JP3815417B2 - 車両用パワートレイン構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は車両用パワートレイン構造に関し、例えば車両の動力源である内燃機関の他にエンジン再始動用の電気モータを搭載したアイドルストップ車両の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
燃費の向上及び環境汚染物質や二酸化炭素の排出低減を図るアイドルストップ車両が知られている。このような低公害型車両もしくは環境対応型車両では車両の動力源である内燃機関(例えばガソリンエンジン)の他にエンジン再始動用の電気モータが搭載される。そして車両が信号待ちや渋滞等で停車状態にあるときはエンジンが自動的に停止され、再発進時には上記電気モータを使ってエンジンが自動的に再始動される。
【0003】
このような車両のパワートレインの従来構造の1例を図11に示す(例えば特許文献1参照)。このパワートレインでは、エンジンaとモータジェネレータbとトルクコンバータcと前後進切換機構dと無段変速機eとが直列に連結されている。エンジンaの動力はこれらb〜eを経由して駆動軸fから駆動輪gに伝達される。モータジェネレータbは1台で電動機(モータ)の機能と発電機(ジェネレータ)の機能とを兼ね備えたものであり、再発進時におけるエンジンaの再始動と減速時(エネルギ回生時)における発電及びバッテリ(図示せず)の充電とに使用可能である。
【0004】
次に、パワートレインの別の従来構造の1例を図12に示す(例えば特許文献2参照)。このパワートレインでは、エンジンhと変速機iとの間にモータジェネレータm及びクラッチnが備えられている。また変速機i用の電動オイルポンプk及び該ポンプk駆動用のモータjが備えられている。クラッチnはエンジンhから変速機iへの動力の供給を遮断又は接続する。電動オイルポンプkはアイドルストップ中に変速機iを発車待機状態とするための油圧を供給する。つまり変速機iへの油圧の供給をすべてエンジンhで駆動される機械式のオイルポンプ(図示せず)に依存していると、アイドルストップ中は上記機械式オイルポンプが稼動せず変速機iへの油圧の供給が停止してしまうから、上記のように機械式オイルポンプとはまた別の電動オイルポンプkを備えてアイドルストップ中はこの電動オイルポンプkから供給される油圧により変速機iを発車待機状態に維持するようにしているのである。
【0005】
ところで、図11には、無段変速機として、入力側プーリ(入力側回転要素)と出力側プーリ(出力側回転要素)との間にベルトを巻き掛けたベルト式無段変速機が示されているが、これ以外にも、例えば特許文献3に示されるように、入力ディスク(入力側回転要素)と出力ディスク(出力側回転要素)との間にパワーローラを介設し、該ローラの傾転により両ディスク間の変速比が無段階に変化するようにしたトロイダル式無段変速機を採用することも可能である。
【0006】
またその場合、同じく特許文献3に示されるように、ベルト式又はトロイダル式を問わず、ギヤードニュートラル(GN)が実現可能な無段変速機を採用してもよい。ギヤードニュートラルは、周知のように、例えば遊星歯車機構を併用して、入力側回転要素と出力側回転要素との間の変速比(要素間変速比)を所定の変速比に制御したときに、無段変速機の変速比が無限大になり、無段変速機の出力回転がゼロになる状態である。例えば車両が徐々に速度を落としていって停車状態に移行するときは、無段変速機の変速比は大きくなっていき、無段変速機はGNの状態に近づいていく一方で、入力側回転要素と出力側回転要素との間の要素間変速比は上記所定の変速比(GN実現変速比)に近づいていく。ただし要素間変速比の動向と無段変速機の変速比の動向とは必ずしも一致するとは限らない。つまり無段変速機の変速比はGNの状態に向けて確かに大きくなっていくが、これと同様に要素間変速比もまた大きな値になっていくとは限らないのである。これは、上記GN実現変速比が無段変速機の各種の仕様によって変わり得るものであり、別段、普遍的な数値に固定されるわけではなく、相対的に大きい値になるか小さい値になるか、あるいは1より大きい値になるか小さい値になるか等は、各種の設計上のパラメータに依存するからである。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−328980号公報(第3頁、図1、図8)
【特許文献2】
特開2001−248468号公報(第4頁、図1)
【特許文献3】
特開2001−280459号公報(第2頁、図1)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記図11及び図12に示した従来構造では、いずれも電気モータをエンジンと変速機との間に介装しているから、パワートレインが軸方向に長くなり、パワートレインのレイアウト性が低下する。またパワートレインの大幅な改造が強いられることになり、電気モータを組み込んだアイドルストップ車両とそうでない通常車両との間でパワートレインの共通化が困難となる。つまり通常のパワートレインをベースにしてアイドルストップ車両等の低公害型車両を簡単に派生することができない。
【0009】
この問題に対しては、電気モータを無段変速機と軸心同士が平行になるように配置することが提案される。そして電気モータを無段変速機の複数の回転要素のうちのいずれかに連結して、該電気モータの動力がエンジンや無段変速機等を経由する動力伝達経路に供給されるように構築する。このようにすれば、パワートレインの既存の配列を乱すことなく電気モータをパワートレインに組み入れることができる。その結果、パワートレインの汎用性が高まり、アイドルストップ車両等の低公害型車両の派生が容易となる。またパワートレインの軸方向の長大化も防がれる。
【0010】
しかしその場合、電気モータを無段変速機の複数の回転要素のうちのいずれに連結するかが問題となる。なぜならば、連結の相手によってはエンジンを再始動するために大きなトルクが必要となり、そのために電気モータの容量を大きくしなければならなくなって、パワートレインのコンパクト化及び低コスト化が阻害されてしまうからである。
【0011】
特に、電気モータを既存のパワートレインないし動力伝達経路の外部に配置し、電気モータを無段変速機のいずれの回転要素にも連結することが可能な場合において、無段変速比が前述のギヤードニュートラルが実現可能な無段変速機(GN式無段変速機)である場合には、入力側回転要素と出力側回転要素との間の要素間変速比の動向と、無段変速機の変速比の動向とが必ずしも一致するとは限らないから、事情はそれほど簡単ではない。
【0012】
本発明は、車両の動力源である内燃機関の他にエンジン再始動用の電気モータを搭載したアイドルストップ車両のような低公害型車両における上記問題に対処するもので、パワートレインの軸方向の長大化を防ぎ、アイドルストップ車両のような低公害型車両の派生を容易とし、かつ、無段変速機としてGN式無段変速機が採用されたときにエンジンの再始動に必要なトルクが確実に小さくて済むようにすることを課題とする。以下、その他の課題を含め本発明を詳しく説明する。
【0013】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本願の請求項1に記載の発明は、内燃機関と、該内燃機関の動力が入力され、入力側回転要素と出力側回転要素との間の変速比が無段階に変化する無段変速機と、これらの内燃機関及び無段変速機を経由する動力伝達経路に動力を供給する電気モータとを有する車両用パワートレインの構造であって、上記無段変速機は、遊星歯車機構を併用して、入力側回転要素と出力側回転要素との間の変速比を1より小さい所定の変速比に制御したときに出力回転が零となるように構成されていると共に、上記電気モータを上記無段変速機と軸心同士が平行になるように配置し、かつ上記電気モータを上記無段変速機の回転要素のうち出力側回転要素に連結したことを特徴とするを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、まず、電気モータを、入力側回転要素と出力側回転要素との間の変速比を1より小さい所定の変速比に制御したときに出力回転が零となるように構成されたGN式無段変速機と軸心同士が平行になるように配置するから、前述したように、パワートレインの軸方向の長大化を防ぐことができると共に、パワートレインの既存の配列を乱すことなく電気モータをパワートレインに組み入れることができ、パワートレインの汎用性が高まり、アイドルストップ車両のような低公害型車両もしくは環境対応型車両の派生が容易となる。
【0015】
そのうえで、電気モータを、無段変速機の回転要素のうち出力側回転要素に連結するから、無段変速機として回転要素間の変速比の動向と無段変速機の変速比の動向とが必ずしも一致しないGN式無段変速機が採用されたときにエンジンの再始動に必要なトルクが確実に小さくて済むようになる。
【0017】
出力側回転要素から電気モータの動力を動力伝達経路に供給してエンジンを再始動するから、モータのトルクが増大され、エンジンの再始動に必要なトルクが常に確実に小さくて済み、エンジンの再始動性ないし車両の再発進性が阻害されない。その結果、電気モータの容量が小さくて済み、パワートレインのコンパクト化及び低コスト化が図られる。
【0018】
次に、請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、上記無段変速機に油圧を供給する電動オイルポンプを上記電気モータに連結したことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、エンジン再始動用の電気モータがGN式無段変速機用の電動オイルポンプの駆動用モータを兼ねるから、例えば前述の図12に符号jで示されるような電動オイルポンプ駆動専用モータを別に備えることが不要となる。
【0020】
次に、請求項3に記載の発明は、上記請求項2に記載の発明において、上記無段変速機は、入力側回転要素と出力側回転要素との間に設けたローラ部材が傾転することにより両回転要素間の変速比が無段階に変化するトロイダル式無段変速機であり、上記電動オイルポンプは、上記ローラ部材の支持部材を支持する油圧を上記無段変速機に供給するものであり、上記電気モータと上記無段変速機との間に、該電気モータから動力伝達経路への動力の供給を遮断又は接続するクラッチを備えたことを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、停車状態においてエンジン再始動時の要素間変速比を確実に達成した後にエンジンを再始動することができる。つまり前述のトロイダル式無段変速機の場合、入力側回転要素と出力側回転要素との間に設けたローラ部材の傾転によって要素間変速比が定まるから、上記ローラ部材の支持部材をしっかりと支持しないと、ローラ部材の姿勢が不安定となり、たちまち要素間変速比が変動する。したがって、エンジンの再始動時には、先に無段変速機に油圧を供給して上記ローラ部材の支持部材をしっかりと支持し、これによりエンジン再始動時の要素間変速比(GN実現変速比あるいはその近傍の変速比)を確実に達成した後に、電気モータの動力を無段変速機を介して動力伝達経路ひいてはエンジンに供給して該エンジンを再始動することが肝要である。
【0022】
そこで、この発明においては、電気モータから動力伝達経路への動力の供給を遮断又は接続するクラッチを備えたから、エンジンの再始動時には、上記クラッチを切った状態で、先に電動オイルポンプだけを駆動して上記ローラ部材ないしその支持部材の支持油圧を立てた後に、上記クラッチをつないでエンジンを再始動することが可能になる。これによりエンジンの再始動時に要素間変速比が不安定に変動し、その結果エンジン回転が不測に変動する、というような不具合が防止できる。また、エンジン再始動時の要素間変速比が安定的に維持されるから、エンジン再始動に必要なトルクが小さくて済む、という前述の効果が減損されることもない。
【0023】
次に、請求項4に記載の発明は、上記請求項3に記載の発明において、上記内燃機関を車体に対し横置きに配置し、上記無段変速機を上記内燃機関と同軸に配置し、上記電動オイルポンプ及び上記クラッチを上記電気モータと同軸に配置したことを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、横置きエンジンと、GN式無段変速機と、電動オイルポンプと、クラッチと、電動モータとを含むパワートレインのコンパクトなレイアウトの1例が提供される。この例では車幅方向に延びる相互に平行な2つの軸上に上記のすべての構成要素が配置される。以下、実施の形態を通して本発明をさらに詳しく説明する。
【0025】
【発明の実施の形態】
図1は、本実施の形態に係るアイドルストップ車両のパワートレイン1を示す骨子図である。パワートレイン1は、車両の動力源であるエンジン10と、該エンジン10の動力が入力されるトロイダル式無段変速機20と、これらのエンジン10及び無段変速機20を経由する動力伝達経路に動力を供給するエンジン再始動用のモータジェネレータ90とを有する。トロイダル式無段変速機20はトロイダル式の無段変速機構30と遊星歯車機構40とを含む。
【0026】
エンジン10は車体に対して横置きされ、その出力軸11にトーショナルダンパ12を介してインプットシャフト13が連結されている。インプットシャフト13の外側に中空のプライマリシャフト14が遊嵌合され、これらのシャフト13,14に平行にセカンダリシャフト15が配置されている。これらのシャフト13〜15はいずれも車幅方向に延びる。インプットシャフト13及びプライマリシャフト14の軸心X1上に無段変速機構30が設けられ、セカンダリシャフト15の軸心X2上に遊星歯車機構40が設けられている。
【0027】
無段変速機構30はダブルキャビティ型であり、2つの入力ディスク31,31と、1つに一体化された出力ディスク32と、これらのディスク31,32間に介設されて動力を伝達する4つのパワーローラ33〜33とを有する。入力ディスク31,31はプライマリシャフト14の端部に結合され、出力ディスク32はプライマリシャフト14の中間部に回転自在に支持されている。
【0028】
インプットシャフト13の端部にローモードギヤ列の第1ギヤ71が結合されている。このローモード第1ギヤ71と入力ディスク31との間に無段変速機構30に軸方向の荷重を付与するローディングカム機構19が介設されている。出力ディスク32の外周にハイモードギヤ列の第1ギヤ81が設けられている。一方、セカンダリシャフト15の端部にローモード第2ギヤ73が回転自在に支持され、この第2ギヤ73と上記第1ギヤ71とがアイドルギヤ72を介して連結している。また、セカンダリシャフト15の中間部にハイモード第2ギヤ82が回転自在に支持され、この第2ギヤ82と上記第1ギヤ81とが噛み合っている。
【0029】
遊星歯車機構40のピニオン42を支持するピニオンキャリヤ44とローモード第2ギヤ73との間にローモードクラッチ50が設けられている。遊星歯車機構40のサンギヤ41とハイモード第2ギヤ82とが連結し、これら41,82とセカンダリシャフト15との間にハイモードクラッチ60が設けられている。遊星歯車機構40のリングギヤ43はセカンダリシャフト15と結合している。
【0030】
セカンダリシャフト15の端部に出力ギヤ16が結合され、このギヤ16とデファレンシャル装置(図示せず)の入力ギヤ18とがアイドルギヤ17を介して連結している。ディファレンシャル装置から車幅方向に延びる駆動軸(その軸心に符号X3を付す)に左右の前輪が連結されている。
【0031】
モータジェネレータ90は無段変速機20と軸心同士が平行になるように配置されている。すなわち、モータジェネレータ90の出力軸91が車幅方向に延び、該モータジェネレータ90の軸心X4と無段変速機20の軸心(X1とX2のどちらでもよいが、ここでは特に入力ディスク31及び出力ディスク32を有する無段変速機構30の軸心X1を指す)とが平行に配置されている。
【0032】
モータジェネレータ90は無段変速機20の複数のディスク31,31,32のうち出力ディスク32に連結している。すなわち、モータジェネレータ90の軸心X4上にモータ連結用ギヤ111が回転自在に支持され、このギヤ111と出力ディスク32の外周に設けられたハイモード第1ギヤ81とが噛み合っている。そして、上記連結用ギヤ111とモータジェネレータ90の出力軸91との間にモータ連結用クラッチ110が設けられている。
【0033】
モータジェネレータ90はまた無段変速機20に油圧を供給する電動オイルポンプ100に連結している。すなわち、モータジェネレータ90の出力軸91と電動オイルポンプ100の入力軸101とが連結している。これらの軸91,101同士は直結している。その結果、モータジェネレータ90がモータとして作動するときは、電動オイルポンプ100は常に駆動される。なお、図示しないが、例えばインプットシャフト13で駆動される機械式(エンジン駆動式)のオイルポンプも具備されている。
【0034】
電動オイルポンプ100から無段変速機20に供給される油圧の用途の1つはパワーローラ33を支持する支持部材(トラニオンと称される:図示せず)を支持する油圧として用いることである。このトラニオンの支持油圧は変速制御用の油圧でもある。すなわち、該支持油圧を増減することにより、トラニオンがディスク31,32に対して偏倚し、パワーローラ33がディスク31,32から被る傾転力が変化して、該パワーローラ33の傾転角が変化し、その結果、入力ディスク31と出力ディスク32との間の変速比(要素間変速比であるが、ここでは特に「トロイダルレシオ」という)が無段階に変化する。よって、モータジェネレータ90がモータとして作動するときは、電動オイルポンプ100が常に駆動され、トラニオンの支持油圧が常に立つので、トラニオンがしっかりと支持され、所望のトロイダルレシオひいてはユニットレシオ(無段変速機20の変速比をいう。以下同じ)が確実に達成される。
【0035】
一方、モータジェネレータ90の出力軸91と無段変速機20の出力ディスク32とは直結していない。つまり、モータジェネレータ90がモータとして作動していても、連結用クラッチ110が切れているときは、モータジェネレータ90の動力は動力伝達経路に供給されない。連結用クラッチ110がつながったときにはじめてモータジェネレータ90の動力は連結用ギヤ111、第1ギヤ81及び出力ディスク32を介して動力伝達経路ひいてはエンジン10に供給されて該エンジン10の再始動に用いられる。つまり、モータジェネレータ90から動力伝達経路への動力の供給は上記連結用クラッチ110によって遮断又は接続される。
【0036】
なお、モータジェネレータ90は、エネルギ回生時(減速時)には発電機として機能し、生成した電気エネルギをインバータ92を介してバッテリ93に蓄える。
【0037】
図2は、トロイダルレシオとユニットレシオとの関係を示す特性図である。ただし図中、実線は前進のローモードの特性、鎖線は後退のローモードの特性、及び点線はハイモード(前進のみ)の特性を示す。この無段変速機20において、ローモードクラッチ50を締結し、ハイモードクラッチ60を解放すると、低速走行用のローモードの動力伝達経路が形成される。そのときの動力の流れを図3及び図4に矢印で示す。ただし図3はエンジン10側から駆動輪側へ動力が流れるパワーオンの走行時、図4は逆に駆動輪側からエンジン10側へ動力が流れるパワーオフのエネルギ回生時(減速時)の場合を示している。またいずれもトロイダルレシオ(入力ディスク31の回転数/出力ディスク32の回転数)が1である図2のB点の状況を例示している。なお、図1及び図3〜図6に併記した表において、「×」はクラッチの解放を、「○」はクラッチの締結を示す。
【0038】
一方、この無段変速機20において、ローモードクラッチ50を解放し、ハイモードクラッチ60を締結すると、高速走行用のハイモードの動力伝達経路が形成される。そのときの動力の流れを図5及び図6に矢印で示す。ただし図5はエンジン10側から駆動輪側へ動力が流れるパワーオンの走行時、図6は逆に駆動輪側からエンジン10側へ動力が流れるパワーオフのエネルギ回生時(減速時)の場合を示している。またいずれもトロイダルレシオ(入力ディスク31の回転数/出力ディスク32の回転数)が1より大きい図2のC点の状況を例示している。
【0039】
図3を参照すると、ローモードのパワーオン状態(ただしモータ連結用クラッチ110は解放とする)では、エンジン10の動力は、インプットシャフト13、ローモードギヤ列71〜73、ローモードクラッチ50及びピニオンキャリヤ44を経由してピニオン42に伝達され、ここで2つに分岐して、一方はピニオン42からリングギヤ43及びセカンダリシャフト15を経由して最終ギヤ列16〜18から左右の駆動輪に伝達される。他方はピニオン42からサンギヤ41、ハイモードギヤ列82,81、出力ディスク32、パワーローラ33、入力ディスク31及びローディングカム機構19を経由して再びローモードギヤ列71〜73に戻る(還流トルク)。
【0040】
これに対し、エンジン10からの回転は遊星歯車機構40に2方向から入力される。1つは、上記動力の流れと同様、インプットシャフト13、ローモードギヤ列71〜73及びローモードクラッチ50を経由してピニオンキャリヤ44に入力されるものであり、もう1つは、上記還流トルクと逆向きに、ローディングカム機構19、入力ディスク31、パワーローラ33、出力ディスク32及びハイモードギヤ列81,82を経由してサンギヤ41に入力されるものである。このときトロイダルレシオをGN実現変速比(図2に示す「GNレシオ」)に制御すると、リングギヤ43及びセカンダリシャフト15の回転がゼロとなってGN状態が実現する。
【0041】
図2に示すように、このGN状態ではユニットレシオは無限大となる。このGN状態の近傍における図2のA点の状況が図1に例示されている。これらの図1及び図2から明らかなように、本実施形態では、GNレシオ(入力ディスク31の回転数/出力ディスク32の回転数)は1より小さい値とされている。そして、このGN状態からトロイダルレシオを大きくすると、リングギヤ43及びセカンダリシャフト15が前進方向に回転して発進する(例えばDレンジ)。逆に、GN状態からトロイダルレシオを小さくすると、リングギヤ43及びセカンダリシャフト15が後退方向に回転して発進する(Rレンジ)。
【0042】
前進発進した場合、図2に実線で示したように、ローモードでは、トロイダルレシオが大きくなるに従ってユニットレシオが小さくなる。すなわち、このトロイダル式無段変速機20は、トロイダルレシオの動向とユニットレシオの動向とが必ずしも一致しない(逆になる)GN式無段変速機である。ちなみに、後退発進した場合も、トロイダルレシオの動向とユニットレシオの動向とは一致しない。すなわち、図2に鎖線で示したように、ローモードでは、トロイダルレシオが小さくなるに従ってユニットレシオが大きくなる。
【0043】
前進ローモードでトロイダルレシオがモード切換レシオに到達すると、モードクラッチ50,60を掛け換えてモードをハイモードに切り換える。このモード切換レシオではローモードとハイモードとでユニットレシオとが一致する。したがってモードの切換えがショックなく円滑に行われる。図2に点線で示したように、ハイモードでは、トロイダルレシオが小さくなるに従ってユニットレシオが小さくなる。すなわち、ハイモードでは、トロイダルレシオの動向とユニットレシオの動向とが一致する。図示したように、この無段変速機20では、トロイダルレシオはハイモードにおいてGNレシオを超えて小さい値まで設定され、このときユニットレシオはオーバードライブ(OD)となり得る。
【0044】
図5を参照すると、ハイモードのパワーオン状態(ただしモータ連結用クラッチ110は解放とする)では、エンジン10の動力は、インプットシャフト13、ローディングカム機構19、入力ディスク31、パワーローラ33、出力ディスク32、ハイモードギヤ列81,82、ハイモードクラッチ60及びセカンダリシャフト15を経由して最終ギヤ列16〜18から左右の駆動輪に伝達される。
【0045】
一方、図4を参照すると、ローモードのパワーオフ状態(モータ連結用クラッチ110を締結した回生ブレーキ状態)では、駆動輪の動力は、最終ギヤ列18〜16、セカンダリシャフト15、リングギヤ43、ピニオン42、ピニオンキャリヤ44、ローモードクラッチ50、ローモードギヤ列73〜71及びインプットシャフト13を経由してエンジン10に伝達される共に、ローディングカム機構19から入力ディスク31、パワーローラ33、出力ディスク32、ハイモード第1ギヤ81、連結用ギヤ111及び連結用クラッチ110を経由してモータジェネレータ90に伝達され、該モータジェネレータ90で発電が行われる。また一部は出力ディスク32からハイモードギヤ列81,82及びサンギヤ41を経由して再びピニオン42に戻る。
【0046】
また、図6を参照すると、ハイモードのパワーオフ状態(モータ連結用クラッチ110を締結した回生ブレーキ状態)では、駆動輪の動力は、最終ギヤ列18〜16、セカンダリシャフト15、ハイモードクラッチ60、ハイモードギヤ列82,81、連結用ギヤ111及び連結用クラッチ110を経由してモータジェネレータ90に伝達され、該モータジェネレータ90で発電が行われる。
【0047】
そして、図1を参照すると、エンジン10がアイドルストップされた後の該エンジン10の再始動時は、モータジェネレータ90の動力は、連結用クラッチ110、連結用ギヤ111、出力ディスク32、パワーローラ33、入力ディスク31、ローディングカム機構19及びインプットシャフト13を経由してエンジン10に伝達される。
【0048】
以上に基づき、このアイドルストップ車両のパワートレイン1の一連の動作を説明する。まず車両が徐々に速度を落としていって停車状態に移行するときは、走行モードはローモードに切り換わっており、トロイダルレシオがGNレシオに向けて小さくなっていく一方で、ユニットレシオが無限大に向けて大きくなっていく。そしてブレーキペダルが踏み込まれた状態で車速がほぼゼロになった停車状態では、トロイダルレシオはGNレシオよりやや大きい図2のA点のレシオに制御される。ここでトロイダルレシオをあえてGNレシオに制御しない理由は、トロイダルレシオを唯一点にしかないGNレシオに正確に一致させるのが困難であること、トロイダルレシオをGNレシオを超えて小さくしてしまうと後退方向の回転が発生してしまうこと、トルクコンバータを有するパワートレインのようなクリープ力の働く状態が再現できること、等による。
【0049】
また車両が停車状態になってから所定時間が経過した後にエンジン10が自動的に停止される(アイドルストップ)。このとき、該エンジン10で駆動される機械式のオイルポンプもまた駆動が停止する。そしてブレーキペダルの踏み込みが解除された再発進時にはエンジン10がモータジェネレータ90を使って自動的に再始動される。その場合に、図1に示したように、モータジェネレータ90の動力は出力ディスク32側から供給される。前述したように、本実施形態では、GNレシオは1より小さい値とされている。つまり車両が停車状態にあるときのトロイダルレシオ(再発進時のトロイダルレシオ)は、入力側からみた場合は、(入力ディスク31の回転数/出力ディスク32の回転数)となって1より小さいが(増速)、出力側からみた場合は、(出力ディスク32の回転数/入力ディスク31の回転数)となって1より大きいのである(減速)。
【0050】
このように、モータジェネレータ90を無段変速機20の複数のディスク31,31,32のうち車両が停車状態にあるときのトロイダルレシオ(再発進時のトロイダルレシオ)が大きくなる出力ディスク32に連結したから、モータジェネレータ90のトルクが増大され、エンジン10の再始動に必要なトルクが小さくて済み、エンジン10の再始動性ないし車両の再発進性が阻害されない。また、モータジェネレータ90の容量が小さくて済み、このパワートレイン1のコンパクト化及び低コスト化が図られる。
【0051】
ここで、図1に併記したように、このエンジン10の再始動時には、モータ連結用クラッチ110は当初は解放しておき、この状態でモータジェネレータ90をオンにして該モータジェネレータ90で先に電動オイルポンプ100だけを駆動してパワーローラ33ないしトラニオンの支持油圧を確実に立てた後に、モータ連結用クラッチ110を締結してモータジェネレータ90の動力をトロイダル式無段変速機構30ないし動力伝達経路に供給してエンジン10を再始動する。これにより、モータジェネレータ90の動力は、エンジン10で駆動される機械式のオイルポンプが駆動する前において、電動オイルポンプ100によって、トロイダル式無段変速機構30のトラニオンがしっかりと支持され、再発進時のトロイダルレシオ(GNレシオの近傍のレシオ:A点のレシオ)が確実に達成された状態で、トロイダル式無段変速機構30に供給されるから、エンジン10の再始動時にトラニオン及びパワーローラ33の姿勢がふらついてトロイダルレシオが不安定に変動し、その結果エンジン回転が不測に変動する、というような不具合が免れる。また、エンジン10の再始動時のトロイダルレシオ(GNレシオの近傍のレシオ:A点のレシオ)が安定的に維持されるから、エンジン10の再始動に必要なトルクが小さくて済む、という前述の効果が減損されることがない。
【0052】
しかも、エンジン10再始動用のモータジェネレータ90がGN式無段変速機20用の電動オイルポンプ100の駆動用モータを兼ねるから、該電動オイルポンプ100を駆動するためだけの専用のモータ等を別に備えずに済む。
【0053】
そして、モータジェネレータ90をGN式無段変速機20と軸心X4,X1同士が平行になるように配置したから、このパワートレイン1の軸方向の長大化を防ぐことができる。また、パワートレイン1の既存の配列を乱すことなくモータジェネレータ90をパワートレイン1に組み入れることができるから、パワートレイン1の汎用性・共通化が高まり、このアイドルストップ車両を通常車両のパワートレインをベースにして容易に派生することができる。
【0054】
より具体的には、図7に示すように、このパワートレイン1に含まれる複数の軸心X1〜X4はほぼ前後2段上下2段に均等に分散して配置されている。ただし図7は、ベースとなる通常車両のパワートレインのケース150、バルブボディ120及びオイルパン130等を実線で示し、モータジェネレータ90の軸心X4を仮想的に示している。また図7の右側が車体の前方である。このようにエンジン10を車体に対して横置きに配置し、無段変速機20のトロイダル式無段変速機構30を上記エンジン10と同じ軸心X1上に配置し、電動オイルポンプ100及び連結用クラッチ110をモータジェネレータ90と同じ軸心X4上に配置したから、このアイドルストップ車両のパワートレイン1は、横置きエンジン10、無段変速機構30、電動オイルポンプ100、連結用クラッチ110及びモータジェネレータ90がすべて車幅方向に延びる相互に平行な2つの軸心X1,X4上に配置されたコンパクトなレイアウトである。
【0055】
しかも、ベースとなる通常車両のパワートレインでは、エンジン10及び無段変速機構30の軸心X1の上部にスペースSが生じていて、このスペースS1を利用してモータジェネレータ90の軸心X4を効率よく配置するから、このパワートレイン1のレイアウト性のよさが減損されない。加えて、モータジェネレータ90の軸心X4を通常車両のパワートレインの既存の軸心X1〜X3の間に配置するのではなく、エンジン10及び無段変速機構30の軸心X1の外側に配置するから、その追加が極めて容易で、ケース150の大幅な改造が強いられない。
【0056】
なお、図3及び図5に併記したように、パワーオン走行時に連結用クラッチ110を締結してモータジェネレータ90の動力を動力伝達経路に供給するようにしてもよい。ハイブリッド車両におけるアシスト用モータのような使い方が可能となる。また、モータジェネレータ90を始動時のスタータモータとして用いることも可能である。さらに、後退時の制御も以上に準じて行うことができる。
【0057】
図8に示すように、トロイダル式無段変速機構30としてシングルキャビティ型を用いてもよい。エンジン10及び無段変速機構30の軸心X1がより短縮化する。ただしトーショナルダンパ12等との干渉を避けるため、モータジェネレータ90の軸心X4上のオイルポンプ100やクラッチ110等の配列がやや異なっている。
【0058】
図9及び図10に示すように、軸心X4上の連結用ギヤ111と、軸心X1上のハイモード第1ギヤ81と、軸心X2上のハイモード第2ギヤ82との連結をチェーンドライブとしてもよい。すなわち、上記の3つのギヤ111,81,82をすべてスプロケットとし、チェーン140を巻き掛けるのである。ただし上記の3つの軸心上の回転X4,X1,X2がすべて同方向になることから、ローモードアイドルギヤ72が除去されている。
【0066】
【発明の効果】
本発明は、車両用パワートレインの軸方向の長大化を防ぎ、アイドルストップ車両のような低公害型車両の派生を容易とし、かつ、無段変速機としてGN式無段変速機が採用されたときにエンジンの再始動に必要なトルクを確実に小さく抑える。本発明は、このように車両用パワートレイン構造のコンパクト化や低コスト化に寄与し、例えば車両の動力源である内燃機関の他にエンジン再始動用の電気モータを搭載したアイドルストップ車両やハイブリッド車両等の低公害型車両もしくは環境対応型車両の技術分野において幅広い産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態に係るアイドルストップ車両のパワートレインの骨子図であると共に、該パワートレインに搭載したトロイダル式無段変速機のトロイダルレシオをギヤードニュートラル実現変速比の近傍の変速比に制御した状態でモータジェネレータによりエンジンを再始動するときの動力の流れを併せて矢印で表したものである。
【図2】 上記トロイダル式無段変速機のトロイダルレシオとユニットレシオとの関係を示す特性図である。
【図3】 上記パワートレインにおいてローモードの動力伝達経路を形成したときのパワーオン走行時の動力の流れを矢印で表した図1と類似の骨子図である。
【図4】 同じくローモードの動力伝達経路を形成したときのパワーオフエネルギ回生時の動力の流れを矢印で表した図1と類似の骨子図である。
【図5】 同じくハイモードの動力伝達経路を形成したときのパワーオン走行時の動力の流れを矢印で表した図1と類似の骨子図である。
【図6】 同じくハイモードの動力伝達経路を形成したときのパワーオフエネルギ回生時の動力の流れを矢印で表した図1と類似の骨子図である。
【図7】 上記パワートレインの複数の軸心同士の具体的な配置関係を示すための概略側面図である。
【図8】 本発明の第2の実施の形態に係るアイドルストップ車両のパワートレインの骨子図である。
【図9】 本発明の第3の実施の形態に係るアイドルストップ車両のパワートレインの骨子図である。
【図10】 上記第3の実施の形態に係るパワートレインの複数の軸心同士の具体的な配置関係を示すための図7と類似の概略側面図である。
【図11】 従来のアイドルストップ車両のパワートレイン構造の1例を示す概略構成図である。
【図12】 同じく従来のアイドルストップ車両のパワートレイン構造の別の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 パワートレイン
10 エンジン(内燃機関)
13 インプットシャフト
14 プライマリシャフト
15 セカンダリシャフト
20 トロイダル式無段変速機
30 トロイダル式無段変速機構
31 入力ディスク(入力側回転要素)
32 出力ディスク(出力側回転要素)
33 パワーローラ(ローラ部材)
40 遊星歯車機構
81 ハイモードギヤ列の第1ギヤ
90 モータジェネレータ(電気モータ)
100 電動オイルポンプ
110 モータ連結用クラッチ
111 モータ連結用ギヤ
X1 エンジン及び無段変速機構の軸心
X4 モータジェネレータの軸心
Claims (4)
- 内燃機関と、該内燃機関の動力が入力され、入力側回転要素と出力側回転要素との間の変速比が無段階に変化する無段変速機と、これらの内燃機関及び無段変速機を経由する動力伝達経路に動力を供給する電気モータとを有する車両用パワートレインの構造であって、上記無段変速機は、遊星歯車機構を併用して、入力側回転要素と出力側回転要素との間の変速比を1より小さい所定の変速比に制御したときに出力回転が零となるように構成されていると共に、上記電気モータを上記無段変速機と軸心同士が平行になるように配置し、かつ上記電気モータを上記無段変速機の回転要素のうち出力側回転要素に連結したことを特徴とする車両用パワートレイン構造。
- 上記無段変速機に油圧を供給する電動オイルポンプを上記電気モータに連結したことを特徴とする請求項1に記載の車両用パワートレイン構造。
- 上記無段変速機は、入力側回転要素と出力側回転要素との間に設けたローラ部材が傾転することにより両回転要素間の変速比が無段階に変化するトロイダル式無段変速機であり、上記電動オイルポンプは、上記ローラ部材の支持部材を支持する油圧を上記無段変速機に供給するものであり、上記電気モータと上記無段変速機との間に、該電気モータから動力伝達経路への動力の供給を遮断又は接続するクラッチを備えたことを特徴とする請求項2に記載の車両用パワートレイン構造。
- 上記内燃機関を車体に対し横置きに配置し、上記無段変速機を上記内燃機関と同軸に配置し、上記電動オイルポンプ及び上記クラッチを上記電気モータと同軸に配置したことを特徴とする請求項3に記載の車両用パワートレイン構造。
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