JP3850557B2 - 新規遺伝子及びその遺伝子を保有する形質転換細胞 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドを2−ピロン−4,6−ジカルボン酸に変換する酵素であるα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナ−ゼをコードする遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター及び該遺伝子を保有する形質転換体細胞、並びに該形質転換体細胞を用いた当該酵素及び2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼは、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドを2−ピロン−4,6−ジカルボン酸に変換する酵素であり、ポリマーの原料として用いられる2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の生産に重要な役割を果たしている。従って、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を見出し、該遺伝子にコードされるα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼを量産することは2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の生産に極めて重要である。
【0003】
一方、酵素などのタンパク質の量産技術として組換えDNA技術の発展は近年めざましく、数多くの酵素、生理活性タンパク質等について組換えDNA技術を利用した量産化に成功している。しかしながら、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼに関しては、該酵素をコードする遺伝子は分離されていなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、組換えDNA技術により、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子を分離して、該遺伝子がコードするα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性を増強することにより2−ピロン−4,6−ジカルボン酸を量産する技術を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の微生物生産について鋭意研究を行った結果、組換えDNA技術を利用してα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドを2−ピロン−4,6−ジカルボン酸に変換するα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼを有する微生物より、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子を単離し、その塩基配列を明らかにすることに成功した。また、該遺伝子の組換えベクター及び遺伝子を保有する形質転換体細胞を作製し、当該酵素及び2−ピロン−4,6−ジカルボン酸を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ、その遺伝子、当該遺伝子を含有する組換えベクター及び当該遺伝子を保有する形質転換体細胞を提供するものである。
【0007】
更に本発明は、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドの存在下に当該形質転換体細胞を培養することを特徴とする2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の製造法を提供するものである。
【0008】
また、本発明は当該形質転換体細胞を培養し、該培養物からα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼを採取することを特徴とする当該酵素の製造法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の遺伝子の分離手段は特に制限されないが、例えば微生物の宿主ベクター系を用いることができる。該遺伝子は、例えば組換えDNA技術を利用して次の如くして製造される。即ち、まずDNA供与体としてα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドを2−ピロン−4,6−ジカルボン酸に変換する能力を有する微生物を用い、該微生物からゲノムDNAを抽出し、制限酵素などにより切断しDNA断片とする。一方、ファージ、プラスミド等のベクターDNAを制限酵素等を用いて、ゲノムDNA断片が挿入可能な制限酵素末端を作製する。これらゲノムDNA断片と直鎖状にしたベクターDNAをDNAリガーゼを用いて結合させて、組換えベクターを得る。該組換えベクターを宿主細胞に移入し、目的の組換えベクターを保有する形質転換体細胞を選択し、該形質転換体細胞より目的の組換えベクターを分離することにより製造される。
【0010】
本発明のDNA供与体としては、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドを2−ピロン−4,6−ジカルボン酸に変換する能力を有する微生物であれば特に制限されない。例えば、スフィンゴモナス属の微生物等が挙げられるが、特にスフィンゴモナス エスピーCR-0300100株やその変異株であるスフィンゴモナス エスピーCR-0310201株(FERM BP-6748)が好ましい。
【0011】
該微生物からのゲノムDNAの抽出は、該微生物の培養菌体を集菌し、例えばプロテアーゼKにて菌体を溶菌した後、フェノール抽出による除タンパク質処理、プロテアーゼ処理、リボヌクレアーゼ処理、アルコールによるゲノムDNAの沈澱、遠心分離などの方法を適宜組み合わせて行うのが好ましい。
【0012】
分離されたゲノムDNAを断片化するには、例えば該ゲノムDNAの制限酵素の消化により行われる。
【0013】
ベクターとしては、宿主微生物内で自立的に増殖し得るファージ又はプラスミドから組換えベクターを目的として構築されたものを用いるのが好ましい。プラスミドとしては、例えば大腸菌を宿主とするpBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、ブルースクリプト、pKK223−3、pACYC177、RSF1010、pKT230等が好ましい。これらのベクターは、例えば制限酵素を用いてDNA断片が挿入可能な制限酵素末端を作製し、必要に応じてその末端を脱リン酸処理した後に用いられる。
【0014】
ゲノムDNA断片とベクターDNA断片の結合は、公知のDNAリガーゼ、例えばT4 DNAリガーゼ等を用いて行うのが好ましい。
【0015】
得られた組換えベクターを移入させる宿主微生物としては、該組換えベクターが安定にかつ自立的に複製可能で、かつ外来性の遺伝子の形質が安定的に発現するものであれば良いが、例えば大腸菌やシュードモナス プチダを用いることができる。
【0016】
宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば接合法、エレクトロポレーション法、コンピテントセル法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等のいずれの方法も用いることができる。
【0017】
形質転換体の選択は、用いたベクターの選択マーカー、例えば形質転換体のDNA組換えにより獲得する薬剤耐性を指標とすることができる。これら形質転換体の中から目的の組換えベクターを含有する形質転換体の選択は、例えば遺伝子の部分的なDNA断片をプローブとして用いたコロニーハイブリダイゼーション法により行うのが好ましい。このプローブの標識としては、例えば放射性同位元素、ジゴキシゲニン、酵素等のいずれも用いることができる。
【0018】
このようにして選択された形質転換体細胞から組換えベクターを抽出するには、常法により抽出すれば良く、例えばアルカリ溶菌法(Cold SpringHarbor Laboratory Press, MolecularCloning Second Edition(1989))を用いることができる。
【0019】
抽出される組換えベクターは、必要に応じて再び組換えDNA技術を利用して組換えることができる。得られる組換えベクターから、本発明の遺伝子を切り出すには、制限酵素などを用いることができる。
【0020】
かくして得られる本発明遺伝子の塩基配列は、例えばダイデオキシ法で解読し、決定することができる。配列番号2及び4にα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を、配列番号1及び3に当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を、配列番号5に後記実施例で分離したDNA断片の塩基配列及び推定アミノ酸配列を示す。
【0021】
配列番号1は配列番号3の部分アミノ酸配列である。本発明により生産される酵素は、配列番号3のアミノ酸配列を有する酵素であっても、配列番号1のアミノ酸配列を有する酵素であっても同等の酵素活性を有する。また、配列番号1又は3記載のアミノ酸配列の1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子であっても、コードするポリペプチドがα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性を有する限り、本発明に包含される。
【0022】
同様に配列番号2は配列番号4の部分塩基配列である。そして、また配列番号2又は4記載の塩基配列の1若しくは2以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であっても、本発明に包含される。
【0023】
本発明遺伝子を発現させ、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼを生産するには、本発明遺伝子を保有する形質転換体細胞、例えば上記形質転換体細胞、本発明の遺伝子を強力なプロモーターを有する発現ベクターに組み込んだ組換えベクターの形質転換体細胞、本発明の遺伝子を細胞内でのコピー数の高いベクターに組み込んだ組換えベクターの形質転換体細胞、又は本発明の遺伝子を強力なプロモーターを有するコピー数の高い発現ベクターに組み込んだ組換えベクターの形質転換体細胞を培養し、その培養物から採取すればよい。この場合における培養は、用いる形質転換体細胞の性質に応じて行われ、例えば、pH5〜8、20〜37℃で炭素源、窒素源、ビタミン等を含有する培地で行われる。
【0024】
また、本願形質転換体細胞を培養すれば、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼが高発現するので、当該形質転換体細胞をα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドの存在下に培養すれば、2−ピロン−4,6−ジカルボン酸が効率良く生産できる。ここで、酵素の基質であるα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドは、培地中に添加してもよいが、形質転換体細胞が例えば3,4−ジヒドロキシ安息香酸をα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドに変換する酵素も産生する場合には、3,4−ジヒドロキシ安息香酸を培地中に添加すれば、培養によりα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドが生成し、次いで2−ピロン−4,6−ジカルボン酸が生成する。当該2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の生産の条件は、用いる形質転換体細胞の性質に応じて行われる。
【0025】
また、培養物からの2−ピロン−3,4−ジカルボン酸の採取は、例えば有機溶媒による抽出等により行われる。
【0026】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0027】
参考例1
(1)21mm試験管に0.2%のシリンガ酸を含む表1の組成の培地を10ml調製し、土壌サンプルを0.5gずつ入れ、30℃で3日間培養した。
【0028】
【表1】
【0029】
(2)次に、上記を約5分間静置し、僅かに濁った上清0.1mlを(1)と同じ組成の新しい試験管に植え継ぎ、30℃で3日間培養した。
(3)上記操作を1〜2回繰り返し、最後の上清を滅菌した蒸留水に適当に希釈し、0.2%のシリンガ酸を含む表1の組成の寒天培地に展開し、30℃で3日間培養し、コロニーを形成させた。
(4)上記コロニーを0.2%のバニリン酸を含む表1の組成の寒天培地に爪楊枝を用いて接種して、生育してくる菌株を得た。
(5)バニリン酸で生育した菌株を再び、0.2%のシリンガ酸を含む表1の組成の培地を10mlに植菌して、30℃で3日間培養した。培養液を滅菌した蒸留水に適当に希釈し、LB寒天培地に展開し、30℃で1日間培養し、コロニーを形成させた。
(6)生じたコロニーを同じコロニーについて、0.2%のバニリン酸及びシリンガ酸を含む表1の組成の2種の寒天培地に爪楊枝を用いて接種して、生育してくる菌株を得た。
(7)バニリン酸及びシリンガ酸を含む2種の寒天培地でともに生育可能な菌株1株を得た。本菌株をCR−0300100とし、菌学的性質を調べたところ、以下の通りであった。
【0030】
a、形態的特徴
・細胞の大きさ形 0.5×1.1〜1.3μm 桿菌
・胞子の有無 なし
・鞭毛 極鞭毛
・運動性 +
【0031】
b、寒天培地における生育状況
・表1の培地において 円形のコロニー、光沢があり、黄色
【0032】
【0033】
d、化学分類学的性質
・DNAのG/C含量(モル%) 68
・キノンタイプ Q−10
・色素 +(疎水性yellow pigment)
・細胞壁脂質 スフィンゴ脂質
e、その他の特性
・3,4−ジヒドロキシ安息香酸酸化酵素 メタ開裂
【0034】
上記の性質から、CR−0300100株はスフィンゴモナス(Sphingomonas)属と同定した。
【0035】
参考例2
(1)参考例1で得られたスフィンゴモナス エスピー.CR−0300100を100mlのLB培地(トリプトン10g、酵母エキス5g、塩化ナトリウム5g、グルコース1g/L)を用いて30℃で24時間振とう培養した。遠心にて菌体集菌後、Marmurの方法(Marmur,J.1961.J.Mol.Biol.3:208−218)で全DNAを抽出し、常法により精製した。
(2)(1)で得たスフィンゴモナス エスピー CR−0300100全DNAを制限酵素XhoI及びSphIで完全分解し、制限酵素SalI及びSphIで完全に消化したベクタープラスミドpUC19と混合しT4DNAリガーゼで処理して、ハイブリッドプラスミドを形成させた。
(3)(2)で得たハイブリッドプラスミドを大腸菌HB101株に形質転換し、100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地に、プレート1枚あたり200〜300コロニーが出現するように塗布し、37℃で18時間培養した。
(4)上記で得られたコロニーを100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地に、プレート1枚あたり96個ずつ継代し、これをマスタープレートとした。この操作で合計2000株のコロニーを得た。それぞれを100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地を0.2ml調製した96穴マイクロプレートに植菌した。37℃でマイクロプレートシェーカーを用いて振とう培養した。
(5)18時間培養後、それぞれのウェルに最終濃度が50μg/mlとなるようにリゾチームを添加して、37℃で2時間インキュベートした。次に3,4−ジヒドロキシ安息香酸の20mM溶液を各ウェルに2μlずつ添加し、30℃で5分間インキュベートした。
(6)上記の処理を行った各ウェルに2Mの水酸化ナトリウムを10μlずつ添加したところ、2000株中1株において黄色の発色が見られた。
(7)黄色の発色のあった株からプラスミドを抽出し、いくつかの制限酵素について切断パターンを調べ、このプラスミドをpPX150と名付けた。
【0036】
参考例3
(1)pPX150を制限酵素ApaIで切断し、セルフライゲーションしたプラスミドpPX151を作成した。このプラスミドで形質転換した大腸菌HB101株及びpPX150で形質転換した大腸菌HB101株を100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地10mlで18時間培養し、集菌した。菌体を50mMのリン酸緩衝液1mlに懸濁し、超音波破砕機を用いて細胞を破砕した。これを5000gで20分間遠心して得られた上清20μlを0.2mMの3,4−ジヒドロキシ安息香酸を含むリン酸緩衝液1mlに添加した。5分間、30℃でインキュベーションした後に、2Mの水酸化ナトリウムを0.1ml添加したところ、pPX150で形質転換した大腸菌HB101株では黄色の発色が見られたが、pPX151で形質転換した大腸菌HB101株では黄色の発色が見られなかった。
(2)プラスミドpUC4K(ファルマシア バイオテク社)を制限酵素EcoRIで消化し、blunting kit(宝酒造社)を用いて平滑化し、1%アガロースゲル電気泳動によって分離した。
(3)1.3kbpの断片を上記ゲルから切り出し、フェノール抽出を3度行い、エタノール沈殿によりDNAを精製した。
(4)pPX151を制限酵素ApaIで切断し、blunting kit(宝酒造社)を用いて平滑化した。これと上記(3)で得られたDNAを混合してligation kit(宝酒造社)を用いて連結反応を行い、大腸菌HB101株に形質転換した。形質転換した大腸菌HB101株は、カナマイシンとアンピシリンに対して耐性な菌株を選抜し、その株の保有するプラスミドとしてpPX152を得た。
【0037】
参考例4
(1)前実験で得られたプラスミドpPX152を制限酵素XbaIで消化し、1%アガロース電気泳動にて分離し、2.3kbpの断片を切り出した。次に凍結融解法によりDNAを抽出し、十分にフェノール抽出を行いエタノール沈殿により精製した。
(2)スフィンゴモナス エスピー CR−0300100株をLB液体培地(ナリジキシン酸25mg/Lを含む)500mlで28℃、23時間培養し氷中で15分冷却した。
(3)4℃、10分、10000rpm で遠心集菌し、500mlの0℃蒸留水で穏和に洗浄後再び、遠心集菌した。続いて250mlの0℃蒸留水で穏和に洗浄後、遠心集菌した。更に、125mlの0℃蒸留水で穏和に洗浄後、遠心集菌した。
(4)上記の菌体を10%グリセロールを含む蒸留水に懸濁し0℃にて保持した。
(5)(1)のDNA約0.05μgを含む蒸留水4μlを0.2cmのキュベットに入れ、(4)のコンピテントセル40μlを加え、(25μF、2500V、12msec)の条件でエレクトロポレーションにかけた。
(6)上記処理した細胞全量を10mlのLB液体培地に接種し、30℃で6時間培養した。培養後、遠心によって菌体を集め25mg/Lのカナマイシンを含むLB平板に展開し、30℃で48時間培養した。
(7)上記の条件で非常に強いカナマイシン耐性株、1株を得た。本菌株をスフィンゴモナス エスピー CR−0310201株と名付けた。
(8)スフィンゴモナス エスピー CR−0310201株及びCR−0300100株をLB培地10mlで24時間培養し、集菌した。菌体を50mMのリン酸緩衝液1mlに懸濁し、超音波破砕機を用いて細胞を破砕した。これを5000gで20分間遠心して得られた上清100μlを0.2mMの3,4−ジヒドロキシ安息香酸を含むリン酸緩衝液1mlに添加した。5分間、30℃でインキュベーションした後に、2Mの水酸化ナトリウムを0.1ml添加したところ、CR−0300100株では黄色の発色が見られたが、CR−0310201株では黄色の発色が全く見られなかった。CR−0310201株は上述の性質及びカナマイシンに耐性及びバリニン酸の資化性が欠損したことを除きCR−0300100株と全く同一の菌学的性質を示した。本菌株は、通商産業省工業技術院生命工学工業研究所にFERM BP−6748として寄託した。
【0038】
実施例1(α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列解析)
LB液体培地でスフィンゴモナス エスピーCR-0310201株を、30℃にて24時間、好気的条件下で培養し、遠心分離にて集菌した。この集菌した菌株について150W、10分間の超音波破砕機による細胞破砕処理を行った後、100,000gにて30分間の遠心分離を行った。
【0039】
その上清を硫安分画し、硫安濃度30〜70重量%の分画を回収して、弱アニオンイオン交換クロマトグラフィー(パーセプティブ社、PI(ポリエチルイミン)カラム)、強アニオン交換クロマトグラフィー(パーセプティブ社、HQ(第4級ポリエチルイミン)から疎水クロマトグラフィー(ファルマシア社、Phenyl Sepharose CL−4B)及び吸着クロマトグラフィー(Hydroxyapatite)による酵素精製を行った。α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性のある分画を回収した。
カラム精製を行った該精製物は、SDS−PAGEの結果単一バンドであることを確認し、単一に精製したことを確認した。
【0040】
この単離したα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼの部分的なアミノ酸配列をアミノ酸シークエンサー(アプライドバイオシステムズ社)により解析した。この決定した該酵素の部分的なアミノ酸配列を配列番号6、7に示す。
【0041】
尚、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性は以下のように求めた。
【0042】
(1)2g/Lのパラヒドロキシ安息香酸を含む表1の培地でシュードモナステストステロニ JMC5832株を暗所30℃で24時間振とう培養した。
(2)菌体を遠心分離にて集め、pH7.5のリン酸カリウム緩衝液に懸濁し150W、10分間の超音波破砕機による細胞破砕処理を行った後、10,000gにて30分間の遠心分離を行った。
(3)上記のようにして得た上清に等量のエタノールを加え、10,000gにて10分間遠心し、得られた上清にエタノール濃度が70%(v/v)となるように加え、更に10,000gにて10分間遠心した。
(4)上記で得られた沈殿を10%のエタノールを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で溶解し、10%のエタノールを含む200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用いてDEAE−セルロースカラムにて3,4−ジヒドロキシ安息香酸のメタ開裂酵素画分を得た。
(5)以上のようにして得られた3,4−ジヒドロキシ安息香酸のメタ開裂酵素溶液を0.2mMの3,4−ジヒドロキシ安息香酸を含む50mM−Tris−塩酸緩衝液(pH8.1)0.9mlに50μlを加え、37℃インキュベートし、410nmの吸光度を分光光度計(島津、UV−2100)でモニターした。吸光度が一定になったところにα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ酵素液50μl(蛋白質量で1mg)を添加した。この操作で吸光度が変化しないことを確認し、20μlのNADP(100mM溶液)を添加して410nmの吸光度減少を100秒間モニターした。以上の操作によるNADP依存性のα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド減少量からα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ活性を求めた。
【0043】
実施例2 α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のクローニング
(1)遺伝子ライブラリーの調製
スフィンゴモナス エスピーCR-0310201株を5g/Lのグルコースを含むLB培地(トリプトン;10g/L、酵母エキス;5g/L、NaCl;5g/L、pH7.0)へ接種し28℃にて終夜培養し、前培養液を作製した。この前培養液をフラスコ内の新しく用意した前記と同様の培地に接種し28℃にて再び終夜培養した。該培養液の遠心により集菌した。
該菌体をTE(10mMトリス塩酸、1mM EDTA、pH8.0)に懸濁した後、最終濃度0.5% SDS及び最終濃度100μg/mlプロテアーゼKにて37℃、1時間処理し、1/6容の5M食塩を混合した。次いで、10% CTAB(Hexadecyltrimethylammonium bromide)、0.7M食塩を1/10容量加え、65℃で10分間静置した。等量のクロロホルム−イソアミルアルコール液にて抽出し、得られた水層を等量のフェノール−クロロホルム液にて抽出を行った。この水層に含まれるゲノムDNAをエタノール沈殿にて取得し、減圧乾燥の後TEを加え溶解した。
【0044】
該ゲノムDNAを制限酵素EcoRI(宝酒造社)により部分消化し、1%アガロースゲル(和光純薬工業社、アガロース1600)にて電気泳動した。緩衝液としてTAE(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Molecular Cloning Second Edition(1989))を用いた。電気泳動後のアガロースゲルは1μg/mlエチジウムブロマイドに15分間浸せきした後水洗し、紫外線照射によりDNA断片の蛍光を確認した。サイズマーカーとしてλファージDNAのEcoRI、HindIII消化物(宝酒造社)を同時に電気泳動し、該DNA断片の泳動距離からゲノムDNA消化物の分子量を求めた。
【0045】
1−3kbpのゲノムDNAのEcoRI部分消化物を含むアガロースゲルを切り出し、セシウムクロライドを用いた超遠心法にてDNA断片の精製を行った。
プラスミドベクターpUC19 を制限酵素EcoRI(宝酒造社)により完全消化した。同反応液にアルカリホスファターゼ(Bacterial Alkaline Phosphatase)(宝酒造社)を添加し、制限酵素にて消化したプラスミドベクターの末端の脱リン酸化を行った。
【0046】
上記反応液に1/10倍容量の3M酢酸ナトリウムpH5.2と2倍容量のエタノールを添加し−80℃にて2時間冷却し、9,000gにて10分間遠心し、ベクターDNAのペレットを得た。70%エタノールを適量加え遠心管の壁面を2回リンスし、このリンス液を簡単に除去した後減圧乾燥した。乾燥したベクターDNAをTEに溶解した。
【0047】
前記スフィンゴモナス エスピーCR-0310201株の1−3kbpのDNA断片及びベクターDNAを、T4リガーゼ(宝酒造社)を用いて結合した。
【0048】
大腸菌HB101のコンピテントセルを100mMの塩化カルシウムを用いて調製し、上記T4リガーゼ反応液で形質転換した。該大腸菌は最終濃度が100μg/mlになるようにアンピシリンを添加したLB平板培地(LBに寒天15g/lを添加して調製する)に塗布し、37℃にて終夜培養した。出現したコロニーを、大腸菌HB101を宿主としたスフィンゴモナス エスピーCR-0310201株の遺伝子ライブラリーとした。
【0049】
(2)α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子プローブの作製
スフィンゴモナス エスピーCR-0310201株を試験管内の培地(ポリペプトン5g/l、酵母エキス0.5g/l、肉エキス5g/l、食塩2g/l、pH7.0)へ接種し28℃にて終夜培養し、前培養液を作製した。この前培養液をフラスコ内の新しく用意した前記と同様の培地に接種し28℃にて再び終夜培養した。該培養液の遠心により集菌した。
【0050】
該菌体をTE(10mMトリス塩酸、1mM EDTA、pH8.0)に懸濁した後、最終濃度0.5% SDS及び最終濃度100μg/mlプロテアーゼKにて37℃、1時間処理し、1/6容の5M食塩を混合した。次いで、10% CTAB(Hexadecyltrimethylammonium bromide)、0.7M食塩を1/10容量加え、65℃で10分間静置した。等量のクロロホルム−イソアミルアルコール液にて抽出し、得られた水層を等量のフェノール−クロロホルム液にて抽出を行った。この水層に含まれるゲノムDNAをエタノール沈殿にて取得し、減圧乾燥の後TEを加え溶解した。
【0051】
配列番号6、7に示すα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の部分的なアミノ酸配列を用いて、このアミノ酸配列をコードするα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子の部分的な塩基配列を逆翻訳した。これら知見から、該遺伝子をPCRにより部分的に増幅することを目的として、配列番号8及び配列番号9に示す塩基配列を有する合成ヌクレオチドを化学合成により作製し、1対のPCRプライマーとした。スフィンゴモナス エスピーCR-0310201株のゲノムDNAを鋳型DNAとして、該プライマーによりα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子の部分的なDNA断片をPCRにて増幅した。
【0052】
尚、このPCRは次の如くして行った。まず、10mMトリス塩酸pH8.3、50mM塩化カリウム、1.5mM塩化マグネシウム、0.001%(W/V)ゼラチン、2μM dNTP混合液、40ng/μlゲノムDNA、1μM PCRプライマー、を含む反応液を調製した。この反応液は92℃にて5分間熱処理した後、耐熱性DNAポリメラーゼ(宝酒造社、TaKaRa Taq)を0.05U/μlになるように加え、40℃にて6分間放置した。続いて、サイクル反応(熱変性反応94℃にて30秒間、アニーリング反応40℃にて2分間、伸長反応72℃にて30秒間)を40回繰り返した後、72℃にて5分間反応した。
【0053】
この増幅した約600bpのDNA断片をプラスミドベクターpUC19に連結したプラスミドpPCCH1を作成した。pPCCH1を鋳型DNAとして、上記と同一のPCRプライマーを用いたPCRにて、再びα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子の部分的なDNA断片を増幅した。尚、この2回目のPCRについては、PCR DIGプローブ合成キット(ベーリンガー・マンハイム社製)を用い、サイクル反応(熱変性反応94℃にて30秒間、アニーリング反応40℃にて2分間、伸長反応72℃にて30秒間)を40回繰り返した後、72℃にて5分間反応した。得られた増幅産物をアガロースゲル電気泳動にてジゴキシゲニンラベルした核酸を取り込むことによって分子量が増加した増幅DNAを分離し切り出したものをα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子プローブとした。
【0054】
(3)α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むプラスミドの取得
上記(1)にて取得したスフィンゴモナス エスピーCR-0310201株のライブラリーを構成する大腸菌HB101およそ2000株をアンピシリンを100μg/ml含む培地に9cmのシャーレ1枚当たり200個程度爪楊枝を用いて植菌した。37℃でおよそ6時間静置培養の後、コロニーをナイロンメンブレンにレプリカし、DIGディテクションキット(ベーリンガー・マンハイム社製)を用い、上記(2)で得られたプローブとハイブリダイズするコロニーを選抜した。選抜した大腸菌は、プラスミドpCHMS01を保有していた。
【0055】
(4)組み換え体のα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性の測定
プラスミドpCHMS01及び幾つかの制限酵素を用いてpCHMS01から作成したプラスミドを保有する大腸菌のα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性の測定結果を図1に示した。その結果、pCHMS01、pCHMS02、pCHMS03にα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子が機能的に発現することを確認した。
【0056】
上記形質転換体細胞の有するα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性の測定は次の如くして行った。アンピシリンとIPTGをそれぞれ最終濃度が100μg/mlと1mMになるように添加したLB液体培地50mlへ、pCHMS01、pCHMS02、pCHMS03、pCHMS04を保有する大腸菌JM109を100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地100mlで24時間振とう培養した。遠心集菌後、50mM−Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)で2度洗浄し、50mM−Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)5mlに懸濁した。150W、10分間の超音波破砕機によって細胞破砕処理を行い、無細胞抽出を得た。この無細胞抽出を酵素液とし、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性測定を実施例1と同様に行った。反応液をHPLC分析(BONDASPHEARE C18カラム、移動相:2%酢酸、20%メタノール、78%蒸留水)し、2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の生成を確認した。
【0057】
(5)α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列解析
次に該組み換えプラスミドpCHMS02を用いて約1.4kbpのDNA挿入断片の塩基配列の解析を行った。塩基配列の解析は、T7シークエンシングキット(ファルマシアバイオテク社)を用いたM13ダイデオキシ法(Sanger,F.,etc.,Proc.Natl.Acad.Sci.,74,5463−5467(1977))にてシークエンシング反応を行い、自動レーザー蛍光シークエンシング装置(ファルマシアバイオテク社)を用いた。塩基配列解析の結果、該DNA断片上に945bpの唯一のオープンリーディングフレームが見出された。
【0058】
以上のようにして得られたα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を解析した。その塩基配列とコードされているアミノ酸配列を配列番号5に示した。
【0059】
【発明の効果】
本発明の形質転換体細胞を用いれば、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼを多量に製造することができ、2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の工業的生産が可能となる。
【0060】
【配列表】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【図面の簡単な説明】
【図1】スフィンゴモナス エスピー由来のα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むプラスミドにおける挿入DNA断片の制限酵素地図及びα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性の有無を示す説明図である。
Claims (7)
- 配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ。
- 配列番号1又は3で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
- 配列番号2又は4で示される塩基配列又は当該塩基配列の1若しくは2以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列、又はこれらに相補的な塩基配列からなるものである請求項2記載の遺伝子。
- 請求項2又は3記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
- 請求項2又は3記載の遺伝子を保有する形質転換体細胞。
- 請求項5記載の形質転換体細胞を培養し、該培養物からα−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒド デヒドロゲナーゼを採取することを特徴とする該酵素の製造法。
- α−ヒドロキシ−γ−カルボキシムコン酸−ε−セミアルデヒドの存在下に、請求項5記載の形質転換体細胞を培養することを特徴とする2−ピロン−4,6−ジカルボン酸の製造法。
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