JP3832221B2 - 構造用高耐食低熱膨張合金 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、LNG貯蔵タンクやその配管などの極低温用構造物に用いて好適な高耐食低熱膨張合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Ni系合金などの中で特定の成分比を有するものが非常に小さい線膨張係数を有することはインバー効果として広く知られている。その代表的なものとしては、36%Ni−64%Feや42%Ni−58%Fe(%は「質量%」、以下同じ)が挙げられる。これらは、その低熱膨張係数を活かして、シャドウマスクや航空機用部材の製造用鋳型、LNGタンカーのメンブレン材など温度変化による伸縮が問題となる部位に使用されている。
【0003】
上記のFe−Ni系低熱膨張合金は、本来構造用材料として開発されたものでないため、必ずしも耐食性に優れているとはいえず、例えば、野外に暴露しただけでも発錆する。
【0004】
耐候性の改善には、合金元素としてCrを添加することが有効なことはよく知られている(例えば、特開昭55−97453号公報、同58−11768号公報、特公昭64−8696号公報および特公平3−49979号公報)。
【0005】
しかし、多量のCr添加は、低い線膨張係数の確保を困難にする。これは、例えば、特公昭64−8696号公報に示される実施例から明らかである。すなわち、同公報の実施例中には、Cr含有量が0.12%以下の合金と5.0〜6.0%の合金が示されており、前者合金の室温(20℃)〜300℃における平均線膨張係数が4.3×10-6/℃〜5.0×10-6/℃であるのに対して、後者合金は7.5×10-6/℃〜7.8×10-6/℃であることから明らかである。そして、この7.5×10-6/℃〜7.8×10-6/℃という値は、JIS G3101に規定されるSS400などの汎用鋼の値(およそ10×10-6/℃)に比べて小さいとはいえない。
【0006】
また、社団法人 日本金属学会編 丸善(株)1995年発行の「改訂3版 金属データブック」の233頁には、100℃〜200℃における平均線膨張係数が±0.1×10-6/℃と小さいステンレスインバーと称されるCrを9.5%含むFe−Co合金が示されている。しかし、この合金は、高価なCoを54%も含むため、経済性に優れることが要求される構造用材料としては適さず、機能材としての使用にとどまっている。
【0007】
また、上記金属データブックの234頁には、5〜12%程度のCrを含むエリンバと称されるFe−Ni(−Co)合金が示されている。しかし、これら合金の線膨張係数は、いずれも、上記汎用鋼の70%程度であり、十分に低いとはいえない。
【0008】
このように、2%以上のCrを含むFe−Ni合金においては、耐食性の確保と低い線膨張係数の確保を両立させることは困難であるといえる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、2%以上のCrを含んで良好な耐食性を有するにもかかわらず、線膨張係数が十分に低い経済性に優れた構造用材料として用いて好適な高耐食低熱膨張合金を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(イ)〜(ニ)の構造用高耐食低熱膨張合金にある。
(イ)質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、N:0.04%以下を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(1)式と(2)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
【0011】
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni−870)/A≦5 ・・・ (1)
(2.7Cr+2.2Ni−70)/A≦13 ・・・・・・・ (2)
ただし、Aは下記の(9)式により求められる値とする。
【0012】
A=2+3.3C+7.2N ・・・・・・・・・・・ (9)
ここで、(1)式、(2)式および(9)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
(ロ)質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、N:0.04%以下を含み、さらにMo:0.1〜2%、Nb:0.05〜4%、Ti:0.05〜4%およびZr:0.05〜4%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(3)式と(4)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
【0013】
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni−870)/B≦5 ・・・ (3)
(2.7Cr+2.2Ni−70)/B≦13 ・・・・・・・ (4)
ただし、Bは下記の(10)式により求められる値とする。
【0014】
B=2+3.3C+7.2N+0.08(Mo+Nb+Zr)+0.15Ti ・・・ (10)
ここで、(3)式、(4)式および(10)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
(ハ)質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、Co:0.8〜30%、N:0.04%以下を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(5)式と(6)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
【0015】
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni+9Co−870)/A≦5 ・・・ (5)
(2.7Cr+2.2Ni−Co−70)/A≦13 ・・・・・・・ (6)
ただし、Aは下記の(9)式により求められる値とする。
【0016】
A=2+3.3C+7.2N ・・・・・・・・・・・ (9)
ここで、(5)式、(6)式および(9)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
(ニ)質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、Co:0.8〜30%、N:0.04%以下を含み、さらにMo:0.1〜2%、Nb:0.05〜4%、Ti:0.05〜4%およびZr:0.05〜4%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(7)式と(8)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
【0017】
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni+9Co−870)/B≦5 ・・・ (7)
(2.7Cr+2.2Ni−Co−70)/B≦13 ・・・・・・・ (8)
ただし、Bは下記の(10)式により求められる値とする。
【0018】
B=2+3.3C+7.2N+0.08(Mo+Nb+Zr)+0.15Ti ・・・ (10)
ここで、(7) 式、(8) 式および(10)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0019】
上記の本発明は、次に述べる知見に基づいて完成させた。すなわち、発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意実験検討を重ねた結果、以下のことが判明した。
【0020】
(a) 線膨張係数が小さい特定のFe−Ni合金にCrを添加すると線膨張係数が大きくなる。これは、Crの添加によって合金を構成する金属結合に寄与している外殻の電子の数が変わってしまうためであると考えることで線膨張係数の測定結果が整理できることがわかった。すなわち、合金を構成する金属結合に寄与している外殻の電子の数は、ある確率で分布しており必ずしも整数とは限らず、結合電子の濃度はそのため電子雲と称される。
【0021】
Crを含むFe、NiまたはFe、Ni、Coを主成分とする合金では、この電子の濃度は、それぞれの質量%の関数として表すことができ、Fe−Ni−Cr系合金は下記の(11)式、Fe−Ni−Co−Cr系合金は下記の(12)式で表される。この(11)式と(12)式自体は、外殻の電子濃度と磁化の大きさの関係を示すスレータポーリング曲線と呼ばれる線図の横軸から導出できる。この各式の値が特定の範囲で低い線膨張係数を示す。これは、「温度変化による磁化の変化」が大きくなり「温度変化にともなう金属原子の振動の変化」を相殺しうるようになるためと説明できる。
【0022】
(6Cr+8Fe+10Ni)/100 ・・・・・・ (11)
(6Cr+8Fe+10Ni+9Co)/100 ・・・ (12)
しかし、さらに実験を重ねた結果、これらは線膨張係数が小さくなるための必要条件にすぎないことがわかった。例えば、20%Cr−60%Ni−20%Fe合金の(11)式で求まる値は、線膨張係数が小さい36%Ni−64%Fe合金の(11)式で求まる値に近い値であるが、20%Cr−60%Ni−20%Fe合金の線膨張係数は小さくならない。
【0023】
(b) そこで、さらに詳細に調査検討をおこなった結果、さらに今ひとつの条件として、Fe−Ni−Cr系合金については下記の(13)式、Fe−Ni−Co−Cr系合金については下記の(14)式で求まる値が特定の範囲となることが、線膨張係数が小さくなるためには必要であることがわかった。
【0024】
(2.7Cr+2.2Ni)/100 ・・・・・ (13)
(2.7Cr+2.2Ni−Co)/100 ・・・ (14)
すなわち、Fe系合金には、多くの場合、キュリー点温度と呼ばれる磁気特性が急激に変化する温度が存在する。常温から低温での線膨張係数が小さくなるためには、キュリー点が高すぎると好ましくなく、上記(13)、(14)の各式によりキュリー点温度も好ましい範囲に制御できることがわかった。
【0025】
(c) さらには、線膨張係数は、機能材であるインバー合金等ほど低くする必要はなく、むしろ経済性に優れた耐食性構造材料として、線膨張係数の低減は最小限にとどめるとの観点から、上記(11)式と(13)式、および(12)式と(14)式の範囲を特定した。
【0026】
具体的には、想定される温度差△T(℃)で線膨張による歪みが降伏歪みを超えない範囲に線膨張係数が存在すれば、線膨張による負荷を吸収するための伸縮継手やU字ループ配管が不要となることから、線膨張係数αと降伏歪み(降伏応力σys(MPa)を縦弾性係数E(MPa)で除した値)が下記の(15)式を満たすことが構造用材料としての要件となる。
【0027】
α×△T<σys/E ・・・ (15)
現実に使用しうる低温用として液体窒素の沸点に近い−200℃と常温との差を考え、温度差△Tを250℃と想定し、かつ縦弾性係数Eはこれら成分系合金での実測値である2×105 MPaを用いた。また、降伏応力σysは成分の関数であり、実験によりその具体的な形を求めた。結果として、上記(9) 、(10)の両式が成分依存性を示す項となっている。
【0028】
(11)式と(13)式、および(12)式と(14)式の満たすべき範囲は、上記の(15)式により規定され、(15)式も成分の関数であることから、合金の化学組成に応じ、それぞれ、上記の(1)式と(2)式、(3)式と(4)式、(5)式と(6)式、(7)式と(8)式を満足させれば、耐食性、経済性および構造材料として十分な線膨張係数を兼ね備えた低熱膨張合金が得られることがわかった。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の高耐食低熱膨張合金を上記のように定めた理由について詳細に説明する。なお、以下において「%」は「質量%」を意味する。
【0030】
C:0.5%以下
Cは、マトリックスであるオーステナイト相を安定にする他、固溶強化により降伏応力σysを高める元素であり、上記の(9) 式と(10)式を構成する元素の一つとして、上記の(1) 式〜(8) 式にも好ましい影響(Cr、Ni、Coの含有量の許容範囲を拡大する)を与える。しかし、その含有量が0.5%を超えると、Cr炭化物の生成を招いて粒界腐食が発生しやすくなる。このため、C含有量は0.5%以下とする。好ましい上限は0.4%、より好ましい上限は0.3%である。
【0031】
なお、C含有量は不純物程度と少なくてもよいが、あまり少なくすると、上記の(9) 式と(10)式からわかるように、(1) 式〜(8) 式の範囲が狭くなり、その分他の合金元素をより多くする必要があり、なかでも後述するCoを含むFe−Ni−Co−Cr系合金の場合、高価なCoの添加量を多くする必要が生じ、構造用材料としての経済性が損なわれる。このため、Fe−Ni−Co−Cr系合金のC含有量は0.01%以上、より好ましくは0.05%以上とするのが望ましい。
【0032】
Si: 0.6%以下
Siは、脱酸剤として添加されるが、その含有量が0.6%を超えると、低融点共晶物の生成を招いて合金製造時に割れが発生しやすくなる。このため、Si含有量は0.6%以下とする。好ましい上限は0.4%、より好ましい上限は0.3%である。
【0033】
Mn:1.5%以下
Mnは、上記のSiと同様に、脱酸剤として添加されるが、その含有量が1.5%を超えると、靱性および耐食性の低下を招く。このため、Mn含有量は1.5%以下とする。好ましい上限は0.6%、より好ましい上限は0.3%で、この場合には靭性が向上する。
【0034】
P:0.02%以下
Pは不純物であり、過剰なPは製造時の熱間割れ感受性を高めるため0.02%以下とする。なお、P含有量は少なければ少ないほどよいが、極度の低減は製造コストの上昇を招くので、低減するとしても0.001%程度の低減に留めるのがよい。
【0035】
S:0.01%以下
Sは不純物であり、過剰なSは、上記のPと同様に、製造時の熱間割れ感受性を高めるため0.01%以下とする。なお、S含有量は少なければ少ないほどよいが、極度の低減は製造コストの上昇を招くので、低減するとしても0.0005%程度の低減に留めるのがよい。
【0036】
Cr:2〜25%
Crは、耐食性を確保するために不可欠の元素であり、最低でも2%以上必要である。なお、Cr含有量は、使用環境に応じて調整され、厳しい腐食環境で使用される場合には当然多くされる。しかし、過剰なCrは線膨張係数を著しく大きくする。特に、後述するCoを含むFe−Ni−Co−Cr系合金の場合、Crによる線膨張特性の劣化を避けるためには高価なCoの多量添加を余儀なくされ、構造用材料としての経済性が損なわれる。このため、Cr含有量は2〜25%とする。好まし範囲は2〜20%、より好ましい範囲は2〜15%である。
【0037】
Ni:10〜50%
Niは、完全オーステナイト組織とするために必要な元素であり、最低でも10%以上必要である。しかし、過剰なNiは線膨張係数を大きくし、本発明の目的を損なう。このため、Ni含有量は10〜50%とした。好ましい範囲は20〜50%、より好ましい範囲は25〜45%である。
【0038】
N:0.04%以下
Nは、マトリックスであるオーステナイト相を安定にする他、固溶強化により降伏応力σysを高める元素であり、上記の(9) 、(10)式を構成する元素の一つとして(1) 式〜(8) 式にも好ましい影響(Cr、Ni、Coの含有量の許容範囲を拡大する)を与える。しかし、その含有量が0.04%を超えると、Cr窒化物の生成を招いて粒界腐食が発生しやすくなる。このため、N含有量は0.04%以下とする。好ましい上限は0.02%、より好ましい上限は0.01%である。
【0039】
Co:
Coは、添加しなくてもよい。添加すれば、上記のNiと同様に、組織を完全オーステナイト組織にする他、線膨張係数を低くする作用がある。このため、これらの効果、なかでも耐食性向上のために上記のCrを多量添加した際により高くなる線膨張係数をできるだけ低くしたい場合に添加することができ、その効果は0.8%以上で顕著になる。しかし、Coは高価な元素で、過剰な添加は構造用材料としての経済性を損なう。したがって、添加する場合のCo含有量は0.8〜30%とするのがよい。好ましい範囲は0.8〜25%、より好ましい範囲は0.8〜15%である。
【0040】
Mo、Nb、Ti、Zr:
これらの元素は添加しなくてもよい。添加すれば、いずれの元素も、固溶強化により降伏応力σysを高め、上記の(10)式を構成する元素の一つとして(3) 式と(4) 式、および(7) 式と(8) 式に好ましい影響(Cr、Ni、Coの含有量の許容範囲を拡大する)を与える。このため、その効果を得たい場合には、いずれか1種を単独または2種以上を複合で添加することができ、その効果は、Moでは0.1%以上、Nb、TiおよびZrでは、いずれも0.05%以上で顕著になる。しかし、2%を超える過剰なMo、4%超える過剰なNb、TiおよびZrは、いずれも線膨張係数の増大を招く。したがって、添加する場合のこれら元素の含有量は、Moについては0.1〜2%、Nb、TiおよびZrについては、いずれも0.05〜4%とするのがよい。なお、Moについては、耐食性を向上させる効果もある。
【0041】
本発明の合金は、合金の化学組成に応じ、それぞれ、上記の(1) 式と(2) 式、(3) 式と(4) 式、(5) 式と(6) 式、(7) 式と(8) 式を同時に満足する必要があることは前述した通りである。すなわち、合金の化学組成に応じ、それぞれ、上記の(1) 式と(2) 式、(3) 式と(4) 式、(5) 式と(6) 式、(7) 式と(8) を同時に満たさない場合には、構造用材料として必要な所望の低膨張特性が確保できない。このことは、後述する実施例の結果からも明らかである。
【0042】
以上に説明した本発明の高耐食低熱膨張合金の残部は実質的にFeであるが、前述した元素以外に、例えばCu、Al、Mg、Ca等の元素が不純物として合計で0.5%までであれば含まれていてもよい。
【0043】
また、その合金は、常法に従って溶製、鋳造し、熱間圧延等の方法を用いて所定の製品に成形すればよく、その製造条件にこの種の汎用合金以上の特別な制約は一切ない。
【0044】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する20種類の合金を溶製し、得られた鋳片を熱間加工して厚さ10mmの板材とし、各板材から、図1に示す形状寸法の引張試験片1を2個づつ採取した。
【0045】
各板材から採取した2個の引張試験片のうちの1つは、そのまま液体窒素(温度:−196℃)中に30分間浸漬した後、室温での引張試験に供して伸び量を調べた(試験1)。
【0046】
他の1つは、図2に示す形状寸法の鋼製の枠材2の開口部2aの中央部に、枠材2とともに54℃に予熱して図に示すように溶接固定した。その際、試験片1の外側には、ステンレス鋼製のガス導管3が接続された厚さ5mmの2分割型の蓋材4によってその両端を気密シールするようにした外径38mm、肉厚3mm、長さ190mmのステンレス鋼管5を配置した。次いで、図示は省略するが、枠材2にリボンヒータを巻き付けてその温度を54℃に保ちながら、ガス導管3を用いてステンレス鋼管5の管内に液体窒素を循環させて試験片1を−196℃に冷却して30分間保持した後に枠材2から試験片1を取り出し、室温での引張試験に供して伸び量を調べた(試験2)。
【0047】
そして、試験1における伸び量El1 に対する試験2における伸び量El2 の比(El2 /El1 )を調べ、その比(El2 /El1 )が95%以上のものを熱膨張特性が良好「○」、95%未満のものを熱膨張特性が不芳「×」として評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0048】
ここで、試験2は、枠材2で拘束された状態で54℃から−196℃にまで冷却された際の熱歪みによる塑性変形の有無を、引張試験後の伸び量El2 により評価する試験であり、拘束冷却時に塑性変形が生じていれば、その伸び量El2 は試験1によった場合の伸び量El1 に比べて小さくなる。
【0049】
一方、試験2による伸び量El2 が試験1によった場合の伸び量El1 と等しければ、試験2の拘束冷却時に塑性変形が生じていないことになり、その線膨張係数は降伏強さの関係が前述の(15)式を満足するほどに十分に小さいといえる。
【0050】
したがって、構造用材料として使用する際には、温度による歪み吸収対策が不必要となり、冷却時の拘束の有無が、材料の伸び値に与える影響の差違により、本発明の目的とする効果が得られているか否かを確認できる。
【0051】
表1に示す結果から明らかなように、本発明で規定する要件を満たすNo. 1〜15の合金は、両端を完全に拘束して250℃の温度差の冷却サイクルを受けても塑性変形による伸び値の低下がいずれも95%以上と小さく熱膨張特性が良好で、U字ループや伸縮継手のような温度差による歪みを吸収する構造を必要とせずに構造用材料として用いることができることがわかる。
【0052】
これに対して、本発明で規定する要件を満たさないNo. 16〜20の合金は、Crの添加にともなうNi、Co量の適正化とC、N、Mo、Nb、Zr、Tiによる強度調整が不十分であるため、両端を完全に拘束して250℃の温度差の冷却サイクルを受けた際に降伏歪み以上の塑性変形が生じて伸び値がいずれも95%未満にまで低下し、熱膨張特性が不芳で、一般の材料と同様に、U字ループや伸縮継手のような温度差による歪みを吸収する構造を必要とし、構造用材料として用いることができないことがわかる。
【0053】
具体的に説明すると、No. 16の合金は本発明で規定する(2) 式、No. 17および20の合金は本発明で規定する(5) 式を満たすものの、(1) 式または(6) 式を満たさず、Cr添加にともなうNi、Co量の調整が不十分なために線膨張係数が十分に小さくならなかった。また、No. 18の合金は本発明で規定する(1) 式は満たすものの(2) 式を満たさず、No. 19の合金は本発明で規定する(5) 式は満たすものの(6) 式を満たさず、Cr添加にともなうNi、Co量の調整が不十分なために線膨張係数が十分に小さくならなかった。
【0054】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において使用した試験片の形状、寸法を示す模式図である。
【図2】実施例における拘束引張試験方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
1:試験片、
2:枠材、
2a:開口部、
3:ガス導管、
4:蓋材
5:ステンレス鋼管。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、N:0.04%以下を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(1)式と(2)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni−870)/A≦5 ・・・ (1)
(2.7Cr+2.2Ni−70)/A≦13 ・・・・・・・ (2)
ただし、Aは下記の(9)式により求められる値とする。
A=2+3.3C+7.2N ・・・・・・・・・・・ (9)
ここで、(1)式、(2)式および(9)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。 - 質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、N:0.04%以下を含み、さらにMo:0.1〜2%、Nb:0.05〜4%、Ti:0.05〜4%およびZr:0.05〜4%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(3)式と(4)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni−870)/B≦5 ・・・ (3)
(2.7Cr+2.2Ni−70)/B≦13 ・・・・・・・ (4)
ただし、Bは下記の(10)式により求められる値とする。
B=2+3.3C+7.2N+0.08(Mo+Nb+Zr)+0.15Ti ・・・ (10)
ここで、(3)式、(4)式および(10)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。 - 質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、Co:0.8〜30%、N:0.04%以下を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(5)式と(6)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni+9Co−870)/A≦5 ・・・ (5)
(2.7Cr+2.2Ni−Co−70)/A≦13 ・・・・・・・ (6)
ただし、Aは下記の(9)式により求められる値とする。
A=2+3.3C+7.2N ・・・・・・・・・・・ (9)
ここで、(5)式、(6)式および(9)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。 - 質量%で、C:0.5%以下、Si:0.6%以下、Mn:1.5%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Cr:2〜25%、Ni:10〜50%、Co:0.8〜30%、N:0.04%以下を含み、さらにMo:0.1〜2%、Nb:0.05〜4%、Ti:0.05〜4%およびZr:0.05〜4%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み、残部はFe及び不純物からなり、かつ下記の(7)式と(8)式を満足する構造用高耐食低熱膨張合金。
−10≦(6Cr+8Fe+10Ni+9Co−870)/B≦5 ・・・ (7)
(2.7Cr+2.2Ni−Co−70)/B≦13 ・・・・・・・ (8)
ただし、Bは下記の(10)式により求められる値とする。
B=2+3.3C+7.2N+0.08(Mo+Nb+Zr)+0.15Ti ・・・ (10)
ここで、(7)式、(8)式および(10)式中の元素記号は、合金中に含まれる各元素の含有量(質量%)を意味する。
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