JP4253963B2 - 電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法および装置 - Google Patents

電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法および装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動モータの回転力によって制動力を発生させる電動ディスクブレーキ装置のパッドクリアランス初期調整方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば自動車等の車両の制動装置として、ブレーキ液を使用せず、電動モータの出力によって制動力を発生させるようにした所謂「ドライブレーキ」装置が知られている。
【0003】
ドライブレーキ装置としては、例えば特開昭60−206766号公報に開示されているように、電動モータの回転運動をボールねじ機構によってピストンの進退動に変換し、ピストンによってブレーキパッドをディスクロータに押圧させることにより、制動力を発生させるようにした電動ディスクブレーキ装置がある。この種の電動ディスクブレーキ装置は、運転者によるブレーキペダル踏力(または変位量)をセンサによって検出し、コントローラによって、この検出に応じて電動モータの回転を制御して、所望の制動力を得るようにしている。
【0004】
上記のような電動ディスクブレーキ装置においては、各種センサを用いて、各車輪の回転速度、車両速度、車両加速度、操舵角、車両横加速度等の車両状態を検出し、コントローラによってこれらの検出に基づいて電動モータの回転を制御することにより、倍力制御、アンチロック制御、トラクション制御および車両安定化制御等を比較的簡単に組み込むことができる。
【0005】
また、従来の電動ディスクブレーキには、電動モータの回転運動をボールランプ機構を用いてピストンの直線運動に変化したものがある。ボールランプ機構を用いることにより、倍力比を大きくすることができ、電動モータの小型化および省電力化を促進することが可能となる。ところが、ボールランプ機構は、ロータの回転角に制限があり、ピストンの直線運動の変位を大きくとることができない。このため、ボールランプ機構の変位だけでは、ブレーキパッドの摩耗に対して、ピストンを充分に追従させることができない。そこで、パッド摩耗追従機構を設けて、制動時または制動解除時にモータの回転を利用して、ブレーキパッドの摩耗に対して、ピストンを機械的に前進させることにより、常に適正なパッドクリアランスが得られるようにしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のボールランプ機構およびパッド摩耗追従機構を備えた電動ディスクブレーキでは、次のような問題があった。パッド摩耗追従機構は、一般的に、ボールランプ機構のロータの回転によって作動されるため、ロータの回転角度によって一回当りの調整量が制限される。通常のブレーキパッドの摩耗に対しては、制動または制動解除毎に調整が行われるので、ブレーキパッドの摩耗が充分小さく、ピストンを追従させることが可能である。ところが、ブレーキパッド交換時、メンテナンス時等において、ピストンが人為的に大きく後退されてパッドクリアランスが調整量を越えた場合、一回の制動または制動解除によっては適当なパッドクリアランスを得ることができない。このため、ブレーキパッド交換あるいはメンテナンス後には、適当なパッドクリアランスが得られたかどうか、作業者自らが確認しながら制動および制動解除動作を反復する必要があった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ボールランプ機構およびパッド摩耗追従機構を備えた電動ディスクブレーキにおいて、ブレーキパッド交換またはメンテナンス時においても、常に適切なパッドクリアランスを得ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、
該ブレーキパッドを押圧するピストンと、
電動モータと、
該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させるボールランプ機構と、
前記ボールランプ機構からの回転入力に対して、パッドクリアランスに相当する量の遊びを有し、前記回転入力をばね部材を介して伝達するリミッタ機構と、該リミッタ機構からの一方向の回転入力のみを伝達する一方向クラッチと、該一方向クラッチからの回転入力によって前記ピストンを前進させる調整機構とを含み、前記ブレーキパッドの摩耗に応じて前記ピストンを前進させるパッド摩耗追従機構とを備えた電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法であって、
前記電動モータを前記ピストンが前進する正方向及び後退する逆方向に交互に回転させて前記パッド摩耗追従機構を反復作動させることにより、前記ピストンを進退動させながら所定の初期位置まで前進させることを特徴とする。
【0009】
このように構成したことにより、パッドクリアランスが過大である場合、電動モータが正逆回転してピストンを進退動させ、パッド摩耗追従機構を反復動作させることによってパッドクリアランスを調整する。
【0010】
請求項2の発明は、上記請求項1の構成において、前記電動モータを前記リミッタ機構の遊びを僅かに超える所定角度だけ正方向に回転させた後、逆方向に回転させて所定の初期位置戻し、これらの行程を前記ピストンが前記ブレーキパッドを押圧するまで反復することを特徴とする。
【0011】
このように構成したことにより、ピストンが所定範囲で進退動して、パッド摩耗追従機構が反復動作し、パッドクリアランスが徐々に調整される。
【0012】
請求項3の発明は、上記請求項1の構成において、前記電動モータを正方向に回転させて前記ピストンを前進させ、前記電動モータの回転に所定の負荷が生じたとき、その回転角を記憶し、前記電動モータを逆方向に回転させて所定の初期位置に戻し、前記記憶した回転角を所定の基準値と比較し、前記記憶した回転角が前記基準値以下になるまで、これらの行程を反復することを特徴とする。
【0013】
このように構成したことにより、電動モータが回転してボールランプ機構が終端まで変位し、または、ピストンがブレーキパッドを押圧すると、電動モータの回転に負荷が生じ、このときのモータの回転角を基準値と比較し、回転角が基準値を越えた場合は、ボールランプ機構が終端まで変位したと判断して、パッドクリアランスの調整を続行し、回転角が基準値以下の場合は、ピストンがブレーキパッドを押圧したと判断して、パッドクリアランスの調整を終了する。
【0014】
請求項4の発明は、上記請求項1の構成において、前記電動モータを正方向に回転させて前記ピストンを前進させ、前記電動モータの回転に所定の負荷が生じたとき、その回転角を記憶し、該記憶した回転角を所定の基準値と比較し、前記記憶した回転角が前記基準値を超えている場合、前記電動モータを逆方向に所定の回転角だけ回転させ、これらの行程を前記記憶した回転角が前記基準値以下になるまで反復し、前記記憶した回転角が前記基準以下になったとき、前記電動モータの回転位置を所定の初期位置に戻すことを特徴とする。
【0015】
このように構成したことにより、電動モータが回転してボールランプ機構が終端まで変位し、または、ピストンがブレーキパッドを押圧すると、電動モータの回転に負荷が生じ、このときのモータの回転角を基準値と比較し、回転角が基準値を越えた場合は、ボールランプ機構が終端まで変位したと判断して、モータを所定回転角まで戻して、パッドクリアランスの調整を続行し、回転角が基準値以下の場合は、ピストンがブレーキパッドを押圧したと判断して、モータの回転角を所定の初期位置に戻してパッドクリアランスの調整を終了する。
【0016】
また、請求項5の発明は、ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、
該ブレーキパッドを押圧するピストンと、
電動モータと、
該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させるボールランプ機構と、
前記ボールランプ機構からの回転入力に対して、パッドクリアランスに相当する量の遊びを有し、前記回転入力をばね部材を介して伝達するリミッタ機構と、該リミッタ機構からの一方向の回転入力のみを伝達する一方向クラッチと、該一方向クラッチからの回転入力によって前記ピストンを前進させる調整機構とを含み、前記ブレーキパッドの摩耗に応じて前記ピストンを前進させるパッド摩耗追従機構とを備えた電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整装置であって、
前記電動モータを前記ピストンが前進する正方向及び後退する逆方向に交互に回転させて前記パッド摩耗追従機構を反復作動させることにより、前記ピストンを進退動させながら所定の初期位置まで前進させることを特徴とする。
【0017】
このように構成したことにより、パッドクリアランスが過大である場合、電動モータを正逆回転させてピストンを進退動させ、パッド摩耗追従機構を反復動作させることによってパッドクリアランスが調整される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態に係るの電動ディスクブレーキ1は、車輪(図示せず)とともに回転するディスクロータ2の一側(通常は車体に対して内側)にキャリパ本体3が配置されており、キャリパ本体3には、略C字形に形成されてディスクロータ2を跨いで反対側へ延びる爪部4がボルト(図示せず)によって一体的に結合されている。ディスクロータ2の両側、すなわち、ディスクロータ2とキャリパ本体3との間および爪部4の先端部との間に、それぞれブレーキパッド6,7が設けられている。ブレーキパッド6,7は、車体側に固定されるキャリヤ8によってディスクロータ2の軸方向に沿って移動可能に支持されて、制動トルクをキャリヤ8で受けるようになっており、また、キャリパ本体3は、キャリヤ8に取付けられたスライドピン(図示せず)によってディスクロータ2の軸方向に沿って摺動可能に案内されている。
【0019】
爪部4の基部に形成された環状のフランジ部10が結合されたキャリパ本体3の略円筒状のケース11内には、電動モータ12および回転検出器13が設けられ、ボールランプユニット14が爪部4の環状のフランジ部10側から電動モータ12のロータ15内に挿入されている。ケース11の後端部には、カバー16がボルト(図示せず)によって取付けられている。
【0020】
電動モータ12は、ケース11の内周部に固定されたステータ18と、ステータ18の内周部に対向させてケース11に滑り軸受19,20によって回転可能、かつ、軸方向に移動可能に支持されたロータ15とを備えている。回転検出器13は、ケース11にボルト21によって取付けられたレゾルバケース22に固定されたレゾルバステータ23と、レゾルバステータ23に対向させてロータ15に固定されたレゾルバロータ24とを備え、これらの相対回転に基づいてロータ15の回転位置を検出するものである。
【0021】
カバー16には、電動モータ12および回転検出器13に接続されるコネクタ25およびケーブル26が取付けられており、電動モータ12は、パッドクリアランス調整装置を備えたコントローラ(図示せず)からの制御信号(電気信号)に応答してロータ15を所望トルクで所望角度だけ回転させられるようになっている。コネクタ25およびケーブル26は、当該車両のサスペンション装置のアーム、リンク、ナックル、ストラット等の部材との干渉を避けるため、ディスクロータ2の軸方向に対して傾斜されて、その径方向外側へ延ばされている。
【0022】
ボールランプユニット14は、電動モータ12のロータ15の回転運動を直線運動に変換するボールランプ機構27と、ブレーキパッド6を押圧するピストン28と、これらの間に介装される調整ナット29と、ボールランプ機構27の回転を調整ナット29(調整機構)に伝達するリミッタ機構30(パッド摩耗追従機構)とを備えている。
【0023】
ボールランプ機構27は、爪部4のフランジ部10に当接し、ピン31によって回転しないように固定された環状の固定ディスク32と、固定ディスク32に対向させて配置された可動ディスク33と、これらの間に介装されたボール34(鋼球)とから構成されている。可動ディスク33には、固定ディスク32に挿通されてケース11の内部まで延びる円筒部35が一体に形成されている。円筒部35は、ロータ15の内周部にスプライン結合されており、これらのスプライン結合部36は、軸方向の摺動性、寸法公差および組付性を考慮して回転方向および径方向に適度な遊びが設けられている。
【0024】
固定ディスク32および可動ディスク33の互いの対向面には、それぞれ円周方向に沿って円弧状に延びる3つのボール溝37,38が形成されている。これらのボール溝37,38は、それぞれ等しい中心角(例えば90°)の範囲で延ばされて等間隔に配置されている。ボール溝37および38は、それぞれ同方向に傾斜されており、ボール溝37,38間にボール34が装入されて、固定ディスク32に対する可動ディスク33の回転によって、3つのボール34がボール溝37,38内を転動して、その回転角度に応じて可動ディスク33が固定ディスク32から離間する方向に軸方向に移動するようになっている。
【0025】
調整ナット29は、円筒部39a およびその一端部の外側に形成されたフランジ部39b からなり、円筒部39a が可動ディスク33の円筒部35に挿通され、滑り軸受40によって回転可能に支持され、フランジ部39b が可動ディスク33の一端部に当接してスラスト軸受41によって回転可能に支持されている。調整ナット29の円筒部39a は、ケース11内のロータ15の内部まで延ばされ、その先端部外周にリミッタ機構30が装着されている。
【0026】
リミッタ機構30は、調整ナット29の円筒部39a の先端部外周にリミッタ42およびスプリングホルダ43が回転可能に外嵌され、これらがコイルスプリング44(ばね部材)によって互いに連結されている。リミッタ42とスプリングホルダ43とは、パッドクリアランスに相当する所定の範囲で相対回転できるように互いに遊びをもって係合され、コイルスプリング44によって回転方向に対して所定のセット荷重が付与されており、リミッタ42をスプリングホルダ43に対して、コイルスプリング44のセット荷重に抗して時計回り(図1の左方から見て時計回り、以下同じ)に回転できるようになっている。リミッタ42に形成された係合凹部45が可動ディスク33の円筒部35の端部に形成された係合凸部46に係合されており、リミッタ42は、円筒部35に対して所定の範囲で相対回転できるようになっている。また、調整ナット29の円筒部の先端部外周には、クラッチスプリング47(コイルスプリング)が巻装され、その一端部がスプリングホルダ43に結合されており、クラッチスプリング47は、捩じりによる拡径および縮径によって一方向クラッチとして作用し、スプリングホルダ43の時計回りの回転のみを調整ナット29の円筒部39a に伝達するようになっている。
【0027】
ピストン28は、調整ナット29の内周部に形成されたねじ部48(パッド摩耗追従機構)に螺合されて、調整ナット29がピストン28に対して時計回りに回転するとブレーキパッド6側へ向かって前進するようになっている。調整ナット29の円筒部39a 内には、一端がナット49によってレゾルバケース22に固定された回り止めロッド50が挿入され、回り止めロッド50の他端側は、ピストン28に軸方向に摺動可能に挿入され、かつ、回転を規制するように係合されている。ピストン28の後端部には、回り止めキャップ28b が取付けられて、回り止めロッド50とピストン28との相対回転を規制するとともに軸方の相対移動を可能としている。回り止めロッド50の中間部に形成されたフランジ部51と調整ナット29の円筒部39a 内に形成されたフランジ部52との間に、複数の皿ばね53が介装されており、そのばね力によって調整ナット29が図1中の右方へ付勢されている。そして、ナット49によって回り止めロッド50の軸方向位置を移動させることにより、調整ナット29への付勢力(皿ばね53のセット荷重)を調整できるようになっている。
【0028】
ボールランプ機構27の固定ディスク32、可動ディスク33および調整ナット29には、これらのフランジ部の外周を覆うように略円筒状のケース54が取付けられている。ケース54は、テーパ状の先端部の内側にフランジ部55が形成され、円筒状の後端部の内側に切欠を有する係合爪56が形成されている。そして、固定ディスク32を係合爪56に係合させ、フランジ部55と調整ナット29のフランジ部39b との間にウェーブワッシャ57が介装されて、固定ディスク32、可動ディスク33およびボール34を一体的に保持し、ウェーブワッシャ57の弾性によって、可動ディスクおよび調整ナット29の軸方向の移動を許容するとともに、調整ナットの回転に対して適度な抵抗を付与するようになっている。フランジ部55に取付けられたピストンブーツ58の先端部が、調整ナット29に装着されたピストン28の先端外周部に結合されている。ケース54の円筒部は、爪部4に嵌合され、その間がOリング59によってシールされている。
【0029】
次に電動ディスクブレーキ1の通常の作動について説明する。
制動時には、コントローラ(図示せず)からの信号に応じて電動モータ12のロータ15が所定のトルクで時計回りに回転すると、スプライン結合部を36を介してボールランプ機構27の可動ディスク33が回転し、ボール34がボール溝37,38に沿って転動して可動ディスク33を軸方向に沿ってブレーキパッド6側へ前進させる。この推力がスラスト軸受41を介して調整ナット29に伝達され、さらに、ねじ部48を介してピストン28に伝達されて、一方のブレーキパッド6をディスクロータ2に押圧させ、その反力によってキャリパ本体3がキャリヤ8のスライドピンに沿って移動して、爪部4が他方のブレーキパッド7をディスクロータ2に押圧させ、電動モータ12のトルクに応じて制動力が発生する。
【0030】
制動解除時には、電動モータ12を逆回転させ、可動ディスク33を反時計回りに元の位置まで回転させると、皿ばね53のばね力によって可動ディスク33、調整ナット29およびピストン28が後退し、キャリパ本体3がキャリヤ8のスライドピンに沿って移動して、ディスクロータ2からブレーキパッド6,7が離間して制動が解除される。
【0031】
次に、ブレーキパッド6,7の摩耗の補償について説明する。ブレーキパッド6,7の摩耗がない場合、または、後述する摩耗の調整が行われた後には、図2に示すように、制動時に、ロータ15の回転によってピストン28が非制動位置(A)から所定のパッドクリアランスCの分だけ前進してブレーキパッド6,7がディスクロータ2に当接する制動開始位置(B)(パッド接触位置)へ移動すると、可動ディスク33の円筒部35の係合凸部46とリミッタ42の係合凹部45とが所定の範囲内で相対回転する。さらに、ブレーキパッド6,7をディスクロータ2に押圧させながら可動ディスク33が回転すると、係合凸部46がリミッタ42を時計回りに回転させ(D)、その回転力がコイルスプリング44およびクラッチスプリング47を介して調整ナット29に伝達されるが、ピストン28がブレーキパッド5を押圧しており、ピストン28と調整ナット29との間のねじ部48に大きな摩擦力が生じているため、コイルスプリング44が撓んで調整ナット29は回転しない。
【0032】
その後、制動解除時に、可動ディスク33の逆回転によってピストン28が所定のパッドクリアランス分だけ後退して非制動位置(A)まで移動する際、係合凸部46が係合凹部45の一端部に当接してリミッタ62およびスプリングホルダ43を反時計回りに回転させるが、クラッチスプリング47が拡径して空転するため、ピストン28は回転しない。このようにして、パッドの摩耗は調整されず、一定のパッドクリアランスCが維持される。
【0033】
ブレーキパッド6,7が摩耗した場合には、図3に示すように、制動時に、ロータ15の時計回りの回転によってブレーキパッド6,7が非制動位置(A)から上記所定のパッドクリアランスCの分だけ移動し、係合凸部46と係合凹部45とが所定の範囲内で相対回転しても、摩耗分Wによってブレーキパッド6,7はディスクロータ2に当接しない(B)。ロータ15がさらに回転すると、可動ディスク33および調整ナット29がディスクロータ2側へ前進してピストン28がブレーキパッド6,7をディスクロータ2に当接させる(D)。このとき、係合凸部46がリミッタ42を時計回りに回転させ、その回転力がコイルスプリング44およびクラッチスプリング47を介して調整ナット29に伝達されるが、ピストン28がブレーキパッド6,7を押圧しておらず、ピストン28と調整ナット29との間のねじ部48に大きな摩擦力が生じていないため、調整ナット29が時計回りに回転してピストン28をブレーキパッド6,7側へさらに前進させてパッドの摩耗を調整する。そして、ブレーキパッド6,7がディスクロータ2を押圧すると(E)、ピストン28と調整ナット29との間のねじ部48に大きな摩擦力が生じ、コイルスプリング44に撓みが生じて調整ナット29の回転が停止する。
【0034】
その後、制動解除時に、ロータ15の反時計回りの回転よってピストン28が所定のパッドクリアランス分だけ後退すると、係合凸部46が係合凹部45の一端部に当接してリミッタ42を反時計回りに回転させるが、クラッチスプリング47が拡径して空転するため、調整ナット29は回転しない。このようにして、摩耗によって生じた非制動位置に置けるブレーキパッド6とピストン28との隙間Wは、W′に減じることになり、ブレーキパッドの摩耗分の内の一定の割合だけ一回の動作でピストン28を調整ナット29からブレーキパッド6側へ前進させることができ、これを繰り返すことにより、ブレーキパッド6,7の摩耗調整を自動的に行うことができる。
【0035】
このとき、1回の制動動作によって、パッド摩耗追従機構が調整可能な最大調整量δmax は、次式で表される。
δmax =P・(2θ−(C/L)× 360)
ここで、P:パッド摩耗追従機構における台形ねじ(ねじ部)のピッチ(mm)
θ:ボール溝の中心角度(deg) (2θ:モータの最大回転角度)
C:パッドクリアランス(mm)
L:ボールランプのリード(mm)
C/L:パッドクリアランスを得るためのモータの回転角度(deg)
【0036】
なお、実際には、パッド摩耗追従機構は、▲1▼ボールランプ前進時(モータロータ正回転時)にパッドの摩耗に対する追従動作を行い、▲2▼ピストンがパッドを押圧すると作動を停止するため、パッド摩耗量が上記最大調整量δmax 以下であったとしても、1回の制動動作によって調整を完了することはできない。1回の制動動作で実際に調整可能な調整量δは次式で表される。
δ=x・(P/(P+L))
ここで、x:パッドの摩耗量
【0037】
このため、通常のブレーキパッドの摩耗に対しては、制動または制動解除毎に調整されるので、ブレーキパッドの摩耗が充分小さく、ピストンを追従させることが可能であるが、ブレーキパッド交換時、メンテナンス時等において、ピストンが人為的に大きく後退されてパッドクリアランスが調整量を越えた場合には、1回の制動動作によっては所定のパッドクリアランスを得ることができない。
【0038】
次に、ブレーキパッド交換、メンテナンス等によって、パッドクリアランスが過大になっている場合におけるパッドクリアランス初期調整方法について説明する。
【0039】
第1実施形態に係るパッドクリアランス初期調整方法について図4および図7を参照して説明する。ディスクブレーキ1のコントローラは、ステップ▲1▼で、パッドクリアランスの初期調整が必要かどうかを判定する。この判定は、例えば、イグニッションスイッチがオンされたとき、あるいは、別途設けた初期調整スイッチがオンされたとき(パッド交換時またはメンテナンス時等にオンされる)、パッドクリアランスの初期調整が必要であると判断するようにしてもよい。
【0040】
パッドクリアランスの初期調整が必要な場合、ステップ▲2▼で、電動モータ12を所定角度だけ回転させてピストン28をブレーキパッド6側へ前進させる。このとき、モータ12の回転角度は、ピストン28が所定のパッドクリアランスを僅かに越えて変位するように設定する。
【0041】
そして、ステップ▲3▼で所定のモータトルク(負荷)が発生したかどうか、すなわち、ピストン28がブレーキパッドを押圧したかどうかを判定する。この判定は、モータ12の回転角と電流との関係をモニタすることによって行うことができる。すなわち、図7に示すように、ピストン28がブレーキパッド6を押圧すると、モータ12の負荷が増大し、モータ12の回転角に対する通電電流が上昇するので、モータトルクの発生を検知することができる。このほか、トルクセンサあるいは推力センサを用いて、モータトルクの発生またはピストン28の推力の発生を直接検知するようにてもよい。これにより、パッドクリアランスが適当に調整されていれば、ピストン28がブレーキパッド6を押圧してモータトルクの発生が検知される。また、パッドクリアランスが過大である場合は、ピストン28がブレーキパッド6を押圧せず、モータトルクの発生は検知されない。
【0042】
ステップ▲3▼においてモータトルクの発生が検知されない場合、すなわち、パッドクリアランスが過大である場合、ステップ▲4▼で、モータ12を逆回転させて所定の初期位置まで戻した後、ステップ▲2▼へ戻り、これらの行程を繰り返して、パッド摩耗追従機構によるパッドの摩耗調整を繰り返す。ステップ▲3▼において、モータトルクの発生が検知された場合、パッドクリアランスが適正であると判断して、ステップ▲5▼でモータ12を所定の初期位置まで戻し、パッドクリアランスの初期調整を終了する。
【0043】
これにより、ブレーキパッド6,7の交換時、メンテナンス時等において、ピストン28が人為的に大きく後退されてパッドクリアランスがパッド摩耗追従機構の調整量を越えている場合でも、パッドクリアランスを自動的に適正値に初期調整することができる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態に係るパッドクリアランス初期調整方法について図5および図8を参照して説明する。図5に示すように、ディスクブレーキ1のコントローラは、ステップ▲1▼で、パッドクリアランスの初期調整が必要かどうかを判定する。この判定は、上記第1実施形態と同様、イグニッションスイッチあるいは初期調整スイッチのオンによって判断することができる。
【0045】
パッドクリアランスの初期調整が必要な場合、ステップ▲2▼で、電動モータ12を回転させてピストン28をブレーキパッド6側へ前進させる。そして、ステップ▲3▼で、モータトルク(負荷)が発生したかどうかを判定し、モータトルクが発生するまで電動モータ12を回転させる。この判定は、上記第1実施形態と同様、モータ12への通電電流、あるいは、トルクセンサまたは推力センサの検出に基づいて行うことができる。モータトルクの発生が検知された場合、ステップ▲4▼で、その時のモータ12回転角を記憶し、ステップ▲5▼でモータ12を初期位置に戻す。なお、このとき、モータトルクの発生の原因としては、ピストン28がブレーキパッド6を押圧した場合と、ボールランプ機構が終端まで変位した場合とが考えられる。
【0046】
次に、ステップ▲6▼で、ステップ▲4▼において記憶したモータ回転角を所定の基準値と比較する。この基準値は、摩耗追従機構の性能に基づいて、適切なパッドクリアランスが得られるように決定する。モータ回転角が所定の基準値を越えている場合には、ステップ▲2▼へ戻り、モータ12の回転、モータトルクの発生の検出を繰り返して、パッド摩耗追従機構によるパッドクリアランスの調整を行う。モータ回転角が所定の基準値以下となったとき、パッドクリアランスが適切に調整されたと判断して、パッドクリアランスの初期調整を終了する。
【0047】
第2実施形態のパッドクリアランスの初期調整の過程におけるモータ12の回転角の変化を図8に示す。このようにして、ブレーキパッド6,7の交換時、メンテナンス時等において、ピストン28が人為的に大きく後退されてパッドクリアランスがパッド摩耗追従機構の調整量を越えている場合でも、パッドクリアランスを自動的に適正値に初期調整することができる。
【0048】
次に、本発明の第3実施形態に係るパッドクリアランス初期調整方法について図6および図9を参照して説明する。なお、第3実施形態は、上記第2実施形態に対して、ステップ▲1▼からステップ▲4▼までは同様でステップ▲5▼以降の行程が異なるので、以下、異なるステップ▲5▼以降の行程についてのみ詳細に説明する。
【0049】
図6に示すように、第3実施形態に係るパッドクリアランス初期調整方法では、ステップ▲4▼において記憶したモータ12のトルクが発生したとき回転角をステップ▲5▼で所定の基準値と比較する。この基準値は、上記第2実施形態と同様、摩耗追従機構の性能に基づいて、適切なパッドクリアランスが得られるように決定する。モータ回転角が所定の基準値を越えている場合には、ステップ▲6▼でモータ12を所定の回転角まで戻してステップ▲2▼へ戻り、ステップ▲4▼からステップ▲6▼の行程を繰り返して、パッド摩耗追従機構によるパッドクリアランスの調整を行う。このとき、ステップ▲6▼におけるモータ12の所定の戻し回転角は、例えば、初期位置まで戻さず、パッドクリアランス量に相当する回転角を残した回転角とすることにより、図9に示すような過程を経て、パッドクリアランスを適性値に調整することができる。
【0050】
そして、ステップ▲5▼でモータ回転角が所定の基準値以下となったとき、パッドクリアランスが適切に調整されたと判断して、パッドクリアランスの初期調整を終了する。
【0051】
このようにして、上記第2実施形態と同様に、ブレーキパッド6,7の交換時、メンテナンス時等において、ピストン28が人為的に大きく後退されてパッドクリアランスがパッド摩耗追従機構の調整量を越え越えている場合でも、パッドクリアランスを自動的に適正値に初期調整することができる。そして、ステップ▲6▼おけるモータ12の戻し回転角を適当に設定することにより、調整過程を短縮することができる。
【0052】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1および5に係る電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法および装置によれば、ブレーキパッド交換時、メンテナンス時等において、ピストンが人為的に大きく後退されてパッドクリアランスがパッド摩耗追従機構の調整量を越えている場合、電動モータを正逆回転させてピストンを進退動させ、パッド摩耗追従機構を反復動作させることによって、パッドクリアランスを適性値に初期調整することができる。
【0053】
請求項2に係る電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法によれば、ピストンを所定範囲で進退動させて、パッド摩耗追従機構を反復動作させることによってパッドクリアランスを徐々に適性値に調整することができる。
【0054】
請求項3の発明に係る電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法によれば、電動モータが回転してボールランプ機構が終端まで変位し、または、ピストンがブレーキパッドを押圧すると、電動モータの回転に負荷が生じ、このときのモータの回転角を基準値と比較し、回転角が基準値を越えた場合は、ボールランプ機構が終端まで変位したと判断して、パッドクリアランスの初期調整を続行し、回転角が基準値以下の場合は、ピストンがブレーキパッドを押圧したと判断して、パッドクリアランスの初期調整を終了することによって、パッドクリアランスを適性値に調整することができる。
【0055】
また、請求項4に係る発明電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法によれば、電動モータが回転してボールランプ機構が終端まで変位し、または、ピストンがブレーキパッドを押圧すると、電動モータの回転に負荷が生じ、このときのモータの回転角を基準値と比較し、回転角が基準値を越えた場合は、ボールランプ機構が終端まで変位したと判断して、モータを所定回転角まで戻して、パッドクリアランスの初期調整を続行し、回転角が基準値以下の場合は、ピストンがブレーキパッドを押圧したと判断して、モータの回転角を所定の初期位置に戻してパッドクリアランスの初期調整を終了することによって、パッドクリアランスを適性値に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動ディスクブレーキの縦断面図である。
【図2】図1の装置のパッド摩耗追従機構のパッドの摩耗がない場合の作動を示す説明図である。
【図3】図1の装置のパッド摩耗追従機構のパッドが摩耗した場合の作動を示す説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るパッドクリアランス初期調整方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態に係るパッドクリアランス初期調整方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第3実施形態に係るパッドクリアランス初期調整方法を示すフローチャートである。
【図7】図1の装置のモータの回転角とモータトルク(電流)との関係を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態のパッドクリアランスの初期調整の過程におけるモータの回転角の変化を示す図である。
【図9】本発明の第3実施形態のパッドクリアランスの初期調整の過程におけるモータの回転角の変化を示す図である。
【符号の説明】
1 電動ディスクブレーキ
2 ディスクロータ
6,7 ブレーキパッド
12 電動モータ
27 ボールランプ機構
30 リミッタ機構(パッド摩耗追従機構)
48 ねじ部(パッド摩耗追従機構)

Claims (5)

  1. ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、
    該ブレーキパッドを押圧するピストンと、
    電動モータと、
    該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させるボールランプ機構と、
    前記ボールランプ機構からの回転入力に対して、パッドクリアランスに相当する量の遊びを有し、前記回転入力をばね部材を介して伝達するリミッタ機構と、該リミッタ機構からの一方向の回転入力のみを伝達する一方向クラッチと、該一方向クラッチからの回転入力によって前記ピストンを前進させる調整機構とを含み、前記ブレーキパッドの摩耗に応じて前記ピストンを前進させるパッド摩耗追従機構とを備えた電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法であって、
    前記電動モータを前記ピストンが前進する正方向及び後退する逆方向に交互に回転させて前記パッド摩耗追従機構を反復作動させることにより、前記ピストンを進退動させながら所定の初期位置まで前進させることを特徴とする電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法。
  2. 前記電動モータを前記リミッタ機構の遊びを僅かに超える所定角度だけ正方向に回転させた後、逆方向に回転させて所定の初期位置戻し、これらの行程を前記ピストンが前記ブレーキパッドを押圧するまで反復することを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法。
  3. 前記電動モータを正方向に回転させて前記ピストンを前進させ、前記電動モータの回転に所定の負荷が生じたとき、その回転角を記憶し、前記電動モータを逆方向に回転させて所定の初期位置に戻し、前記記憶した回転角を所定の基準値と比較し、前記記憶した回転角が前記基準値以下になるまで、これらの行程を反復することを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法。
  4. 前記電動モータを正方向に回転させて前記ピストンを前進させ、前記電動モータの回転に所定の負荷が生じたとき、その回転角を記憶し、該記憶した回転角を所定の基準値と比較し、前記記憶した回転角が前記基準値を超えている場合、前記電動モータを逆方向に所定の回転角だけ回転させ、これらの行程を前記記憶した回転角が前記基準値以下になるまで反復し、前記記憶した回転角が前記基準以下になったとき、前記電動モータの回転位置を所定の初期位置に戻すことを特徴とする請求項1に記載の電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整方法。
  5. ディスクロータの両側に配置される一対のブレーキパッドと、
    該ブレーキパッドを押圧するピストンと、
    電動モータと、
    該電動モータの回転運動を直線運動に変換して前記ピストンを進退動させるボールランプ機構と、
    前記ボールランプ機構からの回転入力に対して、パッドクリアランスに相当する量の遊びを有し、前記回転入力をばね部材を介して伝達するリミッタ機構と、該リミッタ機構からの一方向の回転入力のみを伝達する一方向クラッチと、該一方向クラッチからの回転入力によって前記ピストンを前進させる調整機構とを含み、前記ブレーキパッドの摩耗に応じて前記ピストンを前進させるパッド摩耗追従機構とを備えた電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整装置であって、
    前記電動モータを前記ピストンが前進する正方向及び後退する逆方向に交互に回転させて前記パッド摩耗追従機構を反復作動させることにより、前記ピストンを進退動させながら所定の初期位置まで前進させることを特徴とする電動ディスクブレーキのパッドクリアランス初期調整装置。
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