JP3664803B2 - 低温アルカリプロテアーゼt16、それを生産する微生物、その製造法、並びに当該酵素を含有する洗浄剤組成物及び食品加工用酵素製剤 - Google Patents

低温アルカリプロテアーゼt16、それを生産する微生物、その製造法、並びに当該酵素を含有する洗浄剤組成物及び食品加工用酵素製剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な低温アルカリプロテアーゼ、それを生産する微生物、その製造法、並びに当該酵素を含有する洗浄剤組成物及び食品加工用酵素製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種起源のプロテアーゼは、衣料用洗浄剤、自動食器洗浄機用洗剤、コンタクトレンズ洗浄剤、浴用剤、角質除去用化粧料、食品の改質(製パン、肉の軟化、水産加工)、ビールの清澄剤、皮革なめし剤、写真フィルムのゼラチン除去、消化助剤、消炎剤の成分等、多分野で盛んに利用されている。
【0003】
その中で、最も大量に工業生産され、市場規模が大きいのは洗剤用アルカリプロテアーゼであり、アルカラーゼ、サビナーゼ(ノボ・ノルディスク社製)、マクサカル(ギスト・ブロケイデス社製)、API−21(昭和電工社製)、ブラップ(ヘンケル社製)、プロテアーゼK(KAP;花王社製)等が知られている。しかしながら、これらの酵素は最適温度が高温側にあるため、水道水の温度などの低温領域で衣料を洗浄する場合、その酵素特性が充分に発揮されているとはいいがたい。また、上述のプロテアーゼの応用分野のほとんどは、体温、室温、低温条件下であるため、高温至適酵素の使用はなじまない。加えて、高温至適酵素を用いる高温処理工程は、省エネルギーの観点からも好ましいとはいえない。
【0004】
一方、低温至適プロテアーゼは、皮なめし、パンの小麦蛋白の加工、あるいは反応系に熱をかけられないようなケース、すなわちチーズの熟成、肉の軟化等の食品の改質にも有効である。
【0005】
プロテアーゼの洗剤等の商品への配合や工業的プロセス等での利用を考えた場合、室温から低温領域で有効に作用する酵素を見出すことは、省エネルギー化に加えて酵素の機能を充分発揮させる上で、必須の条件である。これまでに、寒冷地土壌、寒冷環境に棲息する生物、海水、冷蔵中のミルク等から分離された、プロテアーゼ生産菌が生産するプロテアーゼは必ずしも低温酵素ばかりではないが、数多くの報告例がある。
【0006】
すなわち、シュードモナス エスピー(Pseudomonas sp.)No.548株(Agric. Biol. Chem.,36巻,1185頁,1970年)、エシェリヒア フロインディ(Escherichia freundii)の一菌株(Eur. J. Biochem.,44巻,87頁,1974年)、キサントモナス マルトフィラ(Xanthomonas maltophila)047/08株(FEMS Microbiol. Lett.,79巻,257頁,1991)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)T16株(Appl. Environ. Microbiol.,46巻,333頁,1983年)、シュードモナス フルオレセンスAFT36株(Biochim. Biophys. Acta,717巻,376頁,1982年)、シュードモナス エスピー145−2株(Microbios.,36巻,7頁,1982年)、アエロモナス サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)9016/02株(J. Appl. Bacteriol.,53巻,289頁,1983年)、シュードモナス パウシモビリス(Pseudomonas paucinomobilis)049/03株,178/13株,189/06株とバチルス エスピー(Bacillus sp.)172/15株(J. Basic Microbiol.,31巻,377頁,1991年)、ビブリオ エスピー(Vibrio sp.)SA1株(Antonie van Leeuwenhoek,44巻,157頁,1978年)、シュードモナス フルオレセンスNCDO2085株(J. Dairy Res.,53巻,457頁,1986年)、シュードモナス フルオレセンスOM228株とセラチア マルセッセンス(Serratia marcescens)OM1192株(J. Dairy Res.,53巻,97頁,1986年)、シュードモナス フルオレセンスGR83株(Lebensm.-Wiss. u.-Technol.,23巻,106頁,1990年)、ペシロミセス マルクァンディ(Paecilomyces marquandii(WO88/03948)、キサントモナス エスピー(Xanthomonas sp.)S−1株(特開平5−211868号公報)等の低温で生育できる微生物が種々のプロテアーゼを生産する。
【0007】
低温細菌が生産するプロテアーゼに関しては、Fairbainらが要領よく総説にまとめている(J. Dairy Res.,53巻,139頁,1986年)。これらのプロテアーゼの一部には、低温領域に至適温度を有している酵素も存在しているので前述の用途に使えることが期待できる。
【0008】
最近、Asgeissonらは、スケソウダラのエラスターゼについて(Biochim. Biophys. Acta,1164巻,91頁,1993年)、Fellerらは、好冷細菌であるバチルス TA41株の産生するプロテアーゼ(J. Biol. Chem.,269巻,17453頁,1994年)と好冷細菌であるアルテロモナス ハロプランクティス(Alteromonas haloplanctis)A23株が産生するα−アミラーゼについて(J. Biol. Chem.,267巻,5217頁,1992年)、それぞれの触媒化学的性質から、これらの酵素が低温条件に適応している可能性を示唆した。また、Jackmanら(Appl. Environ. Microbiol.,46巻,6頁,1983年)あるいはPatelら(Appl. Environ. Microbiol.,46巻,333頁,1983年)によると、好冷細菌であるシュードモナス フルオレセンスが生産するプロテアーゼは、中温細菌由来のプロテアーゼと比較して、活性化エネルギーが低い。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来、種々の低温プロテアーゼが知られているが、更に洗浄剤等に利用する上で、高性能の低温プロテアーゼの開発が望まれている。従って本発明は、低温条件下においても高い活性を保持し、かつ反応の最適pHがアルカリ側にある新規な低温アルカリプロテアーゼを提供すること、並びにかかる酵素を菌体外に効率よく生産する微生物及び当該微生物を用いた低温アルカリプロテアーゼの製造法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において、本発明者らは低温アルカリプロテアーゼを自然界から探索した結果、土壌サンプルから至適温度を28〜32℃に有し、低温条件下(例えば0℃以下)でも充分に作用するアルカリプロテアーゼを生産するスフィンゴモナス属細菌を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の酵素学的性質を有する低温アルカリプロテアーゼT16、それを生産する微生物、その製造法、並びに当該酵素を含有する洗浄剤組成物及び食品加工用酵素製剤を提供するものである。
【0012】
1)作用温度及び最適温度
少なくとも0〜60℃で作用し、最適温度は28〜32℃である。10℃で最適温度における活性の20〜30%、0℃で最適温度における活性の10〜20%の活性を保持する。
Ca2+が存在すると最適温度は38〜42℃に移行する。
【0013】
2)温度安定性
pH10.0、15分間の処理条件で約48〜52℃まで安定であり、Ca2+が存在すると約60℃まで安定である。
【0014】
3)作用pH及び最適pH
少なくともpH5〜12で作用し、最適pHは約9である。pH12においても最大活性値の60〜70%の活性を保持する。
【0015】
4)pH安定性
20℃、15分間の処理条件でpH5〜12の範囲で安定である。
【0016】
5)分子量
セファクリルS−200を用いたゲルクロマトグラフィーによる推定分子量は、26,000±1,000である。
【0017】
6)基質特異性
カゼインをよく加水分解し、ヘモグロビンとケラチンに対しても作用する。
合成基質であるSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNa、Glt-Ala-Ala-Pro-Leu-pNa、Suc-Ala-Ala-Pro-Val-pNa、Z-Gly-Gly-Phe-pNa、Suc-Ala-Ala-Ala-pNa、Suc-Ala-Pro-Ala-pNa及びSuc-Ala-Ala-Phe-pNaに対して作用し、−ニトロアニリンを遊離する(Sucはスクシニル基を、Gltはグルタリル基を、Zはカルボベンゾイル基を、pNaは−ニトロアニリノ基を示す)。
【0018】
7)金属イオンの影響
Hg2+によって阻害される。
【0019】
8)阻害剤
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸(EGTA)、フェニルメタンスルフォニルフルオライド(PMSF)及びキモスタチンによって阻害される。
【0020】
9)界面活性剤の影響
ソジュウムドデシル硫酸(SDS)、ソジュウムα−オレフィンスルホン酸(AOS)、ソジュウムアルカンスルホン酸(SAS)、α−スルホ脂肪酸エステル(α−SFE)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)、ソジュウム直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(ES)等に対して極めて安定である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の低温アルカリプロテアーゼT16は、例えばスフィンゴモナス エスピー(Sphingomonas sp.)KSM−T16を培養し、その培養物から採取することにより製造される。
【0022】
本発明のスフィンゴモナス エスピー KSM−T16の分類同定に用いた培地を以下に示す(重量%で示す)。
【0023】
Figure 0003664803
Figure 0003664803
【0024】
スフィンゴモナス エスピー KSM−T16の分類学的性質を以下に示す。
【0025】
(a)顕微鏡的観察結果
0.9〜1.0μm ×1.8〜4.4μm の桿菌であり、極鞭毛を有し、運動性がある。胞子の形成は認められない。
【0026】
(b)グラム染色性
陰性。
【0027】
(c)各種培地における生育状態
1.肉汁寒天平板培養(培地1)
生育状態は良い。集落の形状は円形、表面は円滑で光沢がある。集落の色調は、黄白色で半透明である。
2.肉汁寒天斜面培養(培地1)
生育する。
3.肉汁液体培養(培地2)
生育は良好で、菌膜の形成は認められない。
4.肉汁ゼラチン穿刺培養(培地3)
ゼラチンの液化が認められる。
5.リトマスミルク培地(培地4)
酸生成は認められない。
【0028】
(d)生理学的性質
1.硝酸塩の還元及び脱窒反応(培地5)
いずれも陰性。
2.VPテスト(培地6)
陰性。
3.インドールの生成(培地7)
陰性。
4.硫化水素の生成(培地8)
陰性。
5.澱粉の加水分解(培地9)
陰性。
6.クエン酸の利用(培地10、11)
陽性。
7.無機窒素源の利用(培地12)
アンモニウム塩及び硝酸塩を利用しない。
8.色素の生成(培地13、14)
陰性。
9.ウレアーゼ(培地15)
陰性。
10.オキシダーゼ(培地16)
陽性。
11.カタラーゼ(培地16)
陽性。
12.生育のpH範囲(培地18)
生育のpH範囲は5〜11である。
生育の至適pH範囲は8〜9にある。
13.生育の温度範囲(培地1、19)
生育の温度範囲は5〜35℃であり、最も生育が旺盛な温度は20〜30℃の間にある。
14.酸素に対する態度(培地20)
通性嫌気性。
15.O−Fテスト(培地21)
酸化型。
16.糖の利用性
D−キシロース、D−グルコース、D−フラクトース、D−ガラクトース、マルトース等を利用することができる。
17.食塩含有培地における生育(培地1中)
食塩濃度3%では生育するが、5%では生育できない。
18.カゼインの分解(培地22)
陽性。
【0029】
以上の菌学的性質に関する検討に基づき、バージーズ・マニュアル・オブ・システマティク・バクテリオロジー(Bergey's Mannual of Systematic Bacteriology)第8版を参照し、比較検討した結果、本菌株は、スフィンゴモナス属の一種と判断された。そこで、本菌株をスフィンゴモナス エスピー KSM−T16と命名し、FERM P−15457として工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。
【0030】
上記の菌株を用いて、本発明の低温アルカリプロテアーゼT16を得るには、培地に菌株を接種し、常法に従って培養すればよい。
【0031】
培養に用いる培地中には、資化しうる炭素源及び窒素源を適当量含有せしめておくことが望ましい。この炭素源及び窒素源は特に制限されないが、その例としては、炭素源として例えばグルコース、ガラクトース、フラクトース、キシロース、マルトース、廃糖蜜や資化うしる有機酸、例えばクエン酸等が挙げられる。また窒素源としては、コーングルテンミール、大豆粉、コーンスティープリカー、カザミノ酸、酵母エキス、ファーマメディア、肉エキス、トリプトン、ソイトン、ポリペプトン、ソイビーンミール、綿実油粕、カルチベータ、ゼスト等の有機窒素源が有効である。また、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、亜鉛塩、コバルト塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の無機塩や、必要であれば、無機、有機微量栄養やビタミン類を培地中に適宜添加することができる。
【0032】
培養温度は、5〜35℃、特に15〜30℃前後が好ましく、培養初発pHは5〜11、特にpH8〜9が好ましい。この条件下において通常1〜3日間で培養は完了する。
【0033】
かくして得られた培養液の中から目的の酵素である低温アルカリプロテアーゼT16を採取するには、一般の酵素採取の手段に準じて行えば良い。即ち、培養後、遠心分離、濾過等の通常の分離手段により菌体を培養液から除去して粗酵素液を得る。この粗酵素液はそのまま使用することもできるが、必要に応じて、限外濾過、沈澱法等の手段により回収し、適当な方法を用いて粉末化して用いることもできる。また、酵素精製の一般的手段、例えば適当な陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイト等によるクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過等の組合わせによって精製することもできる。
【0034】
本発明の低温アルカリプロテアーゼT16の酵素学的諸性質について以下に説明する。
【0035】
〔酵素活性測定法〕
カゼイン1%を含む50mMの各種緩衝液1mlを0.1mlの酵素溶液と混合し、25℃、15分間反応させた後、反応停止液(0.11Mトリクロロ酢酸−0.22M酢酸ナトリウム−0.33M酢酸)2mlを加え、30℃、20分間放置した。次に濾紙(ワットマン社製、No.2)で濾過し、濾液中の蛋白分解物をフォーリン・ローリー法(Lowry, O. H. et al., J. Biol. Chem.,193巻,265頁,1951年)によって測定した。上記反応条件下において、1分間に1mmolのチロシンに相当する酸可溶性蛋白分解物を生成する酵素量を1単位(U)とした。
【0036】
合成基質の加水分解反応を行う場合は、55.5mM炭酸緩衝液(pH10.0、0.9ml)に50mMの各種合成基質溶液(ジメチルスルホキシドに溶解)0.05mlを混合し、25℃で5分間保温した後、0.05mlの酵素液を加え25℃で5分間反応させた。反応停止液(5%クエン酸)2mlを加えた後、分光光度計を用いて直ちに420nmにおける吸光度を測定し、遊離した−ニトロアニリンを定量した。酵素1単位(U)は上記反応条件において1分間に1μmol の−ニトロアニリンを遊離させるのに必要な酵素量とした。
【0037】
〔酵素学的性質〕
(1)基質特異性
50mM炭酸緩衝液(pH10.0)に各種蛋白基質を0.1%又は1%になるように加えた後、酵素を適当量添加して25℃で15分間反応を行った。カゼインを基質とした場合の分解活性を100として、それぞれの基質に対する分解活性を表1に示した。この結果から明らかなように、本酵素はカゼイン、ヘモグロビン及びケラチンに対して良好な分解活性を示した。
【0038】
【表1】
Figure 0003664803
【0039】
−ニトロアニリンが結合した合成オリゴペプチド基質を用いて、これらの分解活性を調べた結果を表2に示した。供試した−スクシニル化したAla-Ala-Pro-Phe、Ala-Ala-Pro-Val、Ala-Ala-Ala、Ala-Pro-Ala及びAla-Ala-Phe、−グルタリル化したAla-Ala-Pro-Leu、−カルボベンゾイル化したGly-Gly-Phe等の合成基質からの−ニトロアニリンの遊離が認められた。
【0040】
【表2】
Figure 0003664803
【0041】
(2)作用温度及び最適温度
基質として0.91%のカゼインを含む50mM炭酸緩衝液(pH10.0)に本酵素を加え、15分間各温度で反応を行った。図1から明らかなように、本酵素の最適温度は28〜32℃であった。カルシウム(CaCl2として2mM)が存在すると、最適温度は約38〜42℃に移行し、カルシウム非存在下の最適温度に比べ、約1.5倍の活性促進が認められた。また本酵素は10℃でも最適温度の活性の約20〜30%の活性を示し、0℃(氷水中)でも最適温度の活性の約10〜20%の活性を示し、低温条件下でも充分作用することがわかる。
【0042】
(3)温度安定性
50mM炭酸緩衝液(pH10.0)に本酵素を加え、各温度で15分間加熱した後氷冷した。カゼインを基質として、25℃で残存活性を求め、その結果を図2に示した。本酵素はCa2+非存在下で48〜52℃まで、2mM Ca2+存在下で60℃においても全く失活しなかった。一般に最適温度以上の高い温度に低温酵素をさらすと失活することが知られているが、本酵素の場合、最適温度以上で極めて安定な性質を示す特徴を有することがわかる。
【0043】
(4)作用pH及び最適pH
ブリットン・ロビンソン広域緩衝液(50mM)中に最終濃度0.91%となるようにカゼインを加え、25℃で15分間反応を行い、各pHでの活性を測定した。図3から明らかなように、本プロテアーゼの最適pHは9近傍に認められる。また、その作用pHは、少なくともpH5〜12と幅広い。pH12においても最大活性値の60〜70%の活性を保持する。
【0044】
(5)pH安定性
ブリットン・ロビンソン広域緩衝液(25mM,各pH)中に本酵素を加え、20℃で15分間放置し、カゼインを基質として残存活性を25℃で測定した。図4に示したように、本酵素はpH5〜12の広い範囲で安定であった。
【0045】
(6)分子量
本酵素の分子量をセファクリルS−200を用いたゲルクロマトグラフィーにより測定した。分子量マーカーには、低分子量用マーカーキット(バイオラッド社製)のアルブミン(分子量:66,000)、オブアルブミン(分子量:43,000)、カルボニックアンヒドラーゼ(分子量:29,000)、キモトリプシノーゲン(分子量:25,000)、リボヌクレアーゼ(分子量:13,700)及びチトクロームc(分子量:12,400)を用いた。図5から明らかなように、本プロテアーゼの見かけの推定分子量は26,000±1,000である。
【0046】
(7)金属イオンの影響
各種金属塩が1mMになるように添加した20mM炭酸緩衝液(pH10.0)に本酵素溶液を添加し、20℃で20分間放置した。その後、50mM炭酸緩衝液(pH10.0)で適当希釈を行い、残存活性を測定した。金属塩無添加系で同様に処理した酵素活性を100%として処理群の残存活性を求めた。本酵素活性は、Hg2+によってのみ阻害された(表3)。
【0047】
【表3】
Figure 0003664803
【0048】
(8)阻害剤の影響
10mMリン酸緩衝液(pH7.0;2mM CaCl2含有)に各種阻害剤を所定濃度になるように加え、本酵素を添加し、20℃で20分間放置した後、残存活性を測定した。表4から明らかなように、キレート剤であるEDTAとEGTA及びセリン酵素阻害剤であるPMSF及びキモスタチンによって阻害されることより、本酵素は金属依存性セリンプロテアーゼであると考えられる。
【0049】
【表4】
Figure 0003664803
【0050】
(9)界面活性剤の影響
本酵素を、0.2%の界面活性剤を含有する50mM炭酸緩衝液(pH10.0;2mM CaCl2含有)に加えて、20℃で20分間放置した後、残存活性を測定した。表5から明らかなように、本酵素はSDS、AOS、SAS、α−SFE、AE、LAS、ES(それぞれ0.2%濃度)等の界面活性剤と長時間接触させてもほとんど失活せず、強力な界面活性剤耐性を有していることがわかる。
【0051】
【表5】
Figure 0003664803
【0052】
このように、本発明の低温アルカリプロテアーゼT16は、過去の報告に無い新規酵素である。最近、南極の海水から分離されたバチルス属の一種が熱に不安定なズブチリシン型の酵素を生産することが報告されているが(Davailら、J. Biol. Chem.,269巻,17448頁(1994年))最適温度が40℃近傍にあり、その他の性質を較べても明らかに本発明の酵素とは異なっている。
【0053】
本発明の洗浄剤組成物中への上記低温アルカリプロテアーゼT16の配合量は、低温アルカリプロテアーゼが活性を示す量であれば特に制限されないが、洗浄剤組成物1kg当たり0.1〜5000U、特に1〜500Uが好ましい。
【0054】
また、本発明の洗浄剤組成物には、公知の洗浄剤成分を配合することができ、当該公知の洗浄成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0055】
(1)界面活性剤
平均炭素数10〜16のアルキル基を有する直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、平均炭素数10〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有し、1分子中に平均0.5〜8モルのエチレンオキサイドを付加したアルキルエトキシ硫酸塩、平均炭素数10〜20のアルキル基を有するアルキル硫酸塩、平均炭素数10〜20のオレフィンスルホン酸塩、平均炭素数10〜20のアルカンスルホン酸塩、平均炭素数10〜20のα−スルホ脂肪酸メチルあるいはエステル塩、平均炭素数8〜20の高級脂肪酸塩、平均炭素数10〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有し、1分子中に平均0.5〜8モルのエチレンオキサイドを付加したアルキルエーテルカルボン酸塩等のアニオン性界面活性剤;平均炭素数10〜20のアルキル基を有し、1〜20モルのエチレンオキサイドを付加したポリオキシエチレンアルキルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミド又はそのアルキレンオキサイド付加物等の非イオン性界面活性剤;その他ベタイン型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、カチオン性界面活性剤等の界面活性剤を単独で又は組合わせて用いることができる。
【0056】
これらの界面活性剤は、洗浄剤組成物中5〜60重量%(以下単に%で示す)配合され、特に粉体状洗浄剤組成物については10〜45%、液体洗浄剤組成物については20〜55%配合することが好ましい。また、本発明洗浄剤組成物が漂白剤である場合、界面活性剤は一般に1〜10%、好ましくは1〜5%配合される。
【0057】
(2)二価金属イオン捕捉剤
トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩等の縮合リン酸塩、ゼオライト等のアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩等を任意に用いることができる。
【0058】
この二価金属イオン捕捉剤は、0〜50%、好ましくは5〜40%配合される。また、リンを含有しない二価金属イオン捕捉剤を用いることがより好ましい。
【0059】
(3)アルカリ剤及び無機塩
ケイ酸塩、炭酸塩、セスキ炭酸塩、硫酸塩、アルカノールアミン等を任意に用いることができる。これらは0〜80%配合される。
【0060】
(4)再汚染防止剤
ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等を任意に用いることができる。再汚染防止剤は0〜10%、好ましくは1〜5%配合される。
【0061】
(5)酵素
セルラーゼ、アミラーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ、β−グルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、低温アルカリプロテアーゼT16以外のプロテアーゼ等の酵素を任意に用いることができる。低温アルカリプロテアーゼT16はセルラーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ等の酵素と併用すれば洗浄力をいっそう向上させることができる。
【0062】
(6)水道水中の有効塩素の捕捉剤又は還元剤
有効塩素の捕捉剤として、硫酸アンモニウム、尿素、塩酸グアニジン、炭酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、二酸化チオ尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、またグリシングルタミン酸ナトリウム等で代表されるアミノ酸及び牛血清アルブミン、カゼイン等の蛋白質、更には蛋白質の加水分解、肉エキス、魚肉エキス等が挙げられる。
【0063】
還元剤としては、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土壌金属塩等、ロンガリットC等が挙げられる。
【0064】
(7)漂白剤
過炭酸塩、過硼酸塩、スルホン化フタロシアニン亜鉛塩又はアルミニウム塩、過酸化水素等、漂白作用を有するものであればよい。
【0065】
(8)蛍光染料
通常洗浄剤に用いられる蛍光染料。
【0066】
(9)可溶化剤
液体洗剤の場合には次のような可溶化剤を用いることができる。
エタノール等の低級アルコール、ベンゼン、スルホン酸塩、−トルエンスルホン酸塩等の低級アルキルベンゼンスルホン酸塩、プロピレングリコール等のポリオール類など。
【0067】
(10)その他
上記以外に、香料、ケーキング防止剤、酵素の活性化剤、酸化防止剤、防腐剤、色素、青味付け剤、漂白活性化剤等の洗剤に常用の成分を必要に応じて配合することができる。
【0068】
本発明の洗浄剤組成物の形態は、用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉末、顆粒等とすることができる。また、本発明洗浄剤組成物は、衣料用洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、漂白剤等として使用することができる。
【0069】
また、本発明の低温アルカリプロテアーゼT16は、パンの小麦蛋白の加工、食肉の軟化、チーズの熟成等の食品加工や、皮なめしなどにも利用することができる。
【0070】
本発明の低温アルカリプロテアーゼT16を食品加工に用いるには、低温アルカリプロテアーゼT16をそのまま、又は粉末状もしくは粒状の食品加工用酵素製剤として、使用することができる。かかる食品加工用酵素製剤には、低温アルカリプロテアーゼT16のほか、澱粉類、蛋白質類、糖類、調味料、エステル類等を配合することができる。
【0071】
【実施例】
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
実施例1
土壌サンプル約1gを生理食塩水(10ml)に懸濁し、以下に示した組成を有するプロテアーゼ生産判定プレートに塗抹し、20℃で5〜7日間培養した。生育した集落の周囲に卵黄の分解によって生じた凹みを指標としてプロテアーゼ生産菌を分離した。得られた分離株の中から、低温プロテアーゼ生産性を調べ、スフィンゴモナス エスピー KSM−T16を選抜した。
【0073】
Figure 0003664803
【0074】
実施例2
実施例1で得られたスフィンゴモナス エスピー KSM−T16株を下に示した液体培地で好気的に20℃、2日間培養した。培養後、遠心分離(12,000×g,20分間)して得られた上清液を10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5;2mM CaCl2含有)で5℃、一昼夜透析した。透析内液のプロテアーゼ活性を、カゼイン基質として20℃で測定したところ(50mM炭酸緩衝液中,pH10.0)、3〜4U/l培養液に相当するプロテアーゼの生産が認められた。
【0075】
Figure 0003664803
【0076】
実施例3
スフィンゴモナス エスピー KSM−T16株を実施例2の液体培地に接種し、20℃で40時間培養した。培養後、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5;2mM CaCl2含有)に対し5℃で一昼夜透析した。この透析内液を凍結乾燥し、乾燥終了後、少量のイオン交換水で溶解し、同平衡緩衝液(pH7.5;2mM CaCl2含有)に対し5℃で一昼夜透析し濃縮液とした。この濃縮液を平衡化したセファクリルS−200スーパーファイン(ファルマシア社製)のカラムでゲルクロマトグラフィーを行った。この結果、約2〜3倍まで精製された(回収率約90%)。
【0077】
実施例4 洗浄試験
本発明の洗浄剤組成物を用い、以下の洗浄試験を行った。
(1)洗剤
表6に示す配合組成の弱アルカリ性粉末衣料用洗剤を調製して用いた。
【0078】
【表6】
Figure 0003664803
【0079】
(2)汚染布
i)人工汚染布
スイス国立産業資材試験研究機関作製の市販人工汚染布EMPA116(血液/ミルク/カーボン汚れ)を実験に供した。
ii)天然襟布汚染布
木綿金布(#2023布)をワイシャツの襟に縫い付け、青年男子に3日間着用させる。着用後25℃、65%RHに1ケ月放置後、汚れの程度を三段階に分け、このうち最も汚れのひどいもののうち、中心点に対して汚れが対称な布を選び出し、この汚れの対称点で布を半裁し、実験に供した。
【0080】
(3)洗浄条件及び方法
i)人工汚染布の洗浄
EMPA116を8×8cm程に裁断後、表6に示す配合組成の弱アルカリ性粉末衣料用洗剤を0.0833%になるように4°DHの水にて調整後、20℃で1時間浸漬を行った。浸漬終了後、ターゴットメーター(上島製作所社製)を使用し、1リットル、20℃、100rpm、10分間洗浄を行った。濯ぎ、乾燥後、色彩色差計CR−300(ミノルタ社製)で明度を測定し、酵素未添加の洗浄系による明度を100とした場合の比率を洗浄力指数として表した。
【0081】
ii)天然汚染布のターゴットメーターによる洗浄
天然襟布汚染布を11×13cm程に裁断後、表6に示す配合組成の弱アルカリ性粉末衣料用洗浄剤を0.0833%になるように4°DHの水にて調整後、20℃、1時間浸漬を行った。浸漬終了後ターゴットメーター(上島製作所社製)を使用し、1リットル、20℃、100rpm、10分間洗浄を行った。濯ぎ、乾燥後、一対の襟布(15組)を見比べ、汚れ落ちの程度を3名の熟練した判定者によりそれぞれ肉眼で判定を行った。判定方法は、汚れがほぼ完全に落ちている場合を5点、汚れがほとんど落ちていない場合を1点とし、15枚の襟布の合計評価点を求め、酵素未添加の洗浄系による評価点を100とした場合の比率を洗浄液指数として表した。
【0082】
ii)天然汚染布の洗濯機による洗浄
9×30cm程の天然汚染布を対称の位置で半裁し、9×15cmの一対の汚染布の一方を基準洗剤である酵素無添加洗剤で洗浄し、片方を比較洗剤である本発明の低温アルカリプロテアーゼT16を含有する洗剤でそれぞれ洗浄した。
まず、天然汚染布片15枚を50×50cmの綿布に縫い付け、6リットルの表6に示す配合組成の弱アルカリ性粉末衣料用洗剤0.417%の洗剤溶液に、この汚染布と綿製肌着を合わせて1kg入れ、20℃で1時間浸漬後、東芝社製製洗濯機(銀河)に移し、全量を30リットルとした後、強反転で10分間洗浄した。濯ぎ、乾燥後、基準洗剤で洗った半裁布と本発明の低温アルカリプロテアーゼT16を含有する洗剤で洗った半裁布とを肉眼判定による一対比較で評価した。汚れの程度を表す10段階にランクづけした標準汚れを基準にし、洗浄布をランクづけした。洗浄性は基準洗剤の洗浄力を100としたときの本発明の低温アルカリプロテアーゼT16を含有する洗剤の洗浄力の点数を表した。洗浄力指数の差は0.5以上で有意の差とみなすことができる。
【0083】
(4)結果
以上の洗浄試験の結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
Figure 0003664803
【0085】
【発明の効果】
本発明のプロテアーゼは、作用最適温度を低温領域に有し、界面活性剤によってもほとんど阻害を受けず、また、酸性から高アルカリ溶液中で幅広く安定である。従って、本酵素は洗浄剤組成物の配合成分として、低温下で有利に使用できるものである。また、低温条件下における、皮なめしや、パンの小麦蛋白の加工、食肉の軟化、チーズの熟成といった食品の改質にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】低温アルカリプロテアーゼT16の温度−活性曲線を示す図である。
【図2】低温アルカリプロテアーゼT16の温度安定性を示す図である。
【図3】低温アルカリプロテアーゼT16のpH活性曲線を示す図である。
【図4】低温アルカリプロテアーゼT16のpH安定性を示す図である。
【図5】低温アルカリプロテアーゼT16の分子量の測定結果を示す図である。

Claims (5)

  1. 次の酵素学的性質を有する低温アルカリプロテアーゼT16。
    1)作用温度及び最適温度
    少なくとも0〜60℃で作用し、最適温度は28〜32℃である。10℃で最適温度における活性の20〜30%、0℃で最適温度における活性の10〜20%の活性を保持する。
    Ca2+が存在すると最適温度は38〜42℃に移行する。
    2)温度安定性
    pH10.0、15分間の処理条件で約48〜52℃まで安定であり、Ca2+が存在すると約60℃まで安定である。
    3)作用pH及び最適pH
    少なくともpH5〜12で作用し、最適pHは約9である。pH12においても最大活性値の60〜70%の活性を保持する。
    4)pH安定性
    20℃、15分間の処理条件でpH5〜12の範囲で安定である。
    5)分子量
    セファクリルS−200を用いたゲルクロマトグラフィーによる見かけの推定分子量は26,000±1,000である。
    6)基質特異性
    カゼインをよく加水分解し、ヘモグロビンとケラチンに対しても作用する。
    合成基質であるSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNa、Glt-Ala-Ala-Pro-Leu-pNa、Suc-Ala-Ala-Pro-Val-pNa、Z-Gly-Gly-Phe-pNa、Suc-Ala-Ala-Ala-pNa、Suc-Ala-Pro-Ala-pNa及びSuc-Ala-Ala-Phe-pNaに対して作用し、−ニトロアニリンを遊離する(Sucはスクシニル基を、Gltはグルタリル基を、Zはカルボベンゾイル基を、pNaは−ニトロアニリノ基を示す)。
    7)金属イオンの影響
    Hg2+によって阻害される。
    8)阻害剤
    エチレンジアミン四酢酸、エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)四酢酸、フェニルメタンスルフォニルフルオライド及びキモスタチンによって阻害される。
    9)界面活性剤の影響
    ソジュウムドデシル硫酸、ソジュウムα−オレフィンスルホン酸、ソジュウムアルカンスルホン酸、α−スルホ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソジュウム直鎖アルキルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等に対して極めて安定である。
  2. スフィンゴモナス エスピー(Sphingomonas sp.)KSM−T16と命名され、FERM P−15457として寄託された請求項1記載の低温アルカリプロテアーゼT16を生産する微生物。
  3. 請求項2記載の微生物を培養し、その培養物から当該低温アルカリプロテアーゼを採取することを特徴とする請求項1記載の低温アルカリプロテアーゼT16の製造法。
  4. 請求項1記載の低温アルカリプロテアーゼT16を含有する洗浄剤組成物。
  5. 請求項1記載の低温アルカリプロテアーゼT16を含有する食品加工用酵素製剤。
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