JP3943442B2 - 燃料電池用膜−電極構造体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、正・負極間にイオン交換膜を配置し、負極の触媒に水素を接触させるとともに正極の触媒に酸素を接触させることにより発電する燃料電池用膜−電極構造体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図6は従来の燃料電池を説明する説明図である。燃料電池100は、負極層(水素極)101と正極層(酸素極)102との間にイオン交換膜103を配置し、負極層101に含む触媒に水素分子(H2)を接触させるとともに、正極層102に含む触媒に酸素分子(O2)を接触させることにより、電子e−を矢印の如く流すことにより、電流を発生させるものである。電流を発生させる際に、水素分子(H2)と酸素分子(O2)とから生成水(H2O)を得る。
この燃料電池100の負極層101、正極層102、イオン交換膜103を主要構成部材とする燃料電池用膜−電極構造体を次図で詳しく説明する。
【0003】
図7は従来の燃料電池を構成する燃料電池用膜−電極構造体を示す説明図である。
燃料電池用膜−電極構造体は、一対の拡散層104,105の内側にそれぞれバインダー層106及びバインダー層107を備え、これらバインダー層106及びバインダー層107の内側にそれぞれ負極層101及び正極層102を備え、これら負極層101及び正極層102の間にイオン交換膜103を備える。
【0004】
この燃料電池用膜−電極構造体を製造する際には、先ず拡散層104にバインダー層106用の溶液を塗布するとともに、拡散層105にバインダー層107用の溶液を塗布し、塗布したバインダー層106,107を焼成することによりバインダー層106,107を固化する。
【0005】
次に、固化したバインダー層106に負極層101の溶液を塗布するとともに、固化したバインダー層107に正極層102の溶液を塗布し、塗布した負・正極層101,102を乾燥することにより負・正極層101,102を固化する。
次いで、固化した負極層101にシート状のイオン交換膜103を載せ、続いてイオン交換膜103に正極層102が固化された拡散層105を載せて7層の多層構造を形成する。
次に、この多層構造を矢印の如く加熱圧着することにより燃料電池用膜−電極構造体を形成する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、燃料電池用膜−電極構造体はイオン交換膜103としてシートを使用しており、加えてバインダー層106、負極層101、正極層102、バインダー層107のそれぞれの層を固化した状態で加熱圧着するので、それぞれの層の境界に密着不良部分が発生する虞がある。
燃料電池用膜−電極構造体の各層に密着不良部分が発生すると、電流を効率よく発生することが難しくなり、製造ラインの検査の段階において、これらの燃料電池用膜−電極構造体が廃棄処分や修復処分になり、そのことが生産性を高める妨げになっている。
【0007】
さらに、燃料電池用膜−電極構造体のイオン交換膜103としてシートを使用しているので、燃料電池用膜−電極構造体を加熱圧着の際に、イオン交換膜103を加熱状態で加圧することになり、イオン交換膜103の性能が低下する虞がある。これにより、検査の段階で廃棄処分や修復処分の対象となる部品が一層多くなり、そのことが生産性を高める妨げになっている。
【0008】
加えて、イオン交換膜103としてシートを使用しているので、イオン交換膜103のハンドリング性(取扱い性)を考慮するとイオン交換膜103をある程度厚くする必要がある。このため、燃料電池用膜−電極構造体を薄くすることが難しく、そのことが燃料電池用膜−電極構造体の小型化を図る妨げになる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、それぞれの層の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができ、さらにイオン交換膜の性能低下を防ぐことができ、加えてイオン交換膜を薄くすることができる燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、それぞれの層間に密着不良部分が発生するのは、先の塗膜が固化した後に、次の溶液を塗布して、この溶液が先の塗膜に滲み込まず、結果として密着不良が発生することが、その原因であることを突き止めた。
そこで、先の塗膜が乾かないうちに、次の溶液を重ねたところ、溶液が先の塗膜に滲み込み、密着性が著しく高まることが分かった。
同様に、シート状のイオン交換膜に溶液を塗布した場合にも、溶液がシート状のイオン交換膜に滲み込まず、結果として密着不良が発生することが、その原因であることを突き止めた。
【0011】
そこで、請求項1は、シート状の拡散層上に、燃料電池を構成する正極層用の触媒を含む溶液を塗布して正極層を形成する工程と、この正極層が未乾燥のうちに、この正極層上にカーボン及びイオン導電性フッ素樹脂の混合溶液を塗布して混合層を形成する工程と、この混合層が未乾燥のうちに、この混合層上にイオン交換膜用の溶液を塗布してイオン交換膜を形成するとともに、前記イオン交換膜用の溶液を前記正極層に至るまで前記混合層に浸透させる工程と、このイオン交換膜が未乾燥のうちに負極層用の触媒を含む溶液を塗布して負極層を形成する工程と、これら正・負極層、混合層及びイオン交換膜のそれぞれの溶液を乾燥することにより、正・負極層、混合層及びイオン交換膜を固化する固化工程とから燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を構成する。
【0012】
イオン交換膜に溶液を採用し、正・負極層用の溶液及びイオン交換膜用の溶液をそれぞれ未乾燥の状態で塗布すれば、境界で混合が発生する。
これにより、正・負極層及びイオン交換膜の各層の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができるので、イオン交換膜における反応効率を良好に保つことができる。
【0013】
ここで、イオン交換膜にシートを使用した場合、シート状イオン交換膜のハンドリング性を好適に保つためにはイオン交換膜をある程度厚くする必要がある。このため、燃料電池用膜−電極構造体を薄くすることが難しく、そのことが燃料電池用膜−電極構造体の小型化を図る妨げになる。
【0014】
そこで、請求項1においてイオン交換膜を溶液とし、イオン交換膜を溶液の状態でハンドリング(取り扱うことが)できるようにした。イオン交換膜を溶液とすることで、ハンドリング(取扱い)の際にイオン交換膜の厚さを規制する必要はない。このため、イオン交換膜を薄くすることが可能になり、燃料電池用膜−電極構造体を薄くして小型化を図ることができる。
【0015】
ところで、燃料電池を使用して電流を発生させる際に、水素分子(H2)と酸素分子(O2)とが反応して燃料電池内に生成水(H2O)を生成する。この生成水は正極側拡散層(カーボンペーパー)を透過させて燃料電池の外部に排出する。
しかし、未乾燥の電極層上にイオン交換膜用の溶液を塗布すると、イオン交換膜用の溶液が電極層に浸透して、浸透した溶液で電極層の空隙が減少してしまう虞がある。
【0016】
このため、燃料電池用燃料電池用膜−電極構造体を製造する際に、電極層をイオン交換膜の下方に配置すると、イオン交換膜用の溶液で電極層の空隙が減少してしまい、発電により生成した生成水を、正極側拡散層から燃料電池の外部に効率よく排出できないことが懸念される。
【0017】
生成水を効率よく排出することができないと、水素や酸素の反応ガスを好適に供給することが妨げられるので、濃度過電圧が高くなり、燃料電池の発電性能を良好に保つことが難しくなる。
なお、「濃度過電圧」とは、電極における反応物質及び反応生成物の補給及び除去の速度が遅く、電極の反応が妨害されるときに現れる電圧低下をいう。すなわち、濃度過電圧が高くなるということは電圧低下量が増すということである。
【0018】
そこで、請求項1において、カーボン及びフッ素樹脂の混合溶液を正極層上に塗布して混合層を形成し、混合層上にイオン交換膜用の溶液を塗布するようにした。これにより、イオン交換膜用の溶液が自重で下降した場合に、下降したイオン交換膜用の溶液を混合層に浸透させることで、イオン交換膜用の溶液が正極層に浸透することを抑制できる。
このように、イオン交換膜用の溶液が正極層に浸透することを抑制することにより、イオン交換膜用の溶液で正極層の空隙が減少することを防止できる。
【0019】
また、混合層をカーボンとフッ素樹脂とで構成した。カーボンは、多孔質であり、化学的に安定なものなので、イオン交換膜用の溶液を意図的に含浸させて乾燥後の結着性を向上させるという効果を得る。
また、フッ素樹脂は、イオン導電性が良好で抵抗が少ないので正極層側で反応したイオンをイオン交換膜まで効率よく伝達し、負極層側と好適に反応させることができる。
【0020】
請求項2において、混合層は0.5〜5μmの厚さにしたことを特徴とする。
混合層の厚さを0.5μm未満とすると、混合層が薄すぎて比較的多量のイオン交換膜の溶液が混合層を透過して正極層に浸透する虞がある。このため、正極層に浸透したイオン交換膜の溶液が正極層の空隙が減少してしまう虞がある。
そこで、混合層の厚さを0.5μm以上に設定して、イオン交換膜の溶液で正極層の空隙が減少することを防止するようにした。
【0021】
一方、混合層の厚さが5μmを超すと、混合層に浸透したイオン交換膜用の溶液を混合層内にすべて留めてしまう虞がある。
ここで、燃料電池の発電効率を確保するためには、イオン交換膜の溶液のうちのある程度の量を正極層に浸透させて正極層を構成する触媒に接触させる必要がある。
【0022】
このため、混合層に浸透したイオン交換膜用の溶液を混合層内に留めてしまうと、発電効率の低下につながる虞がある。そこで、イオン交換膜用の溶液のうちのある程度の量が、混合層を透過して正極層に浸透できるように混合層の厚さを5μm以下に設定した。これにより、燃料電池の発電効率を確保することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体を備えた燃料電池を示す分解斜視図である。
燃料電池ユニット10は複数(2個)の燃料電池11,11で構成したものである。燃料電池11は、燃料電池用膜−電極構造体12を構成するシート状の負極側拡散層13の外側に負極側流路基板31を配置し、燃料電池用膜−電極構造体12を構成するシート状の正極側拡散層14の外側に正極側流路基板34を配置したものである。
【0024】
負極側拡散層13に負極側流路基板31を積層することで、負極側流路基板31の流路溝31aを負極側拡散層13で覆うことにより、水素ガス流路32を形成する。また、正極側拡散層14に正極側流路基板34を積層することで、正極側流路基板34の流路溝34aを正極側拡散層14で覆うことにより、酸素ガス流路35を形成する。
【0025】
燃料電池用膜−電極構造体12は、負極側拡散層13及び正極側拡散層14の内側にそれぞれバインダーを介して負極層17及び正極層18を備え、これら負極層17及び正極層18の間に混合層19及びイオン交換膜20を備える。
このように、構成した燃料電池11をセパレータ36を介して複数個(図1では2個のみを示す)備えることで、燃料電池ユニット10を構成する。
なお、燃料電池用膜−電極構造体12については図2で詳しく説明する。
【0026】
燃料電池ユニット10によれば、水素ガス流路32に水素ガスを供給することで、負極層17に含む触媒に水素分子(H2)を吸着させるとともに、酸素ガス流路35に酸素ガスを供給することで、正極18に含む触媒に酸素分子(O2)を吸着させる。これにより、電子(e−)を矢印の如く流して電流を発生させることができる。
なお、電流を発生させる際には、水素分子(H2)と酸素分子(O2)とから生成水(H2O)が発生する。
【0027】
図2は本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体を示す説明図である。
燃料電池用膜−電極構造体12は、負極側拡散層13及び正極側拡散層14の内側にそれぞれ負極層17及び正極層18を備え、これら負極層17及び正極層18の間に混合層19及びイオン交換膜20を備える。
負極側拡散層13は、負極側のカーボンペーパー13a及び負極側のバインダー層15aからなるシート材(シート)である。
また、正極側拡散層14は、正極側のカーボンペーパー14a及び正極側のバインダー層16aからなるシート材(シート)である。
【0028】
負極側のバインダー層15aを構成するバインダーは、カーボンフッ素樹脂である。また、正極側のバインダー層16aを構成するバインダーは、撥水性を備えたカーボンポリマーであり、カーボンポリマーはポリテトラフルオロエチレンの骨格にスルホン酸を導入したものが該当する。
【0029】
負極層17は、負極用の溶液に触媒21を混合し、溶液を塗布後に乾燥することで固化したものである。負極層17の触媒21は、炭素22の表面に触媒として(白金−ルテニウム合金)23を担持したものであり、(白金−ルテニウム合金)23に水素分子(H2)を吸着させるものである。
【0030】
正極層18は、正極用の溶液に触媒24を混合し、溶液を塗布後に乾燥することで固化したものである。正極層18の触媒24は、炭素25の表面に触媒として白金26を担持したものであり、白金26に酸素分子(O2)を吸着させるものである。
【0031】
混合層19は、カーボン及びフッ素樹脂(一例として、ナフィオン「ポリマーの商品名」)を混合した溶液を負極層17の上面に塗布することにより、厚さtを0.5〜5μmに形成した層である。
【0032】
混合層に含ませたカーボンは、多孔質であり、化学的に安定なものなので、イオン交換膜用の溶液を意図的に含浸させて乾燥後の結着性を向上させるという効果を得る。
また、混合層に含ませたフッ素樹脂は、イオン導電性が良好で抵抗が少ないので正極層側で反応したイオンをイオン交換膜まで効率よく伝達し、負極層側と好適に反応させることができる。
なお、燃料電池用膜−電極構造体12に混合層19を備えた理由、及び混合層19の厚さtを0.5〜5μmに形成した理由については後述する。
【0033】
イオン交換膜20は、混合層19及び負極層17間に溶液の状態で塗布した後、正極層18、混合層19及び負極層17とともに一緒に乾燥することにより混合層19及び負極層17と一体に固化したものである。
【0034】
次に、燃料電池用膜−電極構造体12の製造方法を図3〜図5に基づいて説明する。
図3(a)〜(c)は本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を示す第1工程説明図である。
(a)において、シート状の正極側拡散層14を配置する。すなわち、正極側拡散層14のカーボンペーパー14aをセットした後、このカーボンペーパー14a上にバインダー層16a用の溶液を塗布する。
【0035】
(b)において、バインダー層16aが未乾燥のうちに、バインダー層16a上に正極層18用の溶液を塗布して正極層18を形成する。
【0036】
(c)において、正極層18が未乾燥のうちに、スプレー51を正極層18の上方で矢印の如く移動して、スプレー51の噴射口52から混合層19用の溶液を噴霧状に噴射する。
これにより、正極層18上に混合層19用の溶液を塗布して混合層19を0.5〜5μmの厚さtに形成する。
混合層19用の溶液を噴霧状態で塗布することにより、比較的容易に混合層19を薄膜(0.5〜5μm)に形成することが可能になる。
【0037】
図4(a)〜(c)は本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を示す第2工程説明図である。
(a)において、混合層19が未乾燥のうちに、コーター54を混合層19の上面に沿って矢印の如く移動して、コーター54で混合層19上にイオン交換膜20用の溶液を塗布してイオン交換膜20を形成する。
【0038】
具体的には、コーター54のブレード54aを、混合層19から上方に所定間隔離して混合層19の上面に平行に配置し、このブレード54aを混合層19の上面に沿って矢印の如く移動しながら、ブレード54aでイオン交換膜20のペースト(溶液)を一定の厚さにならすことによりイオン交換膜20を形成する。
【0039】
このように、イオン交換膜20に溶液を採用し、混合層19が未乾燥のうちに、混合層19上にイオン交換膜20用の溶液を塗布することにより、混合層19とイオン交換膜20との境界で互いの溶液を効果的に混合させることができる。
【0040】
また、混合層19上にイオン交換膜20用の溶液を塗布することにより、イオン交換膜20用の溶液が重力の影響で矢印の如く下方に流れて混合層19に浸透する。
このように、イオン交換膜20用の溶液を混合層19に浸透させることで、イオン交換膜20用の溶液が正極層18に浸透することを抑制できる。
【0041】
ここで、混合層19を0.5〜5μmの厚さtに設定した理由を説明する。
混合層19の厚さを0.5μm未満とすると、混合層19が薄すぎて比較的多量のイオン交換膜20用の溶液が混合層19を透過して正極層18に浸透する虞がある。
このため、比較的多量のイオン交換膜20用の溶液が混合層19を透過して正極層18に浸透することを防止するために混合層19の厚さtを0.5μm以上に設定した。
【0042】
一方、混合層19の厚さtが5μmを超すと、混合層19に浸透したイオン交換膜20用の溶液を混合層19内に留めてしまう虞がある。
ここで、燃料電池の発電効率を確保するためには、イオン交換膜20用の溶液のうちのある程度の量を正極層18に浸透させて、イオン交換膜20用の溶液を正極層18を構成する触媒24に接触させる必要がある。
そこで、イオン交換膜20用の溶液のうちのある程度の量が、混合層19を透過して正極層18に浸透することができるように混合層19の厚さtを5μm以下に設定した。
【0043】
このように、混合層19の厚さtを0.5〜5μmに設定することにより、イオン交換膜20用の溶液が正極層18に浸透する量を抑えることができ、イオン交換膜20用の溶液で正極層18の空隙が減少することを防止できる。
従って、燃料電池の発電により生成した生成水を、正極層18の空隙から正極側拡散層14まで導いて、正極側拡散層14の空隙から好適に排出することができるので、燃料電池に生じる濃度過電圧を低く抑えることができる。
【0044】
(b)において、イオン交換膜20が未乾燥のうちに、イオン交換膜20上に負極層17用の溶液を塗布して負極層17を形成する。
(c)において、負極層17が未乾燥のうちに、負極層17上に、負極側拡散層13(図2参照)を構成するバインダー層15aの溶液を塗布する。
【0045】
図5(a),(b)は本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を示す第3工程説明図である。
(a)において、バインダー層15aに負極側のカーボンペーパー13aを載せることにより、バインダー層15a及びカーボンペーパー13aでシート状の負極側拡散層13を形成する。
次に、正極層18、混合層19、イオン交換膜20及び負極層17が未乾燥のうちに、正極層18、混合層19、イオン交換膜20及び負極層17に荷重をかけないで一緒に乾燥する。
【0046】
(b)において、正極層18、混合層19、イオン交換膜20及び負極層17を固化することで、正極層18、混合層19、イオン交換膜20及び負極層17を固化した状態で一体に積層する。
これにより、燃料電池用膜−電極構造体12の製造工程が完了する。
【0047】
このように、燃料電池用膜−電極構造体12の製造方法によれば、正極層18、混合層19、イオン交換膜20及び負極層17が未乾燥の状態で、それぞれの上面に溶液を塗布することで、それぞれの境界において隣接する溶液同士を好適に混合させることができる。
【0048】
よって、正極層18と混合層19との間の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができる。さらに、混合層19とイオン交換膜20との間の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができる。
加えて、イオン交換膜20と負極層17との間の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができる。
これにより、燃料電池用膜−電極構造体12における反応効率を良好に保つことができる。
【0049】
加えて、イオン交換膜20を溶液とすることで、イオン交換膜20を溶液の状態でハンドリングすることができるので、ハンドリング性の観点からイオン交換膜20の厚さを規制する必要はない。このため、イオン交換膜20を薄くして小型化を図ることができる。
【0050】
なお、前記実施形態では、負極層17の上面に混合層19用の溶液をスプレー51を用いて塗布した例について説明したが、混合層19の塗布はスプレーに限らないで、インクジェット方式を採用することも可能である。要は、混合層19用の溶液を噴霧状に塗布できる方式であればよい。
【0051】
ここで、スプレー及びインクジェットは溶液を噴霧状に塗布する点で同じである。スプレーは噴霧範囲が比較的広く塗布時間を短くできるが、未塗布部分を確保するためにマスキング処理が必要になる。一般に、マスキング処理部に付着した溶液は回収が難しい。
【0052】
一方、インクジェットは塗布範囲を正確に絞り込むことができるので、未塗布部分にマスキング処理を施す必要がなく、溶液を有効に使用することができる。但し、インクジェットは、塗布範囲が狭いのでスプレーと比較して塗布スピードが劣る。
【0053】
さらに、前記実施形態では、混合層19の上面にコーター54を用いてイオン交換膜20用の溶液を塗布する例について説明したが、その他の塗布手段でイオン交換膜20用の溶液を塗布することも可能である。
【0054】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1は、イオン交換膜に溶液を採用し、正・負極層用の溶液及びイオン交換膜用の溶液をそれぞれ未乾燥の状態で塗布すれば、境界で混合が発生する。
これにより、正・負極層及びイオン交換膜の各層の境界に密着不良部分が発生することを防ぐことができるので、イオン交換膜における反応効率を良好に保つことができる。
この結果、燃料電池用膜−電極構造体の品質を安定させることができるので、生産性を高めることができる。
【0055】
加えて、イオン交換膜を溶液とすることで、イオン交換膜を溶液の状態でハンドリングすることができるので、ハンドリング性の観点からイオン交換膜の厚さを規制する必要はない。このため、イオン交換膜を薄くすることが可能になり、燃料電池用膜−電極構造体を薄くすることができるので、燃料電池の小型化を図ることができる。
【0056】
また、カーボン及びフッ素樹脂の混合溶液を正極層上に塗布して混合層を形成し、混合層上にイオン交換膜用の溶液を塗布するようにした。これにより、イオン交換膜用の溶液が自重で下降した場合に、下降したイオン交換膜用の溶液を混合層に浸透させることで、イオン交換膜用の溶液が正極層に浸透することを抑制できる。
【0057】
このように、イオン交換膜用の溶液が正極層に浸透することを抑制することにより、イオン交換膜用の溶液で正極層の空隙が減少することを防止できる。
従って、発電により生成した生成水を、正極層の空隙から正極側拡散層まで導いて正極側拡散層の空隙から好適に排出することができるので、燃料電池に生じる濃度過電圧を低く抑えることができる。
【0058】
また、混合層をカーボンとフッ素樹脂とで構成した。カーボンは、多孔質であり、化学的に安定なものなので、イオン交換膜用の溶液を意図的に含浸させて乾燥後の結着性を向上させるという効果を得る。
一方、フッ素樹脂は、イオン導電性が良好で抵抗が少ないので正極層側で反応したイオンをイオン交換膜まで効率よく伝達し、負極層側と好適に反応させることができる。
【0059】
請求項2は、混合層の厚さを0.5〜5μmに設定した。混合層の厚さを0.5μm以上に設定することで、イオン交換膜の溶液で正極層の空隙が減少することを防止できる。
加えて、混合層の厚さを5μm以下に設定することで、イオン交換膜用の溶液のうちのある程度の量を、混合層を透過させて正極層に浸透させることができる。
このように、イオン交換膜の溶液で正極層の空隙が減少することを防止し、イオン交換膜用の溶液のうちのある程度の量を、混合層を透過させて正極層に浸透させることで、燃料電池の発電効率を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体を備えた燃料電池を示す分解斜視図
【図2】 本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体を示す説明図
【図3】 本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を示す第1工程説明図
【図4】 本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を示す第2工程説明図
【図5】 本発明に係る燃料電池用膜−電極構造体の製造方法を示す第3工程説明図
【図6】 従来の燃料電池を説明する説明図
【図7】 従来の燃料電池を構成する燃料電池用膜−電極構造体を示す説明図
【符号の説明】
11…燃料電池、12…燃料電池用膜−電極構造体、13…負極側拡散層(シート)、14…正極側拡散層、17…負極層、18…正極層、19…混合層、20…イオン交換膜。
Claims (2)
- シート状の拡散層上に、燃料電池を構成する正極層用の触媒を含む溶液を塗布して正極層を形成する工程と、
この正極層が未乾燥のうちに、この正極層上にカーボン及びイオン導電性フッ素樹脂の混合溶液を塗布して混合層を形成する工程と、
この混合層が未乾燥のうちに、この混合層上にイオン交換膜用の溶液を塗布してイオン交換膜を形成するとともに、前記イオン交換膜用の溶液を前記正極層に至るまで前記混合層に浸透させる工程と、
このイオン交換膜が未乾燥のうちに負極層用の触媒を含む溶液を塗布して負極層を形成する工程と、
これら正・負極層、混合層及びイオン交換膜のそれぞれの溶液を乾燥することにより、正・負極層、混合層及びイオン交換膜を固化する固化工程と、からなる燃料電池用膜−電極構造体の製造方法。 - 前記混合層は0.5〜5μmの厚さにしたことを特徴とする請求項1記載の燃料電池用膜−電極構造体の製造方法。
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