JP3819082B2 - 光学活性3−n置換アミノイソ酪酸類およびその塩ならびにそれらの製造方法 - Google Patents

光学活性3−n置換アミノイソ酪酸類およびその塩ならびにそれらの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬、農薬、液晶等の原料または中間体としてきわめて有用な光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩ならびにそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸類は、メタクリル酸エステルにアミンを付加させることで容易に合成することができることが報告されている(J. Org. Chem., 1958, 18, 898 、Zh. Obshch. Khim. 1957, 27, 3302、Liebigs Ann. Chem., 1958, 608, 22 、Ann. Chim. (Paris), (12)9, 1954, 674、特開平4-66580 号公報および特開昭54-30178号公報参照)が、それらの光学活性体については何ら記載されていない。
【0003】
一方、Chem. Pharm. Bull., 1977, 25(6), 1319 には、光学活性1−フェニルエチルアミンをメタクリロニトリルに光学選択的に付加させ、2段階を経てα−メチル−β−アラニンを合成する方法が開示されている。さらに、Tetrahedron Asymmetry, 1992, 3(6),723 にも、光学活性アスパラギンを原料として6段階の反応を経て光学活性α−メチル−β−アラニンを合成する方法が開示されている。しかしながら、光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類の製造法については何ら開示されていない。
【0004】
また、J. Am. Chem. Soc., 1989, 111, 6354には、2−アシルアミノ酸の光学分割には有効であるアシラーゼが3−アシルアミノイソ酪酸の光学分割には適用することができないことが報告されている。
【0005】
光学活性3−アミノイソ酪酸の製造方法として、特開昭59-67252号公報記載の光学活性3−ヒドロキシイソ酪酸を出発原料とする方法が公知であるが、工業的に有利な方法とは言い難い。またこの方法によっても光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類は得られていない。
したがって、光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類と、その有効な合成方法の開発が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類を提供することにある。
また、本発明の課題は、光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、3−N置換アミノイソ酪酸のラセミ体エステルを光学選択的に加水分解する活性のある酵素および微生物を見出し、本発明を完成した。
本発明は、一般式(1) :
【0008】
【化4】
Figure 0003819082
【0009】
(式中、R1は水素原子またはアルキル基を示し、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、アシル基または置換もしくは非置換のアルキル基を示し、R2とR3とは直接または他の原子を介して互いに結合して両者に結合している窒素原子とともに3〜7員環を形成していてもよい。*が付された炭素原子は不斉炭素原子である。)
で表される光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩である。
また、本発明は、一般式(2) :
【0010】
【化5】
Figure 0003819082
【0011】
(式中、R4はアルキル基を示す。R2およびR3は前記のとおりである。また、R2とR3とは直接または他の原子を介して互いに結合して両者に結合している窒素原子とともに3〜7員環を形成していてもよい。)
で表されるラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルを、エステル不斉加水分解酵素の存在下で不斉加水分解することを特徴とする、上記一般式(1) で表される光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法である。
さらに、本発明は、一般式(2) :
【0012】
【化6】
Figure 0003819082
【0013】
(式中、R2、R3およびR4は前記のとおりである。また、R2とR3とは、直接または他の原子を介して互いに結合して両者に結合している窒素原子とともに3〜7員環を形成していてもよい。)
で表されるラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルを、アスペルギルス属(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、キャンディダ(Candida) 属、バシラス(Bacillus)属、シュウドモナス(Pseudomonas) 属またはエシェリキア(Esherichia)属に属し、エステル不斉加水分解能を有する微生物の培養物、菌体または菌体処理物の存在下で不斉加水分解することを特徴とする、上記一般式(1) で表される光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
【発明の実施の形態】
上記一般式(1) または(2) において、R1およびR4で表されるアルキル基は、通常、炭素原子数1〜4のアルキル基であり、直鎖状、分岐状のいずれの構造でもよい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert- ブチル等が例示される。
【0015】
上記一般式(1) または(2) において、R2およびR3で表されるアルキル基は、通常、炭素原子数1〜10のアルキル基であり、直鎖状、分岐状のいずれの構造でもよい。具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル等が例示される。また、このアルキル基は置換されていてもよく、置換基としてはハロゲン基、水酸基などが例示される。
【0016】
上記一般式(1) または(2) において、R2およびR3で表されるアシル基は、通常、炭素原子数1〜10のアシル基であり、直鎖状、分岐状のいずれの構造でもよい。具体的には、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル等が例示される。
【0017】
上記一般式(1) または(2) において、R2とR3とは、直接または他の原子を介して互いに結合して両者に結合している窒素原子とともに3〜7員環を形成していてもよい。ここで、他の原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が例示される。R2とR3とが結合して窒素原子とともに形成する環としては、アジリジル、アゼチジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ホモピペリジニル、モルホリジル、ピペラジニル、ピラゾリジニル等が挙げられる。このような環を形成している3−N置換アミノイソ酪酸類としては、例えば、下記一般式(3) :
【0018】
【化7】
Figure 0003819082
【0019】
(式中、nは2〜6の整数であり、R1は前記のとおりである。)
で表される、上記一般式(1) 中のR2とR3とが互いに結合して炭素原子数2〜6のアルキレン基を形成し、両者に結合している窒素原子とともに環を形成している化合物が挙げられる。
【0020】
本発明の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類の塩としては、カルボン酸塩としてナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が例示され、アミン塩として塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の鉱酸塩、及び酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、フマル酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩等の有機酸塩が例示される。
【0021】
本発明の光学活性化合物は以下の方法で製造することができる。
原料としては、上記一般式(2) で表されるラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルを用いる。このラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルは、従来公知の方法により容易に合成することができる。即ち、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)等のメタクリル酸エステルに、ピペリジン、ピロリジン、ジメチルアミン等のアミンを反応させることにより合成することができる。
【0022】
また、R2および/またはR3がアシル基であるラセミ体3−アシルアミノイソ酪酸エステルは、ラセミ体3−アミノイソ酪酸をN−アシル化し、次いでエステル化することにより製造することができる。
【0023】
ラセミ体3−アミノイソ酪酸は、メタクリル酸にアンモニアを付加する方法、またはメタクリロニトリルにアンモニアを付加した後に酸、アルカリ、酵素などを用いて加水分解する方法により製造することができる。但し、これらの方法においては、選択的にラセミ体3−アミノイソ酪酸または3−アミノイソブチロニトリルを製造することが困難である。というのは、アンモニア付加反応において生成する3−アミノイソ酪酸または3−アミノイソブチロニトリルは、更にそれぞれメタクリル酸またはメタクリロニトリルと反応し易く、2級アミンおよび/または3級アミンが生成するからである。この2級アミンおよび/または3級アミンの3−アミノイソ酪酸または3−アミノイソブチロニトリルからの分離は困難であり、したがって、これらの方法で純度の高いラセミ体3−アミノイソ酪酸または3−アミノイソブチロニトリルを得ることは困難である。
【0024】
そこで、選択的にラセミ体3−アミノイソ酪酸を得るため、2−クロロプロピオン酸またはその誘導体とシアン化アルカリを反応させ、得られた2−メチルシアノ酢酸またはその誘導体を、ニッケル、パラジウム−炭等の還元触媒の存在下で接触還元する方法によりラセミ体3−アミノイソ酪酸を製造するのが好ましい。
【0025】
ラセミ体3−アミノイソ酪酸のN−アシル化は、通常、ラセミ体3−アミノイソ酪酸をアルカリ水溶液中に溶解させた後、塩化アシルまたは酸無水物と反応させることにより行われる。
【0026】
N−アシル化により得られたラセミ体3−アシルアミノイソ酪酸のエステル化は、通常、ラセミ体3−アシルアミノイソ酪酸をアルコールに溶解させた後、塩化チオニル、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの脱水剤を添加することにより行われる。また、アルコールは予め脱水したものを用いるのが好ましい。
【0027】
本発明において使用する酵素は、ラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルを不斉加水分解して光学活性3−N置換アミノイソ酪酸およびその対掌体エステルを製造する能力を有するエステル不斉加水分解酵素であれば酵素の種類、その製造源を問わない。例えば、各種のリパーゼ、プロテアーゼ、エステラーゼ等が使用可能であり、その中でも、アルカリプロテアーゼ、ブロメライン、トリプシンおよびニューラーゼが好ましい。
【0028】
エステル不斉加水分解酵素としては、エステル不斉加水分解能を有する微生物から分離されたものを使用することができる。エステル不斉加水分解能を有する微生物としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、キャンディダ(Candida) 属、バシラス(Bacillus)属、シュウドモナス(Pseudomonas) 属、エシェリキア(Esherichia)属等に属する微生物が挙げられる。また、微生物としては、エステル不斉加水分解酵素をコードする遺伝子により形質転換された形質転換体も挙げることができる。アスペルギルス属に属し、エステル不斉加水分解能を有する微生物としては、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・ソジャエ(Aspergillus sojae) 、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger) 等が挙げられる。リゾプス属に属し、エステル不斉加水分解能を有する微生物としては、例えば、リゾプス・ニヴェウス(Rhizopus niveus) 等が挙げられる。キャンディダ属に属し、エステル不斉加水分解能を有する微生物としては、例えば、キャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)等が挙げられる。バシラス属に属し、エステル不斉加水分解能を有する微生物としては、例えば、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis) 、バシラス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa) 等が挙げられる。シュウドモナス属に属し、エステル不斉加水分解能を有する微生物としては、例えば、シュウドモナス・プチダ(Pseudomonas putida)FERM BP 3846等が挙げられる。エシェリキア属に属し、エステル不斉加水分解能を有する微生物としては、例えば、エシェリキア・コリ(Escherichia coli) FERM BP 3835 等が挙げられる。このエシェリキア・コリ FERM BP 3835 は、シュウドモナス・プチダ(Pseudomonas putida)FERM BP 3846由来のエステラーゼをコードする遺伝子により形質転換された微生物である。
【0029】
また、エステル加水分解酵素としては、市販品を用いることができる。具体的には、リパーゼアマノA6(商品名、天野製薬製、アスペルギルス属由来酵素)、リパーゼアマノAP6(商品名、天野製薬製、アスペルギルス属由来酵素)、アマノニューラーゼF(商品名、天野製薬製、リゾプス属由来酵素)、SIGMAニューラーゼ(タイプXVIII)(商品名、リゾプス属由来酵素)、名糖リパーゼOF(商品名、名糖産業製、キャンディダ属由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプI)(商品名、牛膵臓由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプII)(商品名、アスペルギルス属由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプXIII)(商品名、アスペルギルス属由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプXV)(商品名、バシラス属由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプXVI)(商品名、バシラス属由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプXIX)(商品名、アスペルギルス属由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプXXIII)(商品名、アスペルギルス属由来酵素)、SIGMAプロテアーゼ(タイプXXXI)(商品名、バシラス属由来酵素)、SIGMAトリプシン(タイプII)(商品名、豚膵臓酵素)、Fluka リパーゼ(商品名、キャンディダ属由来酵素)、SIGMAブロメライン(商品名)、明治製菓アルカプロテアーゼ(商品名)、NOVOアルカラーゼ2.5L(商品名、バシラス属由来酵素)、NOBOディラザイム16.0L(商品名、バシラス属由来酵素)、NOVOエスペラーゼ8.0L(商品名、バシラス属由来酵素)、NOVOサビナーゼ16.0L(商品名、バシラス属由来酵素)、NOVOサビナーゼ6.0T(商品名、バシラス属由来酵素)、長瀬生化学工業ビオプラーゼコンク(商品名、バシラス属由来酵素)、長瀬生化学工業デナチームAP(商品名、アスペルギルス属由来酵素)等が例示される。
【0030】
本発明の製造方法においては、上記エステル不斉加水分解酵素を反応に供するに際しては、該酵素が活性を示す限りその使用の態様は特に限定されず、精製された酵素はもちろんのこと、酵素を安定化するためなどの添加剤、例えば、グリセロール、エチレングリコール、プロパンジオール等の多価アルコール類;乳糖、ソルビトール、セルロース、デキストリン等の糖類;無機塩等との混合物の状態で使用してもよい。また、上記のようなエステル加水分解能を有する微生物を培地中で培養して得られる培養物をそのままか、または該培養物から遠心分離などの集菌操作によって得られる菌体若しくはその処理物をも用いることができる。菌体処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液等が挙げられる。また、例えば、無細胞抽出物からゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー等により活性画分を回収することにより酵素を分離、精製することもできる。さらに、酵素または微生物は、適当な担体に固定化して用いることにより、反応終了後に回収して再利用することができる。固定化は、酵素または微生物を架橋したアクリルアミドゲル等に包括固定したり、イオン交換樹脂、ケーソー土等の固体担体に物理的、化学的に固定することにより行う。
【0031】
上記微生物の培養は、液体培地でも固体培地でも行うことができる。培地としては、微生物が通常資化しうる炭素源、窒素源、ビタミン、ミネラル等の成分を適宜配合したものが用いられる。微生物のエステル加水分解能を向上させるため、培地にエステル結合又はアミド結合を有する低分子化合物等の誘導剤等を少量添加することも可能である。培養は、微生物が生育可能である温度、pHで行われるが、使用する菌株の最適培養条件で行うのが好ましい。微生物の生育を促進させるため、通気攪拌を行う場合もある。
【0032】
ラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルを光学選択的に加水分解するには、ラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルを溶媒に溶解乃至懸濁し、触媒となるエステル不斉加水分解酵素または上記微生物の培養物、菌体もしくは菌体処理物を加えて、反応温度および必要により反応液のpHを制御しながら3−N置換アミノイソ酪酸エステルの半量程度が加水分解されるまで反応を続ける。場合によっては、初期の段階で反応を中止させたり、或いは過剰に反応させることもある。
【0033】
反応溶媒としては、通常、イオン交換水、緩衝液等の水性媒体を使用するが、有機溶媒を含んだ系でも反応させることができる。有機溶媒を反応系に存在させることにより、選択率、変換率、収率等が促進される場合が多い。反応溶媒として有機溶媒を含んだ系を用いる場合、有機溶媒が水に溶解した状態のものを使用してもよく、また、有機溶媒と水とが2相系を形成したものを使用してもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t-ブチルアルコール、t-アミルアルコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン等の芳香族および脂肪族炭化水素系溶媒等を適宜使用することができる。
【0034】
反応溶媒中の基質の濃度は、特に制限はなく、通常、 0.1〜70重量%であるが、基質となるラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルの溶解度、反応性等を考慮すると5〜40重量%が好ましい。
【0035】
反応溶媒中の酵素量は当該反応に対する酵素の触媒能力に応じて適宜調整すればよく、特に制限はないが、0.01〜20重量%の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは0.01〜5重量%の範囲である。
また、不斉加水分解反応の温度は5〜70℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。
【0036】
更に、反応液のpHは、用いる酵素、微生物等の至適pHにより異なるが、一般的には、pH6〜9.5 の範囲で行うのが好ましい。この範囲のpHで反応を行うことにより、化学的加水分解反応による光学純度の低下を抑制することができる。また、反応が進行するにつれて、生成したカルボン酸により反応液のpHが低下するが、この場合は適当な中和剤、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を加えることによって最適pHに維持することで反応の進行が促進される場合が多い。
【0037】
尚、以上のような反応溶媒、基質濃度、反応温度、酵素濃度、反応液のpH等の反応条件は、条件の相違による反応収率、光学収率、立体選択性の厳密さなどを考慮して、目的とする光学活性体が最も多く採取できる条件を選択する。通常、、反応が1時間〜1週間、好ましくは1〜72時間で終了するような反応条件を選択するのが好ましい。
【0038】
このような不斉加水分解反応により、光学活性3−N置換アミノイソ酪酸が生成する。また、未反応の残存基質は、生成した光学活性3−N置換アミノイソ酪酸の対掌体エステルとなる。
【0039】
生成した光学活性3−N置換アミノイソ酪酸およびその対掌体エステルの反応液からの単離は、蒸留、抽出、カラム分離等の一般的な単離法で行うことができる。例えば、触媒として微生物を使用した場合には、微生物の菌体を遠心分離、濾過などの操作により除去してから、ヘキサン、酢酸エチルなどの溶剤で抽出することにより未反応の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸エステルを得ることができる。
【0040】
また、反応溶媒に有機溶媒が多量に含まれる場合は、反応溶媒をいったん蒸留により除去した後、さらに適当な有機溶媒との組み合わせにより、同様に光学活性3−N置換アミノイソ酪酸とその対掌体エステルを抽出分離することができる。
【0041】
得られた光学活性3−N置換アミノイソ酪酸は通常の方法でエステル化することにより光学活性を保持したまま3−N置換アミノイソ酪酸エステルにすることができる。また、光学活性3−N置換アミノイソ酪酸エステルは通常の方法で加水分解することにより光学活性を維持したまま3−N置換アミノイソ酪酸とすることができる。したがって、任意の立体配置の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類を取得できる。
【0042】
これら光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類には、アミンおよびカルボン酸が存在する場合があるが、この場合は常法によりアミン塩およびカルボン酸塩を形成させることができる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔参考例1〕
(ラセミ体3−アセチルアミノイソ酪酸メチルの合成)
3−アミノイソ酪酸(東京化成工業(株)製)10gを1N水酸化ナトリウム水溶液 120mlに溶解し、これに無水酢酸12gをゆっくりと滴下して、室温、攪拌下で18時間反応させた。反応終了後、2N塩酸を加えてpH2.0 に調整した。得られた反応混合液と等量の酢酸エチルによる抽出を3回行った。有機相を一つにまとめて無水硫酸ナトリウムにて脱水し、溶媒を減圧留去した。このようにして、ラセミ体3−アセチルアミノイソ酪酸 9.2gが得られた。
【0045】
得られたラセミ体3−アセチルアミノイソ酪酸に、無水メタノール66gを加え、塩化チオニル 9.0gをゆっくりと滴下した。室温で18時間攪拌した後、減圧濃縮した。このようにして、ラセミ体3−アセチルアミノイソ酪酸メチル 6.9gが得られた。
【0046】
〔実施例1〕
(d(+)3−アセチルアミノイソ酪酸メチルおよびl(-)3−アセチルアミノイソ酪酸の合成)
エシェリキア・コリ FERM BP 3835 を、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(1%ポリペプトン、 0.5%酵母エキスおよび 0.5%NaCl)50mlに植菌し、37℃で24時間振盪培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を採取した。得られた菌体の全量をイオン交換水で洗浄した。洗浄後、この菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0) 50mlに懸濁し、この菌体懸濁液にラセミ体3−アセチルアミノイソ酪酸メチル5gを添加して30℃で20時間反応させた。反応中、適宜1N水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより反応液のpHを 7.0に調整した。反応終了後、遠心分離により菌体を除き、未反応の3−アセチルアミノイソ酪酸メチルを酢酸エチルで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムにて脱水し、溶媒を蒸発留去した。このようにして、光学活性3−アセチルアミノイソ酪酸メチル 2.0gが得られた。
【0047】
得られた光学活性3−アセチルアミノイソ酪酸メチルについて、ガスクロマトグラフィー(カラム; CP-Chirasil Dex CB,クロムパック社製)により光学純度を求めたところ、d(+)体 100%e.e.であった。
【0048】
上記の酢酸エチル抽出における抽出残渣の水相に2N塩酸を添加してpHを 2.0に調整し、反応生成物である3−アセチルアミノイソ酪酸を酢酸エチルで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムにて脱水し、溶媒を蒸発留去した。このようにして光学活性3−アセチルアミノイソ酪酸 1.2gが得られた。
【0049】
得られた反応生成物である光学活性3−アセチルアミノイソ酪酸をメタノール/塩酸混合液で処理してメチルエステル化し、上記と同様の方法で光学純度を測定したところ、l(-)体90%e.e.であった。
以下、得られたd(+)3−アセチルアミノイソ酪酸メチルの物性値を示す。
【0050】
1H−NMRスペクトル(図1))
溶媒:CDCl3 、内部標準:TMS、270MHz
δH 1.19〜1.21 (3H, d, -CH3)
δH 1.95 (3H, s, -COCH3)
δH 2.62〜2.78 (1H, m, -CH-)
δH 3.20〜3.60 (2H, m, -CH2-)
δH 3.70 (3H, s, -COOCH3)
δH 6.00 (1H, b, -NH-)
13C−NMRスペクトル(図2))
溶媒:CDCl3 、内部標準:TMS、270MHz
δC 14.9 (-CH3)
δC 23.3 (-COCH3)
δC 39.5 (-CH-)
δC 41.6 (-CH2-)
δC 51.9 (-COOCH3)
δC 170.2 (-CO-)
δC 176.1 (-COO-)
(光学純度)
100%e.e.
(比旋光度)
[α]D 25=+53.12 (c =2.9, MeOH)
【0051】
〔参考例2〕
(ラセミ体3−ピロリジルイソ酪酸メチルエステルの合成)
メタクリル酸メチル(MMA)35.2g(0.35mol)に、70℃に加熱しながら、ピロリジン17g(0.24mol)を徐々に滴下し、ピロリジンが消失するまで反応を継続した。反応終了後、反応混合液を蒸留し、ラセミ体3−ピロリジルイソ酪酸メチルエステル31gを得た(1〜3mmHg、55〜58℃)。
【0052】
〔参考例3〕
(ラセミ体3−ピペリジルイソ酪酸メチルエステルの合成)
メタクリル酸メチル(MMA)35.2g(0.35mol)に、70℃に加熱しながら、ピペリジン20g(0.24mol)を徐々に滴下し、ピペリジンが消失するまで反応を継続した。反応終了後、反応混合液を蒸留し、ラセミ体3−ピペリジルイソ酪酸メチルエステル30gを得た(7〜5mmHg、72〜73℃)。
【0053】
〔実施例2〕
(光学活性3−ピロリジルイソ酪酸およびそのメチルエステルの合成)
t-ブチルアルコール75gに、ラセミ体3−ピロリジルイソ酪酸メチル10gを溶解させ、水 7.5gおよびNOVOアルカラーゼ2.5L(バシラス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来酵素) 7.5gを加えて30℃で2日間反応させた。得られた反応混合液を濾過した後、濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮液にn-ヘキサン50mlおよび水50mlを加えて分液し、有機相を回収した。硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮した。このようにしてd(+)3−ピロリジルイソ酪酸メチルエステル 2.1gが得られた。
【0054】
また、水相を中和して濃縮した後、メタノール 100mlに溶解させた。不溶物を濾別した後、硫酸4mlを加えてエステル化反応を行った。反応終了後、エバポレーターで濃縮してヘキサン60mlに懸濁させた。飽和炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後濃縮した。このようにして、l(-)3−ピロリジルイソ酪酸メチルエステル 5.8gが得られた。
【0055】
d(+)およびl(-)3−ピロリジルイソ酪酸メチルエステル各 2.0gに、それぞれ 2.0N水酸化ナトリウム水溶液10mlを加え、室温で攪拌した。次いで、硫酸で中和し、濃縮乾固した。メタノール約10mlに可溶分を溶解させ、濾別した後濃縮し、それぞれd(+)3−ピロリジルイソ酪酸 1.3gおよびl(-)3−ピロリジルイソ酪酸 1.3gを得た。
各光学活性3−ピロリジルイソ酪酸類の比旋光度を表1に示す。
【0056】
【表1】
Figure 0003819082
【0057】
〔実施例3〕
(光学活性3−ピロリジルイソ酪酸ブチルの合成)
参考例2に準じて合成したラセミ体3−ピロリジルイソ酪酸ブチル10gを 100mMリン酸緩衝液(pH7)90mlに溶解させ、NOVOアルカラーゼ2.5L 5gを加えて30℃で6時間反応させた。得られた反応混合液を冷却しながらpH10に調節した後、ヘキサン 100mlを加え、未反応の3−ピロリジルイソ酪酸ブチルを回収した。ヘキサン相をエバポレーターで濃縮した。このようにしてd(+)3−ピロリジルイソ酪酸ブチル 2.1gが得られた。比旋光度 [α] D 24は+20.1(neat)であった。
【0058】
〔実施例4〕
(光学活性3−ピペリジルイソ酪酸およびそのメチルエステルの合成)
t-ブチルアルコール75gに、ラセミ体3−ピペリジルイソ酪酸メチル10gを溶解させ、水 7.5gおよびNOVOアルカラーゼ2.5L 7.5gを加えて30℃で2日間反応させた。得られた反応混合液を濾過した後、濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮液にn-ヘキサン50mlおよび水50mlを加えて分液し、有機相を回収した。硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮した。このようにしてd(+)3−ピペリジルイソ酪酸メチルエステル 3.8gが得られた。
【0059】
また、水相を中和して濃縮した後、メタノール 100mlに溶解させた。不溶物を濾別した後、硫酸4mlを加えてエステル化反応を行った。反応終了後、エバポレーターで濃縮してヘキサン60mlに懸濁させた。飽和炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後濃縮した。このようにして、l(-)3−ピペリジルイソ酪酸メチルエステル 3.4gが得られた。
【0060】
d(+)およびl(-)3−ピペリジルイソ酪酸メチルエステル各 2.0gに、それぞれ 2.0N水酸化ナトリウム水溶液10mlを加え、室温で攪拌した。次いで、硫酸で中和し、濃縮乾固した。メタノール約10mlに可溶分を溶解させ、濾別した後濃縮し、それぞれd(+)3−ピペリジルイソ酪酸 1.3gおよびl(-)3−ピペリジルイソ酪酸 1.4gを得た。
各光学活性3−ピぺリジルイソ酪酸類の比旋光度を表2に示す。
【0061】
【表2】
Figure 0003819082
【0062】
〔実施例5〕
100mMリン酸緩衝液(pH7)にラセミ体3−ピロリジルイソ酪酸メチルが1重量%になるように溶解させ、表3に示す酵素を 0.1〜1重量%の範囲で適宜加えて、それぞれ30℃で18時間反応させた。ガスクロマトグラフィー(カラム:CP-Chirasil DEX CB 0.25mm×25M 、クロムパック社製)により各d(+)3−ピロリジルイソ酪酸メチルの光学純度および濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
Figure 0003819082
【0064】
〔実施例6〕
100mMリン酸緩衝液(pH7)にラセミ体3−ピペリジルイソ酪酸メチルが1重量%になるように溶解させ、表4および表5に示す酵素を 0.1〜1重量%の範囲で適宜加えて、それぞれ30℃で1日間反応させた。ガスクロマトグラフィー(カラム:CP-Chirasil DEX CB 0.25mm×25M 、クロムパック社製)により各d(+)3−ピロリジルイソ酪酸メチルの光学純度および濃度を求めた。結果を表4および表5に示す。
【0065】
【表4】
Figure 0003819082
【0066】
【表5】
Figure 0003819082
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば、光学活性医薬、光学活性農薬などの中間体等としてきわめて有用な光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩を提供することができた。また、本発明の製造方法によれば、そのような光学活性体を効率的に製造することができ、しかも生成した光学活性体の分離、精製も容易なので、生産性が向上し、工業的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られたd(+)3−アセチルアミノイソ酪酸メチルの 1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られたd(+)3−アセチルアミノイソ酪酸メチルの13C−NMRスペクトルを示す図である。

Claims (6)

  1. 一般式(2):
    Figure 0003819082
    (式中、R4はアルキル基を示し、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子、アシル基または置換もしくは非置換のアルキル基を示し、R2とR3とは直接または他の原子を介して互いに結合して両者に結合している窒素原子とともに3〜7員環を形成していてもよい。)
    で表されるラセミ体3−N置換アミノイソ酪酸エステルを、エステル不斉加水分解酵素の存在下で不斉加水分解することを特徴とする、
    一般式(1):
    Figure 0003819082
    (式中、R1は水素原子またはアルキル基を示し、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、アシル基または置換もしくは非置換のアルキル基を示し、R2とR3とは直接または他の原子を介して互いに結合して両者に結合している窒素原子とともに3〜7員環を形成していてもよい。*が付された炭素原子は不斉炭素原子である。)
    で表される光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法。
  2. 上記一般式(1)において、R2またはR3のいずれか一方が水素原子であり、他方がアシル基である、請求項1に記載の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法。
  3. 上記一般式(1)において、R2とR3とが互いに結合して炭素原子数2〜6のアルキレン基を形成し、両者に結合している窒素原子とともに環を形成している、請求項1に記載の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法。
  4. 上記エステル不斉加水分解酵素が、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、キャンディダ(Candida)属、バシラス(Bacillus)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属またはエシェリキア(Esherichia)属に属する微生物由来のものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法。
  5. 上記エステル不斉加水分解酵素がリパーゼ、プロテアーゼまたはエステラーゼである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法。
  6. 上記エステル不斉加水分解酵素がアルカリプロテアーゼ、ブロメライン、トリプシンまたはニューラーゼであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学活性3−N置換アミノイソ酪酸類およびその塩の製造方法。
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