JP3899708B2 - 距離測定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、擬似ランダム雑音符号にて変調した電磁波を用いて対象物までの距離を測定するスペクトル拡散方式の距離測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば自動車において、進行方向前方の対象物までの距離を測定する距離測定装置の一つとして、M系列符号(最大周期符号系列)等の擬似ランダム雑音符号(以下、PN符号ともいう)を用いて距離測定を行うスペクトル拡散方式の距離測定装置が知られている。
【0003】
この種の距離測定装置では、まず、所定ビット長のPN符号により送信用の電磁波を振幅変調し、これを対象物に向けて送信する。そして、送信した電磁波が対象物に当たって反射してくる反射波を受信して2値信号に復調し、その復調した2値信号と、電磁波の送信に用いたPN符号との相関値を求め、この相関値が最大となる時刻を検出する。そして、その検出した時刻から、電磁波が距離測定装置と対象物との間を往復するのに要した時間を求め、この時間と電磁波の速度(秒速30万km)とから距離を算出する。
【0004】
従って、この種の距離測定装置では、受信信号にノイズが重畳されて、その受信信号から復調したPN符号がある程度反転しても、距離測定を正確に行うことができる。
つまり、スペクトル拡散方式の距離測定装置において、送信したPN符号(送信符号)と受信したPN符号(受信符号)との相関値の計算は、PN符号の1チップ(ビット)単位で行われ、例えば、送・受信符号で対応するビットの値が一致していないときには相関値「−1」、ビットの値が一致しているときには相関値「1」とし、これら各ビット毎に求めた相関値の符号長分の総和を、送・受信符号の相関値として算出する。
【0005】
このため、送信符号と受信符号とが時間的に一致しなければ、各符号毎の相関値の「1」と「−1」の数はほとんど同じで、送・受信符号全体の相関値はほぼ「0」となる。また特に、M系列符号の場合には、「−1」の方が一つ多い(M系列符号の符号長は、2n −1であり、nは自然数なので奇数となる)ので、送・受信符号全体の相関値は「−1」となる。
【0006】
一方、送信符号と受信符号とが一致しているときには、各符号のビット毎の相関値が全て「1」になるため、送・受信符号全体の相関値は、正の大きな値となる。またこの値は、送信したPN符号のビット長に一致するので、ビット長が長い程、大きくなる。
【0007】
従って、送信した電磁波を受信した際、その受信信号を復調することにより得られたPN符号の一部のビットがノイズによって反転したとしても、相関値は、正の大きな値になり、上記のように送・受信符号全体の相関値が最大となる時刻を検出することにより、送信したPN符号の受信時刻(延いては、対象物との間の距離)を正確に求めることができるようになるのである。
【0008】
また、PN符号のビット長を長くすればするほど、送信符号と受信符号とが一致したときの相関値は大きくなる(相関値がビット長に一致するため)ので、送信PN符号のビット長を長くすることにより耐ノイズ性を向上することができる。また、自らが送信したPN符号とは別に、他の装置が送信したPN符号を受信した場合でも、両者のPN符号が異なっていれば、送受信符号の相関値が最大となる時刻から、PN符号の受信タイミングを正確に検出することができるので、他の装置との耐干渉性に優れているという効果もある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来の距離測定装置では、送信符号と受信符号との相関値をビット単位で求めることから、相関値が最大となる時刻から得られる距離の分解能は、相関値の演算に使用するクロック信号の周波数(換言すれば相関値の演算周期)で決まり、例えば、相関値の演算に用いるクロック周波数が20MHzであれば、距離分解能は、次式の通り、7.5mとなる。
【0010】
Figure 0003899708
尚、上式において、電磁波の速度をクロック周波数で除した値を「2」で割るのは、相関値が最大となる時刻からは電磁波が装置と対象物との間を往復する時間が求められ、その間の距離を計算するには、求めた時間又はその時間から得られる距離を、「2」で割る必要があるためである。
【0011】
従って、この距離分解能を小さくして、距離測定精度を向上するには、PN符号の生成に用いるクロック周波数を高くして、PN符号1ビット当たりの周期を短くし、相関値の計算も、この周期に同期して高速に行うようにすればよい。
しかし、PN符号1ビット当たりの周期を短くするには、PN符号により振幅変調した電磁波を発生する送信手段についても、その周期に追従して高速動作可能なものを使用しなければならず、コストアップになるという問題がある。
【0012】
また、例えば、PN符号の送信に用いる電磁波としてレーザ光を用いる場合、送信手段は、レーザ光を発生する発光ダイオード(レーザダイオード)をPN符号に従いオン・オフさせることになるが、レーザダイオードの駆動周波数の上限は数十MHzである。従って、PN符号1ビット当たりの周期を短くするのは、送信手段の特性により物理的に困難であることもある。
【0013】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、スペクトル拡散方式の距離測定装置において、PN符号1ビット当たりの周期を決定する動作クロックの周波数を増大させることなく、測定可能な距離分解能を小さくして、対象物までの距離を高精度に測定できるようにすることを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するためになされた請求項1記載の距離測定装置においては、擬似ランダム雑音符号発生手段が、基準クロックに同期して、所定ビット長の擬似ランダム雑音符号を発生し、送信手段が、その擬似ランダム雑音符号発生手段が発生した擬似ランダム雑音符号により変調した電磁波を送信する。
【0015】
そして、送信手段が送信した電磁波が対象物に当たって反射してくると、その反射波を受信手段が受信し、2値信号に復調する。そして、相関算出手段が、受信手段にて復調された2値信号と、送信手段が電磁波の変調に用いた擬似ランダム雑音符号との相関値を、基準クロックに同期した一定周期で繰り返し算出し、第1時間計測手段が、その算出された相関値が最大となる時刻から、電磁波が対象物との間で往復するのに要した時間を計測する。
【0016】
従って、第1時間計測手段により計測された時間の時間分解能は、相関算出手段が相関値を計算する一周期時間となり、この時間だけで対象物までの距離を求めると、前述した従来装置と同様に、距離分解能は、この一周期時間で決まる一定距離に制限されてしまう。
【0017】
そこで、本発明では、第1時間計測手段により得られた計測時間の時間分解能よりも短い時間分解能で、その計測時間の誤差を測定し、この測定した誤差と第1時間計測手段による計測時間とに基づき、対象物までの距離を算出する。
即ち、本発明では、第1時間計測手段にて時間が一旦計測されると、今度は、送信パルス発生手段が、送信手段に送信用のパルス信号を出力して、送信手段から送信パルス信号により変調した電磁波を送信させる。
【0018】
このように送信手段が送信パルス信号に基づき送信した電磁波は、擬似ランダム雑音符号に基づき送信した電磁波と同様、対象物に当たって反射し、その反射波が、受信手段にて受信される。このため、受信手段からは、その受信信号を2値信号に復調することにより、送信パルス信号に対応した受信パルス信号が出力される。そして、送信パルス発生手段が送信パルス信号を出力してから、受信手段がその送信パルス信号に対応した受信パルス信号を出力するまでの時間は、第1時間計測手段による計測時間と略同じになる。
【0019】
次に、送信パルス発生手段が送信パルス信号を出力すると、送信パルス遅延手段が、その送信パルス信号を、第1時間計測手段が計測した時間に対応した遅延時間だけ遅延させる。そして、第2時間計測手段が、送信パルス遅延手段にて遅延された送信パルス信号と、受信手段から出力される受信パルス信号との位相差(換言すれば、第1時間計測手段にて計測された時間の誤差分)を、相関算出手段が相関値を算出する周期よりも短い時間分解能で計測し、距離算出手段が、この計測された位相差と、第1時間計測手段にて計測された時間とに基づき、対象物までの距離を算出する。
【0020】
従って、本発明(請求項1)の距離測定装置によれば、従来のスペクトル拡散方式の距離測定装置に対し、擬似ランダム雑音符号を生成する基準クロックを高めることなく、距離の測定精度を向上することができる。
また、第2時間計測手段には、送信パルス信号を、第1時間計測手段による計測時間に対応した遅延時間分だけ遅延させて入力することから、第2時間計測手段では、送信パルス信号と受信パルス信号との位相差(換言すれば第1時間計測手段による計測時間の時間分解能以下の誤差分)を正確に求めることができ、距離の測定精度を向上できる。
【0021】
つまり、本発明では、第1時間計測手段による計測時間の誤差分を、パルス信号を送受信してその時間差から距離を測定する所謂パルス時間差法にて計測するが、この方法は、一般に、ノイズの影響を受け易く、受信信号がノイズによってパルス状に変化すると、これを受信パルス信号と誤認識してしまうため、測定精度が低い。しかし、本発明では、第2時間計測手段には、送信パルス信号を第1時間計測手段による計測時間に対応した遅延時間分だけ遅延させて入力することから、第2時間計測手段側では、送信パルス信号と、この送信パルス信号から第1時間計測手段による計測時間の誤差分だけずれた範囲内で入力される受信パルス信号との位相差を求めるようにすればよく、これ以外の期間中に受信手段から出力されるノイズによるパルス信号の影響を受けないようにすることができる。従って、第2時間計測手段では、第1時間計測手段による計測時間の誤差分を正確に計測することができ、距離測定精度を向上することができるのである。
【0022】
但し、第2時間計測手段は、受信手段が送信パルス信号に対応した受信パルス信号を出力するタイミング付近でノイズが発生したような場合には、そのノイズによるパルス信号と真の受信パルス信号とを区別することができないことから、第2時間計測手段にて計測される位相差は、受信パルス信号の入力タイミング付近で発生したノイズの影響を受けることもある。
【0023】
そこで、第2時間計測手段による位相差の計測誤差に伴い生じる距離測定誤差を低減し、距離測定精度をより向上するには、請求項2に記載のように構成するとよい。
即ち、請求項2記載の距離測定装置においては、請求項1記載の距離測定装置において、送信パルス発生手段を、送信パルス信号の発生後、第2時間計測手段が位相差を計測すると、再度送信パルス信号を発生することにより、送信パルス信号を複数回発生するように構成し、距離算出手段側では、パルス信号発生手段がパルス信号を複数回発生することにより第2時間計測手段にて計測される複数の位相差から、その平均時間を求め、この位相差の平均時間と、第1時間計測手段による計測時間とに基づき、対象物までの距離を算出する。
【0024】
このため、請求項2記載の距離測定装置によれば、第2時間計測手段がノイズの影響を受けて位相差を誤検出した場合でも、その位相差の平均時間を求めることにより、最終的な測定距離が誤検出した位相差から受ける影響を抑えることができ、距離測定精度を確保することができる。
【0025】
一方、第1時間計測手段による計測時間の時間分解能は、相関算出手段が送・受信符号の相関値を算出する一周期時間に対応するが、送信した電磁波が対象物に当たって反射してくるのに要する実時間Tに対しては、相関値算出周期を△Tとすると、±△T/2の誤差を生じることになる。
【0026】
従って、送信パルス遅延手段が送信パルス信号を遅延させる遅延時間として、第1時間計測手段が計測した時間をそのまま設定すると、第2時間計測手段には、受信パルス信号が、送信パルス信号よりも早く入力されることもあるし、また送信パルス信号よりも遅く入力されることもある。従って、この場合には、第2時間計測手段において、各パルス信号の位相差(時間差)に加えて、送信パルス信号に対して受信パルス信号が早く入力されたか遅く入力されたかを識別し、この識別情報と計測した位相差とを距離算出手段に入力する必要がある。
【0027】
つまり、例えば、受信パルス信号が送信パルス信号よりも早く入力された場合には、位相差にマイナス符号を付与したデータを距離算出手段に出力することにより、距離算出手段側で、第1時間計測手段が計測した時間から位相差分の時間を減じて、計測時間を電磁波の真の往復時間方向に補正できるようにし、受信パルス信号が送信パルス信号よりも遅く入力された場合には、位相差にプラス符号を付与したデータを距離算出手段に出力することにより、距離算出手段側で、第1時間計測手段が計測した時間から位相差分の時間を加えて、計測時間を電磁波の真の往復時間方向に補正できるようにするのである。
【0028】
そして、第2時間計測手段をこのように動作させるには、例えば、第2時間計測手段を、送信パルス信号が入力されてから次に受信パルス信号が入力されるまでの時間を正の位相差として計測する位相差計測手段と、受信パルス信号が入力されてから次に送信パルス信号が入力されるまでの時間を負の位相差として計測する位相差計測手段と、これら2種類の位相差計測手段の内、第1時間計測手段による計測時間の誤差範囲内の時間を計測した位相差計測手段からの出力を、距離算出手段に入力する位相差として選択する選択手段とから構成すればよいが、このようにすると第2時間計測手段の構成が複雑になってしまう。
【0029】
そこで、第2時間計測手段を、単に2つのパルス信号の位相差を計測すればよいように構成するには、送信パルス遅延手段を、請求項3に記載のように構成するとよい。
即ち、請求項3記載の距離測定装置においては、送信パルス遅延手段が、第1時間計測手段による計測時間から、相関算出手段が相関値を算出する一周期時間を減じた時間を、遅延時間として、送信パルス信号を遅延させる。
【0030】
このため、第2時間計測手段には、常に、送信パルス信号が受信パルス信号よりも早く入力されることになり、第2時間計測手段側では、送信パルス信号が入力されてから、受信パルス信号が入力されるまでの時間を、各パルス信号の位相差として計測すればよく、第2時間計測手段を、一つの位相差計測手段にて構成することができるようになる。
【0031】
よって、請求項3記載の距離測定装置によれば、請求項1又は請求項2に記載の距離測定装置と同様の効果が得られるだけでなく、第2時間計測手段、延いては距離測定装置の構成を簡単にすることが可能になる。
但し、送信パルス遅延手段を請求項3記載のように構成した場合、第2時間計測手段にて計測される位相差は、第1時間計測手段による計測時間の誤差分に、相関算出手段が相関値を算出する一周期時間を加えた時間となるため、距離算出手段側では、この点を考慮して距離を算出する必要がある。
【0032】
具体的には、距離算出手段を、例えば、第1時間計測手段による計測時間に第2時間計測手段にて計測された位相差分を加算し、その加算値から相関算出手段が相関値を算出する一周期時間を減じることにより、電磁波が当該装置と対象物との間を往復するのに要した時間を求め、この時間から距離を算出するように構成すればよい。
【0033】
また次に、第2時間計測手段は、送信パルス信号と受信パルス信号との位相差を、相関算出手段が相関値を算出する周期よりも短い時間分解能で計測できればよく、例えば、後述の第3実施例に記載のように、送信パルス信号と受信パルス信号とを排他的論理和回路(イクスクルーシブオア回路;以下、XOR回路と記載する)に入力して、各パルス信号の信号レベルが異なるときにXOR回路からHighレベルの信号を出力させ、更に、この出力を、積分回路にて積分し、その積分値(換言すれば、位相差に応じた電圧レベル)から、位相差を求めるようにしてもよい。
【0034】
しかし、第2時間計測手段を、XOR回路と積分回路とを用いて構成した場合、積分回路による積分値(電圧レベル)は非線形であるため、この積分値から位相差を求めるには、別途、換算用のデータが必要となり、得られる位相差に、誤差が生じ易くなる。また、積分回路により得られる積分値はアナログ電圧であり、この電圧値から、位相差を表すデジタルデータを求めるには、別途A/D変換器が必要になるため、回路構成も複雑になってしまう。
【0035】
そこで、第2時間計測手段を、位相差を高精度に求めることができ、しかも、デジタル回路だけで簡単に実現できるようにするには、請求項4に記載のように構成するとよい。
即ち、請求項4記載の発明は、請求項3記載の距離測定装置において、第2時間計測手段を、相関算出手段が相関値を算出する一周期時間よりも短い遅延時間を有する遅延素子を多数縦続接続してなる遅延素子群と、遅延素子数検出手段とから構成したことを特徴とする。そして、この第2時間計測手段では、送信パルス遅延手段から送信パルス信号が出力されると、これを遅延素子群に入力することにより、遅延素子群内で、送信パルス信号を、入力側遅延素子から端末側遅延素子へと順に伝送させ、その後、受信手段から出力された受信パルス信号を受けると、遅延素子数検出手段により、そのとき遅延素子群内で送信パルス信号を既に端末側に伝送した遅延素子の数を検出し、その検出した遅延素子の個数からパルス信号の位相差を計測する。
【0036】
つまり、送信パルス信号と受信パルス信号との位相差は、送信パルス信号が入力されてから、次に受信パルス信号が入力されるまでの時間であることから、送信パルス信号が入力されると、これを、遅延素子群を構成する遅延素子を使って順次伝送させ、その後、受信パルス信号が入力された時点で、送信パルス信号を端末側に伝送した遅延素子の個数を検出して、この個数と遅延素子一個当たりの遅延時間とから位相差を求めるのである。
【0037】
そして、請求項4記載の距離測定装置によれば、第2時間計測手段により、送信パルス信号と受信パルス信号との位相差を、遅延素子群を構成する遅延素子一個当たりの遅延時間を時間分解能として、極めて正確に測定することができる。また、第2時間計測手段を構成する遅延素子等の各部は、後述の第1実施例のように、各種論理回路を用いて実現でき、積分回路やA/D変換器等のアナログ信号を処理するための回路を必要としないので、容易に実現できる。
【0038】
一方、第2時間計測手段は、既述したようにノイズの影響を受け易く、第2時間計測手段がノイズの影響を受けて送信パルス信号と受信パルス信号との位相差を正確に検出できない場合には、距離算出手段で求められる距離の分解能は、相関算出手段が送・受信符号の相関値を算出する際の一周期時間で決定されることになる。このため、相関算出手段が相関値を算出する周期は、できるだけ短くすることが望ましい。
【0039】
しかし、従来のスペクトル拡散方式の距離測定装置では、擬似ランダム雑音符号発生手段が擬似ランダム雑音符号を生成する基準クロックをそのまま用いて相関算出手段における送・受信符号の相関値計算を行うようにしているため、相関算出手段における相関値計算の周期は、送信手段が擬似ランダム雑音符号で変調した電磁波を送信可能な周期に制限され、相関算出手段における相関値計算の周期を短くして、第1時間計測手段による計測時間の時間分解能を高めることは困難であった。特に、電磁波がレーザ光で、送信手段にレーザダイオードを用いる場合には、レーザダイオードの駆動周波数の上限のために、時間分解能を高めることは困難であった。
【0040】
そこで、第2時間計測手段がノイズの影響を受けて位相差を正確に計測できないときの距離測定精度を高めるために、相関算出手段における相関値計算の周期を短くするには、相関算出手段を、請求項5に記載のように構成するとよい。
即ち、請求項5記載の距離測定装置において、相関算出手段は、擬似ランダム雑音符号発生手段が発生する擬似ランダム雑音符号の周期を決定する基準クロックを逓倍した逓倍クロックに同期して相関値を算出する。このため、請求項5記載の距離測定装置によれば、擬似ランダム雑音符号の1ビット当たりの周期を短くすることなく、相関値の計算周期を短くして、第1時間計測手段による計測時間の時間分解能を小さくできる。
【0041】
よって請求項5記載の距離測定装置によれば、送信手段の擬似ランダム雑音符号に対する応答速度を高めることなく、第1時間計測手段による計測時間の時間分解能を小さくして、第2時間計測手段がノイズの影響を受けて正常動作しないときの距離測定精度を高めることができる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明が適用された第1実施例のスペクトル拡散方式の距離測定装置全体の構成を表す構成図である。
【0043】
図1に示す如く、本実施例の距離測定装置は、例えば、自動車に搭載されて、前方を走行する他の車両までの距離を測定するためのものであり、所定周波数(本実施例では、20MHz)の基準クロックを発生する基準クロック発振器10と、基準クロックに同期して、所定ビット長(数十ビット)の擬似ランダム雑音符号(本実施例ではM系列符号)或いは単パルス信号を発生するパルス発生部12と、パルス発生部12が発生したM系列符号或いは単パルス信号により振幅変調した電磁波(本実施例ではレーザ光)を車両前方に向けて送信する、送信手段としての送信部14とを備える。
【0044】
送信部14は、レーザ光を車両前方に向けて出射するレーザダイオードLDと、レーザダイオードLDの通電経路に設けられ、この経路をオン・オフすることにより、レーザダイオードLDへの通電・非通電(換言すれば、レーザ光の出射・停止)を切り換える駆動トランジスタ(本実施例ではnチャネルMOSFET)Trと、パルス発生部12からの出力がHighレベルであるとき駆動トランジスタTrをオンさせ、パルス発生部12からの出力がLow レベルであるとき駆動トランジスタTrをオフさせる駆動回路14aとから構成される。
【0045】
このため、パルス発生部12からM系列符号が出力されると、駆動回路14aは、M系列符号の値「1」(信号レベル;High),「0」(信号レベル;Low )に従い駆動トランジスタTrをオン・オフさせ、レーザダイオードLDからは、M系列符号にて振幅変調されたレーザ光が出射されることになる。また、パルス発生部12から単パルス信号(Highレベル)が出力されると、駆動回路14aは、その出力期間中、駆動トランジスタTrをオンさせて、レーザダイオードLDからレーザ光を出射させる。
【0046】
尚、M系列符号入力時に送信部14から出力されるレーザ光は、M系列符号が値「1」であるとき振幅が最大となり、M系列符号が値「0」であるとき振幅が最小(零)となることから、M系列符号により振幅変調された電磁波である。また、パルス発生部12は、後述するマイクロコンピュータ(以下、単にマイコンという)30から制御信号を受けて、M系列符号又は単パルス信号を発生する。
【0047】
次に、距離測定装置には、送信部14が車両前方に送信(出射)したレーザ光が対象物(車両前方を走行中の先行車両)に当たって反射してくる反射波を受信するための受信部16と、受信部16からの受信信号を増幅する増幅器18と、増幅器18により増幅された受信信号と予め設定された基準電圧Vref とを比較し、受信信号が基準電圧Vref よりも大きいときにHighレベルとなり、受信信号が基準電圧Vref 以下であるときLow レベルとなる2値信号を出力するコンパレータ20とが備えられる。
【0048】
尚、受信部16は、抵抗Rを介して電源ラインに逆バイアス状態で接続されたフォトダイオードPDを備え、フォトダイオードPDにレーザ光が入射することにより流れた光電流を、抵抗Rを介して電圧値として検出するものである。そして、本実施例では、この受信部16と増幅器18とコンパレータ20とが、受信手段として機能する。
【0049】
次に、コンパレータ20から出力される2値信号は、マッチドフィルタ22に入力される。マッチドフィルタ22は、パルス発生部12が発生した所定ビット長のM系列符号を送信符号としてラッチすると共に、コンパレータ20から出力される2値信号を、基準クロック(20MHz)に同期して順次取り込み、その取り込んだ2値信号を、M系列符号と同じビット長分だけ受信符号としてラッチし、このラッチした送信符号と受信符号との相関値を算出するものであり、相関算出手段として機能する。そして、このマッチドフィルタ22により算出された相関値は、基準クロックをカウントすることにより得られる計算時刻と共に、ピーク検出器24に入力される。
【0050】
尚、マッチドフィルタ22による相関値計算は、既述した従来のスペクトル拡散方式の距離測定装置と同様、ラッチした送・受信符号のビット毎に、例えば、ビットの値が一致していないときには相関値「−1」、ビットの値が一致しているときには相関値「1」、というように相関値を計算し、これらビット毎に求めた相関値の総和を算出することにより行われる。
【0051】
ピーク検出器24は、マッチドフィルタ22から入力される相関値が最大となる時刻を検出し、その検出した時刻と、パルス発生部12からのM系列符号の出力時刻とから、送信部14が送信したレーザ光が車両前方の対象物に当たって反射してくるのに要した時間(レーザ光の往復時間)を算出するものであり、第1時間計測手段として機能する。そして、このピーク検出器24にて得られた時間データ(以下、第1時間データという)D1は、マイコン30に入力される。
【0052】
マイコン30は、CPU,ROM,RAM等からなる周知のものであり、ピーク検出器24にて得られた第1時間データD1を用いて、車両前方の対象物までの距離を算出する。
ところで、マッチドフィルタ22は、基準クロックで相関値計算を行うことから、第1時間データD1だけで距離を算出すると、距離分解能が基準クロックの一周期時間で決まる。そして、本実施例では、基準クロックが20MHzであるので、距離分解能は、既述したように7.5mとなり、第1時間データD1から求められる距離に対して、実際の距離は、±3.75mの誤差が生じる。
【0053】
そこで、本実施例では、こうした距離の測定誤差をより小さくするために、パルス発生部12から所定パルス幅(例えば、基準クロック一周期時間分)の単パルス信号(Highレベル)を発生させることにより、送信部14から、その単パルス信号に対応したレーザ光を出射させ、このレーザ光が対象物に当たって反射してくる反射光から得られる単パルス信号(以下、受信パルス信号という)と、レーザ光出射時の単パルス信号(以下、送信パルス信号という)との位相差を、マッチドフィルタ22の計算周期△Tよりも短い時間分解能(本実施例では、1nsec.以下の時間分解能)で計測し、この計測した位相差を、第1時間データD1の誤差分を補正する第2時間データD2として、マイコン30に出力するようにされている。
【0054】
即ち、本実施例の距離測定装置には、上記構成に加えて、ピーク検出器24にて得られた第1時間データD1に対応して、第1時間データD1からマッチドフィルタ22の計算周期△Tを減じた時間Td1だけ、パルス発生部12から出力された送信パルス信号を遅延させる、送信パルス遅延手段としての遅延部40と、この遅延部40を通過した送信パルス信号と、コンパレータ20から出力される2値信号(受信パルス信号)との位相差を、マッチドフィルタ22の計算周期よりも短い時間分解能で計測する、第2時間計測手段としての時間A/D変換部50とが備えられている。
【0055】
ここで、遅延部40は、パルス発生部12からの送信パルス信号を、基準クロック発振器10が発生する基準クロックに同期して順次遅延させるシフトレジスタ部42と、シフトレジスタ部42における遅延時間が、第1時間データD1よりもマッチドフィルタ22の計算周期△T分短い遅延時間Td1に達したときに、送信パルス信号を時間A/D変換部50側に出力されるように(図2参照)、シフトレジスタ部42を構成する多数の遅延要素42aの中から、遅延後の送信パルス信号を取り出す遅延要素42aを選択するセレクト部44とから構成され、セレクト部44は、CPU30からタイミング信号を受けて、第1時間データD1に対応した遅延時間Td1(=D1−△T)を設定する。尚、遅延部40の遅延時間Td1を、第1時間データD1からマッチドフィルタ22の計算周期△T分を減じた時間に設定するのは、本実施例装置に請求項3記載の発明を適用し、時間A/D変換部50に対して、送信パルス信号が、コンパレータ20からの受信パルス信号よりも必ず早く入力されるようにするためである。
【0056】
一方、時間A/D変換部50には、遅延部40からの送信パルス信号が、インバータ62及びAND回路64を介して、第2時間データD2計測用のスタート信号として入力され、コンパレータ20からの受信パルス信号が、第2時間データD2計測用のストップ信号として、インバータ66を介して入力される。尚、AND回路64は、マイコン30から第2時間データD2計測用の許可信号(Highレベル)が出力されているときに、この許可信号を受けて、時間A/D変換部50へのスタート信号の入力を許可するためのものである。
【0057】
また、時間A/D変換部50は、マッチドフィルタ22の計算周期よりも短い遅延時間(例えば、1nsec.)を有するm個の遅延素子(本実施例では遅延バッファ)52を縦続接続し、インバータ62及びAND回路64を介して入力されるスタート信号(送信パルス信号を反転した信号)を、入力側の遅延バッファ52から終段の遅延バッファ52へと伝送させる遅延バッファゲート54と、遅延バッファゲート54を構成する各遅延バッファ52の入力及び最終段の遅延バッファ52の出力に夫々接続されて、各接続点のレベルを、インバータ66を介して入力されるストップ信号(受信パルス信号を反転した信号)の立上がりに同期してラッチするm+1個のDフリップフロップ56と、これらm+1個のDフリップフロップ56の内、連続する前後2段のDフリップフロップ56の出力を夫々取り込み、取り込んだ2信号の排他的論理和をとるm個のXOR回路57と、m個のXOR回路57からの出力を取り込み、出力がHighレベルとなっているXOR回路57の位置(詳しくは、遅延バッファゲート54の入力段側からの接続段数)を検出し、その検出結果を、送信パルス信号と受信パルス信号との位相差を表す第2時間データD2としてマイコン30に出力するエンコーダ58とから構成されている。尚、Dフリップフロップ56は、リセット端子Rを備え、マイコン30が出力したリセット信号により、リセットできるようにされている。
【0058】
このように構成された時間A/D変換部50では、図2に示すように、遅延部40にて遅延された送信パルス信号がHighレベルからLow レベルに反転し、インバータ62及びAND回路64を介してスタート信号(Highレベル)が入力されると、この信号が、遅延バッファゲート54内で、入力側の遅延バッファ52から端末側へと順に伝送され、各遅延バッファ52の出力は、初期状態であるLow レベルからHighレベルへと、各遅延バッファ52の遅延時間毎に順に反転する。また、コンパレータ20から出力される受信パルス信号がHighレベルからLow レベルに反転し、インバータ66を介してストップ信号(Highレベル)が入力されると、各Dフリップフロップ56が、各遅延バッファ52前後の接続点の信号レベルをラッチし、エンコーダ58が、出力がHighレベルとなっているXOR回路57の位置を検出する。
【0059】
これは、各遅延バッファ52の出力が反転するのに要する時間は、各遅延バッファ52の遅延時間であり、ストップ信号の入力タイミングで、入出力レベルがHighレベルとなっている遅延バッファ52の数を検出すれば、その数と、各遅延バッファ52の遅延時間とから、スタート信号が入力されてからストップ信号が入力されるまでの時間Td2(換言すれば送信パルス信号と受信パルス信号との位相差)を求めることができるためである。
【0060】
そして、本実施例では、各遅延バッファ52の遅延時間が、マッチドフィルタ22の計算周期よりも充分短い1nsec.以下であることから、エンコーダ58からマイコン30に出力される第2時間データD2は、送信パルス信号と受信パルス信号との位相差Td2を1nsec.以下の時間分解能で計測したデータとなる。
【0061】
尚、本実施例において、時間A/D変換部50を構成する遅延バッファゲート54は、請求項4記載の第2計測手段を構成する遅延素子群として機能し、同じく、Dフリップフロップ56,XOR回路57,エンコーダ58は、遅延素子数検出手段として機能する。
【0062】
次に、図3は、上記のように構成された本実施例の距離測定装置において、マイコン30が距離測定のために繰り返し実行する距離測定処理を表す。
この処理が開始されると、まずS110(Sはステップを表す)にて、AND回路64の一方の入力端子に、時間A/D変換部50へのスタート信号の入力を禁止するLow レベルの信号を出力し、ピーク検出器24を、その後マッチドフィルタ22から出力される相関値のピークを検出可能な状態に初期化することにより、当該距離測定装置の動作モードを、第1時間計測モードに設定する。そして、続くS120では、パルス発生部12にM系列符号の発生指令を出力することにより、パルス発生部12から所定ビット長のM系列符号を出力させる。尚、本実施例では、このS120の処理と、S120の処理によってM系列符号を発生するパルス発生部12とが、擬似ランダム雑音符号発生手段として機能する。
【0063】
S120の処理が実行されると、送信部14が、パルス発生部12からのM系列符号を受けて、M系列符号にて振幅変調したレーザ光を出射する。そして、この出射したレーザ光の反射光が受信部16で受信(受光)されると、マッチドフィルタ22にて計算される相関値が大きくなって、ピーク検出器24が、その相関値が最大となる時刻から、レーザ光が対象物に当たって反射してくるのに要した往復時間を求め、その計算結果を第1時間データとして出力する。このため、続くS130では、ピーク検出器24から第1時間データD1が出力されるのを待ち、第1時間データD1が出力されると、これを距離算出用のデータとして読み込む。
次に、S140では、時間A/D変換部50にリセット信号を出力して、各Dフリップフロップ56をリセットする(出力をLow レベルにする)と共に、遅延部40にタイミング信号を出力して、遅延部40のセレクト部44に第1時間データD1に対応した遅延時間Td1を設定させ、更に、AND回路64の一方の入力端子に、時間A/D変換部50へのスタート信号の入力を許可するHighレベルの信号を出力することにより、距離測定装置の動作モードを第2時間計測モードに設定する。
【0064】
そして、続くS150では、パルス発生部12に対して単パルス信号の発生指令を出力することにより、パルス発生部12から、基準クロック一周期時間分のパルス幅を有する単パルス信号(送信パルス信号)を発生させる。尚、本実施例では、このS150の処理と、S150の処理によって送信パルス信号(Highレベル)を発生するパルス発生部12とが、送信パルス発生手段として機能する。
【0065】
S150の処理が実行されると、送信部14が、パルス発生部12からの送信パルス信号を受けてレーザ光を出射する。また、パルス発生部12からの送信パルス信号は、遅延部40にて遅延された後、インバータ62,AND回路64を介して、時間A/D変換部50にスタート信号として入力される。また、送信部14が出射したレーザ光の反射光が受信部16で受信(受光)されると、コンパレータ20から受信パルス信号が出力される。そして、この受信パルス信号は、インバータ66を介して、時間A/D変換部50にストップ信号として入力され、時間A/D変換部50からはスタート信号とストップ信号との時間差(送信パルス信号と受信パルス信号との位相差)を表す第2時間データD2が出力される。
【0066】
このため、続くS160では、時間A/D変換部50から第2時間データD2が出力されるのを待ち、第2時間データD2が出力されると、これを距離算出用のデータとして読み込む。
次に、S170では、時間A/D変換部50による第2時間データD2の計測をn回行ったか否かを判断し、n回行っていなければ、再度S150,S160を実行して、第2時間データD2の計測を行う。そして、第2時間データD2の計測をn回行うと、S180に移行し、n回の計測で得られたn個の第2時間データD2の平均値を求める平均化処理を行う。尚、S170及びS180の処理は、距離計算に使用する第2時間データD2の計測誤差を抑えるための処理であり、請求項2記載の発明を実現している。
【0067】
そして、このように第2時間データD2の平均値が求められると、続くS190にて、この第2時間データD2の平均値と、S130で読み込んだ第1時間データD1とに基づき、例えば下記の手順で対象物までの距離を算出する、距離算出手段としての処理を実行し、当該処理を一旦終了する。
【0068】
即ち、S190においては、例えば、第1時間データD1及び第2時間データD2(詳しくは平均値)から実時間を算出して、各時間を加算し、その加算値からマッチドフィルタ22の計算周期△Tを減じることにより、レーザ光が距離測定装置と対象物との間を往復するのに要した実時間を求め、この時間と光の速度とから、対象物までの距離を算出する、といった手順で行う。
【0069】
ここで、第1時間データD1及び第2時間データD2から得られた実時間の加算値からマッチドフィルタ22の計算周期△Tを減じることにより、レーザ光の往復時間を求めるのは、遅延部40の遅延時間を、第1時間データD1からマッチドフィルタ22の計算周期△Tを減じた時間に設定しており、時間A/D変換部50で得られる第2時間データD2は、マッチドフィルタ22の計算周期△T(換言すれば第1時間データD1の時間分解能)よりも短い誤差分に、その計算周期△T分の時間を加えた値となっているためである。そして、距離計算の方法は、例えば、第1時間データD1,第2時間データD2から距離を求めて、加算する方法等、種々の方法があるので、本発明を適用するシステムに最適な方法を適宜設定すればよい。
【0070】
以上説明したように、本実施例の距離測定装置においては、M系列符号にて振幅変調したレーザ光を送受信し、送・受信符号の相関値を計算することにより、レーザ光が当該装置と対象物との間を往復するのに要した時間(第1時間データD1)を計測すると共に、更に、第1時間データD1の誤差分を、送受信した単パルス信号の位相差(第2時間データD2)を時間A/D変換部50を用いて計測し、これら各計測結果から対象物までの距離を求める。
【0071】
このため、本実施例の距離測定装置において、測定した距離の距離分解能は、時間A/D変換部50を構成する遅延バッファ52の遅延時間(1nsec.以下)で決まり、この遅延時間が1nsec.であるとすると、距離分解能は、15cmとなる。よって、従来装置のように、基準クロック20MHzで計測した第1時間データD1だけで距離を求めるようにした場合(この場合、距離分解能は7.5mとなる)に比べ、測定距離の距離分解能を極めて小さくすることができ、距離の測定精度を向上できる。
【0072】
また、基準クロックを高めることなく、距離の測定精度を向上することができるので、送信部14,受信部16,マッチドフィルタ22,ピーク検出器24等、スペクトル拡散方式の距離測定を実現する部分については、高速動作可能な特性のものに変更する必要はない。つまり、本実施例の距離測定装置は、従来装置に対して、IC化が容易なデジタル回路で実現し得る遅延部40,時間A/D変換部50等を追加するだけで実現できる。よって、本実施例によれば、従来装置に比べて、大幅なコストアップを招くことなく、極めて高精度な距離測定装置を実現できる。
【0073】
また、本実施例の距離測定装置は、基本的には、M系列符号を用いたスペクトル拡散方式の距離測定装置であり、送・受信パルス信号の位相差(第2時間データD2)は、スペクトル拡散方式で計測した時間(第1時間データD1)の計測誤差を修正するのに使用するだけであるので、測定結果がノイズの影響を受けて大きくばらつくといったことはなく、装置の信頼性も確保できる。特に、本実施例では、請求項2記載の発明を適用することにより、ノイズの影響を受け易い第2時間データD2についてはn回連続して計測し、その平均値を使って距離を計算するようにしていることから、耐ノイズ性をより向上できる。
【0074】
尚、本実施例において、測定距離の距離分解能を決定するのは、時間A/D変換部50を構成する遅延バッファ52であるが、この遅延バッファ52の遅延時間が温度等の環境変化によって変動すると、数cm程度ではあるが、距離の測定結果にばらつきが生じることになる。このため、測定精度をより向上するには、例えば、M系列符号を用いた第1時間データD1計測時等に定期的に、基準パルスを使って、遅延素子(遅延バッファ)一段当たりの遅延時間を学習するようにするとよい。具体的には、例えば、基準パルスの立上がりタイミングと立下がりタイミングとで、夫々、スタート信号とストップ信号とを入力し、基準クロック一周期当たりの時間を計測させ、その計測結果(詳しくは、スタート信号を伝送した遅延素子の個数)と基準クロックの一周期時間とから、遅延素子1段当たりの遅延時間を求めるようにすればよい。
【0075】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、図4は、請求項5記載の発明が適用された、第2実施例の距離測定装置全体の構成を表す。
【0076】
この距離測定装置は、第1実施例の距離測定装置に、基準クロック発振器10からの基準クロックを受けて、基準クロックよりも5倍の周波数(100MHz)でクロック(以下、逓倍クロックという)を発生する逓倍クロック発振器70を設け、マッチドフィルタ22及び遅延部40を、基準クロックに代えて、逓倍クロック発振器70が発生した逓倍クロックで動作させるようにしたものであり、他の構成及び動作は第1実施例の距離測定装置と全く同様である。
【0077】
そして、このように構成された第2実施例の距離測定装置においては、マッチドフィルタ22が逓倍クロック発振器70から出力される逓倍クロックで動作し、図5に示すように、相関値の計算周期△tが第1実施例の周期△Tの5分の1となることから、送・受信符号が一致して、相関値が最大となるピーク時刻tp0を、第1実施例で得られるピーク時刻tp1よりも、より正確に求めることができるようになる。つまり、図4に示した第2実施例の距離測定装置によれば、マッチドフィルタ22を基準クロックの周波数を5倍にした逓倍クロックで動作させることから、第1時間データD1の時間分解能を、第1実施例に比べて5分の1にすることができる。
【0078】
従って、図4に示した第2実施例の距離測定装置によれば、第1実施例と同様の効果が得らるだけでなく、第2時間データD2の計測時に、時間A/D変換部50がノイズの影響を受けて、第2時間データD2を正確に計測できなくなった場合の距離分解能を、第1実施例の距離分解能(7.5m)よりも小さい1.5mにすることができ、第2時間データD2計測不能時の距離測定精度を向上することができる。
【0079】
尚、逓倍クロックを、マッチドフィルタ22だけでなく、遅延部40にも出力して、遅延部40を逓倍クロックで動作させるのは、ピーク検出器24で得られる第1時間データD1の時間分解能と、遅延部40にて実現可能な遅延時間の時間分解能とを一致させるためである。
【0080】
一方、図6は、第3実施例の距離測定装置全体の構成を表している。
この距離測定装置は、第2実施例の距離測定装置において、時間A/D変換部50の代わりに、遅延部40から出力される送信パルス信号とコンパレータ20から出力される受信パルス信号との位相差を、電圧に変換する時間電圧変換部80を設け、マイコン30側で、時間電圧変換部80にて得られた電圧から、送受信パルスの位相差を表す第2時間データD2を求めるようにしたものである。
【0081】
ここで、時間電圧変換部80は、送信パルス信号と受信パルス信号との排他的論理和をとるXOR回路82と、XOR回路82からの出力を積分する、抵抗84及びコンデンサ86からなる積分回路と、この積分回路からの出力電圧をデジタルデータ(第2時間計測電圧)DV2に変換するA/D変換器88とから構成される。
【0082】
尚、図6に示すように、コンパレータ20からの受信パルス信号は、AND回路72を介してXOR回路82に入力されるが、これは、パルス発生部12から単パルス信号を発生させて、遅延部40から遅延後の送信パルス信号(Highレベル)が出力されるまでの間に、XOR回路82の受信パルス信号入力用端子にコンパレータ20から出力されるHighレベルの信号が入力されて、XOR回路82の出力がHighレベルとなり、積分回路を構成するコンデンサ86に不要な電荷が充電されるのを、マイコン30側からの出力によって防止できるようにするためである。
【0083】
また、本実施例では、マイコン30は、後述する距離測定処理に従い、第2時間データD2計測用の送信パルス信号として、パルス発生部12から一定周期で複数個の単パルス信号を連続して出力させる。
このため、図7に示すように、時間電圧変換部80には、遅延部40を介して、一定周期で複数の送信パルス信号が繰り返し入力されると共に、この送信パルス信号に遅れて、AND回路72から複数の受信パルス信号が繰り返し入力されることになる。
【0084】
そして、時間電圧変換部80では、このように入力される送信パルス信号と受信パルス信号との信号レベルが異なる期間だけ、XOR回路82からHighレベルの信号が出力され、この信号にて積分回路を構成するコンデンサ86が充電されることになる。そして、コンデンサ86の充電電圧(積分回路出力)は、各パルス信号が入力されるに従い増加し、その電圧値が、第2時間計測電圧DV2として、A/D変換器88を介してマイコン30に取り込まれる。
【0085】
一方、マイコン30は、距離測定処理を図8に示す如く実行する。
即ち、まずS210にて、AND回路72の一方の入力端子に、時間電圧変換部80への受信パルス信号(Highレベル)の入力を禁止するLow レベルの信号を出力し、ピーク検出器24を初期化することにより、当該距離測定装置の動作モードを、第1時間計測モードに設定する。そして、続くS220では、パルス発生部12にM系列符号の発生指令を出力することにより、パルス発生部12から所定ビット長のM系列符号を出力させて、送信部14から第1時間データD1計測用のレーザ光を出射させ、続くS230にて、ピーク検出器24から第1時間データD1を読み込む。
【0086】
次に、S240では、遅延部40にタイミング信号を出力して遅延時間Td1を設定させ、AND回路72に受信パルス信号の入力を許可するHighレベルの信号を出力することにより、距離測定装置の動作モードを第2時間計測モードに設定する。そして、続くS250では、パルス発生部12から、送信パルス信号として複数個の単パルス信号を一定周期で送信させ、S260にて、遅延部40による送信パルス信号の遅延時間Td1が経過した時刻から、更に一定時間経過した時点で、A/D変換器88を介して、第2時間計測電圧DV2を読み込む。
【0087】
次にS270では、S260で読み込んだ第2時間計測電圧DV2を、送・受信パルス信号の位相差(時間)を表す第2時間データD2に変換する。尚、このデータ変換には、予めROM内に格納された変換用のマップが用いられる。これは、時間電圧変換部80により得られる第2時間計測電圧DV2が、位相差に対して、非線形な特性を有するためである。
【0088】
こうして、第2時間データD2が求められると、今度は、S280に移行し、S250〜S270による第2時間データD2の計測処理をn回行ったか否かを判断する。そして、第2時間データD2の計測処理をn回行っていなければ、再度S250〜S270を実行し、逆に第2時間データD2の計測処理をn回行っておれば、S290に移行して、n個の第2時間データD2の平均値を求め、続くS300にて、第1時間データD1と第2時間データD2の平均値とに基づき、対象物までの距離を算出する。
【0089】
このように、第3実施例の距離測定装置では、送・受信パルス信号の位相差を、時間A/D変換部50を使用して直接デジタルデータ(第2時間データD2)に変換するのではなく、時間電圧変換部80にて一旦電圧値に変換し、マイコン30側で、その電圧値から第2時間データD2を求めるようにしている。このため、本実施例の距離測定装置においても、第1実施例及び第2実施例の距離測定装置と同様、距離の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1実施例の距離測定装置全体の構成を表す構成図である。
【図2】 時間A/D変換部への入力信号及びその動作を説明するタイムチャートである。
【図3】 第1実施例のマイコンにて実行される距離測定処理を表すフローチャートである。
【図4】 第2実施例の距離測定装置全体の構成を表す構成図である。
【図5】 第2実施例の相関値のピーク検出精度を第1実施例と比較して説明する説明図である。
【図6】 第3実施例の距離測定装置全体の構成を表す構成図である。
【図7】 時間電圧変換部への入力信号及びその動作を説明するタイムチャートである。
【図8】 第3実施例のマイコンにて実行される距離測定処理を表すフローチャートである。
【符号の説明】
10…基準クロック発振器、12…パルス発生部、14…送信部、16…受信部、18…増幅器、20…コンパレータ、22…マッチドフィルタ、24…ピーク検出器、30…マイコン、40…遅延部、50…時間A/D変換部、52…遅延バッファ、54…遅延バッファゲート、56…Dフリップフロップ、57…XOR回路、58…エンコーダ、70…逓倍クロック発振器、80…時間電圧変換部。

Claims (5)

  1. 基準クロックに同期して、所定ビット長の擬似ランダム雑音符号を発生する擬似ランダム雑音符号発生手段と、
    該擬似ランダム雑音符号発生手段が発生した擬似ランダム雑音符号により変調した電磁波を送信する送信手段と、
    該送信手段が送信した電磁波が対象物に当たって反射してくる反射波を受信し、2値信号に復調する受信手段と、
    前記受信手段により復調された2値信号と前記送信手段が前記電磁波の変調に用いた擬似ランダム雑音符号との相関値を、前記基準クロックに同期した一定周期で算出する相関算出手段と、
    該相関算出手段にて算出された相関値が最大となる時刻から、前記電磁波が前記対象物との間で往復するのに要した時間を計測する第1時間計測手段と、
    を備えた距離測定装置において、
    前記第1時間計測手段にて前記時間が計測されると、前記送信手段に送信用のパルス信号を出力して、前記送信手段から該送信パルス信号により変調した電磁波を送信させる送信パルス発生手段と、
    該送信パルス発生手段が発生した前記送信パルス信号を、前記第1時間計測手段が計測した前記時間に対応した遅延時間だけ遅延させる送信パルス遅延手段と、
    前記送信手段が前記送信パルス信号により送信した電磁波の反射波が前記受信手段にて受信・復調されることにより前記受信手段から2値信号として出力される受信パルス信号を取り込み、該受信パルス信号と、前記送信パルス遅延手段にて遅延された送信パルス信号との位相差を、前記相関算出手段が前記相関値を算出する周期よりも短い時間分解能で計測する第2時間計測手段と、
    前記第1時間計測手段にて計測された時間と、前記第2時間計測手段にて計測された前記パルス信号の位相差とに基づき、前記対象物までの距離を算出する距離算出手段と、
    を備えたことを特徴とする距離測定装置。
  2. 前記送信パルス発生手段は、前記送信パルス信号の発生後、前記第2時間計測手段が前記位相差を計測すると、再度送信パルス信号を発生することにより、前記送信パルス信号を複数回発生し、
    前記距離算出手段は、前記パルス信号発生手段がパルス信号を発生する度に前記第2時間計測手段にて計測された複数の位相差から、該位相差の平均時間を求め、該位相差の平均時間と、前記第1時間計測手段による計測時間とに基づき、前記対象物までの距離を算出することを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
  3. 前記送信パルス遅延手段は、前記第1時間計測手段により計測された時間から前記相関算出手段が前記相関値を算出する一周期時間を減じた時間を、前記遅延時間として、前記送信パルス信号を遅延することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の距離測定装置。
  4. 前記第2時間計測手段は、
    前記相関算出手段が前記相関値を算出する一周期時間よりも短い遅延時間を有する互いに縦続接続された多数の遅延素子からなり、前記送信パルス遅延手段からの送信パルス信号を入力側遅延素子から端末側遅延素子へと順に伝送する遅延素子群と、
    前記受信手段から出力された受信パルス信号を受けると、そのとき前記遅延素子群内で前記送信パルス信号を既に端末側に伝送した遅延素子の数を検出する遅延素子数検出手段と、
    を備え、該遅延素子数検出手段にて検出された遅延素子の個数から、前記パルス信号の位相差を計測することを特徴とする請求項3記載の距離測定装置。
  5. 前記相関算出手段は、前記擬似ランダム雑音符号発生手段が発生する擬似ランダム雑音符号の周期を決定する前記基準クロックを逓倍した逓倍クロックに同期して前記相関値を算出することを特徴とする請求項1〜請求項4いずれか記載の距離測定装置。
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