JP3889524B2 - 新規アルカリプロテアーゼおよびその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なアルカリプロテアーゼ、その製造法及び該アルカリプロテアーゼ産生能を有する新規な好アルカリ性放線菌に関する。
【従来の技術】
アルカリプロテアーゼはタンパク質のペプチド結合をアルカリ領域において特異的に加水分解する酵素であり、食品、繊維、皮革、洗剤等の工業において広く利用されている。このようなアルカリプロテアーゼは糸状菌、酵母、細菌等の微生物により広く生産されることが知られており、またいわゆる好アルカリ性微生物と呼ばれる一群の微生物によっても生産される。
前述された好アルカリ性微生物から生産されるアルカリプロテアーゼとしては、いわゆる好アルカリ性バチルス属菌から得られる酵素(例えば、特公平7-63366 、特公平7-63367 、特公平7-63368 等)が多数既に知られており、主に洗剤用として開発が進められている。また、同様な好アルカリ性バチルス属菌から得られる耐熱性酵素として、AH-101株の生産するアルカリプロテアーゼ(特開平2-255087)およびB18-1 株の生産するアルカリプロテアーゼ(特公平7-63368 )等が知られている。しかしながら、同じ好アルカリ性微生物である好アルカリ性放線菌の産生するプロテアーゼについてはあまり知られておらず、わずかに好アルカリ性ストレプトマイセス属菌由来の酵素(Agr.Biol.Chem.,38 (1)37-44,1974)ならびに好アルカリ性サーモアクチノマイセス属HS682 株のアルカリプロテアーゼ(Biosci.Biotech.Biochem.,56(2),246-250,1992)等が報告されているにすぎない。
【0002】
一方、洗剤用にプロテアーゼを応用する場合、ケラチン等の不溶性タンパク質に対しても良好に作用する酵素が望ましいことが指摘されている(皆川基:繊消誌、第26巻,322頁,(1985) )。また、浴槽、風呂釜、浴床排水溝、循環浴槽の配管、便器あるいは洗面化粧台ドレインの洗浄剤にプロテアーゼを応用する場合では、30℃前後の中温で充分な活性を保持し、かつ毛髪、垢あるいは汚れなどのケラチンを代表とする不溶性タンパク質を強力に分解する能力が要求される。加えて、現状の洗剤および洗浄剤は、配合組成の関係からそのpHがアルカリ領域にあることから、これらに配合する酵素はアルカリプロテアーゼが最適である。
さらに、ケラチンを主要タンパク質とする毛髪、羽毛等は化学合成が不可能なアミノ酸であるシステインの製造原料として重要である。しかし、現状では過激な反応条件のため著量のシステインが分解されてしまい収量が極めて悪いため、プロテアーゼ処理等の温和な加水分解方法が望まれていた。さらに、発展途上国で未利用資源として大量に廃棄される牛、水牛の角および羽毛等は有用なアミノ酸で構成されており、穏和な加水分解でペプチド液、アミノ酸液が製造できれば、輸液等の医薬品あるいは栄養補助剤として、これらの国々にとって極めて有用である。これらの場合においても、ケラチンが高アルカリ領域において膨潤し酵素の作用を受けやすくなるという性質から、加水分解剤としての酵素はアルカリプロテアーゼが最適である。
【0003】
これらの用途以外にも、台所洗剤や食器洗浄器用洗剤および住宅洗剤等の洗剤、あるいは絹や羊毛および皮革等の精錬(風合いの向上)、脱毛クリームや入浴剤およびコンタクトレンズ洗浄剤等の医薬部外品、さらに肉質軟化剤等の食品加工や医薬、試薬等の用途に、不溶性タンパク質の分解力に優れたアルカリプロテアーゼは極めて有用である。
このような用途に対して、特にケラチン等の不溶性タンパク質の分解力において従来のアルカリプロテアーゼは不充分であり、さらに強力なケラチン分解力を有する新規なアルカリプロテアーゼの開発が望まれていた。
このような状況において、本発明者らは、すでに新規なアルカリプロテアーゼを見いだし、特許出願している(特開平9−121858号公報)。このアルカリプロテアーゼは、優れた蛋白分解活性を有するものの、分子量が大きく、かつカルシウム無添加の時の安定性が55℃と低いとの問題点があり、より分子量が小さくて、優れた蛋白分解活性と高い温度での安定性とを有する新規なアルカリプロテアーゼの開発が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、より分子量が小さくて、優れた蛋白分解活性と高い温度での安定性とを有する新規なアルカリプロテアーゼを提供することを目的とする。
また本発明は、上記アルカリプロテアーゼを生産する新規微生物およびその微生物を利用した上記アルカリプロテアーゼの製造法を提供することを目的する。本発明は、また、上記アルカリプロテアーゼを含有する各種組成物を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、特開平9−121858号公報に記載の新規微生物であるTOTO−9305株を継代培養していたところ、驚くべきことに、上記課題を解決しえるアルカリプロテアーゼを産生する変異株を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記の理化学的性質を有するアルカリプロテアーゼを提供する。
(a) 作用および基質特異性:タンパク質およびペプチドに特異的に作用し、そのペプチド結合をエンド型の機作により切断して、低分子量のオリゴペプチドおよびアミノ酸を生成する。
(b) 安定温度:pH7.0、10分間の処理条件において、カルシウムの添加、無添加にかかわらず70℃まで安定である。
(c) 分子量:約20,000(SDS電気泳動法)である。
(d) 等電点:9.3以上(等電点電気泳動法)である。
(e) 比活性:カゼインを基質とした場合は約152,000(U/mg蛋白)、ケラチンを基質とした場合は54,600(U/mg 蛋白)である。
本発明は、又、ストレプトマイセス属に属し、上記アルカリプロテアーゼ産生能を有する微生物を培養する工程と、該工程で得られる培養物より該新規アルカリプロテアーゼを分離する工程を含んでなる、アルカリプロテアーゼの製造法及び上記新規アルカリプロテアーゼ産生能を有する新規菌株、特にストレプトマイセス エスピー TOTO- 9805株(FERM BP-6359)を提供する。
本発明は、又、上記プロテアーゼを含有する洗浄剤組成物をも提供する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明で用いるアルカリプロテアーゼとしては、上記(a) 〜(e) の理化学的性質に加えて、下記の理化学的性質を有するものが好ましい。
(f) 最適pH:最適pHはカゼインを基質とした場合、10.5〜11.5である。
(g) 安定pH:30℃、24時間の処理条件において、pH1.5〜10.0で安定である。
(h) 最適温度:最適作用温度は60℃である。
(i) 阻害:EDTA(エチレンジアミン四酢酸)では活性は阻害されないが、PMSF(フェニルメタンスルフォニルフルオライド)及びSSI(ストレプトマイセスサブチリシンインヒビター)では阻害される。
(j) ケラチンなどの不溶性タンパク質についても高い分解活性を示す。
【0007】
本発明によるアルカリプロテアーゼはカゼイン等の可溶性タンパク質だけでなく、特に従来のプロテアーゼでは分解されにくかったケラチン等の不溶性タンパク質をも、強力に加水分解する。したがって、衣料用洗剤や柔軟剤および各種洗浄剤に洗浄効果を高める目的で配合されたり、浴槽、風呂釜、浴室排水溝、循環浴槽の配管、便器、洗面化粧台ドレインなどの配管洗浄剤(閉塞除去剤ともいう)に添加されれば、極めて効果的である。さらに、ケラチンを主要タンパク質とする毛髪、羽毛、牛角等からのペプチドおよびシステイン等のアミノ酸製造にも応用が可能である。また、脱毛クリーム、入浴剤等の化成品や食肉軟化剤あるいは医薬、試薬等、極めて広範囲の工業分野で利用され得る。また、本発明による菌株は、上記アルカリプロテアーゼを効率良く菌体外に分泌するので、簡便な工程で高効率にその生産を行うことができる点で有利である。
【0008】
上記洗浄剤組成物としては、上記アルカリプロテアーゼ単独、又は公知の洗浄剤成分、例えば、各種界面活性剤、各種ビルダー(キレート剤、アルカリ剤など)、再汚染防止剤、漂白剤、上記アルカリプロテアーゼ以外の酵素(他のプロテアーゼ、セルラーゼなど)、香料、色素などの一種又は2種以上を併用することができる。又、閉塞除去剤としては、上記アルカリプロテアーゼ単独、又はチオグリコール酸塩との併用が好ましい。洗浄剤組成物や閉塞除去剤などの形態は、液状、スラリー状、粉状、粒状、錠剤状など任意の形態とすることができる。
本発明による新規アルカリプロテアーゼは、微生物を用いて生産することができる。特に好ましくは、本発明によるアルカリプロテアーゼは、好アルカリ性ストレプトマイセス属、特にストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp. )TOTO- 9805株により生産される。この菌株は、TOTO- 9305株(FERM P−13640)の継代培養により得られた変異株である。この菌株は好アルカリ性放線菌であり、次の第1表及び第2表に示すように親株であるTOTO- 9305株と全く同様の菌学的性質を有する。なお、本菌株は好アルカリ微生物であり、通常の中性培地では生育しないか、あるいは生育が極めて不良であるため、第1表及び第2表の菌学的性質の検討に際しては0.5%Na2CO3添加のアルカリ性培地を用い。
【0009】
本菌株TOTO-9805 株は第1表の結果より、形態学的に放線菌、ストレプトマイセス属の特徴を有する。また、細胞壁にL-L-ジアミノピメリン酸を含有する等のことから、本菌株はストレプトマイセス属に属する一菌種と分類される。
TOTO-9805 株は、各種寒天培地上での気菌糸と胞子の色調から白色シリーズに属すること、胞子表面は平滑であること、胞子の連鎖はおおむね直状であること、メラニン色素は生成しないこと等の性質を有する。これらの性質と各種炭素源の同化性試験の結果をもとに、既知菌種の中から本菌株の類似種をバージェーズマニュアルの最新版である第4巻(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology Vol.4 1989 )に従って検索を行った。
【0010】
【表1】
第1表 TOTO-9805 株の菌学的諸性質
形態
生理的性質
各炭素源の同化性
【0011】
【表2】
第2表 各培地における生育状況
*1 メラニンなし
【0012】
同マニュアルに記載されているストレプトマイセス属の種のうち、本発明の菌株と同様な白色の胞子塊(コロニーの色調)を形成する種は21種であった。本菌株とこれら21種の性質を詳細に比較したところ、本菌株とこれらは、胞子鎖の性状、胞子の形状と大きさ、拡散色素の生産性、メラニン色素の生産性、各種糖類の同化性などの点で異なっていた。特に各種糖類の同化性において、類似の性質を示す種として、ストレプトマイセス ボビリ(Streptomyces bobili )、ストレプトマイセス シュードエチノスポレウス(Streptomyces pseudoechinosporeus)の2種が記載されていたが、本菌株ととは胞子鎖の性状とメラニン色素の生産性で異なり、又胞子の性状と大きさにおいて異なっていた。また、本株と同様に好アルカリ性を示し、アルカリ性セルラーゼ、もしくはアミラーゼを生産する放線菌として、ストレプトマイセス エスピー KSM-2およびKSM-9(特公平4-64675 、FERM P-7620 、FERM P-7621 )が知られている。しかしながら、本株とこれらは集落の色調で類似するものの、各種糖類の同化性は全く異なるものであった。
これらの結果より、本菌株と類似の性質を示す既知菌種は見いだせず、一方、上述したように、本菌株は親株であるTOTO- 9305株と全く同様の菌学的性質を有する。しかしながら、本菌株は、親株であるTOTO- 9305株とは全く異なるプロテアーゼを産生する点で異なっている。従って、本菌株TOTO-9805 株は親株TOTO- 9305株の変異株と判断し、ストレプトマイセス エスピー TOTO-9805 (Streptomyces sp. TOTO-9805)と命名した。
【0013】
なお、本菌株は工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託番号第号(FERM BP-6359)のもと寄託されている。
培養条件
上記菌株は好アルカリ性放線菌であるため、その培養はアルカリ領域で行う必要がある。培地をアルカリ性にするための方法としては格別である必要はなく、通常の培地中に例えば炭酸ナトリウムあるいは炭酸水素ナトリウムを添加するだけで良い。炭素源としてはグルコース、可溶性デンプン、セルロース等の単糖、多糖などを用いることができる。窒素源としては、硝酸塩、アンモニウム塩などの無機物をはじめ、尿素、ペプトン、乾燥酵母、酵母エキス、ダイズ粉、コーンスチープリカー、カゼイン、肉エキス、アミノ酸などが用いられる。これらの炭素源や窒素源の他に各種無機塩、例えばマグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩などを必要に応じて添加しても良い。培地に加えるアルカリ源としては、0.5〜2.0%程度の炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩あるいは水酸化ナトリウム、アンモニアなどが使用でき、培地のpHは8.0〜11.0程度が望ましい。
培養は、このような培地中で培養温度20〜40℃、好ましくは27〜38℃で2日〜5日間好気的に撹袢または振とうしながら行う。
本発明による新規なアルカリプロテアーゼは、上記のような培養条件のもとで、主として培養液中に分泌され、蓄積される。
【0014】
酵素の採取
上記培養液から本発明による酵素を採取、精製するためには、既知の精製法を単独もしくは併用して利用することができる。本酵素は主として菌体外(培養液中)に分泌されるため、例えば濾過あるいは遠心分離で菌体を除去することにより容易に粗酵素液を得ることができる。この粗酵素は、さらに既知の精製法、例えば硫安などによる塩析;メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒による沈殿法;ケラチン等による吸着法;限外濾過;ゲル濾過クロマトグラフィー;イオン交換クロマトグラフィー;疎水クロマトグラフィー、その他の各種クロマトグラフィーを、単独もしくは併用して、精製することができる。
好ましい精製法を示せば以下の通りである。まず、培養濾液に80%飽和硫安を添加して塩析を行い、得られた沈殿を緩衝液に溶解する。次いでCM-Toyopearl650M(東ソー社製)、DEAE-Toyopearl 650M(同社製)によるイオン交換クロマトグラフィーを行うことにより、SDS電気泳動的に均一な精製酵素を得ることができる。
【0015】
酵素の性質
本発明によるアルカリプロテアーゼの性質は以下に示される通りである。なお、以下において活性測定法とは次の方法をいうものとする。
(活性測定法)
カゼイン0.6%またはケラチン2%を含む50mMホウ素/Na2CO3 緩衝液(pH11.0)9 mlを0.1ml の酵素溶液と混合し、30℃、10分間(ケラチンを基質とした場合は振とうしながら20分間)反応させた後、2 mlのトリクロロ酢酸混合液(0.11M トリクロロ酢酸、0.22M 酢酸ナトリウム、0.33M 酢酸)を加えて30℃で30分間静置した後、アドバンテック社製濾紙N0.5C で濾過する。次いで、この濾液の0.5ml を2.5ml の0.5M炭酸ナトリウム溶液に加え、さらに3倍希釈したフェノール試薬を0.5ml 添加撹袢後、さらに室温にて30分間放置し、660nm の吸光度を測定する。上記の測定条件下で1分間に1マイクログラムのチロシンに相当する吸光度を増加させる酵素量を、酵素活性1単位(1U)と定義する。
【0016】
(1)作用および基質特異性
カゼイン、ゼラチン、グルテン、ヘモグロビン、インシュリンなどのタンパク質に作用し、そのペプチド結合をエンド的に加水分解することによりオリゴペプチドおよびアミノ酸を生成する。また、特に従来の酵素では分解の困難であったケラチンなどの不溶性タンパク質をも強力に加水分解する。
(2)最適pHおよび安定pH
上記の活性測定法にもとづき、本酵素に及ぼすpHの影響を調べた。なお、緩衝液として酢酸ナトリウム/HCl(pH1.0-2.5) 、Britton-Robinson広域緩衝液(pH3.0-11.5)、KCl/NaOH(pH12.0-12.5) を使用した。第1図に活性の最大値を100 とした場合の各pHにおける相対活性を示した。第1図により本酵素の最適pHは30℃において10.5〜11.5であることが分かる。
同様に本酵素のpH安定性について第2図に示した。本酵素を各pHの緩衝液中に30℃で24時間保持した後、その残存活性を未処理の酵素活性を100 とした相対活性として示した。第2図から、本酵素は上記処理条件下においてpH1.5〜10.0までの極めて広範囲のpH域で安定であることが分かる。
【0017】
(3)最適温度および安定温度
上記活性測定法に準じて、本酵素に及ぼす温度の影響を調べた。第3図に最大活性を100 とした場合の各温度における相対活性を示した。第3図から、本酵素の最適温度は60℃であることが分かる。
また、本酵素を100 mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0)に添加し、40〜80℃の範囲の各条件下で10分間保持した後、その残存活性を測定した。なお、温度処理は10mMの塩化カルシウムを添加した場合と、しない場合の二通りについて行った。その結果を第4図に示した。第4図により、カルシウムの添加、無添加にかかわらず70℃まで安定であることがわかる。
(4)分子量
本酵素の分子量をSDS電気泳動法により測定したところ、分子量は約20,000であった。
(5)等電点
本酵素の等電点を等電点電気泳動法により測定したところ、等電点は9.3 以上であった。
【0018】
(6)比活性
本酵素の比活性を活性測定法に準じて測定した。なお、タンパク質濃度はバイオラッド社製のプロテインアッセイキットを使用して測定し、酵素は電気泳動的に均一な精製標品を使用した。その結果、本酵素の比活性は、カゼインを基質とした場合は152,000(U/mgタンパク) 、ケラチンに対しては54,600(U/mg タンパク) であり、本酵素は極めて強力なタンパク質加水分解活性を有することが判明した。
(7)阻害
一般的な酵素阻害剤であるPMSF(フェニルメタンスルフォニルフルオライド)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びSSI(ストレプトマイセスサブチリシンインヒビター)について、これらが本酵素の活性に及ぼす影響を調べた。各阻害剤を所定濃度となるように50mMトリス塩酸緩衝液(pH9.0) に溶解し、本酵素を添加後30℃で30分間処理を行った。次いで処理溶液より一定量を分取して活性測定法に準じて、その残存活性を測定した。本酵素はPMSF及びSSIにより阻害され、EDTAによる阻害を受けなかったことより、本アルカリプロテアーゼはセリンプロテアーゼであることがわかる。上記各特性を示す本酵素と、従来公知の細菌、放線菌由来のアルカリプロテアーゼとの比較を第3表に示した。
【0019】
【表3】
第3表 各種アルカリプロテアーゼの比較
空欄は該当データなし(以下、同じ)
【0020】
【表4】
第3表 各種アルカリプロテアーゼの比較(続き)
【0021】
文献:1;Agr. Biol. Chem., 38, (1) 37-44, 1974.
2;エンザイムデータシートライブラリー(生化学工業株式会社)
3;バイオサイエンスとインダストリー 48, (7) 33-36, 1990.
第3表に示した諸性質の比較より、本酵素が分子量が小さく、かつ極めて高い比活性を有する新規なアルカリプロテアーゼであることが分かる。
【0022】
【実施例】
次に本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 粗酵素の調製
ストレプトマイセス エスピー TOTO-9805 株の前培養液50ml(35℃、4日間振とう培養)を、可溶性デンプン1.5%、スキムミルク1.5%、K2HPO4 0.3%、エキス 0.1% 、MgSO4 ・7H2O 0.05%および、別殺菌して添加したNaHCO31.0%有する培地(pH9.0)4500 ml を入れた小型ジャーファーメンターに植菌し、35℃で4日間、通気量1 v/v/min 、回転数200rpmで培養を行った。培養終了後、培養液を8000 rpmで10分間遠心分離して菌体を除去した。これにより、16.9U/mlの粗酵素液約4,050 mlを得た。
実施例2 精製酵素の調製
実施例1と同様の培地8000 ml を入れた小型ジャーファーメンターに、ストレプトマイセス エスピー TOTO-9805 株の前培養液100 mlを植菌した。これを実施例1と同様に培養した後、遠心分離により培養上清7,600 mlを得た。この上清液のpH10.5におけるプロテアーゼ活性は17.0 U/ml であった。
【0023】
次いで、この上清液に硫安粉末を80% 飽和になるまで加え、1昼夜5℃で暗所に静置後8000 rpmで遠心分離を行い、沈殿を回収した。この沈殿を10 mM リン酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、セルロースチューブを用いて同緩衝液に対し透析を行った。透析後、その透析内液を1 mM CaCl2添加の10 mM MOPS緩衝液(pH7.5で平衡化したCM-Toyopearl 650M カラムに通じて酵素を吸着させ、0〜0.5 M のNaCl濃度勾配で溶出させた。活性画分を透析後、1 mM CaCl2を含む10 mM トリス塩酸緩衝液(pH9.0)で平衡化したDEAE-Toyopearl 650M カラムに通じて活性画分を通過させ、不純タンパク質を吸着させた。上記一連の精製により、約433 U/mlのアルカリプロテアーゼを27.5 ml 得た。本画分はSDS電気泳動的にもゲル濾過的にもそれぞれ単一バンドおよび単一ピークを示し、酵素タンパク質として均一であることが確認された。
【0024】
実施例3
実施例1で得た粗酵素液を3倍量のエチルアルコールで沈殿させ、沈殿物を室温で乾燥して得た粗酵素粉末(10,000U/g)1〜5重量部を、硫酸ナトリウム100重量部、アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(AES)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)からなる群から選ばれる界面活性剤10〜50重量部と混合し、常法により造粒機を用いて粒状洗剤組成物を調製した。
この洗剤組成物は、衣料用洗浄剤として、特に衣料の襟や袖などの垢汚れに対して優れた洗浄力を発揮した。
【0025】
実施例4
硫酸ナトリウム5重量部と界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)1重量部とを十分に混合したものに、チオグリコール酸塩2重量部及び実施例3で用いたのと同じ粗酵素粉末(10,000U/g)1重量部を加えて混練し、粉状の配管洗浄剤を調製した。
洗面化粧台(トラップ容量200ml)の排水溝に人の毛髪3g(20〜30cm)を流し入れてわざと排水溝を閉塞させた。この状態の排水溝に上記配管洗浄剤を入れ、室温にて8時間(一夜)放置した後、通水したところ、閉塞は完全に解消されており通水がスムーズとなった。この際、ドレーンから閉塞物を採取したところ、毛髪は数mm程度に切断されていた。
【0026】
実施例5
ストレプトマイセス エスピー TOTO-9805 株を用い、Y. Moriyama らのJ. Antibact. Antifung. Agents 24, No. 6, pp. 407-413, 1996に記載の方法に準拠して、フロテアーゼ以外の酵素の産生状況を確認した。すなわち、Czapek寒天培地の基本塩類に、デンプン(アミラーゼ)、ツィーン80(リパーゼ)、カルボキシメチルセルロース(セルラーゼ)、キチン(キチナーゼ)、ペクチン(ペクチナーゼ)、キシラン(キシナラーゼ)又はプルラン(プルラナーゼ)などの基質を唯一の炭素源となるようにそれぞれ1%加え、別途炭酸ナトリウム溶液でpHを10.5に調整した各種寒天培地に、本発明のTOTO-9805 株を接種して30℃で3日間培養した。判定は培地上のTOTO-9805 株の生育状況を下記の基準により目視で、又酵素活性は上記文献記載の方法等により下記の基準で行った。結果をまとめて表−4に示す。
生育状況
◎ TOTO-9805 株の生育良好
○ TOTO-9805 株の生育普通
△ TOTO-9805 株の生育不良
× TOTO-9805 株生育せず
酵素活性
◎ 高活性
○ 活性有り
△ 活性不明瞭
× 活性なし
【0027】
【表5】
表−4
【表6】
表−4(続き)
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明によるアルカリプロテアーゼの最適pHを示すグラフである。
【図2】 本発明によるアルカリプロテアーゼの安定pHを示すグラフである。
【図3】 本発明によるアルカリプロテアーゼの最適温度を示すグラフである。
【図4】 本発明によるアルカリプロテアーゼの安定温度を示すグラフである。
Claims (10)
- 下記の理化学的性質を有する、アルカリプロテアーゼ。
(a) 作用および基質特異性:タンパク質およびペプチドに特異的に作用し、そのペプチド結合をエンド型の機作により切断して、低分子量のオリゴペプチドおよびアミノ酸を生成する。
(b) 安定温度:pH 7.0、10分間の処理条件において、カルシウムの添加、無添加にかかわらず70℃まで安定である。
(c) 分子量:約20,000(SDS電気泳動法)である。
(d) 比活性:カゼインを基質とした場合は約152,000(U/mg蛋白)、ケラチンを基質とした場合は54,600(U/mg 蛋白)である。
(e) 最適pH:最適pHはカゼインを基質とした場合、10.5〜11.5である。
(f) 安定pH:30℃、24時間の処理条件において、pH 1.5〜10.0で安定である。
(g) 最適温度:最適作用温度は60℃である。
(h) 阻害:EDTA(エチレンジアミン四酢酸)では活性は阻害されないが、PMSF(フェニルメタンスルフォニルフルオライド)及びSSI(ストレプトマイセスサブチリシンインヒビター)では阻害される。
(i) 等電点: 9.3 (等電点電気泳動法)である。 - 好アルカリ性放線菌ストレプトマイセス(Streptomyces)属菌から得られる請求項1記載のプロテアーゼ。
- ストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp. )TOTO-9805 株から得られる請求項1記載のプロテアーゼ。
- 好アルカリ性ストレプトマイセス属に属し、請求項1〜3のいずれか1項記載のアルカリプロテアーゼ産生能を有する微生物を培養する工程と、該工程で得られた培養物より該アルカリプロテアーゼを分離する工程とを含んでなる、アルカリプロテアーゼの製造法。
- 前記微生物の培養がpH 8.0〜13.0のアルカリ性で行われる、請求項4記載の製造法。
- 前記微生物がストレプトマイセス エスピー TOTO-9805 株である請求項4記載のプロテアーゼ製造法。
- ストレプトマイセス エスピー TOTO-9805 株(FERM BP-6359)。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載のプロテアーゼを含有する洗浄剤組成物。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載のプロテアーゼ及び界面活性剤を含有する衣料用洗浄剤組成物。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載のプロテアーゼを含有する配管洗浄剤組成物。
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