JP3866409B2 - インフレーションフィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インフレーションフィルムの製造方法に関するものであり、より詳しくは、引張強度等の力学的性質や、膜厚等を幅広い範囲にわたって調整できるインフレーションフィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子量ポリオレフィンは、汎用のポリオレフィンに比べ、耐衝撃性、耐摩耗性、耐薬品性、引張強度等に優れており、エンジニアリング樹脂としてその用途が拡がりつつある。しかしながら、汎用のポリオレフィンに比較して溶融粘度が極めて高く、流動性が悪いため、高分子量ポリオレフィン単体では、汎用ポリオレフィン用の成形機での成形加工が困難である。
【0003】
このため、本出願人は、本発明に先立って、高分子量ポリオレフィンに多量の可塑剤を混合して押出成形し二軸延伸フィルムを製造する方法(特公平4−16330号公報)を提案した。しかしながら、この方法では用途によっては、得られたポリオレフィンフィルムから可塑剤を抽出する必要がある。
【0004】
さらに本出願人は、可塑剤を必ずしも用いる必要がない方法として、マンドルが押出機のスクリューの回転に伴って回転するチューブダイを用いてインフレーションフィルムを製造する方法(特公平6−55433号公報)を提案した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、この方法では、押し出されるチューブ状のフィルムが横向きになるために、上部が薄く、下部が厚くなり易く、上部と下部とで偏肉を生じ易いという問題がある。また、生産速度を上げるためには、スクリューの回転に応じてマンドレルの回転数を上げざるを得ず、その結果、摩擦により樹脂が劣化するという問題も派生する。さらに、樹脂のフライトマークを消すためにマンドレルを長くせざるを得なくなるという問題もある。
しかも、種々の用途に応じて最適なインフレーションフィルムを提供できるようにするためには、得られるインフレーションフィルムの引張強度、衝撃強度等の力学的性質や、膜厚等を幅広い範囲にわったって調整できるようにすることが要請される。
【0006】
かかる技術的課題を踏まえて、その解決を図るべく研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂を、特定の温度条件下で押出機で溶融し、次いでマンドレルが押出機のスクリューと独立して回転する少なくともL/Dが5のスクリューダイを用い、マンドレルの回転数を可及的に低速にすることで、引張強度や衝撃強度等の力学的性質、及び縦延伸倍率や膜厚等を広い範囲にわたって調整し得ること、ならびに、従来のフィルム製造方法に比べて分子量の低下の少ないインフレーションフィルムを成形し得ることを知見し、そのことに起因して高分子量ポリオレフィンの優れた物性を保持し得る事実を確認し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【発明の目的】
そこで、本発明の目的は、インフレーションフィルムの引張強度、衝撃強度等の力学的性質、及び縦延伸倍率や膜厚等を幅広い範囲にわたって調整できるインフレーションフィルムの製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために提案されたものであって、マンドレルが押出機のスクリューと独立して回転する少なくともL/Dが5のスクリューダイを用い、マンドレルの回転数を可及的に低速にすることを可能にした装置を用いて特定の温度条件のもとにインフレーションフィルムを成形することに重要な特徴があり、これによって得られたインフレーションフィルムは、成形時に分子量の低下が抑制されるために、引張強度等に優れると共に、実質的に厚みむらのない優れた特性を有するものである。
【0009】
すなわち、本発明によれば、極限粘度[η]が4ないし10dl/gの高分子量ポリエチレンを、成形温度が、該高分子量ポリオレフィンの融点Tm(℃)に対して、
Tm+1.5[η]2 −7.4[η]+65
によって計算される温度(℃)を上回らないように、押出機で溶融し、次いでマンドレルが押出機の第1スクリューと独立して回転する少なくともL/Dが5以上の第2スクリューをもつスクリューダイから前記溶融状態の高分子量ポリオレフィンを押し出した後、この押し出しにより形成された溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込むことを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、前記第1スクリューと第2スクリューの回転数がそれぞれ可変自在であって、かつ、第2スクリューの回転数を第1スクリューの回転数よりも低く設定した上記インフレーションフィルムの製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、前記高分子量ポリオレフィンが、高分子量ポリエチレンであるインフレーションフィルムの製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、前記インフレーションフィルムの厚さが10ないし1000μmであるインフレーションフィルムの製造方法が提供される。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、特定の温度条件下で溶融された高分子量ポリオレフィンを押し出す、少なくともL/Dが5のスクリューダイが、押出機のスクリューと独立して回転することを重要な特徴とするインフレーションフィルムの製造方法を提供するものである。
【0016】
すなわち、このインフレーションフィルムの製造方法は、第2スクリューを持つスクリューダイのマンドレルが、押出機の第1スクリューと独立して回転するので、第2スクリューダイの口径を大きくして第2スクリューの回転数を第1スクリューの回転数よりも低速化することが可能であり、マンドレルと樹脂の摩擦熱による樹脂の熱劣化を防止できる。
その結果、インフレーションフィルムの引張強度(縦方向、横方向とも)、衝撃強度等の力学的性質や、縦延伸倍率、膜厚等を幅広く調整できるインフレーションフィルムを製造できるようになる。
なお、スクリューダイから押出されたチューブ状のフィルム内部には、気体が吹き込まれ、チューブ状のフィルムが膨張し、同時に延伸・冷却されて完成品としてのフィルムとなる。
【0017】
本発明においては、アウターダイ入口部20Aからスクリューダイ出口20Cまでの長さと、スクリューダイ出口20Cにおけるアウターダイ22の内径との比、つまり、スクリュダーイのL/Dが5以上、好ましくは5ないし70、より好ましくは10ないし30であることが重要である。L/Dが5未満のスクリューダイでは、ダイより押出される前に熱可塑性樹脂が完全に均一融合された溶融物とならないため、ダイから押出されたチューブ状フィルムの内部に空気を吹き込んだ際にチューブが均一に膨らまなかったり、破れたりして良好なフィルムが得られないことがある。
一方、L/Dの上限は、特に限定されないが、実用上70以下が好ましい。L/Dが30以下のスクリューダイを用いた場合は、ダイ内の溶融樹脂に歪みが残留することによりチューブが破れたりすることが少なく、良好なフィルムを安定的に得られるために、より好ましい。なお、スクリューダイのL/Dは生産性と相関関係があり、L/Dが大きい方が成形速度を上げることができる。
【0018】
また、本発明において、高分子量ポリオレフィンの成形温度は、原料として用いる高分子量ポリオレフィンの極限粘度[η]に応じて次式
Tm+1.5[η]2 −7.4[η]+65
で計算される温度を上回らないこと、より好ましくは、
Tm+1.5[η]2 −7.4[η]+60
で計算される温度を上回らないことが望ましい。
すなわち、上式は、高強度の高分子量ポリエチレンインフレーションフィルムを成形するための上限となる成形温度を、高分子量ポリエチレンの融点Tmと極限粘度[η]に関する式で表すもので、実験的に求められたものである。したがって、これを越える温度で押出成形すると、樹脂の劣化が激しくなり、極限粘度[η]が大きく低下し、得られるフィルムの機械的物性が悪化する。さらに、押出成形温度よりもかなり低温のスクリューダイ出口温度は、フィルムの成膜性から決まるものであるから、押出成形温度が高いとダイ出口までの間に長い冷却ゾーンが必要となり、成形速度が上げられなかったり、より大型の装置が必要となったりする。
【0019】
一方、成形温度の下限としては、その高分子量ポリオレフィンの融点Tm(℃)、好ましくはTm+20℃、さらに好ましくは次式
Tm+0.67[η]2 −2.6[η]+20
で計算される温度(℃)である。押出成形温度が融点よりも低い場合、ダイ内での樹脂の閉塞現象が生じ易くなり、装置破損の原因となる。また、押出成形温度が融点以上であっても、上式で計算される温度よりも低くなり過ぎると、スクリューのフライトマークが消えにくくなり、成形性が悪化する傾向が見られる。
【0020】
チューブ状フィルムの内部に吹き込む上記の気体は通常空気であるが、窒素等を用いてもよい。また、溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込む場合には、膨比は6以上、好ましくは7ないし20倍、特に、7ないし12倍とするのが好ましい。
【0021】
膨比が6未満では、横方向(TD)の厚みが不均一になる傾向があるばかりでなく、横方向の配向結晶が小さいために、引張強度、衝撃強度等の機械的物性を向上させることが困難となる場合があり、一方、膨比が20倍を越えると、フィルムが白濁したり、破裂現象を生じる傾向にある。
【0022】
本発明においては、縦延伸倍率を7以上、好ましくは7ないし50倍、特に8ないし40倍とすることが好ましい。
縦延伸倍率が7倍未満では、バルーン(膨張チューブ)が揺れる傾向があり、結果的に縦方向(MD)、横方向(TD)の厚みが不均一になるばかりでなく、機械的特性のバラツキが大きくなることがある。一方、縦延伸倍率が40倍を越えると、フィルムが破裂現象を生じる傾向がある。
【0023】
本発明において、膨比とは、スクリューダイ出口における膨張前のチューブの円周長さと、膨張後のチューブの円周長さとの比をいい、縦延伸倍率とは、ダイからの樹脂の流出速度(線速度)に対するピンチロールの引き取り速度の比をいう。
【0024】
膨張させたフィルムの冷却は、フィルムの外部をブロアー(送風機)を具備したエアーリングから均一に吹き出されるエアーによって行うか、又はフィルムに密着する水冷あるいは空冷式の冷却リングによって行うこともできる。冷却後のフィルムは常法、すなわち、安定板で次第に折りたたまれ、次にピンチロールで2枚合わせのフラットなフィルムになり、製品巻取機に巻き取られる。
なお、本発明によって得られたフィルムは、予めヒートセットしておくことにより熱収縮率を10%未満程度に下げることができる。
【0025】
前記超高分子量ポリオレフィンとしては、デカリン溶媒中135℃で測定した極限粘度[η]が4ないし12dl/g、好ましくは4ないし9dl/g、さらに好ましくは5ないし9dl/gである高分子量ポリオレフィンが用いられる。
【0026】
極限粘度が4dl/g未満のものは、引張強度、衝撃強度等の機械的強度が充分でない。また、溶融粘度が低いため、スクリューダイ中で超高分子量ポリオレフィンの溶融物とマンドレルの共廻りによるねじれや、マンドレルの撓みによる偏肉が生じ易く均一なフィルムが得られ難く成形性が劣る。
極限粘度[η]の上限は、10dl/g、好ましくは9dl/gである。極限粘度が10dl/gを越えるものは、溶融粘度が高いため、押出成形温度を上げざるをえず、その結果、前記したように、樹脂の劣化が激しくなり、極限粘度[η]が大きく低下し、得られるフィルムの機械的物性が悪化する。さらに、ダイ出口までの間に長い冷却ゾーンが必要となり、成形速度が上げられなくなり、より大型の装置が必要となる。
【0027】
本発明で用いられる高分子量ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレンおよび炭素数4ないし8のα−オレフィンを、例えばチーグラー系触媒を用いたスラリー重合により、単独もしくは二つ以上の組み合わせで重合して得られる。好ましい共重合体はエチレンと少量のプロピレンもしくは炭素数4ないし8のα−オレフィンの単独ないし二つ以上の組み合わせによる共重合体である。エチレン共重合体の場合、共単量体の量は5モル%以下が好ましい。
これらの中で特に好ましいのはエチレンの単独重合体である。高分子量ポリエチレンは、直鎖状の分子構造を有しているので、成形されたインフレーションフィルムを延伸加工することにより、さらに高強度、高弾性の繊維とすることが可能である。本発明によって製造される超分子量ポリエチレンのインフレーションフィルムの好ましい極限粘度[η]は4dl/g以上である。
【0028】
本発明に用いられるインフレーションフィルムの製造装置は、押出機に連結されるスクリューダイに特徴を有するものである。
すなわち、本発明のスクリューダイは、第1スクリューとは別個に第2スクリューを備えており、この第2スクリュー先端に連結されたマンドレルが第2スクリューの回転と共に回転するように構成されており、しかも、押出機の第1スクリューと第2スクリューとが任意の回転数で独立して回転し、第2のスクリューの回転数を第1スクリューの回転数よりも低く設定できるようになっている。この構成を有することによって、前述した請求項1と同様の作用により、インフレーションフィルムの引張強度、衝撃強度等の力学的性質や、縦延伸倍率、膜厚等を幅広い範囲にわたって調整できるようになる。
【0029】
また、このインフレーションフィルムの製造装置には、マンドレルの先端に安定棒を設けることにより、パイプ状に押出された溶融状態の高分子量ポリオレフィンの、エアーリングから吹き出されるエアーの圧力による横揺れが防げるので、膨張したフィルムの膜厚精度が一層向上する。本発明の装置を用いて製造されたインフレーションフィルムの円周方向の膜圧の最大値と最小値の差は、10μm以下である。
【0030】
本発明に係るインフレーションフィルムの製造装置を図面に基づいて説明する。図1に示す如く、溝付シリンダー2と、圧縮比が1ないし2.5、好ましくは、1.3ないし1.8の範囲の第1スクリュー3とを有する押出機1を備えており、この第1スクリュー3の先端部には、トーピド10がネジによって連結されている。このトーピド10は、第1スクリュー3の先端部で樹脂が滞留するのを防ぐため、円錐状に形成することが好ましい。
【0031】
また、トーピド10の先端、すなわち、溶融樹脂の流れ方向下流側には、スクリューダイ20が、その軸線をトーピド10の軸線方向と直交する方向へ向けた状態で設けられている。このスクリューダイ20は、トーピド10と対向する位置に第2スクリュー21を備えており、この第2スクリュー21は、駆動手(図示せず)によって、第1スクリュー3とは、独立に回転されるようになってい
る。
【0032】
また、第2スクリュー21は、略円柱状のスペースが形成された中空状のアウターダイ22を備えており、このアウターダイ22のスペースにマンドレル23が挿通されている。上記中空状のアウターダイ22は、図1の上方へいくに従って、次第に縮径していてもよいし、縮径していなくてもよい。
このマンドレル23は第2スクリュー21の先端部(上端部)に固着されており、第2スクリュー21と共に回転されるようになっている。
【0033】
また、第2スクリュー21の内部及びマンドレル23の内部には気体流路24が形成されている。この気体流路24は、第2スクリュー21の下端から金属シャフトを通って安定棒26の先端まで形成されている。
【0034】
なお、上記インフレーションフィルムの製造装置では、溝付きシリンダー2の溝部2Aにより、超高分子量ポリオフィン粉末が押出機前方へ安定して供給されるようになっている。
上記のスクリューダイ20は、L/Dが5以上、好ましくは5ないし70、より好ましくは10ないし30であり、第2スクリュー先端部20Aの樹脂流路の断面積S1 とスクリューダイ中間部20Bの樹脂流路の断面積S2 との比(S1 /S2 )が0.5ないし2.0、好ましくは0.8ないし1.5とされる。また、前記S2 とスクリューダイ出口20Cの樹脂流路の断面積S3 との比(S2 /S3 )が1.5ないし10.0、好ましくは1.5ないし6.0、さらに好ましくは1.5ないし3.0の範囲にある。
【0035】
また、S1 /S2 は、0.5ないし2.0の範囲であれば特に問題はないが、S2 /S3 の比が1.5未満では、溶融樹脂が完全に均一状態にされず、一方、10を越えると、樹脂圧が過大となり、チューブ状フィルムの押出成形が困難となる。
【0036】
スクリューダイ20の流路は前述の如く、基本的には、スクリューダイ出口20Cに向かって流路面積が狭くなる。すなわち、テーパダイであるが、スクリューダイ上端部(20Cより上部)は、流路面積が変化しない、いわゆるストレートであることが成形品の寸法精度および寸法安定性を高度に保持することができるので好ましい。なお、ストレート部は、L/Dが0.1ないし5.0、好ましくは0.5ないし3.0である。
【0037】
本発明に用いられるインフレーションフィルムの製造装置は、前記構成を備えていることが重要な特徴であり、スクリューダイ20の下流側には、スクリューダイ20から押し出されたパイプ状のパリソン30をエアリング25で冷却した後、気体流路24を通して、空気等の気体により膨比7倍以上に膨張させ、厚さ10ないし1000μm、好ましくは10ないし100μmのインフレーションフィルム31とし、それを折り畳んだ後引取る安定板、ピンチロール、引取機(いすれも図示せず)等、公知のインフレーションフィルム成形機が具備する装置を備えている。
【0038】
また、必要に応じて、アウターダイ22の上端部内方へ安定棒26が、エアーリング25、さらには、防風筒27を挿通した状態に設けられており、安定棒26は、金属シャフトとシャフトに遊嵌されたパイプ形状物から構成され、金属シャフトは、マンドレルの先端とネジにより連結されている。金属シャフトは第2スクリュー21の回転に同調して回転するが、パイプ形状物はシャフトに遊嵌されているので、パイプ形状物の外表面に接触しながら直線的に押出されるパリソン30をねじることはない。
【0039】
上記インフレーションフィルムの製造装置の押出機1から押出された溶融樹脂は、スクリューダイ20の第2スクリュー21に受け止められる。また、上記第2スクリュー21の回転数は押出機1の図1に示す圧力計11で示される圧力の値が一定範囲となるように設定されている。スクリューダイ20から押出された溶融状態のパリソン30は、押出し速度よりも速い速度で引き取られる。次いで、気体流路を経て安定棒の先端から放出される気体により所定の膨比に膨張されてインフレーションフィルムが得られる。
【0040】
本発明によって得られるフィルムは、縦方向(MD)および横方向(TD)の引張強度が750kg/cm2 を越え、好ましくは1000kg/cm2 以上、さらに好ましくは1050kg/cm2 を越え、厚みが10ないし1000μm、好ましくは10ないし100μmで、R値が10μm以下である。
【0041】
ここで、縦方向(MD)とはフィルムの引き取り方向を言い、横方向(TD)とはそれに直交する方向である。
また、R値とは、フィルムの厚みのバラツキを示す指標であって、インフレーションフィルムの厚みを横方向で等間隔に32点で測定した時の最大値と最小値の差を示すものである。
【0042】
このフィルムは、成形時に分子量の低下を低く抑えるために、超高分子量ポリオレフィンの高強度物性を発現することができるものであり、かつ、成形物であるインフレーションフィルムの膜厚の最大値と最小値の差が10μm以下という、実質的に厚みむらのないインフレーションフィルムが提供されるものであり、この点で、従来の高分子量ポリオレフィンのフィルム成形法に比べて顕著性がある。
【0043】
本発明によって得られる超高分子量ポリオレフィンインフレーションフィルムの用途としては、サイロ、ホッパー、シュート等のライニング材、アルカリ電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の非水電解質電池および電解質電池用セパレータ、ロール、パイプ、鋼管等の被覆用収縮フィルム、食品包装用等の包装フィルム、包装用バック、包装用容器、ヘルメット、セイルボード、スキー滑走面等のスポーツ用品などが例示され、その他、具体的には、スライディングテープ、スラストワッシャー、すべりシート、ガイド、ドクターナイフ、カセットテープライナー、カセットテープ用スリットシート、耐極低温性袋、熱収縮性フィルム、低温保存用バック、包装用テープ、高強度延伸糸用原糸、コンデンサーフィルム、絶縁フィルム、回路基板用フィルム、ポリオレフィン被覆ゴムロール、食品充充填パック、血液パック、スプリットヤーン、登山用ロープ、織布、延伸テープ、血小板凍結防止用フィルター、帆布、防爆シート、切傷防止用保護衣、安全手袋、重布、電気ケーブル、テンションメンバー、スピーカー振動板、装甲板、レーダードーム、不織布、、合成紙、屋外展示物用印刷紙、航空便用封筒、水分吸収剤、酸素吸収剤等の包装材料、通気性包装体、滅菌・殺菌包装材料、医療用基布、医療用器具の包装材料、水分調節物品のシール・包装、分離膜、各種フィルター等のろ過材、フィルターの担持体、農業用ハウス、マルチフィルム等の農業用フィルム、グリーンフィルム、エレクトレットフィルム、ハウスラップ等の建築用資材等を例示することができる。
【0044】
【実施例】
以下に実施例によって本発明を説明する。この実施例は、本発明の好適な態様を説明するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
図1に示すインフレーションフィルムの製造装置において、以下の仕様による装置を用いて高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを製造した。
装置の仕様
押出機の第1スクリュー外径50mmφ、
スクリュー有効長さ1100mm、
フライトピッチ30mm一定、
スクリュー圧縮比1.8、
押出機に対して立設してなるスクリューダイ有効長さ1490mm(L/D=28)、
ダイ出口アウターダイ内径53mmφ、ダイ出口マンドレル外径45mmφ、
S1 /S2 =1.17、
S2 /S3 =3.14、
スクリューダイの第2スクリュー外径70mmφ、
第2スクリュー有効長さ238mm、
フライトピッチ25mm一定、
第2スクリュー圧縮比1.0、
安定棒の外径39mmφ、
安定棒長さ600mm、
第2スクリュー内部、マンドレル内部及び安定棒シャフト内部に延在してなる8mmφの気体流路、安定板、ピンチロール及び製品巻取機を具備している。
【0046】
<インフレーションフィルムの製造>
高分子量ポリエチレン[η]:8.2dl/g、融点:136℃、嵩密度:0.45g/cm3 の粉末樹脂を用い、押出機、図1に示すジョイント部(J)、ダイ基部(D1)及びダイ先端部(D2)の設定温度を各々200℃、180℃、160℃、160℃にし、第1スクリュー回転数を21rpm、第2スクリュー回転数を4.5rpmに設定し、ピンチロールで6.5m/mimの速度で引取りながら、第2スクリュー内部、マンドレル及び安定棒シャフトの内部に延在してなる8mmφの気体流路から圧搾空気を吹込んで、パリソンをアウターダイ内径53mmφの8.5倍に膨らませて、折り幅710mm、厚み17μmからなる高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを安定して製造した。
【0047】
<実施例2>
引取速度を4.6m/min、厚み25μmにした以外は実施例1の条件で高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
【0048】
<実施例3>
引取速度7.7m/min、厚み15μmにした以外は実施例1の条件で高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
【0049】
<実施例4>
高分子量ポリエチレンを[η]:5.1dl/g、融点:136℃、嵩密度:0.48g/cm3 の粉末樹脂、押出機設定温度180℃、引取速度7.7m/min、厚み14μmとした以外は実施例1の条件で高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
【0050】
<実施例5>
実施例1において用いたインフレーションフィルムの製造装置において、押出機に対して立設してなるスクリューダイ有効長さ940mm(L/D= 14)、
ダイ出口アウターダイ内径66mmφ、ダイ出口マンドレル外径58mmφ、
S1 /S2 =1.55、
S2 /S3 =1.87、
に変更し、さらに製造方法において、
第2スクリュー回転数を2.2rpm、
ピンチロールの速度を7.4m/mim、
アウターダイ内径66mmφの7.5倍に膨らませて、折り幅780mm、厚み13μmに変更したほかは、実施例1と同等にして高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを3000m連続して製造したが、破膜などのトラブルは起こらなかった。
【0051】
<比較例1>
高分子量ポリエチレンを[η]:14.1dl/g、融点:136℃、嵩密度:0.46g/cm3 の粉末樹脂、設定温度が押出機/ジョイント部/ダイ基部/ダイ先端部について360℃/250℃/200℃/170℃、第1スクリュー回転数10.5rpm、第2スクリュー回転数2.25rpm、引取速度3.8m/min、厚み14μmとした以外は実施例1の条件で高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
なお、この方法において、吐出量を4.5よりも上げようとすると、第2スクリューのフライトマークが消えないため、パリソンの伸びが少なく、フィルムにならなかった。
【0052】
<比較例2>
押出機設定温度を230℃にした以外は比較例1と同様の条件で14μmのフィルムの成形を試みたが、第2スクリューのフライトマークが消えないため、パリソンの伸びが悪くフィルムにならなかった。
【0053】
<比較例3>
設定温度が押出機/ジョイント部/ダイ基部/ダイ先端部について320℃/250℃/200℃/160℃、第1スクリュー回転数10.5rpm、第2スクリュー回転数2.25rpm、引取速度3.3m/minとした以外は実施例1の条件で高分子量ポリエチレン製インフレーションフィルムを成形した。
次いで、これらの該フィルムの物性を以下の方法で評価した。
【0054】
実施例1ないし5、比較例1ないし3で得られた結果を表1に示す。
なお、実施例1ないし4で得られたインフレーションフィルムのR値の測定値は、すべて10μm以下であった。
【0055】
(1) 引張強度(MD:機械方向)、引張強度(TD:機械交差方向)の各値は、以下の条件下で得られた引張強度(TS:kg/cm2 )の値である。
引張試験:試験片形状 JIS K6781
チャック間:86mm
引張速度:200mm/min
温 度:23℃
(2) フィルムの厚みは、以下の条件で測定された値(μm)である。
測定装置:東洋精機製測厚器 デジシックネステスター
検出能力1μm(検出精度2μm)
測定方法:フィルム円周方向(TD)を等間隔に32点測定し、その平均値を厚みとし、最大値と最小値の差をR値とした。
規 格:JIS Z1702
圧 子:5mmφ
荷 重:125g
測定圧:0.637kg/cm2
温 度:23℃
(3) 成形上限温度は、ポリエチレンの極限粘度[η]とTmより、下記計算式により求め、この値を押出機設定温度と比較する。
Tm+1.5[η]2 −7.4[η]+65
(4) 本願明細書中における極限粘度[η]は、デカリン溶媒にて135℃で測定した値である。測定法はASTM D4020に基づいて行う。
(5) 高分子量ポリオレフィンの融点は、示差走査熱量測定計(DSC)により、10℃/minで測定した東罐容器のサーモグラフの吸熱ピークのピークトップを測定したものである。
【0056】
【表1】
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、インフレーションフィルムの引張強度等の力学的性質、及び縦延伸倍率や膜厚等を幅広い範囲にわたって調整でき、成形速度の上昇あるいは装置の小型化が可能なインフレーションフィルムの製造方法が提供される。また、これを用いて製造されたインフレーションフィルムは、成形時に分子量の低下を抑えることができ、高分子量ポリオレフィンの物性を保持し、かつ、実質的に厚みむらのないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るインフレーションフィルム製造装置の断面図である。
【符号の説明】
1 押出機
3 第1スクリュー
20 スクリューダイ
21 第2スクリュー
22 アウターダイ
23 マンドレル
24 気体流路
26 安定棒
27 防風筒
Claims (4)
- 極限粘度[η]が4ないし10dl/gの高分子量ポリオレフィンを、成形温度が、該高分子量ポリオレフィンの融点Tm(℃)に対して、
Tm+1.5[η]2 −7.4[η]+65
によって計算される温度(℃)を上回らないように、押出機で溶融し、次いでマンドレルが押出機の第1スクリューと独立して回転する少なくともL/Dが5以上の第2スクリューをもつスクリューダイから前記溶融状態の高分子量ポリオレフィンを押し出した後、この押し出しにより形成された溶融状態のチューブ状フィルムの内部に気体を吹き込むことを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法。 - 前記第1スクリューと第2スクリューの回転数がそれぞれ可変自在であって、かつ、第2スクリューの回転数を第1スクリューの回転数よりも低く設定した請求項1記載のインフレーションフィルムの製造方法。
- 前記高分子量ポリオレフィンが、高分子量ポリエチレンである請求項1または2記載のインフレーションフィルムの製造方法。
- 前記インフレーションフィルムの厚さが10ないし1000μmである請求項1ないし3のいずれか1項記載のインフレーションフィルムの製造方法。
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