JP4134998B2 - ハイブリッド車の駆動装置 - Google Patents

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Description

この発明は、車両の走行のための動力源として原動機と発電機能のある電動機とを備えているハイブリッド車に関し、特にこれらの原動機と電動機との動力を差動機構によって合成もしくは分配して出力するように構成されたハイブリッド車の駆動装置に関するものである。
周知のように、内燃機関の最も効率の良い運転状態と車両に要求される走行を満足するための内燃機関の運転状態とは必ずしも一致しないので、内燃機関を動力源とする車両の燃費を向上させ、また排ガスを削減するために、変速機などの他の駆動機構を併用する必要がある。その一例が発電機および電動機を内燃機関と併用したハイブリッド車であり、内燃機関を効率の良い運転点で運転し、かつ車両に要求される駆動トルクを電動機で付加でき、しかも減速時にエネルギー回生をおこなってその電力を走行のために使用できるので、走行に対する要求を満たしつつ燃費を向上させることができる。
ハイブリッド車において内燃機関と電動機や発電機とを組み合わせる形式は多様であり、エネルギー回生およびトルクアシストにモータ・ジェネレータを使用するだけでなく、内燃機関の回転数制御およびトルクアシストのための電力の発電にモータ・ジェネレータもしくは発電機を使用する形式のハイブリッド車が提案されている。その一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された装置は、三組の遊星歯車機構を相互に連結して入力要素および反力要素ならびに出力要素とされる要素を五つ備えた歯車機構を構成し、所定の入力要素に内燃機関を連結するとともに、所定の反力要素に第1のモータ・ジェネレータを連結し、さらに残る三つの要素を選択的に出力部材に連結することによりこれらの三つの要素を選択的に出力要素とするように構成されている。そして、いずれかの出力要素に第2のモータ・ジェネレータが連結されている。
したがって特許文献1に記載された装置では、出力要素の回転数が、内燃機関の連結された入力要素の回転数と第1のモータ・ジェネレータが連結された反力要素の回転数との中間の回転数となる場合と、出力要素の回転数が、前記入力要素の回転数と前記反力要素の回転数とのうちの高回転数よりも更に高回転数となる場合との少なくとも二つの駆動状態を設定することができる。前者の場合には、出力要素の回転数が入力回転数より低回転数となるので、出力要素もしくはこれが連結される出力部材には、内燃機関の出力トルクがいわゆる増幅された状態で現れる。また反対に後者の場合には、出力部材に現れるトルクが内燃機関の出力トルクより小さくなる。
特開2000−108693号公報
上記の特許文献1に記載された装置では、内燃機関の出力トルクを第1のモータ・ジェネレータと出力要素とに分配する前記歯車機構が、出力要素の選択の仕方によって、実質的な変速比が変化する変速機として機能する。そのため、内燃機関から出力部材に伝達されるトルクの割合を変化させることができるので、内燃機関の運転状態を特に大きく変化させたり、第2のモータ・ジェネレータによるアシストトルクを特に大きくしたりすることなく、走行に対する要求をある程度満たすことができる。
しかしながら、上記の特許文献1に記載された装置では、差動作用をなす三要素の遊星歯車機構を三組組み合わせて五要素の歯車機構を構成し、そのうちの三つの要素を選択的に出力要素とするようになっているため、歯車機構の構成が大型化および複雑化する問題があった。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、車載性に優れ、しかも動力損失を抑制することのできるハイブリッド車の駆動装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、原動機と、発電機能のある二つの電動機と、前記原動機および電動機の動力を合成もしくは分配して出力する差動機構とを備えたハイブリッド車の駆動装置において、前記差動機構が、外部の他の部材に連結可能な四要素を有するように二組の遊星歯車機構を組み合わせたのと同等の複合遊星歯車機構であって共線図上では原動機の動力が入力される入力要素を挟んだ両側にそれぞれ出力要素が位置する複合遊星歯車機構によって構成され、それらの出力要素から動力が伝達される出力軸が設けられるとともに、それらの出力部材と出力軸との間に変速比を変更する変速機構が設けられ、前記四要素のうち前記入力要素および出力要素以外の他の要素に第1の前記電動機が連結され、また第2の前記電動機が前記原動機の出力部と一体に回転するように設けられ、さらに前記原動機および第2の電動機を選択的に制動する制動機構が設けられていることを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記複合遊星歯車機構は、前記入力要素であるリングギヤと、前記第1の電動機に連結された前記他の要素でありかつ前記リングギヤと共にダブルピニオン型遊星歯車機構を形成する第1のサンギヤと、前記一方の出力要素でありかつ前記リングギヤと共にシングルピニオン型遊星歯車機構を形成する第2のサンギヤと、前記他方の出力要素であるキャリヤとを有するラビニョ型遊星歯車機構によって構成され、前記第2のサンギヤと一体の第1中間軸と前記キャリヤと一体の第2中間軸とが設けられるとともに、これらの各中間軸と該中間軸に対して平行に配置された前記出力軸との間に、ギヤ比が互いに異なる複数のギヤ対と、これらのギヤ対を動力伝達可能状態に選択的に切り替える切替機構とが設けられていることを特徴とするハイブリッド車の駆動装置である。
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記制動機構は、前記原動機を逆回転させる方向のトルクが作用した場合に係合状態となって前記原動機および第2の電動機の回転を止める一方向クラッチからなることを特徴とするハイブリッド車の駆動装置である。
またさらに、請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記ハイブリッド車が有する走行慣性エネルギーを前記第1の電動機で回生する場合に、前記原動機を燃料を供給することなく回転させる回転制御手段を更に備えていることを特徴とするハイブリッド車の駆動装置である。
そして、請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記回転制御手段は、前記原動機の回転を止めるように前記第2の電動機で生じさせるトルクを制御する手段を含むことを特徴とするハイブリッド車の駆動装置である。
請求項1の発明によれば、二つの出力要素のうちの一方を変速機構を介して出力軸に連結した状態と、他方の出力要素を変速機構を介して出力軸に連結した状態とでは、変速比が異なる。すなわち、原動機やこれと一体に回転する第2の電動機の出力したトルクに基づく出力軸のトルクを、出力要素を切り換えることにより変更することができる。そのため、駆動形態(運転モード)が複数になって走行要求に適した駆動形態を選択でき、あるいは第2の電動機を高回転低トルク型のものとすることができ、しかも二組の遊星歯車機構で分配機構を構成できるので、装置の全体としての構成を簡素化および小型化することができる。さらに、第1の電動機が出力する動力で走行する場合あるいはハイブリッド車が惰性走行する際に第1の電動機でエネルギー回生する場合、制動機構によって入力要素の制動を行い、第2の電動機に対するトルクを制限もしくは抑制できるので、この点でも、第2の電動機を小容量で小型化できる。
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果を得られることに加えて、原動機および第2の電動機の動力を合成もしくは分配する差動機構としてラビニョ型遊星歯車機構が使用されるので、遊星歯車機構の数を少なくして、装置の全体としての構成を小型化することができる。また変速機構にいわゆる平行ギヤを採用できるので、変速比の設定の自由度を向上させることができる。
さらに、請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られることに加え、第1の電動機の動力で走行するなどの場合、原動機および第2の電動機に対してこれをいわゆる逆回転させる方向にトルクが掛かり、それに伴って一方向クラッチが係合して原動機および第2の電動機の回転が止められる。すなわち、第2の電動機に替わって一方向クラッチがトルクを受け持つので、第2電動機を小容量の小型のものとすることができると同時に、特別な係合・解放制御を不要にすることができる。
またさらに、請求項4あるいは5の発明によれば、請求項3の発明において、いわゆる回生走行時には一方向クラッチが係合しないので、原動機および第2の電動機によって、複合遊星歯車機構における入力要素を制動することになるが、原動機が回転することに伴って負のトルクを生じるので、その分、第2の電動機で生じさせるべき負のトルクが小さくなり、その結果、第2の電動機の容量を小さくしてその小型化を図ることができる。
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明に係る駆動装置の一例をスケルトン図で示してあり、ここに示す例は、原動機としての内燃機関1と、発電機能のある電動機としての第1および第2のモータ・ジェネレータ2,3とを動力装置として備え、内燃機関1の出力した動力と各モータ・ジェネレータ2,3もしくはいずれのモータ・ジェネレータ2,3の出力した動力とを合成し、あるいはいずれかのモータ・ジェネレータ2,3に分配して出力する差動機構である分配機構4を更に備えている。
その内燃機関1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン、あるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼して動力を出力する動力機関であり、好ましくはスロットル開度などの負荷を電気的に制御でき、また所定の負荷に対して回転数を制御することにより燃費が最も良好な最適運転点に設定できる内燃機関である。以下、内燃機関1をエンジン1と記す。
分配機構4は、実質的に二組の遊星歯車機構を組み合わせた複合遊星歯車機構によって構成されており、図1に示す例では、シングルピニオン型遊星歯車機構とダブルピニオン型遊星歯車機構とを組み合わせたラビニョ型遊星歯車機構が使用されている。具体的には、外歯歯車である第1サンギヤ(S1)5と、この第1サンギヤ5に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ(R)6との間に、これら第1サンギヤ5とリングギヤ6とに噛み合っているショートピニオン7が配置されており、これら第1サンギヤ5とリングギヤ6とショートピニオン7との三者でシングルピニオン型遊星歯車機構が構成されている。また、第1サンギヤ5に隣接して第2サンギヤ(S2)8が同一軸線上に配置され、この第2サンギヤ8に噛み合っているロングピニオン9が、前記ショートピニオン7に噛み合っており、したがって第2サンギヤ8と各ピニオン7,9とリングギヤ6との四者でダブルピニオン型遊星歯車機構が構成されている。そして、互いに噛み合っているショートピニオン7とロングピニオン9とは複数対設けられており、これらのピニオン7,9がキャリヤ(C)10によって自転かつ公転するように保持されている。したがって、第1サンギヤ5と、リングギヤ6と、第2サンギヤ8と、キャリヤ10との四つ部材が、外部の部材と連結されてトルクの授受をおこなう回転要素となっている。
この分配機構4におけるリングギヤ6にエンジン1のクランクシャフトなどの出力部1Aが連結されている。したがってリングギヤ6がこの発明の入力要素となっている。さらに、その出力部1Aに第2モータ・ジェネレータ3のロータが連結されている。なお、この第2モータ・ジェネレータ3のステータは、ハウジング13などの固定部に固定されている。この構成は、エンジン1と第2モータ・ジェネレータ3とが一体となって回転するための構成であり、したがってロータをエンジン1に対して直接連結する構成に替えて、歯車やチェーンなどの伝動機構(図示せず)を介在させてもよい。なおまた、図1では、エンジン1および第2モータ・ジェネレータ3がリングギヤ6に直接連結された構成が示されているが、エンジン1あるいは第2モータ・ジェネレータ3とリングギヤ6との間にトルクコンバータや発進用のクラッチ(それぞれ図示せず)を設けてもよい。
上記のリングギヤ6は、エンジン1あるいは第2モータ・ジェネレータ3がトルクを出力している場合に入力要素となり、したがってトルクの入力方向が反転した場合、すなわちハイブリッド車がその慣性力で走行する惰性走行時や第1モータ・ジェネレータ2を電動機として機能させてその動力で走行するいわゆるEV走行(電気自動車走行)時には、反力要素となる。リングギヤ6がこのようにして反力要素として機能する際のトルクを、ケーシング13などの固定部で受け持つために、リングギヤ6とケーシング13などの固定部との間に制動機構であるブレーキB1が設けられている。このブレーキB1は、直接的にはリングギヤ6を制動するように構成することができるが、図1に示すように構成された装置においては、第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1を制動するように機能し、これら第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1に替わってトルクを受けることになる。
なお、このブレーキB1として、ドグクラッチなどの噛み合い式のもの、摩擦板やベルトを使用した摩擦式のものなどの各種の形式のものを適宜使用することができる。また、ブレーキB1による反力トルクは、惰性走行時とEV走行時とでは、方向が反対になるので、正回転方向および逆回転方向のいずれにも制動力を生じるブレーキを用いれば、惰性走行時およびEV走行時のいずれでもブレーキB1で反力トルクを受け持つことができる。一方、惰性走行は、一時的な走行状態であるのに対して、EV走行は、連続的で、また長時間に亘る走行状態となる場合が多い。そこで、EV走行時にのみブレーキB1で反力トルクを受け持つように構成することもできる。具体的には、EV走行に伴って、エンジン1および第2モータ・ジェネレータ3ならびにリングギヤ6が逆回転する方向にトルクが作用した場合に係合する一方向クラッチによって、ブレーキB1を構成することができる。
上述した分配機構4における第1サンギヤ5に、第1モータ・ジェネレータ2からトルクを伝達するように構成されており、したがってこの第1サンギヤ5がこの発明の反力要素となっている。具体的には、エンジン1と同一軸線上に反力軸11が配置されており、この反力軸11のエンジン1側とは反対側の端部が、ギヤ対12を介して第1モータ・ジェネレータ2のロータに連結されている。なお、第1モータ・ジェネレータ2のステータは、ケーシング13などの固定部に連結されて固定されている。
上述した分配機構4は、入力要素となっているリングギヤ6と、反力要素となっている第1サンギヤ5と、第2サンギヤ8と、キャリヤ10との四つの要素を回転要素とするものであり、したがって第2サンギヤ8とキャリヤ10とが選択的に出力要素とされる。そして、リングギヤ6と、第1サンギヤ5あるいは第2サンギヤ8と、キャリヤ10との三者で差動作用を生じるように構成されている。
これらの出力要素と出力部材との間に、両者の間で選択的にトルクを伝達させる切替機構が設けられている。図1に示す具体例では、変速機構における同期連結機構が、この発明の切替機構に相当している。具体的に説明すると、上記の反力軸11の外周側に、それぞれ中空軸である第1および第2の中間軸14,15が、回転自在に嵌合されている。外周側の第2中間軸15が、前記キャリヤ10に連結されており、内周側の第1中間軸14が、前記第2サンギヤ8に連結されるとともに、第2中間軸15の先端側(エンジン1とは反対側)に突出している。
これらの中間軸14,15から所定寸法離れ、かつこれらの中間軸14,15に対して平行に、出力軸16が回転自在に配置されている。そして、前記第1中間軸14と出力軸16との間に、第1速用ギヤ対17と、第3速用ギヤ対18とが配置されている。これらのギヤ対17,18は、軸線方向において互いに隣接して配置されている。また、前記第2中間軸15と出力軸16との間に、第2速用ギヤ対19と、第4速用ギヤ対20とが配置されている。これらのギヤ対19,20は、軸線方向において互いに隣接して配置されている。これらのギヤ対17,18,19,20のそれぞれは、各中間軸14,15側の駆動ギヤと、これに常時噛み合っている出力軸16側の従動ギヤとから構成されており、駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比率が、第1速用ギヤ対17から第4速用ギヤ対20の順に次第に小さくなるように設定されている。したがってこれらのギヤ対17,〜20がいわゆる平行ギヤ式の変速機構を構成している。
上記の各ギヤ対17,〜20における従動ギヤは、出力軸16に対して回転自在に保持されている。そして、これらの従動ギヤを出力軸16に対して選択的に連結する同期連結機構(シンクロナイザー)21,22が設けられており、そのうちの第1の同期連結機構21が、第1速用ギヤ対17と第3速用ギヤ対18との間に配置され、また第2の同期連結機構22が、第2速用ギヤ対19と第4速用ギヤ対20との間に配置されている。これらの同期連結機構21,22は従来知られているものと同様の構成であって、出力軸16に一体化させたハブ21h,22hの外周側にスリーブ21s,22sをスプライン嵌合させ、そのスリーブ21s,22sを軸線方向に移動させることにより、隣接する従動ギヤに形成されているスプラインに嵌合させて、ハブ21h,22hすなわち出力軸16と従動ギヤとをトルク伝達可能に連結するように構成されている。上記の出力軸16に取り付けた出力ギヤ23が、デファレンシャル(終減速機)24のリングギヤ25に噛み合っている。
なお、特には図示しないが、各モータ・ジェネレータ2,3はバッテリーなどの蓄電装置およびインバータに接続されていて、その力行および回生を電気的に制御され、それに伴ってエンジン1の回転数の制御も可能であり、さらに各モータ・ジェネレータ2,3の間で電力を授受できるようになっている。また、同期連結機構21,22の切換制御や、ブレーキB1の係合・解放制御を手動によっておこなうように構成することもできるが、適宜のアクチュエータを使用して電気的に制御することもできる。これらの制御は、例えばマイクロコンピュータを主体とした電子制御装置によっておこなうことができ、その電子制御装置もしくはエンジン1に燃料を供給しない状態でエンジン回転数を制御する機能的手段が、この発明の回転数制御手段に相当する。
つぎに上記の駆動装置の作用について説明する。上述したように分配機構4は、出力要素として第2サンギヤ8とキャリヤ10とを選択的に使用することができる。その出力要素の選択は、図1に示す例では、同期連結機構21,22によっておこなう。そして、この選択の仕方によって、すなわち第2サンギヤ8を出力要素とした場合とキャリヤ10を出力要素とした場合とでは、エンジン1の出力トルクに対する駆動トルクあるいは出力軸16に現れる出力軸トルクとの関係が変化する。言い換えれば、駆動装置の全体としての運転モードが変化する。
図2は、前述した同期連結機構21,22の動作状態(すなわちスリーブ21s,22sの位置)と設定される変速段との関係をまとめて示す図表である。図2において、「17側」、「18側」などの表示は、各スリーブ21s,22sが移動して係合している方向を示し、×印はスリーブ21s,22sがいずれにも係合していない中立状態を示す。
先ず、第1速は、第1同期連結機構21のスリーブ21sを第1速用ギヤ対17側に移動してその従動ギヤを出力軸16に連結することにより設定される。この状態では、第2サンギヤ8が出力要素となり、第1速用ギヤ対17を介して出力軸16に連結される。これを共線図で示すと、図3の(A)の状態となり、分配機構4における出力要素である第2サンギヤ8の回転数は、反力要素である第1サンギヤ5の回転数より入力要素であるリングギヤ6の回転数を高回転数とした場合には、その入力要素であるリングギヤ6の回転数より更に高回転数になる。そして、出力軸16の回転数は、第1速用ギヤ対17によるギヤ比に従って、第2サンギヤ8の回転数を減速した回転数となる。
この第1速は通常、車両の発進時に設定され、停止状態からの発進を全て上記の駆動装置によって制御するとすれば、エンジン1を燃費の良好な回転数に制御しておき、その状態で第1モータ・ジェネレータ2の回転数をエンジン回転数より大幅に高くして、出力要素である第2サンギヤ8の回転を止めておく。その状態から第1モータ・ジェネレータ2の回転数を次第に低下させると、エンジン1の回転数を一定に維持すれば、第2サンギヤ8の回転数が次第に増大し、車両が発進する。その場合、第1モータ・ジェネレータ2は回転数を低下させるように制御されて発電をおこない、その電力が第2モータ・ジェネレータ3に供給されて、第2モータ・ジェネレータ3が電動機として機能することにより入力トルクのアシスト(補助)をおこなう。
こうして出力要素である第2サンギヤ8の回転数を増大させるために第1モータ・ジェネレータ2の回転数を低下させると、車速の増大に伴って、ついには第1モータ・ジェネレータ2の回転数が、従前とは反対の負回転となる。図3の(A)にはその状態を実線で示してあり、この状態では、第1モータ・ジェネレータ2は要求される反力トルクを発生するために負回転方向に増速するように制御することになる。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2が電動機として作用することになる。これは、第1モータ・ジェネレータ2が電力を消費する状態であって、エネルギー効率の悪い状態であるから、これを避けるために、運転モードが変更される。具体的には、第1速から第2速に変速される。
第2速では、キャリヤ10が出力要素となる。上記の図1に示す構成では、一例として、図3に示すように第1モータ・ジェネレータ2の回転数を負回転方向に制御して設定すると、第2速用ギヤ対19における従動ギヤの回転数と出力軸16との回転数が一致する(すなわち同期する)。この同期状態で、第1同期連結機構21が中立状態になり、かつ第2同期連結機構22におけるスリーブ22sが、第2速用ギヤ対19側に移動してその従動ギヤと出力軸16とを係合させる。第2速の状態での共線図を図3の(B)に示してある。したがってキャリヤ10が出力要素となるとともに、第2速用ギヤ対19を介してキャリヤ10が出力軸16に連結される。このような切り換えは、互いに連結され、また連結が解かれる部材の相対回転数が一致している同期状態で実行されるので、ショックが生じず、少なくともショックが抑制される。
キャリヤ10を出力要素とした運転モード、すなわち第2速の状態では、入力要素であるリングギヤ6と反力要素である第1サンギヤ5との中間の回転数であるキャリヤ10が出力要素となるので、そのキャリヤ10に現れるトルクは、エンジン1の出力トルクより大きくなる。言い換えれば、分配機構4がトルクコンバータとして機能する。
第2速で設定される運転モードでは、エンジン回転数を一定に維持した場合、反力要素である第1サンギヤ5の回転数を増大させることにより、出力要素であるキャリヤ10の回転数が増大する。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2を負回転・力行状態からその回転数を次第に低下させて正回転状態とし、さらに発電機として機能させつつその回転数を増大させることにより、キャリヤ10の回転数、すなわち車速が増大する。この場合、第1モータ・ジェネレータ2で生じた電力が第2モータ・ジェネレータ3に供給されてこれが電動機として機能するので、その出力トルクによって、リングギヤ6に対する入力トルクがアシストされる。
第2速の状態で第1モータ・ジェネレータ2の回転数を次第に増大させると、キャリヤ10の回転数が次第に増大するとともに第1サンギヤ5の回転数が次第に低下する。そのため、図4の(A)に示す状態になると、第3速用ギヤ対18における従動ギヤの回転数と出力軸16との回転数が一致する(すなわち同期する)。この同期状態で、第2同期連結機構22が中立状態になり、かつ第1同期連結機構21におけるスリーブ21sが、第3速用ギヤ対18側に移動してその従動ギヤと出力軸16とを連結する。第3速の状態での共線図を図4の(B)に示してある。したがって第2サンギヤ8が出力要素となるとともに、第3速用ギヤ対18を介して第2サンギヤ8が出力軸16に連結される。このような切り換えは、互いに連結され、また連結が解かれる部材の相対回転数が一致している同期状態で実行されるので、ショックが生じず、少なくともショックが抑制される。
第3速では第2サンギヤ8が出力要素となっているので、前述した第1速の場合と同様の運転モードであり、したがって第1モータ・ジェネレータ2の回転数を低下させることにより出力要素である第2サンギヤ8の回転数が増大する。すなわち車速の増大に応じて第1モータ・ジェネレータ2の回転数を低下させることになる。そして、車速がある程度増大すると、第1モータ・ジェネレータ2が負回転・力行状態になることがある。図1に示す具体例では、第4速に同期した状態で第1モータ・ジェネレータ2が負回転・力行状態となる。その例を図5に示してある。
図5の(A)は第3速の状態を示しており、車速の増大に伴って出力要素である第2サンギヤ8の回転数が増大していることにより、反力要素である第1サンギヤ5に連結されている第1モータ・ジェネレータ2が逆回転し、力行状態となる。この状態では、第4速用ギヤ対20における従動ギヤと出力軸16との回転数が一致(同期)する。その状態を図5の(B)に共線図で示してある。したがって、この同期状態で第1同期連結機構21が中立状態に切り換えられ、かつ第2同期連結機構22におけるスリーブ22sが、第4速用ギヤ対20側に移動させられて、その従動ギヤと出力軸16とを連結する。こうして、ショックを悪化させることなく、運転モードが切り換えられる。
この第4速を設定している運転モードは、上述した第2速を設定している運転モードと同様であるから、車速の増大に伴って第1モータ・ジェネレータ2の回転数を増大させることになる。その場合、第1モータ・ジェネレータ2は発電機として機能するので、その電力を第2モータ・ジェネレータ3に供給して第2モータ・ジェネレータ3によって入力トルクのアシストをおこなうことができる。
このように、この発明に係る上記の駆動装置では、車速の増大に伴って反力要素の回転数を低下させる運転モードと、これとは反対に反力要素の回転数を増大させる運転モードとに切り換えることができる。そのため、反力要素である第1サンギヤ5に連結されている第1モータ・ジェネレータ2を過度に負回転・力行状態に制御したり、あるいは過度に正回転・回生状態に制御したりする必要がなくなる。特に、上記の具体例のように変速機が3段以上の多段であれば、変速機でトルクを増大させることができるので、第1モータ・ジェネレータ2の回転数の制御幅を抑制することができる。その結果、エンジン1が出力したトルクのうち多くの部分が電力に変換されることなく出力軸16に伝達され、いわゆるエンジン直達分が増大するので、エネルギー損失が抑制され、また第1モータ・ジェネレータ2として比較的容量の小さい小型のものを使用でき、ひいてはこの第1モータ・ジェネレータ2から電力を受けて電動機として機能する第2モータ・ジェネレータ3を比較的小さい容量の小型のものとすることができる。すなわちこの発明に係る駆動装置によれば、分配機構4がラビニョ型遊星歯車機構や二組の遊星歯車機構を組み合わせた複合遊星歯車機構によって構成できることにより小型化できることと相まって、車載性の良好な駆動装置とすることができる。
一方、ハイブリッド車の利点は、エンジン1を効率の良い運転点が駆動できることに加えて、エネルギー回生をおこなうことができ、また回生した電力でEV走行でき、そのために、全体としてのエネルギー効率を向上させ、また排ガスを削減できる点にもある。そのエネルギー回生の一例が、ハイブリッド車の有する走行慣性エネルギーを電力として回生する例である。その回生走行時(惰性走行時)における分配機構4の動作状態を図6および図7に共線図で示してある。
前述したように、第1サンギヤ5とリングギヤ6とキャリヤ10に保持されたショートピニオン7とによってシングルピニオン型遊星歯車機構が構成され、また第2サンギヤ8とリングギヤ6とキャリヤ10に保持されたロングピニオン9とによってダブルピニオン型遊星歯車機構が構成されているので、共線図上では、反力要素である第1サンギヤ5、第1の出力要素であるキャリヤ10、入力要素であるリングギヤ6、第2の出力要素である第2のサンギヤ8との順に並ぶ。すなわち、入力要素を挟んだ両側に出力要素がそれぞれ位置する。
ハイブリッド車が惰性走行している状態でのエネルギー回生は、いずれかの出力要素が強制的に回転させられている状態で、第1モータ・ジェネレータ2を発電機として機能させることにより行われる。このような動作状態を達成するために、通常の駆動状態(エンジン1による走行状態)では入力要素となるリングギヤ6に反力トルクを受け持たせることになり、具体的には前記ブレーキB1を係合させ、反力トルクをケーシング13などの固定部に受け持たせる。
図6は、キャリヤ10を出力軸16に連結した回生走行状態を示しており、ブレーキB1によって第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1ならびにリングギヤ6を固定した状態で、第1モータ・ジェネレータ2を正回転方向に回転させかつ発電機として機能させる。また、図7は、第2サンギヤ8を出力軸16に連結した回生走行状態を示しており、ブレーキB1によって第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1ならびにリングギヤ6を固定した状態で、第1モータ・ジェネレータ2を逆回転方向に回転させかつ発電機として機能させる。
また一方、EV走行は、第2の出力要素である第2のサンギヤ8を第1モータ・ジェネレータ2で回転させ、その動力で走行するから、いずれかの出力要素からトルクを出力させるために、入力要素であるリングギヤ6に反力を受け持たせる。そのために上述した駆動装置では、ブレーキB1を係合させ、リングギヤ6およびこれに連結されている第2のモータ・ジェネレータ3ならびエンジン1を固定する。すなわち、反力トルクをケーシング13などの固定部に受け持たせる。図8は、キャリヤ10から出力して力行する状態を示しており、ブレーキB1によって第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1ならびにリングギヤ6を固定した状態で、第1モータ・ジェネレータ2を電動機として機能させて正回転方向に回転させ、動力を出力させる。また、図9は、第2サンギヤ8から出力して力行する状態を示しており、ブレーキB1によって第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1ならびにリングギヤ6を固定した状態で、第1モータ・ジェネレータ2を電動機として機能させて逆回転方向に回転させ、動力を出力する。
したがって上述した回生走行時およびEV走行時には、車両の走行慣性力に対する反力あるいは第1モータ・ジェネレータ2の駆動力に対する反力を、ブレーキB1を介して固定部で受け持ち、第2モータ・ジェネレータ3には、走行に伴うトルクが作用しない。そのため、第2モータ・ジェネレータ3は、回生走行やEV走行で要求される、リングギヤ6を固定するのに要するトルクを発生する大容量のものである必要がなく、その結果、第2モータ・ジェネレータ3の小型化が可能になる。また、エンジン1を連れ回すことがないので、動力損失を防止もしくは抑制して燃費を向上させることができる。
なお、前記ブレーキB1は、一方向クラッチによって構成することができ、その場合、エンジン1が逆回転する方向にトルクが作用すると、一方向クラッチが係合してリングギヤ6が制動される。しかしながら、回生走行時には、作用するトルクの方向がEV走行時とは反対であってエンジン1を正回転させる方向になるから、一方向クラッチが解放状態となってしまい、制動力が生じない。したがって、その場合には、第2モータ・ジェネレータ3によって逆回転方向のトルクを生じさせてリングギヤ6を固定する。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3で、回生走行時の反力トルクを受け持つ。
回生走行時の反力トルクの全てを第2モータ・ジェネレータ3で受け持つとすると、第2モータ・ジェネレータ3として容量の大きい大型のものが必要となる。そこでこの発明に係る上記の駆動装置は、制動機構として上記の一方向クラッチを使用した場合、回生走行時にリングギヤ6および第2モータ・ジェネレータ3に掛かるトルクを可及的に低減するべくエンジン1を、燃料を供給することなく回転させるように制御する。具体的には、第2モータ・ジェネレータ3で発生する反力トルクを幾分低減してエンジン1と共に回転させる。その状態を図10に共線図で示してある。その結果、エンジン1では摩擦損失やポンピングロスなどのトルク損失が生じ、これがリングギヤ6を制動するトルクとして作用する。言い換えれば、回生走行時におけるリングギヤ6による反力トルクを第2モータ・ジェネレータ3とエンジン1とで生じさせることになり、第2モータ・ジェネレータ3に要求されるトルクが相対的に小さくなり、そのために第2モータ・ジェネレータ3を小型化することが可能になる。このように回生走行時に、エンジン1を空転させるように第2モータ・ジェネレータ3を制御する手段が、この発明の回転制御手段に相当する。
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、制動機構は、要は、入力要素に連結されている第2モータ・ジェネレータ3やエンジン1に作用するトルクを小さくもしくはゼロにするように機能するものであればよいから、第2モータ・ジェネレータ3を直接制動する構成のもの、エンジン1の出力部1Aを直接制動するものなど、上記のブレーキB1とは異なる構成のものであってよい。
この発明に係る駆動装置の一例を模式的に示すスケルトン図である。 各変速段あるいは運転モードを設定するための連結機構の作動係合表を示す図表である。 第1速と第2速との同期状態を示す共線図である。 第2速と第3速との同期状態を示す共線図である。 第3速と第4速との同期状態を示す共線図である。 回生走行時における分配機構の動作状態を示す共線図である。 回生走行時における分配機構の他の動作状態を示す共線図である。 EV走行時における分配機構の動作状態を示す共線図である。 EV走行時における分配機構の他の動作状態を示す共線図である。 回生走行時にエンジンを僅かに空転させる場合における分配機構の動作状態を示す共線図である。
符号の説明
1…内燃機関(エンジン)、 2,3…モータ・ジェネレータ、 4…分配機構、 5…第1サンギヤ、 6…リングギヤ、 8…第2サンギヤ、 10…キャリヤ、 16…出力軸、 17,18,19,20,27…(変速段用)ギヤ対、 21,22…同期連結機構、 B1…ブレーキ(制動機構)。

Claims (5)

  1. 原動機と、発電機能のある二つの電動機と、前記原動機および電動機の動力を合成もしくは分配して出力する差動機構とを備えたハイブリッド車の駆動装置において、
    前記差動機構が、外部の他の部材に連結可能な四要素を有するように二組の遊星歯車機構を組み合わせたのと同等の複合遊星歯車機構であって共線図上では原動機の動力が入力される入力要素を挟んだ両側にそれぞれ出力要素が位置する複合遊星歯車機構によって構成され、
    それらの出力要素から動力が伝達される出力軸が設けられるとともに、それらの出力部材と出力軸との間に変速比を変更する変速機構が設けられ、
    前記四要素のうち前記入力要素および出力要素以外の他の要素に第1の前記電動機が連結され、
    また第2の前記電動機が前記原動機の出力部と一体に回転するように設けられ、
    さらに前記原動機および第2の電動機を選択的に制動する制動機構が設けられている
    ことを特徴とするハイブリッド車の駆動装置。
  2. 前記複合遊星歯車機構は、前記入力要素であるリングギヤと、前記第1の電動機に連結された前記他の要素でありかつ前記リングギヤと共にダブルピニオン型遊星歯車機構を形成する第1のサンギヤと、前記一方の出力要素でありかつ前記リングギヤと共にシングルピニオン型遊星歯車機構を形成する第2のサンギヤと、前記他方の出力要素であるキャリヤとを有するラビニョ型遊星歯車機構によって構成され、
    前記第2のサンギヤと一体の第1中間軸と前記キャリヤと一体の第2中間軸とが設けられるとともに、
    これらの各中間軸と該中間軸に対して平行に配置された前記出力軸との間に、ギヤ比が互いに異なる複数のギヤ対と、これらのギヤ対を動力伝達可能状態に選択的に切り替える切替機構とが設けられている
    ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車の駆動装置。
  3. 前記制動機構は、前記原動機を逆回転させる方向のトルクが作用した場合に係合状態となって前記原動機および第2の電動機の回転を止める一方向クラッチからなることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車の駆動装置。
  4. 前記ハイブリッド車が有する走行慣性エネルギーを前記第1の電動機で回生する場合に、前記原動機を燃料を供給することなく回転させる回転制御手段を更に備えていることを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車の駆動装置。
  5. 前記回転制御手段は、前記原動機の回転を止めるように前記第2の電動機で生じさせるトルクを制御する手段を含むことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車の駆動装置。
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