JP3870527B2 - アルコキシスチレン重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、感光性材料であるアルコキシスチレン重合体の製造方法に関し、さらに、詳しくは、数平均分子量が10000以上で、狭い分子量分布を有するアルコキシスチレン重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アルコキシスチレン重合体は酸を作用させることでビニルフェノール重合体に変換することができる。この反応は第1級水酸基の脱保護反応として知られている。従って、アルコキシスチレン重合体に光酸発生剤を含有させ光照射すれば、いわゆる化学増幅作用によって疎水性のアルコキシスチレン重合体から親水性のビニルフェノール重合体に変換することが可能である。この光による物性変換はフォトレジストあるいは光粘着剤等に利用することができる。例えば、色材協会誌67〔7〕,449(1994)で述べられているように、集積度を増したLSIの加工には、化学増幅タイプのフォトレジストが有望とされており、その中でもアルコキシスチレン重合体は高解像度フォトレジストとして期待されている。さらに、変換した後のビニルフェノール重合体の水酸基は高分子反応によって他のさまざまな官能基に変換することが可能である。
これらアルコキシスチレン重合体は、機械的な強度、被着体への接着性、耐溶剤性、および解像度の点で、比較的高分子量で狭い分子量分布を有することが好ましい。
【0003】
狭い分子量分布を有する重合体の製造には、一般に、リビング重合が有効である。リビング重合では、あらかじめ製造しようとする重合体の分子量を{モノマー量(mol)/開始剤量(mol)} ×(モノマーの分子量)で計算される分子量に制御できる。さらに重合終了後も重合体の活性末端が“生きて(リビング)”いるので他のモノマーとのブロック共重合体の作製を行うことができる。この場合にも、あらかじめ製造しようとするブロック共重合体の各セグメントの分子量を{モノマー量(mol)/活性末端基量(mol)} ×(モノマーの分子量)で計算される分子量に制御できる。さらに重合終了後も重合体の活性末端が依然として生きているので他のモノマーとの多種多様なブロック共重合体の作製、ブロック共重合体末端への官能基の導入などを行うことができる。
【0004】
しかしながら、一般にアルコキシ基のような極性基が存在すると副反応のためリビング性が低下することが知られている。ここで、リビング性の評価尺度の一つとして、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが分子量分布と称され、よく使用されている。この分子量分布Mw/Mnが1.10より小さいとき理想的なリビング重合が進行したとみなしてよい。Mw/Mnが1.10より大きいものはリビング性が低いと判断できる。
【0005】
アニオンリビング重合を利用した分子量分布が狭いアルコキシスチレン重合体の製造方法として、特公昭63−36602号公報には、sec−ブチルリチウムを重合開始剤として使用し、溶剤としてベンゼンを用いてp−tert−ブトキシスチレンモノマーをアニオン重合させたという記載がある。
該公報には肝心な重合温度、重合時間等の重合条件が全く記載されていないが、一般に、ベンゼン等の炭化水素溶媒中でのアニオンリビング重合の進行は遅いことが知られており、炭化水素溶媒を用いる場合には、反応促進のため、重合温度を高くするのが通常である。
しかしながら、p−tert−ブトキシスチレンモノマーは、スチレン部のビニル基だけでなくp位にtert−ブトキシ基を有するため、重合温度を高くすると、重合反応中に副反応が起こり、n−ブチルリチウムを使用した通常のアニオン重合は、現実には、単分散性が低い、すなわちリビング性が低いものになるという問題があった。さらに、sec−ブチルリチウムは、反応性には優れているが、アニオン重合で一般に使用されているn−ブチルリチウムに比べ価格が高いというコスト面での欠点を有し、しかも低温で保存しなければならないという取り扱い上の欠点も有する。
【0006】
また、該公報にはスチレンモノマーとp−tert−ブトキシスチレンモノマーを二段階で投入し、ブロック共重合させたという記載がある。しかしながら、該公報には分子量分布Mw/Mnに関する具体的な記述はなく、重合温度、重合時間等の重合条件が全く記載されていない。我々の実験ではスチレンモノマーとp−tert−ブトキシスチレンモノマーを二段階で投入しても副反応が起こり、分子量分布が狭いブロック共重合体は得られなかった。
【0007】
特開平3−277608号公報には、ナトリウムあるいはカリウムなどのアルカリ金属を重合開始剤として使用し、この開始剤を溶解させたTHF溶液にp−tert−ブトキシスチレンモノマーをゆっくり滴下しアニオン重合させて重合体を作製する方法が提案されている。また、該公報には開始剤を溶解させたTHF溶液にブタジエンモノマーをゆっくり滴下しアニオン重合させた後、p−tert−ブトキシスチレンモノマーをゆっくり滴下しアニオン重合させることによりブタジエンとp−tert−ブトキシスチレンとのブロック共重合体を作製する方法が提案されている。
しかしながら、この方法では分子量分布がMw/Mn=1.10より小さな分子量分布をもつ重合体、いわゆる単分散性重合体は得られない。さらに、一般に、THF等の極性溶媒中でのアニオンリビング重合の進行は速く、発熱を伴うため、極低温でモノマーを滴下するのが通常であるが、開始剤を溶解させたTHF溶液にモノマーを滴下するのに長時間を要し、重合を完結させるためにさらに長時間の反応を要するという欠点があった。
また、ナトリウムなどのアルカリ金属は保存性に問題があり、分散媒体中に溶解した酸素により、金属表面に酸化物が生成し活性が低下するという欠点があった。
【0008】
特開平6−298869号公報には、重合溶媒として炭化水素系溶剤を使用し、テトラヒドロフランを溶媒に対し、0.2〜10wt%添加し、sec−ブチルリチウムでアニオン重合する方法が提案されている。
しかしながら、この方法では数平均分子量Mnが10000以下の場合はMw/Mn=1.10以下の狭い分子量分布をもつ重合体が得られるものの、数平均分子量が10000以上の分子量をもつ重合体を得ようとすると、理由は定かではないが、分子量分布が広がり、リビング性が悪化するという欠点があった。
また、重合開始剤で使用しているsec−ブチルリチウムは、前述の通り、アニオン重合で一般に使用されているn−ブチルリチウムに比べ価格が高いというコスト面での欠点を有し、しかも低温で保存しなければならないという取り扱い上の欠点も有する。
【0009】
以上の通り、数平均分子量が10000以上で、狭い分子量分布を有するアルコキシスチレン重合体の製造方法は確立されていないのが現状である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の第一の目的は、アニオンリビング重合を利用して、数平均分子量で10000以上であり、分子量分布がMw/Mn=1.10以下の狭い分子量分布をもつアルコキシスチレン重合体を高収率で製造できるアルコキシスチレン重合体の製造方法を提供することにある。
本発明の第二の目的は、重合開始剤としてアニオン重合で一般に使用されているn−ブチルリチウムが使用できるアルコキシスチレン重合体の製造方法を提供することにある。
本発明の第三の目的は、アルコキシスチレンリビング重合体に他のモノマーを添加し、分子量分布がMw/Mn=1.10以下の狭い分子量分布をもつブロック共重合体を高収率で製造できるアルコキシスチレン重合体の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意検討の結果、上記目的を達成可能なアルコキシスチレン重合体の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、重合開始温度未満の温度で、溶媒に対し0.1〜10重量%のルイス塩基を含有する炭化水素溶媒中、アルコキシスチレンとアニオン重合開始剤を混合する工程と、該混合物を加温して重合させる工程とを有することを特徴とするアルコキシスチレン重合体の製造方法である。
【0012】
従来の製造方法においては、重合開始剤によって発生したアニオンの重合反応性を溶媒の極性を高めることによって上げてきたのであるが、アニオンの重合反応性が高くなると発熱が大きくなる。この反応時の発熱を抑制するためにはモノマーの添加速度を落とし、反応温度を低下させる必要がある。従って、従来の製造方法において、数平均分子量で10000以上であり、分子量分布がMw/Mn=1.10以下の狭い分子量分布をもつアルコキシスチレン重合体が得られていないのは、溶媒の極性を高めて、重合反応速度が速くなった場合には、個々のアニオンリビングの発生時間のずれが生じ、これが重合体の分子量分布に大きな影響を与えるためであると推察される。すなわち、重合体の分子量は反応時間に比例して大きくなり、先に発生したアニオンリビングはより大きな分子量の重合体を与えるのである。
【0013】
これに対し、本発明の特徴は、テトラヒドロフランのようなルイス塩基を存在させた炭化水素系溶媒にアルコキシスチレンモノマーを溶解させ、実質的に重合を開始させない温度でアニオン重合開始剤を添加した後、加温させて重合させる点にある。
すなわち、炭化水素系溶媒にルイス塩基を存在させることにより、アニオンの重合反応性を高め、また、重合開始温度よりも低温で、アルコキシスチレンモノマーと重合開始剤とを混合して均一な系とし、その後、昇温することにより、アニオンリビングを同時に発生させることができ、高分子量で、狭い分子量分布をもつアルコキシスチレン重合体が得られるものと考えられる。このように、アニオンリビングの発生時期を制御するという考え方は従来無かったものである。
【0014】
本発明のアルコキシスチレン重合体の製造方法は、理想的なリビングアニオン重合であり、本発明によれば、数平均分子量で10000以上の重合体を分子量分布がMw/Mn=1.10以下の極めて狭い分子量分布をもつ重合体として、高収率で製造することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
ルイス塩基としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチルエーテルなどのエーテル類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルピロリジンなどの三級アミン類を使用できる。この中でも、特にテトラヒドロフランの添加が効果的である。添加量は上記溶媒に対して0.1重量%以上10重量%以下、好ましくは0.5重量%以上5重量%以下である。
【0016】
溶媒中にはルイス塩基を添加する理由は、1983年発行のAdvancedPolymer Science第49巻に掲載されているMichaelSzwarcの論文「Living Polymers and Mechanism of Anionic Polymerization」の67〜68項に記載されているとおり、テトラヒドロフランのようなルイス塩基は、重合開始反応を速める効果があるからである。本発明においても、ルイス塩基を添加することにより、加温時の開始反応速度を促進させ分子量分布を狭くする効果がある。
【0017】
炭化水素系溶媒としては、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂肪族炭化水素系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素系化合物が利用できる。この中でも反応後に溶剤の再利用のしやすさから比較的沸点の低いメチルシクロヘキサン、トルエンが好ましい。
【0018】
本発明では、アルコキシスチレンをモノマーとしてリビングアニオン重合をさせる。本発明のアルコキシスチレンは下記一般式(1)で表され、
【0019】
【化1】
【0020】
式中、R1 ,R2 ,R3 は炭素数1〜12のアルキル基である。蒸留精製の容易さの点で、R1 ,R2 ,R3 は、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、具体的には、p−tert−ブトキシスチレン等の、常圧で300℃以下の沸点を有するアルコキシスチレンをモノマーとして使用するのが好ましい。
【0021】
本発明において、前記の一般式(1)で表されるアルコキシスチレンモノマーをアニオン重合させる際に使用する重合開始剤としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ナトリウムナフタレン、リチウムナフタレン、ナトリウムアントラセン、α−メチルスチレンテトラマーナトリウムなどリビングアニオン重合で使用されている公知の有機金属化合物が使用できるが、価格、取り扱いの面でn−ブチルリチウムを使用することがより好ましい。
【0022】
使用する溶媒、モノマーおよび添加剤は、重合に先だって不純物を除き、乾燥剤存在下で分留管等を用いて減圧蒸留した後、使用することが好ましい。乾燥剤としては、通常のアニオン重合で使用されている乾燥剤を使用できる。例えば、ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化カルシウム、モレキュラーシーブス、シリカゲル、活性アルミナ、五酸化リン、酸化バリウムなどが使用できる。
【0023】
本発明のアルコキシスチレン重合体の製造方法は、重合開始温度未満の温度で、ルイス塩基を含有する炭化水素溶媒中、アルコキシスチレンモノマーとアニオン重合開始剤を混合する工程(以下、混合工程という。)と、該混合物を加温して重合させる工程(以下、重合工程という。)とを有している。
【0024】
混合工程において、重合開始温度未満の温度とは、開始剤とアルコキシスチレンモノマーとが反応して活性種であるアルコキシスチリルアニオンが実質的に生成していない状態での温度をいい、アルコキシスチリルアニオンに起因する反応液の呈色がなく、無色透明状態にあるときの温度をいう。具体的には、たとえば、n−ブチルリチウムであれば、反応系を−50℃以下の温度、好ましくは−55℃以下の温度にする。
【0025】
混合の方法は、特に限定されるものではなく、アルコキシスチレンモノマーをルイス塩基を存在させた炭化水素系溶媒に溶解させ、ここにアニオン重合開始剤を添加してもよく、ルイス塩基を存在させた炭化水素系溶媒にアニオン重合開始剤を溶解させ、ここにアルコキシスチレンモノマーを添加してもよい。また、ルイス塩基を存在させた炭化水素系溶媒にアニオン重合開始剤を溶解させ、重合開始温度未満の温度で、アルコキシスチレンモノマーの一部を添加し、加温させたのち、残りのモノマーを添加して重合させることもできる。
【0026】
重合工程において、加温の温度、すなわち重合温度は、重合開始温度以上であれば特に制限はなく、反応時間との関係で、最適化される。具体的には、たとえば、n−ブチルリチウムであれば、−50℃以上の温度、好ましくは−20℃以上の温度まで加温し重合を行わせる。−50℃より低い温度では重合体の収率が悪くなる。
【0027】
アルコキシスチレンモノマーの濃度は、ルイス塩基を含有する炭化水素溶媒に対して1重量%以上50重量%以下、好ましくは5重量%以上40重量%以下である。50重量%を超えると、溶液粘度が増大し、副反応が生じ易くなり、1重量%より少ないと、生産性が低下するからである。
【0028】
また、水分、酸素等との反応を防止するために、重合は高真空下あるいは高純度の窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましい。
【0029】
重合の停止は水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の一般的な停止剤を反応系に添加すればよい。停止剤を添加するとアルコキシスチリルアニオンに起因する重合体溶液の紅茶色が一瞬にして消失するので停止したことが容易にわかる。さらに、ジクロロシラン、テトラクロロシランなどの多官能カップリング剤を使用すれば重合の停止と同時に重合体鎖の延長、分岐重合体の形成などをおこなうこともできる。
【0030】
重合反応停止後の重合体溶液はメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のモノマーは溶解するが重合体は溶解しにくい溶剤中にあけ、重合体を析出させて分離することができる。この操作の前に、停止後の重合体溶液をイオン交換水あるいは蒸留水等で洗浄し、微量のイオン性物質を除去することもできる。
【0031】
本発明のもう一つの特徴は、上記のように重合させたアルコキシスチレンが理想的なリビング重合体になっていることを利用してブロック共重合体を作製することにある。すなわち、アルコキシスチレンモノマーを、上記方法により重合させた後、重合の停止を行わないで、二番目のモノマーを添加してブロック共重合体を作製することにある。
アルコキシスチレンモノマーと共重合可能なモノマーとしては、1,3ブタジエン、イソプレンのごとき共役ジエン類、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−ブチルスチレンなどのビニル芳香族化合物類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類があげられる。
【0032】
本発明のアルコキシスチレン重合体は、上記製造方法により得られてなるものであり、数平均分子量で10000以上の重合体を分子量分布がMw/Mn=1.10以下の極めて狭い分子量分布をもつ重合体である。
【0033】
【実施例】
【0034】
(実施例1)
p−tert−ブトキシスチレンを10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、蒸留水でよく水洗した後、硫酸マグネシウムで予備乾燥させた。次に、硫酸マグネシウムをろ別し、水素化カルシウムを加えて減圧蒸留した。このようにして精製したp−tert−ブトキシスチレン28g(0.16モル)と、同じく水素化カルシウムを加えて還流した後、減圧蒸留して精製したトルエン150gおよび精製したテトラヒドロフラン0.60g(8.3×10-3モル)を窒素雰囲気下で、あらかじめ十分乾燥させた300mlのガラス製反応容器に入れた。この反応液を攪拌しながら−58℃まで冷却し、この中に濃度1.6モル/リットルのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬社製)1.2ml(1.9×10-3モル)を注射器で注入した。この時点では反応液は無色透明であった。次にこの反応系を−15℃まで加温したところ、反応液は−55℃から−50℃の間で淡黄色に呈色し続いて紅茶色に変わった。このまま−15℃で3時間反応させた後、メタノールを加えて反応を停止させた。メタノールを添加すると反応液の紅茶色が一瞬にして消失した。この反応液をイソプロパノールにあけ、白色重合体を析出させた。この白色重合体をろ別した後80℃で真空乾燥させ、27gのp−tert−ブトキシスチレン重合体を得た(収率96%)。GPC溶出曲線から分子量および分布を求めたとこMn=15000、Mw/Mn=1.04であり、きわめて単分散性の高いものであった。
【0035】
(実施例2)
実施例1と同様に、精製乾燥したトルエン150gおよびテトラヒドロフラン0.60g(8.3×10-3モル)を500mlのガラス製反応容器に入れた。攪拌しながらこの反応系を−78℃まで冷却し、1.6モル/リットルのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬社製)1.2ml(1.9×10-3モル)を反応系に注射器で注入した。続いて実施例1と同様に精製したp−tert−ブトキシスチレン5g(2.8×10-2モル)を注射器で注入した。この時点では反応系は無色透明であった。次にこの反応系を−40℃まで加温したところ、反応液は−55℃から−50℃の間で淡黄色に呈色し続いて紅茶色になった。−40℃に保持したまま、追加のp−tert−ブトキシスチレン20g(0.11モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、−15℃でさらに3時間反応させた後、メタノールを加えて反応を停止させた。この反応液を200gのイオン交換水で洗浄した後、トルエン層をイソプロパノール中にあけ白色重合体を析出させた。この白色重合体をろ別した後80℃で真空乾燥させ、24gのp−tert−ブトキシスチレン重合体を得た(収率96%)。GPC溶出曲線から分子量および分布を求めたところMn=13000、Mw/Mn=1.06であり、きわめて単分散性の高いものであった。
【0036】
(比較例1)
1.6モル/リットルのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬社製)1.2ml(1.9×10-3モル)を−78℃で反応系に注入し、そのまま−78℃で反応させた以外は実施例1と全く同様に反応させた。この反応液をイソプロパノールにあけたところ、重合体は析出しなかった。
【0037】
(比較例2)
1.6モル/リットルのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬社製)1.2ml(1.9×10-3モル)を−15℃で反応系に注入し、そのまま−15℃で反応させた以外は実施例1と全く同様に反応させたところ、26gのp−tert−ブトキシスチレン重合体を得た(収率93%)。GPC溶出曲線から分子量および分布を求めたとこMn=22000、Mw/Mn=1.24であり、分子量分布は広いものであった。
【0038】
(比較例3)
実施例1と同様にして精製したp−tert−ブトキシスチレン28g(0.16モル)と、精製したテトラヒドロフラン150gを窒素雰囲気下で、あらかじめ十分よく乾燥させた300mlのガラス製反応容器に入れた。この反応系を攪拌しながら−78℃まで冷却し、この中に1.6モル/リットルのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬社製)1.2ml(1.9×10-3モル)を注射器で注入した。この時点で反応液はオレンジ色に変わった。次にこの反応系を−15℃まで加温し3時間反応させた後、メタノールを加えて反応を停止させた。この反応液をイソプロパノールにあけ、白色重合体を析出させた。この白色重合体をろ別した後80℃で真空乾燥させ、27gのp−tert−ブトキシスチレン重合体を得た(収率96%)。GPC溶出曲線から分子量および分布を求めたところMn=33000、Mw/Mn=1.89であり、単分散性の低いものであった。
【0039】
(比較例4)
p−tert−ブトキシスチレンを10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、蒸留水でよく水洗した後、硫酸マグネシウムで予備乾燥させた。次に、硫酸マグネシウムをろ別し、水素化カルシウムを加えて減圧蒸留した。このようにして精製したp−tert−ブトキシスチレン28g(0.16モル)と、同じく水素化カルシウムを加えて還流した後、減圧蒸留して精製したベンゼン150gおよび精製したテトラヒドロフラン0.60g(8.3×10-3モル)を窒素雰囲気下で、あらかじめ十分乾燥させた300mlのガラス製反応容器に入れた。この反応液を攪拌しながらベンゼンの融点(5.5℃)に近い7℃まで冷却し、この中に濃度12重量%のsec−ブチルリチウムヘキサン溶液(ケメタジャパン社製)1.6ml(1.9×10-3モル)を注射器で注入した。このまま7℃で3時間反応させた後、メタノールを加えて反応を停止させた。メタノールを添加すると反応液の紅茶色が一瞬にして消失した。この反応液をイソプロパノールにあけ、白色重合体を析出させた。この白色重合体をろ別した後80℃で真空乾燥させ、27gのp−tert−ブトキシスチレン重合体を得た(収率96%)。GPC溶出曲線は、鋭いピークの他に、いくつかのピークが存在しており、得られたポリマーは多分散性であることが分かった。GPC溶出曲線から分子量および分布を求めたとこMn=38000で、{モノマー量(モル)/開始剤量(モル)}×(モノマーの分子量)から計算される分子量より大きかった。このように、ベンゼン中で、sec−ブチルリチウムを使用して重合すると理想的なリビング重合にはならなかった。
【0040】
(実施例3)
実施例1と同様にして精製したp−tert−ブトキシスチレン28g(0.16モル)、トルエン150gおよびテトラヒドロフラン0.60g(8.3×10-3モル)を窒素雰囲気下で、あらかじめ十分乾燥させた300mlのガラス製反応容器に入れた。この反応系を攪拌しながら−58℃まで冷却し、この中に1.6モル/リットルのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬社製)1.2ml(1.9×10-3モル)を注射器で注入した。この時点では反応液は無色透明であった。次にこの反応系を−15℃まで加温したところ、反応液は−55℃から−50℃の間で淡黄色に呈色し続いて紅茶色に変わった。このまま−15℃で3時間反応させた後、一旦、−58℃まで下げ、この中に精製したスチレンモノマー17g(0.16モル)を入れ再び−15℃で3時間反応させた。反応終了後、メタノールを加えて反応を停止させた。メタノールを添加すると反応液の紅茶色が一瞬にして消失した。この反応液をイソプロパノールにあけ、白色重合体を析出させた。この白色重合体をろ別した後80℃で真空乾燥させ、44gのp−tert−ブトキシスチレンとスチレンからなるブロック重合体を得た(収率98%)。GPC溶出曲線から分子量および分布を求めたところMn=24000、Mw/Mn=1.09であり、きわめて単分散性の高いものであった。
【0041】
(比較例5)
1. 6モル/リットルのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(和光純薬社製)1.2ml(1.9×10-3モル)を−15℃で反応系に注入し、そのまま−15℃で反応させた以外は実施例3と全く同様に反応させたところ、32gのp−tert−ブトキシスチレン重合体スチレンブロック共重合体を得た(収率71%)。GPC溶出曲線から分子量および分布を求めたとこMn=42000、Mw/Mn=1.28であり、分子量分布は広いものであった。
【0042】
以上の実施例と比較例の結果を分子量(数平均分子量Mn)の設計値とともに表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1、2から、本発明の製造方法によれば、理想的なアニオンリビング重合を行うことができ、数平均分子量で10000以上であり、分子量分布がMw/Mn=1.10以下の狭い分子量分布をもつアルコキシスチレン重合体を高収率で製造できることが分かる。また、その製造方法においては、n−ブチルリチウムを使用できることが分かる。一方、重合開始温度未満の温度(n−ブチルリチウムの場合は−78℃)のままでは、重合反応は全く進行せず(比較例1)、重合開始温度以上の温度で、アルコキシスチレンとアニオン重合開始剤を混合した場合には、分子量分布が拡がってしまい(比較例2)、反応溶媒を極性溶媒であるTHFのみにした場合は、単分散性が低下する(比較例3)。また、特公昭63−36602号公報にあるように、ベンゼン中で、sec−ブチルリチウムを使用して重合すると、理想的なリビング重合にはならず、多分散性であった(比較例4)。
【0045】
実施例3から、本発明の製造方法によれば、アルコキシスチレンリビング重合体に他のモノマーを添加することで、分子量分布がMw/Mn=1.10以下の狭い分子量分布をもつブロック共重合体を高収率で製造できることが分かる。一方、重合開始温度以上の温度で、アルコキシスチレンとアニオン重合開始剤を混合した場合には、分子量分布が拡がってしまうことが分かる(比較例5)。
【0046】
【発明の効果】
本発明のアルコキシスチレン重合体の製造方法は、理想的なリビングアニオン重合であり、数平均分子量で10000以上の重合体を分子量分布がMw/Mn=1.10以下の極めて狭い分子量分布をもつ重合体として、高収率で製造することができる。すなわち、本発明の製造方法はきわめて高いリビング性を有しており、製造しようとする重合体の分子量あるいはブロック共重合体の各セグメントの分子量を{モノマー量(モル)/開始剤量(モル)} ×(モノマーの分子量)で計算される分子量に制御できる。したがって、本発明の製造方法によれば、高い精度で所望の分子量をもつ重合体を作製することができる。
また、使用する重合開始剤としては、アニオン重合で一般に使用されているn−ブチルリチウムを使用することができ、価格と取り扱いの面で欠点をもつsec−ブチルリチウムを使う必要が無い。
また、本発明はあらかじめ開始剤を溶解させた反応液にモノマーを滴下しながら反応を進行させる方法だけでなく、あらかじめモノマーを溶解させた反応液に開始剤を投入して一気に反応させる方法も適用できるので、反応を短時間で完結することができる。
さらに、本発明の製造方法では、モノマーを消費した後も重合活性を持ついわゆるリビング重合体ができるので、他のモノマーを反応系に追加投入してブロック重合体を容易に作製することができる。
Claims (7)
- 重合開始温度未満の温度で、溶媒に対し0.1〜10重量%のルイス塩基を含有する炭化水素溶媒中、アルコキシスチレンとアニオン重合開始剤を混合する工程と、該混合物を加温して重合させる工程とを有することを特徴とするアルコキシスチレン重合体の製造方法。
- 前記混合物を加温して重合する工程の後に、他のモノマーを追加して、ブロック共重合を行うことを特徴とする請求項1に記載のアルコキシスチレン重合体の製造方法。
- 前記ルイス塩基が、テトラヒドロフランであることを特徴とする請求項1または2に記載のアルコキシスチレン重合体の製造方法。
- 前記アニオン重合開始剤がn−ブチルリチウムであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載のアルコキシスチレン重合体の製造方法。
- 前記アニオン重合開始剤がn−ブチルリチウムであり、−55℃以下の温度でアルコキシスチレンとn−ブチルリチウムとを混合することを特徴とする請求項4に記載のアルコキシスチレン重合体の製造方法。
- 前記混合物を加温して重合させる工程において、該重合を−50℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載のアルコキシスチレン重合体の製造方法。
- 得られるアルコキシスチレン重合体の数平均分子量が10000以上であることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一項に記載のアルコキシスチレン重合体の製造方法。
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