JP3878326B2 - 電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物に関する。詳細には、レンジアップしても食感の引き、硬化、表面の皺、収縮がほとんどないパンを製造するために用いる組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
パン類は、生産規模の拡大により、消費者に届くまで約1日かかっていたのが通説であったが、近年は消費者の焼き立て志向により、パンの配送回数を増やしたり、オーブンフレッシュの展開等により、かなり焼き立てに近い状態の新鮮なパンが提供されるようになってきた。しかし、店頭に並んだパンは既に冷たくなっており、温かいパンが食べたいというニーズには未だ充分に応えられていないのが実際である。
【0003】
この様な状況から、店頭でレンジアップする販売形態を取っている所も見受けられるが、レンジアップしたパンは、レンジアップ直後は蒸したてのように熱く軟らかいが、その後実際に食べる時点では、パン品温の低下とともに急速に硬化し、引きの強い食感になり、さらには表面には皺ができ、収縮するという欠点を持っており、決して消費者の焼き立て志向を満足できるものではないのが実状である。
【0004】
このような電子レンジを用いてパンを加熱して現れる品質の低下に対して、従来より様々な検討がなされてきたが、レンジアップ後の品質は、未だ消費者を満足させる製品には成り得ていないのでる。
【0005】
例えば、特開平2−222639では小麦粉に対して乳化剤を1〜6重量部添加することを特徴としているが、このように乳化剤のみの添加だけでは、レンジアップパンの欠点はある程度改善されるが、パンの風味は異質なものになり、食感がネチャつく、等の欠点が大きく現れてくる。
【0006】
また、特開平5−68466では少なくとも一部が液晶状態あるいはα結晶ゲル状態の乳化剤を含有し、更にプロテアーゼ、アミラーゼ、及び保水剤を併用することを特徴としている。しかし、液晶状態あるいはα結晶ゲル状態の乳化剤を用いると、グルテン結合に影響を及ぼし、生地の伸展性が過剰に大きくなり、製パン吸水が減少し、焼成中には、生地のガス保持能力が低下し、パン表皮に火膨れが生じ易くなる。さらに、プロテアーゼ、アミラーゼ、及び保水剤を併用した場合、伸展性は著しく大きくなり、パンの保湿性は必要以上にアップし、食感がネチャつくようになり、欠点が著しく目立つパン製品となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、レンジアップ後の食感の引き、硬化、表面の皺、収縮、等の問題を解決した電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物を提供するものである。さらに、レンジアップの有無に関わらず、外観、食感、風味において、良好なパンおよび中華饅用組成物を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以上の課題を解決するために鋭意研究した結果、食用粉類100重量部に対して、食用油脂0.5〜25重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.3〜20重量部、プロピレングリコール脂肪酸エステル0.1〜7重量部、及びα化澱粉を0.6〜40重量部を含有した組成物を用いてパン等のイースト発酵食品を製造することで、レンジアップした際の前項記載の諸問題を解決でき、さらにレンジアップの有無に関わらず、良好なパンが製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明においてイースト発酵食品とは、小麦粉を主原料として、その他の資材を必要に応じて加えたものに、イーストと水を添加して、混捏もしくは混合することで生地を調製し、必要に応じて発酵工程を経た後に、焼成または油揚げ、あるいは蒸したものを言う。小麦粉以外の原料としては、ライ麦粉、大麦粉等の穀物が挙げられる。
【0010】
また、本発明における組成物とは、日本プレミックス協会の定義に準じており、詳述すると「小麦粉等の粉類(澱粉を含む)に糖類,油脂,粉乳,卵粉,膨張剤,食塩,香料などを必要に応じて適正に配合したもの」である。このため、本発明の組成物には、定義に記載される資材を、パンの種類や用途に応じて適正な添加量で併用できる。また、イースト発酵食品製造時の組成物の使用量としては、イーストおよび水を除く使用原料の全量もしくは一部を代替して使用される。
【0011】
本発明における食用油脂としては、食用に適する動物性油脂、植物性油脂、及びそれらの硬化油等があり、一般的にはサラダ油、オリーブオイル、ショートニング、マーガリン、バター等が挙げられるが、組成物の原料としては、保存性の面から勘案し、酸化等の変質が生じにくい油脂であれば種類は問わず使用できる。
【0012】
また、組成物に使用する食用油脂の添加量としては、食用粉類100重量部に対して0.5〜25重量部が好ましく、さらには1〜20重量部が望ましい。この範囲未満では、レンジアップした場合の効果が不充分となる。
【0013】
本発明におけるグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸モノエステル及びグリセリン有機酸脂肪酸モノエステルに大別されるが、いずれにおいても効果が認められる。また、グリセリン有機酸脂肪酸モノエステルの中でも効果的な有機酸基としては、例えば、乳酸、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸等が挙げられる。
【0014】
グリセリン脂肪酸エステルの添加量としては、穀粉100重量部に対して0.3〜20重量部が好ましく、この範囲未満では、レンジアップした場合の効果が不充分となる。
【0015】
さらに、グリセリン脂肪酸モノエステルとグリセリン有機酸脂肪酸モノエステルを併用することで、レンジアップした場合の効果は飛躍的に向上する。両者の配合比率としては、30:70〜70:30の範囲が望ましい。
【0016】
また、本発明においてグリセリン脂肪酸エステルに対してプロピレングリコール脂肪酸エステルを併用することを特長としている。プロピレングリコール脂肪酸エステルの添加量としては、穀粉100重量部に対して0.1〜7重量部が好ましく、この範囲未満では、レンジアップした場合の効果が不充分であり、逆にこの範囲を超えると、生地物性に悪影響を及ぼし、製品の品質低下を招くことが懸念される。
【0017】
本発明では、グリセリン脂肪酸エステルとプロピレングリコール脂肪酸エステルを併用しているが、両者の比率がレンジアップしたイースト発酵食品の改良効果に大きく影響を及ぼすが、このグリセリン脂肪酸エステルとプロピレングリコール脂肪酸エステルの比率は50:50〜80:20が望ましい。
【0018】
さらに本発明におけるα化澱粉としては、澱粉をα化したものであれば澱粉原料の種類は問わない。澱粉原料としては、例えば、とうもろこし、小麦、大麦、甘藷、馬鈴薯、タピオカ、米、等が挙げられる。α化澱粉の添加量としては、穀粉100重量部に対して0.6〜40重量部が好ましく、さらには1〜25重量部が望ましい。この範囲未満では、食感のネチャつきが防止できず、逆にこの範囲を超えると、生地がベタつき作業性が劣り、製品の品質が劣る。
【0019】
以上、本発明は上記食用油脂、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、α化澱粉を、前述した所定添加量の範囲内で食用粉類100重量部に混合することを特長としているが、本発明における食用粉類は、イースト発酵食品に通常用いられているものであればいずれでもよく、例えば、小麦粉、ライ麦粉、澱粉、とうもろこし粉、等が挙げられる。
【0020】
また、本発明の組成物の製造方法としては、食用粉類にその他の副資材を混合するだけで良く、混合機への原料資材の投入の順序等は特に問わない。混合機としては、例えばパドルミキサー、ナウターミキサー、リボンミキサー、フードミキサー、等が挙げられる。なお、ミキサーの攪拌力が弱く油脂の塊を分散しにくい場合は、混合後の工程に粉砕機、等の工程を組んでも良い。
【0021】
また融点の高い食用油脂を使用する場合は、予め加温溶解しても良く、この際、溶解槽にグリセリン脂肪酸エステルやプロピレングリコール脂肪酸エステルを投入し、攪拌溶解すると、食用粉類に均一に混合される。溶解温度は、食用粉類が熱変質しない温度が望ましく、例えば、加温溶解温度は65℃以下であれば特に問題ない。
【0022】
以上の工程を経て得られたイースト発酵食品用組成物を、実際にイースト発酵食品に使用する場合は、使用原料の全量もしくは一部を組成物と代替し、その他必要な副資材を適宜添加した後、イーストおよび水を加え、従来の製法に従って製造すれば良く、特別な工程は必要ない。
【0023】
【作用】
イースト発酵食品を製造する場合、小麦粉に適度な量の水を加え、充分にミキシングすることにより、良質なグルテン膜を形成するが、この生地は蛋白質と澱粉の立体網目構造で形成され、これが発酵によって生じるガスを保持し、気泡を含む薄いグルテンの膜を幾重にも形成する。ところがレンジアップした際、この立体網目構造から水分が蒸散するに伴い、グルテンが脱水収縮し、冷めるに従って急速に硬化し、引きの強い食感を生じる。また、外観は表面に皺ができ、縮んだ形状となる。
【0024】
このグルテンの繋がりをコントロールすることにより、レンジアップした場合の脱水収縮を抑制することができる。本発明は、このグルテンの繋がりを適度に調整できる機能を持っている。
【0025】
詳述すると、本組成物に使用している食用油脂は、イースト発酵食品製造時、油脂の一部もしくは全量をミキシング初期に混合することで、グルテンの繋がりを適度に阻害する作用を持っている。
【0026】
さらにグリセリン脂肪酸エステルはイースト発酵食品の澱粉の老化を抑制するとともに、レンジアップ後の急激な食感の変化を抑制する作用を持っている。
【0027】
また、プロピレングリコール脂肪酸エステルはグリセリン脂肪酸エステルと一定の割合で併用することで、グリセリン脂肪酸エステルに起泡力を与え、グルテンの繋がりが阻害された生地のガス保持能力を補助する役目を持っている。
【0028】
しかしながら、上記乳化剤を使用した場合、パンの食感がネチャつく、という欠点が認められた為、これにα化澱粉を併用した。これにより、歯切れを引き出すことでネチャツキを抑制し、従来のイースト発酵食品と遜色のない食感を得た。
【0029】
以上、これらの資材の組み合わせによって、製パン性とパンの品質を損うことなくグルテンの繋がりを調整し、レンジアップによる諸問題点を改善した。さらに従来では得られなかった、レンジアップ前後のパンの食感の変化を抑制することができた。
【0030】
【実施例】
以下に、本発明の実施例及び比較例を用いて詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0031】
実施例及び比較例として表1、表2、表3記載の配合並びに製法によって、組成物を製造した。
【0032】
尚、実施例及び比較例に使用した乳化剤の名称は次の様に略して用いた。
モノグリセリド :MG
プロピレングリコール脂肪酸モノグリセリド :PGMG
コハク酸モノグリセリド :SMG
クエン酸モノグリセリド :CMG
ジアセチル酒石酸モノグリセリド :DATEM
ステアロイル乳酸カルシウム :CSL
ポリグリセリン脂肪酸モノグリセリド :PGE
蔗糖脂肪酸エステル :SE
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
表1記載の実施例1〜3及び比較例1,2を用いてドッグロールを製造し、評価した。製パン配合並びに工程は次の通り。
【0037】
ドッグロール:配合
(中種)
強力1等粉 70 (重量部)
上白糖 2
イースト 2.5
イーストフード 0.1
全卵 10
水 30
(本捏ね)
組成物 36 (重量部)
上白糖 6
食塩 1.8
脱脂粉乳 3
ショートニング 4
水 23〜25
【0038】
【0039】
ドッグロールの評価は、パン2個を600Wの電子レンジで40秒間加温し、室温(約27℃)まで冷却した後、官能評価を実施した。
【0040】
評価は10名のパネラーで実施し、基準としては、比較例1を標準として、5点法で比較し、(5点法の各点の基準は、5点:非常に良い、4点:やや良い、3点:大差なし、2点:やや劣る、1点:非常に劣る)、10名の平均をとった。
【0041】
官能試験の結果を表4に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
表4の結果から実施例1〜3は、比較例1,2に対して、いずれもソフトで食感の引きが少ないことが判る。
【0044】
また、次に、本試験に用いたドッグロールの食感の変化を数値として示すため、エキステンソグラフを用いて、レンジアップ前後の引きの変化について比較を行なった。測定方法は次の通り。測定の模式図及びチャート例は図1、図2の通り。測定結果は図3に示す。
【0045】
(測定方法)
サンプル:ドッグロール60g,サイズは幅5.5〜6cm,高さ4〜4.5cm,長さ17〜18cm。
レンジアップ条件:パン2個を600Wのレンジで40秒加温し、室温(約27℃)まで冷却した後、引っ張り強度を測定した。(テストは1点につき5点測定し平均値を求めた)
測定機器:エキステンソグラフ(ドイツ ブラベンダー社製)
測定方法:図1のようにパンを固定台に固定し、パンの中央を圧縮し、引っ張ることで、その引っ張り強度を測定した。得られたチャートより、切断時の最大強度をブラベンダーユニット(単位:BU)として求めた。
【0046】
【図1】
【0047】
【図2】
【0048】
【図3】
【0049】
以上の結果、比較例1のパンはレンジアップする事で引っ張り強度が増大した。これに対して比較例2は、食感の引きの増加の程度はやや少なくなったものの、強度の増加率は203BUという事から、レンジアップによる引きの低減には効果が少ないことが判る。一方、実施例1は、レンジアップ前のパン自体の引きも比較的に少なく、レンジアップ後の引きの増加の程度も弱まった(強度の増加率は133BU)。さらに、実施例2ではレンジアップ後の強度の増加が一層少なくなった(強度の増加率は44BU)。従って、レンジアップしても、しなくても、ソフトなサクイ食感を提供できるという特長がはっきりと判る。
【0050】
次に、表2記載の実施例4,5及び比較例3を用いて中華饅を製造し、評価した。配合並びに工程は次の通り。
【0051】
中華饅:配合
組成物 100 (重量部)
イースト 2
ラード 2
水 39〜41
【0052】
【0053】
中華饅の評価は、蒸し後、−18℃で1週間冷凍し、冷凍品2個を直接、600Wの電子レンジで60秒間加温し、室温(約27℃)まで冷却した後、官能評価を実施した。官能試験の結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5の結果から実施例4,5はいずれも比較例3よりもソフトで食感の引きが少ないことが判る。
【0056】
さらに、表3記載の実施例6,7及び比較例4を用いてソフトフランスパンを製造し、評価した。製パン配合並びに工程は次の通り。
【0057】
ソフトフランスパン:配合
フランスパン用粉 90 (重量部)
組成物 14
イースト 3
ショートニング 1
モルトシロップ 0.5
水 56〜58
ビタミンC 18 ppm
【0058】
【0059】
ソフトフランスパンの評価は、パン2個を直接、600Wの電子レンジで60秒間加温し、室温(約27℃)まで冷却した後、官能評価を実施した。官能試験の結果を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
表6の結果から実施例6,7はいずれも比較例4よりもソフトで食感の引きが少ないことが判る。従来、電子レンジには向かないとされていたハード系のパンについても、レンジアップが可能となった。
【0062】
【発明の効果】
本発明のパンおよび中華饅用組成物を用いることで、従来の技術では困難とされていたハード系のパンを初めとし、多種の商品がレンジアップ後も良好な品質となり、電子レンジで加温することができるパン類の幅が一層拡大した。これによって、真に消費者の「非常にホットで美味しいパンが食べたい」というニーズに的確に応えることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】パンの引っ張り強度(引き)を測定する方法を示す摸式図である。
【図2】パンの引っ張り強度(引き)を測定した際に得られる分析チャート例を示す図である。
【図3】ドッグロールの引っ張り強度(引き)を比較した図表である。
Claims (3)
- 食用粉類100重量部に対して、食用油脂0.5〜25重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.3〜20重量部、プロピレングリコール脂肪酸エステル0.1〜7重量部、及びα化澱粉を0.6〜40重量部を含有することを特徴とした電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物。
- 請求項1に記載された電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物であって、
前記グリセリン脂肪酸エステルがグリセリン脂肪酸モノエステルとグリセリン有機酸脂肪酸モノエステルとからなり、その配合比率が30:70〜70:30である
ことを特徴とした電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物。 - 請求項1または請求項2に記載された電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物であって、
前記グリセリン脂肪酸エステルと前記プロピレングリコール脂肪酸エステルとの比率が50:50〜80:20である
ことを特徴とした電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物。
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