JP3882348B2 - コンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種コンクリート部材のせん断補強を図るときに用いて好適なコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
従来より、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等からなる柱、梁、橋脚、煙突等のコンクリート部材のせん断補強を図る方法の一つとして、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維材料からなる補強シートを、コンクリート部材の表面に、その周方向に巻き付けて配設するものがある。
【０００３】
このような補強シートをコンクリート部材の表面に固定するには、一般に接着剤等が多用されている。ところが、接着剤等で補強シートを単に貼り付けるのみでは、何らかの原因で補強シート（特に端部）が剥がれてしまったときには、補強効果を十分に発揮することができない。このため、補強シートの端部をコンクリート部材に打設したアンカーおよび取付金物等で定着することにより、補強シートの端部の定着を確実とするための工夫が従来より行われていた。
【０００４】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような従来のコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法では
、以下のような問題が存在する。
まず、補強シートの端部をアンカーや取付金物で定着するには、アンカー打ちに手間が掛かる。しかも鋼製のアンカーは大径であるために、特に既存の建物に補強シートを取り付ける場合には、工事中に発生するアンカー打ちの騒音や振動が問題となる。
また、アンカーの頭部や取付金物がコンクリート部材の表面から突出することになるため、仕上げ用のパネル等の仕上げ材を取り付ける場合にはブラケット等によるクリアランスの確保が必要となり、この点においても施工の手間がかかるという問題がある。
【０００５】
さらに、特に柱や梁においては、壁やスラブに一体化されていることがあり、このような場合には補強シートを柱や梁等の全周に巻き付けることができないために、補強シートの端部の定着はより確実に行う必要があり、上記の問題は顕著なものとなる。
【０００６】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、補強シートの定着を円滑かつ確実に行い、有効な補強効果を得ることのできるコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法を提供することを課題とする。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
請求項１に係る発明は、コンクリート部材のせん断補強構造であって、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維をその長さ方向の一部で一体に束ねてなる定着用アンカーが、前記束ねた部分がコンクリート部材に形成された孔に挿入されて該孔内に充填された硬化性充填材によって該孔に対して定着されているとともに、束ねていない部分が前記コンクリート部材の表面に沿わせた状態で配設され、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状の補強材が、前記コンクリート部材の周方向に沿わせて配設されて、該補強材の少なくとも端部が前記定着用アンカーの束ねていない部分に重ねられて接合されることによって、前記補強材がその少なくとも端部が前記定着用アンカーを介して定着されて前記コンクリート部材に貼り付けられ、前記補強材と前記定着用アンカーの端部とが重なる部分には、前記補強材の連続する方向に直交する定着補強部材が重ねて配設され、前記定着用アンカーの前記束ねた部分には、前記硬化性接着剤による前記孔に対する定着強度を高めるための凸部またはこぶが設けられていることを特徴としている。
【０００８】
このようにして、補強材を定着用アンカーを介して定着させることによって、その両端部を確実に定着させることができる。
【０００９】
特に、前記補強材と前記定着用アンカーの端部とが重なる部分には、前記補強材の連続する方向に直交する定着補強部材が重ねて配設されているので、補強材と定着用アンカーとが重なる部分の定着強度が一層高められる。
【００１０】
また、前記補強材が、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状のものであるので、このような補強材は十分な強度を有していながらも、軽量であることから施工時の取り扱いも容易である。
【００１１】
また、前記定着用アンカーの前記束ねた部分には、前記硬化性接着剤による前記孔に対する定着強度を高めるための凸部またはこぶが設けられていることから、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、凸部またはこぶによってより高められる。
【００１２】
請求項２に係る発明は、定着用アンカーに凸部またはこぶを設けることに代えて、定着用アンカーは、筒状あるいはリング状の留め具が装着されることで前記束ねた部分が形成されていることを特徴としている。
これにより、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、留め具によってより高められ、また留め具の装着は容易であるので定着用アンカーを容易に製作することができる。
【００１３】
請求項３に係る発明は、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状の補強材をコンクリート部材の周方向に沿わせて配設して貼り付けることによってせん断補強を行うコンクリート部材のせん断補強工法であって、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維からなる定着用アンカーの一端部を前記コンクリート部材に形成した孔に挿入し、前記孔に硬化性充填材を充填して該定着用アンカーの一端部を前記孔に対して定着するとともに、該定着用アンカーの他端部を広げてコンクリート部材の表面に定着し、前記補強材の端部を前記定着用アンカーの他端部に重ねて接合することによって、該補強材の端部を前記定着用アンカーを介して前記コンクリート部材に対して定着し、前記定着用アンカーの他端部と前記補強材の端部との重ね合わせ部には、さらに定着補強部材を重ねて配設し、前記定着用アンカーの一端部を前記孔に挿入して定着するに際しては、複数本の強化繊維を揃えてその長さ方向中央部で折り曲げながらその折り曲げ部を孔内に挿入することにより、該折り曲げ部を定着用アンカーの一端部として前記孔に対して定着することを特徴としている。
【００１４】
これにより、補強材を定着用アンカーを介して定着させることができる。また、複数本の強化繊維を束ねた定着用アンカーを予め製作する必要がなくなる。
【００１７】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造の実施の形態の一例を、図１ないし図１３を参照して説明する。ここでは、本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法を、例えば柱と梁に適用する場合の例を用いて説明する。
【００１８】
図１に示すものは、鉄筋コンクリート造，鉄骨鉄筋コンクリート造等からなる構造物の一部であり、この図において、符号１０は柱（コンクリート部材）、１１は梁（コンクリート部材）、１２は梁１１上に形成された床、１３は壁をそれぞれ示している。
これらの図に示すように、柱１０は、壁１３が一体に接合されており、梁１１にはその上面に床１２が一体に形成されている。
【００１９】
このような柱１０と梁１１には、それぞれのせん断補強を図るため、補強シートＣ１とＣ２が配設されている。これらの補強シート（補強材）Ｃ１，Ｃ２は、いずれも、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維材料からなり、柱１０，梁１１の周方向に対して補強効果が得られるよう、その繊維方向（クロス状である場合にはその織り方向）が設定されている。
【００２０】
図２（ａ）に示すように、補強シートＣ１は、柱１０に一体に接合されている壁１３，１３に対して一方の側と他方の側とにそれぞれ配設されている。そして、各補強シートＣ１は、柱１０の三側面に巻き付けられるようにして配設され、その両端部は、柱１０と壁１３との接合部近傍において、定着用アンカーＤ１によって定着されている。
また、図２（ｂ）に示すように、補強シートＣ２は、梁１１の下面および両側面に沿って巻き付けられるようにして配設され、その両端部が、梁１１と床１２との接合部近傍において、定着用アンカーＤ１によって定着されている。
【００２１】
定着用アンカーＤ１は、後述するように束部に凸部またはこぶを有するか、もしくは筒状あるいはリング状の留め具により束ねたものであるが、その基本構成は、図３〜図４に示すように、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の多数本の強化繊維ｆを、例えばその基端部側の束部１５で接着剤、樹脂等で一体に束ねたもので、その先端部側において強化繊維ｆは束ねられていない。図２（ａ）および（ｂ）に示したように、定着用アンカーＤ１は、その束部１５が柱１０，梁１１に形成された孔（図示なし）内に差し込まれ、さらに孔（図示なし）内に接着剤等が充填されることによって、柱１０，梁１１に定着されている。図１に示したように、このようにして定着された定着用アンカーＤ１の先端部側の強化繊維ｆは、柱１０，梁１１の表面に沿わせて広げられ、その上に補強シートＣ１，Ｃ２が被せられている。そして、これら定着用アンカーＤ１と補強シートＣ１，Ｃ２とは、接着剤によって接着されている。
【００２２】
さらに、定着用アンカーＤ１の先端部の強化繊維ｆと補強シートＣ１，Ｃ２とが重なり合った部分には、定着補強部材２０Ａ，２０Ｂがさらに重ねて配設されている。この定着補強部材２０Ａ，２０Ｂは、補強シートＣ１，Ｃ２と同様の材料からなり、補強シートＣ１，Ｃ２とは直交する方向に対して補強効果が得られる方向性を有している。
【００２３】
このようにして、柱１０，梁１１の周方向に連続する補強シートＣ１，Ｃ２は、その両端部が定着用アンカーＤ１を介して柱１０，梁１１あるいはその近傍に定着され、さらに定着補強部材２０Ａ，２０Ｂによって補強された構成となっている。
【００２４】
上述したように、柱１０および梁１１には、その周方向に対して補強効果を有する補強シートＣ１，Ｃ２が、その両端部を柱１０，梁１１に定着された定着用アンカーＤ１に接着されることによって定着され、さらに定着補強部材２０Ａ，２０Ｂが重ね貼りされた構成となっている。このようにして、補強シートＣ１，Ｃ２を定着用アンカーＤ１を介して定着させることによって、その両端部を確実に定着させることができ、端部の剥がれ等の発生を防止して、柱１０，梁１１のせん断に対する補強効果を確実に発揮することが可能となる。
【００２５】
また、その施工に際しても、定着用アンカーＤ１の束部１５を定着させるための孔をあけるだけでよく、通常のアンカー等に比較してその径も小さくてすむので、騒音や振動の発生を最小限に抑えることができ、既存の建物等への適用も容易に行うことができる。さらに、補強シートＣ１を配設した後にはその表面に突起物が生じず、その上に仕上げ材を配設するにしてもその施工にも何ら余計な手間が掛かることもない。
【００２６】
しかも、補強シートＣ１，Ｃ２は、強化繊維からなり、このような補強シートＣ１は十分な強度を有していながらも軽量であることから、施工時の取り扱いも容易であり、作業者の負担を軽減するとともに、クレーン等が不要であることから、既設の建物の内部等においても工事を円滑に進行させることができる。
【００２７】
なお、上記実施の形態において、定着用アンカーＤ１の先端部は束ねられていない状態となっているが、図４に示すように、施工時に強化繊維ｆが引っかかったり折れたりするのを防止するため、セロハン２１等を巻き付けるようにしても良い。
【００２８】
また、定着用アンカーＤ１を、その一端部側に束部１５を設け、多数本の強化繊維ｆを束ねる構成としたが、その断面形状は、図５に示すように、円形のもののほか、矩形、三角形、楕円形、長円形、Ｃ字型、十字型、あるいは多角形、不整形等、いかなるものであっても良い。
【００２９】
さらに、図６（ａ）〜（ｄ）に示すように、定着用アンカーＤ１の定着をより確実とするため、束部１５に凸部２２を設けたり、こぶ２３を設ける。もちろん、この凸部２２やこぶ２３の形状や位置、数等についても何ら限定するものではない。
【００３０】
あるいは、定着用アンカーＤ１については、上記のような凸部２２やこぶ２３を設けることに代えて、束部１５を、図７に示すように、筒状あるいはリング状の留め具５０，５１，５２等で束ねる構成とする。このような留め具５０，５１，５２を用いれば、定着用アンカーＤ１の定着強度を高めることが可能である。しかも、これら留め具５０，５１，５２はその装着を容易に行うことができる。もちろん、留め具の形状はこれ以外のものであっても良い。
【００３１】
また、定着用アンカーＤ１は、複数本の強化繊維ｆを、現場において接着剤や樹脂に含浸して束ねる構成も採用することができる。さらに、複数本の強化繊維ｆを、予め、その端部においてのみ樹脂等で束ねておき、現場においてその所定長部分を樹脂等に含浸するようにしても良い。このようにすれば、定着用アンカーＤ１を定着させるための孔の深さに応じて臨機応変に束部１５の長さを設定することが可能となる。
【００３２】
さらに、複数本の強化繊維ｆをバラバラのまま孔内に配し、孔内に注入する硬化性充填材によって、これら複数本の強化繊維ｆをその長さ方向の一部において一体に束ね、かつ定着させる構成としても良い。
図８に示すように、定着用アンカーＤ２は、多数本の強化繊維ｆを、その長さ方向中央部で折り曲げ、これを例えば床１２の下面等に形成された孔５５内に挿入し、さらにこの孔５５内に接着剤５６等の硬化性充填材を充填することによって定着されている。これにより定着用アンカーＤ２は、複数本の強化繊維ｆが接着剤５６等によってその長さ方向の一部で一体に束ねられるとともに、この孔５５に定着された構成となっている。
このような定着用アンカーＤ２を用いて施工を行うには、まず図９（ａ）に示すように、床１２の下面の所定位置に孔５５を削孔し、次いで図９（ｂ）に示すように、この孔５５内に接着剤５６を注入する。続いて、図９（ｃ）に示すように、所定本数の強化繊維ｆを、その長さ方向中間部において、先端が例えばＶ字状とされたロッド５７で保持し、これを図９（ｄ）に示すように、孔５５内に押し込む。次いでロッド５７のみを引き抜くと、図９（ｅ）に示すように、押し込まれた強化繊維ｆは、孔５５内の接着剤５６が硬化することによって、その長さ方向中間部が孔５５に定着され、これにより定着用アンカーＤ２が孔５５に定着されたこととなる。この後、図８に示したように、定着された定着用アンカーＤ２を梁１１の側面に沿って広げ、その上に補強シートＣ１，Ｃ２を順次接着することにより施工が完了する。
このような構成の定着用アンカーＤ２を用いれば、前記実施の形態で示したように、複数本の強化繊維ｆを束ねた定着用アンカーを予め製作する必要がなくなる。したがって、より低コスト化を図ることが可能となるばかりでなく、現場において適宜強化繊維の本数や長さを変更することが容易に行え、これによって施工を一層簡単なものとすることが可能となる。
【００３３】
また、上記実施の形態では、補強シートＣ１，Ｃ２、定着用アンカーＤ１を定着させるために接着剤等を用いる構成としたが、その材料については、所要の定着力を発揮できる硬化性充填材であればいかなるものを用いても良く、有機材料，無機材料等を何ら問うものではない。また、補強シートＣ１，Ｃ２を、定着用アンカーＤ１に定着させるときに接着ではなく他の接合方法を採用することも可能である。
【００３４】
さらに、補強に用いる補強シートＣ１，Ｃ２、定着用アンカーＤ１についても、前記した炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等に限らず、他の強化繊維を採用することも可能である。補強シートＣ１，Ｃ２については、繊維方向（クロスの場合には織り方向）等も、所要の方向に補強効果を発揮できるのであれば、縦・横・斜め等を問うものではない。加えて、重ねる枚数についても限定するものではない。また、補強シートＣ１，Ｃを予め樹脂成形したＦＲＰ（繊維強化プラスチック）として用いても良い。
【００３５】
さらに加えて、定着補強部材２０Ａ，２０Ｂについては、鋼板等を用いても良い。
【００３６】
また、定着用アンカーＤ１の束ねられていない部分の強化繊維ｆの広げ方は任意であり、一方向、二方向、四方向、あるいは全方向等、いかなる広げても良く、例えば定着用アンカーＤ１の束部１５をコンクリート部材の表面に直交するような状態で設置する場合等には、図１０（ａ）〜（ｄ）に示すように、広げても良い。
【００３７】
加えて、定着用アンカーＤ１は、図５に示したようなものを組み合わせて使用するようにしても良い。また、例えば図１１に示すように、断面略Ｃ字状の定着用アンカーＤ’と、多数本の強化繊維ｆの束３５（一体に束ねてはいない）とを組み合わせて用いても良い。この場合、まず、図１１（ａ）に示すように、定着用アンカーＤ’を柱１０，梁１１，床１２等に形成した孔３１に定着させる。続いて図１１（ｂ）に示すように、略Ｃ字状の定着用アンカーＤ’の内側に多数本の強化繊維ｆの束３５（一体に束ねてはいない）を挿入し、さらに孔３１内に接着剤等を充填して定着用アンカーＤ’および束３５を定着させる。そして、図１１（ｃ）に示すように、定着させた定着用アンカーＤ’および束３５の強化繊維ｆを広げ、その上に補強シートＣ１，Ｃ２を接着するようにしても良い。
【００３８】
また、上記実施の形態では、定着用アンカーＤ１の束部１５を柱１０，梁１１に直交させて定着させる構成としたが、その角度はいかなる角度であっても良く、適宜これ以外の構成も採用可能である。例えば、図１２（ａ）および（ｂ）に示すように、束部１５を柱１０，梁１１に対して斜めに定着させるようにしても良いし、また図１２（ｃ）および（ｄ）に示すように、束部１５を、梁１１に接合された床１２や、柱１０に接合された壁１３に定着させるようにしても良い。
【００４０】
さらに加えて、上記実施の形態においては、柱１０には壁１３がその両側に一体に接合され、梁１１にはその上面に床１２が一体に形成された構成を例に挙げて用いたが、もちろん、例えば柱１０の一方のみ、あるいは三方、四方に壁がある場合等についても同様に適用することができる。また柱１０と壁１３，梁１１と床１２との位置関係についても同様に何ら限定するものではなく、例えば柱１０と壁１３の位置関係が、図１２（ｂ），（ｄ）に示した梁１１と床１２の位置関係のようであっても良い。
【００４１】
ところで、上記のようにして定着させた定着用アンカーＤ１の引き抜き試験を行うには、図１３（ａ）に示すように、定着用アンカーＤ１をコンクリートＺに形成した孔Ｈ内に挿入し、ここに定着用アンカーＤ１の定着に用いる樹脂Ｊ等を注入する。そして、図１３（ｂ）に示すように、定着用アンカーＤ１をコンクリートＺの表面にセットしたパイプＰ内に通し、パイプＰ内には膨張性セメント等を注入し、定着用アンカーＤ１とパイプＰとを一体化する。そして、コンクリートＺに反力台Ｂをセットし、センターホール型等のジャッキＸを反力台Ｂに設置する。そして、パイプＰの先端部に形成されたネジ部にナットＮを螺着させ、この状態でジャッキＸを駆動源Ｇで伸ばし、定着用アンカーＤ１の引き抜き試験を行うようにする。このようにすれば、定着用アンカーＤ１自体に傷を付けることなく引き抜き試験を行うことが可能である。
【００４２】
さらに、上記実施の形態においては、本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法を適用する対象として、柱１０，梁１１を例に挙げて用いたが、もちろんその他、橋脚、煙突等他のものであっても良い。しかもその場合、コンクリート部材の新設・既設を問うものではない。
【００４３】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない範囲内であれば、いかなる構成を採用しても良く、また上記したような構成を適宜選択的に組み合わせたものとしても良いのは言うまでもない。
【００４４】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項１に係るコンクリート部材のせん断補強構造によれば、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維をその長さ方向の一部で束ねてなる定着用アンカーを、強化繊維が束ねられた部分をコンクリート部材に形成された孔に定着させるとともに、束ねていない部分をコンクリート部材の表面に沿わせて配設する。そして、シート状の補強材を、コンクリート部材の周方向に沿って配設してその少なくとも端部を定着用アンカーの束ねていない部分に重ねて接合することによって、少なくとも補強材の端部を定着用アンカーを介してコンクリート部材に定着させた状態で貼り付ける構成となっている。
このようにして、補強材を、定着用アンカーを介してコンクリート部材に定着させることにより、補強材の端部をコンクリート部材に確実に定着させることができる。したがって、補強材の端部の剥がれ等の発生を防止して、コンクリート部材のせん断に対する補強効果を確実に発揮することが可能となる。また、その施工に際しても、定着用アンカーの束ねた部分を定着させるための孔を形成するのみでよく、しかも通常の鋼製のアンカー等に比較して孔も小径で済むので、騒音や振動の発生を最小限に抑えることができ、既存の建物等への適用も容易に行うことができる。さらに、補強材を配設した後にはその表面に突起物が生じないため、仕上げ材の施工にも何ら余計な手間が掛かることもない。
また、補強材が定着用アンカーの端部と重なる部分に、補強材が連続する方向に直交する定着補強部材がさらに配設された構成となっている。これにより、補強材の定着をより確実に行うことができ、上記効果をより顕著なものとすることができる。
さらに、補強材が、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状のものである構成となっている。このような補強材は十分な強度を有していながらも軽量であることから、施工時の取り扱いも容易であり、作業者の負担を軽減するとともに、クレーン等が不要であることから、既設の建物の内部等においても工事を円滑に進行させることができる。
【００４５】
特に、請求項１に係るコンクリート部材のせん断補強構造によれば、定着用アンカーの束ねた部分には、硬化性接着剤による孔に対する定着強度を高めるための凸部またはこぶが設けられた構成となっている。
これにより、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、凸部またはこぶによってより高められる。
【００４６】
請求項２に係るコンクリート部材のせん断補強構造によれば、定着用アンカーは、凸部またはこぶを設けることに代えて、筒状あるいはリング状の留め具が装着されることで束ねた部分が形成された構成となっている。
これにより、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、留め具によってより高められ、また留め具の装着は容易であるので定着用アンカーを容易に製作することができる。
【００４７】
請求項３に係るコンクリート部材のせん断補強工法によれば、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるせん断補強用のシート状の補強材をコンクリート部材の周方向に沿わせて配設して貼り付けるとともに、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維からなる定着用アンカーの一端部をコンクリート部材に形成した孔に挿入し、孔に硬化性充填材を充填して該定着用アンカーの一端部を孔に対して定着するとともに、定着用アンカーの他端部を広げてコンクリート部材の表面に定着し、補強材の端部を定着用アンカーの他端部に重ねて接合することによって、補強材の端部を定着用アンカーを介してコンクリート部材に対して定着し、定着用アンカーの他端部と補強材の端部との重ね合わせ部には、さらに定着補強部材を重ねて配設する構成となっている。
これにより、補強材の端部を定着用アンカーを介して定着させることができ、請求項１に係るコンクリート部材のせん断補強構造を実現することができ、補強材の端部の剥がれ等の発生を防止して、コンクリート部材のせん断に対する補強効果を確実に発揮することが可能となる。また、その施工に際しても、定着用アンカーの束ねた部分を定着させるための孔を形成するのみでよく、しかも通常の鋼製のアンカー等に比較して孔も小径で済むので、騒音や振動の発生を最小限に抑えることができ、既存の建物等への適用も容易に行うことができる。さらに、補強材を配設した後にはその表面に突起物が生じないため、仕上げ材の施工にも何ら余計な手間が掛かることもない。
【００４８】
特に、請求項３に係るコンクリート部材のせん断補強工法によれば、定着用アンカーの一端部を前記孔に挿入して定着するに際しては、複数本の強化繊維を揃えてその長さ方向中央部で折り曲げながらその折り曲げ部を孔内に挿入することにより、該折り曲げ部を定着用アンカーの一端部として前記孔に対して定着する構成となっている。
これにより、複数本の強化繊維を束ねた定着用アンカーを予め製作する必要がなくなり、より低コスト化を図ることが可能となるばかりでなく、現場において適宜強化繊維の本数や長さを変更することも容易に行え、施工を一層簡単なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法の実施の形態の一例を示す立断面図である。
【図２】 前記せん断補強構造およびせん断補強工法を適用して補強シートを定着させた柱および梁を示す平断面図および立断面図である。
【図３】 前記補強シートを定着させるために用いた定着用アンカーの外観図である。
【図４】 前記定着用アンカーの他の一例を示す外観図である。
【図５】 同定着用アンカーの断面形状の例を示す図である。
【図６】 同定着用アンカーの束部の他の例を示す外観図である。
【図７】 同定着用アンカーの束部のさらに他の例を示す外観図である。
【図８】 同定着用アンカーのさらに他の例を示す図であって、複数本の強化繊維を束ねずに、そのまま孔内に挿入して定着させた場合の例を示す側断面図である。
【図９】 図７に示した構成とするときの施工手順を示す工程図である。
【図１０】 同定着用アンカーの広げ方の例を示す図である。
【図１１】 同定着用アンカーの他の例を示す図であって、同定着用アンカーを定着させるときの手順を示す図である。
【図１２】 同定着用アンカーの柱および梁への他の定着構造の例を示す平断面図および立断面図である。
【図１３】 同定着用アンカーの引き抜き試験方法を示す図である。
【符号の説明】
１０ 柱（コンクリート部材）
１１ 梁（コンクリート部材）
２０Ａ，２０Ｂ 定着補強部材
３１，５５ 孔
Ｃ１，Ｃ２，Ｃ３ 補強シート（補強材）
Ｄ１，Ｄ’，Ｄ１’，Ｄ１”，Ｄ２ 定着用アンカー
ｆ 強化繊維
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種コンクリート部材のせん断補強を図るときに用いて好適なコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
従来より、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造等からなる柱、梁、橋脚、煙突等のコンクリート部材のせん断補強を図る方法の一つとして、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維材料からなる補強シートを、コンクリート部材の表面に、その周方向に巻き付けて配設するものがある。
【０００３】
このような補強シートをコンクリート部材の表面に固定するには、一般に接着剤等が多用されている。ところが、接着剤等で補強シートを単に貼り付けるのみでは、何らかの原因で補強シート（特に端部）が剥がれてしまったときには、補強効果を十分に発揮することができない。このため、補強シートの端部をコンクリート部材に打設したアンカーおよび取付金物等で定着することにより、補強シートの端部の定着を確実とするための工夫が従来より行われていた。
【０００４】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような従来のコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法では
、以下のような問題が存在する。
まず、補強シートの端部をアンカーや取付金物で定着するには、アンカー打ちに手間が掛かる。しかも鋼製のアンカーは大径であるために、特に既存の建物に補強シートを取り付ける場合には、工事中に発生するアンカー打ちの騒音や振動が問題となる。
また、アンカーの頭部や取付金物がコンクリート部材の表面から突出することになるため、仕上げ用のパネル等の仕上げ材を取り付ける場合にはブラケット等によるクリアランスの確保が必要となり、この点においても施工の手間がかかるという問題がある。
【０００５】
さらに、特に柱や梁においては、壁やスラブに一体化されていることがあり、このような場合には補強シートを柱や梁等の全周に巻き付けることができないために、補強シートの端部の定着はより確実に行う必要があり、上記の問題は顕著なものとなる。
【０００６】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、補強シートの定着を円滑かつ確実に行い、有効な補強効果を得ることのできるコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法を提供することを課題とする。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
請求項１に係る発明は、コンクリート部材のせん断補強構造であって、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維をその長さ方向の一部で一体に束ねてなる定着用アンカーが、前記束ねた部分がコンクリート部材に形成された孔に挿入されて該孔内に充填された硬化性充填材によって該孔に対して定着されているとともに、束ねていない部分が前記コンクリート部材の表面に沿わせた状態で配設され、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状の補強材が、前記コンクリート部材の周方向に沿わせて配設されて、該補強材の少なくとも端部が前記定着用アンカーの束ねていない部分に重ねられて接合されることによって、前記補強材がその少なくとも端部が前記定着用アンカーを介して定着されて前記コンクリート部材に貼り付けられ、前記補強材と前記定着用アンカーの端部とが重なる部分には、前記補強材の連続する方向に直交する定着補強部材が重ねて配設され、前記定着用アンカーの前記束ねた部分には、前記硬化性接着剤による前記孔に対する定着強度を高めるための凸部またはこぶが設けられていることを特徴としている。
【０００８】
このようにして、補強材を定着用アンカーを介して定着させることによって、その両端部を確実に定着させることができる。
【０００９】
特に、前記補強材と前記定着用アンカーの端部とが重なる部分には、前記補強材の連続する方向に直交する定着補強部材が重ねて配設されているので、補強材と定着用アンカーとが重なる部分の定着強度が一層高められる。
【００１０】
また、前記補強材が、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状のものであるので、このような補強材は十分な強度を有していながらも、軽量であることから施工時の取り扱いも容易である。
【００１１】
また、前記定着用アンカーの前記束ねた部分には、前記硬化性接着剤による前記孔に対する定着強度を高めるための凸部またはこぶが設けられていることから、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、凸部またはこぶによってより高められる。
【００１２】
請求項２に係る発明は、定着用アンカーに凸部またはこぶを設けることに代えて、定着用アンカーは、筒状あるいはリング状の留め具が装着されることで前記束ねた部分が形成されていることを特徴としている。
これにより、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、留め具によってより高められ、また留め具の装着は容易であるので定着用アンカーを容易に製作することができる。
【００１３】
請求項３に係る発明は、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状の補強材をコンクリート部材の周方向に沿わせて配設して貼り付けることによってせん断補強を行うコンクリート部材のせん断補強工法であって、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維からなる定着用アンカーの一端部を前記コンクリート部材に形成した孔に挿入し、前記孔に硬化性充填材を充填して該定着用アンカーの一端部を前記孔に対して定着するとともに、該定着用アンカーの他端部を広げてコンクリート部材の表面に定着し、前記補強材の端部を前記定着用アンカーの他端部に重ねて接合することによって、該補強材の端部を前記定着用アンカーを介して前記コンクリート部材に対して定着し、前記定着用アンカーの他端部と前記補強材の端部との重ね合わせ部には、さらに定着補強部材を重ねて配設し、前記定着用アンカーの一端部を前記孔に挿入して定着するに際しては、複数本の強化繊維を揃えてその長さ方向中央部で折り曲げながらその折り曲げ部を孔内に挿入することにより、該折り曲げ部を定着用アンカーの一端部として前記孔に対して定着することを特徴としている。
【００１４】
これにより、補強材を定着用アンカーを介して定着させることができる。また、複数本の強化繊維を束ねた定着用アンカーを予め製作する必要がなくなる。
【００１７】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造の実施の形態の一例を、図１ないし図１３を参照して説明する。ここでは、本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法を、例えば柱と梁に適用する場合の例を用いて説明する。
【００１８】
図１に示すものは、鉄筋コンクリート造，鉄骨鉄筋コンクリート造等からなる構造物の一部であり、この図において、符号１０は柱（コンクリート部材）、１１は梁（コンクリート部材）、１２は梁１１上に形成された床、１３は壁をそれぞれ示している。
これらの図に示すように、柱１０は、壁１３が一体に接合されており、梁１１にはその上面に床１２が一体に形成されている。
【００１９】
このような柱１０と梁１１には、それぞれのせん断補強を図るため、補強シートＣ１とＣ２が配設されている。これらの補強シート（補強材）Ｃ１，Ｃ２は、いずれも、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維材料からなり、柱１０，梁１１の周方向に対して補強効果が得られるよう、その繊維方向（クロス状である場合にはその織り方向）が設定されている。
【００２０】
図２（ａ）に示すように、補強シートＣ１は、柱１０に一体に接合されている壁１３，１３に対して一方の側と他方の側とにそれぞれ配設されている。そして、各補強シートＣ１は、柱１０の三側面に巻き付けられるようにして配設され、その両端部は、柱１０と壁１３との接合部近傍において、定着用アンカーＤ１によって定着されている。
また、図２（ｂ）に示すように、補強シートＣ２は、梁１１の下面および両側面に沿って巻き付けられるようにして配設され、その両端部が、梁１１と床１２との接合部近傍において、定着用アンカーＤ１によって定着されている。
【００２１】
定着用アンカーＤ１は、後述するように束部に凸部またはこぶを有するか、もしくは筒状あるいはリング状の留め具により束ねたものであるが、その基本構成は、図３〜図４に示すように、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の多数本の強化繊維ｆを、例えばその基端部側の束部１５で接着剤、樹脂等で一体に束ねたもので、その先端部側において強化繊維ｆは束ねられていない。図２（ａ）および（ｂ）に示したように、定着用アンカーＤ１は、その束部１５が柱１０，梁１１に形成された孔（図示なし）内に差し込まれ、さらに孔（図示なし）内に接着剤等が充填されることによって、柱１０，梁１１に定着されている。図１に示したように、このようにして定着された定着用アンカーＤ１の先端部側の強化繊維ｆは、柱１０，梁１１の表面に沿わせて広げられ、その上に補強シートＣ１，Ｃ２が被せられている。そして、これら定着用アンカーＤ１と補強シートＣ１，Ｃ２とは、接着剤によって接着されている。
【００２２】
さらに、定着用アンカーＤ１の先端部の強化繊維ｆと補強シートＣ１，Ｃ２とが重なり合った部分には、定着補強部材２０Ａ，２０Ｂがさらに重ねて配設されている。この定着補強部材２０Ａ，２０Ｂは、補強シートＣ１，Ｃ２と同様の材料からなり、補強シートＣ１，Ｃ２とは直交する方向に対して補強効果が得られる方向性を有している。
【００２３】
このようにして、柱１０，梁１１の周方向に連続する補強シートＣ１，Ｃ２は、その両端部が定着用アンカーＤ１を介して柱１０，梁１１あるいはその近傍に定着され、さらに定着補強部材２０Ａ，２０Ｂによって補強された構成となっている。
【００２４】
上述したように、柱１０および梁１１には、その周方向に対して補強効果を有する補強シートＣ１，Ｃ２が、その両端部を柱１０，梁１１に定着された定着用アンカーＤ１に接着されることによって定着され、さらに定着補強部材２０Ａ，２０Ｂが重ね貼りされた構成となっている。このようにして、補強シートＣ１，Ｃ２を定着用アンカーＤ１を介して定着させることによって、その両端部を確実に定着させることができ、端部の剥がれ等の発生を防止して、柱１０，梁１１のせん断に対する補強効果を確実に発揮することが可能となる。
【００２５】
また、その施工に際しても、定着用アンカーＤ１の束部１５を定着させるための孔をあけるだけでよく、通常のアンカー等に比較してその径も小さくてすむので、騒音や振動の発生を最小限に抑えることができ、既存の建物等への適用も容易に行うことができる。さらに、補強シートＣ１を配設した後にはその表面に突起物が生じず、その上に仕上げ材を配設するにしてもその施工にも何ら余計な手間が掛かることもない。
【００２６】
しかも、補強シートＣ１，Ｃ２は、強化繊維からなり、このような補強シートＣ１は十分な強度を有していながらも軽量であることから、施工時の取り扱いも容易であり、作業者の負担を軽減するとともに、クレーン等が不要であることから、既設の建物の内部等においても工事を円滑に進行させることができる。
【００２７】
なお、上記実施の形態において、定着用アンカーＤ１の先端部は束ねられていない状態となっているが、図４に示すように、施工時に強化繊維ｆが引っかかったり折れたりするのを防止するため、セロハン２１等を巻き付けるようにしても良い。
【００２８】
また、定着用アンカーＤ１を、その一端部側に束部１５を設け、多数本の強化繊維ｆを束ねる構成としたが、その断面形状は、図５に示すように、円形のもののほか、矩形、三角形、楕円形、長円形、Ｃ字型、十字型、あるいは多角形、不整形等、いかなるものであっても良い。
【００２９】
さらに、図６（ａ）〜（ｄ）に示すように、定着用アンカーＤ１の定着をより確実とするため、束部１５に凸部２２を設けたり、こぶ２３を設ける。もちろん、この凸部２２やこぶ２３の形状や位置、数等についても何ら限定するものではない。
【００３０】
あるいは、定着用アンカーＤ１については、上記のような凸部２２やこぶ２３を設けることに代えて、束部１５を、図７に示すように、筒状あるいはリング状の留め具５０，５１，５２等で束ねる構成とする。このような留め具５０，５１，５２を用いれば、定着用アンカーＤ１の定着強度を高めることが可能である。しかも、これら留め具５０，５１，５２はその装着を容易に行うことができる。もちろん、留め具の形状はこれ以外のものであっても良い。
【００３１】
また、定着用アンカーＤ１は、複数本の強化繊維ｆを、現場において接着剤や樹脂に含浸して束ねる構成も採用することができる。さらに、複数本の強化繊維ｆを、予め、その端部においてのみ樹脂等で束ねておき、現場においてその所定長部分を樹脂等に含浸するようにしても良い。このようにすれば、定着用アンカーＤ１を定着させるための孔の深さに応じて臨機応変に束部１５の長さを設定することが可能となる。
【００３２】
さらに、複数本の強化繊維ｆをバラバラのまま孔内に配し、孔内に注入する硬化性充填材によって、これら複数本の強化繊維ｆをその長さ方向の一部において一体に束ね、かつ定着させる構成としても良い。
図８に示すように、定着用アンカーＤ２は、多数本の強化繊維ｆを、その長さ方向中央部で折り曲げ、これを例えば床１２の下面等に形成された孔５５内に挿入し、さらにこの孔５５内に接着剤５６等の硬化性充填材を充填することによって定着されている。これにより定着用アンカーＤ２は、複数本の強化繊維ｆが接着剤５６等によってその長さ方向の一部で一体に束ねられるとともに、この孔５５に定着された構成となっている。
このような定着用アンカーＤ２を用いて施工を行うには、まず図９（ａ）に示すように、床１２の下面の所定位置に孔５５を削孔し、次いで図９（ｂ）に示すように、この孔５５内に接着剤５６を注入する。続いて、図９（ｃ）に示すように、所定本数の強化繊維ｆを、その長さ方向中間部において、先端が例えばＶ字状とされたロッド５７で保持し、これを図９（ｄ）に示すように、孔５５内に押し込む。次いでロッド５７のみを引き抜くと、図９（ｅ）に示すように、押し込まれた強化繊維ｆは、孔５５内の接着剤５６が硬化することによって、その長さ方向中間部が孔５５に定着され、これにより定着用アンカーＤ２が孔５５に定着されたこととなる。この後、図８に示したように、定着された定着用アンカーＤ２を梁１１の側面に沿って広げ、その上に補強シートＣ１，Ｃ２を順次接着することにより施工が完了する。
このような構成の定着用アンカーＤ２を用いれば、前記実施の形態で示したように、複数本の強化繊維ｆを束ねた定着用アンカーを予め製作する必要がなくなる。したがって、より低コスト化を図ることが可能となるばかりでなく、現場において適宜強化繊維の本数や長さを変更することが容易に行え、これによって施工を一層簡単なものとすることが可能となる。
【００３３】
また、上記実施の形態では、補強シートＣ１，Ｃ２、定着用アンカーＤ１を定着させるために接着剤等を用いる構成としたが、その材料については、所要の定着力を発揮できる硬化性充填材であればいかなるものを用いても良く、有機材料，無機材料等を何ら問うものではない。また、補強シートＣ１，Ｃ２を、定着用アンカーＤ１に定着させるときに接着ではなく他の接合方法を採用することも可能である。
【００３４】
さらに、補強に用いる補強シートＣ１，Ｃ２、定着用アンカーＤ１についても、前記した炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等に限らず、他の強化繊維を採用することも可能である。補強シートＣ１，Ｃ２については、繊維方向（クロスの場合には織り方向）等も、所要の方向に補強効果を発揮できるのであれば、縦・横・斜め等を問うものではない。加えて、重ねる枚数についても限定するものではない。また、補強シートＣ１，Ｃを予め樹脂成形したＦＲＰ（繊維強化プラスチック）として用いても良い。
【００３５】
さらに加えて、定着補強部材２０Ａ，２０Ｂについては、鋼板等を用いても良い。
【００３６】
また、定着用アンカーＤ１の束ねられていない部分の強化繊維ｆの広げ方は任意であり、一方向、二方向、四方向、あるいは全方向等、いかなる広げても良く、例えば定着用アンカーＤ１の束部１５をコンクリート部材の表面に直交するような状態で設置する場合等には、図１０（ａ）〜（ｄ）に示すように、広げても良い。
【００３７】
加えて、定着用アンカーＤ１は、図５に示したようなものを組み合わせて使用するようにしても良い。また、例えば図１１に示すように、断面略Ｃ字状の定着用アンカーＤ’と、多数本の強化繊維ｆの束３５（一体に束ねてはいない）とを組み合わせて用いても良い。この場合、まず、図１１（ａ）に示すように、定着用アンカーＤ’を柱１０，梁１１，床１２等に形成した孔３１に定着させる。続いて図１１（ｂ）に示すように、略Ｃ字状の定着用アンカーＤ’の内側に多数本の強化繊維ｆの束３５（一体に束ねてはいない）を挿入し、さらに孔３１内に接着剤等を充填して定着用アンカーＤ’および束３５を定着させる。そして、図１１（ｃ）に示すように、定着させた定着用アンカーＤ’および束３５の強化繊維ｆを広げ、その上に補強シートＣ１，Ｃ２を接着するようにしても良い。
【００３８】
また、上記実施の形態では、定着用アンカーＤ１の束部１５を柱１０，梁１１に直交させて定着させる構成としたが、その角度はいかなる角度であっても良く、適宜これ以外の構成も採用可能である。例えば、図１２（ａ）および（ｂ）に示すように、束部１５を柱１０，梁１１に対して斜めに定着させるようにしても良いし、また図１２（ｃ）および（ｄ）に示すように、束部１５を、梁１１に接合された床１２や、柱１０に接合された壁１３に定着させるようにしても良い。
【００４０】
さらに加えて、上記実施の形態においては、柱１０には壁１３がその両側に一体に接合され、梁１１にはその上面に床１２が一体に形成された構成を例に挙げて用いたが、もちろん、例えば柱１０の一方のみ、あるいは三方、四方に壁がある場合等についても同様に適用することができる。また柱１０と壁１３，梁１１と床１２との位置関係についても同様に何ら限定するものではなく、例えば柱１０と壁１３の位置関係が、図１２（ｂ），（ｄ）に示した梁１１と床１２の位置関係のようであっても良い。
【００４１】
ところで、上記のようにして定着させた定着用アンカーＤ１の引き抜き試験を行うには、図１３（ａ）に示すように、定着用アンカーＤ１をコンクリートＺに形成した孔Ｈ内に挿入し、ここに定着用アンカーＤ１の定着に用いる樹脂Ｊ等を注入する。そして、図１３（ｂ）に示すように、定着用アンカーＤ１をコンクリートＺの表面にセットしたパイプＰ内に通し、パイプＰ内には膨張性セメント等を注入し、定着用アンカーＤ１とパイプＰとを一体化する。そして、コンクリートＺに反力台Ｂをセットし、センターホール型等のジャッキＸを反力台Ｂに設置する。そして、パイプＰの先端部に形成されたネジ部にナットＮを螺着させ、この状態でジャッキＸを駆動源Ｇで伸ばし、定着用アンカーＤ１の引き抜き試験を行うようにする。このようにすれば、定着用アンカーＤ１自体に傷を付けることなく引き抜き試験を行うことが可能である。
【００４２】
さらに、上記実施の形態においては、本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法を適用する対象として、柱１０，梁１１を例に挙げて用いたが、もちろんその他、橋脚、煙突等他のものであっても良い。しかもその場合、コンクリート部材の新設・既設を問うものではない。
【００４３】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない範囲内であれば、いかなる構成を採用しても良く、また上記したような構成を適宜選択的に組み合わせたものとしても良いのは言うまでもない。
【００４４】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項１に係るコンクリート部材のせん断補強構造によれば、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維をその長さ方向の一部で束ねてなる定着用アンカーを、強化繊維が束ねられた部分をコンクリート部材に形成された孔に定着させるとともに、束ねていない部分をコンクリート部材の表面に沿わせて配設する。そして、シート状の補強材を、コンクリート部材の周方向に沿って配設してその少なくとも端部を定着用アンカーの束ねていない部分に重ねて接合することによって、少なくとも補強材の端部を定着用アンカーを介してコンクリート部材に定着させた状態で貼り付ける構成となっている。
このようにして、補強材を、定着用アンカーを介してコンクリート部材に定着させることにより、補強材の端部をコンクリート部材に確実に定着させることができる。したがって、補強材の端部の剥がれ等の発生を防止して、コンクリート部材のせん断に対する補強効果を確実に発揮することが可能となる。また、その施工に際しても、定着用アンカーの束ねた部分を定着させるための孔を形成するのみでよく、しかも通常の鋼製のアンカー等に比較して孔も小径で済むので、騒音や振動の発生を最小限に抑えることができ、既存の建物等への適用も容易に行うことができる。さらに、補強材を配設した後にはその表面に突起物が生じないため、仕上げ材の施工にも何ら余計な手間が掛かることもない。
また、補強材が定着用アンカーの端部と重なる部分に、補強材が連続する方向に直交する定着補強部材がさらに配設された構成となっている。これにより、補強材の定着をより確実に行うことができ、上記効果をより顕著なものとすることができる。
さらに、補強材が、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状のものである構成となっている。このような補強材は十分な強度を有していながらも軽量であることから、施工時の取り扱いも容易であり、作業者の負担を軽減するとともに、クレーン等が不要であることから、既設の建物の内部等においても工事を円滑に進行させることができる。
【００４５】
特に、請求項１に係るコンクリート部材のせん断補強構造によれば、定着用アンカーの束ねた部分には、硬化性接着剤による孔に対する定着強度を高めるための凸部またはこぶが設けられた構成となっている。
これにより、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、凸部またはこぶによってより高められる。
【００４６】
請求項２に係るコンクリート部材のせん断補強構造によれば、定着用アンカーは、凸部またはこぶを設けることに代えて、筒状あるいはリング状の留め具が装着されることで束ねた部分が形成された構成となっている。
これにより、定着用アンカーのコンクリート部材に対する定着強度が、留め具によってより高められ、また留め具の装着は容易であるので定着用アンカーを容易に製作することができる。
【００４７】
請求項３に係るコンクリート部材のせん断補強工法によれば、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるせん断補強用のシート状の補強材をコンクリート部材の周方向に沿わせて配設して貼り付けるとともに、炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維からなる定着用アンカーの一端部をコンクリート部材に形成した孔に挿入し、孔に硬化性充填材を充填して該定着用アンカーの一端部を孔に対して定着するとともに、定着用アンカーの他端部を広げてコンクリート部材の表面に定着し、補強材の端部を定着用アンカーの他端部に重ねて接合することによって、補強材の端部を定着用アンカーを介してコンクリート部材に対して定着し、定着用アンカーの他端部と補強材の端部との重ね合わせ部には、さらに定着補強部材を重ねて配設する構成となっている。
これにより、補強材の端部を定着用アンカーを介して定着させることができ、請求項１に係るコンクリート部材のせん断補強構造を実現することができ、補強材の端部の剥がれ等の発生を防止して、コンクリート部材のせん断に対する補強効果を確実に発揮することが可能となる。また、その施工に際しても、定着用アンカーの束ねた部分を定着させるための孔を形成するのみでよく、しかも通常の鋼製のアンカー等に比較して孔も小径で済むので、騒音や振動の発生を最小限に抑えることができ、既存の建物等への適用も容易に行うことができる。さらに、補強材を配設した後にはその表面に突起物が生じないため、仕上げ材の施工にも何ら余計な手間が掛かることもない。
【００４８】
特に、請求項３に係るコンクリート部材のせん断補強工法によれば、定着用アンカーの一端部を前記孔に挿入して定着するに際しては、複数本の強化繊維を揃えてその長さ方向中央部で折り曲げながらその折り曲げ部を孔内に挿入することにより、該折り曲げ部を定着用アンカーの一端部として前記孔に対して定着する構成となっている。
これにより、複数本の強化繊維を束ねた定着用アンカーを予め製作する必要がなくなり、より低コスト化を図ることが可能となるばかりでなく、現場において適宜強化繊維の本数や長さを変更することも容易に行え、施工を一層簡単なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明に係るコンクリート部材のせん断補強構造およびせん断補強工法の実施の形態の一例を示す立断面図である。
【図２】 前記せん断補強構造およびせん断補強工法を適用して補強シートを定着させた柱および梁を示す平断面図および立断面図である。
【図３】 前記補強シートを定着させるために用いた定着用アンカーの外観図である。
【図４】 前記定着用アンカーの他の一例を示す外観図である。
【図５】 同定着用アンカーの断面形状の例を示す図である。
【図６】 同定着用アンカーの束部の他の例を示す外観図である。
【図７】 同定着用アンカーの束部のさらに他の例を示す外観図である。
【図８】 同定着用アンカーのさらに他の例を示す図であって、複数本の強化繊維を束ねずに、そのまま孔内に挿入して定着させた場合の例を示す側断面図である。
【図９】 図７に示した構成とするときの施工手順を示す工程図である。
【図１０】 同定着用アンカーの広げ方の例を示す図である。
【図１１】 同定着用アンカーの他の例を示す図であって、同定着用アンカーを定着させるときの手順を示す図である。
【図１２】 同定着用アンカーの柱および梁への他の定着構造の例を示す平断面図および立断面図である。
【図１３】 同定着用アンカーの引き抜き試験方法を示す図である。
【符号の説明】
１０ 柱（コンクリート部材）
１１ 梁（コンクリート部材）
２０Ａ，２０Ｂ 定着補強部材
３１，５５ 孔
Ｃ１，Ｃ２，Ｃ３ 補強シート（補強材）
Ｄ１，Ｄ’，Ｄ１’，Ｄ１”，Ｄ２ 定着用アンカー
ｆ 強化繊維
Claims (3)
- コンクリート部材のせん断補強構造であって、
炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維をその長さ方向の一部で一体に束ねてなる定着用アンカーが、前記束ねた部分がコンクリート部材に形成された孔に挿入されて該孔内に充填された硬化性充填材によって該孔に対して定着されているとともに、束ねていない部分が前記コンクリート部材の表面に沿わせた状態で配設され、
炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状の補強材が、前記コンクリート部材の周方向に沿わせて配設されて、該補強材の少なくとも端部が前記定着用アンカーの束ねていない部分に重ねられて接合されることによって、前記補強材がその少なくとも端部が前記定着用アンカーを介して定着されて前記コンクリート部材に貼り付けられ、
前記補強材と前記定着用アンカーの端部とが重なる部分には、前記補強材の連続する方向に直交する定着補強部材が重ねて配設され、
前記定着用アンカーの前記束ねた部分には、前記硬化性接着剤による前記孔に対する定着強度を高めるための凸部またはこぶが設けられていることを特徴とするコンクリート部材のせん断補強構造。 - コンクリート部材のせん断補強構造であって、
炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維をその長さ方向の一部で一体に束ねてなる定着用アンカーが、前記束ねた部分がコンクリート部材に形成された孔に挿入されて該孔内に充填された硬化性充填材によって該孔に対して定着されているとともに、束ねていない部分が前記コンクリート部材の表面に沿わせた状態で配設され、
炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状の補強材が、前記コンクリート部材の周方向に沿わせて配設されて、該補強材の少なくとも端部が前記定着用アンカーの束ねていない部分に重ねられて接合されることによって、前記補強材がその少なくとも端部が前記定着用アンカーを介して定着されて前記コンクリート部材に貼り付けられ、
前記補強材と前記定着用アンカーの端部とが重なる部分には、前記補強材の連続する方向に直交する定着補強部材が重ねて配設され、
前記定着用アンカーは、筒状あるいはリング状の留め具が装着されることで前記束ねた部分が形成されていることを特徴とするコンクリート部材のせん断補強構造。 - 炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等の強化繊維からなるシート状の補強材をコンクリート部材の周方向に沿わせて配設して貼り付けることによってせん断補強を行うコンクリート部材のせん断補強工法であって、
炭素繊維，アラミド繊維，ガラス繊維等、複数本の強化繊維からなる定着用アンカーの一端部を前記コンクリート部材に形成した孔に挿入し、前記孔に硬化性充填材を充填して該定着用アンカーの一端部を前記孔に対して定着するとともに、該定着用アンカーの他端部を広げてコンクリート部材の表面に定着し、
前記補強材の端部を前記定着用アンカーの他端部に重ねて接合することによって、該補強材の端部を前記定着用アンカーを介して前記コンクリート部材に対して定着し、
前記定着用アンカーの他端部と前記補強材の端部との重ね合わせ部には、さらに定着補強部材を重ねて配設し、
前記定着用アンカーの一端部を前記孔に挿入して定着するに際しては、複数本の強化繊維を揃えてその長さ方向中央部で折り曲げながらその折り曲げ部を孔内に挿入することにより、該折り曲げ部を定着用アンカーの一端部として前記孔に対して定着することを特徴とするコンクリート部材のせん断補強工法。
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