JP3888071B2 - 高純度ホモシスチン誘導体の製造方法 - Google Patents

高純度ホモシスチン誘導体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高純度ホモシスチン誘導体の製造方法に関する。詳しくは本発明は高純度のN,N′−ジアシルホモシスチン、即ち4,4′−ジチオビス[2−(アシルアミノ)酪酸]の製造方法に関するものである。特に本発明はホモシスチンの両アミノ基をアシル化剤でアシル化するN,N′−ジアシルホモシスチンの製造方法において、副生するエステル体や加水分解物の生成を抑制しつつ効率的に抽出精製を行なう方法に関する。上記のホモシスチン誘導体は医薬・農薬・飼料添加剤などの合成中間体として有用な物質である。
【0002】
【従来の技術】
アミノ酸やペプチド等のアミノ基を保護する目的でアミノ基にアシル基を導入する方法はよく知られており、例えばJournal of Organic Chemistry誌の1979年,44巻,2805頁には、トリエチルアミンの存在下にトリフルオロ酢酸エチルを作用させて各種のアミノ酸やペプチドのN−トリフルオロアセチル誘導体を得る方法が記載されている。
【0003】
一方、ホモシスチン、即ち4,4′−ジチオビス(2−アミノ酪酸)を製造する方法としては、メチオニンを強酸中で脱メチル二量化する方法或いはメチオニンをバーチ還元して得られるホモシステインを酸化二量化する方法が知られている。例えば、Journal of Biological Chemistry誌の1932−33年,99巻,134頁には、硫酸中でメチオニンを加熱してホモシスチンを得る方法が記載されている。また、特開平10−204055号公報には、メチオニンを硫酸及びハロゲン化水素と加熱するホモシスチンの製造法が記載されている。更に、特開昭59−176248号及び特開昭59−176249号公報にはホモシステインの2ナトリウム塩を過酸化水素水または重金属イオンの存在下に分子状酸素により酸化してホモシスチンを製造する方法が記載されている。
また、ホモシスチンの精製方法としては、ポリスルフィド等の不純物を含有する粗ホモシスチンを過剰量の塩基で処理する方法が特開平11−246517号公報に記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような製造方法により得られるホモシスチンのN,N′−ジアシル誘導体は、単離・精製する際に加水分解やエステル化が進行してしまい、工業的な規模において高純度のホモシスチン誘導体を得ることは従来困難であった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記従来技術の問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、N,N′−ジアシルホモシスチンをその塩基性溶液から酸析させる際の条件を制御することにより目的を達成し得ることを見出して、本発明に到達した。
即ち本発明の要旨は、N,N′−ジアシルホモシスチンの塩基性溶液に酸を添加し、最終pH値が1〜5の範囲となる条件下にN,N′−ジアシルホモシスチンを析出させることを特徴とする高純度ホモシスチン誘導体の製造方法、に存する。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明方法は、N,N′−ジアシルホモシスチンの塩基性溶液から酸析によってN,N′−ジアシルホモシスチンを析出させる方法であり、それによって実質的に一方のアミド基が加水分解したモノアミノ体やカルボキシル基がエステル化したエステル体のような不純物を含まない高純度のホモシスチン誘導体を得る方法である。
【0007】
ここで、N,N′−ジアシルホモシスチンは、通常、ホモシスチンを塩基性溶液中でアシル化剤と反応させることによって製造することができるが、この方法で得られるN,N′−ジアシルホモシスチンの塩基性溶液は本発明方法の好適な出発物質となる。そこで先ずこのホモシスチンのアシル化剤によるアシル化の反応について説明する。
上記ホモシスチンのアシル化反応の出発物質として使用することのできるホモシスチンは、D−体、L−体、DL−体の何れでもよいが、カルボキシル基が保護されていないものであり、塩基性溶液中に可溶のものである。更に、ポリスルフィド類及びチオスルフィナートやチオスルホナート、スルフィニルスルホン、ジスルホン等の酸化不純物を1重量%以上含まないものであるのが好ましい。
【0008】
アシル化剤の種類は特に制限されないが、その選択は目的とするアシル基の種類に依存し、代表的なものとしてハロアルキルカルボニル化剤、特にハロアセチル化剤が挙げられる。ハロアセチル化剤としては無水トリフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロチオ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸フェニル、トリクロロトリフルオロアセトン等のトリフルオロアセチル化剤が知られており、その何れをも用いることができる。この中で入手の容易さや価格の安さ、取り扱いの易しさからはトリフルオロ酢酸エチルを使用するのが好ましい。アシル化剤の使用量としてはホモシスチンの2倍モル量以上が必要であるが、副反応を抑制する為には2〜3倍モル量であるのが好ましい。更に好ましくは、2〜2.5倍モル量を用いる。
【0009】
反応に使用する塩基としてはホモシスチンのカルボキシル基を完全に解離することができる程度に強塩基性のものであるが、生成したアミド基の加水分解を抑制する為には水酸基を有しないものが好ましい。一般にはトリエチルアミン等の第3級アミン類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコラート類、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物類等を挙げることができるが、入手の容易さや値段の安さ、取り扱いの易しさからはナトリウムメトキシドのメタノール溶液を用いるのが好ましい。塩基の使用量はアシル化剤と等モル量か若干の過剰量を用いる。
【0010】
反応溶媒としては、生成するアシル化物を溶解し得る極性の有機溶媒を用いることができる。このような溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等を挙げることができる。また、生成したアミド基の加水分解を抑制する為に含水率が500μg/g以下であるのが望ましい。
【0011】
上記の反応溶媒中、塩基の存在下にホモシスチンをアシル化剤と反応させることによってアシル化反応を行なう。このアシル化においては、先ず反応溶媒中にホモシスチンを分散してから塩基及びアシル化剤を添加するが、この時結晶を素早く均一に分散する為に溶液を撹拌混合するのが好ましい。撹拌翼の形状や撹拌の形式には特に制限はないが、アシル化してから1時間以内に均一透明になることが望ましい。反応溶媒に対するホモシスチンの使用量は任意であるが、通常はホモシスチンとして10重量%以上の濃度になるようにすることが好ましい。ホモシスチンの濃度が低すぎると反応速度が低下し、効率が悪化する傾向がある。
【0012】
不純物の生成を抑制する為には反応の温度は40℃以下であるのが好ましく、更に好ましくは30℃以下の温度で行う。温度が40℃を越えると不純物の生成は急激に多くなる。30℃以下なら数十時間の取り扱いが可能である。
反応の際には吸湿を避け、酸素酸化を抑制する為に乾燥した不活性ガスを導入するのが好ましい。このような不活性ガスとしては窒素またはアルゴン、ヘリウム、ネオン等の希ガスを用いることができる。不活性ガスはホモシスチン反応溶液中に直接導入することも出来るが、反応槽中でホモシスチン反応溶液を撹拌しながら気相部に導入することも出来る。不活性ガスの通気量は多い方が好ましいが、通常は1時間当たり反応容器容量の4分の1程度で充分である。
【0013】
上記のようにホモシスチンをアシル化することによってN,N′−ジアシルホモシスチンの塩基性溶液が得られ、これは本発明の酸析方法の好適な出発物質とすることができる。
本発明の酸析方法に用いる酸は、上記の塩基性溶液をpH1〜5に調整することができるpH4以下の酸であるが、析出するN,N′−ジアシルホモシスチンと反応して不純物を生成しないものが好ましい。このような酸としては塩酸、臭化水素酸、沃化水素酸などのハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸ガスなどのオキソ酸類、酢酸、モノクロロ酢酸、蓚酸などの有機酸が挙げられるが、酸化やエステル化などの副反応を生じないハロゲン化水素酸の使用が好ましい。中でも入手の容易さや値段の安さからは塩酸を用いるのがより好ましい。
【0014】
酸析処理時の溶媒としては、上記のようにアシル化反応の生成溶液をそのまま使用する場合は無論であるが、そうでない場合も上記アシル化反応に使用し得るような極性の有機溶媒を使用することができる。
酸析処理においても不純物の生成を抑制するために温度は40℃以下であるのが好ましく、更に好ましくは30℃以下の温度で行う。
また、酸析を行う際にも析出が均一に始まり、溶液中のpHを均一に保つように撹拌混合するのが好ましい。ホモシスチンのアシル化物はpH5付近において析出を始めるが、この時はホモシスチンのアシル化物の2つのカルボキシル基の解離は無くなると考えられる。
【0015】
さらに、酸の添加によって無機塩類が析出し、目的物中に不純物として混入することを防止するために、酸の添加前又は酸の添加の途中で水を加えることもできる。
また、酸析の際にも、吸湿を避け酸素酸化を抑制する為に、上記アシル化反応の場合と同様に乾燥した不活性ガスを導入するのが好ましい。
【0016】
上記のように酸析処理することによって得られたN,N′−ジアシルホモシスチンの結晶はそれ程安定ではなく、条件により加水分解やエステル化により不純物を生じる。エステル体の形成はpH依存性が高く、pH1未満の領域では数%のエステル体を生じることもある。これらの不純物生成を回避するには、酸析後、即ち酸析の最終段階における液相のpHを1〜5に保つことが必要である。この最終pH値は更に好ましくは2〜4に保つのがよい。
上記のように最終pH値が1〜5の範囲となる条件で酸析処理を行なうことにより、前記したようなモノアミノ体やエステル体のような不純物の含有量の極めて少ない高純度のN,N′−ジアシルホモシスチンを析出させることができる。
【0017】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明の態様をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りは、以下の実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例中での測定は以下のように行なった。
N,N′−ジアシルホモシスチンの化学純度:
分離カラムとして山村化学製のYMC−PACKのODS−AM(内径4.6mm,長さ75mm)を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定を行った。試料としてN,N′−ジアシルホモシスチン結晶0.2gを溶離液で10mlに溶解した溶液(成分濃度は2%)を10μl注入して分析を行った。溶離液には燐酸二水素一アンモニウムを濃度0.05モル/Lで溶解した90%と40%の含水アセトニトリル液を用いて20分間でのグラジエントを掛けながら流速1.0ml/分で分離を行い、215nmのUV検出器にて各吸光ピークの面積を測定した。結果は各成分の吸光ピークの面積に基づく面積百分率で示し、「A%」と表示した。
【0018】
pHの測定:
ホリバ製作所(株)製の携帯型pH計D−12型を用いて測定を行った。pH4,7及び9の校正液を用いて校正してから、アシル化の反応液及び酸析の懸濁液についてpH測定を行った。
含水率の測定:
三菱化学(株)製の微量水分計CA−07を用い、陽極液としてアクアミクロンAX(三菱化学(株)製)、陰極液としてアクアミクロンCXU(三菱化学(株)製)を用いてカールフィッシャー法電量水分滴定を行った。
【0019】
実施例1
外筒循環水による温度調節機と還流冷却管及び窒素導入管、PTFE製の半月板撹拌翼、pH電極、温度計を備えた容量200mlのガラス製セパラブルフラスコ中にL−ホモシスチン結晶13.4g及びメタノール26.8gを入れ、15℃において撹拌しながら28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液21.2gを添加し、次いでトリフルオロ酢酸エチル15.3gを加えてアシル化の反応を行なった。25℃まで昇温して5時間撹拌を続けた所、懸濁していた反応液は透明になった。
【0020】
この反応液を採取し、HPLCの溶離液で8.7倍に希釈したもの(目的物の成分濃度は約2%)につきHPLCで化学純度の測定を行なったところ、N,N′−ビス(トリフルオロアセチル)ホモシスチンの化学純度は99.2A%であり、また含水率は100μg/g未満であった。
上記の反応液に35%塩酸(pH値は−1)を添加してpH6に調整した後、脱塩水76gを加え、再度35%塩酸を追添加してpH2に調整した。20℃において10時間撹拌を続け、得られた懸濁液から結晶を採取してHPLCで化学純度を測定したところ、加水分解したモノトリフルオロアセチル体0.1A%とモノメチルエステル体0.6A%が検出されたが、目的物のジトリフルオロアセチル体の化学純度は99A%を上回っていた。
【0021】
実施例2
実施例1と同様にしてアシル化の反応を行い、同様の反応液を得た。35%塩酸を添加してpH6に調整した後、脱塩水76gを加えてから再度35%塩酸を追添加してpH4に調整した。20℃において10時間撹拌を続けた所、得られた結晶中には加水分解したモノトリフルオロアセチル体0.5A%とモノメチルエステル体0.2A%が検出されたが、目的物のジトリフルオロアセチル体の化学純度は99A%を上回っていた。
【0022】
実施例3
実施例1と同様にしてアシル化の反応を行い、同様の反応液を得た。35%塩酸を添加してpH6に調整した後、脱塩水76gを加えてから再度35%塩酸を追添加してpH4に調整した。40℃において10時間撹拌を続けた所、得られた結晶中には加水分解したモノトリフルオロアセチル体1.5A%とモノメチルエステル体0.3A%が検出されたが、目的物のジトリフルオロアセチル体のHPLC化学純度は98.2A%であった。
【0023】
比較例1
実施例1と同様にしてアシル化の反応を行い、同様の反応液を得た。35%塩酸を添加してpH6に調整した後、脱塩水76gを加えた。この時の溶液のpHは6.3であった。40℃において10時間撹拌を続けた所、得られた結晶中には加水分解したモノトリフルオロアセチル体3.2A%とモノメチルエステル体0.2A%が検出され、目的物のジトリフルオロアセチル体の化学純度は97A%を下回っていた。
【0024】
比較例2
実施例1と同様にしてアシル化の反応を行い、同様の反応液を得た。35%塩酸を添加してpH6に調整した後、脱塩水76gを加えてから再度35%塩酸を追添加してpH0.5に調整した。20℃において1時間撹拌を続けた所、得られた結晶中には加水分解したモノトリフルオロアセチル体0.1A%とモノメチルエステル体8.1A%が検出され、目的物のジトリフルオロアセチル体の化学純度は92A%を下回った。
【0025】
【発明の効果】
本発明方法により高純度のN,N′−ジアシルホモシスチンを容易に製造することができる。

Claims (6)

  1. N,N′−ジアシルホモシスチンの塩基性溶液に酸を添加し、最終pH値が1〜5の範囲となる条件下にN,N′−ジアシルホモシスチンを析出させることを特徴とする高純度ホモシスチン誘導体の製造方法。
  2. アシル基がトリフルオロアセチル基である、請求項1に記載の高純度ホモシスチン誘導体の製造方法。
  3. 液相のpH調整に用いる酸が塩酸である、請求項1又は2に記載の高純度ホモシスチン誘導体の製造方法。
  4. 酸の添加から、N,N′−ジアシルホモシスチンの析出までの液相の温度を40℃以下とする、請求項1〜3のいずれかに記載の高純度ホモシスチン誘導体の製造方法。
  5. N,N′−ジアシルホモシスチンの塩基性溶液が、塩基性溶液中でホモシスチンとアシル化剤とを反応させることによって得られたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の高純度ホモシスチン誘導体の製造方法。
  6. ホモシスチンとアシル化剤との反応の温度を40℃以下とする、請求項5に記載の高純度ホモシスチン誘導体の製造方法。
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