JP3873408B2 - バチルス属細菌由来のトランスグルタミナーゼの製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トランスグルタミナーゼの製造法に関し、詳しくは、遺伝子組換え技術を利用してバチルス属細菌由来のトランスグルタミナーゼをエシェリヒア属細菌を用いて製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トランスグルタミナーゼ(以下、「TG」という)は、ペプチド鎖内にあるグルタミン残基のγ−カルボキサミド基を基質とし、アシル転移反応を触媒する酵素である。該反応において、ペプチド鎖内のリジン残基のε−アミノ基がアシル受容体となるときは、ペプチド分子内あるいは分子間にε−(γ−Glu)−Lys架橋結合(以下、「GL結合」と略する)が形成する。水がアシル受容体となるときは、グルタミン残基に脱アミド反応が生じ、グルタミン残基がグルタミン酸残基になる。
【0003】
TGを利用することにより、種々の架橋高分子化物を製造することができ、そのようにして製造された架橋高分子化物は、豆腐、プリン、ヨーグルト、チーズ、摺り身、練製品、ソーセージ等の畜肉製品等の食品、化粧料等として用いられる。
【0004】
従来、TGは多くの動物組織に存在することが知られていた。例えば、モルモットの肝臓(Connellan et al., Journal of Biological Chemistry 246巻1093 〜1098頁(1971))に存在し、研究されている。また、微生物のTGについては、放線菌、枯草菌(M.V.Ramanujam et al., FASEB J.4巻A2321)、粘菌(J.D.klein et al., J.Bacteriol.174巻2599〜2605頁)で報告されている。産業的には放線菌の生産するTGが実用化されている(特公平6-65280号公報、特開平1-27471号公報)が、放線菌は一般の細菌に比べて生育速度が遅いため、培養時間が長くなり、それゆえ生産コストの増大を招く。
【0005】
一方、枯草菌由来のTGを産業に応用する場合、従来知られている枯草菌由来のTGが5mMのCa2+によって阻害されるので実際の食品系では使用できないという問題があったが、5mMのCa2+存在下で活性を示すTGを産生する枯草菌が見い出され、枯草菌由来のTGの産業上での応用が可能となっている(特開平9-131180号)。また、この枯草菌由来のTG遺伝子を用い、遺伝子組換え技術を利用してTGを製造する技術も開発されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、エシェリヒア属細菌等に枯草菌由来のTG遺伝子を導入し、該遺伝子を発現させてTGを生産させようとする場合、TGタンパク質が会合し、封入体(inclusion body)を形成する場合が多い。この封入体から活性を有するTGを得るためには、封入体の可溶化、TGタンパク質の巻き戻しという操作が必要となるが、枯草菌由来のTGタンパク質の封入体から活性を有するTGタンパク質を得ることは困難である。また、枯草菌由来のTGを活性を有する形態で十分な量生産させることは、成功するには至っていなかった。
【0007】
本発明は、上記観点からなされたものであり、エシェリヒア属細菌を用いて、枯草菌由来のTGを活性を有する形態で製造する方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、バチルス属細菌由来のTG遺伝子を保持するエシェリヒア属細菌を培養してTGを生産させる際に、TG遺伝子の発現を特定の培養期に誘導することによって、TGを活性を有する形態で効率よく生産させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、バチルス属細菌由来のTG遺伝子を含むDNA断片を保持するエシェリヒア属細菌を培養し、該遺伝子を発現させることによりTGを製造する方法において、前記エシェリヒア属細菌の対数増殖が鈍化した時期から該細菌の生育が定常期に達する時期の間に前記TG遺伝子の発現を誘導することを特徴とする方法である。
【0010】
本発明は、好ましい態様として、上記方法において、エシェリヒア属細菌細胞中にTGが蓄積されることを特徴とする方法を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<1>本発明に用いるTG遺伝子
本発明に用いるバチルス属細菌由来のTG遺伝子は、バチルス属細菌由来のTGをコードするDNAを含み、かつ、エシェリヒア属細菌細胞内で所望の培養期にTGの発現を誘導することが可能な遺伝子である。このようなTG遺伝子は、エシェリヒア属細菌細胞内で発現誘導が可能なプロモーターに、バチルス属細菌由来のTGをコードするDNAを連結することにより得られる。
【0013】
TGをコードするDNAが由来するバチルス属細菌としては、TGを産生するバチルス属細菌であれば特に制限されないが、具体的にはバチルス・ズブチリス、(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alcalophilus)等が挙げられる。
【0014】
これらの中では、バチルス・ズブチリスが好ましく、特にバチルス・ズブチリス AJ12866及びAJ1307が好ましい。バチルス・ズブチリス AJ12866 は通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(以下、「生命研」と略する)に、1995年2月2日付けで寄託されており、その寄託番号は FERM P-14750 である。また、バチルス・ズブチリス AJ12866 は、1995年12月4日付けでブタペスト条約に基づく国際寄託に移管されており、その国際寄託番号は FERM BP-5325 である。 バチルス・ズブチリス AJ1307 は生命研に、1995年8月22日付けで寄託されており、その寄託番号は FERM P-15123 である。また、バチルス・ズブチリス AJ1307 は、1996年1月18日付けでブタペスト条約に基づく国際寄託に移管されており、その国際寄託番号は FERM BP-5367 である。
【0015】
上記にようなバチルス属細菌から、TGをコードするDNAを取得する方法について説明する(特開平9-131180号参照)。
はじめに、精製されたTGのアミノ酸配列を決定する。エドマン法(Edman,P., Acta Chem. Scand. 4, 227 (1950))を用いてアミノ酸配列を決定することができる。またApplied Biosystems社製のシークエンサーを用いてアミノ酸配列を決定することができる。
【0016】
明らかとなったアミノ酸配列に基づいて、これをコードするDNAの塩基配列を演繹できる。DNAの塩基配列を演繹するには、ユニバーサルコドンあるいはバチルス属細菌の遺伝子中でもっとも頻繁に用いられるコドンを採用する。
【0017】
演繹された塩基配列に基づいて、30〜50塩基対程度のDNA分子を合成する。該DNA分子を合成する方法はTetrahedron Letters, 22, 1859 (1981)に開示されている。また、Applied Biosystems社製のシンセサイザーを用いて該DNA分子を合成できる。該DNA分子は、バチルス属細菌由来のTGをコードするDNA全長を、バチルス属細菌染色体遺伝子ライブラリーから単離する際に、プローブとして利用できる。あるいは、バチルス属細菌由来のTGをコードするDNAをPCR法で増幅する際に、プライマーとして利用できる。ただし、PCR法を用いて増幅されるDNAはバチルス属細菌由来のTGをコードするDNA全長を含んでいないことがあるので、PCR法を用いて増幅されるDNAをプローブとして用いて、バチルス属細菌由来のTGをコードするDNA全長をバチルス属細菌染色体遺伝子ライブラリーから単離することが好ましい。
【0018】
PCR法の操作については、White, T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989)等に記載されている。バチルス属細菌の染色体DNAを調製する方法については、Molecular Biological Methods for Bacillus, John Wiley & Sons Ltd (1990)等に記載されている。バチルス属などの細菌染色体遺伝子ライブラリーを作成する方法については、Molecular Biological Methods for Bacillus, John Wiley & Sons Ltd (1990)等に記載されている。DNA分子をプローブとして用いて、遺伝子ライブラリーから目的とするDNA分子を単離する方法については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)等に記載されている。
【0019】
単離されたTGをコードするDNAの塩基配列を決定する方法は、A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley & Sons, Inc. (1985)に記載されている。また、Applied Biosystems社製のDNAシークエンサーを用いて、塩基配列を決定することができる。
【0020】
バチルス属細菌由来のTGをコードするDNAの一つを配列表配列番号1に示す。該DNAはバチルス・ズブチリス AJ1307 株の染色体DNAから単離されたものである。バチルス属細菌由来のTGをコードするDNAは、配列表配列番号1に示されるDNAだけではない。すなわち、バチルス属に属する細菌の種及び株ごとに、塩基配列の違いが観察されるはずだからである。
【0021】
また、バチルス属細菌の染色体DNAから単離されたTGをコードするDNAに人工的に変異(例えばコードされるTGが1若しくは2以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入又は付加を含み、かつTG活性が維持されるような変異)を加えて、塩基配列を変更することができる。人工的に変異を加える方法として頻繁に用いられるものとして、Method. in Enzymol.,154 (1987)に記載されている部位特異的変異導入法がある。
【0022】
バチルス・ズブチリス AJ1307 由来のTGをコードするDNAとベクターDNAとが接続されて得られる組み換えDNA(pBSTG75-11)を細胞内に有するエシェリヒア・コリ AJ13172 は生命研に、1995年12月20日付けで、ブタペスト条約に基づいて国際寄託されており、その国際寄託番号は FERM BP-5346である。pBSTG75-11は、pUC18にバチルス・ズブチリス AJ1307由来のTGをコードする配列を含む約2kbのDNA断片が挿入されたプラスミドであり、TGをコードするDNAがlacZ'(β−ガラクトシダーゼのN末端側の一部分をコードする配列)の下流に接続されており、lacプロモーター制御下でTGのN末端側に11アミノ酸残基からなるペプチドが付加された融合タンパクを発現するようにデザインされている(特開平9-131180号参照)。pBSTG75-11をHindIII及びBamHIで消化すると、TGをコードするDNA配列が得られる。
【0023】
TGをコードするDNAを発現させるプロモーターとしては、通常大腸菌における異種タンパク質生産に用いられるプロモーターであって、任意の培養期に発現誘導可能なプロモーターであれば使用することができ、例えば、trcプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、PLプロモーター、lacプロモーター等の強力なプロモーターが挙げられる。
【0024】
TG遺伝子を大腸菌に導入するためのベクターとしては、いわゆるマルチコピー型のものが好ましく、Col E1由来の複製開始点を有するプラスミド、例えばpUC系のプラスミドやpBR322系のプラスミド、あるいはその誘導体が挙げられる。また、形質転換体を選別するために、該ベクターがアンピシリン耐性遺伝子等のマーカーを有することが好ましい。このようなプラスミドとして、強力なプロモーターを持つ発現ベクターが市販されている(pTrc99A(ファルマシア製)、pUC系(宝酒造(株)製)、pPROK系(クロンテック製)、pKK233-2(クロンテック製)ほか)。
【0025】
TG遺伝子の下流には、転写終結配列であるターミネーターを連結してもよい。ターミネーターとしては、T7ターミネーター、fdファージターミネーター、T4ターミネーター、テトラサイクリン耐性遺伝子のターミネーター、大腸菌trpA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。
【0026】
上記ベクターに、プロモーター、バチルス属細菌由来のTGをコードするDNA、必要に応じてターミネーターの順に連結したDNA断片が挿入されたプラスミドで大腸菌を形質転換することにより、バチルス属細菌由来のTG遺伝子を保持するエシェリヒア属細菌が得られる。尚、上記のベクターには、TGをコードするDNAを発現させるのに好適なプロモーターを含んでいるものがあり、そのようなベクターを用い、ベクターに含まれるプロモーターに下流にバチルス属細菌由来のTGをコードするDNAを連結する場合には、別途プロモーターをベクターに挿入する必要はない。
【0027】
TG遺伝子を含むベクターをエシェリヒア属細菌に導入するには、D.M.Morrisonの方法(Methods in Enzymology 68, 326 (1979))あるいは受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M. and Higa,A.,J.Mol.Biol.,53,159(1970))等、通常のエシェリヒア属細菌の形質転換に用いられる方法により行うことができる。
【0028】
本発明に用いるエシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリ等、エシェリヒア属に属する微生物であれば特に制限されないが、具体的にはナイトハルトらの著書(Neidhardt,F.C. et.al.,Escherichia coli and Salmonella Typhimurium,American Society for Microbiology,Washington D.C.,1208, table 1)に挙げられるものが利用できる。たとえば、エシェリヒア・コリ JM109 株や、MC1061 株などがあげられる。
【0029】
上記のようにして得られるTG遺伝子を保持するエシェリヒア属細菌を培養するのに用いる培地としては、実施例で述べる2×YT培地(Bctotrypton 1.6%、Yest extract 1.0%、NaCl 0.5%)の他、M9-カザミノ酸培地、LB培地などの通常大腸菌を培養するのに用いる培地を用いてもよい。また、培養条件、生産誘導条件は、用いたベクターのマーカー、宿主菌等の種類に応じて適宜選択する。
【0030】
本発明においては、バチルス属細菌由来のTG遺伝子を含むDNA断片を保持するエシェリヒア属細菌を培養する際に、該エシェリヒア属細菌の対数増殖が鈍化した時期から該細菌の生育が定常期に達する時期の間にTG遺伝子の発現を誘導する。対数増殖が鈍化する時期よりも前にTG遺伝子の発現を誘導すると、TGの生産量が低いか、あるいは生産量が高くても大半のTGが封入体を形成し、活性を有するTGはわずかしか産生されないが、対数増殖が鈍化した時期から定常期に達する時期の間にTG遺伝子の発現を誘導すると、TGの一部は封入体を形成したとしても、活性を有するTGが細胞内に著量蓄積する。
【0031】
対数増殖が鈍化する時期あるいは定常期に達する時期は、使用するエシェリヒア属細菌、ベクター、プロモーター及び培地の種類、並びに培養条件等によって異なるが、設定した条件で予備的に培養を行い、経時的に生菌数又は吸光度を測定し、グラフにプロットして生育曲線を作成することによって、容易に調べることができる。また、特に好ましい誘導時期は、経時的に菌体抽出液のTG活性を測定することにより知ることができる。さらに、誘導をかけた後の培養時間も、同様にして適宜設定すればよい。
【0032】
生産されたバチルス属細菌由来のTGは、エシェリヒア属細菌の菌体を溶解又は破砕し、溶菌液又は破砕液から不溶性画分を除去すれば、粗酵素液として得ることができる。さらに、必要に応じて、通常の沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィー等の手法によりTGを精製して用いることも可能である。この場合、TGに対する抗体を利用した精製法も利用できる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。尚、本発明は実施例の記載に限定されない。
【0034】
<1>枯草菌由来TGのエシェリヒア・コリでの直接発現系の構築
(1)染色体DNAライブラリーの作製
バチルス・ズブチリス AJ1307株の染色体DNA1μgをHindIIIで完全に消化した。エタノール沈澱によってDNAを回収した後、10μlの10:1TEに溶解した。このうちの5μlと、HindIIIで消化されてさらにBAPによる脱リン酸化処理を受けたpUC118(宝酒造製)1ngとを混合し、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造製)を用いて連結反応を行った。エシェリヒア・コリJM109株のコンピテント・セル(宝酒造製)100μlとライゲーション反応液3μlとを混合して、エシェリヒア・コリJM109株を形質転換した。これを適当な固形培地に塗布し、染色体DNAライブラリーを作製した。
【0035】
(2)プローブの作製
プローブには、TG遺伝子を含む枯草菌染色体DNAのHindIII断片をpUC118にクローニングしたプラスミド(pBSTG75-11)(特開平9-131180号公報実施例10参照)に含まれているTG遺伝子の全長を用いた。pBSTG75-11に含まれているTGをコードする配列は、配列表配列番号1において塩基番号118〜1042に相当する。尚、pBSTG75-11によって形質転換されたエシェリヒア・コリJM109株(AJ13172)は生命研に、1995年12月20日付けで、FERM BP-5346の寄託番号で、ブタペスト条約に基づいて国際寄託されている。
【0036】
pBSTG75-11を鋳型にして、Primer S2(配列番号2)及びPrimer S3(配列番号3)を用いてPCR反応を行った。PCR反応は、TaKaRa LA PCR Kit Ver.2に従って行った。
【0037】
鋳型であるpBSTG75-11を10ng、Primer S2及びPrimer S3を各20pmol含む100μlの反応液を調製して反応を行った。なお、Primer S2はTG遺伝子の配列番号1の塩基配列118番目から152番目の35塩基に相補するプライマー、Primer S3はTG遺伝子の配列番号1の塩基配列818番目から852番目の35塩基に相補するプライマーである。PCRの反応は以下の条件で30サイクル行った。
【0038】
94℃ 30秒
55℃ 30秒
72℃ 1分
【0039】
上記の反応で増幅されたDNA断片を1%アガロースゲル(Seaplaque GTG、FMC社製)電気泳動により分離した。目的のバンドを切り出し、EasyPrep System(ファルマシア社製)とPCR Products Prep Kit(ファルマシア社製)を用いてDNAを精製した。最終的に4ng/μlのDNA溶液200μlを得た。
【0040】
このDNA断片を32Pで標識し、プローブとした。[α-32P]dCTP 3000Ci/mmol(アマシャム社製)とRandom Primer DNA Labeling Kit Ver.2(宝酒造社製)を用いて説明書通りにプローブの標識を行った。
【0041】
(3)コロニーハイブリダイゼーション
コロニーハイブリダイゼーションの操作は、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)に記載されている方法に準拠して行った。
【0042】
染色体DNAライブラリーのコロニーをナイロンメンブレンフィルター(Hybond-N、アマシャム社製)にうつし、アルカリ変性、中和、固定化の処理を行った。
ハイブリダイゼーションはRapid-hyb buffer(アマシャム社製)を用いて行った。フィルターを該バッファー中に浸し、65℃で4時間プレハイブリダイゼーションを行った。その後、上記で作製した標識プローブを添加し、65℃で2時間ハイブリダイゼーションを行った。この後、フィルターを0.1%SDSを含む2×SSCで室温、20分間洗浄した。さらに0.1%SDSを含む0.1×SSCで65℃、15分間洗浄を2回行った。
その結果、プローブとハイブリダイズするコロニーを5株確認できた。
【0043】
(4)TG遺伝子のDNAシーケンス
選抜した形質転換体が保有するプラスミドの一つ(pBSTG3-1と命名した)をMolecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989)に記載される方法に従って調製し、pUC118に挿入されたDNA断片の塩基配列を決定した。シーケンス反応は、 Dye Terminator Cycle Sequencing Kit(ABI社製)を用いて説明書に従って行った。また、電気泳動は、DNA Sequencer 373(ABI社製)を用いて行った。その結果、配列表配列番号1に示した塩基配列を有することを確認した。
【0044】
(5)TG直接発現プラスミドの構築
上記のようにして得られたプラスミドpBSTG3-1から、枯草菌由来TG遺伝子を含むHindIII-BamHI断片をpHSG399にサブクローニングし、pHSG9TGを作製した(図1)。pHSG399は、lacプロモーターの制御下で発現するlacZ'を有しており、その直下にHindIII部位及びBamHI部位が存在する。
【0045】
枯草菌由来TG遺伝子中、N末端メチオニンのコドン直前の塩基配列を、配列番号4に示す塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチド[NDE2]を用いて、部位特異的変異導入法により2塩基置換し、N末端メチオニンのコドンの部分にNdeI部位を導入した(図1、pHSG9TG(Nde))。これにより、得られたプラスミドを制限酵素NdeIで消化することによって、N末端メチオニンのコドンの直前のT(チミン)の上流に、任意の塩基配列を接続することを可能にした。
【0046】
次いで、配列番号5及び6に示す塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチド[SD1F及びSD1R]をアニールして得られるDNA断片を、HindIII及びNdeIで消化したpHSG9TG(Nde)と連結し、pHSG9TG(Nde)のHindIII-NdeI断片を前記の合成DNA断片で置き換えることによって、lacプロモーター制御下で枯草菌由来TGを直接発現出来る発現系を構築した(図2、pHSD1TG)。前記の合成DNA断片(以下、5'フランキング領域」という)は、両端にHindIII切断配列及びNdeI切断配列を有し、内部にlacZ'の3'末端側の一部と、SD(Shine-Dalgarno)配列とを有している。pHSD1TGにおいて、合成DNA断片中のlacZ'の3'末端側の一部は、pHSG399由来のlacプロモーターに続くlacZ'の5'末端側に接続しており、lacプロモーターの制御下で、lacZ'及びTG遺伝子を発現させることができる。尚、lacZ'のコード配列とTG遺伝子との間には、lacZ'と同一フレームの終止コドン、及びSD配列が存在し、TGは融合タンパク質としてではなく、単独で発現するように設計されている。
【0047】
<2>枯草菌由来TGのエシェリヒア・コリでの直接発現
上記で構築したpHSD1TGから、枯草菌由来TG遺伝子(5'フランキング領域を含む)を含むHindIII-BamHI断片を切り出し、これをHindIII及びBamHIで消化したpUC19に連結することによって、pUSD1TGを構築した(図2)。
【0048】
pUSD1TGでエシェリヒア・コリ JM109株を形質転換し、得られた形質転換株をアンピシリン100μg/mlを含む2×YT培地(Bctotrypton 1.6%、Yest extract 1.0%、NaCl 0.5%)にて37℃、一夜培養した。この培養液1mlを、0.2%カザミノ酸とアンピシリン100μg/mlとを含む2×YT培地100mlに接種して、37℃にて振盪培養した。培地の波長660nmの吸光度が0.4〜0.5に達した時点(対数増殖期中期(mid log phase))で、1mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を培地に添加してlacプロモーターの発現を誘導し、更に6時間、37℃にて振盪培養した。この段階で菌体を顕微鏡観察すると、菌体内に封入体が形成されていた。ベクター(pUC19)のみの保持株では封入体の形成は観察されなかった。
【0049】
集菌後、0.85% NaClにて菌体を洗浄し、S bufer(20mM Tris-HCl、5mM EDTA、30mM NaCl、pH 8)に懸濁し、更に0.2mg/ml リゾチームを加えて氷上で1時間処理した後、超音波破砕した。破砕液を10,000×gで10分遠心分離し、沈殿を0.5% Triton X-100 を含むS bufferにて2回洗浄し、10mM EDTA (pH8) 溶液に懸濁して、封入体の画分とした。
【0050】
得られた封入体をSDS-PAGEに供したところ、その分子量は、特開平9-131180号公報に開示されている枯草菌由来TGの分子量(約28,000〜約30,000)と一致した。また、封入体を8M 尿素にて溶解後、尿素濃度が2.5Mになる様に希釈し、その遠心上清をPVDF膜にしみこませ、20%メタノールにて1時間洗浄後、Applied Biosystems社製プロテインシーケンサーにて、封入体を形成した蛋白質のN末端アミノ酸配列を決定した。その結果、封入体を形成した蛋白質のN末端アミノ酸10残基は、特開平9-131180号公報に開示されている枯草菌由来TGのN末端アミノ酸配列と一致した。以上のことから、pUSD1TGにて枯草菌由来TGが直接発現されていることが確認された。
【0051】
<3>発現誘導時期の変更によるTG活性体蓄積量の増大
pUSD1TG上の枯草菌由来TG遺伝子を、pTrc99A(Pharmacia Co. より購入)に載せかえ、枯草菌由来TGがtrcプロモーター制御下で発現可能なプラスミドpTcSD1TGを作製した(図3)。すなわち、pUSD1TGをNheIで消化した後、切断末端を平滑化し、さらにBamHIで消化して得られるTG遺伝子断片(5'フランキング領域を含む)を、BamHI及びSmaIで消化したpTrc99Aに連結した。pTrc99Aは、trcプロモーターを有しており、その直下にSmaI部位及びBamHI部位が存在する。
【0052】
pTcSD1TGでエシェリヒア・コリ JM109 株を形質転換し、得られた形質転換株をアンピシリン100μg/mlを含む2×YT培地(Bctotrypton 1.6%、Yest extract 1.0%、NaCl 0.5%)にて37℃、一夜培養後、培養液1mlを0.2%カザミノ酸とアンピシリン100μg/mlとを含む2×YT培地100mlに接種して37℃にて振盪培養した。培養液の波長660nmの吸光度が0.4〜0.5に達した時点(対数増殖期中期)、または波長660nmの吸光度が3.2〜4.0に達した時点(対数増殖が鈍化した時点)で、1mM IPTGを培地に添加して発現を誘導し、更に37℃にて振盪培養した。
【0053】
集菌後、菌体を0.85% NaClにて洗浄し、K buffer (50mM TrisHCl、10mM EDTA、2mM DTT、pH7.5) に懸濁し、0.2mg/mlリゾチームと0.02mg/ml DNase Iを加えて37℃、40分処理後、15mM MgSO4を加えて37℃で更に15分処理し、50mM NaHCO3 (pH10)を加え、1M NaOHにてpHを10.2に調整した後、37℃で更に30分処理した。この処理液を12,000×gで30分遠心分離し、上清中の枯草菌由来TG活性を、特開平9-131180号公報に記載された方法に従って、14Cラベルされたプトレッシンのジメチルカゼインへの取込活性として測定した。菌体の湿重量(WCW(Wet cell weight))当たりのTG活性及び培養液0.1ml当たりのTG活性を図4に示す。
【0054】
図4に示されるように、対数増殖が鈍化してから誘導をかけた場合の方が、対数増殖期中期で誘導をかけた場合に比べて、培養液当たりで約4.5倍、湿重量当たりで約2.6倍高いTG活性が得られた。
【0055】
【発明の効果】
本発明により、エシェリヒア属細菌を用いて、枯草菌由来のTGを活性を有する形態で製造することができる。
【0056】
【配列表】
Figure 0003873408
Figure 0003873408
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【0057】
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【0058】
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【0059】
Figure 0003873408
【0060】
Figure 0003873408
【0061】
Figure 0003873408

【図面の簡単な説明】
【図1】 NdeI部位を導入した枯草菌由来TG遺伝子を含むプラスミドpHSG9TG(Nde)の構築過程を示す図。
【図2】 枯草菌由来TG遺伝子を直接発現するプラスミドpHSD1TG及びpUSD1TGの構築過程を示す図。
【図3】 trcプロモーターにより枯草菌由来TG遺伝子を直接発現するプラスミドpTcSD1TGの構築過程を示す図。
【図4】 エシェリヒア・コリJM109(pTcSD1TG)の菌体中のTG活性を示す図。

Claims (2)

  1. バチルス属細菌由来のトランスグルタミナーゼ遺伝子を含むDNA断片を保持するエシェリヒア属細菌を培養し、該遺伝子を発現させることによりトランスグルタミナーゼを製造する方法において、前記エシェリヒア属細菌の対数増殖が鈍化した時期から該細菌の生育が定常期に達する時期の間に前記トランスグルタミナーゼ遺伝子の発現を誘導することを特徴とする方法。
  2. エシェリヒア属細菌細胞中にトランスグルタミナーゼが蓄積されることを特徴とする請求項1記載の方法。
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