JP3922022B2 - 円形加速器の制御方法及び制御装置、並びに円形加速器システム - Google Patents
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Description
技術分野
本発明は、円形加速器の制御方法及び制御装置、並びに円形加速器システムに関する。
背景技術
イオンビームや電子ビーム等の荷電粒子ビームを周回させながら加速したり、或いは蓄積する円形加速器としては、加速したイオンビームを出射してターゲット(例えば、タングステン)に照射することにより中性子を発生させるためのシンクロトロンや、加速したイオンビームを出射して癌患者の患部に照射することにより癌治療を行うためのシンクロトロン、或いは、電子ビームを加速することにより電子から放出される放射光を得る蓄積リング等が知られている。これらの円形加速器では、入射される荷電粒子ビームの粒子数密度分布はガウス分布となっており、粒子数密度分布の平坦化が要求されている。
例えば、上述の中性子を発生させるためのシンクロトロンや癌治療を行うためのシンクロトロンにおいては、共鳴を利用してイオンビームをシンクロトロンから出射するか、若しくは、キッカー電磁石等を用いてイオンビームを偏向することによってイオンビームをシンクロトロンから出射するが、共鳴を利用して出射を行う場合に周回するイオンビームの粒子数密度分布が平坦化されていないと、出射されるイオンビームの電流値の時間的変動を抑制するのが困難であった。また、周回するイオンビームをキッカー電磁石により偏向して出射を行う場合に周回するイオンビームの粒子数密度分布が平坦化されていないと、出射されるイオンビームにおける粒子数密度分布も不均一となり、タングステンや癌患者の患部といった照射対象に対してイオンビームを均一に照射するために複雑な制御が必要とされた。更に、電子ビームを加速して放射光を取り出す蓄積リングにおいては、周回する電子ビームの粒子数密度分布が平坦化されていないと、取り出した放射光の強度分布が不均一になるという問題があった。
以上のような問題を解決するためには、前述のように、円形加速器において周回する荷電粒子ビームの粒子数密度分布を平坦化しなければならない。周回する荷電粒子ビームの粒子数密度分布を平坦化する方法としては、特開平11−111500号公報に荷電粒子ビームに生じる空間電荷効果を利用した粒子数密度分布平坦化の技術が記載されている。上記公報に記載された技術について、以下に説明する。荷電粒子ビームにはその電流値(粒子数密度)が大きいほど、またエネルギーが低いほど、荷電粒子ビームのチューンを低下させる空間電荷効果が生じるので、粒子数密度分布がガウス分布である荷電粒子ビームの場合、粒子数密度の高い中心部付近に位置する荷電粒子(すなわち、ベータトロン振動振幅の小さな荷電粒子)ほどチューンが低下する。そこで、チューンの低下した中心部付近の荷電粒子がベータトロン振動する周波数の成分を含む高周波電磁場を荷電粒子ビームに印加することによって、中心部付近に位置する荷電粒子のベータトロン振動振幅を増加させることができる。このように中心部付近に位置する荷電粒子のベータトロン振動振幅を増加させることによって、中心部付近の荷電粒子の粒子数密度は低下し、逆に荷電粒子ビームの周辺部付近の粒子数密度が上昇する。よって、荷電粒子ビームの粒子数密度分布は平坦化される。
しかしながら、上記従来技術では、空間電荷効果によるチューンの低下を利用するため、空間電荷効果が殆ど発生しないような小電流又は高エネルギーの荷電粒子ビームに対しては粒子数密度分布の平坦化を行うことができない。つまり、従来技術では、円形加速器を周回する荷電粒子ビームの電流とエネルギーの値によっては粒子数密度分布を平坦化できない場合がある。
発明の開示
本発明の目的は、周回する荷電粒子ビームの電流及びエネルギーの値によらず荷電粒子ビームの粒子数密度分布を制御することができる円形加速器の制御方法及び制御装置、並びに円形加速器システムを提供することにある。
上記目的を達成する本発明の特徴は、周回する荷電粒子ビームにベータトロン振動の周波数成分を含む高周波電磁場を印加する高周波印加装置と、前記荷電粒子ビームに六極以上の多極磁場を印加する多極電磁石と、前記荷電粒子ビームに四極磁場を印加する四極電磁石と、前記高周波電磁場及び前記多極磁場が荷電粒子ビームに印加されているときに、荷電粒子ビームが3次以下の共鳴を起こさないように前記四極電磁石に供給される電流を制御する制御装置とを有することにある。
周回する荷電粒子ビームにベータトロン振動の周波数成分を含む高周波電磁場を印加することにより、荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅は変化し、また、荷電粒子ビームに六極以上の多極磁場を印加することにより荷電粒子ビームのチューンはベータトロン振動振幅の大きさに応じて変化する。このベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化とを繰り返すことによって、荷電粒子ビームの粒子数密度分布は平坦化される。高周波電磁場の印加によるベータトロン振動振幅の変化と、多極磁場の印加によるチューンの変化は荷電粒子ビームのエネルギーや電流の値によらずに行うことができるため、周回する荷電粒子ビームの電流及びエネルギーの値によらず荷電粒子ビームの粒子数密度分布を制御することができる。
発明を実施するための最良の形態
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。
(実施例1)
第1図は、本発明の好適な一実施例である円形加速器システムを示す。本実施例の円形加速器システムは、円形加速器として500〔MeV〕のイオンビームを5〔A]入射して2.5〔GeV〕まで加速した後出射するシンクロトロン1を用い、シンクロトロン1から出射されたイオンビームをターゲット(本実施例ではタングステン)に照射して中性子を発生させる円形加速器システムである。なお、上記入射電流値は、入射された粒子の総電荷数に周回周波数をかけた値である。また、円形加速器とは、本実施例で説明する荷電粒子ビームを加速して出射するシンクロトロンや、荷電粒子ビームを加速・蓄積する蓄積リングのような、荷電粒子ビームを周回させながら加速する加速器のことを指す。
第1図において、制御装置2からの指示に従って前段加速器3は500〔MeV〕で7〔A〕の水素の正イオン(陽子)のビーム(以下、イオンビームという)を出射する。ここで、電流値が入射時よりも大きくなっているのは、エネルギーの増加に伴って周回周波数が高くなるためである。なお、前段加速器3から出射されるイオンビームの粒子数密度分布(すなわち強度分布)は、第2図(a)に示すようなガウス分布となっている。前段加速器3から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系を介してシンクロトロン1の入射器101に導かれ、入射器101によってシンクロトロン1に入射される。
シンクロトロン1は、イオンビームをシンクロトロン1に入射する入射器101の他に、入射されたイオンビームの軌道を予め設定された設計軌道に合わせるパルス電磁石102,イオンビームが設計軌道に沿って周回するようにイオンビームを偏向する偏向電磁石103,イオンビームのチューン(シンクロトロンを1周する間のベータトロン振動数)を制御する四極発散電磁石104aと四極収束電磁石104b,イオンビームに高周波の磁場及び電場(以下、高周波電磁場という)を印加してイオンのベータトロン振動振幅を変化させる高周波印加装置105a,105b,イオンビームにエネルギーを与えて加速する高周波加速空胴106,イオンのチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させる八極電磁石107,イオンビームを設計軌道から離すパルス電磁石108,イオンビームをシンクロトロン1から出射する出射器109を有する。
制御装置2は、シンクロトロン1にイオンビームが入射されるのに合わせて、イオンビームがシンクロトロン1を安定に周回できるようにパルス電磁石102,偏向電磁石103,四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bを制御する。具体的には、制御装置2は、パルス電磁石102の電源装置5aに対し、入射されたイオンビームの軌道を設計軌道に合わせるのにパルス電磁石102で必要とされる電流値を指示する。電源装置5aは、指示された値の電流をパルス電磁石102に供給する。電流が供給されたパルス電磁石102は電流の値に応じた磁場を発生し、その磁場によってイオンビームの軌道が設計軌道に合わせられる。
また、制御装置2は、シンクロトロン1に入射されたイオンビームのエネルギー(500〔MeV〕)に応じて、偏向電磁石103に供給する電流の値を電源装置5bに指示する。電源装置5bは、制御装置2から指示された値の電流を偏向電磁石103に供給し、偏向電磁石103は、電源装置5bより供給された電流に応じて磁場を発生する。なお、第1図では、電源装置5bから1つの偏向電磁石103にのみ電流が供給されているように示しているが、その他の偏向電磁石103にも同じ電流が供給される。また、偏向電磁石103以外の電磁石についても同様に、同一符号の電磁石には同じ電流が供給される。シンクロトロン1に入射されたイオンビームは、偏向電磁石103により軌道が曲げられて、設計軌道上を周回する。
更に、制御装置2は、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bに供給する電流の値を電源装置5c,5dに指示する。電源装置5c,5dは、制御装置2から指示された値の電流を四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bにそれぞれ供給し、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bは、電源装置5c,5dより供給された電流に応じて磁場を発生する。なお、四極発散電磁石104aは、水平方向にイオンビームを収束させて垂直方向にイオンビームを発散させるようにイオンビームの軌道勾配を変える電磁石であり、四極収束電磁石104bは、水平方向にイオンビームを発散させて垂直方向にイオンビームを収束させるようにイオンビームの軌道勾配を変える電磁石である。このような四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bによりイオンビームのチューンは制御される。入射と加速の過程でイオンビームを安定に周回させるには、イオンビームのチューンを共鳴が生じない値にしておく必要があり、特に整数共鳴,2次共鳴及び3次共鳴を起こすチューンからは離しておく必要がある。本実施例では、水平方向チューンνx及び垂直方向チューンνyが共に1.25になるように四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bの励磁量を制御装置2及び電源装置5c,5dにより制御する。なお、本実施例において、水平方向とはシンクロトロン1におけるイオンビームの周回面に水平でかつイオンビームの進行方向に垂直な方向をいい、垂直方向とはシンクロトロン1におけるイオンビームの周回面に垂直でかつイオンビームの進行方向に垂直な方向をいう。
本実施例では、多重回転入射法を用いてイオンビームをシンクロトロン1に入射する。そのために、パルス電磁石102に供給する電流を、時間の経過と共に減少するように制御する。つまり、パルス電磁石102から発せられる磁場の強度を徐々に弱くしていくことにより、水平方向におけるイオンビームの位置をずらしながら、イオンビームをシンクロトロン1に入射していく。そのことにより、シンクロトロン1において周回するイオンビームの径は水平方向に広がり、また水平方向の粒子数密度分布は垂直方向の粒子数密度分布に比べて若干平坦な分布となる。なお、本実施例のシンクロトロン1では、イオンビームの電流値が5〔A〕となるまでイオンビームの入射を継続する。
以上説明したパルス電磁石102,偏向電磁石103,四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bに供給する電流値については、予め計算若しくは実験により適切な値を求めておき、各電流値のパターンを制御装置2内のメモリ(図示せず)に記憶させておく。
以上のようにして、シンクロトロン1に500〔MeV〕で5〔A〕のイオンビームが入射されると、イオンビームには空間電荷効果が生じ、イオンビームのチューンが変化する。第2図(b)は、イオンの垂直方向のベータトロン振動振幅の大きさとチューンとの関係を示す。第2図(b)に示されるように、空間電荷効果によりベータトロン振動振幅の小さなイオンほどチューンが低下する。これは、第2図(a)に示すように垂直方向におけるイオンビームの粒子数密度分布がガウス分布をしているために、イオンビームの中心に近いほど粒子数密度が高く(電流が大きく)、空間電荷効果の影響が大きくなるからである。このようなチューンの低下によりイオンのチューンが1.0になると、整数共鳴によってイオンのベータトロン振動振幅が急激に増加し、ベータトロン振動振幅が増加したイオンはイオンビームの通路である真空ダクトに衝突して消滅してしまう。なお、水平方向においては、多重回転入射法を用いたことにより粒子数密度分布が垂直方向に比べて若干平坦化されているが、垂直方向と同様に空間電荷効果によるチューンの低下が発生する。
上述のような空間電荷効果に起因するイオンビームの損失をなくすために、本実施例では、高周波印加装置105aによってイオンビームに垂直方向の高周波電磁場を印加し、高周波印加装置105bによってイオンビームに水平方向の高周波電磁場を印加する。
まずは、高周波印加装置105aによる垂直方向の高周波電磁場の印加方法について説明する。第3図は、高周波印加装置105aと、高周波印加装置105aを制御するための制御装置2の構成を示す。第3図において、まず高周波信号制御部21aが、周波数スペクトル発生部22aに対して周波数帯域の最小値fyaと最大値fybとを指示する。この最小値fya及び最大値fybについて説明する。
第2図に示すように、垂直方向においてベータトロン振動振幅が最大(yb)であるイオンのチューンがνbであるとすると、そのイオンのベータトロン振動の周波数を最大値fybとする。最大値fybは、(数1)で表わされる。
fyb=frev・νb …(数1)
なお、frevはイオンの周回周波数である。このように、最大のベータトロン振動振幅を有するイオンのベータトロン振動の周波数を、最大値fybとして設定する。また、最小値fyaとしては、垂直方向においてイオンビームの中心に位置するイオンのチューンν0よりも小さな値νaに周回周波数frevを乗算して求められる周波数を設定する。
周波数スペクトル発生部22aは、高周波信号制御部21aから与えられた最小値fyaから最大値fybまでの周波数帯域を有する周波数スペクトルを逆フーリエ変換部23a(逆FFT部23a)に出力する。逆FFT部23aは、入力された周波数スペクトルから逆フーリエ変換によりディジタルの時間領域信号を得る。なお、逆フーリエ変換により時間領域信号を得る際には、各周波数スペクトル間の位相をランダムに設定する。得られた時間領域信号はディジタル/アナログ変換部24a(D/A変換部24a)に入力され、D/A変換部24aは、ディジタルの時間領域信号をアナログの高周波信号に変換する。D/A変換部24aから出力された高周波信号は高周波印加装置105aの増幅器31に入力され、増幅器31は、高周波制御部21aから与えられる増幅率指示値に従って高周波信号を増幅する。増幅器31で増幅された高周波信号は、ビームの通路である真空ダクト内において垂直方向に並べられた2つの電極32a,32bに印加される。高周波信号が印加された電極32a,32bは、その高周波信号と同じ周波数成分を有する垂直方向の高周波電磁場を発生し、発生した高周波電磁場は真空ダクト内を通過するイオンビームに印加される。
この高周波電磁場には、イオンビームのベータトロン振動の周波数成分が含まれているため、高周波電磁場が印加されたイオンビームは軌道勾配が変化し、ベータトロン振動振幅が変化する。なお、逆FFT部23aにおいて、各周波数スペクトル間の位相差をランダムにしたため、ベータトロン振動振幅の変化の方向(ベータトロン振動振幅が増加するのか減少するのか)は、各イオン毎に異なる。ベータトロン振動振幅が変化したイオンは、第2図(b)のベータトロン振動振幅とチューンとの関係に従って、チューンも変化する。このベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化を繰り返すことによって、イオンビームの粒子数密度分布は第4図に示すように垂直方向において平坦化される。本実施例の場合、ビーム中心からビーム半径の±30%の範囲で粒子数密度の誤差を±4〜5%程度に制御できることが確かめられた。
次に、高周波印加装置105bによる水平方向の高周波電磁場の印加方法について説明する。第5図は、高周波印加装置105bと、高周波印加装置105bを制御するための制御装置2の構成を示す。第5図において、まず高周波信号制御部21bが、周波数スペクトル発生部22bに対して周波数帯域の最小値fxaと最大値fxbを指示する。この最小値fxa及び最大値fxbの決定方法は、垂直方向における最小値fya及び最大値fybの場合と同様に、水平方向において最大のベータトロン振動振幅を有するイオンのベータトロン振動の周波数を最大値fxbとして設定し、最小値fxaとしては水平方向においてイオンビームの中心に位置するイオンのチューンよりも小さな値に周回周波数frevを乗算して求められる周波数を設定する。
周波数スペクトル発生部22b,逆FFT部23b、及びD/A変換部24bの動作は、垂直方向における周波数スペクトル発生部22a,逆FFT部23a、及びD/A変換部24aと同様であり、D/A変換部24bから出力された高周波信号は高周波印加装置105bの増幅器33に入力される。増幅器33は、高周波制御部21bから与えられる増幅率指示値に従って高周波信号を増幅する。増幅器33で増幅された高周波信号は、ビームの通路である真空ダクト内に水平方向に並べられた2つの電極34a,34bに印加される。高周波信号が印加された電極34a,34bは、その高周波信号と同じ周波数成分を有する水平方向の高周波電磁場を発生し、発生した高周波電磁場は真空ダクト内を通過するイオンビームに印加される。
この高周波電磁場には、水平方向におけるイオンビームのベータトロン振動の周波数成分が含まれているため、高周波電磁場が印加されたイオンは水平方向における軌道勾配が変化し、ベータトロン振動振幅が変化する。ベータトロン振動振幅が変化したイオンは、チューンも変化し、このベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化を繰り返すことによって、イオンビームの水平方向における粒子数密度分布は垂直方向と同様に平坦化される。
このように、垂直方向及び水平方向におけるイオンビームの粒子数密度分布を平坦化することによって、イオンビームの中心部付近における粒子数密度が低下し、空間電荷効果によるチューンの低下が抑制されるので、共鳴によってイオンのベータトロン振動振幅が増加するのを防ぐことができる。よって、イオンビームの損失を低減することができる。
なお、本実施例では、高周波信号制御部21a,21bから増幅器31,33に対して増幅率指示値を出力しているが、この増幅率指示値を高くするほどイオンビームに印加される高周波電磁場の強度が強くなり、イオンビームの粒子数密度分布の平坦化をより早く行うことができる。逆に、増幅率指示値を低くして、高周波電磁場の強度を弱くすると、粒子数密度分布の平坦化をゆっくりと行うことができる。このように、高周波信号制御部21a,21bから増幅器31,33に与える増幅率指示値を制御することにより、イオンビームに印加する高周波電磁場の強度を制御して、粒子数密度分布の平坦化の速度を制御することができる。
また、本実施例では、イオンビームの入射が完全に終了してから粒子数密度分布の平坦化を行うように説明しているが、イオンビームの入射を行う前から高周波電磁場を印加しておくことが望ましい。
イオンビームの粒子数密度分布が平坦化されたら、高周波印加装置105a,105bからの高周波電磁場の印加を停止する。この状態でイオンビームはシンクロトロン1内を安定に周回する。その過程で高周波加速空胴106からイオンビームに高周波電場を印加することにより、イオンビームにエネルギーが与えられ、イオンビームは加速される。高周波加速空胴106からイオンビームに印加される高周波電場の周波数は、周回するイオンビームのベータトロン振動周波数の整数倍に設定される。なお、この高周波加速空胴106には、制御装置2により指示された値の電流が電源5eから供給される。
また、高周波加速空胴106によりビームを加速するときには、偏向電磁石103,四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104b各々の磁場強度比を一定に保ちつつ磁場強度を増加させる。そのことにより、周回するイオンビームのエネルギーが上昇しても、チューンが設定された値からずれることなく、またイオンビームの軌道が設計軌道からはずれないため、イオンビームを安定に周回させることができる。
シンクロトロン1内を周回するイオンビームのエネルギーが、オペレータが制御装置2に入力した目標エネルギー(本実施例では2.5〔GeV〕)まで増加したら、高周波加速空胴106によるビームへのエネルギーの付与を停止する。このようにイオンビームを加速すると、平坦であったイオンビームの粒子数密度分布はガウス分布に戻ってしまうと言われている。そこで、再度、粒子数密度分布の平坦化を行う必要がある。しかしながら、加速後のイオンビームのエネルギーは5〔GeV]に達しており、空間電荷効果によるチューンの低下は殆ど起こらないため、この状態で前述のように高周波電磁場をイオンビームに印加したとしても、粒子数密度分布の平坦化を行うことはできない。
そこで、本実施例では、八極電磁石107によりイオンビームに八極磁場を印加することによって、イオンビームのチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させる。そのために、まず制御装置2から電源装置5fに対して電流指令を出力する。電源装置5fは指示された値の電流を八極電磁石107に対して出力する。八極電磁石107は、供給された電流に応じた八極磁場を発生し、イオンビームに印加する。八極電磁石107によって発せられる八極磁場は、イオンビームの軌道勾配を変化させるが、イオンのベータトロン振動振幅が大きいほど軌道勾配の変化量が大きくなるように作用するため、八極磁場が印加されたイオンビームのチューンは、第2図(b)に示すようにベータトロン振動振幅に応じて変化する。つまり、イオンビームに対して空間電荷効果と同様に作用する。なお、八極磁場によるイオンビームのチューンの変化を効率良く行うために、本実施例のシンクロトロン1では八極電磁石107を四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bに隣接させて配置している。つまり、シンクロトロン1において、四極発散電磁石104aではイオンビームの垂直方向のビーム径が最大となっているので、四極発散電磁石104aの隣に配置された八極電磁石107により、イオンビームの垂直方向のチューンを効率良く変化させることができ、逆に、四極収束電磁石104bではイオンビームの水平方向のビーム径が最大となるので、四極収束電磁石104aの隣に配置された八極電磁石107により、イオンビームの水平方向のチューンを効率良く変化させることができる。
上述のようにして、八極電磁石107によりイオンビームのチューンを変化させると共に、再び高周波印加装置105aによってイオンビームに垂直方向の高周波電磁場を印加する。なお、高周波信号制御部21aから周波数スペクトル発生部22aに出力する周波数帯域の最小値fya及び最大値fybの決定方法については、第2図(b)を用いて説明した加速前の平坦化の場合と同様であるので、詳細な説明は省略するが、加速前よりもイオンビームのエネルギーが高くなっているので、frevが大きく、そのため最小値fya,最大値fyb共に加速前の平坦化のときよりも大きくなる。この高周波電磁場の印加により、ベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化が繰返し起こり、再びイオンビームの粒子数密度分布が平坦化される。また、水平方向についても垂直方向と同様に、高周波印加装置105bにより高周波電磁場を印加して、再度イオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行う。
イオンビームの粒子数密度分布が平坦化されたら、高周波印加装置105a,105bからの高周波電磁場の印加を停止し、また八極電磁石107からの八極磁場の印加を停止する。次に、パルス電磁石108に対して電源装置5gから電流を供給し、パルス電磁石108から発せられる磁場によりイオンビームの軌道を設計軌道からシンクロトロン1の外側方向にずらしていく。そしてイオンビームを出射器109に導き、出射器109によりイオンビームをシンクロトロン1から出射する。
シンクロトロン1から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系を介して照射室4に輸送され、照射室4に配置された照射装置(図示せず)によりタングステンに照射される。タングステンはイオンビームが照射されると中性子を発生するが、このタングステンから発生する中性子の強度は照射されるイオンビームの強度(粒子数密度)に依存するため、本実施例のように粒子数密度分布が平坦化されたイオンビームをタングステンに照射することにより、強度分布の平坦な中性子を得ることができる。
以上説明したように、本実施例によれば、空間電荷効果の影響が殆どないような加速後のイオンビームに対しても、八極電磁石107によってチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させた後、高周波電磁場を印加することで、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。つまり、イオンビームの電流及びエネルギーの値によらず、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。
また、本実施例のように、イオンビームを加速した後に粒子線密度分布の平坦化を行うため、粒子線密度分布が平坦化された状態でイオンビームをシンクロトロン1から出射することができる。よって、そのイオンビームをタングステンに照射した場合に、強度分布の平坦な中性子が得られる。
なお、本実施例では、500〔MeV〕で5〔A〕のイオンビームを、2.5〔GeV〕まで加速する例について説明したが、本発明が適用可能なイオンビームのエネルギーや電流は上記の値に限られるものではない。例えば、中性子発生に用いられるイオンビームとして一般的な、加速後のエネルギーが1〔GeV〕以上(例えば、1〜20〔GeV〕)の範囲内で電流が1〜50〔A〕の範囲内であるようなイオンビームを扱うシンクロトロンに対して本発明は有効である。なぜならば、エネルギーが1〔GeV〕以上の範囲内で電流が1〜50〔A〕の範囲内であるようなイオンビームには空間電荷効果によるチューンの変化が起こらないからである。
また、本実施例では、500〔MeV〕で5〔A〕のイオンビームをシンクロトロン1に入射して加速を行う前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行っているが、シンクロトロン1に入射するイオンビームのエネルギーがもっと高いか、若しくは電流が小さいために空間電荷効果によるチューンの変化が発生しないような場合には、イオンビームの加速前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行う必要はなく、イオンビームの加速後にのみイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行えば良い。
更に、本実施例では、イオンビームを加速する前の粒子数密度分布の平坦化に空間電荷効果によるチューンの変化を利用しているが、八極電磁石107を励磁してチューンを変化させても良い。但し、本実施例のように空間電荷効果を利用した方が八極電磁石107の制御を省くことができ、また八極電磁石に供給する電流も節約できることは言うまでもない。
(実施例2)
本発明の他の実施例である円形加速器システムについて説明する。なお、本実施例の円形加速器システムは、シンクロトロンからのイオンビームの出射を共鳴を用いて行う点と、シンクロトロンから出射したイオンビームを癌患者の患部に照射して癌治療を行う点で前述の実施例1と異なる。以下、実施例1と異なる点について主に説明する。
第6図は、本実施例の円形加速器システムの構成を示す。本実施例の円形加速器システムでは、3〔MeV〕のイオンビームをシンクロトロン1に40〔mA〕入射する。本実施例でもイオンビームは多重回転入射法により入射する。また、シンクロトロン1にイオンビームを入射してから加速後のイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行うまでのシンクロトロン1の運転方法は前述の実施例1と同様である。なお、本実施例では、イオンビームを250〔MeV〕まで加速する。
本実施例におけるイオンビームのシンクロトロン1からの出射方法について詳細に説明する。加速後のイオンビームの粒子数密度分布の平坦化が終わって、高周波印加装置105a,105bからの高周波電磁場の印加を停止し、また、八極電磁石107からの八極磁場の印加を停止したら、次に、六極電磁石111を励磁すると共に、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bの励磁量を変化させる。このとき、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bからイオンビームに印加される磁場の強度を制御してイオンビームのチューンを1.32に設定すると共に、六極電磁石111からイオンビームに印加する六極磁場の強度を制御して、ベータトロン振動振幅の最も大きなイオンのチューンが1.33となるように調節する。なお、この六極電磁石111の励磁量は予め計算若しくは実験により求めておき、制御装置2はその値を六極電磁石111に電流を供給する電源装置5hに対して出力する。
次に、高周波印加装置105bによりビームに水平方向の高周波電磁場を印加する。なお、イオンビームに印加する高周波電磁場の周波数帯域は、実施例1において説明した粒子数密度分布の平坦化を行うときと同様に、全てのイオンのベータトロン振動周波数が含まれるように設定すれば良い。この高周波電磁場が印加されることによりイオンビームの軌道勾配が変化し、イオンビームのベータトロン振動振幅が増加する。そして、ベータトロン振動振幅の最も大きなイオンのチューンが1.33であるため、チューンが1.33であるイオンのベータトロン振動振幅が増加してチューンが1+1/3を超えると、3次共鳴によりイオンビームのベータトロン振動振幅が急激に増大する。つまり、イオンビームが安定限界をこえることによりベータトロン振動振幅が急激に増加する。ベータトロン振動振幅が増加したイオンビームは出射器109に導かれ、出射器109によってシンクロトロン1から出射される。上述のように、シンクロトロン1において、高周波印加装置105bから高周波電磁場が印加されている間は、イオンビームのベータトロン振動振幅とチューンは絶えず変化しており、チューンが1+1/3を超えたものから順に出射されていく。
なお、本実施例では、イオンビームをシンクロトロン1から水平方向に取り出すため、高周波印加装置105bによりイオンビームに高周波電磁場を印加しているが、イオンビームをシンクロトロン1の垂直方向に取り出す場合には、高周波印加装置105aによってイオンビームに高周波電磁場を印加すれば良い。
シンクロトロン1から出射されたイオンビームはビーム輸送系により照射室4に導かれ、照射室4に設置された照射装置(図示せず)によって癌患者の患部に照射され、癌治療が行われる。
本実施例によれば、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化した後にイオンビームの出射を行うため、出射の際に印加する高周波電磁場の強度を一定に保つことにより、シンクロトロン1から出射されるイオンビームの電流値の変動を抑制することができる。
また、本実施例では、前述の実施例1と同様の方法にてイオンビームの粒子数密度分布を平坦化するため、実施例1と同様にイオンビームの電流値及びエネルギーによらず、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。
なお、本実施例では、3〔MeV〕で40〔mA〕のイオンビームを、250〔MeV〕まで加速する例について説明したが、本発明が適用可能なイオンビームのエネルギーや電流は上記の値に限られるものではない。例えば、癌治療に用いられるイオンビームとして一般的な、加速後のエネルギーが70〜250〔MeV〕の範囲内で電流が10〜100〔mA〕の範囲内であるようなイオンビームを扱うシンクロトロンに対して本発明は有効である。なぜならば、エネルギーが70〜250〔MeV〕の範囲内で電流が10〜100〔mA〕の範囲内であるようなイオンビームには空間電荷効果によるチューンの変化が起こらないからである。
また、本実施例では、3〔MeV〕で40〔mA〕のイオンビームをシンクロトロン1に入射して加速を行う前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行っているが、シンクロトロン1に入射するイオンビームのエネルギーがもっと高いか、若しくは電流が小さいために空間電荷効果によるチューンの変化が発生しないような場合には、イオンビームの加速前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行う必要はなく、イオンビームの加速後にのみイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行えば良い。
なお、以上説明した実施例1及び実施例2では、多重回転入射法によりイオンビームをシンクロトロンに入射しているが、電子冷却によるイオンビーム径の減少を利用してイオンビームを多重入射してもよい。
また、前述の実施例2におけるシンクロトロン1からのイオンビームの出射に、共鳴の安定限界を徐々に狭くしていく方法を用いても構わない。その場合にも共鳴の安定限界を狭くしていく速度を一定に保つことによって、出射されるイオンビームの電流値の変動を抑制することが可能となる。
(実施例3)
本発明の他の実施例である円形加速器システムについて説明する。なお、本実施例の円形加速器システムは、電子ビームを加速・蓄積して電子から発せられる放射光を取り出す蓄積リングを有する円形加速器システムである。以下、前述の実施例1と異なる点について説明する。
第7図は、本実施例の円形加速器システムの構成を示す。第7図において、前段加速器3は、200〔MeV〕の電子ビームを出射する。前段加速器3から出射された電子ビームはビーム輸送系を介して蓄積リング6に入射される。蓄積リング6に入射された電子ビームは、放射光を放出しながらビーム径が減少する。この現象を放射減衰と呼ぶが、本実施例の蓄積リング6ではこの放射減衰によるビーム径の減少を利用して多重入射を行い、最終的には数100〔mA〕程度の電子ビームを蓄積リング6に入射する。
電子ビームの入射が終了したら、実施例1と同様にして粒子数密度分布の平坦化と加速を行う。本実施例では、500〔MeV〕まで電子ビームを加速する。加速された電子ビームは、そのエネルギーに応じた波長の放射光を放出する。前述のように電子ビームは、放射光の放出と共にそのビーム径が減少してしまう。そこで、本実施例では、電子ビームのビーム径の増加を行うが、ビーム径の増加は粒子数密度分布の平坦化と同時に行うことができる。以下、詳細に説明する。
ビーム径の増加及び粒子数密度分布の平坦化に際し、八極電磁石107を励磁するとともに、高周波印加装置105aによって垂直方向の高周波電磁場の印加を行う。高周波電磁場の周波数帯域、すなわち高周波信号制御部21aから出力する周波数帯域の最小値fya及び最大値fybの決定方法について説明する。第8図は、八極電磁石107を励磁したときの電子ビームのベータトロン振動振幅とチューンとの関係を示す。第8図において、加速終了後の電子ビームのベータトロン振動振幅はyb0であり、必要とされる(ビーム径増加後の)ベータトロン振動振幅をybとすると、ベータトロン振動振幅yb0,ybに対応するチューンはそれぞれνb0,νbであり、更にビーム中心に位置する電子のチューンはνaである。高周波信号制御部21aから出力する最小値fyaにはチューンνaに電子ビームの周回周波数frevをかけた値、すなわちビーム中心に位置する電子のベータトロン振動周波数を設定し、最大値fybにはチューンνbに電子ビームの周回周波数frevをかけた値、すなわち必要とされるベータトロン振動振幅の電子のベータトロン振動周波数を設定する。
このような周波数帯域の高周波電磁場を電子ビームに印加することによって、まずは、電子ビームの軌道勾配が変化する。つまり、電子ビームのベータトロン振動振幅が変化する。ベータトロン振動振幅が増加すると、それに応じてビームのチューンも変化する。ここで、例えば、ベータトロン振動振幅がyb0である電子のベータトロン振動振幅が増加する方向に変化した場合を考えると、高周波電磁場の周波数帯域は最大値がfybであるので、更にベータトロン振動振幅が変化する。つまり、高周波電磁場が印加されている周波数帯域の範囲内で電子ビームのベータトロン振動振幅は変化を繰返すので、最終的にはビーム径はybまで広がるとともに、電子ビームの粒子数密度分布が平坦化される。なお、水平方向についても、高周波印加装置105bを用いて同様にイオンビームのビーム径の拡大と、粒子数密度分布の平坦化を行うことができる。なお、八極電磁石107の励磁量を低下させれば、印加する高周波電磁場の周波数帯域を狭くすることも可能である。
このようにして、電子ビームのビーム径を拡大することによって、得られる放射光の照射野を拡大することができ、かつ、電子ビームの粒子数密度分布を平坦化することにより放射光の強度分布を平坦化することが可能となる。本実施例では、電子ビームが偏向電磁石103’によって偏向されるときに、放出される放射光を取り出し、放射光利用装置7において利用される。
本実施例では、実施例1と同様に電子ビームの電流値及びエネルギーによらず、電子ビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。
なお、本実施例では、200〔MeV〕で100〔mA〕の電子ビームを、500〔MeV〕まで加速する例について説明したが、本発明が適用可能な電子ビームのエネルギーや電流は上記の値に限られるものではない。例えば、放射光取り出しに用いられる電子ビームとして一般的な、加速後のエネルギーが500〜3000〔MeV〕の範囲内で電流が100〜1000〔mA〕の範囲内であるような電子ビームを扱うシンクロトロンに対して本発明は有効である。なぜならば、エネルギーが500〜3000〔MeV〕の範囲内で電流が100〜1000〔mA〕の範囲内であるような電子ビームには空間電荷効果によるチューンの変化が起こらないからである。
また、本実施例では、200〔MeV〕で100〔mA〕の電子ビームを蓄積リング6に入射して加速を行う前に電子ビームの粒子数密度分布の平坦化を行っているが、蓄積リング6に入射する電子ビームのエネルギーがもっと高いか、若しくは電流が小さいために空間電荷効果によるチューンの変化が発生しないような場合には、電子ビームの加速前に電子ビームの粒子数密度分布の平坦化を行う必要はなく、電子ビームの加速後にのみ電子ビームの粒子数密度分布の平坦化を行えば良い。
なお、本実施例で説明した粒子数密度分布を平坦化すると共にビーム径を拡大する方法は、前述の実施例1及び実施例2に対しても適用することができる。
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明が適用できる円形加速器は上述の3つの円形加速器に限られるものではなく、例えば、イオンビームを出射して生物に照射する実験に用いるシンクロトロンや、電子と陽電子とを同時に加速して衝突させる蓄積リングなど、荷電粒子ビームを周回させながら加速する円形加速器であれば、本発明を適用することができる。また、上述の各実施例では、イオンビームのチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させるために八極電磁石を励磁しているが、八極電磁石に限らず六極以上の多極電磁石であれば用いることができる。
産業上の利用可能性
本発明は、イオンビームを加速して出射するシンクロトロン、或いは電子ビームを加速して放射光を取り出す蓄積リング等に適用することができる。この適用により、シンクロトロンや蓄積リングにおいてビームの粒子数密度分布を平坦化でき、出射されるイオンビームの電流値変動を抑制するための制御の簡単化や、取り出される放射光の強度の均一化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の好適な一実施例である円形加速器システムの構成図、第2図は、イオンビームのベータトロン振動振幅とチューンとの関係を示す図、第3図は、高周波印加装置105aと制御装置2の構成を示す図、第4図は、荷電粒子ビームの粒子数密度分布を示す図、第5図は、高周波印加装置105bと制御装置2の構成を示す図、第6図は、本発明の他の実施例である円形加速器システムの構成図、第7図は、本発明の他の実施例である円形加速器システムの構成図、第8図は、電子ビームのベータトロン振動振幅とチューンとの関係を示す図である。
本発明は、円形加速器の制御方法及び制御装置、並びに円形加速器システムに関する。
背景技術
イオンビームや電子ビーム等の荷電粒子ビームを周回させながら加速したり、或いは蓄積する円形加速器としては、加速したイオンビームを出射してターゲット(例えば、タングステン)に照射することにより中性子を発生させるためのシンクロトロンや、加速したイオンビームを出射して癌患者の患部に照射することにより癌治療を行うためのシンクロトロン、或いは、電子ビームを加速することにより電子から放出される放射光を得る蓄積リング等が知られている。これらの円形加速器では、入射される荷電粒子ビームの粒子数密度分布はガウス分布となっており、粒子数密度分布の平坦化が要求されている。
例えば、上述の中性子を発生させるためのシンクロトロンや癌治療を行うためのシンクロトロンにおいては、共鳴を利用してイオンビームをシンクロトロンから出射するか、若しくは、キッカー電磁石等を用いてイオンビームを偏向することによってイオンビームをシンクロトロンから出射するが、共鳴を利用して出射を行う場合に周回するイオンビームの粒子数密度分布が平坦化されていないと、出射されるイオンビームの電流値の時間的変動を抑制するのが困難であった。また、周回するイオンビームをキッカー電磁石により偏向して出射を行う場合に周回するイオンビームの粒子数密度分布が平坦化されていないと、出射されるイオンビームにおける粒子数密度分布も不均一となり、タングステンや癌患者の患部といった照射対象に対してイオンビームを均一に照射するために複雑な制御が必要とされた。更に、電子ビームを加速して放射光を取り出す蓄積リングにおいては、周回する電子ビームの粒子数密度分布が平坦化されていないと、取り出した放射光の強度分布が不均一になるという問題があった。
以上のような問題を解決するためには、前述のように、円形加速器において周回する荷電粒子ビームの粒子数密度分布を平坦化しなければならない。周回する荷電粒子ビームの粒子数密度分布を平坦化する方法としては、特開平11−111500号公報に荷電粒子ビームに生じる空間電荷効果を利用した粒子数密度分布平坦化の技術が記載されている。上記公報に記載された技術について、以下に説明する。荷電粒子ビームにはその電流値(粒子数密度)が大きいほど、またエネルギーが低いほど、荷電粒子ビームのチューンを低下させる空間電荷効果が生じるので、粒子数密度分布がガウス分布である荷電粒子ビームの場合、粒子数密度の高い中心部付近に位置する荷電粒子(すなわち、ベータトロン振動振幅の小さな荷電粒子)ほどチューンが低下する。そこで、チューンの低下した中心部付近の荷電粒子がベータトロン振動する周波数の成分を含む高周波電磁場を荷電粒子ビームに印加することによって、中心部付近に位置する荷電粒子のベータトロン振動振幅を増加させることができる。このように中心部付近に位置する荷電粒子のベータトロン振動振幅を増加させることによって、中心部付近の荷電粒子の粒子数密度は低下し、逆に荷電粒子ビームの周辺部付近の粒子数密度が上昇する。よって、荷電粒子ビームの粒子数密度分布は平坦化される。
しかしながら、上記従来技術では、空間電荷効果によるチューンの低下を利用するため、空間電荷効果が殆ど発生しないような小電流又は高エネルギーの荷電粒子ビームに対しては粒子数密度分布の平坦化を行うことができない。つまり、従来技術では、円形加速器を周回する荷電粒子ビームの電流とエネルギーの値によっては粒子数密度分布を平坦化できない場合がある。
発明の開示
本発明の目的は、周回する荷電粒子ビームの電流及びエネルギーの値によらず荷電粒子ビームの粒子数密度分布を制御することができる円形加速器の制御方法及び制御装置、並びに円形加速器システムを提供することにある。
上記目的を達成する本発明の特徴は、周回する荷電粒子ビームにベータトロン振動の周波数成分を含む高周波電磁場を印加する高周波印加装置と、前記荷電粒子ビームに六極以上の多極磁場を印加する多極電磁石と、前記荷電粒子ビームに四極磁場を印加する四極電磁石と、前記高周波電磁場及び前記多極磁場が荷電粒子ビームに印加されているときに、荷電粒子ビームが3次以下の共鳴を起こさないように前記四極電磁石に供給される電流を制御する制御装置とを有することにある。
周回する荷電粒子ビームにベータトロン振動の周波数成分を含む高周波電磁場を印加することにより、荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅は変化し、また、荷電粒子ビームに六極以上の多極磁場を印加することにより荷電粒子ビームのチューンはベータトロン振動振幅の大きさに応じて変化する。このベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化とを繰り返すことによって、荷電粒子ビームの粒子数密度分布は平坦化される。高周波電磁場の印加によるベータトロン振動振幅の変化と、多極磁場の印加によるチューンの変化は荷電粒子ビームのエネルギーや電流の値によらずに行うことができるため、周回する荷電粒子ビームの電流及びエネルギーの値によらず荷電粒子ビームの粒子数密度分布を制御することができる。
発明を実施するための最良の形態
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。
(実施例1)
第1図は、本発明の好適な一実施例である円形加速器システムを示す。本実施例の円形加速器システムは、円形加速器として500〔MeV〕のイオンビームを5〔A]入射して2.5〔GeV〕まで加速した後出射するシンクロトロン1を用い、シンクロトロン1から出射されたイオンビームをターゲット(本実施例ではタングステン)に照射して中性子を発生させる円形加速器システムである。なお、上記入射電流値は、入射された粒子の総電荷数に周回周波数をかけた値である。また、円形加速器とは、本実施例で説明する荷電粒子ビームを加速して出射するシンクロトロンや、荷電粒子ビームを加速・蓄積する蓄積リングのような、荷電粒子ビームを周回させながら加速する加速器のことを指す。
第1図において、制御装置2からの指示に従って前段加速器3は500〔MeV〕で7〔A〕の水素の正イオン(陽子)のビーム(以下、イオンビームという)を出射する。ここで、電流値が入射時よりも大きくなっているのは、エネルギーの増加に伴って周回周波数が高くなるためである。なお、前段加速器3から出射されるイオンビームの粒子数密度分布(すなわち強度分布)は、第2図(a)に示すようなガウス分布となっている。前段加速器3から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系を介してシンクロトロン1の入射器101に導かれ、入射器101によってシンクロトロン1に入射される。
シンクロトロン1は、イオンビームをシンクロトロン1に入射する入射器101の他に、入射されたイオンビームの軌道を予め設定された設計軌道に合わせるパルス電磁石102,イオンビームが設計軌道に沿って周回するようにイオンビームを偏向する偏向電磁石103,イオンビームのチューン(シンクロトロンを1周する間のベータトロン振動数)を制御する四極発散電磁石104aと四極収束電磁石104b,イオンビームに高周波の磁場及び電場(以下、高周波電磁場という)を印加してイオンのベータトロン振動振幅を変化させる高周波印加装置105a,105b,イオンビームにエネルギーを与えて加速する高周波加速空胴106,イオンのチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させる八極電磁石107,イオンビームを設計軌道から離すパルス電磁石108,イオンビームをシンクロトロン1から出射する出射器109を有する。
制御装置2は、シンクロトロン1にイオンビームが入射されるのに合わせて、イオンビームがシンクロトロン1を安定に周回できるようにパルス電磁石102,偏向電磁石103,四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bを制御する。具体的には、制御装置2は、パルス電磁石102の電源装置5aに対し、入射されたイオンビームの軌道を設計軌道に合わせるのにパルス電磁石102で必要とされる電流値を指示する。電源装置5aは、指示された値の電流をパルス電磁石102に供給する。電流が供給されたパルス電磁石102は電流の値に応じた磁場を発生し、その磁場によってイオンビームの軌道が設計軌道に合わせられる。
また、制御装置2は、シンクロトロン1に入射されたイオンビームのエネルギー(500〔MeV〕)に応じて、偏向電磁石103に供給する電流の値を電源装置5bに指示する。電源装置5bは、制御装置2から指示された値の電流を偏向電磁石103に供給し、偏向電磁石103は、電源装置5bより供給された電流に応じて磁場を発生する。なお、第1図では、電源装置5bから1つの偏向電磁石103にのみ電流が供給されているように示しているが、その他の偏向電磁石103にも同じ電流が供給される。また、偏向電磁石103以外の電磁石についても同様に、同一符号の電磁石には同じ電流が供給される。シンクロトロン1に入射されたイオンビームは、偏向電磁石103により軌道が曲げられて、設計軌道上を周回する。
更に、制御装置2は、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bに供給する電流の値を電源装置5c,5dに指示する。電源装置5c,5dは、制御装置2から指示された値の電流を四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bにそれぞれ供給し、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bは、電源装置5c,5dより供給された電流に応じて磁場を発生する。なお、四極発散電磁石104aは、水平方向にイオンビームを収束させて垂直方向にイオンビームを発散させるようにイオンビームの軌道勾配を変える電磁石であり、四極収束電磁石104bは、水平方向にイオンビームを発散させて垂直方向にイオンビームを収束させるようにイオンビームの軌道勾配を変える電磁石である。このような四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bによりイオンビームのチューンは制御される。入射と加速の過程でイオンビームを安定に周回させるには、イオンビームのチューンを共鳴が生じない値にしておく必要があり、特に整数共鳴,2次共鳴及び3次共鳴を起こすチューンからは離しておく必要がある。本実施例では、水平方向チューンνx及び垂直方向チューンνyが共に1.25になるように四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bの励磁量を制御装置2及び電源装置5c,5dにより制御する。なお、本実施例において、水平方向とはシンクロトロン1におけるイオンビームの周回面に水平でかつイオンビームの進行方向に垂直な方向をいい、垂直方向とはシンクロトロン1におけるイオンビームの周回面に垂直でかつイオンビームの進行方向に垂直な方向をいう。
本実施例では、多重回転入射法を用いてイオンビームをシンクロトロン1に入射する。そのために、パルス電磁石102に供給する電流を、時間の経過と共に減少するように制御する。つまり、パルス電磁石102から発せられる磁場の強度を徐々に弱くしていくことにより、水平方向におけるイオンビームの位置をずらしながら、イオンビームをシンクロトロン1に入射していく。そのことにより、シンクロトロン1において周回するイオンビームの径は水平方向に広がり、また水平方向の粒子数密度分布は垂直方向の粒子数密度分布に比べて若干平坦な分布となる。なお、本実施例のシンクロトロン1では、イオンビームの電流値が5〔A〕となるまでイオンビームの入射を継続する。
以上説明したパルス電磁石102,偏向電磁石103,四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bに供給する電流値については、予め計算若しくは実験により適切な値を求めておき、各電流値のパターンを制御装置2内のメモリ(図示せず)に記憶させておく。
以上のようにして、シンクロトロン1に500〔MeV〕で5〔A〕のイオンビームが入射されると、イオンビームには空間電荷効果が生じ、イオンビームのチューンが変化する。第2図(b)は、イオンの垂直方向のベータトロン振動振幅の大きさとチューンとの関係を示す。第2図(b)に示されるように、空間電荷効果によりベータトロン振動振幅の小さなイオンほどチューンが低下する。これは、第2図(a)に示すように垂直方向におけるイオンビームの粒子数密度分布がガウス分布をしているために、イオンビームの中心に近いほど粒子数密度が高く(電流が大きく)、空間電荷効果の影響が大きくなるからである。このようなチューンの低下によりイオンのチューンが1.0になると、整数共鳴によってイオンのベータトロン振動振幅が急激に増加し、ベータトロン振動振幅が増加したイオンはイオンビームの通路である真空ダクトに衝突して消滅してしまう。なお、水平方向においては、多重回転入射法を用いたことにより粒子数密度分布が垂直方向に比べて若干平坦化されているが、垂直方向と同様に空間電荷効果によるチューンの低下が発生する。
上述のような空間電荷効果に起因するイオンビームの損失をなくすために、本実施例では、高周波印加装置105aによってイオンビームに垂直方向の高周波電磁場を印加し、高周波印加装置105bによってイオンビームに水平方向の高周波電磁場を印加する。
まずは、高周波印加装置105aによる垂直方向の高周波電磁場の印加方法について説明する。第3図は、高周波印加装置105aと、高周波印加装置105aを制御するための制御装置2の構成を示す。第3図において、まず高周波信号制御部21aが、周波数スペクトル発生部22aに対して周波数帯域の最小値fyaと最大値fybとを指示する。この最小値fya及び最大値fybについて説明する。
第2図に示すように、垂直方向においてベータトロン振動振幅が最大(yb)であるイオンのチューンがνbであるとすると、そのイオンのベータトロン振動の周波数を最大値fybとする。最大値fybは、(数1)で表わされる。
fyb=frev・νb …(数1)
なお、frevはイオンの周回周波数である。このように、最大のベータトロン振動振幅を有するイオンのベータトロン振動の周波数を、最大値fybとして設定する。また、最小値fyaとしては、垂直方向においてイオンビームの中心に位置するイオンのチューンν0よりも小さな値νaに周回周波数frevを乗算して求められる周波数を設定する。
周波数スペクトル発生部22aは、高周波信号制御部21aから与えられた最小値fyaから最大値fybまでの周波数帯域を有する周波数スペクトルを逆フーリエ変換部23a(逆FFT部23a)に出力する。逆FFT部23aは、入力された周波数スペクトルから逆フーリエ変換によりディジタルの時間領域信号を得る。なお、逆フーリエ変換により時間領域信号を得る際には、各周波数スペクトル間の位相をランダムに設定する。得られた時間領域信号はディジタル/アナログ変換部24a(D/A変換部24a)に入力され、D/A変換部24aは、ディジタルの時間領域信号をアナログの高周波信号に変換する。D/A変換部24aから出力された高周波信号は高周波印加装置105aの増幅器31に入力され、増幅器31は、高周波制御部21aから与えられる増幅率指示値に従って高周波信号を増幅する。増幅器31で増幅された高周波信号は、ビームの通路である真空ダクト内において垂直方向に並べられた2つの電極32a,32bに印加される。高周波信号が印加された電極32a,32bは、その高周波信号と同じ周波数成分を有する垂直方向の高周波電磁場を発生し、発生した高周波電磁場は真空ダクト内を通過するイオンビームに印加される。
この高周波電磁場には、イオンビームのベータトロン振動の周波数成分が含まれているため、高周波電磁場が印加されたイオンビームは軌道勾配が変化し、ベータトロン振動振幅が変化する。なお、逆FFT部23aにおいて、各周波数スペクトル間の位相差をランダムにしたため、ベータトロン振動振幅の変化の方向(ベータトロン振動振幅が増加するのか減少するのか)は、各イオン毎に異なる。ベータトロン振動振幅が変化したイオンは、第2図(b)のベータトロン振動振幅とチューンとの関係に従って、チューンも変化する。このベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化を繰り返すことによって、イオンビームの粒子数密度分布は第4図に示すように垂直方向において平坦化される。本実施例の場合、ビーム中心からビーム半径の±30%の範囲で粒子数密度の誤差を±4〜5%程度に制御できることが確かめられた。
次に、高周波印加装置105bによる水平方向の高周波電磁場の印加方法について説明する。第5図は、高周波印加装置105bと、高周波印加装置105bを制御するための制御装置2の構成を示す。第5図において、まず高周波信号制御部21bが、周波数スペクトル発生部22bに対して周波数帯域の最小値fxaと最大値fxbを指示する。この最小値fxa及び最大値fxbの決定方法は、垂直方向における最小値fya及び最大値fybの場合と同様に、水平方向において最大のベータトロン振動振幅を有するイオンのベータトロン振動の周波数を最大値fxbとして設定し、最小値fxaとしては水平方向においてイオンビームの中心に位置するイオンのチューンよりも小さな値に周回周波数frevを乗算して求められる周波数を設定する。
周波数スペクトル発生部22b,逆FFT部23b、及びD/A変換部24bの動作は、垂直方向における周波数スペクトル発生部22a,逆FFT部23a、及びD/A変換部24aと同様であり、D/A変換部24bから出力された高周波信号は高周波印加装置105bの増幅器33に入力される。増幅器33は、高周波制御部21bから与えられる増幅率指示値に従って高周波信号を増幅する。増幅器33で増幅された高周波信号は、ビームの通路である真空ダクト内に水平方向に並べられた2つの電極34a,34bに印加される。高周波信号が印加された電極34a,34bは、その高周波信号と同じ周波数成分を有する水平方向の高周波電磁場を発生し、発生した高周波電磁場は真空ダクト内を通過するイオンビームに印加される。
この高周波電磁場には、水平方向におけるイオンビームのベータトロン振動の周波数成分が含まれているため、高周波電磁場が印加されたイオンは水平方向における軌道勾配が変化し、ベータトロン振動振幅が変化する。ベータトロン振動振幅が変化したイオンは、チューンも変化し、このベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化を繰り返すことによって、イオンビームの水平方向における粒子数密度分布は垂直方向と同様に平坦化される。
このように、垂直方向及び水平方向におけるイオンビームの粒子数密度分布を平坦化することによって、イオンビームの中心部付近における粒子数密度が低下し、空間電荷効果によるチューンの低下が抑制されるので、共鳴によってイオンのベータトロン振動振幅が増加するのを防ぐことができる。よって、イオンビームの損失を低減することができる。
なお、本実施例では、高周波信号制御部21a,21bから増幅器31,33に対して増幅率指示値を出力しているが、この増幅率指示値を高くするほどイオンビームに印加される高周波電磁場の強度が強くなり、イオンビームの粒子数密度分布の平坦化をより早く行うことができる。逆に、増幅率指示値を低くして、高周波電磁場の強度を弱くすると、粒子数密度分布の平坦化をゆっくりと行うことができる。このように、高周波信号制御部21a,21bから増幅器31,33に与える増幅率指示値を制御することにより、イオンビームに印加する高周波電磁場の強度を制御して、粒子数密度分布の平坦化の速度を制御することができる。
また、本実施例では、イオンビームの入射が完全に終了してから粒子数密度分布の平坦化を行うように説明しているが、イオンビームの入射を行う前から高周波電磁場を印加しておくことが望ましい。
イオンビームの粒子数密度分布が平坦化されたら、高周波印加装置105a,105bからの高周波電磁場の印加を停止する。この状態でイオンビームはシンクロトロン1内を安定に周回する。その過程で高周波加速空胴106からイオンビームに高周波電場を印加することにより、イオンビームにエネルギーが与えられ、イオンビームは加速される。高周波加速空胴106からイオンビームに印加される高周波電場の周波数は、周回するイオンビームのベータトロン振動周波数の整数倍に設定される。なお、この高周波加速空胴106には、制御装置2により指示された値の電流が電源5eから供給される。
また、高周波加速空胴106によりビームを加速するときには、偏向電磁石103,四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104b各々の磁場強度比を一定に保ちつつ磁場強度を増加させる。そのことにより、周回するイオンビームのエネルギーが上昇しても、チューンが設定された値からずれることなく、またイオンビームの軌道が設計軌道からはずれないため、イオンビームを安定に周回させることができる。
シンクロトロン1内を周回するイオンビームのエネルギーが、オペレータが制御装置2に入力した目標エネルギー(本実施例では2.5〔GeV〕)まで増加したら、高周波加速空胴106によるビームへのエネルギーの付与を停止する。このようにイオンビームを加速すると、平坦であったイオンビームの粒子数密度分布はガウス分布に戻ってしまうと言われている。そこで、再度、粒子数密度分布の平坦化を行う必要がある。しかしながら、加速後のイオンビームのエネルギーは5〔GeV]に達しており、空間電荷効果によるチューンの低下は殆ど起こらないため、この状態で前述のように高周波電磁場をイオンビームに印加したとしても、粒子数密度分布の平坦化を行うことはできない。
そこで、本実施例では、八極電磁石107によりイオンビームに八極磁場を印加することによって、イオンビームのチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させる。そのために、まず制御装置2から電源装置5fに対して電流指令を出力する。電源装置5fは指示された値の電流を八極電磁石107に対して出力する。八極電磁石107は、供給された電流に応じた八極磁場を発生し、イオンビームに印加する。八極電磁石107によって発せられる八極磁場は、イオンビームの軌道勾配を変化させるが、イオンのベータトロン振動振幅が大きいほど軌道勾配の変化量が大きくなるように作用するため、八極磁場が印加されたイオンビームのチューンは、第2図(b)に示すようにベータトロン振動振幅に応じて変化する。つまり、イオンビームに対して空間電荷効果と同様に作用する。なお、八極磁場によるイオンビームのチューンの変化を効率良く行うために、本実施例のシンクロトロン1では八極電磁石107を四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bに隣接させて配置している。つまり、シンクロトロン1において、四極発散電磁石104aではイオンビームの垂直方向のビーム径が最大となっているので、四極発散電磁石104aの隣に配置された八極電磁石107により、イオンビームの垂直方向のチューンを効率良く変化させることができ、逆に、四極収束電磁石104bではイオンビームの水平方向のビーム径が最大となるので、四極収束電磁石104aの隣に配置された八極電磁石107により、イオンビームの水平方向のチューンを効率良く変化させることができる。
上述のようにして、八極電磁石107によりイオンビームのチューンを変化させると共に、再び高周波印加装置105aによってイオンビームに垂直方向の高周波電磁場を印加する。なお、高周波信号制御部21aから周波数スペクトル発生部22aに出力する周波数帯域の最小値fya及び最大値fybの決定方法については、第2図(b)を用いて説明した加速前の平坦化の場合と同様であるので、詳細な説明は省略するが、加速前よりもイオンビームのエネルギーが高くなっているので、frevが大きく、そのため最小値fya,最大値fyb共に加速前の平坦化のときよりも大きくなる。この高周波電磁場の印加により、ベータトロン振動振幅の変化とチューンの変化が繰返し起こり、再びイオンビームの粒子数密度分布が平坦化される。また、水平方向についても垂直方向と同様に、高周波印加装置105bにより高周波電磁場を印加して、再度イオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行う。
イオンビームの粒子数密度分布が平坦化されたら、高周波印加装置105a,105bからの高周波電磁場の印加を停止し、また八極電磁石107からの八極磁場の印加を停止する。次に、パルス電磁石108に対して電源装置5gから電流を供給し、パルス電磁石108から発せられる磁場によりイオンビームの軌道を設計軌道からシンクロトロン1の外側方向にずらしていく。そしてイオンビームを出射器109に導き、出射器109によりイオンビームをシンクロトロン1から出射する。
シンクロトロン1から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系を介して照射室4に輸送され、照射室4に配置された照射装置(図示せず)によりタングステンに照射される。タングステンはイオンビームが照射されると中性子を発生するが、このタングステンから発生する中性子の強度は照射されるイオンビームの強度(粒子数密度)に依存するため、本実施例のように粒子数密度分布が平坦化されたイオンビームをタングステンに照射することにより、強度分布の平坦な中性子を得ることができる。
以上説明したように、本実施例によれば、空間電荷効果の影響が殆どないような加速後のイオンビームに対しても、八極電磁石107によってチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させた後、高周波電磁場を印加することで、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。つまり、イオンビームの電流及びエネルギーの値によらず、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。
また、本実施例のように、イオンビームを加速した後に粒子線密度分布の平坦化を行うため、粒子線密度分布が平坦化された状態でイオンビームをシンクロトロン1から出射することができる。よって、そのイオンビームをタングステンに照射した場合に、強度分布の平坦な中性子が得られる。
なお、本実施例では、500〔MeV〕で5〔A〕のイオンビームを、2.5〔GeV〕まで加速する例について説明したが、本発明が適用可能なイオンビームのエネルギーや電流は上記の値に限られるものではない。例えば、中性子発生に用いられるイオンビームとして一般的な、加速後のエネルギーが1〔GeV〕以上(例えば、1〜20〔GeV〕)の範囲内で電流が1〜50〔A〕の範囲内であるようなイオンビームを扱うシンクロトロンに対して本発明は有効である。なぜならば、エネルギーが1〔GeV〕以上の範囲内で電流が1〜50〔A〕の範囲内であるようなイオンビームには空間電荷効果によるチューンの変化が起こらないからである。
また、本実施例では、500〔MeV〕で5〔A〕のイオンビームをシンクロトロン1に入射して加速を行う前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行っているが、シンクロトロン1に入射するイオンビームのエネルギーがもっと高いか、若しくは電流が小さいために空間電荷効果によるチューンの変化が発生しないような場合には、イオンビームの加速前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行う必要はなく、イオンビームの加速後にのみイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行えば良い。
更に、本実施例では、イオンビームを加速する前の粒子数密度分布の平坦化に空間電荷効果によるチューンの変化を利用しているが、八極電磁石107を励磁してチューンを変化させても良い。但し、本実施例のように空間電荷効果を利用した方が八極電磁石107の制御を省くことができ、また八極電磁石に供給する電流も節約できることは言うまでもない。
(実施例2)
本発明の他の実施例である円形加速器システムについて説明する。なお、本実施例の円形加速器システムは、シンクロトロンからのイオンビームの出射を共鳴を用いて行う点と、シンクロトロンから出射したイオンビームを癌患者の患部に照射して癌治療を行う点で前述の実施例1と異なる。以下、実施例1と異なる点について主に説明する。
第6図は、本実施例の円形加速器システムの構成を示す。本実施例の円形加速器システムでは、3〔MeV〕のイオンビームをシンクロトロン1に40〔mA〕入射する。本実施例でもイオンビームは多重回転入射法により入射する。また、シンクロトロン1にイオンビームを入射してから加速後のイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行うまでのシンクロトロン1の運転方法は前述の実施例1と同様である。なお、本実施例では、イオンビームを250〔MeV〕まで加速する。
本実施例におけるイオンビームのシンクロトロン1からの出射方法について詳細に説明する。加速後のイオンビームの粒子数密度分布の平坦化が終わって、高周波印加装置105a,105bからの高周波電磁場の印加を停止し、また、八極電磁石107からの八極磁場の印加を停止したら、次に、六極電磁石111を励磁すると共に、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bの励磁量を変化させる。このとき、四極発散電磁石104a及び四極収束電磁石104bからイオンビームに印加される磁場の強度を制御してイオンビームのチューンを1.32に設定すると共に、六極電磁石111からイオンビームに印加する六極磁場の強度を制御して、ベータトロン振動振幅の最も大きなイオンのチューンが1.33となるように調節する。なお、この六極電磁石111の励磁量は予め計算若しくは実験により求めておき、制御装置2はその値を六極電磁石111に電流を供給する電源装置5hに対して出力する。
次に、高周波印加装置105bによりビームに水平方向の高周波電磁場を印加する。なお、イオンビームに印加する高周波電磁場の周波数帯域は、実施例1において説明した粒子数密度分布の平坦化を行うときと同様に、全てのイオンのベータトロン振動周波数が含まれるように設定すれば良い。この高周波電磁場が印加されることによりイオンビームの軌道勾配が変化し、イオンビームのベータトロン振動振幅が増加する。そして、ベータトロン振動振幅の最も大きなイオンのチューンが1.33であるため、チューンが1.33であるイオンのベータトロン振動振幅が増加してチューンが1+1/3を超えると、3次共鳴によりイオンビームのベータトロン振動振幅が急激に増大する。つまり、イオンビームが安定限界をこえることによりベータトロン振動振幅が急激に増加する。ベータトロン振動振幅が増加したイオンビームは出射器109に導かれ、出射器109によってシンクロトロン1から出射される。上述のように、シンクロトロン1において、高周波印加装置105bから高周波電磁場が印加されている間は、イオンビームのベータトロン振動振幅とチューンは絶えず変化しており、チューンが1+1/3を超えたものから順に出射されていく。
なお、本実施例では、イオンビームをシンクロトロン1から水平方向に取り出すため、高周波印加装置105bによりイオンビームに高周波電磁場を印加しているが、イオンビームをシンクロトロン1の垂直方向に取り出す場合には、高周波印加装置105aによってイオンビームに高周波電磁場を印加すれば良い。
シンクロトロン1から出射されたイオンビームはビーム輸送系により照射室4に導かれ、照射室4に設置された照射装置(図示せず)によって癌患者の患部に照射され、癌治療が行われる。
本実施例によれば、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化した後にイオンビームの出射を行うため、出射の際に印加する高周波電磁場の強度を一定に保つことにより、シンクロトロン1から出射されるイオンビームの電流値の変動を抑制することができる。
また、本実施例では、前述の実施例1と同様の方法にてイオンビームの粒子数密度分布を平坦化するため、実施例1と同様にイオンビームの電流値及びエネルギーによらず、イオンビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。
なお、本実施例では、3〔MeV〕で40〔mA〕のイオンビームを、250〔MeV〕まで加速する例について説明したが、本発明が適用可能なイオンビームのエネルギーや電流は上記の値に限られるものではない。例えば、癌治療に用いられるイオンビームとして一般的な、加速後のエネルギーが70〜250〔MeV〕の範囲内で電流が10〜100〔mA〕の範囲内であるようなイオンビームを扱うシンクロトロンに対して本発明は有効である。なぜならば、エネルギーが70〜250〔MeV〕の範囲内で電流が10〜100〔mA〕の範囲内であるようなイオンビームには空間電荷効果によるチューンの変化が起こらないからである。
また、本実施例では、3〔MeV〕で40〔mA〕のイオンビームをシンクロトロン1に入射して加速を行う前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行っているが、シンクロトロン1に入射するイオンビームのエネルギーがもっと高いか、若しくは電流が小さいために空間電荷効果によるチューンの変化が発生しないような場合には、イオンビームの加速前にイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行う必要はなく、イオンビームの加速後にのみイオンビームの粒子数密度分布の平坦化を行えば良い。
なお、以上説明した実施例1及び実施例2では、多重回転入射法によりイオンビームをシンクロトロンに入射しているが、電子冷却によるイオンビーム径の減少を利用してイオンビームを多重入射してもよい。
また、前述の実施例2におけるシンクロトロン1からのイオンビームの出射に、共鳴の安定限界を徐々に狭くしていく方法を用いても構わない。その場合にも共鳴の安定限界を狭くしていく速度を一定に保つことによって、出射されるイオンビームの電流値の変動を抑制することが可能となる。
(実施例3)
本発明の他の実施例である円形加速器システムについて説明する。なお、本実施例の円形加速器システムは、電子ビームを加速・蓄積して電子から発せられる放射光を取り出す蓄積リングを有する円形加速器システムである。以下、前述の実施例1と異なる点について説明する。
第7図は、本実施例の円形加速器システムの構成を示す。第7図において、前段加速器3は、200〔MeV〕の電子ビームを出射する。前段加速器3から出射された電子ビームはビーム輸送系を介して蓄積リング6に入射される。蓄積リング6に入射された電子ビームは、放射光を放出しながらビーム径が減少する。この現象を放射減衰と呼ぶが、本実施例の蓄積リング6ではこの放射減衰によるビーム径の減少を利用して多重入射を行い、最終的には数100〔mA〕程度の電子ビームを蓄積リング6に入射する。
電子ビームの入射が終了したら、実施例1と同様にして粒子数密度分布の平坦化と加速を行う。本実施例では、500〔MeV〕まで電子ビームを加速する。加速された電子ビームは、そのエネルギーに応じた波長の放射光を放出する。前述のように電子ビームは、放射光の放出と共にそのビーム径が減少してしまう。そこで、本実施例では、電子ビームのビーム径の増加を行うが、ビーム径の増加は粒子数密度分布の平坦化と同時に行うことができる。以下、詳細に説明する。
ビーム径の増加及び粒子数密度分布の平坦化に際し、八極電磁石107を励磁するとともに、高周波印加装置105aによって垂直方向の高周波電磁場の印加を行う。高周波電磁場の周波数帯域、すなわち高周波信号制御部21aから出力する周波数帯域の最小値fya及び最大値fybの決定方法について説明する。第8図は、八極電磁石107を励磁したときの電子ビームのベータトロン振動振幅とチューンとの関係を示す。第8図において、加速終了後の電子ビームのベータトロン振動振幅はyb0であり、必要とされる(ビーム径増加後の)ベータトロン振動振幅をybとすると、ベータトロン振動振幅yb0,ybに対応するチューンはそれぞれνb0,νbであり、更にビーム中心に位置する電子のチューンはνaである。高周波信号制御部21aから出力する最小値fyaにはチューンνaに電子ビームの周回周波数frevをかけた値、すなわちビーム中心に位置する電子のベータトロン振動周波数を設定し、最大値fybにはチューンνbに電子ビームの周回周波数frevをかけた値、すなわち必要とされるベータトロン振動振幅の電子のベータトロン振動周波数を設定する。
このような周波数帯域の高周波電磁場を電子ビームに印加することによって、まずは、電子ビームの軌道勾配が変化する。つまり、電子ビームのベータトロン振動振幅が変化する。ベータトロン振動振幅が増加すると、それに応じてビームのチューンも変化する。ここで、例えば、ベータトロン振動振幅がyb0である電子のベータトロン振動振幅が増加する方向に変化した場合を考えると、高周波電磁場の周波数帯域は最大値がfybであるので、更にベータトロン振動振幅が変化する。つまり、高周波電磁場が印加されている周波数帯域の範囲内で電子ビームのベータトロン振動振幅は変化を繰返すので、最終的にはビーム径はybまで広がるとともに、電子ビームの粒子数密度分布が平坦化される。なお、水平方向についても、高周波印加装置105bを用いて同様にイオンビームのビーム径の拡大と、粒子数密度分布の平坦化を行うことができる。なお、八極電磁石107の励磁量を低下させれば、印加する高周波電磁場の周波数帯域を狭くすることも可能である。
このようにして、電子ビームのビーム径を拡大することによって、得られる放射光の照射野を拡大することができ、かつ、電子ビームの粒子数密度分布を平坦化することにより放射光の強度分布を平坦化することが可能となる。本実施例では、電子ビームが偏向電磁石103’によって偏向されるときに、放出される放射光を取り出し、放射光利用装置7において利用される。
本実施例では、実施例1と同様に電子ビームの電流値及びエネルギーによらず、電子ビームの粒子数密度分布を平坦化することができる。
なお、本実施例では、200〔MeV〕で100〔mA〕の電子ビームを、500〔MeV〕まで加速する例について説明したが、本発明が適用可能な電子ビームのエネルギーや電流は上記の値に限られるものではない。例えば、放射光取り出しに用いられる電子ビームとして一般的な、加速後のエネルギーが500〜3000〔MeV〕の範囲内で電流が100〜1000〔mA〕の範囲内であるような電子ビームを扱うシンクロトロンに対して本発明は有効である。なぜならば、エネルギーが500〜3000〔MeV〕の範囲内で電流が100〜1000〔mA〕の範囲内であるような電子ビームには空間電荷効果によるチューンの変化が起こらないからである。
また、本実施例では、200〔MeV〕で100〔mA〕の電子ビームを蓄積リング6に入射して加速を行う前に電子ビームの粒子数密度分布の平坦化を行っているが、蓄積リング6に入射する電子ビームのエネルギーがもっと高いか、若しくは電流が小さいために空間電荷効果によるチューンの変化が発生しないような場合には、電子ビームの加速前に電子ビームの粒子数密度分布の平坦化を行う必要はなく、電子ビームの加速後にのみ電子ビームの粒子数密度分布の平坦化を行えば良い。
なお、本実施例で説明した粒子数密度分布を平坦化すると共にビーム径を拡大する方法は、前述の実施例1及び実施例2に対しても適用することができる。
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明が適用できる円形加速器は上述の3つの円形加速器に限られるものではなく、例えば、イオンビームを出射して生物に照射する実験に用いるシンクロトロンや、電子と陽電子とを同時に加速して衝突させる蓄積リングなど、荷電粒子ビームを周回させながら加速する円形加速器であれば、本発明を適用することができる。また、上述の各実施例では、イオンビームのチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させるために八極電磁石を励磁しているが、八極電磁石に限らず六極以上の多極電磁石であれば用いることができる。
産業上の利用可能性
本発明は、イオンビームを加速して出射するシンクロトロン、或いは電子ビームを加速して放射光を取り出す蓄積リング等に適用することができる。この適用により、シンクロトロンや蓄積リングにおいてビームの粒子数密度分布を平坦化でき、出射されるイオンビームの電流値変動を抑制するための制御の簡単化や、取り出される放射光の強度の均一化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の好適な一実施例である円形加速器システムの構成図、第2図は、イオンビームのベータトロン振動振幅とチューンとの関係を示す図、第3図は、高周波印加装置105aと制御装置2の構成を示す図、第4図は、荷電粒子ビームの粒子数密度分布を示す図、第5図は、高周波印加装置105bと制御装置2の構成を示す図、第6図は、本発明の他の実施例である円形加速器システムの構成図、第7図は、本発明の他の実施例である円形加速器システムの構成図、第8図は、電子ビームのベータトロン振動振幅とチューンとの関係を示す図である。
Claims (12)
- 周回する荷電粒子ビームにベータトロン振動の周波数成分を含む高周波電磁場を印加する高周波印加装置と、前記荷電粒子ビームに六極以上の多極磁場を印加する多極電磁石と、前記荷電粒子ビームに四極磁場を印加する四極電磁石と、前記高周波電磁場及び前記多極磁場が荷電粒子ビームに印加されているときに、荷電粒子ビームが3次以下の共鳴を起こさないように前記四極電磁石に供給される電流を制御する制御装置とを有することを特徴とする円形加速器システム。
- 前記高周波印加装置は、設定された周波数帯域を有する高周波電磁場を発生するものであって、前記制御装置は、前記荷電粒子ビームのチューンの最大値と最小値とに基づいて、前記高周波印加装置が発生する前記高周波電磁場の周波数帯域の最小値と最大値とを設定することを特徴とする請求項1記載の円形加速器システム。
- 前記多極電磁石は前記四極電磁石に隣接して配置されることを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の円形加速器システム。
- 周回する荷電粒子ビームの振動振幅を変化させる手段と、前記荷電粒子ビームのチューンをベータトロン振動振幅に応じて変化させる第1電磁石と、前記荷電粒子ビームのチューンを制御する第2電磁石と、荷電粒子ビームが3次以下の共鳴を起こさないように前記第2電磁石を制御する手段とを備えたことを特徴とする円形加速器システム。
- 荷電粒子ビームを円形加速器に入射し、前記円形加速器において入射された荷電粒子ビームを加速し、荷電粒子ビームを加速した後に、前記円形加速器において荷電粒子ビームに高周波電磁場及び六極以上の多極磁場を印加することによって荷電粒子ビームの粒子数密度分布を制御することを特徴とする円形加速器の制御方法。
- 荷電粒子ビームを円形加速器に入射し、前記円形加速器において入射された荷電粒子ビームを加速し、荷電粒子ビームを加速した後に、前記円形加速器において荷電粒子ビームに高周波電磁場及び六極以上の多極磁場を印加することによって荷電粒子ビームの粒子数密度分布を平坦化することを特徴とする円形加速器の制御方法。
- 前記円形加速器に荷電粒子ビームを入射した後で、かつ、荷電粒子ビームの加速を行う前に、前記円形加速器において荷電粒子ビームの粒子数密度分布を平坦化することを特徴とする請求項6記載の円形加速器の制御方法。
- 前記平坦化された荷電粒子ビームは、ビーム中心からビーム半径の±30%の範囲で粒子数密度の誤差が4〜5%であることを特徴とする請求項6及び7のいずれかに記載の円形加速器の制御方法。
- エネルギーが1〔GeV〕以上で、かつ電流が1〜50〔A〕の範囲内であるようなイオンビームが周回するシンクロトロンにおいて前記イオンビームの粒子数密度分布を平坦化した後、前記イオンビームを前記シンクロトロンから出射し、前記シンクロトロンから出射されたイオンビームをターゲットに照射することにより中性子を発生させることを特徴とする円形加速器の制御方法。
- エネルギーが70〜250〔MeV〕の範囲内で、かつ電流が10〜90〔mA〕の範囲内であるようなイオンビームが周回するシンクロトロンにおいて前記イオンビームの粒子数密度分布を平坦化した後、前記イオンビームを前記シンクロトロンから出射し、前記シンクロトロンから出射されたイオンビームを患者の患部に照射することを特徴とする円形加速器の制御方法。
- エネルギーが500〜3000〔MeV〕の範囲内で、かつ電流が100〜1000〔mA〕の範囲内であるような電子ビームが周回する蓄積リングにおいて前記電子ビームの粒子数密度分布を平坦化した後、前記電子ビームから発生される放射光を照射対象に照射することを特徴とする円形加速器の制御方法。
- 周回する荷電粒子ビームにベータトロン振動の周波数成分を含む高周波電磁場を印加する高周波印加装置と前記荷電粒子ビームに六極以上の多極磁場を印加する多極電磁石と前記荷電粒子ビームに四極磁場を印加する四極電磁石とを有する円形加速器を制御する制御装置であって、前記荷電粒子ビームに高周波電磁場及び多極磁場が印加されているときに、前記荷電粒子ビームが3次以下の共鳴を起こさないように前記四極電磁石に供給される電流を制御することを特徴とする円形加速器の制御装置。
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