JP3837195B2 - パッドクリアランス調整機構を備えた電動ブレーキとそのパッドクリアランス調整法 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動ブレーキに関するものであり、さらに詳細にはパッドクリアランス調整機構を備えた電動ブレーキとそのパッドクリアランス調整法に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
従来より、油圧ブレーキでは、パッドが磨耗すると装置内にある油圧ピストンを液密に保持するシールや、クリップ等により自動的にピストンを所定量戻し、常にパッドクリアランスが一定となるようにパッドクリアランス調整を実行している。
一方、最近開発が積極的に進められている電動ブレーキではピストンが制御機器からの指令に基づいてしか動けないため、パッドクリアランス調整が困難であり、自動的にパッドクリアランス調整を実行できる技術の開発が急がれている。
【０００３】
ここで、一例として特開平３−４１２３３号公報に開示された電動ブレーキの構成を簡単に説明しておくと、上記公報に記載されている電動ブレーキは、
制動すべき回転体に連結されるブレーキディスクと、このブレーキディスクの側面に摩擦面を対向させる進退可能の摩擦パッドと、この摩擦パッドの背面を前進時に押圧するピストンと、固定のブラケットに装着されて前記ピストンを進退可能に支持するブレーキキャリパと、このブレーキキャリパに設けられて前記ピストンを進退させる推力を発生する推力装置とを備え、前記推力発生装置が電動モータと、この電動モータの出力軸に連結した駆動軸と、前記ピストンと同軸上に配置されて、ボールねじを介して前記ピストンに螺合する回転軸と、前記駆動軸および回転軸間に設けられて、前者から後者を減速駆動し得る減速装置とから構成された電動ディスクブレーキにおいて、前記ピストンおよびブレーキキャリパ間に、制動時、前記摩擦パッドから前記ピストンに加えられるサイドスラストを受けるスライドベアリングを介設したことを特徴としている。
【０００４】
上記構成からなる電動ブレーキ装置は、ピストンが制御機器からのブレーキ指令に基づいてしか移動することができない構造となっており、このため、ブレーキパッドが磨耗した際に従来周知の油圧ブレーキ装置のようにパッドクリアランスの調整を自動的に行うことが出来ない。したがって、常に一定のパッドクリアランスを設定しておくことが困難となり、ブレーキパッド磨耗時に安定したブレーキフィーリングを得ることができないなどの問題がある。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、電動ブレーキのブレーキ制御装置内にイグニッションキーをＯＦＦからＯＮにした時に、自動的にパッドクリアランスを調整できる制御プログラムを組み込んだ電動ブレーキを提供することにより、上記のような問題点を解決することを目的とする。
【０００６】
このため、本発明が採用した技術手段は、
パッドクリアランス調整機構を備えた電動ブレーキであって、同ブレーキは、イグニッションキーがＯＦＦからＯＮ状態になったことを検知するイグニッションスイッチ検出手段と、ブレーキ指令検出手段と、パーキングブレーキ検出手段と、ブレーキ制御装置と、ピストン位置センサと、電動アクチュエータとを備え、前記ブレーキ制御装置は、イグニッションスイッチ検出手段が同スイッチがＯＦＦからＯＮに変わったことを検知すると電動アクチュエータを作動して電動ブレーキに僅かなブレーキトルクを発生させピストンが停止した時の位置を初期位置とし、その初期位置から予め設定しておいたパッドクリアランス分だけピストンを戻した位置を原点とし、その後、ブレーキペダル操作でブレーキ指令がだされ電動ブレーキが作動し、指令がなくなった場合にピストンを電動アクチュエータを駆動して前記原点位置に戻すことにより、一定のパッドクリアランスを得ることができるようにしたことを特徴とするパッドクリアランス調整機構を備えた電動ブレーキである。
【０００７】
また、電動ブレーキのパッドクリアランス調整法であって、パッドクリアランスは、イグニッションスイッチがＯＦＦからＯＮになった時に、電動アクチュエータを作動して電動ブレーキに僅かなブレーキトルクを発生させ、ピストンが停止した時のピストン位置を初期位置とし、その初期位置から予め設定しておいたパッドクリアランス分だけピストンを戻した位置を原点とし、その後、ブレーキペダル操作でブレーキ指令がだされ電動ブレーキが作動し、指令がなくなった場合にピストンを前記原点位置に戻すようにしたことを特徴とする電動ブレーキのパッドクリアランス調整法である。
【０００８】
【実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明すると、図１は実施形態に係わる電動ブレーキ（電動ディスクブレーキ）の構成図であり、図２はブレーキ制御装置内に設けたブレーキトルクを算出するための抵抗等からなる電流センサの図である。
図１において１は電動ディスクブレーキであり、同電動ディスクブレーキは、ピストン１ａ、ブレーキパッド１ｂ、ピストン１ａを作動する電動アクチュエータ１ｃ、ピストン位置センサ１ｄなどより構成されており、ピストン位置センサ１ｄを除く、ディスクブレーキ機構は従来装置と同様に構成されている。
【０００９】
ピストン位置センサ１ｄは、ブレーキ装置本体内でのピストンの位置を検知する機能を奏しているものであれば、どのようなものでも利用することができ、例えば、ポテンショメータや電動アクチュエータの回転数を検出するエンコーダ等がある。
２は、ブレーキ制御装置であり、このブレーキ制御装置は、従来から知られているように、ブレーキぺダル３の操作状態を検出するブレーキ指令検出手段５からのブレーキ操作信号に基づいてブレーキ作動を実行するとともに、車輪速度センサ、車間距離センサ等からの信号に基づいてのアンチロック制御、トラクション制御、自動ブレーキ等の種々のブレーキ制御を実行するプログラムを内蔵しており、各種センサ等からの信号に基づいて、それぞれのブレーキ制御を実行する。
【００１０】
また、本ブレーキ制御装置は、上述した機能に加え、ピストン位置検出手段１ｄ、イグニッションスイッチがＯＦＦからＯＮ状態に変わったことを検出するイグニッションスイッチ検出手段７、パーキングブレーキ４の作動状態を検出するパーキングブレーキ検出手段６等からの信号を検知して、これらに基づいて電動アクチュエータを駆動し後述するパッドクリアランス制御を実行するプログラムを内蔵しており、さらに、図２に示すようにブレーキトルクを算出するための抵抗等の電流センサ２ａを備えている。
前述の電流センサ２ａは、電動アクチュエータ１ｃに流れる電流をアースとの間の電位差で測定することができ、この検出電位差に基づいてブレーキ制御装置２内において公知の手法によりブレーキトルクを算出する。
【００１１】
以上の構成からなる電動ディスクブレーキのパッドクリアランスの調整法を、フローチャートを参照して説明する。
図３はブレーキ制御装置２内で実行するパッドクリアランス調整法の第１フローチャートの例であり、図４は同ブレーキ制御装置２内で実行する同第２フローチャートの例である。
先ず、図３を参照して第１フローチャートについて説明すると、このフローチャートは、電動ディスクブレーキ１とは別体のパーキングブレーキ装置４を備えている車両に対応するものである。
【００１２】
ステップＳ１において、先ずイグニッションスイッチ検出手段７によりイグニッションキーがＯＦＦからＯＮに変わると割り込み処理のプログラムが開始される。
ステップＳ２において、電動ディスクブレーキとは別体のパーキングブレーキ装置が作動しているか否かをパーキングブレーキ検出手段６からの信号によって判断し、パーキングブレーキが作動していない時は、ステップＳ１１のリターンに進みプログラムを終了する。即ち、このステップＳ２は、走行時のエンストによる誤作動を防止するとともに、車両発進時の初期におけるブレーキ引きずり感の発生を防止する。
【００１３】
ステップＳ２においてパーキングブレーキが作動中であると、ステップＳ３に進み、電動ブレーキディスクに僅かなブレーキトルクが発生するだけの一定電流を電動アクチュエータ１ｃに流す（一定電流出力指令）。ここでは、図２に示す電流センサ２ａからの信号に基づいて電流を制御し、電動アクチュエータ１ｃを駆動して僅かなブレーキトルクを発生する。ステップＳ４では、電動アクチュエータに備えたピストン位置センサ１ｄからの検出値を入力してピストン位置を演算する。
【００１４】
ステップＳ５では、ピストンが停止したか否か、言い換えると、入力したブレーキトルクとピストン位置とが釣り合ったか否かをピストンの位置変化がないことをピストン位置センサ１ｄで検出し、ステップＳ６において、その時の現在ピストン位置を初期位置と設定する。ステップＳ７では、ステップＳ６で求めた初期位置からパッドクリアランス分ピストンを戻す指令をだし、ステップＳ８でピストン位置センサ１ｄからの検出値を入力してピストン位置を算出し、ステップＳ９でピストン位置が目標位置になったか否かを判断し、目標位置になるとステップＳ１０に進んでピストン原点位置を設定し、さらにステップＳ１２に進んでプログラムを終了する。その後、ブレーキペダル操作でブレーキ指令がだされ電動ブレーキが作動し、指令がなくなった場合にピストンを前記原点位置に戻すことにより、一定のパッドクリアランスを得ることができる。
【００１５】
以上のようにして、本フローチャートでは、電動ディスクブレーキとは別体のパーキングブレーキ装置を備えている車両において常にパーキングブレーキが作動時にのみ本プログラムが実行されることとなる。これにより、走行時のエンストによる誤作動等を防止することができ安全性が向上するとともに、車両発進時のブレーキの引きずり状態を確実に回避することができる。
図４を参照して第２フローチャートについて説明すると、このフローチャートは、電動ディスクブレーキ１とパーキングブレーキ装置４とが兼用されている車両に対応するものである。
【００１６】
ステップＳＳ１において、先ずイグニッションスイッチ検出手段７によりイグニッションキーがＯＦＦからＯＮに変わると割り込み処理のプログラムが開始される。
ステップＳＳ２において、電動ディスクブレーキと兼用のパーキングブレーキ装置４が作動しているか否かをパーキングブレーキ検出手段６からの信号によって判断し、パーキングブレーキ装置４が作動していない時は、ステップＳＳ１２のリターンに進みプログラムを終了する。
ステップＳＳ２においてパーキングブレーキが作動中であると、ステップＳＳ３に進み、パーキングブレーキが解除されたか否かを判断する。即ち、本プログラムではパーキングブレーキが解除された状態の時のみ、ステップＳＳ４以降のステップを実行する。この理由は、電動ブレーキがパーキングブレーキと兼用になっている場合には、パーキングブレーキ作動時のピストンの位置が常に一定でなく、一定電流出力による初期位置の設定ができないため、パーキングブレーキ解除した時に、本プログラムを実行するようにしているためである。
【００１７】
パーキングブレーキが解除されると、ステップＳＳ４において電動ブレーキディスクに僅かなブレーキトルクが発生するだけの一定電流を流す（一定電流出力指令）。ここでは、図２に示す電流センサ２ａからの信号に基づいて電流を制御し、電動アクチュエータ１ｃを駆動して僅かなブレーキトルクを発生する。ステップＳＳ５では、電動アクチュエータに備えたピストン位置センサ１ｄからの検出値を入力してピストン位置を演算する。
【００１８】
ステップＳＳ６では、ピストンが停止したか否か、言い換えると、入力したブレーキトルクとピストン位置とが釣り合ったか否かをピストンの位置変化がないことをピストン位置センサ１ｄで検出し、ステップＳＳ７において、その時の現在ピストン位置を初期位置と設定する。ステップＳＳ８では、ステップＳＳ７で求めた初期位置からパッドクリアランス分ピストンを戻す指令をだし、ステップＳＳ９でピストン位置センサ１ｄからの検出値を入力してピストン位置を算出し、ステップＳＳ１０でピストン位置が目標位置になったか否かを判断し、目標位置になるとステップＳＳ１１に進んでピストン原点位置を設定し、さらにステップＳＳ１２に進んでプログラムを終了する。その後、ブレーキペダル操作でブレーキ指令がだされ電動ブレーキが作動し、指令がなくなった場合にピストンを前記原点位置に戻すことにより、一定のパッドクリアランスを得ることができる。
【００１９】
本フローチャートでは、電動ディスクブレーキとパーキングブレーキとを兼用している場合には、パーキングブレーキ作動時のピストンの位置が常に一定でなく、一定電流出力による初期位置の設定ができないため、パーキングブレーキが解除された時のみ、電動ディスクブレーキのパッドクリアランス調整を実行するようにしている。
【００２０】
以上のように本発明に係わるパッドクリアランス調整法を内蔵した電動ディスクブレーキでは、従来装置と同様に各種のブレーキ制御を実行することができる上に、イグニッションキーをＯＦＦからＯＮにすると、自動的にパッドクリアランスが調整されるため、常に最適なブレーキ力を得ることができ安全性が向上する。
また、従来使用されているブレーキ制御装置内にパッドクリアランス調整のプログラムを内蔵することにより、パッドクリアランス調整が実行できるため、コストも余りかからない。ブレーキ装置として上記例ではキャリパ型のブレーキ装置を主に説明したが、他の形態のブレーキ装置でも本プログラムを内蔵したブレーキ制御装置を使用することができるは当然である。また、本発明は、その精神および必須の特徴事項から逸脱することなく、他の様々な変形例として実施することができることはいうまでもない。
【００２１】
【発明の効果】
以上詳細に述べた如く本発明によれば、イグニッションスイッチをＯＦＦからＯＮにすると電動ディスクブレーキに僅かなブレーキトルクが発生するだけの一定電流が流れるようにしておき、これによってブレーキトルクと釣り合うピストン位置を求め、このピストン位置から予め設定しておいたパッドクリアランス分だけピストンを戻した位置を原点とし、ブレーキ操作が終了したときは、ピストンを常に原点位置の戻すようにしているため、常に一定のパッドクリアランスをうることができる。パッドクリアランスを一定にすることで、電動ディスクブレーキでブレーキパッドが磨耗しても安定したブレーキフィーリングを得ることができる。また、本発明によるパッドクリアランス調整はブレーキ制御装置内のプログラムを変更することで、種々の電動ディスクブレーキに対応することができ、また低コストで容易に搭載することが可能である。
などの優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の実施形態に係わる、電動ディスクブレーキの構成図である。
【図２】図１中のブレーキ制御装置における電流検出法の一例を示す図である。
【図３】電動ディスクブレーキとパーキングブレーキとが別体で構成されている場合の本発明に係わるパッドクリアランス調整法を実行する第１フローチャートである。
【図４】電動ディスクブレーキとパーキングブレーキとが兼用で構成されている場合の本発明に係わるパッドクリアランス調整法を実行する第２フローチャートである。
【符号の説明】
１ 電動ブレーキ（電動ディスクブレーキ）
１ｃ 電動アクチュエータ
１ｄ ピストン位置センサ
２ ブレーキ制御装置
２ａ 電流センサ
３ ブレーキぺダル
４ パーキングブレーキ装置
５ ブレーキ指令検出手段
６ パーキングブレーキ検出手段
７ イグニッションスイッチ検出手段

Claims (2)

1. パッドクリアランス調整機構を備えた電動ブレーキであって、同ブレーキは、イグニッションキーがＯＦＦからＯＮ状態になったことを検知するイグニッションスイッチ検出手段と、ブレーキ指令検出手段と、パーキングブレーキ検出手段と、ブレーキ制御装置と、ピストン位置センサと、電動アクチュエータとを備え、前記ブレーキ制御装置は、イグニッションスイッチ検出手段が同スイッチがＯＦＦからＯＮに変わったことを検知すると電動アクチュエータを作動して電動ブレーキに僅かなブレーキトルクを発生させピストンが停止した時の位置を初期位置とし、その初期位置から予め設定しておいたパッドクリアランス分だけピストンを戻した位置を原点とし、その後、ブレーキペダル操作でブレーキ指令がだされ電動ブレーキが作動し、指令がなくなった場合にピストンを電動アクチュエータを駆動して前記原点位置に戻すことにより、一定のパッドクリアランスを得ることができるようにしたことを特徴とするパッドクリアランス調整機構を備えた電動ブレーキ。
2. 電動ブレーキのパッドクリアランス調整法であって、パッドクリアランスは、イグニッションスイッチがＯＦＦからＯＮになった時に、電動アクチュエータを作動して電動ブレーキに僅かなブレーキトルクを発生させ、ピストンが停止した時のピストン位置を初期位置とし、その初期位置から予め設定しておいたパッドクリアランス分だけピストンを戻した位置を原点とし、その後、ブレーキペダル操作でブレーキ指令がだされ電動ブレーキが作動し、指令がなくなった場合にピストンを前記原点位置に戻すようにしたことを特徴とする電動ブレーキのパッドクリアランス調整法。

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