JP3822669B2 - プレス加工用潤滑剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、銅や銅合金の板をスリット加工した後にプレス加工する際に使用されるプレス加工用潤滑剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
オゾン層破壊物質である特定フロンや1,1,1トリクロロエタンなどのハロゲン系洗浄溶剤の生産は、環境汚染防止のために平成7年末をもって全面禁止されている。このためにプレス加工後にワーク(プレス加工部品)に付着したプレス加工用潤滑油を洗浄するにあたって、ハロゲン系洗浄溶剤から他の代替洗浄剤に切り換えたり、他の洗浄設備を導入したりせざるを得なくなっているが、技術対応の面や、経済性の面で洗浄工程の転換や維持が困難になってきた。
【0003】
そこで最近では、熱風による簡単なエアーブロー程度で揮発消失する機能を持ち、プレス加工後の洗浄工程が不要な潤滑油が出現しており、これに関心が集まっている。すなわち、この種のプレス加工用潤滑油は常温・常圧で揮発する低沸点成分、例えばウンデカン(C11H24)やドデカン(C12H26)などで構成されており、プレス加工後にワークから揮発消失して、特別な洗浄を施す必要なく清浄なプレス加工部品を得ることができるのである。
【0004】
一方、プレス加工に使用される金属材料は、圧延をされた後にスリット加工して切断されるが、このスリット加工の際にも潤滑剤を必要とする。そしてスリット加工に使用される潤滑剤において洗浄工程が不要なものとして、エチルアルコールや、上記の揮発消失タイプのプレス加工油が使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、エチルアルコールは潤滑性が低く、しかも吸湿性があるために金属部品のワークを腐食させ易い等の問題があった。また揮発消失タイプのプレス加工油は上記のように低沸点成分で構成されているために揮発速度が速く、スリット加工後にすぐに消失してしまい、プレス加工までの間ワークの表面を錆から保護する防錆効果がなくなり、別途の変色防止処理をワークに施す必要がある。例えば銅系の場合には、ワークをベンゾトリアゾールを溶かしたアルコールに浸漬して行なわれるが、ワークの表面にベンゾトリアゾールが吸着残留することになるために、真に清浄度を必要とする部品、例えば金を埋め込んでインレイした接点部品などにはこのような処理は適用できず、この場合にはワークを真空パックするなど厳重な変色防止対策を施す必要があるという問題があった。さらに従来の揮発消失タイプのプレス加工油は揮発速度が速いため、油膜切れや潤滑性能の不足が生じやすく、プレス金型の寿命が短くなるという問題もあった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、洗浄工程を不要にすることができ、また潤滑性能や防錆性能が高く、しかも金型寿命を延ばすことができるプレス加工用潤滑剤を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係るプレス加工用潤滑剤は、銅又は銅合金のワークをスリット加工した後にプレス加工する際に、スリット加工に使用される潤滑剤であって、沸点が200℃以上、290℃以下であるn−αオレフィンを基材として含有して成ることを特徴とするものである。
また本発明の請求項2に係るプレス加工用潤滑剤は、請求項1において、石油系炭化水素油を基油とし、沸点が200℃以上、290℃以下であるn−αオレフィンを10重量%以上含有して成ることを特徴とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
請求項1のプレス加工用潤滑剤の基材となるn−αオレフィンは次の化学構造式で表される脂肪族不飽和炭化水素である。
CH3 −(CH2 )n −CH=CH2 …(1)
このn−αオレフィンは分子の構造上、末端にビニル基を有するために、これが極性基として働き、金属材料のワークへの吸着が良好であって、油膜切れが生じることを防ぐことができるために、従来の完全消失タイプのプレス加工油の基油として用いられる石油系炭化水素油やその中の一つであるイソパラフィン系炭化水素油に比べて潤滑性に優れている。
【0009】
そして本発明ではこのn−αオレフィンとして、沸点が常圧で200℃以上、290℃以下のものを用いるものである。このような沸点が常圧で200℃以上、290℃以下のn−αオレフィンとしては、上記(1)式のn=9〜13のもの、すなわち炭素数12〜16のn−αオレフィンを使用することができる。この炭素数12〜16のn−αオレフィンは表1に示すように引火点が70℃以上であり、使用時の安全性が高いという利点もある。
【0010】
【表1】
【0011】
上記のように沸点が200℃以上の高沸点のn−αオレフィンを用いてプレス加工用潤滑剤を調製することによって、潤滑剤の揮発を遅くすることができ、スリット加工にこの潤滑剤を使用するとプレス加工時までワークの表面に残留し、ワークが大気と接触することを防止して防錆効果を得ることができるものである。従って、ワークが銅系のものであっても、ベンゾトリアゾール等で処理する必要なくワークが変色したり錆びたりすることを抑制することができるものであり、潤滑性とワークの腐食や変色の防止の両方の性能を満足するものである。そして、このように揮発速度が遅くプレス金型内の摩擦熱による揮発が少ないことと、上記したn−αオレフィンの極性基による吸着の作用との相乗効果で油膜切れが一層生じにくくなっており、潤滑性能が高く金型寿命を延ばすことが可能になるものである。さらに、このように油膜切れが生じ難いために、スリット加工時にワークに潤滑剤を多量に給油しておくと、プレス加工時に新たに給油することなしにプレス加工を行なうことも可能になるものである。
【0012】
また沸点が290℃以下のn−αオレフィンを用いているために、プレス加工に使用した後に、ワークを長期間放置するか、あるいは熱風等をエアーブローするなどの軽度の強制乾燥でプレス加工用潤滑剤のn−αオレフィンは揮発消失し、洗浄を行なう必要なく清浄な金属表面を得ることができるものである。
請求項2のプレス加工用潤滑剤は、基油としての石油系炭化水素油と、主剤として上記のn−αオレフィンとを混合して調製したものである。本発明において石油系炭化水素油とは、石油から作られた炭化水素を意味するものであり、石油系炭化水素油を配合することによって、プレス加工用潤滑剤の粘度や、揮発速度や、潤滑性を制御することが容易になるものである。このような石油系炭化水素油としては、引火点が40〜70℃、常圧の沸点が150〜250℃のものが安全性や入手の容易性の点で好ましく、ドデカン、ヘキサデカン、イソヘキサデカンなどの炭素数12〜16のイソパラフィンやn−パラフィンを用いるのが好ましいが、他にドデセンなどのオレフィンを用いることもできる。これらの石油系炭化水素油は無臭であって芳香族成分を含まないために人体への有害性が少ないことからも好ましい。石油系炭化水素油を基油として配合する場合、主剤のn−αオレフィンによる潤滑性や残留皮膜による変色抑制効果の見地から、石油系炭化水素油の配合量は全体の90重量%以下(すなわちn−αオレフィンを全体の10重量%以上)に、好ましくは全体の60重量%以下(すなわちn−αオレフィンを全体の40重量%以上)に設定するものである。石油系炭化水素油の配合量の下限は特に設定されるものではなく、n−αオレフィンを100%にすれば請求項1のプレス加工用潤滑剤となる。
【0013】
ここで、請求項1のようにn−αオレフィンのみでプレス加工用潤滑剤を調製する場合、プレス加工用潤滑剤は比較的粘度が高く、プレス金型でワークを打ち抜く場合に打ち抜いたカスが粘度の高いプレス加工用潤滑剤によって金型内に詰まるカス詰まりが発生して金型が割れることがあり、またプレス金型のパンチに打ち抜いたカスが粘度の高いプレス加工用潤滑剤によって付着するカス上がりが生じ、次に加工するワークがこのカスで傷付けられる傷不良が発生することがあるが、石油系炭化水素油を配合してプレス加工用潤滑剤の粘度を調整することによって、カス詰まりの発生を防止して金型寿命を延ばすことができると共に、カス上がりを防止して傷不良の発生を防止できるものである。
【0014】
【実施例】
次に本発明を実施例によって説明する。
(実施例1〜14、比較例)
n−αオレフィンとして、CH3 (CH2 )9 CH=CH2 (C12オレフィンと略称)、CH3 (CH2 )11CH=CH2 (C14オレフィンと略称)、CH3 (CH2 )13CH=CH2 (C16オレフィンと略称)を用い、また石油系炭化水素油としてドデカン、イソヘキサデカンを用い、表2の配合でプレス加工用潤滑剤を調製した。
【0015】
【表2】
【0016】
(潤滑性試験)
実施例1〜9及び比較例で得たプレス加工用潤滑剤について、潤滑性を調べるためにバウデン式付着滑り試験を実施した。試験は、摩擦板として寸法が1mm×20mm×50mmの銅板(C1020)を用い、また摩擦球として1/2インチ鋼球を用い、摩擦板に25g/m2 の塗布量でプレス加工用潤滑剤を塗布して、摩擦板温度:常温、摩擦板滑り速度:10mm/s、摩擦板ストローク:10mm、付加荷重:1000gの条件で行ない、摩擦係数を求めた。結果を表3び図1のグラフに示す。表1や図1のグラフにみられるように、n−αオレフィンを配合した各実施例のものは摩擦係数が小さくなっており、プレス加工用潤滑剤の潤滑性が高いことが確認される。
【0017】
【表3】
【0018】
(揮発性試験)
実施例1,3,4,6,7,9,10,11,12で得たプレス加工用潤滑剤について、揮発性を試験した。試験は、寸法が1mm×100mm×200mmの冷間圧延鋼板(SPCC)上にプレス加工用潤滑剤を0.5g塗布して室温下で水平放置し、経時の重量変化を測定して、プレス加工用潤滑剤が消失するまでの時間を測定して行なった。結果を表4及び図2のグラフに示す。表4や図2のグラフにみられるように、最大300時間で揮発し、洗浄工程を設ける必要がなくなることが確認される。
【0019】
【表4】
【0020】
(変色防止性試験)
実施例3,6,9及び比較例で得たプレス加工用潤滑剤について、変色防止性を試験した。試験は、寸法が1mm×20mm×50mmの銅板(C1020)を用い、この銅板をプレス加工用潤滑剤に浸漬した後に水平に載置し、温度60℃、湿度90%RHの条件で環境加速試験を実施して行ない、銅板の変色をJIS K 2513の石油製品銅板腐食試験方法の表1の銅板腐食分類表に定められている評価基準に従って評価し、銅板全体に1b以上の変色が見られるまでの時間を測定した。結果を表5及び図3のグラフに示す。表5や図3のグラフにみられるように、各実施例のものは変色時間が長くなっており、防錆効果があることが確認される。
【0021】
【表5】
【0022】
(実加工による金型寿命試験)
実施例13,14及び比較例で得たプレス加工用潤滑剤について、実際のプレス加工油としての性能を確認するために、金型寿命試験を実施した。試験は、ワークとして厚み0.2mmの銅合金のリードフレームを用い、プレス加工用潤滑剤を1ストローク2滴の点滴で給油しながらプレス回転数350ショット/分のの条件でプレス加工を行なった。結果は、比較例のものは約1000ショットで金型が焼き付いたが、実施例13のものは約10000ショットまで金型焼き付きが発生せず、実施例14のものは約80万ショットの加工でも金型焼き付きは発生しなかった。
【0023】
【発明の効果】
上記のように本発明の請求項1に係るプレス加工用潤滑剤は、銅又は銅合金のワークをスリット加工した後にプレス加工する際に、スリット加工に使用される潤滑剤であって、沸点が200℃以上、290℃以下であるn−αオレフィンを基材として含有するので、長期間放置や軽度の強制乾燥でn−αオレフィンは揮発消失して洗浄を行なう必要がないものであり、またn−αオレフィンは末端のビニル基によって金属材料への吸着が良好であり、しかも沸点が200℃以上、290℃以下のn−αオレフィンは比較的高沸点であって揮発が遅く、長時間ワークの表面にプレス加工用潤滑剤が残留して防錆効果が高いと共に、油膜切れが生じ難くて潤滑性能が高く、金型寿命を延ばすことが可能になるものである。そして、スリット加工にこの潤滑剤を使用するとプレス加工時までワークの表面に残留し、ワークが大気と接触することを防止して防錆効果を得ることができるものであり、ワークが銅系のものであっても、ベンゾトリアゾール等で処理する必要なくワークが変色したり錆びたりすることを抑制することができると共に、またスリット加工時にワークに潤滑剤を多量に給油しておくと、プレス加工時に新たに給油することなしにプレス加工を行なうことが可能になるものである。
【0024】
また本発明の請求項2に係るプレス加工用潤滑剤は、石油系炭化水素油を基油とし、沸点が200℃以上、290℃以下であるn−αオレフィンを10重量%以上含有するので、石油系炭化水素油を配合することによって、プレス加工用潤滑剤の粘度や、揮発速度や、潤滑性を制御することが容易になるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】潤滑性試験の結果を示すグラフである。
【図2】揮発性試験の結果を示すグラフである。
【図3】変色防止性試験の結果を示すグラフである。
Claims (2)
- 銅又は銅合金のワークをスリット加工した後にプレス加工する際に、スリット加工に使用される潤滑剤であって、沸点が200℃以上、290℃以下であるn−αオレフィンを基材として含有して成ることを特徴とするプレス加工用潤滑剤。
- 石油系炭化水素油を基油とし、沸点が200℃以上、290℃以下であるn−αオレフィンを10重量%以上含有して成ることを特徴とする請求項1に記載のプレス加工用潤滑剤。
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