JP3846759B2 - 高圧燃料噴射管 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明はディーゼル内燃機関にあって、燃料供給路としてシリンダーヘッド側のそれぞれノズルホルダーと燃料ポンプ側のデリバリーホルダーとに接続して配置される管径20mm程度以下の比較的細径で厚肉からなる高圧燃料噴射管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種のディーゼル内燃機関用高圧燃料噴射管材としては、本出願人が所有する特公平1−46712号公報が知られている。この公報記載の高圧燃料噴射管材は、厚肉の炭素鋼製の鋼管からなる外管に、内側に流通路が形成されたSUS 304のようなステンレス鋼管からなる薄肉の内管を圧嵌して二重金属管を構成し、かつ内管の肉厚を二重金属管材全体の外径に対し、1.2ないし8.5%としたものである。
【0003】
そしてこの公報記載の高圧燃料噴射管材は、NOxの低減や黒煙対策の1つとして噴射時間1〜2ミリ秒、流速が最大で50m/sec、内圧600〜1000bar(ピーク圧)という現在の燃料の噴射圧の高圧化に対応した条件で動作させても、内周面におけるキャビテーション・エロージョン・コロージョン(以下キャビテーションという)の発生が防止できるのみならず、繰り返し高圧疲労に対する耐久性もほぼ満足できるものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この特公平1−46712号公報で提案した高圧燃料噴射管は上記した燃料噴射条件下では優れた耐キャビテーション性能と耐内圧疲労強度を発揮するものであった。しかしながら内圧がさらに上昇して1200bar以上となりかつ負圧域と該負圧域に伴う二次波(反射波)が発生するような噴射波形を有する噴射システムに用いた場合には、耐内圧疲労強度は有するものの、内管の内周面にキャビテーションが発生することがあった。
【0005】
この点を改善するため本出願人は薄肉のステンレス鋼管からなる内管の材質をSUS 304からSUS 301に変更して上記した過酷な噴射条件での試験を試みた。しかし内管の内周面のキャビテーションの発生は防止できたものの、今度は内管が繰返し高圧疲労に耐えられずクラックが発生し、さらに厚肉の外管にも破裂が発生する事態がみられた。
【0006】
したがって本発明の目的は、1200bar以上の内圧で負圧域と該負圧域に伴う二次波(反射波)が発生するような噴射波形を有する噴射システムに用いた場合にも、耐キャビテーション性能や耐内圧疲労強度を十分に発揮して高い耐久信頼性を有する高圧燃料噴射管を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明は、厚肉の外管内に薄肉の二層からなる内管を密嵌してなる三層構造の高圧燃料噴射管であって、前記外管は厚肉の鋼管からなり、前記内管のうち外層は硬度(Hv)が250〜450のステンレス鋼管、あるいは抗張力(Ts)が500〜700N/mm2の合金鋼もしくは炭素鋼よりなる金属管であり、該内管のうち内層は前記外層より硬質のステンレス鋼管あるいは合金鋼よりなる金属管で形成されたことを特徴とし、また前記内管のうち内層は、硬度(Hv)が450〜550のステンレス鋼管、あるいは抗張力(Ts)が700〜1100N/mm2の合金鋼よりなる金属管であることが好ましく、さらに前記外管の肉厚は1.4mm以上で、前記内管のうち外層は0.4〜0.7mm、内層は0.1〜0.4mmの肉厚を有する高圧燃料噴射管を特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明を図面について説明すると、図1は本発明の一実施例に係る高圧燃料噴射管の縦断面図であって、1は外管、2は薄肉の二層からなる内管であって、2−1は該内管を構成する外層、2−2は内管を構成する内層である。
そして外管1は管径20mm以下の比較的厚肉で細径の内径を有する高圧配管用鋼管で、例えばSTS 35、STS 370、STS 410、St 52などに相当する炭素鋼から形成されたシームレス鋼管からなるものであり、例えば200〜260の硬度(Hv)を有するものである。
【0009】
また内管2は相互に密着する薄肉の外層2−1と薄肉の内層2−2からなるものであって、該薄肉の外層2−1は硬度(Hv)が250〜450のステンレス鋼管、あるいは抗張力(Ts)が500〜700N/mm2の合金鋼もしくは炭素鋼よりなる金属管であり、また薄肉の内層2−2は前記外層2−1より硬質のステンレス鋼あるいは合金鋼からなるものである。そして内層2−2は後加工で実施する曲げ加工や、必要に応じ施される頭部成形加工が可能な硬さであれば硬い方が好ましく、例えば硬度(Hv)が450〜550のステンレス鋼管、あるいは合金鋼、例えば抗張力(Ts)が700〜1100N/mm2の合金鋼からなる金属管を用いることができる。
【0010】
上記の通り内管を二層から構成した理由は、内層2−2を硬質のステンレス鋼あるいは合金鋼で形成し、負圧域と該負圧域に伴う二次波(反射波)が発生するような噴射波形を有する噴射システムに使用しても内周面におけるキャビテーションの発生を防止するとともに、前記内層2−2より軟質で延び性のあるステンレス鋼あるいは合金鋼もしくは炭素鋼で外層2−1を形成して1200bar以上の内圧からなる高圧に対する内圧疲労強度を向上させクラックの発生を防止し、これにより外管1の破裂をも防止して燃料噴射管としての耐久信頼性を確保したものである。
【0011】
換言すると、内管2を硬質の内層2−2と軟質の外層2−1より構成することによって、内層により負圧域と該負圧域に伴う二次波により発生する気泡の破裂に基づく衝撃波によるキャビテーションの発生を防止するとともに、例え内層2−2にクラックが発生しても外層により高い噴射圧の繰返しによる疲労に伴うクラックが発生することを防止したものである。
【0012】
より詳細に本発明を説明すると、外管1は頭部成形加工などによりシート面が形成されるので前記材質を用いる他、肉厚は1.4mm以上としなければならない。肉厚が1.4mm未満では頭部成形加工によるシート面を形成するには不十分な肉厚となってしまう。
【0013】
つぎに内管を構成する二層のうち、外層2−1は上記した硬度(Hv)のステンレス鋼かあるいは抗張力(Ts)の合金鋼を用いる必要があり、具体的にはSUS 304、SUS 316のようなオーステナイト系ステンレス鋼やSt 52、SCMなどのような炭素鋼や合金鋼を挙げることができ、またその肉厚は0.4〜0.7mmに形成する必要がある。外層2−1のステンレス鋼の硬度(Hv)が250未満であったり、あるいは合金鋼の抗張力(Ts)が500N/mm2未満では、内圧疲労強度に対する抵抗力が弱くなり、疲労破壊が生じ易い。一方ステンレス鋼の硬度(Hv)が450を超えるかあるいは合金鋼の抗張力(Ts)が700N/mm2を超えると、切欠感度が高くなってこの状態でも内圧疲労強度に対する抵抗力が弱くなって疲労破壊が生じ易い。
【0014】
そして外層2−1の肉厚を0.4〜0.7mmとした理由は、肉厚が0.4mm未満では1200bar以上の内圧で負圧域と該負圧域に伴う二次波が発生するような噴射波形を有する高圧が内層2−2に加わたときの支持力が乏しいため所期の内圧疲労強度が得られず、一方0.7mmを超える肉厚とすると後工程での曲げ加工時の加工性や頭部成形加工時に外層に座屈が発生する可能性が大となるからである。
【0015】
また内管を構成する二層のうち内層2−2は該外層2−1より硬質のステンレス鋼か合金鋼を用いる必要がある。具体的には硬度(Hv)が450〜550のステンレス鋼、例えばSUS 301、SCMなどが挙げられ、また抗張力(Ts)が700〜1100N/mm2の合金鋼、例えばNi系合金鋼、Cr系合金鋼、Co系合金鋼、インコネル(商品名)、ハステロイ(商品名)、ヘインズアロイ(商品名)などが挙げられ、またその肉厚を0.1〜0.4mmとする必要がある。
なお、用いられる内層2−2としてのステンレス鋼の硬度(Hv)が450未満であったり合金鋼の抗張力が700N/mm2未満であると燃料噴射管に用いる高圧燃料に対する耐キャビテーション性能が得られず、一方ステンレス鋼の硬度(Hv)が550を超えたり合金鋼の抗張力が1100N/mm2を超えると後工程での曲げ加工や頭部成形加工時に内管、特に内層に座屈が生ずるなどの問題の発生の可能性が大となる。
【0016】
そして内層2−2の肉厚を0.1〜0.4mmとした理由は、肉厚が0.1mm未満では内周面に発生するキャビテーションに対する抵抗力が十分でなく、一方0.4mmを超える肉厚とすると、後工程での曲げ加工時の加工性や頭部成形加工時に内層に座屈が発生する可能性が大となるからである。
【0017】
なお外層2−1と内層2−2からなる内管2全体の肉厚は、製品となる高圧燃料噴射管の外径により左右される。例えば該燃料噴射管の外径が6.35mmの場合、内管2の全体の肉厚は0.8mm以下とする必要があり、内管2の肉厚が0.8mmを超えると外管1が薄くなりすぎて頭部成形加工時にシート面が座屈してしまう。同様な理由により、高圧燃料噴射管の外径が7.0mmの場合は1.0mm、外径が8.0mmの場合は1.3mmが内管2全体の肉厚の上限となる。
【0018】
【実施例】
つぎに本発明の実施例を比較例とともに以下に説明する。
実施例1
清浄化のための前処理を施して長さ3200mmに切断したSUS 304からなるステンレス鋼管の外層を構成する内管を芯引きによる伸管加工によって、外径5.5mm、内径4.5mm、肉厚0.5mmで、硬度(Hv)が200になるよう縮径し、また同じく長さ3200mmに切断したSUS 301からなるステンレス鋼管の内層を構成する内管を芯引きによる伸管加工によって、外径4.0mm、内径3.6mm、肉厚0.2mmで、硬度(Hv)が210になるよう縮径し、ついで清浄化のための前処理を施した長さ3200mmのSTS 35に相当する鋼管からなり、かつ硬度(Hv)が100の外管(外径9.3mm、内径6.9mm、肉厚1.7mm)の内部に前記内管を構成する二層の内管を内挿せしめた。その後固定したダイスを用いて空引きによる伸管加工を1回行って全体を縮径せしめ、ついで矯正加工して外径6.35mm、内径2.0mm、肉厚2.175mmで、内管の外層の硬度(Hv)が370、内管の内層の硬度(Hv)が475、外管の硬度(Hv)が230にそれぞれ加工硬化した三層構造の金属管からなる噴射管材を得、しかる後に300mmの長さに切断した試料を20本準備した。
【0019】
このように準備した20本の三層構造の金属管からなる噴射管材を、ディーゼル機関用燃料噴射ポンプおよびインジェクターを使用して、該ポンプとインジェクターの間に配設し、燃料噴射ポンプを駆動して内圧1250bar(ピーク圧)で負圧に伴う二次波が250barとなる噴射波形となる噴射条件で内圧繰返し疲労強度試験および耐キャビテーション試験を行なった。
その結果得られた全ての試料について107回の圧力繰返し終了まで破壊には至らず、かつ内周面にキャビテーションの発生もみられなかった。
【0020】
実施例2
清浄化のための前処理を施して長さ3200mmに切断したSt 52相当の炭素鋼からなる金属管の外層を構成する内管を芯引きによる伸管加工によって、外径5.5mm、内径4.5mm、肉厚0.5mmで、抗張力(Ts)が500N/mm2になるよう縮径し、また同じく長さ3200mmに切断したSCMからなる金属管の内層を構成する内管を芯引きによる伸管加工によって、外径4.0mm、内径3.4mm、肉厚0.3mmで、抗張力(Ts)が800N/mm2になるよう縮径し、ついで清浄化のための前処理を施した長さ3200mmのSTS 35に相当する鋼管からなり、かつ硬度(Hv)が110の外管(外径10.0mm、内径5.8mm、肉厚2.1mm)の内部に前記内管を構成する二層の内管を内挿せしめた。その後固定したダイスを用いて空引きによる伸管加工を1回行って全体を縮径せしめ、ついで矯正加工して外径6.35mm、内径2.0mm、肉厚2.175mmで、内管の外層の抗張力(Ts)が650N/mm2、内管の内層の抗張力(Ts)が1020N/mm2、外管の硬度(Hv)が240にそれぞれ加工硬化した三層構造の金属管からなる噴射管材を得、しかる後に300mmの長さに切断した試料を20本準備した。
【0021】
このように準備した20本の三層構造の金属管からなる噴射管材について実施例1と同様にして内圧繰返し疲労強度試験および耐キャビテーション試験を行なったが、得られた全ての試料について107回の圧力繰返し終了まで破壊には至らず、かつ内周面にキャビテーションの発生もみられなかった。
【0022】
実施例3
実施例1と同様の寸法であるが、内管の内層を抗張力(Ts)が810N/mm2のSCMを用いて、実施例1と同様にして20本の試料を作製した。なお、得られた試料における前記内管の内層の抗張力(Ts)は1010N/mm2となった。
【0023】
このように準備した20本の三層構造の金属管からなる噴射管材について実施例1と同様にして内圧繰返し疲労強度試験および耐キャビテーション試験を行なったが、得られた全ての試料について107回の圧力繰返し終了まで破壊には至らず、かつ内周面にキャビテーションの発生もみられなかった。
【0024】
実施例4
実施例2と同様の寸法であるが、内管の外層を硬度(Hv)が200のSUS304を用いて、実施例1と同様にして20本の試料を作製した。なお、得られた試料における前記内管の外層の硬度(Hv)は400となった。
【0025】
このように準備した20本の三層構造の金属管からなる噴射管材について実施例1と同様にして内圧繰返し疲労強度試験および耐キャビテーション試験を行なったが、得られた全ての試料について107回の圧力繰返し終了まで破壊には至らず、かつ内周面にキャビテーションの発生もみられなかった。
【0026】
比較例1
それぞれ清浄化のための前処理を施して長さ3200mmに切断したSUS 301からなる単層の鋼管からなるステンレス鋼管の内管を芯引きによる伸管加工によって、外径4.5mm、内径3.5mm、肉厚0.5mmで、硬度(Hv)が200になるよう縮径し、ついで清浄化のための前処理を施した長さ3200mmのSTS 35に相当する鋼管からなり、かつ硬度(Hv)が110の外管(外径9.5mm、内径5.0mm、肉厚2.25mm)の内部に前記内管を緩やかに内挿せしめた。その後固定したダイスを用いて前記内外管を圧嵌するよう両管を同時にかつ一体的に空引きによる伸管加工を1回行って全体を縮径せしめ、ついで矯正加工して外径6.35mm、内径2.0mm、肉厚2.175mmで、内管の硬度(Hv)が490、外管の硬度(Hv)が230に加工硬化した二重金属管からなる噴射管材を得、しかる後に300mmの長さに切断した試料を20本準備した。
【0027】
このように準備した20本の二重金属管からなる噴射管材について、実施例1と同様にして内圧繰返し疲労強度試験および耐キャビテーション試験を行なったを行なった結果、得られた試料については内周面にキャビテーションは見られなかったものの、圧力繰返しにより疲労破壊が生じたものが見られた。
【0028】
比較例2
内管として比較例1と同一の寸法であるがSUS 304からなる単層のステンレス鋼管を、硬度(Hv)が340となるよう芯引きによる伸管加工により縮径した。
一方比較例1と同様の寸法であるがSTS 410に相当する鋼管からなり、かつ硬度(Hv)が125の外管の内部に前記内管を緩やかに内挿せしめた。その後固定したダイスを用いて前記内外管を圧嵌するよう両管を同時かつ一体的に空引きによる伸管加工を行って全体に縮径せしめ、ついで矯正加工して外径6.35mm、内径2.0mm、肉厚2.175mmで、内管の硬度(Hv)が430、外管の硬度(Hv)が240に加工硬化した二重金属管からなる噴射管材を得、しかる後に300mmの長さに切断した試料を20本準備した。
【0029】
このように準備した20本の二重金属管からなる噴射管材について、実施例1と同様にして内圧繰返し疲労強度試験および耐キャビテーション試験を行なった結果、得られた試料について圧力繰返しにより疲労破壊は生じなかったものの、内周面にキャビテーションの発生があるものが見られた。
【0030】
【発明の効果】
以上述べた通り本発明によれば、1200bar以上の内圧で負圧域と該負圧域に伴う二次波(反射波)が発生するような噴射波形を有する噴射システムに用いた場合にも、耐キャビテーション性能や耐内圧疲労強度を十分に発揮して高い耐久信頼性を有する高圧燃料噴射管を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る高圧燃料噴射管の縦断面図である。
【符号の説明】
1 外管
2 内管
2−1 外層
2−2 内層
Claims (3)
- 厚肉の外管内に薄肉の二層からなる内管を密嵌してなる三層構造の高圧燃料噴射管であって、前記外管は厚肉の鋼管からなり、前記内管のうち外層は硬度(Hv)が250〜450のステンレス鋼管、あるいは抗張力(Ts)が500〜700N/mm2の合金鋼もしくは炭素鋼よりなる金属管であり、該内管のうち内層は前記外層より硬質のステンレス鋼管あるいは合金鋼よりなる金属管で形成されたことを特徴とする高圧燃料噴射管。
- 前記内管のうち内層は、硬度(Hv)が450〜550のステンレス鋼管、あるいは抗張力(Ts)が700〜1100N/mm2の合金鋼よりなる金属管であることを特徴とする請求項1記載の高圧燃料噴射管。
- 前記外管の肉厚は1.4mm以上で、前記内管のうち外層は0.4〜0.7mm、内層は0.1〜0.4mmの肉厚を有することを特徴とする請求項1または2記載の高圧燃料噴射管。
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