JP3864581B2 - 荷電粒子ビーム出射方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、加速器から荷電粒子ビームを出射する荷電粒子ビーム出射方法に係り、特に簡単な制御で荷電粒子ビームを出射できる荷電粒子ビーム出射方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
荷電粒子ビーム(以下、ビームという)を出射する加速器としては、一般にシンクロトロンが知られており、シンクロトロンにおけるビームの出射方法については、特開平5−198397 号公報において次のように述べられている。シンクロトロンを周回するビームの安定限界を四極電磁石を制御することにより一定に保ち、その状態で荷電粒子ビームに高周波印加装置から高周波電磁場を印加して安定限界内の荷電粒子ビームを安定限界外に移動させ、安定限界外へ移動したビームを共鳴を用いてシンクロトロンから出射する。
【0003】
また、高周波電磁場を用いた上記出射方法においては、ビームのエネルギーによって高周波電磁場の周波数を変化させなければビームを効率よく出射できないことも既に知られている。特開平7−14699号公報は、出射するビームのエネルギーに応じて、ビームに印加する高周波電磁場の中心周波数と周波数幅を制御することを記載している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術においてはビームに印加する高周波電磁場の強度の決定方法について何ら述べられていないが、シンクロトロンからエネルギーの異なるビームを出射する場合に、例えばビームに印加する高周波電磁場の強度を一定とすると、ビームのエネルギーが高いほどシンクロトロン内を周回するビームを全て出射するのにかかる時間が長くなるということが新たに分かった。すなわち、ビームのエネルギーが高いほど単位時間に出射される粒子数が低下することが分かった。ビームのエネルギーによって、シンクロトロン内を周回するビームを全て出射するのにかかる時間が変化してしまうと、図8に示すように、シンクロトロンの運転サイクルのうちビームを出射する期間の長さをビームのエネルギーによって変更しなければならず、シンクロトロンの制御が複雑になるという問題がある。なお、図8において、T1<T2である。
【0005】
本発明の目的は、簡単な制御で荷電粒子ビームを出射できる荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の特徴は、加速器内を周回する荷電粒子ビームに高周波電磁場を印加することにより、加速器から荷電粒子ビームを出射する荷電粒子ビーム出射方法において、加速器から出射する荷電粒子ビームのエネルギーに基づいて、前記高周波電磁場の強度を前記エネルギーが高いほど強く設定することにある。
【0007】
単位時間に出射される粒子数(ビームの出射量)は、荷電粒子ビームのベータトロン振動が安定限界をこえる速さ、すなわち荷電粒子ビームに印加される高周波電磁場の強度に比例する。従って、荷電粒子ビームのエネルギーに基づいて高周波電場の強度を設定することにより、ビームの出射量を調整し、荷電粒子ビームのエネルギーによらずビームの出射量を一定に保つことができる。よって、シンクロトロンの運転サイクルにおけるビームを出射する期間の長さをビームのエネルギーによらず一定にすることができ、簡単な制御で荷電粒子ビームを出射することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明の好適な一実施例である加速器システムを示す。
【0010】
本実施例の加速器システムは、約20MeVの荷電粒子ビーム(以下、ビームという)を入射し、予め設定されたエネルギーまで加速後、出射するシンクロトロン1を有する。
【0011】
図1において、制御装置3からの指示に従って前段加速器4は約20MeVのビームを出射する。前段加速器4から出射されたビームは、ビーム輸送系を介して入射器16に導かれ、入射器16によりシンクロトロン1に入射される。
【0012】
シンクロトロン1は、ビームに高周波の磁場及び電場(以下、高周波電磁場という)を印加することによりビームのベータトロン振動振幅を増加させる高周波印加装置11,ビームの軌道を曲げる偏向電磁石12,ビームのベータトロン振動を制御する四極電磁石13,ビーム出射時の共鳴を励起するための六極電磁石14,ビームにエネルギーを与える、すなわちビームを加速する高周波加速空胴15,ビームをシンクロトロン1に入射する入射器16及びビームをシンクロトロン1から出射する出射用デフレクター17により構成される。これらの機器のうち、六極電磁石14,高周波印加装置11及び出射用デフレクター17は、ビームを出射する過程でのみ使用する。
【0013】
制御装置3は、シンクロトロン1内を周回中のビームのエネルギーに応じて、電源21から偏向電磁石12に供給する電流の値を電源21に指示する。電源21は制御装置3から指示された値の電流を偏向電磁石12に供給する。偏向電磁石12は電源21より供給された電流に応じて磁場を発生する。なお、図1では、電源21から1つの偏向電磁石12にのみ電流が供給されているように示しているが、その他の偏向電磁石12にも同じ電流が供給される(後述する四極電磁石13及び六極電磁石14も同様)。入射器16によりシンクロトロン1に入射されたビームは、シンクロトロン1内を周回する過程で偏向電磁石12により軌道が曲げられる。
【0014】
四極電磁石13には、水平方向にビームを収束させて垂直方向にビームを発散させるようにビームの軌道勾配をかえる四極電磁石と、水平方向にビームを発散させて垂直方向にビームを収束させるようにビームの軌道勾配をかえる四極電磁石とがある。この四極電磁石13にも偏向電磁石12と同様に電源21から電流が供給されるが、この電流値は制御装置3がシンクロトロン1内を周回中のビームのエネルギーに応じて指示している。このような四極電磁石13により、ビームはシンクロトロン1内をベータトロン振動をしながら周回し、そのベータトロン振動の振動数は、四極電磁石13の励磁量により制御される。入射と加速の過程でビームを安定に周回させるには、シンクロトロン1における1周あたりのベータトロン振動数(以下、チューンという)を共鳴が生じない値にしておく必要があり、特に次数の低い共鳴を起こすチューンから離しておく必要がある。本実施例では水平方向チューンνxが1.75、垂直方向チューンνyが1.25になるように四極電磁石13の励磁量を制御装置3及び電源21により制御する。
【0015】
この状態でビームはシンクロトロン1内を安定に周回するが、その過程で高周波加速空胴15からビームに高周波電場が印加されることにより、ビームにエネルギーが与えられ、ビームは加速される。高周波加速空胴15から印加される高周波電場の周波数は、周回するビームの周波数の整数倍(n倍)に設定される。この高周波加速空胴15にも制御装置3により指示された値の電流が、電源21より供給される。ビームはこの高周波電場の周波数に同期するように、周回方向にn個の塊状(バンチ状)になってシンクロトロン1内を周回する。
【0016】
また、高周波加速空胴15によりビームを加速していくときには、偏向電磁石12及び四極電磁石13各々の磁場強度比を一定に保ちつつ磁場強度を増加させる。そのことにより、偏向電磁石12では、ビームのエネルギー増加による遠心力の増加と、偏向電磁石12の磁場強度の増加による向心力増加とが釣り合い、エネルギーが増加してもビームは同一軌道上を周回する。
【0017】
シンクロトロン1内を周回するビームのエネルギーが、オペレータが制御装置3に入力した目標エネルギーまで増加したら、次にシンクロトロン1からビームを出射する。ビームを出射するまでの手順を図2のフローチャートに示す。まず、高周波加速空胴15によるビームへのエネルギーの付与を停止する(ステップ21)。エネルギーの付与を停止することによりビームはバンチ状から連続状ビームになる。次に電源21により四極電磁石13を制御して、水平方向チューンνxを1.676 に設定する(ステップ22)。続いて、六極電磁石14にビームを共鳴させるための電流を流す(ステップ23)。六極電磁石14に流す電流は、シンクロトロン1内を周回中のビームのうちベータトロン振動振幅の大きな粒子が安定限界内に納まる程度の値とし、その値は予め計算により求めておくか、或いは出射の運転の繰返しを通じて求める。次に、高周波印加装置11によりビームに高周波電磁場を印加する(ステップ24)。なお、高周波印加装置11については後述する。高周波電磁場が印加されることによりビームの軌道勾配が変化し、ビームのベータトロン振動振幅が増加する。ベータトロン振動振幅が増加して安定限界をこえたビームは、共鳴によりベータトロン振動振幅が急激に増加する。ベータトロン振動振幅が増加したビームは出射用デフレクター17によりシンクロトロン1から出射される(ステップ25)。
【0018】
図3は、高周波印加装置11,電源22及び制御装置3を示す。図3において、制御装置3は、出射するビームのエネルギーE及びビームの出射を開始してから終わるまでの時間Tに基づいて、高周波印加装置11に供給する交流電圧の振幅の2乗平均の平方根V(以下、電圧振幅Vという)、交流電圧の中心周波数fc及び周波数幅ΔBWを決定する。電圧振幅V,中心周波数fc及び周波数幅ΔBWは、エネルギーE及び時間Tの様々な値に対応づけて制御装置3に記憶しておき、制御装置3は、オペレータにより入力されるエネルギーE及び時間Tに基づいて電圧振幅V,中心周波数fc及び周波数幅ΔBWを決める。なお、電圧振幅Vは、時間の経過に応じてその値が増加するよう設定されている。また、電圧振幅Vと高周波電磁場の強度とは比例関係にある。
【0019】
ここで、制御装置3に記憶される電圧振幅V,中心周波数fc及び周波数幅ΔBWの値について説明する。ビームのエネルギーがEの時の周回周波数をfrs とすると、高周波印加装置11に供給する交流電圧には0.66frs から0.70frs 程度の周波数帯域を含む周波数スペクトルを持たせる。即ち、中心周波数fcを0.68frs とし周波数幅ΔBWが0.02frs となる周波数スペクトルを持たせる。高周波印加装置11に供給する交流電圧にこのような周波数成分を持たせる理由を、以下に説明する。なお、周回周波数frs は、エネルギーEから求められる。
【0020】
シンクロトロン1内を周回するビームのうち、ベータトロン振動振幅が極めて小さいビ−ムのチューンは四極電磁石13で設定した1.676 となっているが、共鳴発生用の六極電磁石14の作用によって安定限界近くのベータトロン振動振幅をもったビームのチューンは1.666 となっている。従って、シンクロトロン1内を周回するビームのチューンは1.666〜1.676の間に連続的に分布する。一方、ビームのベータトロン振動振幅を増加させるためには、高周波電磁場の周波数が以下の(数1)或いは(数2)の周波数である必要がある。
【0021】
f=周回周波数×(整数+チューンの小数部) …(数1)
f=周回周波数×(整数−チューンの小数部) …(数2)
本実施例では、上記(数1)において整数=0として高周波電磁場の周波数を決定している。すなわち、チューンが1.666の ビームに必要とされる高周波電磁場の周波数fは、f=frs×(0+0.666)=0.666frsとなる。また、チューンが1.676 のビームに必要とされる高周波電磁場の周波数fは、f=frs×(0+0.676)=0.676frsとなる。前述の通り、本実施例の高周波印加装置11に供給する交流電圧は0.66frsから0.70frs程度の周波数帯域を含む周波数スペクトルを持つので、チューンが0.666〜0.676のビームのベータトロン振動振幅を増加させるのに必要な周波数成分を含んでいる。すなわち、シンクロトロン1内を周回する全てのビームのベータトロン振動振幅を増加させることができる。なお、高周波印加装置11に供給される交流電圧の周波数成分は、高周波印加装置11が発生する高周波電磁場の周波数成分と等しい。
【0022】
また、ベータトロン振動の共鳴に2次共鳴を用いる場合には、中心周波数fcを0.5frsとし、周波数幅ΔBWは前述の周波数幅ΔBWと同様に0.02frsにすればよい。
【0023】
一方、高周波印加装置11に供給する交流電圧の電圧振幅Vは、シンクロトロン1内を周回するビームの出射を開始してから終わるまでの時間をT、ビームのエネルギーをE、ビームの周回周波数をfrs 、高周波電磁場の周波数幅をΔBW、高周波印加装置11を構成する平板電極111及び112の間隔をdとして、(数3)で表わせることが新たに分かった。
【0024】
V2∝(d2EΔBW)/(Tfrs2) …(数3)
(数3)において、間隔dは実測値、エネルギーEはオペレータにより入力された設定値、周波数幅ΔBWは前述の値、時間Tも設定値、周回周波数frs はエネルギーEに基づいて計算した値をそれぞれ用いれば、電圧振幅Vを求めることができる。この(数3)より、エネルギーEが高いほど、電圧振幅Vを大きくしなければならないことがわかる。
【0025】
しかしながら、上記(数3)に基づいて求めた電圧振幅Vの交流電圧を高周波印加装置11に供給し続けても、シンクロトロン1から単位時間に出射される粒子数(以下、ビームの出射量という)は時間の経過とともに減少する。すなわち、(数3)は、安定限界内に十分な数の粒子が存在することを前提に求められた数式であり、時間の経過とともに安定限界内の粒子数が減少すると、シンクロトロン1からのビームの出射量も減少する。そこで本実施例では、時間の経過とともに電圧振幅Vを増加させる。つまり、ビームの出射量は安定限界内にある粒子数とビームのベータトロン振動が安定限界をこえる速さの積に比例するから、時間の経過とともに安定限界内にある粒子数が減っても、ビームに加える高周波電磁場の強度(電圧振幅V)を増加していくことでビームのベータトロン振動が安定限界をこえる速さを速くし、単位時間当たりに出射される粒子数を一定に保つことができる。なお、この電圧振幅Vを増加させるパターンは、予め計算によって求めておく。
【0026】
このようにして求められた電圧振幅Vのパターンは、間隔d,エネルギーE,周波数幅ΔBW,時間T及び周回周波数frs の様々な値に対応づけて制御装置3に複数記憶される。
【0027】
制御装置3は、決定した電圧振幅Vを増幅器224へ、中心周波数fcを発振器221へ、そして周波数幅ΔBWを発振器222へそれぞれ出力する。発振器221は入力された中心周波数fcと等しい周波数の交流電圧(正弦波)を乗算器223に出力する。一方、発振器222は、入力された周波数幅ΔBWに基づいて、0〜±ΔBWの周波数成分を有する交流電圧を乗算器223に出力する。乗算器223は、入力された2つの交流電圧を乗算し、その結果を増幅器224に出力する。この出力電圧は、fc−ΔBW〜fc+ΔBWの周波数成分を有する交流電圧となる。増幅器224は、乗算器223から入力された交流電圧の振幅が、制御装置3から入力される電圧振幅Vのパターンと等しくなるように、交流電圧を増幅していき、その交流電圧を高周波印加装置11の平板電極111及び112に出力する。なおこの交流電圧は、平板電極111及び112に対し逆位相で供給される。
【0028】
平板電極111,112は、供給された交流電圧に応じて高周波電磁場を発生し、シンクロトロン1内を周回するビームに印加する。平板電極111及び112により発生される電場及び磁場の向きは、それぞれ図3に示す方向となる。なお、電場及び磁場の強度は、交流電圧の振幅の増加に伴って強くなっていく。
【0029】
以上説明したように、ビームのエネルギーEに基づいて平板電極111,112に印加する交流電圧の周波数成分を決めることにより、ビームのエネルギーが変わっても、シンクロトロン1内を周回する全てのビームを効率よく出射することができる。また、ビームのエネルギーE及びビームの出射にかける時間Tに基づいて交流電圧の電圧振幅Vのパターンを決めることによって、ビームのエネルギーEが変わっても、時間Tの間にシンクロトロン1内のビームを全て出射でき、つまりビームのエネルギーEが変わっても、ビームの出射量を一定にすることができる。すなわち、図7に示すように、ビームのエネルギーEによらず、シンクロトロン1内を周回するビームを同じ時間Tで出射することができる。図7において、T1=T2である。よって、シンクロトロン1から出射するビームのエネルギーによらず、シンクロトロンの運転サイクルのうちビームを出射する期間の長さTを一定にすることができ、シンクロトロンの制御が簡単になる
なお、以上説明した本実施例では、交流電圧の周波数成分を2つの発振器221,222と乗算器223により得たが、広い周波数成分からフィルタで必要周波数成分を選ぶ方法や、多周波数成分を同時に加える方法、ほかには、単一周波数を時間的に変化させる方法等を用いても良い。
【0030】
(実施例2)
図4は、実施例1の加速器システムを用いて、がん患者の治療を行う治療システムを示す。以下、本実施例について、実施例1の加速器システムに新たに付加した構成を中心に説明する。
【0031】
図4において、回転照射装置5は、シンクロトロン1から出射されたビームを入射する。回転照射装置5に入射されたビームは、偏向電磁石51,52,四極電磁石53により軌道が調節され、走査電磁石54,55に導かれる。なお、偏向電磁石51,52,四極電磁石53には、制御装置3からの指示に従って電源57から電流が供給される。
【0032】
走査電磁石54,55には、電源58から位相が90度ずれた正弦波の電流がそれぞれ供給される。そのため走査電磁石54,55に導かれたビームはがん患者の患部位置において円形に走査されて照射される。線量モニタ56は、ビームの照射線量を測定し、測定結果を制御装置3に出力する。線量モニタ56の出力は、制御装置3において予め設定された目標照射線量と比較され、ビームの照射線量が目標照射線量に達したか否かの判定に用いられる。
【0033】
また、本実施例の治療システムは、回転照射装置5に電流モニタ59を備えている。電流モニタ59はシンクロトロン1から出射されたビームの電流を測定し、電流測定値を電源22に出力する。図5に示すように、電流モニタ59の出力である電流測定値は、電源22において比較器225に入力される。比較器225には予めオペレータにより設定された電流目標値も入力され、電流測定値と比較される。比較の結果、電流目標値の方が大きかった場合には増幅器224による増幅度を上げ、電流目標値の方が小さかった場合には増幅器224の増幅度を下げるように増幅器224を制御する。
【0034】
本実施例のように、患部位置でビームを円形に走査して照射する照射方法に、実施例1で説明したシンクロトロン1が出射するビームを用いることにより、走査電磁石54,55によるビームの走査速度をビームのエネルギーによらず一定にすることができる。すなわち、従来のシンクロトロンでは、前述したように出射するビームのエネルギーによってビームの出射量が異なっていたため、ビームのエネルギーが低くてビームの出射量が多い場合には、その分走査電磁石によるビームの走査速度を早くしなければならなかった。しかしながら、本実施例のシンクロトロン1は、ビームのエネルギーによらずビームの出射量が一定であるため、走査電磁石54,55による走査速度を変化させる必要がなく、従って、走査電磁石54,55に供給する電流も変えなくて良い。よって、簡単な制御で患部にビームを照射することができる。
【0035】
なお、本実施例ではビームを円形に走査する場合について説明したが、円形に走査する場合に限らず、ビームを走査するものであればどのような方法に対しても同様の効果を生じる。
【0036】
(実施例3)
本実施例の治療システムについて、実施例2と異なる点を説明する。本実施例では、図6に示すように、ビームを患部に照射する際に患部をビームの進行方向に複数の層状の領域L1〜L9(以下、層L1〜L9と呼ぶ)に分け、更にその層L1〜L9を複数の領域A11,A12…に分けて、その領域毎にビームを照射する。なお、本治療システムの装置構成は、実施例2の治療システムと同様である。
【0037】
本実施例において、各層にビームを照射する場合には、その層の位置にブラッグピークが来るようなエネルギーのビームを照射する。従って、層L9から層L1へと層の位置が浅くなるにつれて、照射されるビームのエネルギーは低くなる。このようにビームを照射する層によってビームのエネルギーを変更する場合でも、本実施例によればビームの出射量を一定にできる。
【0038】
各層において、ビームを照射する領域A11,A12…を変更する場合には、高周波印加装置11からビームに印加する高周波電磁場の強度を低下させて、シンクロトロン1から出射されるビームの量を例えば1/10に減少させる。そうすることにより、ビームを照射する領域を変更しているときに照射される照射線量を減少させることができ、余分な照射を低減できる。
【0039】
また、ビームを照射する領域を変更する場合に、ビームに対する高周波電磁場の印加を停止して、シンクロトロン1からのビームの出射を停止すれば、照射領域を変更する際の余分な照射をなくすことができる。
【0040】
本実施例のように、照射領域を変更する際にビームの出射量を低下させる、或いはビームの出射を停止させる場合に、ビームのエネルギーによらずビームの出射量が一定ならば、ビームの照射線量をより正確に制御可能である。すなわち、出射量を低下、或いは出射を停止するのにも、ある一定の時間が必要であり、その間にも多少はビームが照射される。従来のシンクロトロンのように、ビームのエネルギーによってビームの出射量が異なると、出射量を低下、或いは出射を停止させる間に照射されるビームの量がエネルギーによって異なってしまうため、その点も考慮してビームの照射を行わなければならない。しかし、本実施例によれば、ビームのエネルギーによらずビームの出射量を一定にできるため、出射量を低下、或いは出射を停止する間に照射されるビームの量もエネルギーによらず一定となり、その値も予め求めることが可能なので、照射線量を正確に制御できる。
【0041】
以上説明した各実施例では、ビームの出射を開始してから終了するまでの時間Tは、0.5 秒程度とする。ただし、呼吸に同期して移動する肺や肝臓を治療する場合には、呼吸の静止期にのみビームを出射する必要があるので、時間Tは、0.2 秒程度に設定するのが望ましい。本実施例では、このような時間の設定も容易に行うことができる。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、簡単な制御で荷電粒子ビームを出射することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な一実施例である加速器システムの構成図である。
【図2】荷電粒子ビームを出射するまでの手順を示すフローチャートである。
【図3】図1の高周波印加装置11及び電源22の構成図である。
【図4】本発明の他の実施例である治療システムの構成図である。
【図5】図4の高周波印加装置11及び電源22の構成図である。
【図6】本発明の他の実施例である治療システムにおける、患部への荷電粒子ビームの照射方法を示す図である。
【図7】本発明によるシンクロトロンの運転サイクルを示す図である。
【図8】従来のシンクロトロンの運転サイクルを示す図である。
【符号の説明】
1…シンクロトロン、3…制御装置、4…前段加速器、11…高周波印加装置、12…偏向電磁石、13…四極電磁石、14…六極電磁石、15…高周波加速空胴、16…入射器、17…出射用デフレクター、21,22…電源。
Claims (2)
- 加速器内を周回する荷電粒子ビームに高周波電磁場を印加することにより、加速器から荷電粒子ビームを出射する荷電粒子ビーム出射方法において、
加速器から出射する荷電粒子ビームのエネルギーに基づいて、前記高周波電磁場の強度を前記エネルギーが高いほど強く設定することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。 - 前記高周波電磁場の強度は、荷電粒子ビームの出射を開始してから終了するまでの間、徐々に増加することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム出射方法。
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