この発明の実施形態に係る静電アクチュエータについて、以下に図面を参照して詳細に説明する。
図2は、この発明の両側推進駆動タイプと称せられる静電アクチュエータの一実施形態を示している。この図2に示される両側推進駆動タイプと称せられる静電アクチュエータでは、駆動されるべき可動子11が互いに対向された2つの固定子12、13間の空間に矢印21に示す前進方向或いはその反対の後退方向にスライド可能に配置されている。可動子11には、電極部16が設けられ、一方の固定子12には、異なるタイミングで電圧が印加される4つの固定子電極12a、12b、12c、12dのグループが連続するように配置され、また、他方の固定子13には、同様に異なるタイミングで電圧が印加される4つの電極13e、13f、13g、13hのグループが連続するように配置されている。このように4つの固定子電極に異なるタイミングで電圧が印加される系を4電極系或いは単に4系統と称する。尚、固定子電極12a、12b、12c、12d、13e、13f、13g、13hには、その符号12a、12b、12c、12d、13e、13f、13g、13hと共に説明の便宜の為に、符号A、B、C、D、E、F、G、Hを付している。また、下記の説明においてこの符号を参照して固定子A電極12a或いは単にB電極12bと称する場合がある。この4電極系では、それぞれの固定子電極12a、12b、12c、12d、13e、13f、13g、13hのピッチPh及び電極幅Wは、固定子12、13上にそれぞれ実質上同一に形成される。また、固定子電極12a、12b、12c、12d及び固定子電極13e、13f、13g、13hに対向される可動子11には、それぞれ電極幅(L)が固定子電極12a、12b、12c、12d及び固定子電極13e、13f、13g、13hの電極幅幅(W)の1.5倍〜2.5倍に定められている可動子電極16がピッチ4Phで形成されている。また、固定子電極12a、12b、12c、12d及び固定子電極13e、13f、13g、13hは、可動子11が可動される範囲亘って設けられ、可動子電極16は、固定子電極12a、12b、12c、12d及び固定子電極13e、13f、13g、13hの隣接するいずれか2つの電極に対向される。ここで、固定子電極12a、12b、12c、12dと固定子電極13e、13f、13g、13hは、静電アクチュエータの組立時には、従来の静電アクチュエータとは異なり、単に両者が対向されるように配置されるだけで両者が位置合わせされなくとも、即ち、アライメントが取られなくとも良く、その配列位相が一致されるように配置される場合、その配列位相が1/2位相ずれように配置される場合、或いは、その配列位相が0から1/2位相の範囲内で配列される場合がある。但し、両者が対向されて配置される場合であれば、両者の位相のずれΔPは、0〜Ph/2以内の位相のずれが生じているに過ぎない(0≦ΔP≦Ph/2)。
図2に示される静電アクチュエータにおいて、可動子電極16と固定子電極12a、12b、12c、12dが図3に示されるような配置関係にある際に、固定子電極12b、12cに電圧源6からスイッチング回路5を介して電圧が印加されると、固定子電極12b、12cと可動子電極16との間に静電力、即ち、クーロン力が作用し、可動子11は、固定子電極12b、12Cと可動子電極16が重なり合うように一方の固定子12に吸引される。続いて、スイッチング回路5が固定子電極12b、12cから電極13f、13g或いは電極13g、13hに切り替えられて電圧が電極13f、13g或いは電極13g、13hに印加されると、可動子11は、可動子電極16と電極13f、13g或いは電極13g、13hが重なり合うように他方の固定子13に吸引される。また、スイッチング回路5が電極13f、13g或いは電極13g、13hから電極12c、12dに切り替えられて電圧が電極12c、12dに印加されると、可動子11は、可動子電極106と電極12c、12dとが重なり合うように一方の固定子12に吸引される。更に、同様にスイッチング回路5が切り替えられて固定子13の電極に切り替えられと、同様に可動子11は、他方の固定子13に吸引される。この様に、電圧が順次切り替えられながら電極に印加されると、可動子11は、微視的には固定子12及び13間で振動しながら、巨視的には図2に矢印21で示される前進方向に駆動される。電極に電圧を加える順番を逆にすれば、可動子11は、図1に矢印21で示される方向とは逆の後退方向に駆動される。
次に、図3〜図6を参照して、図2に示した静電アクチュエータにおける、可動子電極16の位置と、可動子電極16と固定子12に設けた4系統の電極12a,12b,12c,12dとの間に生じる発生力(垂直方向と水平方向(進行方向))の関係について説明する。
可動子電極16に与えられる発生力(垂直方向のベクトル成分をFz、水平方向(進行方向)のベクトル成分をFyと表す。)は、可動子電極16と固定子12に設けた各電極12a,12b,12c,12dを、共に厚さの無い平板状の電極と考えると、下記の式(1)、式(2)によって表される。
Fz=n×ε(SV2/2d2)…(1)
Fy=n×ε(MV2/2d)…(2)
ここで、nは可動子11に設けた凸部電極16の数、εは、可動子11の可動子電極16と固定子12に設けた各電極12a,12b,12c,12dとの間の誘電率である。この誘電率εは、真空の誘電率に、前記可動子11と固定子12に設けた各電極12a,12b,12c,12dとの間にある物質の比誘電率を乗じた値で表される。真空の誘電率は、ε0=8.85×10−12[N/m]であり、比誘電率は、例えば、空気では、約1、電極の絶縁等に用いられるポリイミドでは、約3である。
また、Mは、可動子電極16と固定子12の各電極12a,12b,12c,12dの内電圧が印加されている電極とが重なり合っている場合、その可動電極16の奥行き距離を表す。ただし、重なりが無い場合は、0を表す。即ち、Mは、奥行き距離(可動子の移動方向に直交する方向の長さ)か或いは0かの2値で表わされる。ここで、図3は、電極12b,12cと可動子電極16とが重なりあっている状態を示し、図4及び図5は、電極12b,12cと可動子電極16とが全く重なり合わない状態を示している。
また、Sは、可動子電極と固定子電極が互いに対向している部分の面積である。ここで、対向している固定子電極と可動子電極の幅(可動子の移動方向の重複長さ)をRとすると、S=M×Rの関係が成り立つ。ここで、図3から図5に示す電極配列では、Rは、0≦R≦2Wの関係にある。ここで、Wは、水平方向に動かす向きに沿った1つの固定電極の幅を示す。
さらに。Vは、電極間に加える電圧を表す。dは、互いの電極間の距離を表している。この距離dは、図3における可動子電極16と固定子電極との間のギャップに相当している。
前述したが、これらの数式は、それぞれの電極の厚さ方向を無視した場合のモデルである。よって、可動子11の深さ方向の影響(つまり、図1の凸部形状の可動子電極16において側面のテーパが付いた部分)と、加えて固定子12に設けた各電極12a、12b、12c、12d間相互による影響を無視している。しかし、実際には、それらの影響を考慮する必要がある。考慮する必要性については後述する。
次に、図3から図5における座標(X−Z)の定義を説明する。固定子12のB電極12bとC電極12cの中間点を原点(X=0)とし、紙面において左側をマイナス(−X)、右側をプラス(+X)とする。一方、可動子11においては、凸部電極16の中央点Prefを基準とする。そして、固定子12と可動子11の間の変位とは、原点(X=0)に対する可動子11の基準点Prefの変分を指し、正負は上述の通りである。なお、水平方向に関する力の発生方向の正負も上述と同様である。なお、上述した(式1)、(式2)は発生力の大きさのみを表しており、力の作用する方向は表していない。
電圧を印加する、固定子12の電極をB電極12b、とC電極12cとして以下に説明を進める。
上記式(1)及び式(2)によると、図4に示すように可動子11の変位がマイナスL(−L)より小さければ、可動子11の凸部電極16とB電極12bとは、互いに平行な関係であっても、互いに対向する部分は無く、よって互いに重なりあう平行平板部分は無い状態にある。よって、ここで、Lは、水平方向に動かす向きに沿った1つの可動子電極16の幅を示す。式(1)におけるS、及び式(2)におけるMがそれぞれ0となり、垂直方向および水平方向(進行方向)の発生力、FzとFyはそれぞれゼロとなる。
次に、可動子11の変位が、マイナスLから0までの範囲内にある場合には、その可動子11の位置によらず水平方向(進行方向)の発生力Fyは、一定となる。これは、上述したR(可動子11の凸状電極16と固定子電極が水平方向に重なり合う量)の成分が水平方向(進行方向)の発生力Fyを表す(式2)には無く、この(式2)のMは、重なりに対しては、ゼロか一定値かの2値的な値を取るためである。なお、発生力の方向は、プラス側(+Xの方向)である。また、垂直方向の発生力Fzは、可動子11の凸状電極16と固定子電極が水平方向に重なり合う量の増加、つまりRの増加に従って増えていく。可動子11の変位がちょうど0の時、重なり合う量は最大であり、Fzは最大値をとる。図3に可動子11の変位が0の状態を示す。
次に、可動子11の変位が、0からプラスLの範囲内にある場合にも、その可動子の位置によらず水平方向(進行方向)の発生力Fyは、一定であり、力の向きが逆のマイナスとなっている。理由は、上述の通りである。なお、垂直方向の発生力Fzは、重なり合う量の減少、つまりRの減少に従って減っていく。可動子11の変位がLを越えると、重なり合う量はなくなり、説明の冒頭であったように、垂直方向および水平方向(進行方向)の発生力、FzとFyはそれぞれゼロとなる。可動子11の変位が、プラスLの状態を図5に示す。
つまり、水平方向(進行方向)の発生力Fyは、可動子の変位がマイナスLより小さければゼロ、マイナスLから0まではプラスの一定値、0からプラスLまではマイナスの一定値、プラスLより大きければ再びゼロという、方形波的な変化をとることが分かる。しかし、実際には、発生力はゼロから一定値に瞬時に変化する訳ではなく、徐々に変化していく。それは、(式1)及び(式2)で無視した各電極の厚さ方向の成分による影響に基づいている。そして、この徐々に変化していく部分の発生力が、アクチュエータの駆動に与える影響は大きく、実際には、無視はできない。
次に、厚さ方向の成分を考慮した発生力の結果を示す。図6に示した発生力のグラフは、有限要素法を用いて、可動子11の凸状電極16と固定子12に設けた各電極12a、12b、12c、12dとの位置関係による発生力Fz、Fyの変化を示したものである。位置関係は上述で定義した座標系の通りである。
この図6において、垂直方向の発生力Fzには、矩形のマークでプロットされているグラフ(1)が相当し、水平方向(進行方向)の発生力Fyには、丸のマークでプロットされているグラフ(2)が相当する。縦軸は、力(単位[N])を表し、横軸は、可動子11の可動子電極16と固定子2に設けた固定子電極B12b、と固定子電極C12c、との位置関係を変位(μm)で表している。
図6に示したグラフのデータを得るための静電アクチュエータのサイズは、後述するようなカメラモジュールとして携帯電話等のモバイル機器に適用する場合を想定して、そのディメンションが定められている。例えば、ギャップdは7.8μm、固定子電極の幅wは12μm、ピッチPhは16μm、可動子11に設けた凸部状可動子電極16の幅Lは28μm、また可動子電極16の数は94である。図6のグラフより分かる様に、水平方向(進行方向)の発生力は、可動子11の凸部状可動子電極16が固定子B電極12bと重なり合う前後および離れる前後で徐々に変化しており、上述の厚さを無視した(式1)と(式2)のモデルとは異なっていることが分かる。
なお、簡便の為に、下記の駆動方法の説明においては、水平方向(進行方向)の発生力は、0点と最大値を結ぶ正弦波波形に置きかえられるものとして説明する。なお、図6のグラフにおいては、固定子電極12b,12cに加えている電圧Vは、100Vでの算出値である。この発明の実施形態に係る静電アクチュエータでは、図6に示した特性の考察を基にして、例えば、後述する第1の電圧パターンVP1及び第2の電圧パターンVP2の一方を指定するスイッチングモード指定回路7が図1に示されるように設けられ、静電アクチュエータに設けられた固定子電極12a、12b、12c、12dと固定子電極13e、13f、13g、13hとの配置に依存して電圧パターンVP1及び電圧パターンVP2のうち適切な一方が固定子電極12a、12b、12c、12d及び固定子電極13e、13f、13g、13hに印加される。即ち、静電アクチュエータの組立時に固定子電極12a、12b、12c、12dと固定子電極13e、13f、13g、13hとが図7に破線50で示されるようにほぼ位置合わせされ、その結果、その互いに対応する電極、例えば、固定子A電極12aと固定子E電極12eとの間のずれΔPが実質的に0か、或いは、十分に小さい(0≦|ΔP|≦Ph/4)である場合には、固定子電極間では、位相が合っているとして図8に示す第1の電圧パターンVP1が固定子電極12a、12b、12c、12d及び固定子電極13e、13f、13g、13hに印加される。これに対して、静電アクチュエータの組立時に固定子電極12a、12b、12c、12dと固定子電極13e、13f、13g、13hとの間に図9に破線52で示されるように位置ずれΔPが生じ、その結果、その互いに対応する電極、例えば、固定子A電極12aと固定子E電極12eとの間のずれΔPが実質的にPh/2か、或いは、十分にPh/2に近い(Ph/2≧|ΔP|≧Ph/4)場合には、固定子電極間には、1/2位相差があるとして図10に示す第2の電圧パターンVP2が固定子電極12a、12b、12c、12d及び固定子電極13e、13f、13g、13hに印加される。
図7から図12を参照してより詳細にこの発明の実施形態に係る静電アクチュエータの動作について説明する。
図7は、固定子電極12a,12b,12c,12dに対してこれに対応する固定子電極13e,13f,13g,13hがそれぞれずれを生ぜずに互いに重なり合う配置関係を示し、このような配置関係では、固定子電極12a,12b,12c,12dに対する固定子電極13e,13f,13g,13hの配置に関する位相差は、0となっている。図9は、固定子電極12a,12b,12c,12dに対してこれに対応する固定子電極13e,13f,13g,13hが最も大きな位相差のずれを生ずる配置関係を示し、このような配置関係では、固定子電極12a,12b,12c,12dに対する固定子電極13e,13f,13g,13hの配置に関する位相差は、1/2となり、そのずれΔPは、Ph/2となる。
図7に示す位相差0の配置では、図8(a)及び図8(b)に示すように、固定子12に設けたA電極12a及びB電極12bに電圧が始めに印加されるものとする。既に説明したように可動子11に吸引力14が働き、可動子11の凸部電極16がA電極12a及びB電極12bに重なり合うように駆動される。続いて、図8(f)及び図8(g)に示すように、A電極12a及びB電極12bに正しく対向するE電極13e及びF電極13fではなく、A電極12a及びB電極12bに対して1ピッチPhだけ進行方向に離れたF電極13f及びG電極13gに電圧が印加される。このF電極13f及びG電極13gへの電圧の印加によって、同様に吸引力15が働き、可動子11の凸部電極16がF電極13f及びG電極13gに重なり合うように駆動される。同様に、図8(b)及び図8(c)に示すように、固定子12に設けたB電極12b及びC電極12cに電圧が印加され、続いて図8(g)及び図8(h)に示すように、G電極13g及びH電極13hに電圧が印加され、また、図8(c)及び図8(d)に示すように、固定子12に設けたC電極12c及びD電極12dに電圧が印加され、続いて図8(h)及び図8(e)に示すように、H電極13h及びE電極13eに電圧が印加され、更に、図8(d)及び図8(a)に示すように、固定子12に設けたD電極12d及びA電極12aに電圧が印加され、続いて図8(e)及び図8(f)に示すように、E電極13e及びF電極13fに電圧が印加される。この1サイクルの電圧印加パターンが繰り返されると、可動子11は、微視的には上下に振動しながら、巨視的に見れば紙面の右側へと前進駆動される。この説明から明らかなように、各電極12a、12b、12c、12d、13e、13f、13g、13hに加える電圧パターンの順序を逆にすると、紙面の左側へ後退駆動される。
図7に示す位相差0の配置において、可動子11の駆動動作を前述の個々の電極部での発生力Fyに着目すると、図11に示されるような関係となる。
図11の見方を説明する。横軸の位置は、可動子11の固定子12に対する水平方向(進行方向)の相対位置を表しており、縦軸の発生力は、そのそれぞれの相対位置に可動子11がある際の進行方向の発生力を示している。なお、横軸に沿ったAB相〜DA相との記述は、それぞれ図7に示した符号に相当する電極、例えば、AB相であれば、A電極12a及びB電極12bに図8に示されるような電圧が印加されていることを表している。
次に、座標の定義を説明する。固定子12のA電極12a、とB電極12b、の中間点を原点Oとし、紙面において左側をマイナス、右側をプラスとする。一方、可動子11においては、凸部電極16の中央点Prefを基準とする。そして、可動子11の固定子12に対する位置とは、可動子11の基準点のPref、原点Oに対する変分を指し、正負は上述の通りである。
ここでは、AB相(A電極12a及びB電極12bへの電圧の印加)からFG相(F電極12f及びG電極12gへの電圧の印加)に切り替わる例について説明する。尚、静電アクチュエータのサイズは、図6の説明の際に上記したのと同様とする。A電極12aとB電極12bに電圧を印加した時、水平方向の発生力Fyは、−16μmの位置に極大値を有する正弦波状の発生力となる。−32μmの位置と、0μmの位置でそれぞれ発生力がゼロとなっているが、同じゼロであっても、意味合いが異なるので説明する。
−32μmの位置は、可動子11の凸部電極16が、ちょうど電極C12c、と電極D12dと対向している状態である。この状態で電極A12a、と電極B12bに電圧が印加されると、可動子11の凸部電極16には、進行方向前方のAB相(A電極12a,とB電極12b。以後略記。)からは、図6で変位が−32μmの時に相当する発生力をプラス側に受け、一方、進行方向後方のAB相からは、図6で変位が+32μmの時に相当する発生力をマイナス側に受け、この両者が相殺されて発生力はゼロとなる。一方、0μmの位置は、可動子11の凸部電極16がA電極12aとB電極B12bと対向している状態である。この状態でAB相に電圧が印加されると、図6で変位が0μmの時に相当する発生力となり、水平方向の発生力はゼロである。
一方、F電極13fとG電極13gに電圧を印加した時の発生力は、原点0に極大値を有する正弦波状で表される。A電極12aとB電極12bから、F電極13fとG電極13gに電圧印加の電極を切り替えるとは、図11の横軸に示したAB相からFG相への実線の部分をたどることに相当している。図7に示すような電極配置、即ち、各電極12a,12b,12c,12dとこれに対向される電極13e,13f,13g,13h間の位相差が0であれば、図11から明らかなように、発生力の最小値は同じ値でかつ変動も少ないことが判る。なお、実際には可動子11がA電極12aとB電極12bに吸引される場合は、可動子11と固定子12電極12a、12b間の距離d(図3に示されるギャップに相当する。)が変化する為、それに応じて発生力Fy(進行方向)が増大し(発生力は、dに反比例する為)、もっと複雑な発生力曲線を取る。ここでは、安全側に考える意味で、発生力Fy(進行方向)のミニマム値を用いて説明している。
次に、図9を参照して位相差1/2の配置での静電アクチュエータの動作について説明する。この図9の配置において、図10(a)及び図10(b)に示すように、固定子12に設けたA電極12a及びB電極12bに電圧が始めに印加されるものとする。既に説明したように可動子11に吸引力14が働き、可動子11の凸部電極16がA電極12aとB電極12bと重なり合うように駆動される。続いて、図10(e)及び図10(f)に示すように、A電極12a及びB電極12bに対して半ピッチPh/2だけ進行方向に離れたE電極13e及びF電極13fに電圧が印加される。このE電極13e及びF電極13fへの電圧の印加によって、同様に吸引力15が働き、可動子11の凸部電極16がE電極13e及びF電極13fに重なり合うように駆動される。同様に、図10(b)及び図10(c)に示すように、固定子12に設けたB電極12b及びC電極12cに電圧が印加され、続いて図10(f)及び図10(g)に示すように、F電極13f及びG電極13gに電圧が印加され、また、図10(c)及び図10(d)に示すように、固定子12に設けたC電極12c及びD電極12dに電圧が印加され、続いて図10(g)及び図10(h)に示すように、G電極13g及びH電極13hに電圧が印加され、更に、図10(d)及び図10(a)に示すように、固定子12に設けたD電極12d及びA電極12aに電圧が印加され、続いて図10(h)及び図10(e)に示すように、H電極13h及びE電極13eに電圧が印加される。この1サイクルの電圧印加パターンが繰り返されると、可動子11は、微視的には上下に振動しながら、巨視的に見れば紙面の右側へと前進駆動される。この説明から明らかなように、各電極12a、12b、12c、12d、13e、13f、13g、13hに加える電圧パターンの順序を逆にすると、紙面の左側へ後退駆動される。
上述した可動子11の駆動動作を前述の個々の電極部での発生力Fyに着目すると図12に示されるような関係となる。即ち、図10に示される第2の電圧パターンVP2が電極12a,12b,12c,12d,13e,13f,13g,13hに印加されると、可動子11と各電極12a,12b,12c,12d,13e,13f,13g,13hの位相差により、発生力は図12に示したような関係となる。ここで、AB相(A電極12a及びB電極12bへの電圧の印加)からEF相(E電極12e及びF電極12fへの電圧の印加)に切り替わる点を例にとって説明すると、E電極13eとF電極13fが、A電極12aとB電極12bに対して、電極ピッチ(例えば16μm)の半位相分(つまり8μm)ずれている為に、EF相の発生力の半円弧は、紙面左側に8μm分だけずれる格好となる。これを先ほどと同様に可動子11に発生する力の部分を実線で示すと、図12に示されるようになる。図11と比べると発生力の変動(フォース・ギャップForce Gap)が大きく、ミニマム値も下がっていることが分かる。しかし常に発生力Fy(進行方向)が発生されている。
固定子12,13の配置に関する位相差は、既に説明したように最小(0)〜最大(半位相)の範囲内にある。従って、第1の電圧パターンVP1及び第2の電圧パターンVP2がスイッチング回路5から発生されれば、いずれかの電圧パターンで静電アクチュエータが駆動されることとなる。即ち、固定子12,13が位置合わせされなくとも、常に発生力Fy(進行方向の力)が発生され、可動子11が駆動されることとなる。従って、始めに第1及び第2の駆動電圧パターンVP1及びVP2を異なるタイミングで固定子電極に印加することによって、何れの駆動電圧パターンVP1及びVP2を印加することが適切であるかと判断するようにしても良い。例えば、図2に示されるように可動子11の移動を検知する位置センサ8が静電アクチュエータに設けられ、第1及び第2の駆動電圧パターンVP1及びVP2のいずれかで可動子11が駆動されたかをこのセンサ8で検知し、この位置センサ8の出力に応答してスイッチングモード指定回路7で第1及び第2の駆動電圧パターンVP1及びVP2の一方が指定されても良い。
図2に示された静電アクチュエータでは、4つの固定子電極に異なるタイミングで電圧が印加される4系統のタイプであるが、図13に示すように3つの固定子電極に異なるタイミングで電圧が印加される3系統のタイプの静電アクチュエータであっても同様にこの発明を適用することができる。
即ち、図13に示された静電アクチュエータにおいて、固定子電極12a,12b,12c及び固定子電極13e,13f,13gがほぼ位相差0で配置される場合には、図14(a)から図14(f)に示すような第1の電圧パターンV1が固定子電極12a,12b,12c及び固定子電極13e,13f,13gに印加される。図14(a)及び図14(b)に示すように固定子12に設けたA電極12a及びB電極12bに電圧が印加されると、可動子11に吸引力14が働き、可動子11の凸部電極16がA電極12aとB電極12bと重なり合うように駆動される。続いて、図14(e)及び図14(f)に示すように、A電極12a及びB電極12bに正しく対向するE電極13e及びF電極13fではなく、A電極12a及びB電極12bに対して1ピッチPhだけ進行方向に離れたF電極13f及びG電極13gに電圧が印加される。このF電極13f及びG電極13gへの電圧の印加によって、同様に吸引力15が働き、可動子11の凸部電極16がF電極13f及びG電極13gに重なり合うように駆動される。同様に、図14(b)及び図14(c)に示すように、固定子12に設けたB電極12b及びC電極12cに電圧が印加され、続いて図14(f)及び図14(d)に示すように、G電極13g及びE電極13eに電圧が印加され、また、図14(c)及び図14(a)に示すように、固定子12に設けたC電極12c及びA電極12aに電圧が印加され、続いて図14(d)及び図8(e)に示すように、E電極13e及びF電極13Fに電圧が印加される。この1サイクルの電圧印加パターンが繰り返されると、可動子11は、微視的には上下に振動しながら、巨視的に見れば紙面の右側へと前進駆動される。この説明から明らかなように、各電極12a、12b、12c、13e、13f、13gに加える電圧パターンの順序を逆にすると、紙面の左側へ後退駆動される。
図13に示された静電アクチュエータにおいて、固定子電極12a,12b,12c及び固定子電極13e,13f,13gがほぼ位相差1/2で配置されている場合、図15(a)から図15(f)に示すような第2の電圧パターンVP2が固定子電極12a,12b,12c及び固定子電極13e,13f,13gに印加される。図15(a)及び図15(b)に示すように固定子12に設けたA電極12a及びB電極12bに電圧が印加されると、可動子11に吸引力14が働き、可動子11の凸部電極16がA電極12a及びB電極12bに重なり合うように駆動される。続いて、図15(d)及び図15(e)に示すように、A電極12a及びB電極12bに対して半ピッチPh/2だけ進行方向に離れたE電極13e及びF電極13fに電圧が印加される。このE電極13e及びF電極13fへの電圧の印加によって、同様に吸引力15が働き、可動子11の凸部電極16がE電極13e及びF電極13fに重なり合うように駆動される。同様に、図15(b)及び図15(c)に示すように、固定子12に設けたB電極12b及びC電極12cに電圧が印加され、続いて図15(e)及び図15(f)に示すように、F電極13f及びG電極13gに電圧が印加され、また、図15(c)及び図15(a)に示すように、固定子12に設けたC電極12c及びA電極12aに電圧が印加され、続いて図15(f)及び図15(a)に示すように、G電極13g及びA電極13aに電圧が印加される。この1サイクルの電圧印加パターンが繰り返されると、可動子11は、微視的には上下に振動しながら、巨視的に見れば紙面の右側へと前進駆動される。この説明から明らかなように、各電極12a、12b、12c、13e、13f、13gに加える電圧パターンの順序を逆にすると、紙面の左側へ後退駆動される。
図13の説明から明らかなようにこの発明の実施形態に係る静電アクチュエータでは、3つ以上の固定子電極に異なるタイミングで電圧が印加される3系統以上のタイプであれば、同様にこの発明を適用することができることは明らかである。
次に、図16から図20を参照してこの発明の静電アクチュエータに係る他の実施形態について説明する。
図16は、片側推進駆動タイプと称せられる静電アクチュエータであって、図2に示された両側推進駆動タイプと称せられる静電アクチュエータと異なり一方の固定子12には、異なるタイミングで電圧が印加される4つの固定子電極12a、12b、12c、12cのグループが連続するように配置されるに対して他方の固定子13には、平坦な単一系統の固定子電極13eが設けられている。
図16に示される片側推進駆動タイプの静電アクチュエータにおいては、単に交互に固定子電極に電圧を印加したのでは、電圧をE電極13eに印加して可動子11を吸引する際、進行方向の発生力Fyが発生されないことから、静電アクチュエータの姿勢によっては、動作が不安定となる虞がある。これに対し、図17に示すように、E電極13eで吸引する際に、もう一方の固定子12に設けられる固定子電極12a,12b,12c,12dのいずれかに、可動子11の動きに応じて補助電圧を印加することにより、可動子11をE電極13eで吸引する際にも発生力Fy(進行方向)を生じさせることができる。
可動子11をE電極13eで吸引する際にも発生力Fy(進行方向)を生じさせることができる原理について、B電極12bとC電極12cから、E電極13eに電圧を切り替える場合を例にとって説明する。図16の状態から図17に示すようにE電極13eに電圧を切り替える場合、通常の片側推進タイプの静電アクチュエータでは、可動子11には図18に概略的に示すよう発生力Fyが発生される。可動子11の動きに応じて電圧を印加する場合には、即ち、図19に示すように、可動子11をE電極13eで吸引する場合においても固定子C電極12cに補助電圧を印加することによって発生力Fy(進行方向)を発生させることができる。尚、図18は、この発明の実施形態の理解を助ける為に比較例として示している。この様に、E電極68で吸引する際に、可動子64の動きに応じて、固定子電極12a,12b,12c,12dのいずれかにも補助電圧を印加することにより、常に発生力Fyを生じさせることができる。
具体的な一例としては、図20(a)から図20(e)に示すような電圧パターンが固定子電極12a,12b,12c,12d及び固定子電極13eに印加される。即ち、図20(a)及び図20(b)に示すように固定子A電極12a及び固定子B電極12bに電圧が印加されて可動子電極16が固定子A電極12a及び固定子B電極12bに向けて引き寄せられる。図20(e)に示すようにあるタイミングで固定子A電極12a及び固定子B電極12bから固定子電極13eに切り替えられて固定子電極13eに向けて可動子電極16が引き寄せられるが、微動を開始した後において、図20(b)に示すように固定子B電極12bに補助電圧Vsが一時的に印加されると、固定子電極13eに向けて微動して可動子電極16には、固定子B電極12bに向けて微動する駆動力が与えられる。従って、固定子電極13eに向けられている間にも可動子電極16には、駆動力Fyが発生される。既に説明したように、固定子電極13eから固定子B電極12b及び固定子C電極12cに切り替えられると、可動子電極16は、固定子B電極12b及び固定子C電極12cに向けて微動される。また、次のあるタイミングで固定子B電極12b及び固定子C電極12cから固定子電極13eに切り替えられて固定子電極13eに向けて可動子電極16が引き寄せられ、図20(c)に示すように固定子C電極12cに補助電圧Vsが一時的に印加されると、固定子電極13eに向けて微動しながら可動子電極16には、図19に示すように固定子C電極12cに向けて微動する駆動力が与えられる。同様に、固定子電極13eから固定子C電極12c及び固定子D電極12dに切り替えら、可動子電極16は、固定子C電極12c及び固定子D電極12dに向けられる。その後、固定子C電極12c及び固定子D電極12dから固定子電極13eに可動子電極16が向けられ、図20(d)に示すように固定子D電極12dに補助電圧Vsが一時的に印加されると、可動子電極16には、図19に示すように水平方向の駆動力Fyが与えられる。このような一連の動作が繰り返されて可動子11は、前進或いは後退される。
尚、図18及び図19において、tは、各電極12a,12b,12c,12d,12に電圧を印加しているタイミングを表している。
更に、図21から図23を参照してこの発明の静電アクチュエータに係る他の実施形態について説明する。
図21には、図16と同様に片側推進駆動タイプの静電アクチュエータが示されている。既に説明したように片側推進駆動タイプの静電アクチュエータでは、可動子11をE電極13eに引き付ける際、進行方向の発生力が生じないことから静電アクチュエータの姿勢によって、動作が不安定となる虞がある。これに対し、図22に示すように、E電極13eに向けて引き付けるためにE電極13eに高レベルの電圧を印加する期間と、各固定子電極12a,12b,12c,12dで吸引する為に高レベルの電圧を印加する期間の割合を変化させている。図23に可動子11に生じる発生力Fy(進行方向)の概略が示されている。図22に示されるように、各固定子電極12a,12b,12c,12dに高レベルの電圧を印加する期間に対してE電極13eに高レベルの電圧を印加する期間の割合を2:1に設定している。このように各固定子電極12a、12b、12c、12dに電圧を印加する期間よりE電極13eに電圧を印加する期間を短く設定することにより、静電アクチュエータ自体の姿勢変更に伴う自重(重力)による影響での動作が不安定なる期間を小さくすることができ、結果として静電アクチュエータの動作が不安定なることを低減することができる。
上述した実施例において、各固定子電極12a,12b,12c,12dに高レベルの電圧を印加する期間に対してE電極13eに高レベルの電圧を印加する期間の割合の設定は、下記のような根拠に基づいて行われる。
静電アクチュエータが動作されて可動子11が移動される標準移動速度を1.0mm/sと仮定する。このような移動では、図22に示されるようなパターンの周期(1サイクル)は、1msに設定される。一方、静電アクチュエータの可動子が下部電極13eに吸引されて、上部電極12a、12b、12c、12dから下部電極13eに到達するまでの時間は、式(3)、式(4)に基づいた式(5)で計算される。式(3)は、下部電極13eで発生される可動子11を吸引する発生力Fである。
ここで、εは、誘電率(真空中では8.85×10-12F/m)、Sは、下部電極13eの電極面積、Vは、下部電極13eに印加される印加電圧及びdは、可動子11と下部電極13eとの間の電極間距離である。
上式より、可動子に加わる加速度(α)は、下記式(4)で求められる。
ここで、mは、可動子11及びこの可動子11と共に移動される負荷(例えば、レンズ自重)の質量である。
可動子の上下振動の運動を等加速度運動と仮定すると、上下振動に要する時間は、次式(5)で表される。
Hは、可動子11の移動距離(上下振動の振幅値に相当する。)
可動子11が下部電極13eで吸引される際に、電極間のギャップ中を可動子11が前記移動距離Hだけ移動する前に、電圧が印加される電極が切り替えられれば、有効な電極間ギャップの距離(実質的には、可動子の移動距離)が減少され、可動子11を移動させる発生力を向上させることができる。従って、アクチュエータの下部に設けられる固定子電極13eに可動子11を吸引する時間は、可動子11が固定子電極12a,12b,12c,12dに向けて移動される時間よりも短くしておく必要がある。上式より、その時間を求めると、約0.2〜0.3ms程度である。尚、可動子11の製作精度等で電極ギャップ等が変化し、移動時間も変化されることも付け加えておく。
また、可動子11が上下に振動する運動においては、可動子11と固定電極12a,12b,12c,12d或いは固定電極12間の空気の粘性が影響する。基本的には、可動子11の速度に比例する反力が可動子11に加わるが、その大きさや方向は、固定電極12a,12b,12c,12d或いは固定電極12に対する可動子11の姿勢(向き)により、空気の流路がどの様になるかで大きく変化される。その為、実験にて試してみると、上記の移動時間は、約0.3ms〜0.8msとなっている。現在、想定している標準速度においては、パターンの周期は、1msである。その為、固定電極13eに印加される駆動パルスは、典型的なデューティー比としてd=0.5に設定している。もちろん、デューティー比dは、0.5に限定されるものではなく、用いた駆動パターンの周期から、下部に設けられる固定電極13eで吸引する時間が上記の範囲(0.3ms〜0.8ms)に収まる様に設定されていればよい。例えば、可動子11の移動速度が1.0mm/s(パターン周期が1ms)の場合であれば、0.3<d<0.8の範囲で設定しても良い。
尚、この発明の実施形態に係る電圧の印加タイミングを示す図22では、各固定子電極12a,12b,12c,12dに高レベルの電圧を印加する期間に対してE電極13eに高レベルの電圧を印加する期間の割合を2:1としているが、既に述べたようにこの割合に限定されるものでは無い。E電極13eに高レベルの電圧を印加する期間が各固定子電極12a,12b,12c,12dに高レベルの電圧を印加する期間よりも短い条件を満たせば、他の適切な期間の割合でも良いことは明らかである。上述した実施例では、可動子11の可動子電極16の電位が接地電位にある場合には、各固定子電極12a,12b,12c,12dに高レベルの電圧を印加することによって可動子11が微動駆動される。これに対して、可動子11の可動子電極16の電位が高レベル電位に維持される場合には、各固定子電極12a,12b,12c,12dに低レベルの電圧を印加することによって可動子11が微動駆動される。従って、このような実施形態では、E電極13eに低レベルの電圧を印加する期間が各固定子電極12a,12b,12c,12dに低レベルの電圧を印加する期間よりも短いとの条件に変更されることは明らかである。
また、図22に示すよう電圧を印加する期間を適切に変更すると共に図20に示すようにE電極83eに電圧を印加する期間に他の固定子電極に電圧を印加するようにしても良いことは明らかである。
更に、可動子11を移動させる発生力を向上させる為に、アクチュエータの下部に設けられる固定子電極13eに可動子11を吸引する時間が固定子電極12a,12b,12c,12dに向けて可動子11が移動される時間よりも短くする点について図24から図28を参照して下記により詳細に説明する。
ここで、図24(a)は、可動子11が上下動される際の可動子11の移動距離とその経過時間を示し、図24(b)は、下部側の固定子13eに印加される電圧によって生じる固定子13eと可動子11との間の電位差の変化を示している。可動子11が固定子電極12a,12b,12c,12dの側に吸引されている状態から、ある時点taで固定子13eに駆動電圧が図24(b)に示すように与えられると、図24(a)に示すように、ある時間遅れTdの後の時点tbから可動子11が固定子13eに向けて移動が開始される。図24(b)に示すよう固定子13eと可動子11との間の電位差が増加されるとともに可動子11が固定子13eに向けて移動速度Vmで移動される。時点tbからある移動時間TMだけ経過した時点tcに、可動子11が固定子13eの側に位置され、そのままに保持される。その後、図24(b)に示すように時点tdから固定子13eと可動子11との間の電位差が低下されると共に可動子11の固定子電極12a,12b,12c,12dの側への移動が開始される。ここで、移動速度Vmは、移動距離Hを移動時間TMで割ることによって求められ、固定子13eに駆動電圧が印加される時点taから可動子11が固定子13eの側に位置される時点tcまでの時間が可動子11の単位変動(移動距離Hを単位とする可動子の移動)に要する時間TUと定義される。この時間TUは、移動時間TMに時間遅れTdを加えた時間に相当する。(単位変動に要する時間TU=時間遅れTd+移動時間TM)ここで、固定子電極13eに可動子11が吸引される際に、移動時間TMに相当する吸引時間を短くすることによって、可動子が櫛歯状の固定子電極12a、12b、12c、12dにほぼ接触されているような状態に維持される。このように可動子を駆動することにより、可動子11には、より大きな水平方向の駆動力が与えられる。これは、可動子11と固定子電極13eに吸引される際も、可動子11と固定子電極12a、12b、12c、12dとの間のギャップが小さいままに維持されるからである。
ここで、この下部固定子電極13eへの吸引時間(移動時間TMに相当する。)は、図24(a)及び(b)に示すように可動子が上下振動するに必要な時間(いわゆる、「単位変動に要する時間TU」と以下称する。)より短く、また、駆動パルス信号が下部固定子電極13eに与えられてその指令値の電圧が変化を開始してから可動子11が反応するまでに要する時間(いわゆる、「時間遅れTd」)より長いことが重要である。つまり、下部固定子電極13eで吸引される時間TMは、下式を満足する必要がある。
「時間遅れTd」<「下部固定子電極での吸引時間TM」<「単位変動に要する時間TU」
上記の「時間遅れTd」及び「単位変動に要する時間TU」は、可動子の電気導電率により変化される。即ち、「時間遅れTd」と「単位変動に要する時間TU」は、用いる素子材料の電気抵抗率により変化される。図25及び図26は、印加電圧と時間遅れTdとの関係及び印加電圧と単位変動に要する時間TUとの関係を示している。これらのデータは、材質が金属(チタン、電気抵抗率:0.5Ω)及び樹脂(住友ベークライト製:ポチコン(商品名)、電気抵抗率:250Ω)について夫々印加電圧120V、150V及び170Vについて2点を測定し、その2点の間の平均値を代表値としてグラフ化している。この図25及び図26において、時間遅れTd及び単位変動に要する時間TUが上昇時と下降時で異なるのは、上昇時は重力の影響を受けるためである。
次に図28及び図29は、電気抵抗率と時間遅れTdとの関係及び電気抵抗率と単位変動に要する時間TVとの関係を示している。ここで、ある印加電圧、例えば、図27及び図28に示すような印加電圧が150Vの時の、可動子11の材質がチタンの場合の「時間遅れTd」と「単位変動に要する時間TU」の選び方について説明する。チタンの電気抵抗率は、約0.5Ω(この値は、可動子の形状によって変化する。例えば、体積が大きくなれば、当然、可動子11としての電気抵抗率は、大きくなる。)である。図27に示すように、可動子の「時間遅れTd」は、上昇時で約0.6ms、下降時で約0.4msである。また、図28に示すように「単位変動に要する時間TU」は、上昇時で約1.7ms、下降時で約1.2msである。その為、アクチュエータの使用姿勢によらず、可動子11が下部固定子電極11eに接触せず、櫛歯状の固定子電極12a、12b、12c、12dにあたかも吸着されたように駆動するには、下部固定子電極11eで吸引する時間を0.6ms<下部電極吸引時間TM<1.2msの範囲にするする必要がある。ここで、上昇時の「時間遅れTd」(約0.6ms)より、下降時の「単位変動に要する時間(約1.2ms)」が小さいことが重要である。この大小関係が成り立っていないと、アクチュエータが設置された姿勢によって、下部電極に電圧を印加する時間を変えなければその効果を十分に発揮することが難しい。印加電圧が変化した場合、また用いる可動子の材質(電気抵抗率)が変化した場合は、上記と同様の手順を踏んで、下部電極に印加する時間を決定すれば良い。なお、「時間遅れTd」、「単位変動に要する時間TU」は、可動子11のサイズが変更になることによる抵抗値(同じ抵抗率でも体積が増えると、その分、抵抗値は増加)および負荷の重さによる影響で変化する。その為、可動子を製造変更し、下部電極に印加する時間を決める際には、まず、上記で示した、印加電圧・電気導電率と「時間遅れTd」「単位変動に要する時間TU」を測定し、その結果に基づいて、下部電極に電圧を印加する時間を決定すればよい。
上述した実施例においては、予め複数の駆動パターンが用意され、上部及び下部固定子電極の配列に適した駆動パターンが選択されて印加される。このように複数の駆動パターンを用意した場合には、適切なある駆動パターンを選択することに関して、図29に示すように映像情報を利用して適切な駆動パターンを選択することができる。この適切な駆動パターンを選択するシステムについて図29を参照して説明する。
図29において、符号20は、上述した実施例に係る静電アクチュエータを示し、この静電アクチュエータ20の可動子11の空洞部には、対物レンズ系21が設けられ、静電アクチュエータ20には、可動子11を既に述べたように駆動する駆動回路22に接続されている。この静電アクチュエータ20は、スチル或いはムービカメラ24にカメラモジュールとして格納されている。対物レンズ系21は、被写体23に向けられるように配置され、静電アクチュエータ20に或いはカメラ内に撮像素子26(CCDもしくはCMOS)が固定されている。この対物レンズ系21及び撮像素子26は、対物レンズ系21で撮影された被写体像が撮像素子26に結像されるように配置されている。撮像素子26からは、画素信号が映像処理回路27、例えば、映像処理用ICに供給されて画素信号が処理されて映像信号に変換される。この映像処理回路27からは、映像信号がカメラ或いはカメラ外に設けたモニター30に供給され、このモニター30に被写体像が表示される。映像処理回路27、例えば、映像処理用ICには、駆動パターンを選択する駆動処理回路28が接続され、この駆動処理回路28には、映像信号に含まれる輝度信号或いは輝度情報(アナログ或いはディジタルの輝度情報)が供給される。
この図29に示されるカメラ24のシステムにおいて、駆動信号パターンを選択するには、図29に示されるようにカメラ24外に設けた測定器29に駆動処理回路28が接続されて次のような原理で駆動信号パターンが選択される。
駆動信号パターンの選択時には、カメラ前方の所定距離(L)に被写体23が設置され、ある駆動パターンが駆動回路22から静電アクチュエータ20に与えられる。同時に、撮像素子26が駆動されて映像処理回路27から輝度値情報が駆動処理回路28に与えられ、輝度値情報が測定器29でモニターされる。一般に、輝度値は、被写体23にピント(焦点)が合ったときにもっとも大きな値が得られることが知られ、輝度値をモニターすることによって可動子11が移動してピントが合った際に最も大きな輝度値が測定される。
駆動回路22からの駆動信号パターンが適切であれば、静電アクチュエータ20内の可動子11が移動されて静電アクチュエータ20内で対物レンズ系21が複数回前後に往復駆動される。従って、図29に示される測定器29内の表示部29Aには、対物レンズ21の往復道によってピーク値が周期的に表れる輝度値が表示される。即ち、対物レンズ21が移動し、しかも、往復道の過程で同一位置を通過する場合には、測定器29内の表示部29Aには、周期的なピーク値が表示される。このように周期的なピーク値が表れる場合には、適切な駆動パターンが駆動回路22から静電アクチュエータ20に与えられているとして駆動処理回路28は、当該静電アクチュエータ20に常にその駆動パターンを与えるようにロック信号を駆動回路22に与え、駆動回路22から発生される駆動パターンをその1つに規制するように制御することとなる。
一方、輝度値が単調増加、或いは、単調減少の場合、又は、ピーク値はあるが、可動子11を駆動する周期とそのピーク値が現れる周期が大きくずれている場合には、可動子11が動いていない、若しくは、可動子11が適切な駆動パターンで駆動されていないとして、駆動処理回路28は、この駆動パターンが適切でないと判断し、他の駆動パターンを駆動回路22から静電アクチュエータ20に与えるように駆動回路22を制御することとなる。
上述したように、静電アクチュエータ20に可動子11の移動を検知するセンサを設けなくとも、或いは、目視によって静電アクチュエータ20内で可動子11が適切に移動していることを確認しなくとも、静電アクチュエータを組み込んだ機器を測定することによって可動子11が適切に移動されていることを検知することが可能となる。