JP3828453B2 - 燃料電池の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、正・負極間にイオン交換膜を配置し、負極の触媒に水素を接触させるとともに正極の触媒に酸素を接触させることにより発電する燃料電池の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図8は従来の燃料電池を説明する説明図である。燃料電池100は、負極層(水素極)101と正極層(酸素極)102との間にイオン交換膜103を配置し、負極層101に含む触媒に水素分子(H2)を接触させるとともに、正極層102に含む触媒に酸素分子(O2)を接触させることにより、電子e−を矢印の如く流すことにより、電流を発生させるものである。電流を発生させる際に、水素分子(H2)と酸素分子(O2)とから生成水(H2O)を得る。
この燃料電池10の負極層101、正極層102、イオン交換膜103を主要構成部材とする燃料電池用電極を次図で詳しく説明する。
【0003】
図9は従来の燃料電池を構成する燃料電池用電極を示す説明図である。
燃料電池用電極は、一対の拡散層104,105の内側にそれぞれバインダー層106及びバインダー層107を備え、これらバインダー層106及びバインダー層107の内側にそれぞれ負極層101及び正極層102を備え、これら負極層101及び正極層102の間にイオン交換膜103を備える。
【0004】
この燃料電池用電極を製造する際には、先ず拡散層104にバインダー層106用の溶液を塗布するとともに、拡散層105にバインダー層107用の溶液を塗布し、塗布したバインダー層106,107を焼成することによりバインダー層106,107を固化する。
【0005】
次に、固化したバインダー層106に負極層101の溶液を塗布するとともに、固化したバインダー層107に正極層102の溶液を塗布し、塗布した負・正極層101,102を乾燥することにより負・正極層101,102を固化する。
次いで、固化した負極層101にシート状のイオン交換膜103を載せ、続いてイオン交換膜103に正極層102が固化された拡散層105を載せて7層の多層構造を形成する。
次に、この多層構造を矢印の如く加熱圧着することにより燃料電池用電極を形成する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、燃料電池用電極はイオン交換膜103としてシートを使用しており、加えてバインダー層106、負極層101、正極層102、バインダー層107のそれぞれの層を固化した状態で加熱圧着するので、それぞれの層の境界に密着不良部分が発生する虞がある。
燃料電池用電極の各層に密着不良部分が発生すると、電流を効率よく発生することが難しくなり、製造ラインの検査の段階において、これらの燃料電池用電極が廃棄処分や修復処分になり、そのことが生産性を高める妨げになっている。
【0007】
さらに、燃料電池用電極のイオン交換膜103としてシートを使用しているので、燃料電池用電極を加熱圧着の際に、イオン交換膜103を加熱状態で加圧することになり、イオン交換膜103の性能が低下する虞がある。これにより、検査の段階で廃棄処分や修復処分の対象となる部品が一層多くなり、そのことが生産性を高める妨げになっている。
【0008】
加えて、イオン交換膜103としてシートを使用しているので、イオン交換膜103のハンドリング性(取扱い性)を考慮するとイオン交換膜103をある程度厚くする必要がある。このため、燃料電池用電極を薄くすることが難しく、そのことが燃料電池用電極の小型化を図る妨げになる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、それぞれの層の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができ、さらにイオン交換膜の性能低下を防ぐことができ、加えてイオン交換膜を薄くすることができる燃料電池の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、それぞれの層間に密着不良部分が発生するのは、先の塗膜が固化した後に、次の溶液を塗布して、この溶液が先の塗膜に滲み込まず、結果として密着不良が発生することが、その原因であることを突き止めた。
そこで、先の塗膜が乾かないうちに、次の溶液を重ねたところ、溶液が先の塗膜に滲み込み、密着性が著しく高まることが分かった。
同様に、シート状のイオン交換膜に溶液を塗布した場合にも、溶液がシート状のイオン交換膜に滲み込まず、結果として密着不良が発生することが、その原因であることを突き止めた。
【0011】
そこで、請求項1は、カーボンペーパーの上に、撥水性を備えている樹脂とカーボンとを有した、バインダーを塗布してバインダー層を形成することで、これらカーボンペーパー及びバインダー層で一方の拡散層を形成する工程と、前記バインダー層が未乾燥のうちに、一方の拡散層の上面を押圧することで拡散層の上面を平坦に形成する工程と、この平坦な拡散層の上面に燃料電池を構成する正・負いずれか一方の電極用の溶液であって、炭素の表面に白金又は白金−ルテニウム合金が担持された触媒を混合した溶液を、塗布して一方の電極層を形成する工程と、この一方の電極層が未乾燥のうちに、この電極層上にイオン交換膜用の溶液を塗布してイオン交換膜を形成する工程と、このイオン交換膜が未乾燥のうちに、このイオン交換膜上に正・負いずれか他方の電極用の溶液であって、炭素の表面に白金−ルテニウム合金又は白金が担持された触媒を混合した溶液を、塗布して他方の電極層を形成する工程と、この他方の電極層の上面に他方の拡散層を形成する工程と、これら一方の拡散層上に形成された一方の電極層と、一方の電極層上に形成されたイオン交換膜と、イオン交換膜上に形成されるとともに上に他方の拡散層が形成された他方の電極層とを、荷重をかけないで、まとめて一緒に乾燥することにより各々層を固化する工程と、からなる燃料電池の製造方法である。
【0012】
イオン交換膜に溶液を採用し、電極用の溶液及びイオン交換膜用の溶液をそれぞれ未乾燥の状態で塗布すれば、境界で混合が発生する。
これにより、一対の電極及びイオン交換膜の各層の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができるので、イオン交換膜における反応効率を良好に保つことができる。
【0013】
ここで、イオン交換膜にシートを使用した場合、シート状イオン交換膜のハンドリング性を好適に保つためにはイオン交換膜をある程度厚くする必要がある。このため、燃料電池用電極を薄くすることが難しく、そのことが燃料電池用電極の小型化を図る妨げになる。
【0014】
そこで、請求項1においてイオン交換膜を溶液とし、イオン交換膜を溶液の状態でハンドリング(取り扱うことが)できるようにした。イオン交換膜を溶液とすることで、ハンドリング(取扱い)の際にイオン交換膜の厚さを規制する必要はない。このため、イオン交換膜を薄くすることが可能になり、燃料電池用電極を薄くして小型化を図ることができる。
【0015】
ところで、一方の拡散層を形成するシートとしてカーボンペーパーを使用するが、カーボンペーパーはバインダーを塗布する面が一般的に凹凸面であり、この凹凸面にバインダーの溶液をスクリーン印刷により塗布すると、カーボンペーパーの凹凸面がバインダーの上面に転写される。
さらに、バインダーの上面に負極層の溶液を塗布することでバインダーの凹凸面が負極層の上面に転写される。
また、負極層の上面が凹凸面であるため、負極層上のイオン交換膜が負極層の凹凸面から流出する虞がある。
このため、イオン交換膜上に正極層の溶液を塗布した場合に、負極層の凸部に正極層が短絡する虞がある。
【0016】
そこで、請求項1において、拡散層が未乾燥のうちに、拡散層の上面を押圧して拡散層の上面を平坦に形成することにした。拡散層の上面を平坦にすることで、拡散層上に負極層を平坦に塗布することができ、さらに負極層にイオン交換膜を平坦に塗布することができる。このように、イオン交換膜を平坦に形成することができるので、イオン交換膜上に塗布した正極層と負極層とが短絡することを防止できる。
【0017】
また、請求項2において、一方の拡散層は、バインダーをスプレーで塗布することを特徴とする。
【0018】
拡散層を構成するカーボンペーパーの上面は凹凸面なので、例えばスクリーン印刷でカーボンペーパーにバインダーを塗布した場合には、カーボンペーパーの凹面にバインダーを塗布することは難しい。
これにより、カーボンペーパーの凹部に、バインダーを塗布することが難しく、カーボンペーパーの凹部にバインダーを浸透させることができない虞がある。このため、カーボンペーパーの撥水効果を良好に確保することは難しい。
【0019】
ここで、燃料電池を使用して電流を発生させる際に、水素分子(H2)と酸素分子(O2)とが反応して燃料電池内に生成水(H2O)を生成する。この生成水は拡散層(カーボンペーパー)を透過させて燃料電池の外部に排出する。
このため、カーボンペーパーの撥水効果を良好に確保することができないと、水素分子と酸素分子との反応で生成した生成水を良好に排出することができない虞がある。
【0020】
生成水を効率よく排出することができないと、水素や酸素の反応ガスを好適に供給することが妨げられるので、濃度過電圧が高くなり、燃料電池の発電性能を良好に保つことが難しくなる。
なお、「濃度過電圧」とは、電極における反応物質及び反応生成物の補給及び除去の速度が遅く、電極の反応が妨害されるときに現れる電圧低下をいう。すなわち、濃度過電圧が高くなるということは電圧低下量が増すということである。
【0021】
そこで、請求項2において、一方の拡散層は、バインダーをスプレーで塗布することにした。バインダーをスプレーで塗布することで、カーボンペーパーの凹部にバインダーを塗布することができる。これにより、カーボンペーパー全域にバインダーを塗布して撥水効果を得ることができるので、水素分子と酸素分子との反応で生成した生成水を良好に排出することができる。
また、請求項3において、一方の拡散層は、バインダーをインクジェット方式で塗布することを特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る燃料電池用電極(第1実施形態)を備えた燃料電池を示す分解斜視図である。
燃料電池ユニット10は複数(2個)の燃料電池11,11で構成したものである。燃料電池11は、燃料電池用電極12を構成するシート状の負極側拡散層13の外側に負極側流路基板31を配置し、燃料電池用電極12を構成するシート状の正極側拡散層14の外側に正極側流路基板34を配置したものである。
【0023】
負極側拡散層13に負極側流路基板31を積層することで、負極側流路基板31の流路溝31aを負極側拡散層13で覆うことにより、水素ガス流路32を形成する。また、正極側拡散層14に正極側流路基板34を積層することで、正極側流路基板34の流路溝34aを正極側拡散層14で覆うことにより、酸素ガス流路35を形成する。
【0024】
燃料電池用電極12は、負極側拡散層13及び正極側拡散層14の内側にそれぞれバインダーを介して一方の電極層としての負極層17及び他方の電極層としての正極層18を備え、これら負極層17及び正極層18の間にイオン交換膜19を備える。
このように、構成した燃料電池11をセパレータ36を介して複数個(図1では2個のみを示す)備えることで、燃料電池ユニット10を構成する。
なお、燃料電池用電極12については図2で詳しく説明する。
【0025】
燃料電池ユニット10によれば、水素ガス流路32に水素ガスを供給することで、負極層17に含む触媒に水素分子(H2)を吸着させるとともに、酸素ガス流路35に酸素ガスを供給することで、正極18に含む触媒に酸素分子(O2)を吸着させる。これにより、電子(e−)を矢印の如く流して電流を発生させることができる。
なお、電流を発生させる際には、水素分子(H2)と酸素分子(O2)とから生成水(H2O)が発生する。
【0026】
図2は本発明に係る燃料電池用電極(第1実施形態)を示す説明図である。
燃料電池用電極12は、負極側拡散層13及び正極側拡散層14の内側にそれぞれ負極層17及び正極層18を備え、これら負極層17及び正極層18の間にイオン交換膜19を備える。
負極側拡散層13は、負極側のカーボンペーパー13a及び負極側のバインダー層15からなるシート材である。
また、正極側拡散層14は、正極側のカーボンペーパー14a及び正極側のバインダー層16からなるシート材である。
【0027】
負極側のバインダー層15は、カーボン(一例として、粒状のもの)15aと、撥水性に優れた樹脂(一例として、フッ素樹脂)15bとを有し、負極層17に隣接する上面15cを平坦に形成した層である。
また、正極側のバインダー層16は、カーボン(一例として、粒状のもの)16aと、撥水性に優れた樹脂(一例として、フッ素樹脂)16bとを有する。
【0028】
負極層17は、負極用の溶液に触媒21を混合し、溶液を塗布後に乾燥することで固化したものである。負極層17の触媒21は、カーボン22の上面に触媒として(白金−ルテニウム合金)23を担持したものであり、(白金−ルテニウム合金)23に水素分子(H2)を吸着させるものである。
【0029】
正極層18は、正極用の溶液に触媒24を混合し、溶液を塗布後に乾燥することで固化したものである。正極層18の触媒24は、カーボン25の上面に触媒として白金26を担持したものであり、白金26に酸素分子(O2)を吸着させるものである。
【0030】
イオン交換膜19は、負極層17及び正極層18間に溶液の状態で塗布した後、負極層17及び正極層18とともに一緒に乾燥することにより負極層17及び正極層18と一体に個化したものである。
【0031】
次に、燃料電池用電極12の製造方法を図3〜図6に基づいて説明する。
図3(a),(b)は本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第1工程説明図である。
(a)において、シート状の負極側拡散層13を配置する。すなわち、負極側拡散層13のカーボンペーパー13aをセットした後、カーボンペーパー13aの上方でスプレー51を矢印1(丸数字1)の如く移動しながら、スプレー51の噴射口52からバインダー(すなわち、カーボン15a及びフッ素樹脂15b)を噴射する。
【0032】
ここで、カーボンペーパー13aは上面が凹凸面に形成されているが、スプレー51を用いることで、カーボン15a及びフッ素樹脂15bを噴霧状にしてカーボンペーパー13aの上面に塗布することができるので、カーボンペーパー13aの凹部にもカーボン15a及びフッ素樹脂15bを確実に塗布することができる。
これにより、カーボンペーパー13aの全域にフッ素樹脂15bを浸透させて、カーボンペーパー全域に対して撥水効果を得ることができる。
【0033】
(b)において、バインダー層15が未乾燥のうちに、バインダー層15の上面15cに沿ってローラー54を矢印2(丸数字2)の如く回転させながら、ローラー54を矢印3(丸数字3)の如く移動する。これにより、バインダー層15の上面15cを平坦にすることができる。
【0034】
図4(a),(b)は本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第2工程説明図である。
(a)において、上面を平坦にしたバインダー層15上に、バインダー層15が未乾燥のうちに、負極層17の溶液を塗布して負極層17を形成する。
ここで、バインダー層15の上面15cを平坦にして、平坦なバインダー層15上15cに負極層17の溶液を塗布して負極層17を形成したので、負極層17の上面を平坦にすることができる。
【0035】
(b)において、負極層17が未乾燥のうちに、イオン交換膜19の溶液を塗布することにより、イオン交換膜19を形成する。
ここで、負極層17の上面を平坦にして、平坦な負極層17上にイオン交換膜19の溶液を塗布してイオン交換膜19を形成したので、イオン交換膜19の上面を平坦にすることができる。
【0036】
図5(a),(b)は本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第3工程説明図である。
(a)において、平坦な上面のイオン交換膜19上に、イオン交換膜19が未乾燥のうちに、正極層18の溶液を塗布して正極層18を形成する。
ここで、イオン交換膜19の上面を平坦にして、平坦なイオン交換膜19上に正極層18の溶液を塗布して正極層18を形成したので、正極層18の上面を平坦にすることができる。
このように、イオン交換膜19を平坦に形成することができるので、イオン交換膜19上に塗布した正極層18と、イオン交換膜19下に塗布した負極層17とを確実に離すことができ、正極層18と負極層17との短絡を防止できる。
【0037】
(b)において、正極層18上に、正極層18が未乾燥のうちに、正極側のバインダー層16のバインダー(すなわち、カーボン16a及びフッ素樹脂16b)を塗布して正極側のバインダー層16を形成する。
【0038】
図6(a),(b)は本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第4工程説明図である。
(a)において、正極側のバインダー層16に正極側のカーボンペーパー14aを載せることにより、バインダー層16及びカーボンペーパー14aでシート状の正極側拡散層14を形成する。
【0039】
次に、負極層17、イオン交換膜19及び正極層18が未乾燥のうちに、負極層17、イオン交換膜19及び正極層18に荷重をかけないで、負極層17、イオン交換膜19及び正極層18を一緒に乾燥する。
【0040】
(b)において、負極層17、イオン交換膜19及び正極層18を固化することで、負極層17、イオン交換膜19及び正極層18を一体に積層する。
これにより、燃料電池用電極12の製造工程が完了する。
【0041】
このように、燃料電池用電極12の製造方法によれば、イオン交換膜19に溶液を採用し、負極層17が未乾燥のうちに、負極層17上にイオン交換膜19用の溶液を塗布することにより、負極層17とイオン交換膜19との境界で互いの溶液を効果的に混合させることができる。
また、イオン交換膜19が未乾燥のうちに、イオン交換膜19上に正極層18用の溶液を塗布することにより、イオン交換膜19と正極層18との境界で互いの溶液を効果的に混合させることができる。
【0042】
そして、これらの未乾燥の正・負極層18,17及び未乾燥のイオン交換膜19をまとめて一緒に乾燥することで、正・負極層18,17及び未乾燥のイオン交換膜19の境界を効果的に混合させた状態で固化することができる。
よって、正・負極層18,17及びイオン交換膜19の各層の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができるので、イオン交換膜19における反応効率を良好に保つことができる。
これにより、燃料電池用電極12における反応効率を良好に保つことができる。
【0043】
加えて、イオン交換膜19を溶液とすることで、イオン交換膜19を溶液の状態で取扱う(ハンドリングする)ことができるので、取扱性の点(ハンドリング性の観点)からイオン交換膜19の厚さを規制する必要はない。このため、イオン交換膜19を薄くすることが可能になり、燃料電池用電極12を薄くすることができる。
【0044】
次に、第2実施形態について説明する。
図7(a),(b)は本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第2実施形態)を示す工程説明図である。
(a)において、第1実施形態と同様に、負極側拡散層13のカーボンペーパー13aをセットした後、カーボンペーパー13aの上方でスプレー51を矢印1(丸数字1)の如く移動しながら、スプレー51の噴射口52からバインダー(すなわち、カーボン15a及びフッ素樹脂15b)を噴射する。
【0045】
ここで、スプレー51を用いることで、カーボンペーパー13aの凹部にもカーボン15a及びフッ素樹脂15bを確実に塗布することができる。これにより、カーボンペーパー13aの全域にフッ素樹脂15bを浸透させて、カーボンペーパー全域に対して撥水効果を得ることができる。
【0046】
(b)において、バインダー層15が未乾燥のうちに、バインダー層15の上面15cに押圧プレート56を矢印4(丸数字4)の如く押し付けることにより、バインダー層15の上面15cを平坦にすることができる。
バインダー層15の上面15cを平坦にする手段は、ローラ54(図3に示す)や押圧プレート56に限らないで、その他の手段を使用することも可能である。
【0047】
なお、前記実施形態では、負極層17を下方に配置するとともに正極層18を上方に配置した例について説明したが、負極層17を上方に配置するとともに正極層18を下方に配置しても同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、前記実施形態では、負極側のカーボンペーパー13aの上面にバインダー(すなわち、カーボン15a及びフッ素樹脂15b)を塗布する際に、スプレー51でバインダー(すなわち、カーボン15a及びフッ素樹脂15b)を噴霧状にして塗布する例について説明したが、スプレーに代えてインクジェット方式などのその他の噴霧塗布方式を採用することも可能である。
【0049】
ここで、スプレー及びインクジェットは溶液を噴霧状に塗布する点で同じである。スプレーは噴霧範囲が比較的広く塗布時間を短くできるが、未塗布部分を確保するためにマスキング処理が必要になる。一般に、マスキング処理部に付着した溶液は回収が難しい。
【0050】
一方、インクジェットは塗布範囲を正確に絞り込むことができるので、未塗布部分にマスキング処理を施す必要がなく、溶液を有効に使用することができる。但し、インクジェットは、塗布範囲が狭いのでスプレーと比較して塗布スピードが劣る。
【0051】
さらに、前記実施形態では、負極側のバインダー層15や正極側のバインダー層16に、撥水性に優れたフッ素樹脂を含ませた例について説明したが、バインダー層を構成する樹脂はフッ素樹脂に限定するものではなく、要は撥水性を備えた樹脂であればよい。
【0052】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1は、イオン交換膜に溶液を採用し、電極用の溶液及びイオン交換膜用の溶液をそれぞれ未乾の状態で塗布すれば、境界で混合が発生する。これにより、一対の電極及びイオン交換膜の各層の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができるので、イオン交換膜における反応効率を良好に保つことができる。
この結果、燃料電池用電極の品質を安定させることができるので、生産性を高めることができる。
【0053】
加えて、イオン交換膜を溶液とすることで、イオン交換膜を溶液の状態でハンドリングすることができるので、ハンドリング性の観点からイオン交換膜の厚さを規制する必要はない。このため、イオン交換膜を薄くすることが可能になり、燃料電池用電極を薄くすることができるので、燃料電池の小型化を図ることができる。
【0054】
また、拡散層が未乾燥のうちに、拡散層の上面を押圧して拡散層の上面を平坦に形成することにした。拡散層の上面を平坦にすることで、拡散層上に負極層を平坦に塗布することができ、さらに負極層にイオン交換膜を平坦に塗布することができる。このように、イオン交換膜を平坦に形成することができるので、イオン交換膜上に塗布した正極層と負極層とが短絡することを防止できる。
【0055】
請求項2は、撥水性を有する樹脂を含んだ溶液をスプレーで塗布することで、カーボンペーパーの凹部に撥水性を有する樹脂を塗布することができる。これにより、カーボンペーパー全域に撥水性を有する樹脂を塗布して撥水効果を得ることができるので、水素分子と酸素分子との反応で生成した生成水を良好に排出することができる。
【0056】
請求項3は、一方の拡散層が、バインダーをインクジェット方式で塗布するものである。インクジェットは塗布範囲を正確に絞り込むことができるので、未塗布部分にマスキング処理を施す必要がなく、溶液を有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る燃料電池用電極(第1実施形態)を備えた燃料電池を示す分解斜視図
【図2】 本発明に係る燃料電池用電極(第1実施形態)を示す説明図
【図3】 本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第1工程説明図
【図4】 本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第2工程説明図
【図5】 本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第3工程説明図
【図6】 本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第1実施形態)を示す第4工程説明図
【図7】 本発明に係る燃料電池用電極の製造方法(第2実施形態)を示す工程説明図
【図8】 従来の燃料電池を説明する説明図
【図9】 従来の燃料電池を構成する燃料電池用電極を示す説明図
【符号の説明】
11…燃料電池、12…燃料電池用電極、13…負極側拡散層(一方の拡散層)、13a,14a…カーボンペーパー(シート)、14…正極側拡散層(他押の拡散層)、15,16…バインダー層、15a,16a…カーボン、15b,16b…撥水性の樹脂、15c…負極側拡散層の上面(一方の拡散層の上面)、17…負極層(一方の電極層)、18…正極層(他方の電極層)、19…イオン交換膜、54…ローラー、56…押圧プレート。
Claims (3)
- カーボンペーパーの上に、撥水性を備えている樹脂とカーボンとを有した、バインダーを塗布してバインダー層を形成することで、これらカーボンペーパー及びバインダー層で一方の拡散層を形成する工程と、
前記バインダー層が未乾燥のうちに、一方の拡散層の上面を押圧することで拡散層の上面を平坦に形成する工程と、
この平坦な拡散層の上面に燃料電池を構成する正・負いずれか一方の電極用の溶液であって、炭素の表面に白金又は白金−ルテニウム合金が担持された触媒を混合した溶液を、塗布して一方の電極層を形成する工程と、
この一方の電極層が未乾燥のうちに、この電極層上にイオン交換膜用の溶液を塗布してイオン交換膜を形成する工程と、
このイオン交換膜が未乾燥のうちに、このイオン交換膜上に正・負いずれか他方の電極用の溶液であって、炭素の表面に白金−ルテニウム合金又は白金が担持された触媒を混合した溶液を、塗布して他方の電極層を形成する工程と、
この他方の電極層の上面に他方の拡散層を形成する工程と、
これら一方の拡散層上に形成された一方の電極層と、一方の電極層上に形成されたイオン交換膜と、イオン交換膜上に形成されるとともに上に他方の拡散層が形成された他方の電極層とを、荷重をかけないで、まとめて一緒に乾燥することにより各々層を固化する工程と、からなる燃料電池の製造方法。 - 前記一方の拡散層は、前記バインダーをスプレーで塗布することを特徴とする請求項1記載の燃料電池の製造方法。
- 前記一方の拡散層は、前記バインダーをインクジェット方式で塗布することを特徴とする請求項1記載の燃料電池の製造方法。
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