JP3820963B2 - 鍵盤楽器の鍵盤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鍵盤楽器の鍵盤に関し、特に重さ調整用の重りの材料として鉛以外の材料を使用した鍵盤に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般のピアノ、電子ピアノなどの鍵盤楽器において、鍵の重さは演奏者にとってタッチ感に微妙な差異を感じさせ、心理的に演奏内容に大きな影響を与えるため、鍵の重さ、すなわち鍵タッチの重さを全ての鍵盤に対してまたは各音域毎に一様に揃えることが要求される。この鍵タッチの重さは原則的には各演奏者の好みに合わせて調整されるものであるが、実際には楽器の製作時において標準の重さに設定している。鍵タッチの調整方法としては、グランドピアノの鍵盤の場合、図7および図8に示すように鍵盤1の回動支点Oより前端部寄りに両側面に貫通する直径10mm程度の重り埋設孔2を鍵盤1の長手方向に適宜間隔をおいて所要個数形成し、この重り埋設孔2に円柱状に形成した重り3をはめ込んでいる。重り3の材料としては鉛が用いられる。鉛を用いる理由は、比重が大きく柔軟性を有し、加圧手段(ビット)4によって押圧してその両端の外周部を外側に塑性変形させて重り埋設孔2の内壁に食い込ませると重り埋設孔2からの脱落を防止することができるためである。なお、5は弦を打撃するためのアクション機構で、押鍵操作時に鍵盤1の上面後端部に突設したキャプスタンスクリュー6によって突き上げられると、ハンマー7が当該鍵盤1に対応する弦を打撃するように構成されている。8は、鍵盤1の前端部上面および前面を覆うカバーで、通常白鍵、黒鍵ともに合成樹脂が用いられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
重り3の材料として用いられる鉛は、安価で比重(11.34)が工業用金属中で最も大きく、また柔軟であらゆる形状にたやすく加工でき、重り埋設孔2への圧入固定が容易であることから、鍵盤1のバランサとして欠かせない材料とされている。しかしながら、鉛は重金属であり、人体や自然環境に有害な物質であるため、環境保全の観点から使用しないことが望ましい。
【0004】
このため、最近では以下に列記するように鉛以外の代替材料からなる重りを用いた鍵盤が種々提案されている。
【0005】
特開2001−142454号公報に記載された鍵盤は、鉛以外の材料と弾性材料を所定の配合割合で互いに混合した所定の比重を有する弾性複合材料で重りを形成している。
【0006】
特開2001−147685号公報に記載された鍵盤は、弾性材料によって形成した筒体と、鉛以外の複数種類の材料を所定の比重を有するように所定の配合割合で混合した複合材料によって形成した円柱状の重り本体の2部材で重りを構成し、重り本体を前記筒体に着脱自在にはめ込むようにしている。
【0007】
特開2001−154661号公報に記載された鍵盤は、鉛以外の金属およびプラスチックを所定の配合割合で混合した複合材料によって重りを成形し、その外周面に多数の小さな突子を設けている。
【0008】
特開2001−175248号公報に記載された鍵盤は、鉛、水銀および軽金属を除く金属と流動性を有する材料を混合して鍵盤の重り埋設孔に流し込み、流動性を有する材料を固化させることで重りを形成している。金属材料としては、銅、黄銅、鉄、タングステン等を用い、流動性を有する材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、低融点合金、有機系接着剤等を用いている。
【0009】
特開2001−195056号公報に開示された鍵盤は、熱収縮性プラスチックによって形成したスリーブ状の筒体と、鉛以外の金属によって円柱状に形成され前記筒体内に収納された重り本体とで重りを構成している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来の鍵盤はいずれも以下に述べるような問題があり、未だ改良の余地があった。すなわち、特開2001−142454号公報に記載された鍵盤は、重りを鉛以外の材料と弾性材料とからなる弾性複合材料によって円柱状に形成して鍵盤の埋設孔に圧入しているため、或程度の固定力を確保することができるが、製造誤差によって重り埋設孔の穴径と重りの外径の寸法公差が大きいと、重りが回転したりがたついて安定した状態での固定が得られず、雑音の原因となったり重り埋設孔から脱落するといったおそれがある。
【0011】
特開2001−147685号公報に記載された鍵盤は、筒体と重り本体との寸法公差が大きいと、同じく重り本体ががたついて雑音の原因となったり筒体から脱落するおそれがある。
【0012】
特開2001−154661号公報に記載された鍵盤は、重りの外周に多数の小さな突子を突設しているため、鍵盤との結合強度を或程度確保することができるが、突子の形状が重りの軸線方向において対称な半球状をしているため、重り埋設孔の内壁との引っ掛かりが悪く、挿入、反挿入方向のいずれにも抜け易いという問題がある。
【0013】
特開2001−175248号公報等に開示された鍵盤は、流動性を有する材料を鉛以外の金属とともに鍵盤の重り埋設孔に流し込んで固化させているため、流動性材料の量が多いと重り埋設孔から漏出して鍵盤の美観を損ない、少なすぎると金属の固着強度が弱く、がたついたり脱落するおそれがあり、流動性材料の使用量をコントロールすることが難しい。
【0014】
特開2001−195056号公報に記載された鍵盤は、上記した特開2001−142454号公報と同様に重り埋設孔の穴径と筒体の外径の寸法公差が大きいと、重りが回転したりがたついて雑音の原因となったり重り埋設孔から脱落するおそれがある。
【0015】
本発明は上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、鉛以外の金属からなる重りを鍵盤に対して容易にかつ確実に取付けることができ、重りが回転したり、がたついたり、脱落することがないようにした鍵盤楽器の鍵盤を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、鍵盤の側面所定箇所に重り埋設孔を形成し、この重り埋設孔に鉛以外で比重の大きな材料によって形成した重りを嵌合した鍵盤楽器の鍵盤において、前記重りを六角柱状に形成し、その外周に複数個の環状溝を重りの軸線方向に離間させて形成したものである。
この発明においては、重りの角部と環状溝の溝縁が重り埋設孔の内壁に食い込むことで重りの軸線方向の移動を規制し、脱落が防止される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明をピアノの鍵盤に適用した第1の実施の形態を示す斜視図、図2は図1のII−II線断面図である。なお、従来技術の欄で示した構成部材等と同一のものについては同一符号をもって示し、その説明を適宜省略する。これらの図において、1はエゾ松等の木材によって製作された鍵盤で、前端部寄りの所定箇所には両側面に開口する2つの重り埋設孔2が形成されており、これらの重り埋設孔2に鍵タッチ調整用の重り11が圧入固定されている。
【0020】
前記重り11は、円柱状ではあるが外周に環状体からなる複数個の抜け防止用突部12が軸線方向に形成されている。この抜け防止用突部12は、重り11の軸線と略直交する垂直面12aと、軸線に対して所定角度で交差する斜面12bとを有することにより重り11の軸線方向において非対称な山形形状の突部からなり、このため、台形の円板11a〜11eを軸線を一致させて複数個積み重ねたような形状を呈しており、小径側端部から重り埋設孔2に圧入され、各円板11a〜11eの大径側端部13が前記重り埋設孔2の穴径より若干大きい外径を有して重り埋設孔2の内壁に食い込む引掛かり部を形成することで圧入方向(矢印方向)とは反対方向への抜けが防止される。抜け防止用突部12の最大外径は、重り埋設孔2の内径より大きく、圧入時に鍵盤1に割れが生じない程度の外径とされる。また、圧入方向への抜けも防止される。その理由は、挿入端側の抜け防止用突部12が重り埋設孔2の内壁面で挿入側とは反対側開口端付近を塑性変形させていないことによる。
【0021】
このような重り11の材質としては、鉛や水銀以外で比重が大きく有害でない金属、例えば鉄、黄銅、タングステン、燒結金属、またはこれら金属のうちの少なくともいずれか1つと合成樹脂とを所定の割合で混合した複合材料が用いられる。特に、タングステンの場合は、比重が19.24で鉛より重いため、合成樹脂との混合割合によっては鉛と同等の比重とすることができる。また、複合材料の場合は常温における硬度が鍵盤1の硬度より十分に高く設定されていることが望ましい。合成樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、またはABS樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられる。金属と合成樹脂の混合割合は、一般的には、重り11の密度を大きくするために金属材料の量を多くすることが望ましい。また、鉄で重り11を形成する際には、表面に防錆処理を施すことが望ましい。
【0022】
図3は本発明の第2の実施の形態を示す斜視図である。
この実施の形態においては、上記した実施の形態と同様に重り15を鉛や水銀以外で比重が大きく有害でない金属、例えば鉄、黄銅、タングステン、燒結金属、またはこれら金属のうちの少なくともいずれか1つと合成樹脂とを所定の割合で混合した複合材料によって円柱状に形成し、その外周面に抜け防止用突部としての突子16を軸線方向に複数個突設している。突子16は、重り15の周方向において対称な2つの斜面16a,16bと、軸線に対して略垂直な垂直面16cとからなる三角錐の突子からなり、重り15の円周方向に等間隔をおいて四列突設され、斜面16a,16b側から鍵盤の重り埋設孔2(図2)に圧入されると、頂部18が重り埋設孔の内壁に食い込む引掛かり部を形成することで圧入方向(矢印方向)とは反対方向への抜けが防止される。突子16の突出高さおよび大きさは、重り15の圧入時に鍵盤1に割れが生じない程度の高さおよび大きさとされる。
【0023】
図4は本発明の第3の実施の形態を示す斜視図である。
この実施の形態においては、上記した実施の形態と同様に重り20を鉛や水銀以外で比重が大きく有害でない金属、例えば鉄、黄銅、タングステン、燒結金属、またはこれら金属のうちの少なくともいずれか1つと合成樹脂とを所定の割合で混合した複合材料によって円柱状に形成し、その外周面に抜け防止用突部としての断面形状が三角形の螺条21を一体に突設している。螺条21は、右ねじ、左ねじのいずれでもよいが、断面形状が軸線方向において非対称で、圧入方向の斜面21aの傾斜角度が圧入方向と反対側の斜面21bより小さく設定されていることが望ましい。これは、緩みによる圧入方向と反対方向の抜けを防止するためである。圧入するときは、ねじ込むようにすればよい。
【0024】
図5は本発明の第4の実施の形態を示す斜視図である。
この実施の形態においては、重り23を鉛や水銀以外で比重が大きく有害でない金属、例えば鉄、黄銅、タングステン、燒結金属、またはこれら金属のうちの少なくともいずれか1つと合成樹脂とを所定の割合で混合した複合材料によって六角柱状に形成し、その外周面に複数個の環状溝24を軸線方向に離間させて形成している。環状溝24としては、半円形、矩形、V字状等適宜な形状の溝とすることが可能である。重り23の重り埋設孔への挿入方向は、左右いずれ側からであってもよく、環状溝24の溝縁24aが重り埋設孔の内壁に食い込む引っ掛かり部を形成することで抜けが防止される。
【0025】
図6(a)、(b)は本発明の第5の実施の形態を示す分解斜視図および断面図である。
重り本体32は、鉛や水銀以外で比重が大きく有害でない金属、例えば鉄、黄銅、タングステン、燒結金属、またはこれら金属のうちの少なくともいずれか1つと合成樹脂とを所定の割合で混合した複合材料によって樽型に形成されることにより、中央部の外径が最も大きく、両端に向かってテーパ状に小径化している。また、中央部の外径は、埋設孔の内径より大きく設定されている。このような重り30は、この実施の形態においては、重り30を、筒体31と、この筒体31に圧入される重り本体32の2部材で構成してもよい。筒体31は、合成樹脂、ゴム等によって形成されることにより弾性を有し、鍵盤の重り埋設孔に嵌挿される。筒体31の外径は、嵌着を容易にするために重り埋設孔の穴径より若干小さく設定されている。予め筒体31を鍵盤の重り埋設孔に嵌着しておき、しかる後この筒体31に重り本体32を圧入することで取付けられる。これにより、筒体31の中央部が拡径化して重り埋設孔の内壁に圧接することで重り30の回転、がたつきおよび抜けが防止される。
【0026】
このような構造からなる鍵盤においては、いずれの実施の形態においても重りを鍵盤1の重り埋設孔2に圧入するだけで容易に取付けることができる。すなわち、図1〜図4に示す実施の形態においては、重り11,15,20の外周に突設した抜け防止用突部12、突子16または螺条21が楔作用によって重り埋設孔2の内壁に食い込み、図5に示す実施の形態においては、環状溝24の溝縁24aが重り埋設孔2の内壁に食い込み、図6に示す実施の形態においては、重り本体32が筒体31を内側から拡径化して重り埋設孔2の内壁に圧接するので、接着剤で固着する必要がなく簡単にかつ確実に固定でき、回転したり、軸線または径方向にがたついたり、重り埋設孔2から脱落するのを確実に防止することができる。
特に、図5に示した実施の形態においては、重りが六角形であるため、回転防止用の突子を設けなくても回転を確実に防止することができる。また、図6に示した実施の形態においては、重り本体32を樽型に形成することで中央部の外径が最も大きく、端部が細く形成されているので、筒体31への圧入作業を容易に行うことができる。
【0027】
さらに、いずれの実施の形態も人体や自然環境に有害な鉛を一切使用していないので、環境汚染の問題を解消することができる。
【0028】
なお、上記した実施の形態においては、ピアノの鍵盤に適用した例を示したが、本発明はこれに何等特定されるものではなく、電気ピアノ、電子ピアノ等の鍵盤楽器の鍵盤にも適用することが可能である。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係る鍵盤楽器の鍵盤は、鉛や水銀以外で比重の大きな金属、またはこれら金属のうちの少なくともいずれか1つと合成樹脂との複合材料によって形成した重りを用いているので、環境問題を引き起こすおそれがなく、また鍵盤の重り埋設孔に対して取付作業が容易で確実に固定でき、重りの回転、がたつきおよび抜けを確実に防止することができる。
特に、外周に抜け防止用突部を突設した重りにおいては、この突部が重り埋設孔の内壁に食い込むことで、重りの回転および抜けをより一層確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明をピアノの鍵盤に適用した第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】 図1のII−II線断面図である。
【図3】 本発明の第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図4】 本発明の第3の実施の形態を示す斜視図である。
【図5】 本発明の第4の実施の形態を示す斜視図である。
【図6】 (a)、(b)は本発明の第5の実施の形態を示す分解斜視図および断面図である。
【図7】 従来の重りを備えたピアノの鍵盤を示す側面図である。
【図8】 鍵盤の断面図である。
【符号の説明】
1…鍵盤、2…重り埋設孔、3…重り、4…ビット、5…アクション機構、11…重り、12…抜け防止用突部、15…重り、16…突子、20…重り、21…螺条、23…重り、24…環状溝、30…重り、31…筒体、32…重り本体。
Claims (1)
- 鍵盤の側面所定箇所に重り埋設孔を形成し、この重り埋設孔に鉛以外で比重の大きな材料によって形成した重りを嵌合した鍵盤楽器の鍵盤において、
前記重りを六角柱状に形成し、その外周に複数個の環状溝を重りの軸線方向に離間させて形成したことを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤。
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