JP3592794B2 - 低温アルカリプロテアーゼ、これを生産する微生物及び当該アルカリプロテアーゼの製造法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、新規なアルカリプロテアーゼ、これを生産する微生物及び当該アルカリプロテアーゼの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒する酵素群の総称で、微生物、動物及び植物中に広く分布している。その応用範囲としては、衣料用洗剤、自動食器洗浄機用洗剤、コンタクトレンズ洗浄剤、浴用剤、角質除去用化粧料、食品の改質剤(製パン、肉の軟化、水産加工)、ビールの清澄剤、皮革なめし剤、写真フィルムのゼラチン除去剤、消化助剤あるいは消炎剤があり、多分野で盛んに利用されてきた。
【0003】
その中で最も大量に工業生産され、市場規模が大きいのは洗剤用プロテアーゼであり、例えばアルカラーゼ、サビナーゼ(ノボ・ノルディスク社製)、マクサカル(ギスト・ブロケイデス社製)、API−21(昭和電工社製)、ブラップ(ヘンケル社製)及びプロテアーゼK(KAP;花王社製)などが知られている。
【0004】
しかしながら、これらの大半は最適温度が高温側にあるため、水道水をそのまま用いて低温領域で衣料等の洗浄を行う場合には、その酵素特性が充分に発揮されているとは言いがたい。また、前述のプロテアーゼは、その応用分野のほとんどにおいて、体温、室温又は低温条件下で使用されるため、高温至適酵素の使用はなじまない。加えて、高温至適酵素を用いて高温処理工程を行うことは、省エネルギーの観点からも好ましいとは言えない。一方、低温至適プロテアーゼは、反応系に熱を加えられないようなケース、すなわちチーズの熟成や肉の軟化等の食品の改質に有効であると思われる。
【0005】
近年、洗剤をはじめとしてプロテアーゼの商品への配合や工業的プロセスなどにおける利用が考えられているが、この場合、室温から低温領域で有効に作用する酵素を見出すことは、省エネルギー化に加えて酵素の機能を十分発揮させるうえで、必須の条件である。これまでに、寒冷地土壌等の寒冷環境に棲息する生物、海水あるいは冷蔵中のミルク等から分離されたプロテアーゼ生産菌及び生産されるプロテアーゼに関しては数多くの報告例がある。すなわち、シュードモナスエスピー(Pseudomonas sp.)No.548株(Agric. Biol. Chem.,36巻,1185頁,1970年)、エシェリヒア フロインディ(Eschreichia freundii )( Eur. J. Biochem., 44巻,87頁,1974年)、キサントモナスマルトフィラ(Xanthomonas maltophila)047/08株(FEMS Microbiol. Lett., 79巻,257頁,1991年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)T16が(Appl. Environ. Microbiol.,46巻,333頁,1983年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)AFT36株(Biochim. Biophys. Acta, 717巻,376頁,1982年)、シュードモナス エスピー(Pseudomonas sp.)145−2株(Microbios.,36巻,7頁,1982年)、アエロモナス サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)(J. Appl. Bacteriol., 53巻,289頁,1983年)、シュードモナス パウシモビリス(Pseudomonas paucinomobilis),バチルス エスピー(Bacillus sp.)(J. Basic Microbiol., 31巻,377頁,1991年)、ビブリオ エスピー(Vibrio sp.)SA 1株(Antonie van Leeuwenhoek,44巻,157頁,1978年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)NCDO 2085株(J. Dairy Res., 53巻,457頁,1986年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)(J. Dairy Res., 53巻,97頁,1986年)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)GR83株(Lebensm.−Wiss. u.−Technol., 23巻,106頁,1990年)、ペシロミセス マルクアンディ(Paecilomyces marquandii)(WO 88/03948)及びキサントモナス エスピー(Xanthomonas sp.)S−1(特開平5−211868号)などの低温で生育できる微生物が種々のプロテアーゼを生産する。また、好冷細菌(psychrotroph)が生産するプロテアーゼに関しては、Fairbainらが要領よく総説にまとめている(J. Dairy Res., 53巻,139頁,1986年)。しかしこれらのプロテアーゼについても、低温域における作用は、必ずしも満足できるものではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、低温条件下においても高い活性を保持するプロテアーゼ、及びこれを生産する微生物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、斯かる問題点を解決するため、低温領域において十分作用するプロテアーゼを自然界に求め、探索してきた。その結果、南氷洋に生息する貝類の一種であるシロバイから、3℃という低温条件下においても良好な生育を示す好冷細菌を分離し、これらの中で菌体外に、低温領域においても活性を有するプロテアーゼを分泌する微生物を見出し、更に得られたプロテアーゼは低温領域で優れた活性を有するだけでなく、アルカリ側に至適pHを有するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の酵素学的性質を有する低温アルカリプロテアーゼ、これを生産する微生物及び当該アルカリプロテアーゼの製造法を提供するものである。
【0009】
1)作用温度及び最適温度
0〜70℃で作用し、最適温度は約40℃にある。Ca2+イオンが存在すると作用最適温度は50℃に移行する。10℃においても最適温度活性値の約20%、0℃においても最適温度活性値の約10%の活性を保持する。
2)温度安定性
pH8.0、15分間の処理条件で45℃まで安定であり、Ca2+イオンが存在すると50℃まで安定である。
3)作用pH及び最適pH
作用pH範囲は4〜12以上で、最適pHは11である。pH12においても、最大活性値の70%以上の活性を保持する。
4)pH安定性
20℃、15分間の処理条件でpH5〜12までの各pHで極めて安定である。
5)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による推定分子量は、約54,000である。
6)基質特異性
天然基質であるカゼイン、尿素変性ヘモグロビン及び卵黄に対して作用する。合成基質であるSuc−Ala−Ala−Pro−Phe−pNA(Suc−AAPF−pNA)、Suc−Ala−Ala−Pro−Leu−pNA(Suc−AAPL−pNA)、Suc−Ala−Ala−Val−Ala−pNA(Suc−AAVA−pNA)、Z−Ala−Ala−Leu−pNA(z−AAL−pNA)(ここでSucはサクシニル基を、pNAはp−ニトロアニリニル基を、Zはカルボベンゾイル基を示す)に対して作用し、p−ニトロアニリンを遊離させる。
7)金属イオンの影響
Hg2+及びZn2+イオンによって阻害される。
8)阻害剤
EDTA、フェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)、キモスタチン及びp−クロロマーキュリ安息香酸(PCMB)によって阻害される。ジチオスレイトール(DTT)、N−エチルマレイミド(NEM)、5,5′−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、ベスタチン、ロイペプチン、ペプスタチン及びホスホラミドンによって阻害を受けない。
9)界面活性剤の影響
アルカン硫酸ナトリウム(SAS)、α−オレフィン硫酸ナトリウム(AOS)、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム(ES)、ソフタノール70H及びα−スルホ脂肪酸エステル(α−SFE)によって2〜7倍の活性促進を受ける。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に対しても安定である。
【0010】
本発明の低温アルカリプロテアーゼは、例えばアルテロモナス(Alteromonas)属に属するプロテアーゼ生産菌を培養し、その培養物から採取することにより製造することができる。
【0011】
かかるアルテロモナス属に属する本発明プロテアーゼ生産菌としては、アルテロモナス属に属し、上記の本発明プロテアーゼを生産する限り特に制限されないが、例えば次の分類学的性質を示すKSM−SP111株が挙げられる。
【0012】
本発明のプロテアーゼ生産菌の分離に用いられる培地を以下に示す。
【0013】
使用培地の組成(重量%で表示)
培地1. ニュートリエントブロス,0.8;寒天末(和光純薬社製),1.5
培地2. ニュートリエントブロス,0.8
培地3. ニュートリエントブロス,0.8;ゼラチン,2.0;寒天末(和光純薬社製),1.5
培地4. バクトリトマスミルク,10.5
培地5. ニュートリエントブロス,0.8;KNO3,0.1
培地6. バクトペプトン,0.7;NaCl,0.5;ブドウ糖,0.5
培地7. SIM寒天培地(栄研化学社製),指示量
培地8. TSI寒天培地(栄研化学社製),指示量
培地9. バクトペプトン,1.5;酵母エキス,0.5;可溶性澱粉,2.0;K2HPO4,0.1;MgSO4・7H2O,0.02;寒天末(和光純薬社製),1.5
培地10.Koserの培地(栄研化学社製),指示量
培地11.Christensenの培地(栄研化学社製),指示量
培地12.
(1)酵母エキス,0.05;ブドウ糖,1.0;KH2PO4,0.1;Na2SO4,0.1
(2)酵母エキス,0.05;ブドウ糖,1.0;KH2PO4,0.1;MgSO4・7H2O,0.02;CaCl2・2H2O,0.05;FeSO4・7H2O,0.001;MnSO4・4−6H2O,0.001;窒素源としては、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム及びリン酸アンモニウムを各々0.25,0.2,0.16,0.2%となるように、上記(1)及び(2)の培地に加えて用いた。
培地13.キングA培地“栄研”(栄研化学社製),指示量
培地14.キングB培地“栄研”(栄研化学社製),指示量
培地15.尿素培地“栄研”(栄研化学社製),指示量
培地16.チトクロム・オキシダーゼ試験紙濾紙(日水製薬社製)
培地17.3%過酸化水素水
培地18.バクトペプトン,1.5;酵母エキス,0.5;KH2PO4,0.1;ブドウ糖,1.0;MgSO4・7H2O,0.02
培地19.バクトペプトン,2.7;NaCl,5.5;ブドウ糖,0.5;K2HPO4,0.1;ブロムチモールブルー,0.06;寒天末
(和光純薬社製),1.5
培地20.(NH4)2HPO4,0.1;KCl,0.02;MgSO4・7H 2O,0.02;酵母エキス,0.05;糖1.0
培地21.カゼイン,0.5;酵母エキス,0.05;ブドウ糖,1.0;KH2PO4,0.1;MgSO4・7H2O,0.02;寒天末(和光純薬社製),1.5
【0014】
KSM−SP111株の分類学的性質を以下に示す。
【0015】
[分類学的性質]
(a)顕微鏡的観察結果:
菌体の大きさは、0.5〜0.8μm×1.5×8.0μmの桿菌であり、極鞭毛を有し、運動性がある。
(b)グラム染色性:
陰性。
(c)各種培地における育成状態:
(1)肉汁寒天平板培養(培地1);
生育状態は良い。集落の形状は円形であり、表面は円滑で光沢がある。また、集落の色調は、淡紅色で半透明又は不透明である。
(2)肉汁寒天斜面培養(培地1);
生育する。
(3)肉汁液体培養(培地2);
生育は良好で、菌膜は形成しない。
(4)肉汁ゼラチン穿刺培養(培地3);
生育状態は良い。ゼラチンの液化がわずかに認められる。
(5)リトマスミルク培地(培地4);
わずかに酸の生成が認められる。
(d)生理学的性質
(1)硝酸塩の還元及び脱窒反応(培地5);
硝酸塩の還元は陽性。脱窒反応は陰性。
(2)MRテスト(培地6);
陰性。
(3)VPテスト(培地6);
陰性。
(4)インドールの生成(培地7);
陰性。
(5)硫化水素の生成(培地8);
陰性。
(6)澱粉の加水分解(培地9);
陽性。
(7)クエン酸の利用(培地10、11);
陰性。
(8)無機窒素源の利用(培地12);
アンモニウム塩及び硝酸塩を利用する。
(9)色素の生成(培地13、14);
陰性。
(10)ウレアーゼ(培地15);
陰性。
(11)オキシダーゼ(培地16);
陰性。
(12)カタラーゼ(培地17);
陽性。
(13)生育の範囲(培地18);
生育の温度範囲は3〜37℃である。
生育のpH範囲は6〜10である。
(14)酸素に対する態度(培地19);
好気的。
(15)O−Fテスト(培地20);
酸化型。
(16)糖の利用性;
D−ガラクトース、シュクロース、D−グルコース、D−フラクトース、D−マンニトール、マルトース、D−マンノース、ラフィノース及び可溶性澱粉を利用することができる。
(17)食塩含有培地における生育(培地1中);
食塩濃度5%では生育するが、10%では生育できない。
(18)カゼインの分解(培地21);
陽性。
【0016】
以上の分類学的性質に関する検討に基づき、バージーズ・マニュアル・オブ・システマティク・バクテリオロジー(Bergey’s Mannual of Systematic Bacteriology)第8版を参照し、比較検討した結果、本菌株は、アルテロモナス(Alteromonas)属の一種と判断された。また、Moritaらの定義(Bacteriol. Rev.,39巻,144頁,1975年)に基づけば、好冷細菌(psychrotroph)の範疇にはいると考えられる。なお、Fellerらによって南氷洋から分離されたアルテロモナス属細菌は、熱不安定なα−アミラーゼを生産するものであり(J. Biol. Chem., 267巻,5217頁,1992年)、本菌株とは明らかに異なる。
【0017】
従って、本菌株をアルテロモナス エスピー(Alteromonas sp.)KSM−SP111と命名し、FERM P−14838号として工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。
【0018】
上記の菌株を用いて、本発明のプロテアーゼを得るには、培地に菌株を接種し、常法に従って培養すればよい。
【0019】
培養に用いる培地中には、資化しうる炭素源及び窒素源を適当量含有せしめておくことが望ましい。この炭素源及び窒素源は特に制限されないが、例えば炭素源として可溶性澱粉、グルコース、マンノース、ガラクトース、フラクトース、シュクロース、マルトース、マンニトール、ラフィノースや資化しうる有機酸、例えばクエン酸などが挙げられる。また、窒素源としては、コーングルテンミール、大豆粉、コーンスティプリカー、カザミノ酸、酵母エキス、フーマメディア、肉エキス、トリプトン、ソイトン、ポリペプトン、ソイビーンミール、綿実油粕やカルチベータなどの有機窒素源が有効である。更に、燐酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、亜鉛塩、コバルト塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の無機塩や、必要とあれば、無機又は有機微量栄養素やビタミン類を培地中に適宜添加することができる。
【0020】
培養温度は3〜30℃、特に10℃前後が好ましく、pHは6〜8、特に7が好ましく、この条件下において通常3〜5日間で培養が完了する。
【0021】
斯くして得られた培養液の中から目的の酵素であるアルカリプロテアーゼを採取するには、一般の酵素採取の手段に準じて行うことができる。すなわち、培養後、菌体を遠心分離又は濾過等の通常の分離手段により菌体を培養液から除去して粗酵素液を得る。この粗酵素液はそのまま使用することもできるが、必要に応じて限外濾過あるいは沈澱法等の手段により回収し、適当な方法を用いて粉末化して用いることもできる。また、酵素精製の一般的な手段、例えば、適当な陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、ヒドロキシアパタイトによるクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー及びゲル濾過などを適宜組み合せることによって精製することができる。
【0022】
斯くして得られる本発明低温アルカリプロテアーゼの酵素化学的性質について以下に説明する。
【0023】
〔酵素活性測定法〕
カゼイン法;
カゼイン1%を含む50mMの各種緩衝液1mlを0.1mlの酵素溶液と混合し、20℃、15分間反応させた後、反応停止液(0.11M トリクロロ酢酸−0.22M 酢酸ナトリウム−0.33M 酢酸)2mlを加え、30℃、20分間放置した。次に濾紙(ワットマン社製、No.2)で濾過し、濾液中の蛋白分解物をフォーリン・ローリー法(Lowry, O. H. ら, J. Biol. Chem., 193巻,265頁,1951年)によって測定した。
また、上記反応条件下において、1分間に1μmolのチロシンに相当する酸可溶性蛋白分解物を生成する酵素量を1単位(1U)とした。
【0024】
合成基質法;
40mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.8)中に0.4μgの精製酵素と10mMCaCl2を含む0.6mlの反応系に、5μlの基質溶液(例えばSuc−AAPF−pNA)を加えて反応を開始した(最終基質濃度0.1mM)。25℃で、15分間反応させた後、分光光度計を用いて、405nmにおける吸光度を測定し、遊離したp−ニトロアニリンを定量した。酵素1単位は、上記反応条件において、1分間に1μmolのp−ニトロアニリンを生成する量とした。
【0025】
〔酵素学的性質〕
(1)基質特異性:
50mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)中、基質を1%になるように調製し、本酵素を添加して、20℃で15分間反応を行い、天然基質に対する作用を調べた。その結果、表1に示すように、カゼイン、尿素変性ヘモグロビン、卵黄に対して分解活性を示した。
【0026】
また、40mM トリス緩衝液(pH7.8)中で、p−ニトロアニリンが結合したオリゴペプチド基質を0.1mMになるように調製し、本酵素を添加して、25℃で15分間反応を行い、分解活性を検討した。その結果、表1に示すように、Suc−AAPF−pNA, Suc−AAPL−pNA, Suc−AAVA−pNA及びz−AAL−pNA に作用し、p−ニトロアニリンの遊離が観察された。
【0027】
【表1】
【0028】
(2)作用pH及び至適pH:
各種緩衝液(50mM)中に最終濃度0.91%となるようにカゼインを加え、25℃で15分間反応を行い、各pHでの活性を相対的に表した。図1から明らかなように、本プロテアーゼの至適pHは11である。また、その作用pHは、pH4〜12以上と幅広く、pH12においても最大活性の70%以上の活性を保持している。尚、使用した各種緩衝液及びそのpH範囲は次のとおりである。
【0029】
酢酸緩衝液:pH3〜6
リン酸緩衝液:pH6〜8
ホウ酸緩衝液:pH7〜12
【0030】
(3)pH安定性:
(1)で用いたものと同じ緩衝液(25mM)中に本酵素を加え、20℃で15分間放置した。この処理液について、カゼインを基質として残存活性の測定を行った。その結果、図2に示すとおり、本酵素はpH5〜12の範囲で極めて安定であった。
【0031】
(4)作用温度及び至適温度:
基質として0.91%のカゼインを含む50mMホウ酸緩衝液(pH8.0)に本酵素を加え、15分間各温度で反応を行った。その結果を図3に示す。図3から明らかなように、本酵素の至適温度は40℃であった。また、Ca2+イオンが存在すると、至適温度は50℃に移行した。
【0032】
(5)温度安定性:
50mM ホウ酸緩衝液に本酵素を加え、各温度で15分間熱処理した後、氷冷した。カゼインを基質として、残存活性を求め、その結果を図4に示した。本酵素はCa2+非存在下で45℃、Ca2+存在下で50℃まで安定であった。
【0033】
(6)分子量:
本酵素の分子量をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定した。分子量マーカーには、低分子蛋白質(ベーリンガー・マンハイム社製)である、フルクトース−6−リン酸キナーゼ(分子量:85,000)、牛血清アルブミン(分子量:66,000)、オボアルブミン(分子量:45,000)、アルドラーゼ(分子量:39,000)、キモトリプシノーゲンA(分子量:25,000)、チトクロムc(分子量:14,400)を用いた。図6から明らかなように、本精製プロテアーゼ標品は、SDS電気泳動的に単一であり、その分子量は約54,000と推定される。
【0034】
(7)等電点:
pH6.0において、陰イオン交換体に結合し、陽イオン交換体に結合しないことから、本酵素の等電点は6以下であると推察される。
【0035】
(8)金属イオンの影響:
各種金属塩を1mM含む40mMトリス緩衝液(pH7.8)中で、本プロテアーゼを20℃で20分間処理した。合成基質(Suc−AAPF−pNA)を用いて、残存プロテアーゼ活性を測定した。残存活性は、金属塩無添加系で同様に処理した酵素活性に対する相対値で表した(表2)。表2より、酵素活性は、Hg2+又はZn2+イオンにより強く阻害されることがわかる。
【0036】
【表2】
【0037】
(9)阻害剤の影響:
40mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.8,10mM CaCl2含有、但しEDTAを用いる場合には、CaCl2を含まず)に各種阻害剤を所定の濃度になるように加え、そこに本酵素溶液を添加し、20℃で60分間放置した後、合成基質(Suc−AAPF−pNA)を用いて残存プロテアーゼ活性を測定した。結果を表3に示す。表3から、本酵素はEDTA、PMSF又はキモスタチンによって強い阻害を受けることから、金属セリンプロテアーゼ(metalloserine protease)であると考えられる。
【0038】
【表3】
【0039】
(10)界面活性剤の影響:
本酵素を、0.05%の界面活性剤を溶解した40mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.8)、(10mM CaCl2含有)に加えて、25℃で60分間放置した後、合成基質(Suc−AAPF−pNA)を用いて残存プロテアーゼ活性を測定した。結果を表4に示す。表4から、本プロテアーゼは、SAS、AOS、ES、ソフタノール70H、α−SFEにより2〜7倍の活性促進を受け、また、SDSに対しても安定であることがわかった。
【0040】
【表4】
【0041】
前述したように、低温至適を有するプロテアーゼに関しては、数多くの報告があり、その中には金属セリンプロテアーゼについての報告もある。しかし、低温至適、高アルカリ至適を示し、界面活性剤により活性促進を受ける金属セリンプロテアーゼについての報告はないことから、本酵素は新しいタイプのプロテアーゼであると考えられる。
【0042】
【発明の効果】
本発明のアルカリプロテアーゼは、種々の界面活性剤によって活性促進(2〜7倍)を受け、低温領域においても活性を保持する(10℃で最大活性の18%)という特徴を有する。また、酸性から高アルカリ溶液中で幅広く安定であるため、本酵素は洗浄剤組成物の配合成分あるいは肉の軟化剤などの広い分野で低温下で有利に使用できるものである。
【0043】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
好冷細菌の分離、採取:
南氷洋に生息する貝類シロバイに滅菌人工海水20mlを添加し、ホモゲナイザーで粉砕した。生じた懸濁液を、各種人工海水平板培地に塗抹し、20℃で72〜96時間培養した。なお、用いた人工海水培地の組成は、以下に示すとおりであり、プロテアーゼ生産の判定を行うために、スキムミルクを添加した。培養後、生育した集落(コロニー)の周囲にスキムミルク分解に基づく透明帯を形成したものを選抜した。
【0045】
【表5】
人工海水培地(pH7.6)
(成分) (配合量)
バクトペプトン(ディフコ社製) 2.5g
酵母エキス(ディフコ社製) 1.25g
肉エキス(ディフコ社製) 1.25g
グルコース 0.5g
寒天 20.0g
人工海水(ジャマリン・ラボラトリー社製) 1000ml
【0046】
実施例2
実施例1で得られたアルテロモナス エスピー KSM−SP111株を以下に示す液体培地に接触し、5℃で96時間培養を行い、本酵素を生産させた。
【0047】
【表6】
液体培養培地(pH7.6)
(成分) (配合量)
バクトペプトン(ディフコ社製) 5g
酵母エキス(ディフコ社製) 2.5g
グルコース 10g
人工海水(八洲薬品社製) 1000ml
【0048】
培養終了後、得られた培養液(活性107U/l)を遠心分離(8,000rpm,5分間)して菌体を除去した。本培養上清に飽和硫酸アンモニウムを加えて塩析を行った後、担体としてGCL−300mを用いたゲル濾過クロマトグラフィー、QAE−Toyopearlを用いた陰イオン交換体クロマトグラフィー、PHENYL−Cellulofineを用いた疎水性クロマトグラフィー、Mono Qを用いた陰イオン交換体クロマトグラフィーにより、SDS電気泳動により単一なバンドにまで精製した結果、比活性は、643倍上昇し、活性回収率は5%であった。
得られた酵素は前記の酵素学的性質を有していた。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルテロモナス エスピー KSM−SP111株が産するプロテアーゼのpH−活性曲線を示す図である。
【図2】アルテロモナス エスピー KSM−SP111株が産するプロテアーゼのpH安定性を示す図である。
【図3】アルテロモナス エスピー KSM−SP111株が産するプロテアーゼの温度−活性曲線を示す図である。
【図4】アルテロモナス エスピー KSM−SP111株が産するプロテアーゼの温度安定性を示す図である。
【図5】アルテロモナス エスピー KSM−SP111株が産するプロテアーゼの分子量測定結果を示す図であり、(a)は分子量とSDS電気泳動距離の相関を示す図、(b)は完全精製標品のSDS電気泳動写真(12%アクリルアミドゲル)を示す図である。
Claims (3)
- 次の酵素学的性質を有する低温活性アルカリプロテアーゼ。
1)作用温度及び最適温度
0〜70℃で作用し、最適温度は約40℃にある。Ca2+イオンが存在すると作用最適温度は50℃に移行する。10℃においても最適温度活性値の約20%、0℃においても最適温度活性値の約10%の活性を保持する。
2)温度安定性
pH8.0、15分間の処理条件で45℃まで安定であり、Ca2+イオンが存在すると50℃まで安定である。
3)作用pH及び最適pH
作用pH範囲は4〜12以上で、最適pHは11である。pH12においても、最大活性値の70%以上の活性を保持する。
4)pH安定性
20℃、15分間の処理条件でpH5〜12までの各pHで極めて安定である。
5)分子量
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による推定分子量は、約54,000である。
6)基質特異性
天然基質であるカゼイン、尿素変性ヘモグロビン及び卵黄に対して作用する。
合成基質であるSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-pNA、Suc-Ala-Ala-Pro-Leu-pNA、Suc-Ala-Ala-Val-Ala-pNA及びZ-Ala-Ala-Leu-pNA(ここでSucはサクシニル基を、pNAはp−ニトロアニリニル基を、Zはカルボベンゾイル基を示す)に対して作用し、p−ニトロアニリンを遊離させる。
7)金属イオンの影響
Hg2+及びZn2+イオンによって阻害される。
8)阻害剤
EDTA、フェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)、キモスタチン及びp−クロロマーキュリ安息香酸(PCMB)によって阻害される。ジチオスレイトール(DTT)、N−エチルマレイミド(NEM)、5,5′−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、ベスタチン、ロイペプチン、ペプスタチン及びホスホラミドンによって阻害を受けない。
9)界面活性剤の影響
アルカン硫酸ナトリウム(SAS)、α−オレフィン硫酸ナトリウム(AOS)、ポリオキシエチレンアルキル硫酸ナトリウム(ES)、ソフタノール70H及びα−スルホ脂肪酸エステル(α−SFE)によって2〜7倍の活性促進を受ける。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に対しても安定である。 - アルテロモナス エスピー(Alteromonas sp.)KSM-SP111と命名され、FERM P-14838号として寄託された請求項1記載の低温アルカリプロテアーゼを生産する微生物。
- 請求項2記載の微生物を培養し、その培養物から低温アルカリプロテアーゼを採取することを特徴とする請求項1記載の低温アルカリプロテアーゼの製造法。
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