JP3859051B2 - エンジンの自動停止始動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの点火制御を、走行中は所定の停車条件に応答して中断し、中断後は所定の発進操作に応答して再開するエンジンの自動停止始動制御装置に係り、特に、エンジン温度に応じてエンジンの自動停止を制限するエンジンの自動停止始動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
アイドリング時の排気ガスや燃料消費を抑えるために、車両を停止させるとエンジンが自動停止し、停止状態からスロットルグリップが操作される等の発進操作がなされると、エンジンを自動的に再始動して車両を発進させるエンジンの停止始動制御装置が知られている(特開平4−246252号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
高負荷での連続走行後のように、エンジン温度が冷却水の沸点を超えるような高温状態に達している場合でも、ウォーターポンプが作動していれば、冷却水はラジエタで冷却されながらエンジン内を循環するので沸騰することなない。
【0004】
ここで、前記ウォーターポンプには、エンジン回転を利用して作動するメカニカル形式と、電動モータを利用して作動する電動形式とがあり、前者は後者に比べて構造が簡単で安価かつ軽量であるものの、エンジンが停止するとウォーターポンプ自身も停止してしまう。
【0005】
したがって、上記したエンジンの停止始動制御装置を採用し、かつエンジン回転を利用して作動するウォーターポンプを採用すると、エンジンが高温状態にあるときに停車条件が成立してしまうと、エンジンが自動停止されると共にウォーターポンプも同時に停止してしまうので、エンジン温度が低下しにくいという問題があった。
【0006】
さらに、上記した従来技術ではエンジン温度をパラメータとした始動制御を行っていないため、高温状態で停止したエンジンを再始動して発進する場合にはノッキングが発生しやすいという技術課題があった。
【0007】
本発明の目的は、上記した従来の技術課題を解決し、エンジン温度を考慮してエンジンの自動停止始動を制御するエンジンの自動停止始動制御装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明は、エンジンの点火制御を、走行中は所定の停車条件に応答して中断し、中断後は運転者による所定の発進操作に応答して再開する点火制御手段を含むエンジンの自動停止始動制御装置において、前記点火制御手段が、少なくとも以下のような手段を含むことを特徴とする。
【0009】
(1) エンジン温度を検知するエンジン温度検知手段と、検知されたエンジン温度が所定の基準温度以上であると、エンジンの点火制御の中断を禁止する禁止手段とを含む。
【0010】
(2) エンジン温度を検知するエンジン温度検知手段と、検知されたエンジン温度が所定の基準温度以上であると、エンジンの点火制御を再開する際の点火時期を基準点火時期よりも遅角させる点火時期制御手段とを含む。
【0011】
上記した特徴(1) によれば、エンジン温度が所定の基準温度以上のときに所定の停車条件が成立してもエンジンの点火制御が中断されず、エンジンが回転し続けるのでエンジンを冷却させることができる。
【0012】
上記した特徴(2) によれば、エンジン温度が所定の基準温度以上であると、エンジンの点火制御を再開する際の点火時期が遅角されるのでノッキングの発生が防止される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。図1は、後に詳述する本発明のエンジン自動停止始動制御システムを搭載した自動二輪車の側面図である。
【0014】
車体前部2と車体後部3とは低いフロア部4を介して連結されており、車体の骨格をなす車体フレームは、概ねダウンチューブ6とメインパイプ7とから構成される。燃料タンクおよびラゲッジボックス(共に図示せず)はメインパイプ7により支持され、その上方にシート8が配置されている。シート8はその下部に設けられるラゲッジボックスの蓋を兼ねることができ、ラゲッジボックスの開閉のため、その前部FRに設けられた図示しないヒンジ機構により回動可能に支持されている。
【0015】
一方、車体前部2にはダウンチューブ6にステアリングヘッド5が設けられ、このステアリングヘッド5によってフロントフォーク12Aが軸支されている。フロントフォーク12Aから上方に延びた部分にはハンドル11Aが取付けられる一方、下方に延びた部分の先端には前輪13Aが軸支されている。ハンドル11Aの上部は計器板を兼ねたハンドルカバー33で覆われている。
【0016】
メインパイプ7の途中にはリンク部材(ハンガ)37が回動自在に軸支され、このハンガ37によりスイングユニット17がメインパイプ7に対して揺動自在に連結支持されている。スイングユニット17には、その前部に単気筒の4サイクルエンジン200が搭載されている。エンジン200から後方にかけてベルト式無段変速機35が構成され、この無段変速機35には後述する遠心クラッチ機構を介して減速機構38が連結されている。そして減速機構38には後輪21が軸支されている。減速機構38の上端とメインパイプ7の上部屈曲部との間にはリヤクッション22が介装されている。スイングユニット17の前部には、エンジン200のシリンダヘッド32から延出した吸気管23が接続され、さらに吸気管23には気化器24および同気化器24に連結されたエアクリーナ25が配設されている。
【0017】
ベルト式無段変速機35の伝動ケースカバー36から突出したキックシャフト27にキックアーム28の基端が固着され、キックアーム28の先端にキックペダル29が設けられている。スイングユニットケース31の下部に設けられた枢軸18にはメインスタンド26が枢着されており、駐車に際してはこのメインスタンド26を立てる(鎖線で図示)。
【0018】
図2は、前記自動二輪車の計器盤回りの平面図であり、ハンドルカバー33の計器盤192内には、スピードメータ193と共にスタンバイインジケータ256およびバッテリインジケータ276が設けられている。スタンバイインジケータ256は、後に詳述するように、エンジンの停止始動制御中におけるエンジン停止時に点滅し、スロットルを開ければ直ちにエンジンが始動されて発進し得る状態にあることを運転者に警告する。バッテリインジケータ276は、バッテリ電圧が低下すると点灯してバッテリの充電不足を運転者に警告する。
【0019】
ハンドルカバー33には、アイドリングを許可または制限するためのアイドルスイッチ253およびスタータモータ(セルモータ)を起動するためのスタータスイッチ258が設けられている。ハンドル11の右端部には、スロットルグリップ194およびブレーキレバー195が設けられている。なお、左右のスロットルグリップの付根部分等には、従来の二輪車と同様にホーンスイッチやウインカスイッチを備えているが、ここでは図示を省略する。
【0020】
次に、シート8を開閉するためのヒンジ部とそのヒンジ部近傍に配設された着座スイッチの構成を説明する。図3はシート8の開閉のためのヒンジ部の構造を示す模式図である。同図において、ラゲッジボックス9aの蓋を兼ねているシート8は、該ラゲッジボックス9aに対して矢印Aの方向に開閉自在に設けられている。シート8を開閉可能にするため、ラゲッジボックス9にはヒンジ軸102およびヒンジ軸102を中心に揺動自在なリンク部材100が設けられている。一方、リンク部材100の他端つまりヒンジ軸102と結合されている側とは反対側の端部はシート8のフレーム8aに設けられた第2のヒンジ軸110に対して回動自在に結合されている。したがって、シート8はヒンジ軸102を中心に矢印Aの方向に揺動できるとともに、第2のヒンジ軸110を中心に矢印Bの方向にも揺動可能である。
【0021】
リンク部材100と前記フレーム8aとの間にはスプリング103が介装されていて、シート8を第2のヒンジ軸110を中心として図中時計方向に付勢している。さらに、リンク部材100と前記フレーム8aとの間には着座スイッチ254が設けら、運転者が着座してフレーム8aが第2のヒンジ軸110を中心に図中反時計方向に所定量回動したときにオン動作して着座状態を検出する。
【0022】
続いて、前記エンジン200について詳細に説明する。図4はエンジンのクランクシャフトに連結される始動兼発電装置の断面図であり、図1におけるA−A位置で断面図である。
【0023】
図4において、前記メインパイプ7に保持されるハンガ37を備えたスイングユニットケース31には主軸受10,11で回転自在に支持されたクランクシャフト12が設けら、このクランクシャフト12にはクランクピン13を介してコンロッド14が連結されている。クランク室9から張出したクランクシャフト12の一端部には始動兼発電装置のインナロータ15が設けられている。
【0024】
インナロータ15はロータボス16およびロータボス16の外周面に嵌着された永久磁石19を有する。永久磁石19は、例えばネオジウム鉄ボロン系であり、クランクシャフト12を中心として等角度間隔で6か所に設けられている。ロータボス16はその中心部でクランクシャフト12の先端テーパ部に嵌合している。ロータボス16の一端(クランクシャフト12とは反対側の端)にはフランジ部材39が配置され、ロータボス16はこのフランジ部材39とともにボルト20でクランクシャフト12に固定されている。
【0025】
ロータボス16には、前記フランジ部材39側に突出した小径円筒部40が形成されており、円筒部40の外周には、この円筒部40に対して摺動自在にブラシホルダ41が設けられている。ブラシホルダ41は圧縮コイルばね42で前記フランジ部材39方向に付勢されている。ブラシホルダ41には圧縮コイルばね43で付勢されたブラシ44が設けられている。ロータボス16にはクランクシャフト12の中心軸と平行に延びた連結ピン45が貫通しており、その一端は前記ブラシホルダ41に固結されるとともに、他端はガバナ(詳細は後述)のプレート46に連結されている。
【0026】
インナロータ15の外周に配設されたアウタステータ47のステータコア48はボルト49によってスイングユニットケース31に固定されている。このステータコア48のヨーク48aには、発電コイル50と始動コイル51とが巻回されていて、ステータコア48から延出した円筒部48bは前記ブラシホルダ41を覆っている。円筒部48bの端部には整流子ホルダ52が連結されており、この整流子ホルダ52には前記ブラシ44と摺動するように整流子片53が固定されている。すなわち、前記圧縮コイルばね43で付勢されているブラシ44と対向する位置に整流子片53が配置されている。
【0027】
なお、図4では1個のブラシ44しか示されていないが、この1個だけでなく、インナロータ15の回転方向に必要数設けられているのはもちろんである。ブラシおよび整流子片の個数や形状の一例は、本出願人による先願(特開平9−215292号)の明細書に記載されている。また、後述のガバナによってブラシホルダ41がクランクシャフト12側に偏倚させられたとき、ブラシ44が整流子片53から離れるように、ブラシ44のストロークは所定量に制限されている。ストローク制限のためにブラシホルダ41とブラシ44との間には図示しない係止手段が設けられる。
【0028】
前記ロータボス16の端部つまりクランクシャフト12との嵌合部側には始動モードと発電モードとを自動的に切換えるガバナ54が設けられている。ガバナ54は前記プレート46と、このプレート46をクランクシャフト12の中心軸方向に偏倚させるためのガバナウェイトとしてのローラ55とを含んでいる。ローラ55は金属製の芯に樹脂カバーを設けたものが好ましいが、樹脂カバーを設けないもの、または全体が樹脂で形成されているものであってもよい。ロータボス16には前記ローラ55を収容するポケット56が形成されており、このポケット45は図示のようにアウタステータ47側ですぼんだテーパ状断面を成している。
【0029】
前記フランジ部材39にはラジエータファン57が取付けられていて、このラジエータファン57に対向してラジエータ58が設けられている。また、クランクシャフト12上には、インナロータ15および主軸受11間にスプロケット59が固定されていて、このスプロケット59にはクランクシャフト12からカムシャフト(図5参照)を駆動するための動力を得るためのチェーン60が掛けられている。なお、スプロケット59は潤滑オイルを循環させるポンプに動力を伝達するためのギヤ61と一体的に形成されている。ギヤ61は、後述するトロコイドポンプの駆動軸に固定されたギヤに動力を伝達する。
【0030】
上記した構成において、スタータスイッチを押してバッテリ(図示しない)により整流子片53に電圧を印加すると、ブラシ44を通じて始動コイル51に電流が流れ、インナロータ15が回転する。その結果、インナロータ15と結合されているクランクシャフト12が回転し、エンジン200が始動される。エンジン200の回転数が増大すると、ガバナウェイト55は遠心力を受け、ポケット56内でロータボス16の外周方向に移動して図中鎖線で示した位置に至る。
【0031】
ガバナウェイト55が移動すると、プレート46およびプレート46と係合している連結ピン45も鎖線で示したように偏倚する。この連結ピン45の他端はブラシホルダ41と係合しているので、同様にブラシホルダ41も偏倚する。ブラシ44のストロークは上述のように制限されているので、このストロークよりもブラシホルダ41が大きく偏倚すると、ブラシ44と整流子片53との接触は絶たれる。ブラシ44が整流子片53から離れた後は、エンジン駆動でクランクシャフト12が回転し、その結果、発電コイル51によって発電され、バッテリへ電流が供給される。
【0032】
続いて、エンジン200のヘッド周辺の構造を説明する。図5はエンジンのヘッド周辺の側面断面図である。シリンダ62内に配置されているピストン63は、ピストンピン64を介してコンロッド14のスモールエンド側に連結されている。シリンダヘッド32には点火プラグ65が螺着されていて、その電極部がピストン63のヘッドとシリンダヘッド32との間に形成された燃焼室に臨んでいる。シリンダ62の周りは水ジャケット66で囲まれている。
【0033】
シリンダヘッド32内の、前記シリンダ62の上方には、軸受67,68によって回転自在に支持されたカムシャフト69が設けられている。カムシャフト69にはアタッチメント70が嵌合しており、このアタッチメント70には、ボルト71によってカムスプロケット72が固定されている。カムスプロケット72にはチェーン60が掛けられている。このチェーン60によって、前記スプロケット59(図4参照)の回転つまりクランクシャフト12の回転がカムシャフト69に伝達される。
【0034】
カムシャフト69の上部にはロッカアーム73が設けられていて、このロッカアーム73はカムシャフト69の回転に伴いカムシャフト69のカム形状に応じて揺動する。カムシャフト69のカム形状は、4サイクルエンジンの所定の行程に応じて吸気弁95および排気弁96が開閉されるように決定されている。吸気弁95によって吸気管23が開閉され、排気弁96によって排気管97が開閉される。
【0035】
カムシャフト69には一体的に排気カムおよび吸気カムが形成されているが、これらのカムに隣接し、カムシャフト69に対して逆転方向にのみ係合しているデコンプカム98が設けられている。デコンプカム98はカムシャフト69の逆転時にカムシャフト69の回転に追従して排気カムの外周形状よりも突出した位置に回動する。
【0036】
したがって、カムシャフト69の正転時に排気弁96をわずかにリフトした状態にすることができ、エンジンの圧縮工程での負荷を軽減することができる。これにより、クランク軸を始動されるときのトルクを小さくできるので、4サイクルエンジンのスタータとしては小型のものを使うことができる。その結果、クランク周りをコンパクトにでき、バンク角を大きくできるという利点がある。なお、カムがしばらく正転することにより、デコンプカム98の外形は排気カムの外周形状内に戻る。
【0037】
シリンダヘッド32には水ポンプベース74と水ポンプハウジング75とで囲まれたポンプ室76が形成されている。ポンプ室76内にはインペラ77を有するポンプシャフト78が配置されている。ポンプシャフト78はカムシャフト69の端部に嵌合され、軸受79によって回転自在に保持されている。ポンプシャフト78の駆動力はカムスプロケット72の中心部に係合するピン80によって得られる。
【0038】
ヘッドカバー81には、エアリードバルブ94が設けられている。このエアリードバルブ94は、排気管97に負圧が生じたときにエアを吸入してエミッションを改善する。なお、ポンプ室76の周辺の随所にはシール部材が設けられているが、個々の説明は省略する。
【0039】
続いて、エンジン200の回転を変速して後輪に伝達する自動変速機を説明する。図6,図7はエンジンの自動変速機部分の断面図であり、それぞれ図6が駆動側、図7が従動側である。
【0040】
図6において、クランクシャフト12上の、前記始動兼発電装置のインナロータ15が設けられた側とは反対側の端部にはVベルト82を巻き掛けるためのプーリ83が設けられている。プーリ83はクランクシャフト12に対して回転方向および軸方向の動きが固定された固定プーリ片83aとクランクシャフト12に対して軸方向に摺動自在な可動プーリ片83bとからなる。可動プーリ片83bの背面つまりVベルト82と当接しない面にはホルダプレート84が取付けられている。ホルダプレート84はクランクシャフト12に対して回転方向および軸方向の双方にその動きが規制されていて一体で回転する。ホルダプレート84と可動プーリ片83bとによって囲まれた空所はガバナウェイトとしてのローラ85を収容するポケットを形成している。
【0041】
一方、後輪21に動力をつなぐクラッチ機構は次のように構成されている。図7において、クラッチのメインシャフト125はケース126に嵌合された軸受127およびギヤボックス128に嵌合された軸受129で支持されている。このメインシャフト125には軸受130および131よってプーリ132の固定プーリ片132aが支持されている。メインシャフト125の端部にはナット133によってカップ状のクラッチ板134が固定されている。
【0042】
前記固定プーリ片132aのスリーブ135には、プーリ132の可動プーリ片132bがメインシャフト125の長手方向に摺動自在に設けられている。可動プーリ片132bは、メインシャフト125の周りで一体的に回転できるようにディスク136に係合している。ディスク136と可動プーリ片132bとの間には、両者間の距離を拡張する方向に反発力が作用する圧縮コイルばね137が設けられている。また、ディスク136にはピン138で揺動自在に支持されたシュー139が設けられている。シュー139はディスク136の回転速度が増大したときに遠心力が作用して外周方向に揺動し、クラッチ板134の内周に当接する。なお、ディスク136が所定の回転速度に達したときにシュー139がクラッチ板134に当接するように、ばね140が設けられている。
【0043】
メインシャフト125にはピニオン141が固定されていて、このピニオン141はアイドルシャフト142に固定されたギヤ143に噛合っている。さらに、アイドルシャフト142に固定されたピニオン144は出力シャフト145のギヤ146に噛合っている。後輪21はリム21aとリム21aの周囲に嵌込まれたタイヤ21bとからなり、リム21bが前記出力シャフト145に固定されている。
【0044】
上記した構成において、エンジン回転数が最小の場合、ローラ85は図6の実線で示した位置にあり、Vベルト82はプーリ83の最小径部分に巻き掛けられている。プーリ132の可動プーリ片132bは圧縮コイルばね137に付勢された図7の実線の位置に偏倚させられていて、Vベルト82はプーリ132の最大径部分に巻き掛けられている。この状態では、遠心クラッチのメインシャフト125は最小回転数で回転させられるため、ディスク136に加わる遠心力は最小であり、シュー139はばね140によって内方に引き込まれているのでクラッチ板134に当接しない。つまり、エンジンの回転がメインシャフト125に伝達されず、車輪21は回転されない。
【0045】
一方、エンジン回転数が大きい場合にはローラ85が遠心力で外周方向に偏倚する。図6の鎖線で示した位置が最大回転数のときのローラ85の位置である。ローラ85が外周方向に偏倚すると、可動プーリ83bは固定プーリ83a側に押しやられるため、Vベルト82はプーリ83の最大径寄りに移動する。そうすると、遠心クラッチ側では、圧縮コイルばね137に打ち勝って可動プーリ片132bが偏倚し、Vベルト82はプーリ132の最小径寄りに移動する。したがって、ディスク136に加わる遠心力は増大し、シュー139はばね140に打ち勝って外方に張出し、クラッチ板134に当接する。その結果、エンジンの回転がメインシャフト125に伝達され、ギヤトレインを介して車輪21に動力が伝わる。こうして、エンジンの回転数に応じて、クランクシャフト12側のプーリ83および遠心クラッチ側のプーリ132に対するVベルト82の巻き掛け径が変化し、変速作用が果たされる。
【0046】
上述のように、エンジン始動時は始動コイル51に通電してエンジンを付勢することができるが、本実施形態では、足踏み動作によってエンジン200を始動するキック始動装置を併用している。
【0047】
さらに図6を参照してキック始動装置を説明する。前記固定プーリ83aの背面にはキック始動用の従動ドッグギヤ86が固定されている。一方、カバー36側には、ヘリカルギヤ87を有する支持軸88が回転自在に支持されている。支持軸88の端部にはキャップ89が固定されていて、このキャップ89の端面には前記従動ドッグギヤ86と噛合する駆動ドッグギヤ90が形成されている。
【0048】
さらに、カバー36にはキックシャフト27が回動自在に支持されていて、このキックシャフト27には、前記ヘリカルギヤ87と噛合されるセクタヘリカルギヤ91が溶接されている。キックシャフト27の端部つまりカバー36から外部へ突出している部分にはスプラインが形成されていて、このスプラインにはキックアーム28(図7参照)に設けられたスプラインが係合される。なお、符号92,93は戻しばねである。
【0049】
上記構成において、キックペダル29を踏み込むと、戻しばね93に打ち勝ってキックシャフト27およびセクタヘリカルギヤ91が回動する。ヘリカルギヤ88およびセクタヘリカルギヤ91は、セクタヘリカルギヤ91がキックペダルの踏み込みによって回動した場合にプーリ83側に支持軸87を付勢する推力が生じるように互いのねじれ方向が設定されている。したがって、キックペダル29を踏み込むと支持軸87がプーリ83側に偏倚し、キャップ89の端面に形成された駆動ドッグギヤ90が従動ドッグギヤ86と噛合う。その結果、クランクシャフト12は回転させられ、エンジン200の始動が可能となる。エンジンが始動すると、キックペダル29の踏み込みを弱め、戻しばね92,93によってセクタヘリカルギヤ91を反転させると、駆動ドッグギヤ90と従動ドッグギヤ86との係合が解除される。
【0050】
次に、図8を参照して潤滑オイルの供給系を説明する。オイル供給部はクランク室9の下部に設けられる。オイルパン147には、オイルを導入するための管路148が形成されていて、矢印D1に従ってトロコイドポンプ149にオイルは吸入される。トロコイドポンプ149に吸入されたオイルは圧力が高められて管路150に排出され、矢印D2,D3に従って管路150を通過し、クランク室内に吐出される。
【0051】
ここで、トロコイドポンプ149のポンプシャフト151にはギヤ152が結合されており、さらに、このギヤ152にはクランクシャフト12に結合されたギヤ61が噛合っている。すなわち、トロコイドポンプ149はクランクシャフト12の回転に従って駆動され、潤滑のためのオイルを循環させている。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、カムシャフト69を駆動させるためのスプロケット59やオイルポンプ用駆動用のギヤ61を、クランクシャフト12を支持する軸受11に隣接してクランクシャフト12上に取付けた。そして、これらスプロケット59やギヤ61に近接した位置、つまり軸受11から遠くない位置に、永久磁石19を含むインナロータ15を配置した。特に、始動と発電とを自動的に切換えるガバナ機構のガバナウェイト55を軸受11に近接して配置した。
【0053】
次に、クランクパルスを出力するセンサの配置を説明する。図9はクランクパルスを発するセンサ(クランクパルサ)の配置を示すクランクシャフト周りの側面断面図であり、図10は同正面断面図である。
【0054】
クランクケースは前クランクケース99Fおよび後クランクケース99Rからなり、クランクパルサ153は後クランクケース99R側にあって、クランクシャフト12に直交するように設けられている。そして、その検出用端部153aが左クランクウェブ12Lの外周エッジに対向して配置されている。前記左クランクウェブ12Lの外周には凸部つまりリラクタ部154が形成されていて、クランクパルサ153はこのリラクタ部154と磁気的に結合してクランク角の検出信号を出力する。
【0055】
続いて、本発明を適用したエンジン自動停止始動システムについて説明する。このシステムは、アイドリングを許可する動作モード(以下、「始動&アイドルスイッチ(SW)モード」という)と、アイドリングを制限(または禁止)する動作モード(以下、「停止発進モード」という)とを備えている。
【0056】
アイドリングを許可する「始動&アイドルスイッチ(SW)モード」では、エンジン始動時の暖気運転等を目的として、主電源投入後の最初のエンジン始動後にアイドリングが一時的に許可される。また、上記した最初のエンジン始動後以外でも、運転者の意思(アイドルSWを“オン”)によってアイドリングが許可される。
【0057】
一方、アイドリングが制限される「停止発進モード」では、車両を停止させるとエンジンが自動停止し、停止状態でアクセルが操作されるとエンジンが自動的に再始動されて車両の発進が可能になる。
【0058】
図11は、本発明の一実施形態であるエンジン自動始動停止制御システムの全体構成を示したブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。
【0059】
クランク軸12と同軸に設けられた始動兼発電装置250は、スタータモータ部171とACジェネレータ部(ACG)172とによって構成され、ACG172による発電電力は、レギュレータ・レクティファイア167を介してバッテリ168に充電される。レギュレータ・レクティファイア167は、始動兼発電装置250の出力電圧を、12Vないし14.5Vに制御する。バッテリ168は、スタータリレー162が導通されるとスタータモータ171へ駆動電流を供給すると共に、メインスイッチ173を介して各種の一般電装品174および主制御装置160等に負荷電流を供給する。
【0060】
主制御装置160には、エンジン回転数Neを検知するNeセンサ153と、エンジン200のアイドリングを手動で許可または制限するためのアイドルスイッチ253と、運転者がシートに着座すると接点を閉じて“H”レベルを出力する着座スイッチ254と、車速を検知する車速センサ255と、前記「停止発進モード」で点滅するスタンバイインジケータ256と、スロットル開度θを検知するスロットルセンサ257(スロットルスイッチ257aを含む)と、スタータモータ171を駆動してエンジン200を始動するスタータスイッチ258と、ブレーキ操作に応答して“H”レベルを出力するストップスイッチ259と、バッテリ168の電圧が予定値(例えば、10V)以下になると点灯して充電不足を運転者に警告するバッテリインジケータ276と、ウォータポンプ159により循環されるエンジンの冷却水温度を検知する水温センサ155とが接続されている。前記ウォータポンプ159は、上述のように、エンジン200の回転運動を伝達されて駆動するメカニカルポンプである。本実施形態では、水温センサ155がエンジン200とウォーターポンプ159との間でエンジン200からウォーターポンプ159へ供給される冷却水温度を検知するようにしたので、エンジン停止と同時にウォータポンプ159が停止する構造であっても、エンジン側からの冷却水の対流がウォータポンプ159によって遮られることがない。したがって、エンジンが高温状態にあるか否かを正確に検知することができ、エンジン再始動後のノックングを確実に防止できるようになる。
【0061】
さらに、前記主制御装置160には、クランク軸12の回転に同期して点火プラグ65を点火させる点火制御装置(イグニッションコイルを含む)161と、スタータモータ171に電力を供給するスタータリレー162の制御端子と、前照灯169に電力を供給する前照灯ドライバ163の制御端子と、キャブレタ166に装着されたバイスタータ165に電力を供給するバイスタータリレー164の制御端子とが接続されている。前記前照灯ドライバ163は、FET等のスイッチング素子により構成され、このスイッチング素子を所定の周期およびデューティー比で断続させて前照灯169への印加電圧を実質的に制御する、いわゆるチョッピング制御を採用している。
【0062】
図12〜15は、主制御装置160の構成を機能的に示したブロック図(その1、その2、その3、その4)であり、図11と同一の符号は同一または同等部分を表している。
【0063】
図16、17には、主制御装置160を構成するスタータリレー制御部400、バイスタータ制御部900、スタンバイインジケータ制御部600、前照灯制御部800、停車後非着座制御部100、点火制御部700、点火ノック制御部200および充電制御部500の各制御内容を一覧表示している。
【0064】
図12において、動作切換部300は、アイドルスイッチ253の状態および車両の状態等が所定の条件のときに、主制御装置160の動作モードを「始動&アイドルSWモード」および「停止発進モード」のいずれかに切り換える。
【0065】
動作切換部300の動作モード信号出力部301には、アイドルスイッチ253の状態信号が入力される。アイドルスイッチ253の状態信号は、オフ状態(アイドリング制限)では“L”レベル、オン状態(アイドリング許可)では“H”レベルを示す。動作モード信号出力部301は、アイドルスイッチ253、車速センサ255および水温センサ155の出力信号に応答して、主制御装置160の動作モードを「始動&アイドルSWモード」および「停止発進モード」のいずれかに指定する動作モード信号S301 を出力する。
【0066】
図18は、動作モード信号出力部301による動作モードの切り換え条件を模式的に示した図であり、メインスイッチ173が投入されて主制御装置160がリセットされる(条件1が成立)と、動作モード信号S301 を“L”レベルにして「始動&アイドルSWモード」を起動する。
【0067】
さらに、この「始動&アイドルSWモード」において予定速度(例えば、時速10キロ)以上の車速が検知され、かつ水温が所定の基準温度(例えば、暖気運転が完了したと予測される温度)以上であり、かつアイドルスイッチ253がオフであれば(条件2が成立)、動作モード信号S301 を“L”レベルから“H”レベルへ遷移させて「停止発進モード」を起動する。
【0068】
また、「停止発進モード」において、アイドルSWが“オフ”から“オン”(条件3が成立)にされると、動作モード信号S301 を“H”レベルから“L”レベルへ遷移させ、動作モードを「停止発進モード」から「始動&アイドルSWモード」へ戻す。なお、「停止発進モード」あるいは「始動&アイドルSWモード」のいずれにおいても、メインSW173が遮断(条件4が成立)されればオフ状態となる。
【0069】
図12へ戻り、停止時クランク角制御部1000は、エンジンが停止した時に、予め設定した時間だけスタータモータ171を逆転させることで、エンジンを所望のクランク角度位置で停止させる。
【0070】
停止判定タイマ1001はNeセンサ153を監視し、Neセンサ153から出力がない状態が予定時間Tx続いたときにタイムアウト信号(“H”レベル)を出力する。このタイムアウト信号はエンジン停止を表す。停止判定タイマ1001のタイムアウト信号はAND回路1002、AND回路1007、および逆転許可タイマ1004に入力される。
【0071】
逆転許可タイマ1004は、停止判定タイマ1002からのタイムアウト信号に応答し、時間Tbackが経過するまで逆転許可信号を“H”に維持する。逆転許可時間Tbackはエンジンの冷却水水温の関数であり、水温が高いほど短い時間に選択される。
【0072】
比較部1003では、クランキング回転数より大きく、かつアイドル回転数よりも小さく設定された基準回転数Nref と、Neセンサ153の出力に基づくエンジン回転数Neとが比較される。エンジン回転数Neが基準回転数Nref 以上のときにはエンジン状態オンを表す信号“L”を出力する。また、エンジン回転数Neが基準回転数Nref 未満のときにはエンジン状態オフを表す信号“H”を出力する。比較部1003の出力信号はAND回路1002に入力される。
【0073】
AND回路1002および逆転許可タイマ1004の出力信号、ならびに停止判定タイマ1001のタイムアウト信号はAND回路1005に入力され、AND回路1005はこれらの出力信号の論理積を出力し、この論理積はインバータ1006で反転されて逆転リレー162aに供給される。
【0074】
さらに、逆転許可タイマ1004の出力信号は、AND回路1007に入力される。AND回路1007の他方の入力には、停止判定タイマ1001のタイムアウト信号が入力される。AND回路1007の出力信号はスタータリレー制御部400のOR回路406に入力される。なお、上記した停止時クランク角制御部1000の制御内容は、本出願人による特願平11−117107号に開示しているので、ここではその説明を省略する。
【0075】
このような停止時クランク角制御によれば、クランクシャフトを一旦逆転させたあと正転させてエンジンを始動させる場合において、エンジンの回転フリクションに応じて予め設定した逆転時間に従ってクランクシャフトが逆転される。したがって、逆転させて停止したときのクランク角度位置、つまり正転開始位置が、正転時に圧縮上死点を小さいトルクで乗り越えられる位置となるように逆転時間を設定することができる。
【0076】
図12のスタータリレー制御部400は、前記各動作モードに応じて所定の条件下でスタータリレー162を起動する。クランキング回転数以下判定部401およびアイドリング回転数以下判定部407にはNeセンサ153の検知信号が入力される。クランキング回転数以下判定部401は、エンジン回転数が所定のクランキング回転数(例えば、600rpm)以下であると“H”レベルの信号を出力する。アイドリング以下判定部407は、エンジン回転数が所定のアイドリング回転数(例えば、1200rpm)以下であると“H”レベルの信号を出力する。
【0077】
AND回路402は、クランキング回転数以下判定部401の出力信号と、ストップスイッチ259の状態信号と、スタータスイッチ258の状態信号との論理積を出力する。AND回路404は、アイドリング以下判定部407の出力信号と、スロットルスイッチ257aの検出信号と、着座スイッチ254の状態信号との論理積を出力する。AND回路403は、前記AND回路402の出力信号と動作モード信号S301 の反転信号との論理積を出力する。AND回路405は、前記AND回路404の出力信号と動作モード信号S301 との論理積を出力する。OR回路406は、前記各AND回路403、405の論理和をスタータリレー162へ出力する。
【0078】
このようなスタータリレー制御によれば、「始動&アイドルスイッチモード」ではAND回路403がイネーブル状態となる。したがって、エンジン回転数がクランキング回転数以下であり、かつストップスイッチ259がオン状態(ブレーキ操作中)のときにスタータスイッチ258が運転者によりオンされる(AND回路402の出力が“H”レベルになる)と、スタータリレー162が導通してスタータモータ171が起動される。
【0079】
また、「停止発進モード」では、AND回路405がイネーブル状態となる。したがって、エンジン回転数がアイドリング以下であり、着座スイッチ254がオン状態(運転者がシートに着座中)のときにスロットルが開かれる(AND回路404の出力が“H”レベルになる)と、スタータリレー162が導通してスタータモータ171が起動される。
【0080】
図13のスタンバイインジケータ制御部600では、車速ゼロ判定部601に車速センサ255の検知信号が入力され、車速が実質的にゼロであれば“H”レベルの信号を出力する。Ne判定部602にはNeセンサ153の検知信号が入力され、エンジン回転数が予定値以下であれば“H”レベルの信号を出力する。AND回路603は、前記各判定部601、602の出力信号の論理積を出力する。
【0081】
AND回路604は、前記AND回路603の出力信号と着座スイッチ254の反転信号との論理積を出力する。AND回路605は、前記AND回路603の出力信号と着座スイッチ254の出力との論理積を出力する。点灯/点滅制御部606は、AND回路604の出力信号が“H”レベルであれば点灯信号を発生し、“L”レベルであれば点滅信号を発生する。AND回路607は、点灯/点滅制御部606の出力信号と動作モード信号S301 との論理積を出力する。スタンバイインジケータ256は、点灯信号に応答して点灯し、点滅信号に応答して点滅する。
【0082】
このようなスタンバイインジケータ制御によれば、図16に示したように、スタンバイインジケータ256は「停止発進モード」中の停車時に、運転者が非着座であれば点灯し、着座していれば点滅する。したがって、運転者はスタンバイインジケータ256が点滅していれば、エンジンが停止していてもアクセルグリップを開きさえすれば直ちに発進できることを認識することができる。
【0083】
図13の点火制御部700は、前記各動作モード毎に、所定の条件下で点火制御装置161による点火動作を許可または禁止する。
【0084】
走行判定部701は、車速センサ255の検知信号に基づいて車両が走行状態にあるか否かを判別し、走行状態にあると“H”レベルの信号を出力する。OR回路706は、走行判定部701の出力信号とスロットルスイッチ257aの出力信号との論理和を出力する。AND回路707は、着座スイッチ254の出力信号と前記OR回路706の出力信号との論理積を出力する。したがって、AND回路707の出力は、スロットルが開いているか、あるいは車速が0よりも大きく、かつ運転者が着座しているときに“H”レベルとなる。
【0085】
AND回路702は、着座スイッチ254の出力信号と、前記走行判定部701の反転信号と、スロットルスイッチ257aの反転信号との論理積を出力する。タイマ703は、入力信号を所定時間(本実施形態では、3秒)だけ遅延して出力する。水温判定部710は、前記水温センサ155により検知された冷却水温度が所定の基準温度を越えると“L”レベルを出力し、基準温度を超えていなければ“H”レベルを出力する。前記水温判定部710における基準温度は、エンジンを直ちに停止すると冷却水が沸騰すると予測される温度、例えば100℃に設定されている。
【0086】
NAND回路705は、前記AND回路702の出力信号、タイマ703の出力信号および水温判定部710の出力信号の論理積を反転出力する。したがって、NAND回路705の出力は、スロットルが閉じており、車速が0で、かつ運転者が着座している状態が3秒間継続し、さらにエンジン冷却水温が基準温度を下回っていれると“L”レベルとなる。
【0087】
切換回路708の可動接点は、点火制御装置161が点火動作中はNAND回路705側に切り換えられ、停止中はAND回路707側に切り換えられる。OR回路709は、前記動作モード信号S301 の反転信号と切換回路708の出力の反転信号との論理和を点火制御装置161へ出力する。
【0088】
上記した構成の点火制御部700によれば、図17に示したように、「始動&アイドルSWモード」ではOR回路709の出力が常に“H”レベルとなるので点火制御が常に許可される。
【0089】
これに対して、「停止発進モード」では、車両が停止してエンジンが自動停止されると、運転者が着座しているときにスロットルが開いているか、あるいは車速が0よりも大きくなると点火制御が許可される。一方、車両が走行状態から停止したときは、運転者の着座が検知され、かつ冷却水温が低ければ点火制御が禁止されてエンジンが自動停止されるが、運転者の着座が検知されないか、あるいは冷却水温が高ければ、点火制御が許可され続けるのでエンジンは自動停止されない。
【0090】
このように、本実施形態では、着座スイッチ254に不具合が生じたために運転者が着座しているにもかかわらずこれを検知できない場合には、車両が走行状態から停止してもエンジンが自動停止されないので、発進時のエンジン始動が不要となる。したがって、運転者の着座を条件にエンジンの自動始動を許可するシステムにおいて着座スイッチ254に不具合が生じても、走行に支障が生じることはない。
【0091】
また、本実施形態では他のエンジン停止条件が成立しても冷却水温が高ければエンジンが自動停止されず、ウォーターポンプが作動し続けるので、冷却水の沸騰防止とエンジンの素早い冷却が可能になる。
【0092】
さらに、本実施形態によれば、車両が走行状態から停止したときに運転者の着座が検知されていても、直ぐには点火制御を禁止せず、所定時間(本実施形態では、3秒)経過後に禁止するようにしている。したがって、交差点での一時停止時や、運転者が着座状態で車速がほぼゼロ、かつスロットル開度が全閉に近いUターン時には、エンジンを始動させ続けておくことが可能になる。
【0093】
図13の点火ノック制御部200は、前記各動作モード毎に、加速時の点火時期を常時よりもリタードさせることによってノッキングの発生を防止する。特に、本実施形態ではエンジン停止状態から加速する発進加速時のリタード量を、エンジンが回転している状態からの通常加速時のリタード量よりも大きくすることで、エンジン自動停止始動装置を搭載した車両に固有の、発進加速時におけるノッキングの発生を完全に防止している。
【0094】
さらに、本実施形態では、エンジンが高温の状態からの再始動および発進時には点火時期を常時よりもリタードさせることにより発進時のノッキングを防止している。
【0095】
標準点火時期決定部207には、標準点火時期がTDC(圧縮上死点)からの進角角度(deg)として、エンジン回転数Neおよびスロットル開度θの関数として予め登録されている。図19は、本実施形態におけるエンジン回転数Neおよびスロットル開度θと標準点火時期との関係を示した図であり、エンジン回転数が2500回転に達するまでは15度(deg;進角)とし、2500回転を越えるあたりからエンジン回転数Neに応じて徐々に進角量を増している。
【0096】
Ne判定部201は、エンジン回転数Neが700rpm<Ne<3000rpmであれば、通常加速信号Sacc1を“H”レベルとし、700rpm<Ne<2500rpmであれば、発進時加速信号Sacc2を“H”レベルとする。なお、発進時加速信号Sacc2を発生する際のエンジン回転数Neの下限値(本実施形態では、700rpm)は、エンジンのクランキング回転数に設定することが望ましい。
【0097】
加速判定部205は、スロットルセンサ257により検知されたスロットル開度θの変化率Δθが所定値を越えると、加速操作がなされたものと判定して“H”レベルの加速検知信号を出力する。水温判定部206は、水温センサ155の検知信号に基づいてエンジン冷却水の水温を判定し、水温が第1の基準温度(本実施形態では、50℃)を越えると水温判定信号Stmp1を“H”レベルとし、第2の基準温度(本実施形態では、80℃)を越えると水温判定信号Stmp2を“H”レベルとする。
【0098】
AND回路202は、前記通常加速信号Sacc1、加速検知信号、水温判定信号および動作モード信号S301 の反転信号の論理積を出力する。AND回路203は、前記発進時加速信号Sacc2、加速検知信号、水温判定信号Stmp1および動作モード信号S301 の論理積を出力する。OR回路208は、前記AND回路203の出力と前記水温判定信号Stmp2との論理和を出力する。
【0099】
加速時点火時期補正部204は、前記各AND回路202、203の出力がいずれも“L”レベル、すなわち車両が加速状態になく、かつエンジン温度が低ければ、前記標準点火時期決定部207により決定された標準点火時期(図19)を点火制御装置161へ通知する。点火制御装置161は、加速時点火時期補正部204を介して通知された点火タイミングで点火動作を実行する。
【0100】
また、AND回路202の出力信号が“H”レベル、すなわち、図17に示したように、「始動&アイドルSWモード」においてエンジン回転数Neが700rpm<Ne<3000であり、かつ運転者により加速操作がなされ、かつ水温が第1基準温度(本実施形態では、50℃)を超えていると、図20に破線Aで示したように、点火時期を前記標準点火時期決定部207による決定結果にかかわらず、7度(進角)までリタードさせる。
【0101】
一方、AND回路208の出力信号が“H”レベル、すなわち、図17に示したように、「停止発進モード」においてエンジン回転数Neが700rpm<Ne<2500であり、かつ運転者により加速操作がなされ、かつ水温が第1基準温度を超えているためにAND回路203の出力信号が“H”レベルの場合、あるいは水温が第2基準温度(80℃)を超えていると、図20に実線Bで示したように、点火時期を前記点火時期決定部207による決定結果にかかわらず、0度までリタードさせる。
【0102】
なお、加速時点火時期補正部204はカウンタ204aを備え、いずれかのAND回路202、203の出力が“H”レベルになると、上記したリタード点火を直ちに所定回数(本実施形態では、3回)だけ実行し、その後は直ちに、前記標準点火時期決定部207による通常の点火タイミングへ復帰する。
【0103】
このような点火ノック制御によれば、中速回転域からの通常加速時と発進加速時とで異なるリタード量を設定することができ、発進加速時のリタード量を中速回転域からの通常加速時よりも大きく設定することにより、中速回転域からの通常加速時のみならず、発進加速時のノッキングも防止できる。さらに、エンジン温度が高い状態での発進時には加速状態にかかわらず点火時期が常時よりもリタードされるので、ノッキングの発生を防止できる。
【0104】
図14の前照灯制御部800では、Ne判定部801がNeセンサ153の検知信号に基づいて、エンジン回転数が所定の設定回転数(アイドル回転数未満)以上であるか否かを判定し、設定回転数以上であれば“H”レベルの信号を出力する。AND回路802は、Ne判定部801の出力信号と動作モード信号S301 の反転信号との論理積を出力する。AND回路803は、Ne判定部801の出力信号と動作モード信号S301 との論理積を出力する。
【0105】
点灯/減光切換部804は、AND回路802の出力信号が“H”レベルであれば“H”レベルを出力し、“L”レベルであればデューティー比50%のパルス信号を出力する。点灯/多段減光切換部805は、AND回路803の出力信号が“H”レベルであれば“H”レベルを出力し、“L”レベルであれば、その継続時間をタイマ805aでカウントし、継続時間に応じてデューティー比が段階的に減少するパルス信号を出力する。本実施形態では、デューティー比を95%から0.5ないし1秒間で段階的に50%まで減少させる。このような段階的な減光方法によれば、光量が瞬時かつリニアに減少するので、節電と高い商品性の維持とが達成される。
【0106】
このような前照灯制御によれば、図16に示したように、「始動&アイドルSWモード」では、エンジン回転数Neに応じて前照灯が点灯あるいは減光され、「停止発進モード」では、エンジン回転数Neに応じて前照灯が点灯あるいは段階的に減光される。したがって、対向車からの十分な視認性は維持しながら、停車時におけるバッテリの放電を抑制できる。この結果、その後の発進時には発電機からバッテリへの充電量を減じることができ、発電機の電気負荷が減少するので発進時の加速性能が向上する。
【0107】
図14のバイスタータ制御部900では、水温センサ155の検知信号が水温判定部901に入力される。この水温判定部901は、水温が第1の予定値(本実施形態では、50℃)以上であると“H”レベルの信号を出力してバイスタータリレー164を閉じ、第2の予定値(本実施形態では、10℃)以下になると“L”レベルの信号を出力してバイスタータリレー164を開く。
【0108】
このようなバイスタータ制御によれば、水温が高くなれば燃料が濃くなり、低くなれば自動的に薄くなる。また、本実施形態ではバイスタータリレー164の開閉温度にヒステリシスを設定しているので、臨界温度付近で生じ得るバイスタータリレー164の不要な開閉動作を防止できる。
【0109】
図14の充電制御部500では、加速操作検知部502に車速センサ255の検知信号とスロットルセンサ257の検知信号とが入力され、図17に示したように、車速が0よりも大きく、かつスロットルが全閉状態から全開状態まで0.3秒以内に開かれると、加速操作と判定して加速検知パルスを発生する。
【0110】
加速時充電制限部504は、前記加速検知パルス信号に応答してレギュレータレクティファイア167を制御し、バッテリ168の充電電圧を常時の14.5Vから12.0Vへ低下させる。
【0111】
前記加速時充電制限部504は更に、前記加速検知パルスに応答して6秒タイマ504aをスタートし、このタイマ504aがタイムアウトするか、あるいはエンジン回転数Neが設定回転数以上になるか、あるいはスロットル開度が減少すると、充電制限を解除して充電電圧を12.0Vから14.5Vへ戻す。
【0112】
発進操作検知部503には、車速センサ255の検知信号と、Neセンサ153の検知信号と、スロットルセンサ257の検知信号とが入力され、図17に示したように、車速が0、かつエンジン回転数Neが設定回転数(本実施形態では、2500rpm)以下のときにスロットルが開いていると、発進操作と判定して発進検知パルスを発生する。
【0113】
発進時充電制限部505は、前記発進検知パルス信号を検出すると、レギュレータレクティファイア167を制御してバッテリ168の充電電圧を常時の14.5Vから12.0Vへ低下させる。
【0114】
前記発進時充電制限部505は更に、前記発進検知パルスに応答して7秒タイマ505aをスタートし、このタイマ505aがタイムアウトするか、あるいはエンジン回転数Neが設定回転数以上になるか、あるいはスロットル開度が減少すると、充電制限を解除して充電電圧を12.0Vから14.5Vへ戻す。
【0115】
このような充電制御によれば、運転者がスロットルを急激に開いて急加速した場合、あるいは停止状態からの発進時には充電電圧が低く抑えられ、始動兼発電装置250の電気負荷が一時的に低減される。したがって、始動兼発電装置250によりもたらされるエンジン200の機械的負荷が低減されて加速性能が向上する。
【0116】
図15の停車後非着座制御部100は、運転者が経験的にスタータスイッチによりエンジンを始動し得るタイミングでは、本来的には禁止されているスタータスイッチ258によるエンジン始動を例外的に許可する。
【0117】
AND回路102は、動作モード信号S301 と着差スイッチ254の反転信号との論理積を出力する。非着座継続判定部101はタイマ101aを備え、エンジンの自動停止後にAND回路102の“H”レベルが所定時間以上検知される。すなわち、「停止発進モード」においてエンジンの自動停止後に運転者の非着座が所定時間以上継続すると、出力信号を“H”レベルに設定する。この結果、点火制御装置161が付勢されて点火許可状態となる。
【0118】
OR回路103は、スタータスイッチ258およびスロットルスイッチ257aの各出力の論理和を出力する。AND回路104は、前記非着座継続判定部101およびOR回路103の各出力信号の論理積をスタータリレー162へ出力する。すなわち、「停止発進モード」においてエンジンの自動停止後に運転者の非着座が所定時間以上継続(非着座継続判定部101の出力が“H”レベル)したあとに、スタータスイッチ258が投入、あるいはスロットルが開かれると、スタータリレー162が付勢されてスタータモータ171が駆動される。このとき、点火制御装置161は前記非着座継続判定部101により付勢されているので、エンジンの始動が可能になる。
【0119】
このような停車後非着座制御によれば、所定の停車条件に応答してエンジンを停止した後でも、運転者の非着座状態が所定時間継続して検知されるとスタータスイッチ258によるエンジン始動が例外的に許可される。したがって、停車時にエンジンが自動停止されて運転者が主電源を遮断せずにそのまま車両から離れ、その後、車両に戻った運転者がエンジンの自動停止制御下であったことを失念してスタータスイッチ258を操作しても、エンジンを常時と同様に始動させることができる。
【0120】
なお、上記した停車後非着座制御では、「停止発進モード」でのエンジンの自動停止後に運転者の非着座が所定時間以上継続したことを条件にスタータスイッチ258によるエンジン始動を例外的に許可するものとして説明したが、図15に破線で示したように、動作切換部300を制御して動作モードを「停止発進モード」から「始動&アイドルSWモード」へ切り換えることでスタータスイッチ258によるエンジン始動を許可しても良い。あるいは、図18に“条件5”として示したように、メインスイッチ173を遮断することで、スタータスイッチ258によるエンジン始動を実質的に許可するようにしても良い。
【0121】
【発明の効果】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
(1) 停車条件が成立しても、エンジン温度が所定の基準温度よりも高いときにはエンジンの点火制御が中断されずにエンジンが回転し続け、ウォータポンプが継続して作動するので、冷却水の沸騰を防止でき、かつエンジンを素早く冷却させることができる。
(2) エンジンを再始動して発進する際に、エンジン温度が所定の基準温度よりも高いとエンジンの点火時期が遅角されるのでノッキングの発生が防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を適用したエンジン始動装置が搭載されるスクータ型自動二輪車の全体側面図である。
【図2】 スクータ型自動二輪車の計器盤回りの平面図である。
【図3】 着座検出装置の概要を示す模式図である。
【図4】 図1に示したエンジンのA−A線に沿った断面図である。
【図5】 エンジンのシリンダヘッド周辺の側面断面図である。
【図6】 自動変速装置の駆動側断面図である。
【図7】 自動変速装置の従動側断面図である。
【図8】 オイル循環装置を示す断面図である。
【図9】 クランクセンサの配置を示す側面断面図である。
【図10】 クランクセンサの配置を示す正面断面図である。
【図11】 本発明の一実施形態であるエンジン始動停止制御システムのブロック図である。
【図12】 主制御装置の機能を示したブロック図(その1)である。
【図13】 主制御装置の機能を示したブロック図(その2)である。
【図14】 主制御装置の機能を示したブロック図(その3)である。
【図15】 主制御装置の機能を示したブロック図(その4)である。
【図16】 主制御装置の主要動作を一覧表示した図(その1)である。
【図17】 主制御装置の主要動作を一覧表示した図(その2)である。
【図18】 動作モードの切り換え条件を示した図である。
【図19】 エンジン回転数Neおよびスロットル開度θと標準点火時期との関係を示した図である。
【図20】 エンジン回転数と点火時期との関係を示した時である。
【符号の説明】
2…車体前部、3…車体後部、8…シート、8a…フレーム、9…クランク室、9a…ラゲッジボックス、12…クランクシャフト
Claims (3)
- エンジンの点火制御を、走行中は所定の停車条件に応答して中断し、中断後は運転者による所定の発進操作に応答して再開する点火制御手段を含むエンジンの自動停止始動制御装置において、
前記点火制御手段は少なくとも、エンジン温度を検知するエンジン温度検知手段と、前記検知されたエンジン温度に応じてエンジンの点火時期を制御する点火時期制御手段とを含み、
前記点火時期制御手段は、加速操作が検知された際のエンジン温度が所定の基準温度以上であると所定回数だけ点火時期を基準点火時期よりも遅角させ、エンジン停止状態から加速する発進加速時の遅角量を、エンジンが回転している状態から加速する通常加速時の遅角量よりも大きくすることを特徴とするエンジンの自動停止始動制御装置。 - 前記所定の基準温度は、直ちにエンジンを停止するとエンジン冷却水が沸騰すると予測される温度であることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの自動停止始動制御装置。
- 前記エンジンは水冷エンジンであり、エンジン回転を利用して冷却水を循環させるウォーターポンプを含み、
前記エンジン温度検知手段は、前記エンジンとウォーターポンプとの間で、エンジンからウォーターポンプへ向かう冷却水の温度を検知することを特徴とする請求項2に記載のエンジンの自動停止始動制御装置。
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