JP3845573B2 - 位相検波器およびそれを用いた周波数安定度測定装置 - Google Patents

位相検波器およびそれを用いた周波数安定度測定装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2信号の同相信号と直交信号によって決まる位相の変位の累積値を、簡単な構成で高速に検出するための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、電波天文学の分野で天体観測等に用いる信号には、その周波数の僅かな変動が観測結果に大きな悪影響を与える。
【0003】
このため、このような分野では、1日当たり10−13以上(例えば、1GHzの信号で1日当たり10−4Hz以下)の極めて高い周波数安定度をもつ原子発振器が信号源として使われており、このような信号源を設計、製造するためには、その信号源の周波数安定度を測定する必要がある。
【0004】
信号の周波数の安定度を測定する方法として、周波数カウンタによって周波数変動を直接測定する方法の他に、基準信号に対する位相の変位の累積値を測定する方法がある。詳しくは、「わかりやすいディジタルクロック技術」木原雅也、小野定康著、オーム社発行2001(ISBN4274035549)を参照のこと。
【0005】
この位相の変位を検出する場合、高い周波数の信号の位相の変位量を直接検出することは困難なので、一般的には、図10に示すように、測定の基準となり測定対象信号Sxと公称周波数fが等しく、周波数安定度が同等かそれ以上の基準信号Srを用意し、この基準信号Srと測定対象信号Sxとを周波数変換部1で低い周波数帯に変換し、その変換された基準信号Sr′と測定対象信号Sx′とを直交検波部2に入力して、両信号Sr′、Sx′の同相成分を表す同相信号Iと直交成分を表す直交信号Qとを求めて位相検波器3に入力する。
【0006】
位相検波器3は、入力される同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相の変位量Δφを検出して、その変位量を累積する。この位相の変位の累積値Φは、基準信号Srに対する測定対象信号Sxの周波数変動を表しているので、この累積値Φから周波数安定度を評価することができる。
【0007】
このような測定システムで使用される従来の位相検波器3は、図11に示すように構成されている。
【0008】
即ち、先に入力された同相信号I′と直交信号Q′とからなる複素数(I′+jQ′)を、遅延器4で1クロック時間遅延してから共役変換部5で共役な複素数(I′−jQ′)を求め、この共役な複素数(I′−jQ′)と次に入力された同相信号Iと直交信号Qとからなる複素数(I+jQ)とを乗算処理部6によって乗算して、
II′+QQ′−j(IQ′−I′Q)
を求める。
【0009】
なお、この乗算処理は、実際には、(II′)、(QQ′)、(IQ′)、(I′Q)を求めるための4つの乗算器と、それらの加算(減算)を行なうための2つの加算器とによって行なっている。
【0010】
上記乗算処理の結果は、自然対数の底e、位相変位量Δφおよび正数Aを用いて、
AejΔφ
と表されるので、次の対数変換部7の対数変換処理によって、
log A+jΔφ
に変換され、この演算結果から虚数部抽出手段8によって虚数部の位相変位量Δφが抽出される。
【0011】
そして、この抽出された位相変位量Δφが累積手段9によって累積処理されて、基準信号Srに対する測定対象信Sxの周波数変動に対応する累積値Φが求められる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した従来の位相検波器3では、前記したように、(I+jQ)と(I′−jQ′)の複素数乗算処理のために、4つの乗算器と2つの加算器が必要となり、構成が複雑化し、演算処理に時間がかかり高速動作ができないという問題がある。
【0013】
本発明は、この問題を解決し、簡単な構成で高速に位相変位を検出することができる位相検波器およびそれを用いた周波数安定度測定装置を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の位相検波器は、
2信号の同相成分を表す同相信号と直交成分を表す直交信号とを受けて、該同相信号と直交信号とで決まる位相の変位量を求める位相検波器において、
予め2πの角度範囲を等分して得られる3以上の複数Mの角度領域に対して領域番号を順番に割り当て、前記同相信号と直交信号とが入力される毎に、その入力された同相信号と直交信号とで決まる位相が含まれる角度領域を検出し、該検出した角度領域の領域番号を出力する位相領域検出手段(21)と、
前記位相領域検出手段から出力された領域番号とその前に出力された領域番号との差を、位相の変位量と変位方向を表す情報として順次求める位相変位検出手段(22)と、
前記位相変位検出手段から出力される領域番号差が、前記角度領域数Mについて予め設定された範囲のいずれにあるかを調べて、前記複数の角度領域に割り当てられた領域番号の初期値に対応する角度領域と最終値に対応する角度領域の境界を越えるように位相が変位したか否かを示すデータを出力する境界越え検出手段(25)と、
前記境界越え検出手段から出力されるデータを累積して、位相の回転数を求める回転数検出手段(26)と、
前記位相領域検出手段が出力する領域番号、前記角度領域数Mおよび前記回転数検出手段が出力する回転数とに基づいて、前記同相信号と直交信号とで決まる位相の変位の累積値を求める変位累積手段(27)とを備えている。
【0015】
また、本発明の周波数安定度測定装置は、
公称周波数が等しい基準信号と測定対象信号とを所定周波数以下の帯域に周波数変換する周波数変換部(41)と、
前記周波数変換部によって周波数変換された基準信号と測定対象信号とを共通のサンプリング信号によってサンプリングしてデジタル値に変換する第1、第2のA/D変換器(60、61)と、
前記第1、第2のA/D変換器の出力信号の直流成分をそれぞれ除去する第1、第2の高域通過フィルタ(62、63)と、
前記第1、第2の高域通過フィルタの出力信号に対する直交検波を行い、その同相成分を表す同相信号と直交成分を表す直交信号を検出する直交検波部(65)と、
前記直交検波部から出力される同相信号と直交信号とで決まる位相の変位量を求める位相検波器(20′)と、
位相検波器によって検出された位相変位量を用いて、前記基準信号に対する測定対象信号の相対的な周波数安定度を評価するための演算を行う評価演算部80とを備えた周波数安定度測定装置であって、
前記位相検波器は、
予め2πの角度範囲を等分して得られる3以上の複数Mの角度領域に対して領域番号を順番に割り当て、前記同相信号と直交信号とが入力される毎に、その入力された同相信号と直交信号とで決まる位相が含まれる角度領域を検出し、該検出した角度領域の領域番号を出力する位相領域検出手段(21)と、
前記位相領域検出手段から出力された領域番号とその前に出力された領域番号との差を、位相の変位量と変位方向を表す情報として順次求める位相変位検出手段(22)と、
前記位相変位検出手段から出力される領域番号差が、前記角度領域数Mについて予め設定された範囲のいずれにあるかを調べて、前記複数の角度領域に割り当てられた領域番号の初期値に対応する角度領域と最終値に対応する角度領域の境界を越えるように位相が変位したか否かを示すデータを出力する境界越え検出手段(25)と、
前記境界越え検出手段から出力されるデータを累積して、位相の回転数を求める回転数検出手段(26)と、
前記位相領域検出手段が出力する領域番号、前記角度領域数Mおよび前記回転数検出手段が出力する回転数とに基づいて、前記同相信号と直交信号とで決まる位相の変位の累積値を求める変位累積手段(27′)とを備えていることを特徴としている。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した位相検波器20の構成を示している。
【0017】
この位相検波器20は、2信号の同相成分を表す同相信号Iと直交成分を表す直交信号Qとを順次受けて、その同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相の変位量を求めるためのものである。
【0018】
位相検波器20の位相領域検出手段21は、図2に示すように、予め2π(±πでもよい)の角度範囲を等分して得られるM個(図2ではMが偶数の場合を示している)の角度領域E(0)〜E(M−1)に対して領域番号0〜M−1を順番に割り当て、同相信号Iと直交信号Qとが入力される毎に、その入力された同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相φが含まれる角度領域を検出し、その検出した角度領域の領域番号pを出力する。
【0019】
なお、同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相角φは、
φ=arg(I+jQ)
の演算によって求められる。ここで、arg(z)は、複素数zの偏角を表す函数である。
【0020】
また、この角度領域数Mは位相変動の精度を決める3以上の値で、領域数Mが大きい程高精度となり、実際には8ビット程度から数10ビットで表される数値である。
【0021】
このようにして求められた領域番号pは、位相変位検出手段22に入力される。位相変位検出手段22は、位相領域検出手段21から出力された領域番号pを1サンプルずつ遅延する遅延器23と、位相領域検出手段21から出力された領域番号pから、その前に出力されて遅延器23から出力された領域番号pk−1を減じて領域番号差Δpを求める減算器24とからなり、この領域番号差Δpを位相の変位量と変位方向を表す情報として順次求め、境界越え検出手段25に出力する。
【0022】
境界越え検出手段25は、位相変位検出手段22から出力される領域番号差Δpが、前記した角度領域数Mについて次の表1のように予め設定された3つのの範囲のいずれにあるかを調べ、M個の角度領域E(0)〜E(M−1)に割り当てられた領域番号の初期値0に対応する角度領域E(0)と最終値M−1に対応する角度領域E(M−1)の境界を越えるように位相が変化したか否かを示すデータsを出力する。
【0023】
【表1】
Figure 0003845573
【0024】
なお、上記表1に示しているように、角度領域数Mが偶数の場合の範囲の設定方法は2通りあり、そのうちの第1の範囲設定例(上段側)では、[M/2]をM/2を越えない最大の整数として、領域番号差Δpが−(M−1)から−([M/2]+1)までの範囲に含まれるときには、前記境界を左回りに越えるように位相が変化したことを示すデータs=1を出力し、領域番号差Δpが−[M/2]から[M/2]−1までの範囲に含まれるときには前記境界を越えない範囲で位相が変化したことを示すデータs=0を出力し、領域番号差Δpが[M/2]からM−1までの範囲に含まれるときには前記境界を右回りに越えるように位相が変位したことを示すデータs=−1を出力する。
【0025】
また、角度領域数Mが偶数の場合の第2の範囲設定列(下段側)では、領域番号差Δpが−(M−1)から−[M/2]までの範囲に含まれるときには、前記境界を左回りに越えるように位相が変化したことを示すデータs=1を出力し、領域番号差Δpが−([M/2]−1)から[M/2]までの範囲に含まれるときには、前記境界を越えない範囲で位相が変化したことを示すデータs=0を出力し、領域番号差Δpが[M/2]+1からM−1までの範囲に含まれるときには、前記境界を右回りに越えるように位相が変化したことを示すデータs=−1を出力する。
【0026】
また、角度領域数Mが奇数の場合では、領域番号差Δpが−(M−1)から−([M/2]+1)までの範囲に含まれるときには、前記境界を左回りに越えるように位相が変化したことを示すデータs=1を出力し、領域番号差Δpが−[M/2]から[M/2]までの範囲に含まれるときには、前記境界を越えない範囲で位相が変化したことを示すデータs=0を出力し、領域番号差Δpが[M/2]+1からM−1までの範囲に含まれるときには、前記境界を右回りに越えるように位相が変化したことを示すデータs=−1を出力する。
【0027】
回転数検出手段26は、境界越え検出手段25から出力されるデータsを累積して、位相が2π分回転した回数(回転数)cを求める。
【0028】
変位累積手段27は乗算器28と加算器29とを有し、回転数検出手段26が出力する回転数cと角度領域数Mとを乗算器28で乗算し、その乗算結果と位相領域検出手段21が出力する領域番号pとを加算器29で加算して、同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相の変位の累積値uを求める。
【0029】
次に、上記構成の位相検波器20の動作を説明する。なお、以下の説明では、動作を理解しやすいように角度領域数Mを16とする。
【0030】
この位相検波器20に対して、図3の(a)のように、同相信号Iと直交信号Qの組(I,Q)、(I,Q)、(I,Q)、…が順次入力されると、位相領域検出手段21は、これらの各組の同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相φ、φ、φ、…を求め、それらの位相φ、φ、φ、…が、図4に示しているように2πを16等分して得られる16個の角度領域E(0)〜E(15)のいずれに入るかを検出して、図3の(b)のように、その角度領域に対応する領域番号p、p、p、…を出力する。
【0031】
ここで、位相φ、φ、φ、…が、図4に示しているように角度領域E(2)から、左回りに角度領域E(8)、角度領域(12)、角度領域E(14)、角度領域E(1)、角度領域E(6)の順に変位した場合、位相領域検出手段21から出力される各領域番号は、図3の(b)に示しているように、p=2、p=8、p=12、p=14、p=1、p=6、…となり、位相変位検出手段22は、図3の(c)に示しているように、各領域番号差を、以下のように順次検出して、境界越え検出手段25に出力する。
【0032】
Δp=p−0=2
Δp=p−p=6
Δp=p−p=4
Δp=p−p=2
Δp=p−p=−13
Δp=p−p=5
……
【0033】
境界越え検出手段25は、本実施の形態では、角度領域数Mが偶数の場合の上記第1の範囲設定例を用いて位相が境界を越えたか否かを検出する。
【0034】
この場合、領域番号差Δp、Δp、Δp、Δp、Δpのように、位相変位検出手段22から−8以上7以下の領域番号差Δpを受けた場合には、図3の(d)のように、0の検出データs、s、s、s、s、…を出力し、領域番号差Δpのように、位相変位検出手段22から−9以下の領域番号差Δpを受けた場合には、最初の領域番号0に対応する角度領域E(0)と最後の領域番号15に対応する角度領域E(15)の境界を左回りに越えるように位相が変化したことを示す「1」のデータsを出力する。
【0035】
また、図示していないが、位相変位検出手段22から8以上の領域番号差Δpを受けた場合には、角度領域E(0)、E(15)の境界を、右回りに越えるように位相が変化したことを示す「−1」のデータsを出力する。
【0036】
回転数検出手段26は、この境界越え検出手段25から出力されるデータsを累積して、図3の(e)に示しているように、位相の回転数を以下のように順次出力する。
【0037】
=0
=0
=0
=0
=1
=1
……
【0038】
この回転数cは、位相領域検出手段21から出力される領域番号pとともに変位累積手段27に入力され、以下の演算が順次行なわれ、図3の(f)のように、位相変位の累計値u、u、u、…が出力される。
【0039】
=p+cM=p=2
=p+cM=p=8
=p+cM=p=12
=p+cM=p=14
=p+cM=p+M=1+16=17
=p+cM=p+M=6+16=22
……
【0040】
このように、実施形態の位相検波器20は、入力される同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相が、2πの角度範囲を等分して得られる3以上の複数Mの角度領域E(0)〜E(M−1)のいずれに入るかを求めてその角度領域に割り当てられた領域番号を検出し、その検出された領域番号とその前に検出された領域番号との差を求め、その領域番号差Δpが領域数Mについて予め設定された範囲内にあるか否かを調べて、最初の角度領域E(0)と最終の角度領域E(M−1)の境界を越えて位相が変位したか否かを示すデータを出力し、このデータを累積して得られる回転数、領域番号および領域数Mから、位相変位の累積値を求めるようにしている。
【0041】
このため、連続的に入力された2組の同相信号Iと直交信号Qの複素数乗算処理を行なって位相変位を求めていく従来の方法に比べて、演算処理が少なくて済み、高速動作が可能となる。
【0042】
次に、上記構成の位相検波器を用いて、基準信号に対する測定対象信号の周波数安定度を測定する周波数安定度測定装置について説明する。
【0043】
図5は、本発明を適用した周波数安定度測定装置40の構成を示している。
図5において、周波数変換部41は、公称周波数faが等しい基準信号Srと測定対象信号Sxとを所定周波数以下の帯域に周波数変換する。
【0044】
この周波数変換部41としては、図6に示すようにミキサを用いたもの、図7、図8に示すように分周回路を用いたもの、あるいはそれらを併用したもの等を用いることができる。
【0045】
図6は2ミキサ方式の周波数変換部41の構成例であり、基準信号Srおよび測定対象信号Sxの公称周波数faに対して、数10Hz〜数100kHz程度異なる周波数fcの局発信号Scを局発回路42からミキサ43、44に出力し、この局発信号Scと基準信号Srを受けたミキサ43の出力成分から差の周波数成分Sr′をLPF(低域通過フィルタ)45によって抽出する。また、局発信号Scと測定対象信号Sxを受けたミキサ44の出力成分から差の周波数成分Sx′をLPF46によって抽出する。
【0046】
なお、ミキサを用いた周波数変換部41として、上記の2ミキサ方式の他に、構成がやや複雑であるが、イメージによるS/Nの低下が少ないイメージリジェクション型のものを用いることもできる。
【0047】
一方、図7は分周器47、48を用いて、基準信号Srと測定対象信号SxをそれぞれN分周し、その分周信号Sr′、Sx′を出力するものである。
【0048】
また、図8は、フェーズロックループ(PLL)によって分周するものであり、VCO49から出力される信号を逓倍器50によってP逓倍し、この逓倍信号と基準信号Srとの位相差を位相比較器51で検出し、その誤差信号からLPF52によって抽出した制御信号をVCO49に与えて、VCO49から基準信号Srの1/Pの周波数にロックされた信号Sr′を出力させる。また、VCO53から出力される信号を逓倍器54によってP逓倍し、この逓倍信号と測定対象信号Sxとの位相差を位相比較器55で検出し、その誤差信号からLPF56によって抽出した制御信号をVCO53に与えて、VCO53から測定対象信号Sxの1/Pの周波数にロックされた信号Sx′を出力させる。
【0049】
なお、図8のPLL構成の分周回路の前段または後段に、図7の分周器47、48を用いて、全体の分周比をN×Pに拡大することもできる。
【0050】
また、図6のようなミキサ型の前段に、図7や図8あるいはそれを組合せた分周方式のものを設けてもよい。
【0051】
ただし、図7や図8のように信号を分周する方式は、位相の絶対変位量も分周比分だけ圧縮されるのに対し、図6に示した2ミキサ方式のものは、位相の絶対変位量は変化しないので精密な測定が必要な場合には、この図6に用いた2ミキサ式のものを用いるのが有利である。
【0052】
また、この2ミキサ方式の周波数変換部41の出力には局発信号Scの位相変動成分が含まれるが、この位相変動成分は、後述の直交検波部65の演算で相殺されるので、測定への悪影響は無い。
【0053】
周波数変換部41で低周波数帯に変換された信号Sr′、Sx′は、それぞれ第1のA/D変換器60、第2のA/D変換器61に入力される。
【0054】
第1のA/D変換器60および第2のA/D変換器61は、低い周波数帯に変換された基準信号Sr′と測定対象信号Sx′を周波数fsの共通のサンプリング信号Ssでサンプリングしてデジタルの信号Dr、Dxにそれぞれ変換して、第1のHPF(高域通過フィルタ)62および第2のHPF63に出力する。
【0055】
第1のHPF62は、第1のA/D変換器60の出力信号Drの直流成分を除去し、第2のHPF63は第2のA/D変換器61の出力信号Dxの直流成分を除去して、周波数変換部41および第1、第2のA/D変換器60、61の直流オフセットおよびその変動によって生じる測定誤差の発生を防止する。
【0056】
なお、第1のHPF62および第2のHPF63は、1次CR型のものであり、入力される信号の平均値を順次求め、求めた平均値を入力信号から減じるという処理を行なう。
【0057】
直交検波部65は、第1のHPF62および第2のHPF63から出力される信号Dr′、Dx′の同相成分を表す同相信号Iと直交成分を表す直交信号Qを求める。
【0058】
この直交検波部65は、第1のHPF62の出力信号Dr′を第1の90度移相器66によって直交する2つの信号成分Vr、Urに分け、第2のHPF63の出力信号Dxを第2の90度移相器67によって直交する2つの信号成分Vx、Uxに分けて演算回路68に出力する。演算回路68は、これらの信号成分に対して次の演算を行って、同相信号Iと直交信号Qとを求める。
【0059】
=Vr・Ur+Vx・Ux
=Ur・Vx−Vr・Ux
【0060】
なお、第1の90度移相器66および第2の90度移相器67は、ハーフバントフィルタあるいはヒルベルト変換器によって構成されている。
【0061】
このようにして得られた同相信号Iと直交信号Qは、前記した位相検波器20とほぼ同様に構成された位相検波器20′に入力される。
【0062】
この位相検波器20′は、図9に示しているように、前記した位相検波器20に対して変位累積手段27′の構成のみが異なっている。
【0063】
この変位累積手段27′では、領域番号p、回転数cおよび角度領域数Mから得られる位相変位の累積値uに対する間引き処理を行なって、後述する評価演算部80へ出力している。
【0064】
即ち、後述するように評価演算部80では、周波数安定度の計算を行うので、位相変位の累積値uの低域成分のみを抽出するための間引き処理が必要となる。
【0065】
この間引き処理では、その前処理としてLPFによる高域遮断処理を行なうが、前記した位相検波器20の変位累積手段27が出力する位相変位の累積値uに対してLPFによる高域遮断処理を行ってから間引き処理を行なう方法では、高域遮断処理のための演算処理を、領域番号pのビット長と回転数cのビット長とを合計したビット長のデータに対して行なわなければならず、LPFの構成が複雑化するという問題が生じる。
【0066】
そこで、この位相検波器20′の変位累積手段27′では、図9に示しているように、領域番号pに対する高域遮断処理をLPF71で行い、その出力に対して間引き手段72でL対1の間引き処理を行い、回転数cに対する高域遮断処理をLPF73で行い、その出力に対して間引き手段74でL対1の間引き処理を行い、この処理結果c′と領域数Mとを乗算器28で乗算し、乗算器28の出力と間引き手段72の処理結果p′とを加算器29で加算し、この加算器29から間引き処理された位相変位量u′を評価演算部80に出力する。
【0067】
このように、領域番号pと回転数cに対する間引き処理をそれぞれ行なってから位相変位の累積値u′を算出する方法では、LPFの入力ビット数を少なくできるので、LPF個々の演算処理を高速化することができる。
【0068】
位相検波器20′で検出された位相変位の累積値u′は、評価演算部80に入力され、基準信号Srに対する測定対象信号Sxの周波数安定度を評価するための評価演算に用いられる。
【0069】
この評価演算に用いる函数としては、ワンダの評価に用いるADEV(アランデビエーション)、MADEV(修正アランデビエーション)、TDEV(タイムデビエーション)、TIE(タイムインターバルエラー)、MTIE(マキシマムタイムインターバルエラー)等があり、これらの函数のいずれかを、位相検波器20′によって検出された累積値u′を変数として用いて演算することで、基準信号Srに対する測定対象信号Sxの周波数安定度の評価が行える。
【0070】
例えば、ADEVで評価を行なう場合には、位相変位の累積値u′=xに対して次の演算を行なう。
【0071】
Figure 0003845573
【0072】
ここで、記号Σは、i=1からN−2nまでの総和を表し、記号Nは総サンプル数、記号fは変数xに対するサンプリング周波数、記号tは時刻初期値である。
【0073】
また、MADEVで評価を行なう場合には次の演算を行なう。
【0074】
Figure 0003845573
【0075】
ただし、記号Σはi=jからn+j−1までの総和、記号Σはj=1からN−3n+1までの総和を表す。
【0076】
また、TDEVで評価を行なう場合には次の演算を行なう。
【0077】
Figure 0003845573
【0078】
なお、この評価演算部80の演算結果は、図示しない表示器やプリンタ等の出力装置に出力され、この出力から基準信号Srに対する測定対象信号Sxの周波数安定度を評価することができる。
【0079】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の位相検波器は、入力される同相信号Iと直交信号Qとで決まる位相が、2πの角度範囲を等分して得られる3以上の複数Mの角度領域のいずれに入るかを求めてその角度領域に割り当てられた領域番号を検出し、その検出された領域番号とその前に検出された領域番号との差を求め、その領域番号差が、角度領域数Mについて予め設定された範囲のいずれにあるかを調べて、最初の角度領域と最終の角度領域の境界を越えて位相が変位したか否かを示すデータを出力し、このデータを累積して得られる回転数、領域番号および領域数Mとから、位相変位の累積値を求めるようにしている。
【0080】
このため、連続的に入力された2組の同相信号Iと直交信号Qとからなる複素数乗算処理を行なって位相変位を求めていく従来の方法に比べて、演算処理が少なくて済み、高速動作が可能となる。
【0081】
また、本発明の周波数安定度測定装置は、基準信号と測定対象信号とを周波数変換部によって低周波帯に変換し、これをA/D変換器によってデジタル値にそれぞれ変換し、このデジタル値に変換された信号の直流成分を第1、第2のHPFによって除去してから直交検波部で直交検波して、基準信号と測定対象信号の同相信号と直交信号を求め、前記した位相検波器によってその位相の変位の累積値を求め、この累積値に対する評価演算を行なうようにしている。
【0082】
このため、周波数変換部やA/D変換器の直流オフセットおよびその変動による誤差の発生がなく、簡単な構成で精度の高い測定が行なえる。
【0083】
また、変位累積手段において評価演算のための前処理として間引き処理を行なう際に、位相領域検出手段が出力する領域番号に対する間引き処理と、回転数に対する間引き処理とをそれぞれ独立に行なってから、位相の変位の累積値を求めるようにしているので、間引き処理に用いるLPFの構成を簡易化することができる。
【0084】
また、周波数変換部として2ミキサ方式のものを用いた場合、周波数変換に伴う位相変動の圧縮がなく、また、局発信号の位相変動が相殺されて測定に悪影響を与えないので、精度の高い測定が行なえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の位相検波器の実施形態の構成を示すブロック図
【図2】実施形態の要部の動作を説明するための図
【図3】実施形態の動作説明図
【図4】実施形態の動作説明図
【図5】本発明の周波数安定度測定装置の構成を示すブロック図
【図6】実施形態の要部の構成例を示す図
【図7】実施形態の要部の構成例を示す図
【図8】実施形態の要部の構成例を示す図
【図9】実施形態の位相検波器の構成を示す図
【図10】従来の周波数安定度測定装置の構成を示す図
【図11】従来の位相検波器の構成を示す図
【符号の説明】
20、20′……位相検波器、21……位相領域検出手段、22……位相変位検出手段、23……遅延器、24……減算器、25……境界越え検出手段、26……回転数検出手段、27、27′……変位累積手段、28…乗算器、29……加算器、40……周波数安定度測定装置、41……周波数変換部、60……第1のA/D変換器、61……第2のA/D変換器、62……第1のHPF、63……第2のHPF、65……直交検波部、66……第1の90度移相器、67……第2の90度移相器、68……演算回路、71………LPF、72……間引き手段、73……LPF、74……間引き手段、80……評価演算部

Claims (4)

  1. 2信号の同相成分を表す同相信号と直交成分を表す直交信号とを受けて、該同相信号と直交信号とで決まる位相の変位量を求める位相検波器において、
    予め2πの角度範囲を等分して得られる3以上の複数Mの角度領域に対して領域番号を順番に割り当て、前記同相信号と直交信号とが入力される毎に、その入力された同相信号と直交信号とで決まる位相が含まれる角度領域を検出し、該検出した角度領域の領域番号を出力する位相領域検出手段(21)と、
    前記位相領域検出手段から出力された領域番号とその前に出力された領域番号との差を、位相の変位量と変位方向を表す情報として順次求める位相変位検出手段(22)と、
    前記位相変位検出手段から出力される領域番号差が、前記角度領域数Mについて予め設定された範囲のいずれにあるかを調べて、前記複数の角度領域に割り当てられた領域番号の初期値に対応する角度領域と最終値に対応する角度領域の境界を越えるように位相が変位したか否かを表すデータを出力する境界越え検出手段(25)と、
    前記境界越え検出手段から出力されるデータを累積して、位相の回転数を求める回転数検出手段(26)と、
    前記位相領域検出手段が出力する領域番号、前記角度領域数Mおよび前記回転数検出手段が出力する回転数とに基づいて、前記同相信号と直交信号とで決まる位相の変位の累積値を求める変位累積手段(27)とを備えたことを特徴とする位相検波器。
  2. 公称周波数が等しい基準信号と測定対象信号とを所定周波数以下の帯域に周波数変換する周波数変換部(41)と、
    前記周波数変換部によって周波数変換された基準信号と測定対象信号とを共通のサンプリング信号によってサンプリングしてデジタル値に変換する第1、第2のA/D変換器(60、61)と、
    前記第1、第2のA/D変換器の出力信号の直流成分をそれぞれ除去する第1、第2の高域通過フィルタ(62、63)と、
    前記第1、第2の高域通過フィルタの出力信号に対する直交検波を行い、その同相成分を表す同相信号と直交成分を表す直交信号を検出する直交検波部(65)と、
    前記直交検波部から出力される同相信号と直交信号とで決まる位相の変位の累積値を求める位相検波器(20′)と、
    位相検波器によって検出された位相の変位の累積値を用いて、前記基準信号に対する測定対象信号の相対的な周波数安定度を評価するための演算を行う評価演算部(80)とを備えた周波数安定度測定装置であって、
    前記位相検波器は、
    予め2πの角度範囲を等分して得られる3以上の複数Mの角度領域に対して領域番号を順番に割り当て、前記同相信号と直交信号とが入力される毎に、その入力された同相信号と直交信号とで決まる位相が含まれる角度領域を検出し、該検出した角度領域の領域番号を出力する位相領域検出手段(21)と、
    前記位相領域検出手段から出力された領域番号とその前に出力された領域番号との差を、位相の変位量と変位方向を表す情報として順次求める位相変位検出手段(22)と、
    前記位相変位検出手段から出力される領域番号差が、前記角度領域数Mについて予め設定された範囲のいずれにあるかを調べて、前記複数の角度領域に割り当てられた領域番号の初期値に対応する角度領域と最終値に対応する角度領域の境界を越えるように位相が変位したか否かを示すデータを出力する境界越え検出手段(25)と、
    前記境界越え検出手段から出力されるデータを累積して、位相の回転数を求める回転数検出手段(26)と、
    前記位相領域検出手段が出力する領域番号、前記角度領域数Mおよび前記回転数検出手段が出力する回転数とに基づいて、前記同相信号と直交信号とで決まる位相の変位の累積値を求める変位累積手段(27′)とを備えていることを特徴とする周波数安定度測定装置。
  3. 前記変位累積手段は、
    前記位相領域検出手段が出力する領域番号に対して高域遮断処理を行なう第1の低域通過フィルタ(71)と、
    前記第1の低域通過フィルタの出力信号に対して間引き処理を行なう第1の間引き手段(72)と、
    前記回転数検出手段が出力する回転数に対して高域遮断処理を行なう第2の低域通過フィルタ(73)と、
    前記第2の低域通過フィルタの出力信号に対して間引き処理を行なう第2の間引き手段(74)と、
    前記第2の間引き手段の出力信号に前記角度領域数Mを乗じる乗算手段(28)と、
    前記第1の間引き手段の出力信号と前記乗算手段の乗算結果とを加算し、その加算結果を位相の変位の累積値として出力する加算手段(29)とによって構成されていることを特徴とする請求項2記載の周波数安定度測定装置。
  4. 周波数変換部は、
    前記基準信号および測定対象信号の公称周波数と異なる周波数の局発信号を出力する局発回路(42)と、
    前記局発回路が出力する局発信号と前記基準信号とを混合する第1のミキサ(43)と、
    前記第1のミキサの出力から、前記局発信号と前記基準信号の差の周波数に等しい周波数成分を抽出する第1の低域通過フィルタ(45)と、
    前記局発回路が出力する局発信号と前記測定対象信号とを混合する第2のミキサ(44)と、
    前記第2のミキサの出力から、前記局発信号と前記測定対象信号の差の周波数に等しい周波数成分を抽出する第2の低域通過フィルタ(46)とによって構成されていることを特徴とする請求項2記載の周波数安定度測定装置。
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