JP3819542B2 - エリスリトールの精製方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
【0002】
本発明は、エリスリトールの精製方法に関する。
【0003】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
【0004】
エリスリトールは、地衣類、キノコ類、果実類(梨、ブドウ、スイカ、メロン等)に含まれる四炭糖の糖アルコールである。
【0005】
エリスリトールは、体内ではほとんどエネルギーにならず、砂糖の約75%の甘味度の甘味料であり、非う蝕性であること、大きな冷涼感があること、吸湿性が低いこと、矯味・矯臭効果が高いこと、緩下作用が小さいこと等、多くのすぐれた特性を有することから、飲料やキャンデー等の数多くの食品に利用されているばかりでなく、化粧品、医薬品にも利用されている。
【0006】
エリスリトールは、通常、グルコースをエリスリトール生産菌により培養させることで産出される。その具体的な製造方法としては、モニリエラ・トメントサ・バール・ポリニス(Moniliella Tomentosa Var. Pollinis)、カンジダ・ポリモルファ(Candida Polymorpha)、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis Variabilis)、オーレオバシディウム(Aureobasidium)等のエリスリトール生産菌を用いた方法がアプライド・マイクロバイオロジー(Applied Microbiology)第12巻3号第240−246頁(1964年)、特公昭37−3546号公報、特公平4−11189号公報、特公平6−30593号公報等、多くの文献や特許公報に紹介されている。
【0007】
これらのエリスリトール生産菌を用いてグルコースを培養して得られたエリスリトール含有培養液は、通常、そこから菌体を遠心分離等で除去した後、活性炭を用いて着色物質等を除去し、イオン交換樹脂による精製処理を行い、濃縮して結晶化することによりエリスリトールの結晶が製造される。
【0008】
しかし、一般にエリスリトール生産菌の培養による生産方法では、エリスリトールの他にグリセリンやリビトール等が生産されるばかりでなく、エリスリトール生産菌体の他に酵母エキス、尿素等の窒素源、硫酸マグネシウム、リン酸2ナトリウム等の無機塩等が添加される為に、その培養液の精製負荷が極めて大きく、精製に多量のイオン交換樹脂を必要とし、使用したイオン交換樹脂の再生で発生する廃水処理量も膨大なものとなる。
【0009】
更に、通常の活性炭処理やイオン交換樹脂精製処理を行っただけの濃縮液には濁りが生じ、その濃縮液から分離したエリスリトールの結晶を再び水に溶解させるとまたこの濁りが生じる。この濁りは培養工程で生成するグルコースを主成分とする多糖類であることは既に知られており、通常の活性炭処理や、イオン交換樹脂を充填した塔を通液するだけでは除去されず、更に、この多糖類は結晶化工程で析出するエリスリトールの結晶を微細化するため、結晶と結晶母液の分離を困難にする。
【0010】
この多糖類を除去する方法としては、エリスリトール生産菌を培養して得られたエリスリトール含有の培養液を分画分子量が1,000〜100,000の限外濾過膜により濾過し、エリスリトールを回収する方法(特公平7−34750号公報)、該培養液をアルカリ金属若しくはアンモニウム型の強酸性カチオン交換樹脂を充填した分離塔に通してエリスリトールを主成分とする画分を分取することでエリスリトールを回収する方法(特公平7−34748号公報および特開平1−320987号公報)が報告されている。
【0011】
しかし、限外濾過膜はその装置が高価であるばかりか定期的に膜表面の洗浄を行う必要がありその管理が繁雑であること、また、強酸性カチオン交換樹脂を充填した分離塔による分画方法では処理液の濃度が希薄となり引き続く工程の濃縮費用が高価となること、及びエリスリトールの回収率も低下する等の課題が残されていた。
【0012】
本発明は、上記課題を解決し、エリスリトール含有培養液を経済的且つ容易に精製する方法を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、グルコースを原料としてエリスリトール生産菌の培養により得たエリスリトール含有培養液から菌体を除去した後、該エリスリトール含有培養液を特定の濃度以上に濃縮することで培養時に生成した多糖類が不溶性物質として容易に析出すること、しかも該不溶性物質の粒径が濾別可能な粒径にまで成長すること、及び一度析出した多糖類を含む不溶性物質は再度加熱するか又は水を加えて濃縮前の濃度に調整してもほとんど再溶解しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の課題を解決するための手段は、下記の通りである。
【0016】
第1に、グルコースを原料としてエリスリトール生産菌の培養により得たエリスリトール含有培養液から菌体を除去した後、該培養液中のエリスリトール濃度を20重量%以上に濃縮することで生成する不溶性物質を該培養液から分離することを特徴とするエリスリトールの精製方法である。
第2に、不溶性物質を該培養液から分離するに際し、孔径0.1〜10μmのフィルターを使用することを特徴とする第1に記載のエリスリトールの精製方法である。
【0017】
本発明の精製には、モニリエラ・トメントサ・バール・ポリニス、カンジダ・ポリモルファ、トリゴノプシス・バリアビリス、オーレオバシディウム等の通常使用されるエリスリトール生産菌体を用いてグルコースを培養したエリスリトール含有培養液が使用される。
【0018】
エリスリトール生産菌体を用いてグルコースを培養したエリスリトール含有培養液から菌体を除去するには、遠心分離やフィルター等が使用される。
【0019】
菌体を除去した後のエリスリトール含有培養液は、エリスリトール濃度を20重量%以上、好ましくは20〜60重量%に濃縮することで、エリスリトール含有培養液中に含まれる多糖類が不溶性物質として析出する。
【0020】
エリスリトール含有培養液のエリスリトール濃度が20重量%未満での濃縮は、不溶性物質の析出が不十分で、引き続き通常の精製をした後、結晶化することで得られたエリスリトール結晶は、再び水に溶解した場合にはその水溶液に濁りが生じることがある。
【0021】
また、エリスリトール含有培養液のエリスリトール濃度が60重量%を越える濃縮では、多糖類は不溶性物質として析出するが、エリスリトール結晶が多量に析出してしまい、結果として、不溶性物質とエリスリトールを分離することが困難となるので好ましくない。
【0022】
菌体を除去した後のエリスリトール含有培養液を濃縮することで析出する多糖類を含む不溶性物質は、フィルターを使用して濾過することができる。
【0023】
該濾過には、孔径0.1〜10μm、好ましくは0.4〜2μmのセルロースろ紙、ガラス繊維フィルター、ポリフロン・フィルター等を用いて遠心分離、吸引濾過、加圧濾過等の方法を採用できるが、活性炭や濾過助剤等を予め濃縮したエリスリトール含有培養液に加えて濾過するか、または濾過器にプレコートすることが濾過作業を容易とするばかりでなく、培養液に含まれる着色物質やその他の活性炭や濾過助剤等への吸着性物質を同時に除去できるので好ましい。
【0024】
本発明者等は、菌体を除去した後のエリスリトール含有培養液を濃縮することで析出する多糖類を含む不溶性物質が、再度加熱しても、また、水を加えて濃縮前の濃度に調整してもほとんど溶解しないことを見出した。
【0025】
従って、菌体を除去した後のエリスリトール含有培養液を濃縮した後に、不溶性物質とともにエリスリトール結晶が析出した場合には、該濃縮液を加熱することでエリスリトール結晶を溶解し、再度エリスリトール結晶が析出しない温度で濾過することで、不溶性物質のみを濾別することができる。
【0026】
また、菌体を除去した後のエリスリトール含有培養液を濃縮した後に、不溶性物質とともにエリスリトール結晶が析出した場合には、析出したエリスリトール結晶が溶解するに十分な量の水を加えてエリスリトール結晶のみを溶解した後、不溶性物質を濾別することもできる。
【0027】
菌体を除去した後のエリスリトール含有培養液の濃縮液から不溶性物質が析出するに要する時間は、濃縮液の濃度により異なるが、濃縮液が濃い場合には数時間で充分であり、また、濃縮液が薄い場合には1日以上静置するのが好ましく、また、ゆっくりと撹拌しながら徐冷することで不溶性物質の粒子径を大きくすることができ、本発明の効果を十分に得ることができる。
【0028】
得られた濾液は、必要により通常実施される活性炭やイオン交換樹脂を用いた精製処理を行い、濃縮結晶化することで、溶解しても白濁しないエリスリトール結晶を得ることができる。
【0029】
【実施例】
【0030】
以下に実施例をあげて更に具体的に本発明の方法を説明するが、本発明の技術的範囲は以下の例に制限されるものではない。
【0031】
また、以下の実施例において、%は特に断らない限り重量%を表わすものとする。
【0032】
尚、エリスリトールの純度は高速液体クロマトグラフィーを用いて分析し、エリスリトール結晶を水に溶解した時の水溶液の白濁の程度は、日本分光(株)製分光光度計Ubest−55により、セル長10センチメートルのセルを使用して、波長660mμでその吸光度(OD660)を測定し比較した。
【0033】
【実施例1】
[エリスリトール含有培養液の調製]
【0034】
無水結晶ブドウ糖112g/リットル及びコーンステープリカー11.2g/リットルを含む培地にモニリエラ・トメントサ・バール・ポリニス(CBS 461.67)を接種し、30℃で4日間振とう培養することで前培養液を得た。
【0035】
次に、容量30リットルのジャーファーメンターに無水結晶ブドウ糖3kg、コーンステープリカー225g、前培養液800ミリリットル及び水を加えて全量を15リットルとし、空気量15リットル/分、撹拌速度500rpm、温度30℃にて12日間培養した。
【0036】
次に、遠心分離により培養液から菌体を分離し、エリスリトール75.2g/リットル、グリセリン5.3g/リットル及びその他の物質6.8g/リットルを含むエリスリトール含有培養液を得た。
【0037】
[精製]
【0038】
得られたエリスリトール含有培養液10リットルをエリスリトール濃度60%まで濃縮した。温度60℃にて、該濃縮液に活性炭(武田薬品工業(株)製「白さぎ」)3gを加え一時間撹拌した後、水を加えてエリスリトール濃度40%に調整し、孔径2.0μmのポリフロン・フィルターPFO−20(アドバンテック(株)製)で活性炭及び不溶性物質を濾別した。
【0039】
濾液はカチオン樹脂IR−120B(オルガノ(株)製)100ミリリットルを充填したカラム及びアニオン交換樹脂IRA−410(オルガノ(株)製)200ミリリットルを充填したカラムに通液した後、固形物濃度65%まで濃縮し、容量1リットルの撹拌機付き結晶化装置に移し、16時間かけて温度70℃から35℃まで徐々に冷却し、途中、種晶としてエリスリトール結晶1gを添加することで、エリスリトール結晶を含むスラリーを得た。
【0040】
該スラリーは、遠心分離器でエリスリトール結晶と結晶化母液に分離し、エリスリトール結晶は少量の水で洗浄した後、減圧下、温度60℃にて乾燥することにより、エリスリトール結晶346gを得た。この時のエリスリトールの純度は99.9%であり、その一部を水に溶解し、エリスリトール濃度30%の水溶液を調整したところ、この水溶液は無色透明であって白濁は見られなかった。更に、この水溶液のOD660は0.000であった。
【0041】
【実施例2】
【0042】
実施例1と同様の方法で得たエリスリトール含有培養液10リットルをエリスリトール濃度40%に濃縮した。この濃縮液を温度40℃にて1日間ゆっくりと撹拌した後、活性炭(武田薬品工業(株)製「白さぎ」)3gを加え、更に一時間撹拌した後、孔径1.0μmのろ紙No.5C(アドバンテック(株)製)で活性炭及び不溶性物質を濾別した。
【0043】
濾液はカチオン樹脂IR−120B(オルガノ(株)製)100ミリリットルを充填したカラム及びアニオン交換樹脂IRA−410(オルガノ(株)製)200ミリリットルを充填したカラムに通液した後、固形物濃度65%まで濃縮し、容量1リットルの撹拌機付き結晶化装置に移し、16時間かけて温度70℃から35℃まで徐々に冷却し、途中、種晶としてエリスリトール結晶1gを添加することで、エリスリトール結晶を含むスラリーを得た。
【0044】
該スラリーは、遠心分離器でエリスリトール結晶と結晶化母液に分離し、エリスリトール結晶は少量の水で洗浄した後、減圧下、温度60℃にて乾燥することにより、エリスリトール結晶339gを得た。この時のエリスリトールの純度は99.9%であり、その一部を水に溶解し、エリスリトール濃度30%の水溶液を調整したところ、この水溶液は無色透明であって白濁は見られなかった。更に、この水溶液のOD660は0.000であった。
【0045】
【実施例3】
【0046】
実施例1と同様の方法で得たエリスリトール含有培養液10リットルをエリスリトール濃度25%に濃縮した。この濃縮液を温度20℃にて1日間ゆっくりと撹拌した後、活性炭(武田薬品工業(株)製「白さぎ」)3gを加え、更に一時間撹拌した後、孔径0.4μmのガラス繊維フィルターGB−140(アドバンテック(株)製)で活性炭及び不溶性物質を濾別した。
【0047】
濾液はカチオン樹脂IR−120B(オルガノ(株)製)100ミリリットルを充填したカラム及びアニオン交換樹脂IRA−410(オルガノ(株)製)200ミリリットルを充填したカラムに通液した後、固形物濃度65%まで濃縮し、容量1リットルの撹拌機付き結晶化装置に移し、16時間かけて温度70℃から35℃まで徐々に冷却し、途中種晶としてエリスリトール結晶1gを添加することで、エリスリトール結晶を含むスラリーを得た。
【0048】
該スラリーは、遠心分離器でエリスリトール結晶と結晶化母液に分離し、エリスリトール結晶は少量の水で洗浄した後、減圧下、温度60℃にて乾燥することにより、エリスリトール結晶348gを得た。この時のエリスリトールの純度は99.9%であり、その一部を水に溶解し、エリスリトール濃度30%の水溶液を調整したところ、この水溶液は無色透明であって白濁は見られなかった。更に、この水溶液のOD660は0.000であった。
【0049】
【参考例】
【0050】
実施例1と同様の方法で得たエリスリトール含有培養液10リットルに活性炭(武田薬品工業(株)製「白さぎ」)3gを加え、温度50℃にて1時間撹拌した後、孔径0.4μmのガラス繊維フィルターGB−140(アドバンテック(株)製)で濾過した。
【0051】
濾液はカチオン樹脂IR−120B(オルガノ(株)製)100ミリリットルを充填したカラム及びアニオン交換樹脂IRA−410(オルガノ(株)製)200ミリリットルを充填したカラムに通液した後、濃度65%まで濃縮し、容量1リットルの撹拌機付き結晶化装置に移し、16時間かけて温度70℃から35℃まで徐々に冷却し、途中種晶としてエリスリトール結晶1gを添加することで、エリスリトール結晶を含むスラリーを得た。
【0052】
該スラリーは、遠心分離器でエリスリトール結晶と結晶化母液に分離し、エリスリトール結晶は少量の水で洗浄した後、減圧下、温度60℃にて乾燥することにより、エリスリトール結晶340gを得た。この時のエリスリトールの純度は99.9%であり、その一部を水に溶解し、エリスリトール濃度30%の水溶液を調整したところ、この水溶液は白濁した。更に、この水溶液のOD660は0.07であった。
【0053】
【発明の効果】
【0054】
本発明を実施することにより、エリスリトール含有培養液を経済的且つ容易に精製することができる。
Claims (2)
- グルコースを原料としてエリスリトール生産菌の培養により得たエリスリトール含有培養液から菌体を除去した後、該培養液中のエリスリトール濃度を20重量%以上に濃縮することで生成する不溶性物質を該培養液から分離することを特徴とするエリスリトールの精製方法。
- 不溶性物質を該培養液から分離するに際し、孔径0.1〜10μmのフィルターを使用することを特徴とする請求項1に記載のエリスリトールの精製方法。
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JP16789497A JP3819542B2 (ja) | 1997-06-11 | 1997-06-11 | エリスリトールの精製方法 |
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JP16789497A JP3819542B2 (ja) | 1997-06-11 | 1997-06-11 | エリスリトールの精製方法 |
Publications (2)
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JPH11188A JPH11188A (ja) | 1999-01-06 |
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JP16789497A Expired - Lifetime JP3819542B2 (ja) | 1997-06-11 | 1997-06-11 | エリスリトールの精製方法 |
Country Status (1)
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-
1997
- 1997-06-11 JP JP16789497A patent/JP3819542B2/ja not_active Expired - Lifetime
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