JP3815354B2 - 高周波熱処理部の転動疲労特性および加工性に優れた軸受部材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械構造部品の素材として広く使用されている機械構造用炭素鋼を用いた軸受部材よりも優れた転動疲労特性を有し、しかも加工性にも優れた軸受部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、軸受部品は、JIS G 4805に規定されている SUJ2に代表される高炭素クロム軸受鋼を素材として、球状化焼鈍処理を行ったのち、切削加工や冷間加工などの加工により軸受部品に成形加工したのち、焼入れ焼戻し処理を施して製造されてきた。
【0003】
近年、部品のコンパクト化や軽量化の観点から、上記した軸受部品に要求される機能が変化してきている。 例えば、従来であれば、軸受部分に軸受鋼を使用し、その他の強度部材については機械構造用炭素鋼から成形した部品を組み合わせて使用していたものが、構造のコンパクト化に伴い、機械構造用炭素鋼にも軸受としての機能が求められるようになってきた。
【0004】
このような部品に要求される転動寿命は、せいぜい機械構造用炭素鋼のそれの2〜2.5 倍程度であり、産業界の要求としては、これ以上の転動寿命を求めるよりはむしろ、加工性とのバランスが要求されている。 従来から、厳しい転動寿命が要求されない部位に対しては、高周波焼入れ処理により転動寿命を高めて使用している例があり、例えば等速ジョイントの場合には、鍛造加工により部品形状に成形したのち、カップ内面に高周波焼入れ焼戻し処理を施して、転動寿命の向上を図っている。
【0005】
従来から、上記したような産業界の要求に応えるべく、加工性の向上の観点から、様々な軸受用鋼が提案されている。
例えば、特開平2−54739 号公報には、C量が0.45mass%以上、0.70mass%未満の鋼に種々の合金元素を添加することで、 SUJ2などで必要とされる球状化焼鈍処理の簡略化もしくは省略が可能な軸受用鋼が提案されている。 この鋼では、OやTi量を極力低減し、転動寿命に悪影響を及ぼす Al203やTiN等の含有量を適正化すると共に、組織を適正化することで、高炭素クロム軸受鋼と同等の転動疲労特性を達成している。
しかしながら、このような鋼を用いて製造した軸受部品は、高炭素クロム軸受鋼の代替としては使用可能であるものの、高周波焼入れ用途に供した場合には、転動寿命や仕上げ加工性等が著しく低下するという問題があった。
【0006】
また、特開平5−117804号公報では、C量:0.45〜0.7 mass%の鋼に種々の合金元素を添加し、鋼中の Al203介在物およびTi系介在物の個数を制限することにより、高炭素クロム軸受鋼と同等の転動寿命が達成されている。 しかしながら、この鋼を用いて製造された軸受部品においては、高周波焼入れ部の転動寿命や仕上げ加工性が顕著に低下する問題があった。
さらに、特開平11−1749号公報においては、C量:0.3 mass%超〜0.7 mass%以下の鋼に種々の合金元素を添加し、鋼中の酸化物を制限することによって、曲げ特性と転動寿命を向上させている。 しかしながら、このような鋼を用いて製造された軸受部品では、高面圧下で使用された場合に、低寿命を示したり、仕上げ加工が劣る等の問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の実状に鑑み開発されたもので、その目的は、従来の機械構造用炭素鋼よりも優れた転動寿命を有し、かつラッピングなどの仕上げ加工性に優れた軸受部品を提案することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
さて、本発明者らは、上記の目的を達成するために、高周波焼入れ部の軸受特性の面で、従来の機械構造用炭素鋼の2倍以上の特性を有し、かつラッピングなどの仕上げ加工性に優れた軸受用鋼を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
(1) 高周波焼入れ処理を行う場合、炉で加熱して焼入れ処理する場合に比べて昇温速度が速いため、表層部は所定の温度よりも高く加熱される。 このため、AlNなどの溶解温度の低い窒化物が固溶した状態で焼入れ処理されるので、高周波焼入れ部には多量の固溶窒素が存在している。
(2) これらの固溶窒素は、面圧の高い状態で使用されると、転動面直下に導入される転位を固着して局部的な硬化を引き起こし、このような局部的な硬化が応力集中の原因となり転動寿命の低下を招く。
(3) また、高周波焼入れ部に存在する固溶窒素は、加工性にも影響し、ラッピングなどの仕上げ加工を著しく低下させる。
(5) 上記の問題を克服するためには、高周波焼入れ後の固溶窒素量を 25ppm以下に抑制する必要がある。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたもので、その要旨とするところは次のとおりである。
すなわち、本発明は、質量%で、
C:0.48%以上、0.60%未満、
Si:0.70〜1.2 %、
Mn:0.50〜1.2 %、
Al:0.005 〜0.050 %、
Cr:0.5 %以下、
Mo:0.1 %以下、
P:0.015 %以下、
S:0.015 %以下、
O:0.0015%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、高周波焼入れ焼戻し後の高周波焼入れ部の固溶N量が 25ppm以下であることを特徴とする高周波熱処理部の転動疲労特性および加工性に優れた軸受部材である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.48%以上、0.60%未満
Cは、高周波焼入れ焼戻し後の硬さを確保して、転動寿命を向上させるのに有用な元素である。 しかしながら、含有量が0.48%未満では、このような効果が期待できず、一方0.60%以上の場合には加工性の低下を招くので、Cは0.48%以上、0.60%未満の範囲に制限した。
【0011】
Si:0.70〜1.2 %
Siは、脱酸剤として寄与する他、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を向上させる元素であるが、含有量が0.70%未満では転動寿命の向上効果が発揮されず、一方1.2 %を超えて含有されると加工性を低下させるため、Siは0.70〜1.2 %の範囲に制限した。
【0012】
Mn:0.50〜1.2 %
Mnは、脱酸、脱硫元素であるだけでなく、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を向上させる元素でもある。 しかしながら、含有量が0.50%未満では、転動寿命の向上効果が発揮されず、一方 1.2%を超えて含有されると加工性を低下させるため、Mnは0.50〜1.2 %の範囲に制限した。
【0013】
Al:0.005 〜0.050 %
Alは、脱酸、脱窒元素として極めて有用な元素である。しかしながら、含有量が 0.005%未満ではNの固定が不十分で固溶窒素量を増加させ、転動寿命および加工性を低下させる。 一方、 0.050%を超えるとやはり転動寿命を低下させるので、Alは 0.005〜0.050 %の範囲に制限した。
【0014】
Cr:0.5 %以下
Crは、高周波焼入れ性を高める効果があるが、0.5 %を超えて含有されると加工性を低下させるので、0.5 %以下に制限した。
【0015】
Mo:0.1 %以下
Moは、Crと同様、高周波焼入れ性を高める効果があるが、0.1 %を超えて含有されると加工性を低下させるので、0.1 %以下に制限した。
【0016】
P:0.015 %以下
Pは、粒界偏析を起こして粒界強度を低下させ、ひいては転動寿命の低下を招くので、0.015 %以下に制限した。
【0017】
S:0.015 %以下
Sは、MnSを形成して、転動寿命を低下させる悪影響があるので、0.015 %以下に制限した。
【0018】
O:0.0015%以下
Oは、含有量が多くなるに伴いAl系介在物が増大して転動寿命を低下させることになるので、0.0015%以下に制限した。
【0019】
高周波焼入れ部の固溶N量:25 ppm以下
前述したとおり、固溶窒素は、面圧の高い状態で使用されると、転動面直下に導入される転位を固着して局部的な硬化を引き起こし、このような局部的な硬化が応力集中の原因となって転動寿命の低下を招くだけでなく、ラッピングなどの仕上げ加工性を著しく低下させる。 これを防止するためには、高周波焼入れ焼戻し後の固溶N量を極力低減することが好ましいが、25 ppm以下であればさほどの悪影響はない。
そこで、本発明では、高周波焼入れ部の固溶N量について 25ppm以下に制限したのである。
【0020】
なお、高周波焼入れ部の固溶N量を 25ppm以下にするためには、高周波焼入れ時の加熱温度、昇温速度の管理が重要である。 すなわち、焼入れを行うためには800 ℃以上まで加熱する必要があるが、加熱温度が高すぎるとAlNが溶解して固溶Nの増大を招くことになるため、加熱温度の上限は 900℃程度とする必要がある。 また、高周波加熱時に昇温速度が速すぎると表層部の温度が高くなりすぎ、上記加熱温度範囲に制御することが困難となる。 従って、高周波コイルからの熱の入力を調整して、焼入れ表層部の温度が 900℃以上にならないように制御する必要がある。
【0021】
また、軸受部材全体として見た時のN含有量は0.0030〜0.0150%程度であることが好ましい。この理由は、N量を0.0030%未満とすることは鋼の精錬コストの増大を招き、一方0.0150%超とすると高周波焼入れ時の加熱温度、昇温速度の管理を行っても、高周波焼入れ部の固溶N量を 25ppm以下にすることが難しくなるためである。
【0022】
また、本発明では、上記した焼入れ時における加熱温度や昇温速度の他の製造条件については、特に限定されるものではなく、常法に従って行えばよい。特に好適な製造条件を示すと次のとおりである。
熱延前の加熱温度:900 〜1200℃、
熱延仕上げ温度:800 ℃以上、
焼入れ温度:800 〜900 ℃、
焼戻し温度:130 〜250 ℃。
【0023】
【実施例】
表1に示す成分組成になる鋼を、30t電気炉で溶製したのち、連続鋳造および熱間圧延により、60mmφの棒鋼に圧延した。この棒鋼のD/4 部から、直径:12mm、長さ:22mmのラジアル型試験片を切り出した。
このラジアル型試験片を、周波数:200kHzの高周波コイルを用い、入力を60〜80kWまで変化させて高周波焼入れ処理を行った。 焼戻し処理はオイルバスを用いて、 150℃, 2hの条件で行い、最後にラッピング加工を行って試験片表面を鏡面仕上げした。
【0024】
なお、高周波焼入れ部の固溶N量は、高周波焼入れ部から潤滑剤量を多くして低速旋削により切屑を採取し、抽出残査から析出N量を求め、化学分析により測定したTotal 窒素量との差を固溶窒素量とした。
また、試験片の加工性は、高周波焼入れ部のラッピング加工に要する時間を5分単位で表した。
さらに、転動寿命は、ラジアル型転動疲労試験機で、最大接触応力:6000 MPa、応力負荷速度:30000 cpm で評価した場合のB10寿命(累積破損確率が10%となる寿命)で評価した。
得られた結果を表1に併記する。
【0025】
【表1】
Figure 0003815354
【0026】
表1中、No.1〜9は発明鋼であるが、これらの発明鋼はいずれも、B10寿命で6×107 以上の良好な転動疲労特性を有し、またラッピング加工時間も45分以下で、従来鋼であるNo.22 と比較して、2倍以上の転動寿命が達成されているにもかかわらず、ラッピング時間は同等以下であった。
No.10, 11 は、固溶N量が高い比較鋼であり、この場合は、転動寿命が短く、またラッピング加工にも長時間を要した。 No.12 は、C量が下限値を下回る場合であり、転動寿命が低かった。 No.13 は、C量が上限を超える場合であり、ラッピングに長時間を要した。 No.14 は、Si量が下限値未満の場合であり、転動寿命が低い。 No.15 は、Si量が上限値を超える場合であり、ラッピング加工に長時間を要した。 No.16 は、Mn量が下限値未満の場合であり、転動寿命が低値であった。 No.17 は、Mn量が上限値を超える場合であり、ラッピング加工に長時間を要した。 No.18 は、Al量が下限値未満の場合であり、転動寿命が低く、ラッピング加工にも長時間を要した。 No.19 は、Al量が上限値を超える場合であり、転動寿命が低値であった。 No.20 は、O量が上限値を超える場合であり、転動寿命が低下した。 No.21 は、Si量が下限値未満、Mn, Mo, 固溶N量が上限値を超える場合であり、転動寿命が低く、ラッピング加工に長時間を要した。
【0027】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、従来から機械構造部品の素材として広く使用されている機械構造用炭素鋼よりも優れた転動疲労特性を有し、しかも加工性にも優れた軸受部材を、安定して得ることができる。

Claims (1)

  1. 質量%で、
    C:0.48%以上、0.60%未満、
    Si:0.70〜1.2 %、
    Mn:0.50〜1.2 %、
    Al:0.005 〜0.050 %、
    Cr:0.5 %以下、
    Mo:0.1 %以下、
    P:0.015 %以下、
    S:0.015 %以下、
    O:0.0015%以下
    を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、高周波焼入れ焼戻し後の高周波焼入れ部の固溶N量が 25ppm以下であることを特徴とする高周波熱処理部の転動疲労特性および加工性に優れた軸受部材。
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