JP4399754B2 - 電動ディスクブレーキ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動モータの回転トルクによって制動力を発生させる車両用電動ディスクブレーキに係り、特に駐車ブレーキとしての機能を付加した電動ディスクブレーキに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電動ディスクブレーキとしては、車両の非回転部に固定されるキャリアにキャリパ本体を浮動可能に支持させ、このキャリパ本体に、ピストンと、電動モータと該電動モータのロータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構とを内装し、電動モータの作動によりロータに発生するトルクを前記回転−直動変換機構で前記ピストンの推力に変換して、ブレーキパッドをディスクロータに押圧し、制動力を発生するようにしたものがある。
【0003】
ところで、この種の電動ディスクブレーキでは、運転者によるブレーキペダルの踏力やストロークをセンサによって検出して、この検出値に応じて電動モータの回転(回転角)を制御することにより所望の制動力を得るようにしており、万一、電気系統に失陥が生じた場合には制動不能となる。
そこで、例えば、実用新案登録第2546348号公報には、上記した回転−直動変換機構にクラッチ機構とボールランプ機構とを介して回転軸を接続し、この回転軸に、例えばレバー操作で外部から回転力を加えて、前記ボールランプ機構を介してクラッチ機構をつないで前記回転−直動変換機構を作動させ、制動力を発生する機械式ブレーキ作動機構が提案されており、電気系統の失陥時の安全対策としてはもちろん、駐車ブレーキとしても有用となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報に記載の機械式ブレーキ作動機構によれば、外部からの回転力を入力する回転軸の回転角(入力角)と制動力との関係は、外部操作(例えば、レバー操作)開始時点におけるピストン位置によって変化し、例えばブレーキペダルを踏込みながら外部操作すると、ピストン位置によって入力角が大きく変化して操作量にバラツキが生じ、操作感が著しく悪化するようになる。また、逆に外部操作により駐車ブレーキを効かせた状態でブレーキペダルを踏込むと、回転−直動変換機構がクラッチ機構を介して外部の操作部と作動連結されているため、電動ブレーキが効かない状態となり、所望の制動力を得ることはできない。
さらに、ピストンに伝えられる外部からの入力はクラッチ機構および回転−直動変換機構の摩擦力の影響を受けるため、これら摩擦力が経時的に変化すると制動力も変化し、長期的に安定した制動力を得ることが困難となる。
【0005】
本発明は、上記した問題点を解決することを課題としてなされたもので、その目的とするところは、操作感を悪化させかつ電動ブレーキとしての機能を損なうことなく駐車ブレーキとしての機能を十分に発揮させることができることはもちろん、長期的な制動の安定性を確保できる電動ディスクブレーキを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、前記一対のブレーキパッドの一方に対向させてキャリパ本体に設けられたピストンと、前記キャリパ本体に設けられ、前記ディスクロータをまたいで前記一対のブレーキパッドの他方に対向する爪部と、ロータを回転させる電動モータと、前記ロータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させる回転−直動変換機構とを備え、前記電動モータの作動によりロータに発生するトルクを前記回転−直動変換機構で前記ピストンの推力に変換して、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧し、制動力を発生する電動ディスクブレーキにおいて、外部からの入力を前記ロータに機械的に伝えて、該ロータをピストン推進方向へ所定角度だけ回転させると共に、該所定角度以上のロータの回転を許容する回転支援手段を設けたことを特徴とする。このように構成した電動ディスクブレーキにおいては、ピストン推進方向へのロータの自由な回転が許容されているので、ピストン位置に無関係に外部の操作量を一定にすることができることはもちろん、電動ブレーキとしての機能が保証される。しかも、回転支援手段によりロータを機械的に回転させるので、回転−直動変換機構の摩擦変動も無視できる。
【0007】
本発明において、上記回転支援手段の構造は任意であるが、操作用ワイヤを介して外力を受けてロータの軸に対する概ね円筒面上を旋回する移動体と、該移動体に係脱してその旋回力をロータに回転力として伝える回転伝達手段とからなる構成とすることができる。
また、本発明は、ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、前記一対のブレーキパッドの一方に対向させてキャリパ本体に設けられたピストンと、前記キャリパ本体に設けられ、前記ディスクロータをまたいで前記一対のブレーキパッドの他方に対向する爪部と、ロータを回転させる電動モータと、前記ロータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させる回転−直動変換機構とを備え、前記電動モータの作動により前記ロータに発生するトルクを前記回転−直動変換機構で前記ピストンの推力に変換して、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧し、制動力を発生する電動ディスクブレーキにおいて、駐車用操作部と、該駐車用操作部により前記電動モータのロータを機械的に回転させて前記ロータに発生するトルクを前記回転−直動変換機構で前記ピストンの推力に変換して、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧し、制動力を発生する回転支援手段とを備え、該回転支援手段は、外部からの入力を前記ロータに機械的に伝えて、該ロータをピストン推進方向へ所定角度だけ回転させると共に、該所定角度以上のロータの回転を許容することを特徴とする。
そして、上記回転支援手段は、駐車用操作部からの力を受けて回転する移動体と、該移動体に係脱可能に設けられして前記ロータに回転力を伝える回転伝達手段とからなる構成とすることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1乃至図4は、本発明に係る電動ディスクブレーキの第1の実施の形態を示したものである。これらの図において、1は、ディスクロータDより車両内側に位置する車両の非回転部(ナックル等)に固定されたキャリア、2は、このキャリア1に、左右2つのスライドピン3を介してディスクロータDの軸方向へ浮動可能に支持されたキャリパ本体で、キャリパ本体2は、ディスクロータDを跨いで配置された略C字形の爪部材(爪部)4とこの爪部材4の後端の環状フランジ5(図4)にボルト6を用いて固定されたモータケース7とからなっている。キャリア1には、ディスクロータDの両側に配置した一対のブレーキパッド8,9が、ディスクロータDの軸方向に沿って移動可能に支持されており、車両外側のブレーキパッド8には前記爪部材4が、車両内側のブレーキパッド9には、キャリパ本体2内に配設した後述のピストン10がそれぞれ当接可能となっている。なお、モータケース7は、略円筒状のケース本体11とケース本体11の後端にボルト13を用いて固定されたカバー12とからなっている。また、スライドピン3の露出部分はブーツ14により覆われている。
【0010】
モータケース7内には電動モータ15が配設されている。電動モータ15は、モータケース7の内周部に固定されたステータ16と、ステータ16内に配置された筒状ロータ17とを備え、ロータ17は、モータケース7に滑り軸受18,19によって回動可能に支持されている。電動モータ15は、コントローラ(図示せず)からの指令でロータ17を所望トルクで所望角度だけ回転させるように作動し、そのロータ17の回転角は、モータケース7内に配設した回転検出器20によって検出されるようになっている。回転検出器20は、モータケース7にボルト21により取付けたレゾルバケース22に固定されたレゾルバステータ23と、このレゾルバステータ23に対向してロータ17に固定されたレゾルバロータ24とからなっている。なお、レゾルバロータ24は、ロータ17の開口端部に圧入固定された筒状体25の内側に、該筒状体25の内周に嵌着した止め輪26とナット(接合ナット)27とにより固定されている。また、モータケース7には 電動モータ15のステータ16、回転検出器20と前記コントローラとを接続する信号線28がコネクタ29を用いて取付けられている。
【0011】
一方、爪部材4内には、電動モータ15のロータ17の回転を直線運動に変換して前記ピストン10に伝達するボールランプ機構(回転−直動変換機構)30と調整ナット31とが配設されている。
ボールランプ機構30は、爪部材4のフランジ5にピン32によって回転しないように固定された環状の固定ディスク33と、固定ディスク33に対向させて配置された可動ディスク34と、これらの間に介装された複数のボール35(鋼球)とから構成されている。各ボール35は、両ディスク33,34の対向面に円周方向に沿って円弧状に形成された3つのボール溝36,37内に転動可能に配置されており、両ディスク33と34との相対回転によって3つのボール35がボール溝36,37内を転動し、その相対回転に応じて両ディスク33と34との間隔が変化するようになっている。
【0012】
可動ディスク34には、固定ディスク33に挿通されてモータケース7の内部まで延びる円筒部38が一体に形成されている。この円筒部38は、ロータ17の内周部にスプライン部39にて結合されており、これにより可動ディスク34は、ロータ17と一体に回転すると同時、ロータ17に対して軸方向へ移動できるようになっている。なお、スプライン部39は、軸方向の摺動性、寸法公差および組付性を考慮して回転方向および径方向に所定の遊びが設けられている。
【0013】
調整ナット31は、円筒部40とその一端部の外側に形成されたフランジ部41とからなり、その円筒部40が可動ディスク34の円筒部38内に挿通されている。調整ナット31は、その円筒部40が滑り軸受42によって前記円筒部38に回転可能に支持されると共に、そのフランジ部41が可動ディスク34の一端部にスラスト軸受43によって回転可能に支持されている。調整ナット31の円筒部40は、モータケース7内のロータ17の内部まで大きく延ばされており、その延長端部外周にはリミッタ機構44が装着されている。
【0014】
リミッタ機構44は、調整ナット31の円筒部40の先端部に回転可能に外嵌されたリミッタ45とスプリングホルダ46とを備えており、これらリミッタ45とスプリングホルダ46とはコイルスプリング47によって互いに連結されている。リミッタ45とスプリングホルダ46とは、所定の範囲で相対回転できるように互いに係合され、コイルスプリング47によって回転方向に対して所定のセット荷重が付与されており、リミッタ45をスプリングホルダ46に対して、コイルスプリング47のセット荷重に抗して時計回り(図1の左方から見て時計回り)に回転できるようになっている。可動ディスク34の円筒部38の端部に形成された係合凸部38aがリミッタ45に形成された係合凹部45aに遊挿されており(図2)、リミッタ45は、円筒部38に対して所定の範囲で相対回転できるようになっている。また、調整ナット31の円筒部40の先端部外周には、クラッチスプリング(コイルスプリング)48が巻装され、その一端部がスプリングホルダ46に結合されている。クラッチスプリング48は、捩じりによる拡径および縮径によって一方向クラッチとして作用し、スプリングホルダ46の時計回りの回転のみを調整ナット31の円筒部40に伝達するようになっている。
【0015】
ピストン10は、調整ナット31にねじ部49にて螺合されて、調整ナット31がピストン10に対して時計回りに回転すると車両内側のブレーキパッド9へ向かって前進するようになっている。ピストン10には軸穴50が設けられており、この軸穴50には、一端がナット51 によって前記レゾルバケース22に固定された回り止めロッド52の他端部が、軸方向に摺動可能にかつ回転不能に挿入されている。回り止めロッド52の中間部に形成されたフランジ部52aと調整ナット31の円筒部40内に形成された内方フランジ部40aとの間には皿ばね53が介装されており、そのばね力によって調整ナット31が図1中の右方へ付勢されている。
【0016】
なお、ボールランプ機構30、調整ナット31およびピストン10は、1つのケース54内に納められてユニット化されており、ケース54の前端とピストン10との間はピストンブーツ55により覆われている。
【0017】
一方、モータケース7のカバー12と回転検出器20のレゾルバケース22との間には、電動モータ15のロータ17を機械的に回転させて制動力を発生させるための回転支援装置(回転支援手段)60が配設されている。この回転支援装置60は、図5にも示すように、前記カバー12とレゾルバケース22とに軸受61,61を介して回動自在に支持された回転円板62と、この回転円板62の周面に突設された突起(移動体)63と、前記ロータ17と一体のナット27に基端部が固定されると共に、先端部がレゾルバケース22に設けられた溝を挿通して前記突起63に係脱可能な位置まで軸方向に延ばされた係合ピン(回転伝達手段)64と、回転円板62を、常時は図5に見て反時計方向へ付勢するねじりばね65とを備えている。
【0018】
また、上記回転円板62の外周寄りの部位にはワイヤ取付部66が設けられており、このワイヤ取付部66には、例えば車室内に設けた駐車用操作部(図示略)からモータケース7内に引込んだ操作用ワイヤ67が連結されている。なお、ワイヤ67はカバー12の周縁部に嵌着したスリーブ68を挿通して延ばされている。回転円板62は、図5に示すように、ロータ17が非作動状態にある時に位置する係合ピン64に対し、その突起63をロータ17の回転方向の後側から接触させるかわずか離間させる位置を原位置P1(▲1▼)として、この原位置P1とロータ17の動作範囲θR内の途中に突起63を位置させる最大作動位置P2(▲2▼)との間で回動するように、前記操作部によりその動作範囲θPが設定されている。
【0019】
以下、本第1の実施の形態の作用を説明する。
電動ブレーキ(通常ブレーキ)として使用する場合は、ブレーキペダルの踏込みに応じて、図示を略すコントローラからの指令で電動モータ15のロータ17が時計回りに回転する。この時、図5▲1▼に示すように回転支援装置60の回転円板62に設けた突起63がロータ17の動作範囲θR外にあるため、ロータ17は円滑に回転する。そして、ロータ17が回転すると、スプライン部39を介してボールランプ機構30の可動ディスク34が回転し、ボール35がボール溝36,37に沿って転動して可動ディスク34を軸方向に沿って車両内側のブレーキパッド9側へ前進させる。すると、その動きがスラスト軸受43を介して調整ナット31に伝達され、さらに、ねじ部49を介してピストン10に伝達されて、ピストン10が推進する。このピストン10の推進により前記ブレーキパッド9がディスクロータDに押圧され、その反力によってキャリパ本体2が後退して、爪部材4が車両外側のブレーキパッド8をディスクロータDに押圧させ、電動モータ15のトルクに応じて制動力が発生する。なお、この時のピストン10の推進量Lは、ロータ17がその動作範囲θR(図5)で一杯に回転したとすれば、L=θR×l/2π(ただし、lはボールランプ機構30のボール溝36,37のリード)となる。
【0020】
このとき、ボールランプ機構30のボール溝36,37の傾斜を小さくすることにより、回転変位に対するリードを充分小さく設定することができるので、倍力比が大きくすることができ、電動モータ15の出力が小さくてすみ、消費電力の低減およびモータの小型化を図ることができる。また、固定ディスク33および可動ディスク34のそれぞれに3つのボール溝36,37を円周方向に沿って等間隔に配置したことにより、これらの間で均等に推力が伝達されるので、曲げモーメント荷重が発生することがなく、ブレーキパッド8,9を均等に押圧することができ、安定した制動力を得ることができる。これにより、固定ディスク33および可動ディスク34の支持部に作用する曲げモーメント荷重を軽減することができ、必要な強度が小さくてすむので、各部の小型化および軽量化を図ることができる。
【0021】
また、ディスクロータDの両側のブレーキパット8,9を駆動するためのボールランプ機構30をディスクロータDに隣接して配置して略C字形の爪部材4の内側に固定し、その外側に電動モータ15を配置したことにより、ボールランプ機構30とブレーキパッド8,9との距離を充分近づけることができ、爪部材4によって推力を直接伝達することができる。これにより、電動モータ15のモータケース7が制動時の荷重を直接受けることがないので、モータケース7の薄肉化や軽量材料の使用が可能となり、軽量化および電動モータ15の放熱性を促進することができる。また、制動時の反力がロータ17の軸受部に直接作用しないので、電動モータ15の軸受部の構造を簡略化することができる。
【0022】
制動解除時には、電動モータ15のロータ17を逆回転させて、可動ディスク34を反時計回りに元の非作動位置まで回転させると、皿ばね53のばね力によって可動ディスク34、調整ナット31およびピストン10が後退し、ブレーキパッド8,9がディスクロータDから離間して制動が解除される。
【0023】
ここで、ブレーキパッド9が摩耗した場合、制動時に、ロータ17の時計回りの回転によってピストン10(ブレーキパッド9)が非制動位置からパッドクリアランスの分だけ移動しても、摩耗分によってピストン10はブレーキパッド9を押圧しない。ロータ17がさらに回転すると、可動ディスク34および調整ナット31がディスクロータD側へ前進してピストン10がブレーキパッド9をディスクロータDに当接させる。この間、可動ディスク34の円筒部38の端部に形成された係合凸部38aがリミッタ機構44のリミッタ45を時計回りに回転させ、その回転力がコイルスプリング47、スプリングホルダ46およびクラッチスプリング48を介して調整ナット31に伝達される。しかし、ピストン10がブレーキパッド9を押圧しておらず、ピストン10と調整ナット31との間のねじ部49に大きな摩擦力が生じていないため、調整ナット31が時計回りに回転してピストン10を調整ナット31に対しブレーキパッド9側へさらに前進させてパッドの摩耗を調整する。
【0024】
そして、ピストン10がブレーキパッド9をディスクロータDに押圧させる位置まで移動する際には、ピストン10と調整ナット31との間のねじ部49に大きな摩擦力が生じ、リミッタ機構44のコイルスプリング47に撓みが生じて調整ナット31の回転が停止する。そして、制動解除時に、ロータ17の反時計回りの回転よってピストン10が非制動位置まで後退すると、前記係合凸部38aが係合凹部45a の一端部に当接してリミッタ45を反時計回りに回転させるが、コイルスプリング47が拡径して空転するため、調整ナット31は回転しない。このようにして、摩耗によって生じた非制動位置におけるブレーキパッド9とピストン10との隙間は減じることになり、ブレーキパッド9の摩耗分の内の一定の割合だけ1回の動作でピストン10を調整ナット31からブレーキパッド9側へ前進させることができ、これを繰り返すことにより、パッドの摩耗が調整される。
【0025】
一方、駐車ブレーキとして使用する場合は、図示を略す車室内の操作部を操作すると、ワイヤ67が引かれて、回転支援装置60内の回転円板62が時計回りに回転し、その突起63が、図5▲1▼に示す原位置P1から最大作動位置P2まで所定角度範囲θPだけ旋回する。この旋回力は突起63から係合ピン64、ナット27および筒状体25を経てロータ17に回転力として伝達され、ロータ17もθPだけ回転する。これによりピストン10が距離L´=θP×l/2π(ただし、lはボールランプ機構30のボール溝36,37のリード)だけ推進し、所定の駐車制動力が発生する。
駐車ブレーキ解除時は、車室内の駐車用操作部が元に戻されることで、回転円板62がうず巻きばね65のばね力で原位置に戻り(図5▲2▼)、これに応じてロータ17も元の位置に戻る。
【0026】
また、駐車ブレーキを作動させた状態で電動ブレーキを作動させる場合は、ロータ17の、ピストン推進方向への自由な回転が許容されているので、図5▲3▼に示すようにロータ17と一体の係合ピン64が回転円板62の突起63を離れて、ロータ17が動作範囲θR内でさらに回転し、通常のブレーキ状態となる。
また、電動ブレーキを作動させた状態で駐車ブレーキを作動させる場合は、図5に示すように、回転円板62(突起63)の動作範囲θPが電動ブレーキを作動させた際のロータ17(係合ピン64)の動作範囲θRの初期動作側に設定されているので、回転円板62はロータ17と一体の係合ピン64に邪魔されることなく自由に回転し、駐車ブレーキがかかった状態となる。
【0027】
ところで、コントローラによる電動モータ15(ロータ17)の制御は、例えば、図6に示すペダル踏力とピストン10の目標位置(目標推力)との比例関係を利用して行われる。
そして、通常ブレーキとして用いる場合は、図7にタイムチャートを示すように、ピストン10の現在位置に若干の制御遅れが見られるものの、その現在位置と目標位置とはほぼ整合し、制御性は良好となっている。なお、図7中、P、Q、Rは制動開始位置、制動ピーク位置、制動解除位置をそれぞれ表している。また、電動モータ15の電流値のパターンに見られる落込みaは、ピストン10の往きと戻りとで抵抗力(フリクション)が逆になることにより生じる現象である。
【0028】
しかし、駐車ブレーキを作動させた状態で電動ブレーキを作動させる場合は、電動ブレーキの作動時のピストン10の位置が異なるため、電動モータ15の制御には、特別の手順が必要となる。図8および図9は、この場合の制御フローの一例を示したものである。
運転者がブレーキペダルを踏込むと、先ずステップS1において、ブレーキペダルに設けられた踏力センサで踏力が検出され、これと同時に電動モータ15の電流値と現在位置とが検出される。そして、次のステップS2で踏力の検出から運転者の制動意思が確認され、制動意思ありと判断した場合は、次のステップS3でその制動意思が増力方向であるか減力方向であるかが判断される。増力中である場合は、次のステップS4で制動開始か否かが判断され、制動開始である場合は、さらに次のステップS5で駐車ブレーキが引かれているか否かを判断する。駐車ブレーキが引かれているか否かの判断としては、現在位置が推力発生位置の場合に駐車ブレーキが引かれていると判断する。そして、ステップS5で駐車ブレーキが引かれていると判断されると、ステップS6で現在の位置を駐車ブレーキ位置とし、駐車ブレーキ中フラッグを設定し、ステップS7へ処理を移してペダル踏力から、前出図6の関係からピストン10の基準目標位置(目標推力)を算出する。
【0029】
一方、ステップS3で減力中と判断した場合は、ブレーキペダル操作中に駐車ブレーキの操作がなかったかどうかを検出するために、ステップS8で駐車ブレーキ位置を電動モータ15の電流値の増加により再検出し、電流が増加すなわち駐車ブレーキ位置が検出されていれば、次のステップS9で駐車ブレーキ位置の更新を行い、処理を前記ステップS7へ移す。また、ステップS8で電流が減少すなわち駐車ブレーキ位置が検出されなかった場合は、ステップS10で駐車ブレーキが解除されているかどうか、すなわち現在位置が推力発生位置かどうかを判断し、推力発生位置の場合はステップS11で目標位置を基準目標位置に設定し、前記ステップS7へ処理を移す。
【0030】
その後、ステップS12において、駐車ブレーキ中フラッグにより駐車ブレーキ中か解除中かを判定し、駐車ブレーキ中の場合は、さらにステップS13において基本目標位置が駐車ブレーキ中かどうかを判定する。そして、基準目標位置が駐車ブレーキ位置未満の場合は、ステップS14で目標位置を駐車ブレーキ位置に設定した後、処理をステップS15に移して目標位置になるように電動モータ15を制御する。ステップS12で基準目標位置が駐車ブレーキ位置以上の場合は、ステップS16へ処理を移して、目標位置を基準目標位置に設定した後、前記ステップ15へ処理を移し、これにより駐車ブレーキが引かれている状態でブレーキペダルが踏込まれた場合でも有効に制御を行うことができる。
一方、ステップS12で駐車ブレーキ解除中と判断した場合は、前記ステップS16、S15へ順に処理を移し、これにより駐車ブレーキ中にブレーキペダルが踏込まれ、さらにブレーキペダルが解放された場合にも有効に制御を行うことができる。
なお、ステップS2で踏力の検出から運転者の制動意思なしと判断した場合は、制御を停止する。
【0031】
図10は、駐車ブレーキ中に電動ブレーキを作動させた場合のフローチャートを示したものである。同図において、S、Tは駐車ブレーキ中におけるピストン位置の検出タイミングを表しており、基準目標位置が駐車ブレーキ中のピストン10の位置S(駐車ブレーキ位置)にくると電流上昇bさせる一方で、ピストン10が駐車ブレーキ位置まで戻ると電流降下cさせ、これにより電動ブレーキと駐車ブレーキとを切替える。なお、目標位置の変曲部分dは、前記電流降下cに応じて目標位置が修正されたことを表している。
【0032】
図11および図12は、本発明の第2の実施の形態を示したものである。なお、本第2の実施の形態は、駐車ブレーキを作動させるための回転支援装置の構成を変更したもので、ブレーキ倍力装置としての全体構成は上記第1の実施の形態と変わるところはないので、ここでは、前出図1および2に示した部分と同一部分に同一符号を付して、それらの説明は省略することとする。
【0033】
本第2の実施の形態における回転支援装置(回転支援手段)70は、レゾルバケース22に一体に設けたボス部71の外周面に形成された環状溝72と、この環状溝72に摺動可能に嵌装されたL字形摺動部材(移動体)73と、前記ロータ17と一体のナット27に基端部が固定されると共に、先端部がレゾルバケース22に設けられた溝を挿通して前記摺動部材73に係脱可能な位置まで軸方向に延ばされた係合ピン74と、前記環状溝72内に配置され摺動部材73を、常時は図12に見て反時計方向へ付勢する引張りばね75とを備えている。
【0034】
上記摺動部材73の一端には、前記操作用ワイヤ67が連結されている。ワイヤ67は、前記環状溝72内に摺動案内されており、このワイヤ67を引くことで、摺動部材73が環状溝72内を、図12に見て時計方向へ旋回するようになる。摺動部材73は、ロータ17が非作動状態にある時に位置する係合ピン74(図12)に対し、その一端側の突片73aをロータ17の回転方向の後側から接触またはわずか離間させる位置を原位置として、上記第1の実施の形態における突起63とほぼ同じ範囲θP(図5)を旋回するようになっている。
【0035】
本回転支援装置70の作用は、上記第1の実施の形態における回転支援装置60と同じであり、図示を略す車室内の操作部の操作によりワイヤ67を引くと、摺動体73が環状溝72に沿って、図12の時計方向へ旋回し、これに応じてロータ17が回転して、駐車ブレーキが作動する。しかして、本回転支援装置70によれば、既存のレゾルバケース22に環状溝72を有するボス部71を追加するだけでよいので、第1の実施の形態における回転支援装置60のように、第1の回転円板62を軸受61で支持する(図2)面倒な組付作業が不要となり、コスト的に有利となる。
【0036】
【発明の効果】
以上、詳述したように、本発明に係る電動ディスクブレーキによれば、操作感を悪化させかつ電動ブレーキとしての機能を損なうことなく駐車ブレーキとしての機能を十分に発揮させることができることはもちろん、長期的な制動の安定性を確保でき、その利用価値は大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態としての電動ディスクブレーキの全体的構造を示す断面図である。
【図2】図1に示した電動ディスクブレーキの要部を示す断面図である。
【図3】図1に示した電動ディスクブレーキの全体的構造を、一部断面とし示す平面図である。
【図4】図1に示した電動ディスクブレーキの全体的構造を、一部断面とし示す側面図である。
【図5】第1の実施の形態における回転支援装置の作用を示す模式図である。
【図6】本電動ディスクブレーキの制御に用いるブレーキ踏力と目標位置との関係を示すグラフである。
【図7】本電動ディスクブレーキを電動ブレーキとして作動させた場合の制御状態を示すタイムチャートである。
【図8】本電動ディスクブレーキを、駐車ブレーキおよび電動ブレーキとして併用した場合の制御の流れの前半部分を示すフローチャートである。
【図9】本電動ディスクブレーキを、駐車ブレーキおよび電動ブレーキとしてを併用した場合の制御の流れの後半部分を示すフローチャートである。
【図10】本電動ディスクブレーキを、駐車ブレーキおよび電動ブレーキとして併用した場合の制御状態を示すタイムチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態としての電動ディスクブレーキの要部構造を示す断面図である。
【図12】第2の実施の形態における回転支援装置の構造を示す正面図である。
【符号の説明】
1 キャリア
2 キャリパ本体
4 爪部部材(爪部)
7 モータケース
8,9 ブレーキパッド
10 ピストン
15 電動モータ
16 電動モータのロータ
17 電動モータのロータ
20 回転検出器
22 レゾルバケース
30 ボールランプ機構(回転−直動変換機構)
31 調整ナット
44 リミッタ機構
60 回転支援装置
62 回転円板
63 回転円板の突起(移動体)
64 係合ピン(回転伝達手段)
67 操作用ワイヤ
70 回転支援装置
73 摺動部材(移動体)
74 係合ピン(回転伝達手段)
D ディスクロータ
Claims (4)
- ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、前記一対のブレーキパッドの一方に対向させてキャリパ本体に設けられたピストンと、前記キャリパ本体に設けられ、前記ディスクロータをまたいで前記一対のブレーキパッドの他方に対向する爪部と、ロータを回転させる電動モータと、前記ロータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させる回転−直動変換機構とを備え、前記電動モータの作動によりロータに発生するトルクを前記回転−直動変換機構で前記ピストンの推力に変換して、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧し、制動力を発生する電動ディスクブレーキにおいて、外部からの入力を前記ロータに機械的に伝えて、該ロータをピストン推進方向へ所定角度だけ回転させると共に、該所定角度以上のロータの回転を許容する回転支援手段を設けたことを特徴とする電動ディスクブレーキ。
- 回転支援手段が、操作用ワイヤを介して外力を受けてロータの軸に対する概ね円筒面上を旋回する移動体と、該移動体に係脱してその旋回力をロータに回転力として伝える回転伝達手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキ。
- ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、前記一対のブレーキパッドの一方に対向させてキャリパ本体に設けられたピストンと、前記キャリパ本体に設けられ、前記ディスクロータをまたいで前記一対のブレーキパッドの他方に対向する爪部と、ロータを回転させる電動モータと、前記ロータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させる回転−直動変換機構とを備え、前記電動モータの作動により前記ロータに発生するトルクを前記回転−直動変換機構で前記ピストンの推力に変換して、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧し、制動力を発生する電動ディスクブレーキにおいて、駐車用操作部と、該駐車用操作部により前記電動モータのロータを機械的に回転させて前記ロータに発生するトルクを前記回転−直動変換機構で前記ピストンの推力に変換して、前記ブレーキパッドを前記ディスクロータに押圧し、制動力を発生する回転支援手段とを備え、該回転支援手段は、外部からの入力を前記ロータに機械的に伝えて、該ロータをピストン推進方向へ所定角度だけ回転させると共に、該所定角度以上のロータの回転を許容することを特徴とする電動ディスクブレーキ。
- 回転支援手段は、駐車用操作部からの力を受けて回転する移動体と、該移動体に係脱可能に設けられして前記ロータに回転力を伝える回転伝達手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキ。
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