JP3894811B2 - 軸流型タービンのタービン翼型およびタービン翼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、前縁および後縁間に正圧を発生する腹面および負圧を発生する背面を備えた軸流型タービンのタービン翼型と、そのタービン翼型を適用したービン翼とに関する。
【0002】
【従来の技術】
図8には、従来の軸流型タービンのタービン翼Sにおける後縁部の一般的な形状が示される。即ち、円で囲ったタービン翼Sの後縁部は、後縁半径rを有する円弧面Stと、円弧面Stの上端から前縁LE側に延びてタービンの運転時に主として負圧を発生する背面Suと、円弧面Stの下端から前縁LE側に延びてタービンの運転時に主として正圧を発生する腹面Slとを備えており、円弧面StとキャンバーラインCLとの交点としてタービン翼Sの後縁TEが規定される。従って、従来のタービン翼Sの後縁TEは尖端をなしておらず、後縁半径rを有する円弧面St上の点として規定される。
【0003】
また、タービン翼の後縁部の形状に関する発明として、特開昭57−113906号公報、特開平7−332007号公報、特開平9−125904号公報に記載されたものが公知である。
【0004】
特開昭57−113906号公報に記載されたタービン翼は、後縁部を背面側に湾曲させた構成、あるいは後縁部における背面側の曲率を腹面側の曲率よりも大きくした構成を備えており、この構成により遷音速下における衝撃波の発生をコントロールしてタービン翼に加わる加重の軽減および圧力損失の低減を図っている。
【0005】
また特開平7−332007号公報に記載されたタービン翼は後縁部に波状の凹凸を形成したもので、この構成によりタービンの半径方向の流れ分布を干渉し易くし、ウエイクによる速度欠損割合を低減してタービン各段の流れ性能の向上を図っている。
【0006】
また特開平9−125904号公報に記載された蒸気タービンのタービン翼は後縁部における背面を直線状に切り欠いたもので、この構成により蒸気流による加振や蒸気流内の異物によるエロージョンに対する耐性を確保しながら、圧力損失の低減を図っている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、図8に示す従来の軸流型タービンのタービン翼Sは、翼表面に沿う流速が高亜音速であって衝撃波が発生しない状態では充分な性能を発揮するが、後縁部における流速が音速に達すると、該後縁部の復面Sl側および背面Su側からそれぞれ発生する衝撃波SWl,SWuが性能低下の要因となる問題がある。即ち、後縁部の腹面Sl側から発生した衝撃波SWlは隣接するタービン翼Sの背面Su側の境界層と干渉して圧力損失が発生する要因となり、また後縁部の背面Su側から発生した衝撃波SWuは下流段のタービンの翼列に歪みや変形をもたらしてタービン全体の性能向上を困難なものとする。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、軸流型タービンのタービン翼の後縁部から発生する衝撃波を最小限に抑えてタービンの性能を向上させることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、前縁および後縁間に正圧を発生する腹面および負圧を発生する背面を備えた軸流型タービンのタービン翼型において、後縁は尖端をなしており、腹面の後部に後縁に連なる平坦面を有するとともに、この平坦面に対応する背面の少なくとも一部に湾曲面を有しており、前記平坦面は後縁半径を有する円に外接し、かつ前記湾曲面は該円の一部を構成するか該円に外接し、更に後縁における腹面および背面の交差角は、直角ないし鋭角であることを特徴とする軸流型タービンのタービン翼型が提案される。
【0010】
上記構成によれば、タービン翼型の後縁を尖端状とし、腹面の後部に後縁に連なる平坦面を形成するとともに、平坦面に対応する背面の少なくとも一部に湾曲面を形成し、前記平坦面は後縁半径を有する円に外接し、かつ前記湾曲面は該円の一部を構成するか該円に外接するので、後縁部における腹面側から背面側へのガスの回り込みを抑制して後縁部の腹面側に発生する衝撃波を緩和し、圧力損失を最小限に抑えることができる。しかも後縁における腹面および背面の交差角を直角ないし鋭角としたので、後縁部の背面の湾曲度合を小さくして流速を低下させ、背面側に発生する衝撃波を緩和して圧力損失を更に低減することができる。
【0011】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1に記載のタービン翼型を、タービン翼のスパン方向の少なくとも一部に適用した軸流型タービンのタービン翼が提案される。 上記構成によれば、本発明のタービン翼型と既存のタービン翼型とを適宜併用してタービン翼の設計自由度を高めることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。 図1〜図5は本発明の実施例を示すもので、図1は軸流型タービンのタービン翼型およびその後縁部の拡大図、図2は翼弦に沿う腹面および背面の流速分布を示すグラフ、図3はマッハ数に対する圧力損失の変化を示すグラフ、図4はタービン翼のまわりの流れの様子を可視化した図、図5は図4の5部拡大図である。
【0013】
図1に示すタービン翼Sは軸流型タービンの環状のガス通路に配置されてタービン翼列を構成するもので、その左端の前縁LEと右端の後縁TEとの間に、ガスの流れに伴って正圧を発生する腹面Sl(正圧面)と、ガスの流れに伴って負圧を発生する背面Su(負圧面)とを備える。円内に拡大して示すように、タービン翼Sの後縁部において腹面Slには平坦面1が形成されており、この平坦面1の後端に鋭く尖った後縁TEが形成される。平坦面1の長さはタービン翼Sの翼弦長の約20%に達している。一方、タービン翼Sの後縁部において背面Suは湾曲面2および平坦面3を介して後縁TEに連なっている。湾曲面2は後縁部に内接する後縁半径rの円の一部から成り、また平坦面3は前記湾曲面2に外接している。そして腹面Slの直線部1と背面Suの直線部3とが成す交差角αは直角に設定される。背面Suの湾曲面2は比較的に狭い領域、つまり腹面Slの平坦面1の範囲内に納まるように配置される。従って、図1に示す本実施例のタービン翼Sの後縁部は、従来のタービン翼Sの後縁部(つまり図8に示す後縁半径rを有する円弧)の後方に斜線を施した部分を付加したものに相当する。
【0014】
以上のことから、軸流型タービンの運転時にタービン翼Sの後縁部でガスの流速が超音速に達すると、その後縁部から斜め後下方に向かう衝撃波SWlと、斜め後上方に向かう衝撃波SWuとが発生する。図4および図5には、本実施例のタービン翼Sの後縁部において発生する衝撃波SWl,SWuの状態が示されている。また図6および図7には、従来のタービン翼S(図8参照)の後縁部において発生する衝撃波SWl,SWuの状態が示されている。
【0015】
後縁部から斜め後下方に向かう衝撃波SWlは腹面Sl側に隣接するタービン翼Sの背面Suに衝突し、その背面Suに沿って形成された境界層と前記衝撃波SWlとが干渉して圧力損失が発生してしまう。しかしながら、本実施例によれば、タービン翼Sの腹面Slの後部に後縁TEに連なる平坦面1を形成し、かつ後縁TEを曲率半径が極めて小さい尖端形状としたことにより、腹面Sl側から後縁TEを通って背面Su側へのガスの回り込みを抑制し、斜め後下方に向かう衝撃波SWlの発生を緩和して圧力損失を最小限に抑えることができる。
【0016】
またタービン翼Sの背面Su側においても、ガスの流速が低下して斜め後上方に向かう衝撃波SWuの発生が緩和される。その結果、前記衝撃波SWuにより後段のタービン翼列に歪みや変形が発生することが防止され、タービン全体の性能向上が可能になる。
【0017】
図2には翼弦に沿う腹面Slおよび背面Suの流速分布が示される。従来のタービン翼Sと本実施例のタービン翼Sとを比較すると明らかなように、タービン翼Sの腹面Sl側では、従来のものに比べて後縁TEの極近傍における流速のピークが減少しており、後縁部から斜め後下方に向かう衝撃波SWlが緩和されていることが推測される。またタービン翼Sの背面Su側では、従来のものに比べて後縁TEの僅かに前方位置における流速のピークが減少しており、後縁部から斜め後上方に向かう衝撃波SWuが緩和されていることが推測される。
【0018】
図3にはマッハ数に応じて変化する圧力損失が示される。従来のタービン翼Sと本実施例のタービン翼Sとを比較すると明らかなように、マッハ数が1.0のときの従来のタービン翼Sの圧力損失を1.0とすると、マッハ数が1.0のときの本実施例のタービン翼Sの圧力損失は0.935に止まっており、圧力損失が6.5%低減している。この圧力損失低減効果は、マッハ数が0.6〜1.4の広い領域でほぼ同様に達成される。
【0019】
本発明のタービン翼Sの後縁部の形状は以下のように変形可能である。前述した第1実施例のタービン翼Sの後縁部の形状は、腹面Slの平坦面1と背面Suの平坦面3とが後縁TEにおいて交差する交差角αが直角に設定されているが、図1に破線で示すように、腹面Slの平坦面1と背面Suの平坦面4との交差角αを鋭角に設定しても良い(第2実施例)。また背面Suの湾曲面2と平坦面3との組み合わせ(第1実施例)、あるいは背面Suの湾曲面2と平坦面4との組み合わせ(第2実施例)に代えて、湾曲面2に接する円弧面よりなる湾曲面5を形成し、この湾曲面5の後端を後縁TEにおいて腹面Slの平坦面1の後端に交差させても良い(第3実施例)。この場合の交差角αは、後縁TEを通って湾曲面5に接する接線と平坦面1との成す角度として定義され、この交差角αも鋭角となる。
【0020】
上記第2実施例によれば、その湾曲面2の長さが第1実施例の湾曲面2の長さよりも短くなるため、また上記第3実施例によれば、その湾曲面5の曲率半径が第1実施例の湾曲面2の曲率半径よりも大きくなるため、タービン翼Sの背面Suの後部における流速の増加を抑制し、後縁部から斜め後上方に向かう衝撃波SWuを一層効果的に抑制することができる。以上のことから、この第2、第3実施例によれば、第1実施例を上回る10%程度の圧力損失低減効果を見込むことができる。
【0021】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0022】
例えば、第1、第2実施例の湾曲面2および第3実施例の湾曲面5は円弧面で構成されているが、それら湾曲面2,5は必ずしも円弧面である必要はない。また湾曲面2,5の翼弦方向の位置は実施例に限定されるものでなく、腹面Slの平坦面1に対応する背面Suの少なくとも一部に湾曲面が形成されていれば良い。
【0023】
また本発明のタービン翼Sは静翼および動翼の何れに対しても適用することができる。 また本発明による翼型は、タービン翼Sのスパン方向の全域に亘って採用しても良いし、スパン方向の一部だけに採用しても良い。即ち、タービン翼Sのスパン方向の一部に本発明のタービン翼型(例えば図1の翼型)を採用し、残りの部分に本発明以外のタービン翼型(例えば図8の翼型)を採用しても良い。これにより、本発明のタービン翼型と既存のタービン翼型とを適宜併用してタービン翼の設計自由度を高めることができる。
【0024】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、タービン翼型の後縁を尖端状とし、腹面の後部に後縁に連なる平坦面を形成するとともに、平坦面に対応する背面の少なくとも一部に湾曲面を形成し、前記平坦面は後縁半径を有する円に外接し、かつ前記湾曲面は該円の一部を構成するか該円に外接するので、後縁部における腹面側から背面側へのガスの回り込みを抑制して後縁部の腹面側に発生する衝撃波を緩和し、圧力損失を最小限に抑えることができる。しかも後縁における腹面および背面の交差角を直角ないし鋭角としたので、後縁部の背面の湾曲度合を小さくして流速を低下させ、背面側に発生する衝撃波を緩和して圧力損失を更に低減することができる。
【0025】
また請求項2に記載された発明によれば、本発明のタービン翼型と既存のタービン翼型とを適宜併用してタービン翼の設計自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 軸流型タービンのタービン翼型およびその後縁部の拡大図
【図2】 翼弦に沿う腹面および背面の流速分布を示すグラフ
【図3】 マッハ数に対する圧力損失の変化を示すグラフ
【図4】 タービン翼のまわりの流れの様子を可視化した図
【図5】 図4の5部拡大図
【図6】 従来のタービン翼のまわりの流れの様子を可視化した図
【図7】 図6の7部拡大図
【図8】 従来の軸流型タービンのタービン翼型およびその後縁部の拡大図
【符号の説明】
LE 前縁
TE 後縁
r 後縁半径
S タービン翼
Sl 腹面
Su 背面
1 平坦面
2 湾曲面
5 湾曲面
α 交差角
Claims (2)
- 前縁(LE)および後縁(TE)間に正圧を発生する腹面(Sl)および負圧を発生する背面(Su)を備えた軸流型タービンのタービン翼型において、
後縁(TE)は尖端をなしており、腹面(Sl)の後部に後縁(TE)に連なる平坦面(1)を有するとともに、この平坦面(1)に対応する背面(Su)の少なくとも一部に湾曲面(2,5)を有しており、前記平坦面(1)は後縁半径(r)を有する円に外接し、かつ前記湾曲面(2,5)は該円の一部を構成するか該円に外接し、更に後縁(TE)における腹面(Sl)および背面(Su)の交差角(α)は、直角ないし鋭角であることを特徴とする軸流型タービンのタービン翼型。 - 請求項1に記載のタービン翼型を、タービン翼(S)のスパン方向の少なくとも一部に適用した軸流型タービンのタービン翼。
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