JP3877022B2 - ポリエステル複合糸織物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2種以上の異なるポリエステルフィラメント繊維群から構成された複合糸条を織物にした後、減量加工を施すことなく染色仕上げ加工だけで織物にソフト感、反発感及びドレープ性を付与することが可能なポリエステル複合糸織物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ポリエステル織物を反発感やドレープ性などに優れた風合いにするための手段として、特性の異なる少なくとも2種のポリエステルフィラメント繊維から構成した芯鞘型複合加工糸を織編糸として使用するものが多数提案されている。また、ポリエステル織編物に反発感を付与するため、布帛の力学特性を受け持つ芯糸を、単繊維が太繊度のポリエステルフィラメント繊維にするようにすることが広く提案されている。
【0003】
しかし、反発感とドレープ性とは相反するもので、反発感を向上させるために単繊維を太くするとドレープ性が減少してしまうという問題がある。そこで、ドレープ性を向上させる手段として、織物にしたのちアルカリ減量処理加工することが広く行われている。これはアルカリ減量加工により繊維間空隙が増大し、布帛の曲げに際して単糸一本一経路が動きやすくするようにしているからである。しかしながらアルカリ減量は薬品を大量に使用し、長時間の加工を要するため、環境を悪化したり、コスト高になるという問題がある。
【0004】
そこで、単糸間の空隙を増大させるため、芯糸に高収縮糸を用いるようにしたいわゆる異収縮混繊糸を使用するようにした提案がある。この異収縮混繊糸は、染色仕上げ加工時の昇温によって高収縮糸が次第に収縮し、芯糸と鞘糸との間に空隙を生じさせるようにしたものである。しかしそれは織物の表面部においてループを形成することで空隙をもたせているが、経糸と緯糸の交差部、即ち拘束部では空隙が形成されないために拘束力は大きく、アルカリ減量加工ほどにドレープ性を向上させる効果は得られない。また高収縮糸の芯糸が織物内で突っ張った状態になるため、反発性はでるものの芯のある「硬い」風合いになってしまう。つまりアルカリ減量処理なしでは所望の風合いが得られず、上記問題を解決することはできない。
【0005】
また少なくとも2種の収縮応力ピークを有し且つ熱収縮応力ピークでの収縮率が15%以上のポリエステルフィラメント繊維を混繊あるいは合撚したものを用い、多段階に起こる収縮挙動により多様な繊維空隙を形成させたものもある。しかしこの場合も織物の表面部において多様なループを形成するだけで、拘束部では空隙ができずアルカリ減量加工ほどにドレープ性を向上させるには不十分であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来の問題を解決し、織物にした後のアルカリ減量加工を施すことなく染色仕上げ加工だけで、織物にソフト感、反発感及びドレープ性を付与することのできるポリエステル複合糸織物の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、第1発明は、下記式1〜3を満足するポリエステルフィラメントからなる繊維群Aと紡糸延伸後熱処理して得られた繊維群Bが、交絡度20〜80コ/ m で混繊されてなる複合糸を少なくとも一部に用いてなる織物に、アルカリ減量加工を施すことなく染色加工仕上げを施すことを特徴とするポリエステル複合糸織物の製造方法である。
SHD(A)≦-2% …式1
SHD(B):0〜5% …式2
|SHD(A)|>|SHD(B)| …式3
ここでSHD(A) は繊維群Aの160℃乾熱収縮率を、SHD(B) は繊維群Bの160℃乾熱収縮率を示す。
【0008】
そして好ましくは、繊維群Aを構成するポリエステルフィラメントの断面凸部が3つ以上であり、且つ異形度が1.5以上であることを特徴とする上記記載のポリエステル複合糸織物の製造方法である。
【0010】
下本発明を詳述する。
【0011】
本発明における複合糸条は、繊維群Aと繊維群Bの少なくとも2種のポリエステルフィラメントから構成されており、繊維群Aは乾熱160℃の熱収縮率が−2%以下の自己伸長性ポリエステルフィラメントであり、繊維群Bは乾熱160℃の熱収縮率が0%〜5%のポリエステルフィラメントであり、かつ繊維群Aの乾熱160℃の熱収縮率の絶対値が繊維群Bの乾熱160℃の熱収縮率の絶対値よりも大きいことが肝要である。当該複合糸を少なくとも一部に用た織物は、アルカリ減量加工を施さなくとも染色仕上げ時に繊維群Aのポリエステルフィラメントを繊維軸方向に自己伸長させると同時に繊維群Bをほとんど収縮させないことにより実質的に複合糸中の単糸横断面積を減少させ、繊維間に空隙を生じさせることができる。従って本発明によると、従来のアルカリ減量加工を施すのと同様に織物の経糸と緯糸の拘束力を下げることがアルカリ減量加工を施さずとも可能となる。
【0012】
また、本発明における複合糸条は、2種以上のポリエステルフィラメント繊維が引き揃えまたは空気流体交絡処理され、あるいは更に合撚されて形成されたものであって、複合の過程で糸長差を付与された芯鞘構造糸であってもよく、また必ずしも芯鞘構造糸でなくても良い。この際、後述するが染色仕上げ加工により単糸間の空隙を増大させるためには複合手段として混繊が望ましい。さらに交絡度は20〜80コ/m が製造工程通過性を維持しつつ単糸間の空隙を確保する観点から望ましい。
【0013】
このような構成を有する複合糸条は、その織物を染色仕上げ加工において加熱すると従来では考えられない、つまり従来とは逆の挙動を示す。即ち、具体的には後加工等における昇温と共にポリエステルフィラメント繊維群Aが大きく伸長することで実質的に繊維断面積が減少し、単糸間の空隙が増大するのである。従来の自己伸長性異収縮混繊糸は高収縮のポリエステルフィラメントとの組合せが数多く提案されているが、それらの場合には本発明とは逆に経糸と緯糸の交差部の拘束力は熱処理によって高くなるためアルカリ減量なくしては硬さの残るドレープ性に劣った織物しか得ることができない。しかし本発明では組み合わせるポリエステルフィラメント繊維群Bが乾熱160℃の熱収縮率が0%〜5%の低収縮のポリエステルフィラメントであるため、従来のように熱収縮によって織物の拘束力が大きくなることはなく、むしろトータルとしてはポリエステルフィラメント繊維群Aの自己伸長効果により糸断面積が減少することで繊維間空隙が形成される。この繊維間空隙により織物が優雅なドレープ性を奏することになるのである。
【0014】
このように自己伸長によって繊維間空隙を形成させるには繊維群Aは乾熱160℃の熱収縮率が−2%以下、好ましくは−20〜−5%の自己伸長性ポリエステルフィラメントであることが肝要であり、同時に繊維群Bは乾熱160℃の熱収縮率が0〜5%、好ましくは0〜3%のポリエステルフィラメントであることが肝要である。さらに繊維群Aの乾熱160℃の熱収縮率の絶対値が繊維群Bの乾熱160℃の熱収縮率の絶対値よりも大きいことを必須とする。繊維群Aの乾熱160℃の熱収縮率が−2%よりも大きい場合は自己伸長率が十分でないため、形成される繊維間空隙が足りず硬さの残る風合いで、ドレープ性の劣ったものとなる。また繊維群Bの乾熱160℃の熱収縮率が5%より大きい場合は、繊維群Aの自己伸長により形成された繊維間空隙に対し、繊維群Bの熱収縮による繊維断面積の増加割合が大き過ぎ、風合いは硬く、ドレープ性に劣ったものとなる。さらに繊維群Aの乾熱160℃の熱収縮率の絶対値が繊維群Bの乾熱160℃の熱収縮率の絶対値が小さい場合は、繊維群Bの収縮による糸径の増大によって、繊維群Aが形成した繊維間空隙以上の空間が専有され、織物の拘束力は強くなるため本発明の効果が現れない。上記絶対値の差は2%以上、更には5〜20%が好ましい。
【0015】
さらに、より多くの繊維間空隙を形成させて、ドレープ性と反発感に優れた風合いを得るためには、構成しているポリエステルフィラメントが3つ以上の凸部を有する異形断面であり、その異形度が1.5以上、更に好ましくは2.0〜6.0であることが望ましい。通常の丸断面よりも異形断面の方がフィラメントを収束させた場合における繊維間空隙は大きくなりやすくドレープ性に優れ、また曲げモーメントも向上するため弾発感のある優れた風合いを有するものとなる。異形度が1.5以上からその効果が顕著に現れるが、6.0を越えると紡糸時において延伸ローラー上での糸揺れが大きくなるため品質が安定しないばかりか、ひいては製糸操業性が著しく低下する。
【0016】
本発明においてポリエステル複合糸は経糸及び/又は緯糸に使用されて製織される。その際、製織条件を適正化すれば、アルカリ減量加工を施さなくとも、従来15%以上のアルカリ減量を施さなくては得られなかった弾発感とドレープ性に優れた織物となる。編み物は減量加工を施さなくとも、織物に比べれば布帛内での糸拘束力が小さいため、本発明の混繊糸を使用してもその効果は小さい。ゆえにアルカリ減量廃液が環境問題の一つとして捉えられ、注目されてきた今日においては、本発明における混繊糸織物は特にフィラメント織物用途に適していると言える。
【0017】
これらポリエステルマルチフィラメントとは、エチレンテレフタレート単独タイプの他に、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレート共重合ポリエステル、カチオン染料可染性ポリエステル、常圧カチオン染料可染性ポリエステル等の共重合ポリエステルであっても良い。また、公知の添加剤として、酸化チタン等の艶消し剤や、カオリナイト等の微細孔形成剤の他、帯電防止剤等が少量添加されていても良い。またポリエステルマルチフィラメントの横断面形状、通常の丸断面の他、多角、中空、扁平、あるいは特殊異形断面等どのようなものでも適用可能であり、異なる横断面形状のフィラメントが混在していても良い。
【0018】
次に本発明で実施した測定法を述べる。
(1)SHD(乾熱160℃収縮率)
試料に1/30(g/den)の荷重を掛け、その長さL0(mm)を測定する。次いで、その荷重を取り除き、試料を乾燥機に入れ乾熱160℃で30分間乾燥する。乾燥後冷却し、再度1/30(g/den)の荷重を掛けてその長さL1(mm)を測定する。上記L1、L2を下記式に代入し、乾熱収縮率(SHD)を算出する。尚、測定回数5回の平均値を以てその値とする。
SHD(%)=(L0ーL1)/L0×100
(2)異形度
糸をパラフィンによって包埋し、ミクロトームを用いて糸を断面方向に3μmにカットしたものを顕微鏡を通して写真撮影した。この断面写真から内接円と外接円の半径を測定し、下記式に代入し異形度を算出する。
異形度=外接円半径/内接円半径
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に述べるがこれに限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)
ポリエステルを速度2500m/minで紡糸し、1.6倍で冷延伸させ、さらに非接触ヒーター(200℃)を通してOF率50%で弛緩熱処理して得られた160℃乾熱収縮率−10%の自己伸長性ポリエステルフィラメント繊維群A(30d/18f、異形度2.0)を製造した。
【0021】
また、速度1500m/minで紡糸したポリエステルを2.9倍に延伸し、150℃の接触式ヒーターで定長熱処理して得られた160℃乾熱収縮率3%の低収縮性ポリエステルフィラメント糸(30d/5f)とを引き揃え、オーバーフィード率2.5%、インタレースノズルのエアー圧力4.0kg/cm2 で流体撹乱処理して60d/23fの混繊糸を製造した。
【0022】
この混繊糸を2000T/Mで撚糸し経糸及び緯糸に用いて製織し、平組織の織物を得た。該製織布にアルカリ減量を施さずにリラックス加工を施した後、液流染色機を使用し仕上げた。引き続き液流染色機を使用して分散染料にて染色し通常のファイナルセットを施して染色加工布を得た。
得られた織物は風合いに関して非常に弾発性に富みソフトで優しい感じのタッチを有していると共にドレープ性に優れたしなやかなものであった。
【0023】
(実施例2)
実施例1の自己伸長糸を丸断面に変更した他は実施例1と同様にして染色加工反を得た。得られた織物はソフトで優しい感じのしっとりとしたドライタッチを有していると共にドレープ性のあるものであった。
【0024】
参考例1)実施例1の自己伸長糸を丸断面に変更し、減量率5%の減量加工を施した他は実施例1と同様にして染色加工反を得た。得られた織物は非常にソフトでドレープ性に優れたものであった。
【0025】
(比較例1)
実施例1の自己伸長糸の製造時にOF率を30%にして160℃乾熱収縮率を−1%に変更した他は実施例1と同様にして染色加工反を得た。得られた織物は非常に弾発性に優れたものであったが、ソフト感やドレープ性に劣ったプレーンな風合いをしていた。
【0026】
(比較例2)
実施例1の低収縮性ポリエステルフィラメント糸の製造時に接触式ヒーター温度を120℃にして160℃乾熱収縮率を10%に変更した他は実施例1と同様にして染色加工反を得た。得られた織物は非常に弾発性と嵩高性に優れたものであったが、ドレープ性に劣ったものであった。
【0027】
(比較例3)
実施例1の自己伸長糸の製造時にOF率を40%にして160℃乾熱収縮率を−3%に変更し、さらに低収縮糸の製造時に接触式ヒーター温度を140℃にして160℃乾熱収縮率を5%に変更した他は実施例1と同様にして染色加工反を得た。得られた織物はほどほどの嵩高性はあるが、ドレープ性の足りない硬めの風合いであった。
【0028】
【発明の効果】
本発明によると、織物にした後のアルカリ減量加工を施すことなく、染色仕上げ加工だけでソフト感、反発感及びドレープ性に富む織物の製造方法を提供することを可能とした。

Claims (2)

  1. 下記式1〜3を満足するポリエステルフィラメントからなる繊維群Aと紡糸延伸後熱処理して得られた繊維群Bが、交絡度20〜80コ/ m で混繊されてなる複合糸を少なくとも一部に用いてなる織物に、アルカリ減量加工を施すことなく染色加工仕上げを施すことを特徴とするポリエステル複合糸織物の製造方法
    SHD(A)≦-2% …式1
    SHD(B):0〜5% …式2
    |SHD(A)|>|SHD(B)| …式3
    ここでSHD(A) は繊維群Aの160℃乾熱収縮率を、SHD(B) は繊維群Bの160℃乾熱収縮率を示す。
  2. 繊維群Aを構成するポリエステルフィラメントの断面凸部が3つ以上であり、且つ異形度が1.5以上であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル複合糸織物の製造方法
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