JP3815695B2 - ディスクブレーキ用シム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディスクブレーキの摩擦パッドの裏金と、摩擦パッドをロータに圧接するブレーキピストンとの間に配設されるディスクブレーキ用シムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ディスクブレーキは、一般に、キャリパボディーに設けた液圧装置のピストンによって、回転しているロータに摩擦パッドを圧接してブレーキ力を発生させるようにしている。ところが、高速回転をしているロータに摩擦パッドを圧接するため、摩擦パッドの摩擦材とロータとの間に摩擦による高温が発生し、この高温が摩擦パッド裏金、ピストンを介して液圧装置のブレーキ液に伝達され、ブレーキ液の温度を上昇させる。
【0003】
そこで、パッド裏金とピストンとの間に熱伝導率の低い材質の部材を介在させたり裏金にセラミックを溶射するなどして、摩擦パッドからピストンへの熱伝達を小さくするように工夫している。また、ブレーキを作動させた際に、裏金とピストンとの相対移動に伴う軋み音、いわゆる「鳴き」を防止するために、裏金とピストンとの間に介在させたシムの、ピストンが当接する部分に円形の孔を複数設けてピストン当接部に空気が流れるようにして冷却するとともに、ピストンの接触面積を小さくしてピストンへの熱伝達を抑制することが提案されている(実開昭55−45089号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、摩擦パッドの近傍においては、周囲の空気がロータの回転に引き摺られてほぼ一方向に流れる。このため、円形の孔を形成した場合、空気の流れの方向における空気流路の投影長さが小さく、空気流による十分な冷却効果が得られず、ブレーキ液温の上昇を十分に抑えることができない。そして、十分な冷却効果を得るためには、空気の流れの方向におけるピストン当接部の空気流路の投影長さを大きくしようとすると、一部の円形孔を相当に大きくしなければならない。図5は、その説明図である。
【0005】
図5において、2点鎖線によって示したリング状の部分10は、摩擦パッド裏金12の背面に取り付けたシム14への図示しないブレーキピストンの当接部である。また、図示しないロータが図5の時計方向に回転し、空気が矢印16のように図の左から右側に横方向に流れる。そして、シム14には、ピストン当接部10に冷却用の円形孔を図の左右方向および上下方向に対称に形成する。シム14に当接するピストン先端外径Dが54mm程度である場合、円形孔によって冷却のための空気通路を当接部14に形成し、その空気通路の空気の流れ16の方向への投影長さを25mmにする場合、上下の円形孔18、20によって形成される空気通路の投影長さaと、中央の円形孔22によって形成される空気通路の投影長さbとの和を25mmにすることである。すなわち、
【数1】
2a+b=25mm
となる。
【0006】
ところで、上下の円形孔18、20による投影長さaは、その部分の当接部10が空気の流れ16に対して平行に近くなるため、相当に大きな円形孔を形成しても必要な投影長さを得ることができない。従って、空気通路の必要な投影長さを得るためには、中央の円形孔22によって形成される投影長さbによって確保する必要がある。しかしながら、必要な投影長さを確保するためには、中央の円形孔22を相当に大きくしなければならない。例えば、上下の円形孔18、20によって形成される空気通路の投影長さaを2.5mmとすると、中央の円形孔22によって形成される投影長さを20mmとしなければならない。このため、ピストンの押圧力がパッド裏金12に均一に作用せず、摩擦パッドの摩擦材を偏摩耗させたりして制動時における異音の発生等の原因となる。
【0007】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、制動時におけるブレーキピストンへの熱伝達の減少が図れるとともに、摩擦パッドの裏金に作用するブレーキピストンの押圧力を比較的均一にすることができるディスクブレーキ用シムを提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明に係るディスクブレーキ用シムの第1は、摩擦パッドの裏金とブレーキピストンとの間に配置するシムであって、前記ブレーキピストンの当接する当接部が前記摩擦パッドを圧接するロータの周方向に複数存在し、前記各当接部に前記摩擦パッド部の空気の流れの方向に沿った長孔を複数設け、これらの長孔は、両端当接部間の中央における前記ロータの接線方向と平行であるとともに、対応する前記当接部の、前記長孔の長手方向と直交する中心線を越えないよう形成されている構成となっている。
また本発明に係るディスクブレーキ用シムの第2は、摩擦パッドの裏金とブレーキピストンとの間に配置するシムであって、前記ブレーキピストンの当接する当接部が前記摩擦パッドを圧接するロータの周方向に複数存在し、前記各当接部に前記摩擦パッド部の空気の流れの方向に沿った長孔を複数設け前記各当接部の前記長孔は、対応する前記長孔の中心を通る前記ロータの法線と直交した接線方向と平行であるとともに、対応する前記当接部の、前記長孔の長手方向と直交する中心線を越えないよう形成されている構成となっている。
この場合において、前記長孔は、前記中心線に対して対称に配置されているとよい。また前記長孔は、前記ロータの半径方向の両端長孔を両者間の長孔より長くし、各長孔の幅を同じに形成できる。
【0009】
【作用】
上記のごとく構成した本発明は、長孔を空気の流れの方向に沿って形成することにより、ブレーキピストンの当接部における空気流路の空気の流れの方向への投影長さを長孔の幅と一致させることができ、均一な幅を有する複数の空気流路を形成することができる。そして、空気の流れの方向と直交した方向に、同じ幅の長孔を複数等間隔で配置することが可能となり、ピストン当接部に形成される空気通路の空気の流れの方向への必要な投影長さ容易に確保することができ、ピストンの冷却効果を高めることができるとともに、摩擦パッドの裏金に作用するブレーキピストンの押圧力をほぼ均一にすることが可能となって、摩擦パッドの摩擦材の偏摩耗をなくすことができ、制動時における異音の発生等を防止することができる。また、各長孔は、ブレーキピストン当接部の、長孔と直交する中心線を越えないように形成することにより、中心線の両側に独立して長孔を形成でき、シムの機械的強度、耐久性の低下を防ぐことができる。
【0010】
ロータの周方向に複数の当接部が存在する場合、摩擦パッド部の空気は、ロータのほぼ周方向に流れるため、各当接部の長孔を、両端当接部間の中央におけるロータの接線方向と平行に形成することにより、空気の流れの方向における投影長さの大きな空気流を形成できる。特に、各当接部の長孔をロータの接線方向とすることにより、より効率的な空気流路を形成することができる。ロータの半径方向の最も外側と内側との長孔をこれらの間の長孔より長くすると、長孔の幅が同じであっても、長孔と平行に近い当接部にも空気流路を確実に形成できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に係るディスクブレーキ用シムの好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るディスクブレーキ用シムの正面図である。摩擦パッドの裏金12は、ロータ67に面した前面側に摩擦材が設けてあって、背面側にシム14が取り付けてある。また、裏金12は、ロータ67の周方向となる図の左右方向の幅がロータ67の半径方向となる図の上下方向の幅より広い略矩形状に形成してあって、ロータ内周側となる図の下部の中央部が円弧状に切り欠かれている。そして、裏金12は、幅の広い図の左右方向の両側縁から、幅の約1/3ぼどのところに一対の円形突起30が形成してあって、この円形突起30にシム14に設けた孔32を嵌合させてある(図2参照)。
【0013】
シム14は、裏金12の下部切り欠きに沿うように略山形に形成してあって、ロータ周方向(図の左右方向)の両端上部と、ロータ周方向の中央下部(ロータ中心側部)とが裏金12の前面側に折り返され、この折り返し部にクリップ34、36が形成してあり、図3に示したようにクリップ34、36によって裏金12の上部と中央下部とを挟み込むことによって、裏金12に取り付けられるようになっている。そして、シム14には、図示しないキャリパに設けた液圧装置の3つのブレーキピストン(以下、単にピストンと称する)が2点鎖線に示したリング状の当接部38、40、42に当接するようになっている。当接部40は、シム14の中央部に位置し、ロータ67の半径方向の中心線46がシム14の中心線と一致している。また、当接部38、42は、当接部40に対してロータ67の周方向両側に位置し、中心線46に対して線対称となっている。
【0014】
また、シム14には、各当接部38、40、42の一部を切断するように複数の長孔44が設けてあって、これらの長孔44によって空気流路を形成し、ピストンが当接部38、40、42に当接した場合にも、空気流路を介して各当接部を38、40、44を空気が流れるようになっている。これらの長孔44は、中心線46に直交して、すなわちシム14の中央部におけるロータ67の接線方向に沿って形成してある。そして、中央の当接部40に形成された各長孔44a〜44eは、ロータ67半径方向の中心線46を越えない長さとなっていて、中心線46の両側に5つずつ中心線46に対して線対称に形成してある。また、ロータ67の半径方向に並ぶ5つの長孔44a〜44eは、中心位置が当接部40に沿ってロータ周方向にずらしてあるとともに、中心線46に直交したロータ接線方向となる当接部40の中心線48に対して線対称に形成してあって、中央の長孔44cが中心線48上に形成されている。さらに、これらの長孔44a〜44eは、ロータ67の半径方向の幅dが同一になっているとともに、ロータ半径方向両端の長孔44a、44eが他の長孔44b〜44dより長く形成してある。本実施の形態の場合、当接部40の外径が約54mmであって、長孔44の幅dが5mmに形成してある。
【0015】
当接部38、42は、中央の当接部40と同じ大きさであって、これらの当接部38、42に形成した長孔44も当接部40に形成した長孔44a〜44eと同様である。すなわち、当接部38、40に形成した長孔44は、中央の当接部40の中心線46と平行な中心線50、52の両側に5つずつ設けられ、中心線50、52に対して線対称となっているとともに、これらの中心線50、52と直交した中心線54、56に対しても線対称となっている。
【0016】
このように形成したシム14においては、例えばロータ67が図1の時計方向に回転する場合、摩擦パッド部の空気がほぼ矢印58のように流れる。そして、ピストンがシム14の当接部38、40、42に当接して摩擦パッドをロータ67に圧接するとき、空気が当接部38、40、42の中心線50、46、52左側の長孔44からピストン内に流入し、ピストン内の高温の空気が中心線50、46、52右側の長孔44からピストンの外部に抜け、シム14とピストンとが冷却される。
【0017】
このように、実施の形態においては、空気の流れの方向における各長孔44の投影長さがその幅と同じになる。従って、ピストンが当接部38、40、42に当接した場合に、各長孔44によって大きな空気流路を確保することができ、この空気流路を流れる空気によってシム14とピストンが冷却されるとともに、ピストンの接触面積を小さくできるため、液圧装置のブレーキ液に伝達される熱量が小さくなり、ブレーキ液の温度の上昇を抑制することができる。
【0018】
しかも、長孔44によって空気流路を形成したことにより、長孔44を当接部38、40、42の中心線50、46、52に沿って等間隔で形成することができ、シム14を介して摩擦パッドに与えるピストンの押圧力を均一にすることができ、摩擦材の偏摩耗等が防止されて制動時の異音の発生などを防ぐことができる。さらに、上記の実施の形態においては、当接部38、40、42に沿って形成した長孔44が中心線50、46、52の両側において別々にとなっているため、シム14の強度、耐久性の低下を防止することができる。また、実施形態においては、大きな冷却効果が得られるため、熱伝導率の小さな部材の使用やセラミックの溶射を必要とせず、通常のステンレス板を使用することができ、コストの低減を図ることができる。
【0019】
図4は、他の実施形態を示したものである。本実施形態のシム14は、中央の当接部40の両側に位置する当接部38、42に形成した長孔44が、これらの当接部38、42におけるロータ67の接線方向に平行に形成してある。すなわち、当接部38、42を切断するように形成した各長孔44は、これらの当接部38、42のロータ半径方向の中心線60、62に直交した中心線64、66と平行に形成してある。他の構成は、前記の実施形態と同様である。
【0020】
本実施形態のごとく長孔44をロータ67の接線方向に沿って形成すると、ロータ67の回転に引き摺られて流れる空気がより長孔44を通りやすく、冷却効果をより高めることができる。
【0021】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、長孔を空気の流れの方向に沿って形成したことにより、ブレーキピストンの当接部における空気流路の空気の流れの方向への投影長さを長孔の幅と一致させることができ、均一な幅を有する空気流路を複数形成することができる。そして、空気の流れの方向と直交した方向に、同じ幅の長孔を複数等間隔で配置することが可能となり、ピストン当接部に形成される空気通路の空気の流れの方向への必要な投影長さ容易に確保することができ、ピストンの冷却効果を高めることができるとともに、摩擦パッドの裏金に作用するブレーキピストンの押圧力をほぼ均一にすることが可能となって、摩擦パッドの摩擦材の偏摩耗をなくすことができ、制動時における異音の発生等を防止することができる。また、各長孔は、ブレーキピストン当接部の、長孔と直交する中心線を越えないように形成したことにより、中心線の両側に独立して長孔を形成でき、シムの機械的強度、耐久性の低下を防ぐことができる。
【0022】
ロータの周方向に複数の当接部が存在する場合、摩擦パッド部の空気は、ロータのほぼ周方向に流れるため、各当接部の長孔を、両端当接部間の中央におけるロータの接線方向と平行に形成することにより、空気の流れの方向における投影長さの大きな空気流を形成できる。特に、各当接部の長孔をロータの接線方向とすることにより、より効率的な空気流路を形成することができる。また、ロータの半径方向の最も外側と内側との長孔をこれらの間の長孔より長くすると、長孔の幅が同じであっても、長孔と平行に近い当接部にも空気流路を確実に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るディスクブレーキ用シムの正面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿う断面図である。
【図4】他の実施形態に係るシムの正面図である。
【図5】従来のディスクブレーキ用シムの空気流の形成の仕方を説明する図である。
【符号の説明】
12 裏金
14 シム
38、40、42 当接部
44 長孔
58 空気の流れ

Claims (4)

  1. 摩擦パッドの裏金とブレーキピストンとの間に配置するシムであって、前記ブレーキピストンの当接する当接部が前記摩擦パッドを圧接するロータの周方向に複数存在し、前記各当接部に前記摩擦パッド部の空気の流れの方向に沿った長孔を複数設け、これらの長孔は、両端当接部間の中央における前記ロータの接線方向と平行であるとともに、対応する前記当接部の、前記長孔の長手方向と直交する中心線を越えないよう形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用シム。
  2. 摩擦パッドの裏金とブレーキピストンとの間に配置するシムであって、前記ブレーキピストンの当接する当接部が前記摩擦パッドを圧接するロータの周方向に複数存在し、前記各当接部に前記摩擦パッド部の空気の流れの方向に沿った長孔を複数設け前記各当接部の前記長孔は、対応する前記長孔の中心を通る前記ロータの法線と直交した接線方向と平行であるとともに、対応する前記当接部の、前記長孔の長手方向と直交する中心線を越えないよう形成されていることを特徴とするディスクブレーキ用シム。
  3. 前記長孔は、前記中心線に対して対称に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ用シム。
  4. 前記長孔は、前記ロータの半径方向の両端の前記長孔を両者間の長孔より長く形成するとともに、各長孔の幅を同じにしたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のディスクブレーキ用シム。
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