〜500個のアルキレンオキサイド基を有しエチレン系不飽和結合を有する1種以上の単量体5〜50重量%、及び
(iii)共役ジエン及びアクリル酸エステルと共重合可能な1種以上のエチレン系不飽和単量体0〜40重量%からなるゴム状幹重合体5〜95重量部、に
(iv)1種以上のエチレン系不飽和単量体5〜95重量部(ゴム状幹重合体との合計量が100重量部)、をグラフト共重合したグラフト共重合体。 - 更に界面活性剤(d)を含む請求項1に記載の制電性樹脂組成物。
- 界面活性剤(d)が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩および脂肪酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のアニオン系界面活性剤である請求項1または2に記載の制電性樹脂組成物。
- アニオン系界面活性剤(d)が、原子番号19(カリウム相当)以上のアルカリ金属の塩であり、JIS K7120で定義される熱重量減少開始温度が250℃以上である請求項3に記載の制電性樹脂組成物。
- 熱可塑性樹脂(b)が脂肪族樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の制電性樹脂組成物。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の制電性樹脂組成物を有機溶媒中に分散してなる分散液。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の制電性樹脂組成物を成形してなる成形体。
- 耐熱分解性である請求項7に記載の成形体。
- 耐紫外線分解性である請求項7または8に記載の成形体。
- 電子部品または光学部品の収納容器である請求項7〜9のいずれかに記載の成形体。
- 光学部品としてのフォトマスクまたはその保護膜の収納容器である請求項10の成形体。
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