JP3884814B2 - 有機el発光素子の製造装置および方法 - Google Patents

有機el発光素子の製造装置および方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機化合物を用いた有機EL発光素子(以下、有機EL素子ともいう)の製造装置に関し、さらに詳細には、発光層や電子輸送層へのダメージの少ない成膜が可能な製造装置および方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、有機EL発光素子が盛んに研究されている。これは、錫ドープ酸化インジウム(ITO)などの透明電極(陽電極)上にテトラフェニルジアミン(TPD)などのホール輸送材料を蒸着等により薄膜とし、さらにアルミキノリノール錯体(Alq3 )などの蛍光物質を発光層として積層し、さらにMgなどの仕事関数の小さな金属電極(陰電極)を形成した基本構成を有する素子で、10V 前後の電圧で数100〜1000cd/cm2ときわめて高い輝度が得られることで注目されている。
【0003】
このような有機EL素子の陰電極として用いられる材料は、発光層へ電子を多く注入するものが有効であると考えられている。換言すれば、仕事関数の小さい材料ほど陰電極として適していると言える。仕事関数の小さい材料としては種々のものがあるが、EL発光素子の陰電極として用いられるものとしては、例えば特開平4−233194号公報に記載されているMgAg等が一般的である。この理由として、有機EL発光素子の製造プロセスが、抵抗加熱を用いた蒸着を主としているため、蒸着源は低温で蒸気圧の高いものに自ずと制限されてしまうという事情がある。また、このような抵抗加熱を用いた蒸着プロセスを用いているため、膜界面での密着性が悪くなり、これが素子寿命を律する要因ともなっていた。
【0004】
真空成膜の一つとして、通常のスパッタ法を用いることも考えられる。しかし、従来のスパッタ法の場合、Ar等の不活性ガスを用いて、ガス圧0.5〜1.0Paの条件により行われるが、蒸着の場合と比較してスパッタされる原子や原子団は数10〜数100倍程度の高い運動エネルギーを有する。このため、有機物から形成された発光層等に直接スパッタ成膜すると、エレクトロンがダメージを与えたり、表面の均一性が十分に得られないことになる。より具体的には、ターゲットにイオンが衝突する際、2次電子が少なからず放出され、この放出されたエレクトロンや、電離されたエレクトロンが多数有機EL素子構造体に衝突して、特に絶縁基板を用いると素子構成膜がダメージを受け、静電破壊電圧が低下し、陰陽電極間に電圧を印加するとリークを生じてしまい、素子として機能しなくなる。また、同様な現象が電子ビーム蒸着装置でも生じる。すなわち、蒸着源に電子ビームを照射した際に2次電子が放出され、素子構成膜がダメージを受ける場合があり、このようなエレクトロンによるダメージが少なく、しかも効率よく成膜のできる装置が必要であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、素子の有機構成膜にダメージを与えないで前記陰電極の製膜が可能で、陰電極等の薄膜界面での膜の密着性を改善し、素子の長寿命化が可能な薄膜を有する有機EL発光素子が製造可能な有機EL発光素子の製造装置および方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜()の本発明により達成される。
(1) 有機EL発光素子の成膜領域である基板を載置する手段と、この基板の裏面側の基板載置領域内に配置されかつ基板上に基板面と平行な磁界を形成する磁界発生手段を有する電子ビーム蒸着装置から構成される有機EL発光素子の製造装置。
(2) 有機EL発光素子の成膜領域である基板を載置する手段と、この基板の裏面側の基板載置領域内に配置されかつ基板上に基板面と平行な磁界を形成する磁界発生手段を有するスパッタ装置から構成される有機EL発光素子の製造装置。
) 前記基板とターゲットとの間に、接地電位ないし正電位のグリッド電極を有する上記()の有機EL発光素子の製造装置。
) 前記基板とターゲットとの間に、ターゲットより小さな開口を有するアパーチャを有する上記()または()の有機EL発光素子の製造装置。
) 前記磁界発生手段、または、前記磁界発生手段が設置された部材は、前記基板の裏面に当接する上記(1)〜(4)のいずれかの有機EL発光素子の製造装置。
) 前記磁界発生手段は、少なくとも基板の外縁に沿って基板上に飛来した電子を基板外部方向に排除する磁界を形成する上記(1)〜(5)のいずれかの有機EL発光素子の製造装置。
) 前記磁界発生手段は、少なくとも基板の一方の端部に平行磁界を印加し、少なくとも基板の他方の端部にこれと反対方向の平行磁界を印加する上記()の有機EL発光素子の製造装置。
) 前記磁界発生手段は、基板の一方のほぼ半分の領域に平行磁界を印加し、基板の他方のほぼ半分の領域にこれと反対方向の平行磁界を印加する上記()の有機EL発光素子の製造装置。
) 基板上に載置された有機膜のEL素子構造体上に、上記(1)〜()のいずれかの有機EL発光素子の製造装置を用いて陰電極を成膜する有機EL発光素子の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。
本発明の有機EL発光素子の製造装置は、有機EL発光素子の成膜領域である基板を載置する手段と、この基板の裏面側に配置されかつ基板上に基板面と平行な磁界を形成する磁界発生手段を有する。この有機EL発光素子の製造装置は、好ましくはスパッタ装置または電子ビーム蒸着装置である。このように、基板上に基板面と平行な磁界を形成することにより、基板上に入射しようとするエレクトロンは磁界との相互作用により運動方向を変えられ、基板外に排除され、基板上に到達するエレクトロンは極めて僅かなものとなり、エレクトロンによる有機EL素子へのダメージを防止できる。
【0008】
本発明の磁界発生手段は、外部から電流を与えることにより磁界を生じる公知の電磁石や、永久磁石の中から適宜選択して使用することができるが、特に永久磁石が好ましい。このような永久磁石としては、例えばFe−Nd−B、Sm−Co、フェライト、アルニコ等を用いることができ、好ましくはFe−Nd−Bである。この永久磁石は保磁力bHc=約2(KOe )〜10(KOe )の範囲のものが好ましく、残留磁束密度Br=約2KGauss〜約10KGaussの範囲のものが好ましい。また、その形状は特に限定するものではないが、通常四角いブロック状のものが用いられ、その大きさは通常1〜5cm×1〜5cm×1〜5cmの範囲である。
【0009】
本発明に使用される基板としては、スパッタ装置あるいは電子ビーム蒸着装置に使用される公知の基板の中から磁束を透過しうるものを適宜選択して使用することができる。このような基板材としては、例えば、ガラス、アルミナ等のセラミック等の絶縁性の基板が挙げられ、好ましくはガラスである。なお、導電性基板はチャージアップの現象が生じないが、金属等の導電性基板であっても裏面にSiO2 等の絶縁物がある場合等のように、基板が絶縁されていれば本発明の効果が得られる。基板の形状は特に限定するものではなく、四角板状あるいは円板状でもよいが、通常は四角板状のものが使用される。その大きさも特に限定するものではないが、四角状のものであれば通常、5〜50cm×5〜50cm×5〜50cmの範囲が好ましい。
【0010】
前記磁界発生手段は基板の裏面側、つまり成膜面(表面側)と反対側に配置される。磁界発生手段が配置される位置は特に限定するものではなく、基板上に所定の強度の磁界を発生することができれば、ある程度基板と離間させた位置に配置してもよい。また、基板が前記の冷却構造を有するものであれば、磁界発生手段を冷却媒を循環させる部分に配置してもよく、その場合には磁界発生手段に何らかの防水処理を施してもよい。配置される磁界発生手段は、基板上で必要な磁束密度が得られれば1つでもよいが、通常、基板の長さのほぼ全域にわたって複数個配置される。その場合N極とS極とが対向するように配置し、それぞれの磁束が合成され、外部に現れる磁束の方向が一定になるように配置することが好ましい。
【0011】
このような磁界発生手段の配置例を図1(A)、(B)、(C)、(D)に示す。図中、矢印は磁束の方向を表し、(A)は▲1▼の方向になるように磁界発生手段を配置した場合、(B)は(A)とは逆に▲2▼の方向になるように磁界発生手段を配置した場合、(C),(D)は基板の上下(左右)で磁界の方向を変えた場合である。
【0012】
このように基板上に形成される磁界は、基板面と平行で、しかも所定領域で一定の方向に揃ったものとなる。基板上に形成された磁界の磁束密度Bは、装置の規模や、成膜される材料、装置の動作条件等により適当な値に調整する必要があるが、好ましくは、B=0.01〜1KGaussの範囲、特にB=0.01〜0.1KGaussの範囲が好ましい。このような磁界が形成されることにより、例えばDCスパッタ装置の場合、基板の磁界付近までエレクトロンは、V(V)で加速され、磁束密度Bの磁界に入射すると曲率半径rで曲げられる。その関係を以下の式(I)に示す。
B=(2mV/e)0.5/r (I)
m:電子の質量
ここで、式(I)において例えば、V:400 V、B:10 Gaussとすると、rは10cmとなる。
【0013】
エレクトロンの運動方向と基板上に形成された磁界の方向との関係を図2に示す。ここで、図1に例示した各磁界についてエレクトロンの運動方向を考えると、(A)に示す磁界発生手段の配置の場合、磁界の方向は▲1▼であるから負荷電粒子(エレクトロン)の運動方向は▲4▼で、正荷電粒子の運動方向は▲3▼となる。この場合、正荷電・負荷電粒子とも磁界によって進路を曲げられることとなるが、基板上から排斥されず新たに入射する場合もある。(B)に示す磁界発生手段の配置の場合、(A)の場合とは正荷電・負荷電粒子の運動方向が逆であるが、その他、新たに入射する粒子の可能性については同様である。
【0014】
(C)に示す磁界発生手段の配置の場合、磁界の方向は▲1▼と▲2▼であり、正荷電・負荷電粒子の運動方向も、それぞれ▲3▼と▲4▼とになるが、正荷電粒子は基板上から排斥される方向に移動し、負荷電粒子は基板上に集められる方向に移動することとなる。(D)の場合はこの逆で、負荷電粒子が基板上から排斥される方向に移動し、正荷電粒子は基板上に集められる方向に移動することとなる。従って、エレクトロンのみを基板上から排斥しようとする場合、磁界発生手段を(D)のように配置することが最も好ましいことになる。
【0015】
すなわち、前記磁界発生手段は、少なくとも基板の外縁に沿って基板上に飛来した電子を基板外部方向に排除する磁界を形成し、また磁界発生手段は、少なくとも基板の一方の端部に平行磁界を印加し、少なくとも基板の他方の端部にこれと反対方向の平行磁界を印加する。また前記磁界発生手段は、基板の一方のほぼ半分の領域に平行磁界を印加し、基板の他方のほぼ半分の領域にこれと反対方向の平行磁界を印加する。また、前記磁界は、荷電粒子の飛来方向から基板を見たときに時計回り方向である。
【0016】
好ましくは、基板の一方のほぼ半分の領域に平行磁界を印加し、基板の他方のほぼ半分の領域にこれと反対方向の平行磁界を印加する場合、1〜10mmの等間隔に磁石列を配置すればよい。このような配置とすることで、基板中央のエレクトロンを有効に排除でき、しかも磁石の配置が簡略である。この場合、エレクトロンの排除方向の磁界を、基板の少なくとも外縁部方向に沿って印加してもよく、特に、基板の外縁部に沿って環状に配置すると効果的であるが、その場合には構造が複雑となる。
【0017】
本発明の装置により成膜される有機EL素子の構成材料としては、発光層、電子注入層あるいは電子注入輸送層等のいわゆる有機層上に成膜され、これらの有機層へダメージを与えるおそれのある陰電極構成材料や配線材が好ましく、陰電極の構成材料としては、電子注入を効果的に行うために、低仕事関数の物質として、例えば、K、Li、Na、Mg、La、Ce、Ca、Sr、Ba、Al、Ag、In、Sn、Zn、Zr等の金属元素単体、または安定性を向上させるためにそれらを含む2成分、3成分の合金系を用いることが好ましい。合金系としては、例えばAg・Mg(Ag:1〜20at%)、In・Mg(Mg:50〜80at%)、Al・Ca(Ca:5〜20at%)等が好ましい。したがって、スパッタ装置におけるターゲットとしては、通常このような陰電極構成金属、合金を用いる。特に、2次電子を発生しやすいMg,CaあるいはAl等の成膜に好適に用いることができる。
【0018】
次に、有機EL発光素子の製造装置の好ましい具体例を挙げ、本発明をより具体的に説明する
【0019】
図3は、本発明の第1の実施形態を示す装置の概略構成図である。図において、本発明の製造装置は真空チャンバー10内に、ターゲット1と、基板2と、この基板2を着脱自在に保持するチャッキング7と、基板2の裏面側に設けられた銅板3と、この銅板3の基板2と反対面であって、冷却容器5内に所定間隔を置いて複数個配置された磁界発生手段4と、接地されたシールド8と、前記ターゲット1に所定の電位を与えるDC電源12とを備える、いわゆるDCスパッタ装置である。なお、冷却容器5は、銅板3と真空チャンバー10の間にO−リング等のシール部材を有し、気密状態を保てるようになっている。また、冷却容器5内部には注水ポート6より冷却水が供給され、内部を循環するようになっている。
【0020】
真空チャンバー10の大きさは、特に限定するものではないが、通常10,000〜1,000,000cm3の範囲である。基板1の大きさは前述の通りであり、ターゲット5は基板1の0.4〜0.7倍の大きさを有することが好ましい。基板1−ターゲット5間は基板寸法の0.5〜2倍程度、特に5〜20cmの範囲が好ましい。
【0021】
このようなDCスパッタ装置の動作条件としては、スパッタ時におけるスパッタガスの圧力は、0.1〜20Pa程度が好ましい。DC電源12のスパッタ電圧は、電力換算で、好ましくは0.1〜4W/cm2 、特に0.5〜1W/cm2 の範囲である。
【0022】
上記スパッタ装置は、DCスパッタ装置に限らずRFスパッタ装置でもよいが、DCスパッタ装置とすることにより、スパッタされた原子や原子団の運動エネルギーやイオン数等を制御しやすくなる。
【0023】
図4は、本発明の第2の実施形態を示す装置の概略構成図である。この例では、図3の構成に加えて、ターゲット1−基板間2に設けられたグリッド電極11と、このグリッド電極11に接続され、接地電位〜正電位を与えるDC電源13とを有する。その他の構成要素は図3の装置と同様であり、同一構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0024】
ターゲット1−グリッド11間は、前記基板2−ターゲット1間の寸法の0.6倍以下、特に0.1〜0.5の範囲が好ましい。そして、グリッド11−基板2間の寸法は1〜5cmの範囲が好ましい。また、グリッド11のメッシュは、1目(穴)の大きさが、5mm角または径以上、30mm角または径以下であるものが好ましい。そして、このDCスパッタ装置のターゲットと基板との間に接地電位ないし正電位のグリッド電極を介在させることにより、エレクトロンが基板上に飛来するのをさらに抑制できる。また、スパッタされた原子や原子団の運動エネルギーも抑制できる。このグリッド電極11は1つであっても2つ以上であってもよく、エレクトロンの抑制効果を図る点からは2つ以上が好ましい。
【0025】
図5は、本発明の第3の実施形態を示す装置の概略構成図である。この例では、図3の構成に加えて、ターゲット1−基板2間に接地されたアパーチャ14を有する。
【0026】
基板ターゲット間に設けられたアパーチャ14はこの図では断面端面で示されていて、円板あるいは角板状の板の中央部に開口が形成された構造か、あるいはスリット状であってもよい。アパーチャ14は導体により接地されている。その他の構成は図3のスパッタ装置と同様であり、同一構成要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0027】
DC電源12から供給されるスパッタ電圧は、専らターゲット1−アパーチャ14間に印加される。このため、スパッタガスの電離・加速は、このターゲット1−アパーチャ14間で起こり、加速されたスパッタガスはターゲット1をスパッタし、このターゲット1から放出された原子・原子団がアパーチャ14の開口を飛び出し、基板2上にあるEL素子積層体上に付着・堆積する。このとき、スパッタガスの電離等により生じたエレクトロンは、専らターゲット1−アパーチャ14間に存在することとなる。したがって、ターゲット1−基板2間の距離を十分とることにより、発生したエレクトロンは基板2にはほとんど到達しなくなる。また、放出された原子・原子団の速度(運動エネルギー)は抑制されることになる。したがって、EL素子積層体に衝突するエレクトロンはほとんどなくなり、原子・原子団の速度(運動エネルギー)も低下し、発光層・電子輸送層等にダメージを与えることなく陰電極が形成でき、膜の密着性も向上する。
【0028】
アパーチャ11は、基板1と同等以上の大きさを持つ。そして、その内側10cm以下を残して開口としたものが好ましく、特に開口径は8cm程度、すなわちアパーチャ11の径や辺はターゲットの径や辺を1とした場合、基板の0.2〜0.8倍程度の大きさが好ましい。基板1−ターゲット5間は、基板寸法の1倍以上、特に1.2〜5倍、特に20cm以上、より好ましくは20〜40cmの範囲であり、ターゲット5−アパーチャ11間は、基板1−ターゲット5間の。1/5〜5/6倍の範囲、特に1/4〜4/5倍、さらには0.6倍以下が好ましく、特に5〜10cmの範囲が好ましい。
【0029】
図6は、本発明の第4の実施形態を示す装置の概略構成図である。この例では、図3の構成に加えて、ターゲット1−基板2間に、図4のグリッド電極11と図5のアパーチャ14を有する。
【0030】
すなわち、このスパッタ装置はグリッド電極11とアパーチャ14とを併せ持ち、有機EL素子へのダメージがより少ない点で、上記第1ないし第3の実施形態のスパッタ装置より好ましい。グリッド11−アパーチャ14間は、接触しない位置にまで近づけることが可能であるが、グリッド11は好ましくは基板1から5mm以上、通常5〜10mmの距離で近い位置が好ましい。この際、アパーチャよりグリッドを基板側に配置すると、素子のダメージはより一層低減する。その他の動作、寸法関係は前記図4,5のスパッタ装置に準じたものである。また、同一構成要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0031】
本発明により製造される有機EL発光素子の構成例を図7に示す。同図に示されるEL素子は、基板21上に、陽電極22、正孔注入・輸送層23、発光および電子注入輸送層24、陰電極25を順次有する。
【0032】
本発明のEL素子は、図示例に限らず、種々の構成とすることができ、例えば発光層を単独で設け、この発光層と金属電極との間に電子注入輸送層を介在させた構成とすることもできる。また必要に応じ、正孔注入・輸送層23と発光層とを混合してもよい。
【0033】
陰電極は前述のように成膜し、発光層等の有機物層は真空蒸着等により、陽電極は蒸着やスパッタ等により成膜することができるが、これらの膜のそれぞれは、必要に応じてマスク蒸着または膜形成後にエッチングなどの方法によってパターニングでき、これによって、所望の発光パターンを得ることができる。さらには、基板が薄膜トランジスタ(TFT)であって、そのパターンに応じて各膜を形成することでそのまま表示および駆動パターンとすることもできる。最後に、SiOX 等の無機材料、テフロン等の有機材料からなる保護層を形成すればよい。
【0034】
保護層は、基板側から発光した光を取り出す構成では透明でも不透明であってもよい。透明にする場合は、透明な材料(例えばSiO2 、SIALON等)を選択して用いるか、あるいは厚さを制御して透明(好ましくは発光光の透過率が80%以上)となるようにすればよい。一般に、保護層の厚さは50〜1200nm程度とする。保護層は一般的なスパッタ法、蒸着法等により形成すればよい。
【0035】
さらに、素子の有機層や電極の酸化を防ぐために素子上に封止層を形成することが好ましい。封止層は、湿気の侵入を防ぐために市販の低吸湿性の光硬化性接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、架橋エチレン−酢酸ビニル共重合体接着剤シート等の接着性樹脂層を用いて、ガラス板等の封止板を接着し密封する。ガラス板以外にも金属板、プラスチック板等を用いることもできる。
【0036】
次に、本発明のEL素子に設けられる有機物層について述べる。
【0037】
発光層は、正孔(ホール)および電子の注入機能、それらの輸送機能、正孔と電子の再結合により励起子を生成させる機能を有する。発光層には比較的電子的にニュートラルな化合物を用いることが好ましい。
【0038】
電荷輸送層は、陽電極からの正孔の注入を容易にする機能、正孔を輸送する機能および電子を妨げる機能を有し、正孔注入輸送層とも称される。
【0039】
このほか、必要に応じ、例えば発光層に用いる化合物の電子注入輸送機能がさほど高くないときなど、前述のように、発光層と陰電極との間に、陰電極からの電子の注入を容易にする機能、電子を輸送する機能および正孔を妨げる機能を有する電子注入輸送層を設けてもよい。
【0040】
正孔注入輸送層および電子注入輸送層は、発光層へ注入される正孔や電子を増大・閉じ込めさせ、再結合領域を最適化させ、発光効率を改善する。
【0041】
なお、正孔注入輸送層および電子注入輸送層は、それぞれにおいて、注入機能を持つ層と輸送機能を持つ層とに別個に設けてもよい。
【0042】
発光層の厚さ、正孔注入輸送層の厚さおよび電子注入輸送層の厚さは特に限定されず、形成方法によっても異なるが、通常、5〜100nm程度、特に10〜100nmとすることが好ましい。
【0043】
正孔注入輸送層の厚さおよび電子注入輸送層の厚さは、再結合・発光領域の設計によるが、発光層の厚さと同程度もしくは1/10〜10倍程度とすればよい。電子もしくは正孔の、各々の注入層と輸送層を分ける場合は、注入層は1nm以上、輸送層は20nm以上とするのが好ましい。このときの注入層、輸送層の厚さの上限は、通常、注入層で100nm程度、輸送層で100nm程度である。このような膜厚については注入輸送層を2層設けるときも同じである。
【0044】
また、組み合わせる発光層や電子注入輸送層や正孔注入輸送層のキャリア移動度やキャリア密度(イオン化ポテンシャル・電子親和力により決まる)を考慮しながら、膜厚をコントロールすることで、再結合領域・発光領域を自由に設計することが可能であり、発光色の設計や、両電極の干渉効果による発光輝度・発光スペクトルの制御や、発光の空間分布の制御を可能にできる。
【0045】
本発明のEL素子の発光層には発光機能を有する化合物である蛍光性物質を含有させる。この蛍光性物質としては、例えば、特開昭63−264692号公報等に開示されているようなトリス(8−キノリノラト)アルミニウム等の金属錯体色素が挙げられる。この他、これに加え、あるいは単体で、キナクリドン、クマリン、ルブレン、スチリル系色素、その他テトラフェニルブタジエン、アントラセン、ペリレン、コロネン、12−フタロペリノン誘導体等を用いることもできる。発光層は電子注入輸送層を兼ねたものであってもよく、このような場合はトリス(8−キノリノラト)アルミニウム等を使用することが好ましい。これらの蛍光性物質を蒸着等すればよい。
【0046】
また、必要に応じて設けられる電子注入輸送層には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム等の有機金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等を用いることができる。上述のように、電子注入輸送層は発光層を兼ねたものであってもよく、このような場合はトリス(8−キノリノラト)アルミニウム等を使用することが好ましい。電子注入輸送層の形成も発光層と同様に蒸着等によればよい。
【0047】
なお、電子注入輸送層を電子注入層と電子輸送層とに分けて設層する場合は、電子注入輸送層用の化合物のなかから好ましい組合せを選択して用いることができる。このとき、陰電極側から電子親和力の値の大きい化合物の層の順に積層することが好ましい。このような積層順については電子注入輸送層を2層以上設けるときも同様である。
【0048】
また、正孔注入輸送層には、例えば、特開昭63−295695号公報、特開平2−191694号公報、特開平3−792号公報、特開平5−234681号公報、特開平5−239455号公報、特開平5−299174号公報、特開平7−126225号公報、特開平7−126226号公報、特開平8−100172号公報、EP0650955A1等に記載されている各種有機化合物を用いることができる。例えば、テトラアリールベンジシン化合物(テトラアリールジアミンないしテトラフェニルジアミン:TPD)、芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ポリチオフェン等である。これらの化合物は2種以上を併用してもよく、併用するときは別層にして積層したり、混合したりすればよい。
【0049】
正孔注入輸送層を正孔注入層と正孔輸送層とに分けて設層する場合は、正孔注入輸送層用の化合物のなかから好ましい組合せを選択して用いることができる。このとき、陽電極(ITO等)側からイオン化ポテンシャルの小さい化合物の層の順に積層することが好ましい。また陽電極表面には薄膜性の良好な化合物を用いることが好ましい。このような積層順については、正孔注入輸送層を2層以上設けるときも同様である。このような積層順とすることによって、駆動電圧が低下し、電流リークの発生やダークスポットの発生・成長を防ぐことができる。また、素子化する場合、蒸着を用いているので1〜10nm程度の薄い膜も、均一かつピンホールフリーとすることができるため、正孔注入層にイオン化ポテンシャルが小さく、可視部に吸収をもつような化合物を用いても、発光色の色調変化や再吸収による効率の低下を防ぐことができる。
【0050】
正孔注入輸送層は、発光層等と同様に上記の化合物を蒸着すればよい。
【0051】
本発明において、陽電極として用いられる透明電極は、好ましくは発光した光の透過率が80%以上となるように陽電極の材料および厚さを決定することが好ましい。具体的には、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、SnO2 、ドーパントをドープしたポリピロールなどを陽電極に用いることが好ましい。また、陽電極の厚さは10〜500nm程度とすることが好ましい。また、素子の信頼性を向上させるために駆動電圧が低いことが必要である。さらに、陰電極をガラス基板に形成し、その上に有機EL層を形成し、最後に陽電極を形成する、いわゆる逆積層とした場合にも、有機EL層へダメージを与えることなく陽電極を形成でき、本発明の効果を得ることができる。
【0052】
基板材料としては、基板側から発光した光を取り出す構成の場合、ガラスや石英、樹脂等の透明ないし半透明材料を用いる。また、基板に色フィルター膜や蛍光性物質を含む色変換膜、あるいは誘電体反射膜を用いて発光色をコントロールしてもよい。
【0053】
本発明の有機EL素子は、通常、直流駆動型のEL素子として用いられるが、交流駆動またはパルス駆動とすることもできる。印加電圧は、通常、2〜20V 程度とされる。
【0054】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
<実施例1>
127mm角のガラス基板上にITOを厚さ200nmにスパッタ法にて透明電極としてパターニングし、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、次いで煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。この透明電極表面をUV/O2 洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10-4Pa以下まで減圧した。
【0055】
次いで減圧状態を保ったまま、N,N’−ジフェニル−N,N’−m−トリル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル(TPD)を蒸着速度0.2nm/secで55nmの厚さに蒸着し、正孔注入輸送層とした。
【0056】
さらに、減圧を保ったまま、Alq3 :トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを蒸着速度0.2nm/secで50nmの厚さに蒸着して、電子注入輸送・発光層とした。
【0057】
次いで、真空蒸着装置から図3に示すような構成の本発明のスパッタ装置に移し、DCスパッタ法にてAg・Mg合金(Mg:5at%)をターゲットとして、陰電極をレート15nm/min で200nmの厚さに成膜した。このときのスパッタガスにはArを用い、ガス圧は0.5Paとした。また、投入電力は500W、グリッド電圧は6V であった。なお、ターゲットの大きさは4インチ径、スパッタ装置の基板−ターゲット間の距離は15cmとした。基板2上(約5cm)の磁束密度B=10Gauss (磁界のパターンは図1の(D)とした。)であった。得られた陰電極薄膜の表面の均一性を走査電子顕微鏡で確認したところ、100nm±20%であった。
【0058】
最後にSiO2 を200nmの厚さにスパッタして保護層として、有機薄膜発光素子(EL素子)を得た。
【0059】
この有機薄膜発光素子にN2 雰囲気中で直流電圧を印加し、10mA/cm2 一定電流密度で連続駆動させた。初期には、7V 、500cd/cm2 緑色(発光極大波長λmax =520nm)の発光が確認できた。最高輝度は15v で20,000cd/cm2 であった。ダークスポットの発生および成長は確認されなかった。
【0060】
<実施例2>
実施例1と同様にして作製した試料100サンプルについて絶縁抵抗を測定し、20MΩ以上のものを良品として良品率を求めたところ、良品率95%であった。
【0061】
<実施例3>
実施例1において、図3の装置に変えて図4、図5、図6に示した装置を用いてそれぞれ、最適な成膜条件を設定し、陰電極の成膜を行った。得られた有機EL素子を実施例1、2と同様に評価したところ、実施例1、2と比較して良品率がさらに向上することが確認できた。
【0062】
<実施例4>
実施例1で用いた基板2、基板チャック7、銅板3、磁界発生手段4、冷却容器5等で構成される基板ユニットを、電子ビーム蒸着装置にセットし、実施例1のDCスパッタ装置に代えて陰電極の成膜を行い有機EL素子を得た。なお、槽内を1×10-4Pa以下まで減圧した。
【0063】
得られた有機EL素子を実施例1と同様に評価したところ実施例1とほぼ同様の結果を得た。
【0064】
<実施例5>
実施例4と同様にして作製した試料100サンプルについて絶縁抵抗を測定し、20MΩ以上のものを良品として良品率を求めたところ、良品率92%であった。
【0065】
<比較例1>
実施例1において、陰電極を従来のDCスパッタ装置を用いて成膜したほかは実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0066】
この有機薄膜発光素子にN2 雰囲気中で直流電圧を印加し、10mA/cm2 一定電流密度で連続駆動させた。初期には、9V 、250cd/cm2 緑色(発光極大波長λmax =520nm)の発光が確認できた。最高輝度は15v で11,000cd/cm2 であった。
【0067】
<比較例2>
比較例1と同様にして作製した試料100サンプルについて絶縁抵抗を測定し、20MΩ以上のものを良品として良品率を求めたところ、良品率20%であった。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、陰電極や配線材等の成膜時に、エレクトロンにより有機EL層がダメージを受けることが少なく、陰電極界面での膜の密着性を改善し、素子の長寿命化が可能な有機発光素子用陰電極が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁界発生手段の配置と磁界の関係を示した概念図である。
【図2】基板に入射する粒子と磁界との関係を示した図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の装置を示す概念図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の装置を示す概念図である。
【図5】本発明の第3の実施形態の装置を示す概念図である。
【図6】本発明の第4の実施形態の装置を示す概念図である。
【図7】本発明により製造される有機EL発光素子の構成例を示した概念図である。
【符号の説明】
1 ターゲット
2 基板
3 銅板
4 磁界発生手段
5 冷却容器
6 注水ポート
7 チャッキング
8 シールド
9 シール材
11 グリッド
12 DC電源
13 DC電源
14 アパーチャ
21 基板
22 陽電極
23 正孔注入輸送層
24 発光・電子注入輸送層
25 陰電極

Claims (9)

  1. 有機EL発光素子の成膜領域である基板を載置する手段と、この基板の裏面側の基板載置領域内に配置されかつ基板上に基板面と平行な磁界を形成する磁界発生手段を有する電子ビーム蒸着装置から構成される有機EL発光素子の製造装置。
  2. 有機EL発光素子の成膜領域である基板を載置する手段と、この基板の裏面側の基板載置領域内に配置されかつ基板上に基板面と平行な磁界を形成する磁界発生手段を有するスパッタ装置から構成される有機EL発光素子の製造装置。
  3. 前記基板とターゲットとの間に、接地電位ないし正電位のグリッド電極を有する請求項の有機EL発光素子の製造装置。
  4. 前記基板とターゲットとの間に、ターゲットより小さな開口を有するアパーチャを有する請求項またはの有機EL発光素子の製造装置。
  5. 前記磁界発生手段、または、前記磁界発生手段が設置された部材は、前記基板の裏面に当接する請求項1〜4のいずれかの有機EL発光素子の製造装置。
  6. 前記磁界発生手段は、少なくとも基板の外縁に沿って基板上に飛来した電子を基板外部方向に排除する磁界を形成する請求項1〜5のいずれかの有機EL発光素子の製造装置。
  7. 前記磁界発生手段は、少なくとも基板の一方の端部に平行磁界を印加し、少なくとも基板の他方の端部にこれと反対方向の平行磁界を印加する請求項の有機EL発光素子の製造装置。
  8. 前記磁界発生手段は、基板の一方のほぼ半分の領域に平行磁界を印加し、基板の他方のほぼ半分の領域にこれと反対方向の平行磁界を印加する請求項の有機EL発光素子の製造装置。
  9. 基板上に載置された有機膜のEL素子構造体上に、請求項1〜のいずれかの有機EL発光素子の製造装置を用いて陰電極を成膜する有機EL発光素子の製造方法。
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