JP3850229B2 - 消波堤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、消波堤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、海岸、港湾、または海洋に設置される消波堤としては、例えばコンクリートにより形成された堤体の外海側(沖側)に、杭状部材を所定間隔おきに並べたものがあり、また海面に浮遊する浮体内に、前後に離れた位置で、下方が海中に開放され且つ上方が密閉された海水室を2個形成するとともに、これら海水室同士の上方空間部を互いに連通管を介して連通させて、波の位相差により、両海水室内の空間容積の変動に際し、すなわち連通管を介して空気が移動する際の絞り作用により、波の持つエネルギーを消費させるようにしたものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の消波堤によると、堤体の外海側に杭状部材を並置するものについては、その消波効果があまり期待することができず、また浮体の内部に、前後に離れた位置で2個の海水室を形成するものについては、製造コストが高くしかも波のエネルギーの減衰だけを目的としたものであった。
【0004】
そこで、本発明は、消波を効果的に行い得るとともに、消波以外の機能を発揮し得る消波堤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る消波堤は、所定海域に設置される堤本体の内部に海水室を形成するとともに、この海水室の外海側に設けられる前壁部に複数の海水の流入口を形成し、上記海水室の内部に隔壁部を配置して前方の遊水室と後方の貯水室とに区画するとともに、上記隔壁部の上部に連通部を形成してこれら遊水室と貯水室とを連通させ、さらに海面近傍における前壁部と隔壁部とに亘って、複数本の連通管を配置して、外海側の海中と貯水室内とを連通させるとともに、波の押し引き作用により、貯水室内と外海側とで海水を出入させるようにしたものである。
【0006】
上記の構成によると、堤本体の内部に形成された海水室内に、流入口が形成された前壁部を介して外海側と連通される遊水室を設けたので、外海側からの波は、この流入口の出入時に、効果的にそのエネルギーが消費される。
【0007】
また、堤本体の内部の海水室内には、隔壁部を介して、遊水室の直ぐ隣に、貯水室を設けるとともに、この貯水室と前方の海中とを、複数本の連通管により連通させたので、波の押し引き作用、特に引く際に、貯水室内の海水が勢いよく前方に流出し、海水中への酸素混入により海域のBOD(生物学的酸素要求量)の改善が行われるとともに、海中では循環流が発生して、海水中の微粒物質の沈下が促される。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る消波堤は、所定海域に設置される堤本体の内部に海水室を形成するとともに、この海水室の外海側に設けられる前壁部に複数の海水の流入口を形成し、上記海水室の内部に主隔壁部を配置して前方の遊水室と後方の貯水室とに区画するとともに、上記主隔壁部の上部に連通部を形成してこれら遊水室と貯水室とを連通させ、さらに上記貯水室内に副隔壁部を設けて、前部貯水室と後部貯水室とに区画するとともに、この副隔壁部の上端を上記主隔壁部の上端よりも下方に位置させ、且つ上記前壁部の下部に、上記後部貯水室と外海側とを連通させる連通開口部を設けたものである。
【0009】
上記の構成によると、下層部の海水には、鉛直面内で下向きの循環流が発生し、この下向きの循環流により、前部貯水室により発生する上向きの循環流による海底の堆積物の攪拌上昇を抑制することができ、例えば海面で臭気が漂うのを防止することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1の実施の形態における消波堤を、図1〜図4に基づき説明する。
【0011】
本実施の形態に係る消波堤は、例えば港湾施設の入口側または養殖海域の外海側に設置されるものである。
図1および図2に示すように、この消波堤1は、海底から海面上に突出するような高さにされた堤本体2の外海側(以下、沖側という)に、海水を流入させ得る海水室3が設けられたものである。
【0012】
この堤本体2は、海底に配置される底壁部4と、底壁部4の内海側(以下、陸側という)に立設される側壁部5と、側壁部5の上面に配置される上壁部6とから構成されており、例えば鋼板、コンクリート、砂(後述する)などにより製作されている。
【0013】
そして、上記海水室3は、堤本体2の底壁部4、側壁部5および上壁部6により囲まれることにより形成されたものであり、その沖側の前面には、水平方向のスリット(流入口)7aが上下に亘って多数形成された板状の前壁部(勿論、板状でなくてもよい)7が設けられるとともに、この前壁部7と側壁部5との間の底壁部4には板状の隔壁部8が所定高さでもって立設されている。
【0014】
この隔壁部8により、上記海水室3が、前方(沖寄り)の遊水室9と後方(陸寄り)の貯水室10とに区画され、また隔壁部8の高さは、海面の平均水位(MWL)より、少し高くなるようにされており、その上方部分は、遊水室9と貯水室10とを連通させ得る連通空間部11にされている。
【0015】
さらに、上記遊水室9内には、貯水室10内と沖側の海中とを連通させるための連通管12が、前壁部7と隔壁部8とに亘って複数本設けられている。これら各連通管12は、海面が変化する近傍(海面付近)において、貯水室10内の海水と沖側の海水との行き来を図るものであり、したがって各連通管12は、海面近傍において、前面から見て上下2段で且つ水平方向において所定間隔おきで交互にずらされて、すなわち千鳥状に配置されている。より具体的には、上段の連通管12Aは、海面の平均水位(MWL)に配置されるとともに、下段の連通管12Bは、海面の低面水位(LWL)に配置される。
【0016】
なお、上記側壁部5の内部、および前壁部7と隔壁部8との間の下部には、それぞれ空間室13,14が形成されるとともに、これら各空間室13,14 内には、重量付加用として砂などの充填物15が充填されている。
【0017】
上記構成の消波堤1を、所定海域に設置した場合、沖側から波が到来すると、前壁部7に形成されたスリット7aを介して、遊水室9内との間で海水が出入する。すなわち、遊水室9内の水面(海面)が上下に変動するとともに、前壁部7の両側で、海水がU字振動(連通管振動、接水運動ともいう)を行い、したがって波のエネルギーが効果的に消費される。また、消波機能としては、海水室3内に設けられた遊水室9の前壁部7にスリット7aを形成した構成であるため、互いに離れた位置でそれぞれ別個に設けられた2個の海水室同士を連通させるものとは異なり、製造コストが安価になる。
【0018】
また、この海水のU字振動と併せて、沖側から到来した波は、図3に示すように、海面付近に多数配置された連通管12を介して、貯水室10内に流入するとともに、図4に示すように、波が引く際に、貯水室10内の海水が連通管12を介して、消波堤1の前方に勢いよく流出して、酸素混合が促進される。
【0019】
すなわち、波の山・谷に合わせて貯水室10内の海水が狭い連通管12を介して出入することになり、やはり波のエネルギーが消費される。
さらに、波の山・谷に合わせて、消波堤1の前方においては、連通管12を介して海水が出入するが、特に、連通管12から海水が流出するとき、図4の矢印にて示すように、鉛直面内で海水の循環流16が発生して、海水中の微粒物質の沈下および酸素混入が促されるため、海水の浄化、延いては海域の浄化が行われる。すなわち、海水の浄化機能が発揮される。
【0020】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る消波堤を、図5および図6に基づき説明する。
本第2の実施の形態に係る消波堤と第1の実施の形態に係る消波堤との異なる箇所は、貯水室を2つに区画し、且つ一方の貯水室と外海の上層側とを連通させるとともに他方の貯水室と外海の下層側とを連通させたものであり、以下の説明においては、この部分に着目して説明するとともに、同一の構成部材と同じ部材には、同一番号を付してその説明を省略する。
【0021】
すなわち、図5に示すように、消波堤21の堤本体2内に設けられた主隔壁部(隔壁部に相当する)8により形成される貯水室11内に断面がL字形状の副隔壁部22が設けられて、貯水室10が、前部貯水室10aと後部貯水室10bとに区画されている。なお、この副隔壁部22は、その水平部22aが主隔壁部8側に接続されるとともに、その鉛直部22bの上端が、主隔壁部8の上端より下方位置となるように、好ましくは、上側の連通管12Aの中心位置となるような位置にされている。
【0022】
そして、上記遊水室9の下方には、上記後部貯水室10bの下部と外海側の下層部とを連通させる連通路(具体的には、所定断面形状の水路、連通管などである)23が形成されるとともに、この連通路23の前面側の前壁部7には開口部(スリットでもよい)24が形成されている(連通路23と開口部24とにより連通開口部が構成される)。
【0023】
上記構成において、波が到来すると、第1の実施の形態にて説明したように、波の山・谷に合わせて貯水室10内の海水、特に前部貯水室10a内の海水が狭い連通管12を介して出入し、波のエネルギーが消費される。そして、このとき、後部貯水室10b内の海水についても、連通路23および開口部24から外海の下層部に対して出入することになる。
【0024】
すなわち、波の山・谷に合わせて、消波堤21の前方においては、連通管12から海水が流出するとき、図5の矢印にて示すように、上層部寄りの海水には、鉛直面内で上向き(消波堤の前面側の海水が上昇する方向)の循環流25が発生して、海水中の微粒物質の沈下および酸素混入が促され、したがって海水の浄化が行われる。
【0025】
一方、後部貯水室10bからも海水が開口部24から流出し、下層部の海水には、鉛直面内で下向き(消波堤前面側の海水が下降する方向)の循環流26が発生して、海水の浄化が行われるとともに、特に上向きの循環流25による海底の堆積物の攪拌上昇を、下向きの循環流26にて抑制することができ、したがって例えば海面で臭気が漂うのを防止することができる。
【0026】
ここで、堤本体の上部に連通部を設けた場合と、堤本体の上部および下部に連通部を設けた場合の海水の動き(時間平均流分布)を、模型実験にて調べた結果を図6に示す。
【0027】
図6(a)は上部に連通部を設けた場合の時間平均流分布図を示し、図6(b)は上部および下部に連通部を設けた場合の時間平均流分布図を示し、波周期Tは0.19秒、波高Hは10cm、波高H/波長Lは0.03である。実機(実物)に換算した場合、波周期は6.0秒、波高は1.0m、堤本体からの距離は、模型の場合の10倍となる。
【0028】
上部に連通部を設けた場合、図6(a)に示すように、堤本体の前面の下方部にて、少し下向きの流れが発生していることが分かるが、上部および下部に連通部を設けた場合には、図6(b)に示すように、海水の流れが明瞭に上下に分かれ、しかも上層部では堤本体の前面に沿って上方への流れが発生するとともに、下層部では堤本体の前面に沿って強い下方への流れが発生していることが良く分かる。
【0029】
ところで、上記実施の形態においては、前壁部に形成されるスリットを、水平方向として説明したが、例えば縦方向のスリットを形成してもよく、また上記連通管については、上下2段または千鳥状に限定されるものではなく、その海域の潮位と波の状態に応じて、最適な配置が行われる。
【0030】
【発明の効果】
以上のように本発明の請求項1に係る消波堤の構成によれば、堤本体の内部に形成された海水室内に、スリットが形成された前壁部を介して外海側と連通される遊水室を設けたので、外海側からの波は、このスリットの出入時に、効果的にそのエネルギーが消費され、また遊水室の前壁部にスリットを形成したものであるため、製造コストが安価である。
【0031】
さらに、堤本体の内部の海水室内には、隔壁部を介して、遊水室の直ぐ隣に、貯水室を設けるとともに、この貯水室と前方の海中とを、複数本の連通管により連通させたので、波の押し引き作用、特に引く際に、貯水室内の海水が勢いよく流出するため、海中では循環流が発生し、したがって海水中への酸素混入および微粒物質の沈下が促されて、海水の浄化機能が発揮される。
【0032】
さらに、請求項2に係る消波堤の構成によれば、外海の上層側に連通する前部貯水室と、外海の下層部に連通する後部貯水室とを設けたので、下層部の海水には、鉛直面内で下向きの循環流が発生し、この下向きの循環流により、前部貯水室により発生する上向きの循環流による海底の堆積物の攪拌上昇を抑制することができ、例えば海面で臭気が漂うのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態における消波堤の断面図である。
【図2】図1のA−A水平断面図である。
【図3】同消波堤の消波および浄化機能を説明するための断面図である。
【図4】同消波堤の消波および浄化機能を説明するための断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態における消波堤の断面図である。
【図6】同消波堤の模型実験による海水の時間平均流分布図を示し、(a)は堤本体の上部に連通部を設けた場合を示し、(b)は堤本体の上部および下部に連通部を設けた場合を示す。
【符号の説明】
1 消波堤
2 堤本体
3 海水室
7 前壁部
7a スリット
8 隔壁部(主隔壁部)
9 遊水室
10 貯水室
10a 前部貯水室
10b 後部貯水室
12 連通管
21 消波堤
22 副隔壁部
23 連通路
24 開口部
Claims (2)
- 所定海域に設置される堤本体の内部に海水室を形成するとともに、この海水室の外海側に設けられる前壁部に複数の海水の流入口を形成し、
上記海水室の内部に隔壁部を配置して前方の遊水室と後方の貯水室とに区画するとともに、上記隔壁部の上部に連通部を形成してこれら遊水室と貯水室とを連通させ、
さらに海面近傍における前壁部と隔壁部とに亘って、複数本の連通管を配置して、外海側の海中と貯水室内とを連通させるとともに、波の押し引き作用により、貯水室内と外海側とで海水を出入させるようにしたことを特徴とする消波堤。 - 所定海域に設置される堤本体の内部に海水室を形成するとともに、この海水室の外海側に設けられる前壁部に複数の海水の流入口を形成し、
上記海水室の内部に主隔壁部を配置して前方の遊水室と後方の貯水室とに区画するとともに、上記主隔壁部の上部に連通部を形成してこれら遊水室と貯水室とを連通させ、
さらに上記貯水室内に副隔壁部を設けて、前部貯水室と後部貯水室とに区画するとともに、この副隔壁部の上端を上記主隔壁部の上端よりも下方に位置させ、且つ上記前壁部の下部に、上記後部貯水室と外海側とを連通させる連通開口部を設けたことを特徴とする消波堤。
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