JP4006857B2 - 冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼及び機械構造用部品並びにその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波焼入れ性に優れた冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼並びに機械構造用部品及びその製造方法に関する。より詳しくは、冷間鍛造時における変形抵抗が小さく、高周波焼入れ性に優れ、しかも、例えば加熱部表面温度が1150℃で保持時間が10秒というような、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れしても粗粒化することのない、つまり、整細粒である冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼と、その鋼を母材とした機械構造用部品及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、機械構造用部品、なかでも自動車の足廻り部品である等速ジョイントなどは、熱間鍛造されたJISの機械構造用中炭素鋼鋼材(S45CやS48Cなど)を切削して所定の形状に成形加工した後に高周波焼入れし、更に、必要に応じて焼戻しを行うことによって製造されていた。
【0003】
しかしながら、熱間鍛造の場合は寸法精度が劣るので、所定の形状に成形するためには重切削する必要があり、切削加工のコストが嵩み、更に歩留りが低くなることを避けられなかった。そこで近年、寸法精度が高く、したがって、切削量を低減することが可能な冷間鍛造が採用されるようになってきた。
【0004】
上記の冷間鍛造を行う場合には、変形抵抗を下げるために被加工材に予め球状化焼鈍が施される。しかし、前記したJISの機械構造用中炭素鋼鋼材を用いた場合、球状化焼鈍処理を行っても変形抵抗が高いので、冷間鍛造時に強加工を行うと工具寿命が低下し、又、変形能が低いので冷間鍛造された部品に割れが生ずる場合もあった。
【0005】
更に近年においては、機械構造用部品の高強度化を目的に、従来に比べて高温且つ長時間の条件で高周波焼入れを行なうことが多くなってきた。しかし、このような条件で高周波焼入れすると、前記したJISの機械構造用中炭素鋼鋼材の場合には極めて粗粒化してしまう。
【0006】
このような問題に対し、高周波焼入れ性を確保しつつ、冷間鍛造性を改善させる技術が特公平1−38847号公報、特公平2−47536号公報、特開平5−59486号公報、特開平9−268344号公報、特開平9−272946号公報、特開平9−287054号公報、特開平9−287055号公報や特開平2−145744号公報などで提案されている。
【0007】
しかし、特公平1−38847号公報で提案された鋼は、Alの含有量が少ないため、Bの焼入れ性向上効果が得難い場合があった。
【0008】
特公平2−47536号公報、特開平5−59486号公報で提案された鋼は、Alの含有量が少ないため、Bの焼入れ性向上効果が得難い場合があり、しかも、Nbを含有していないので結晶粒の粗大化を生ずる場合があった。更に、Siの含有量が低いので、熱間加工前の加熱で生じたスケールの剥離性が劣る場合があった。
【0009】
特開平9−268344号公報、特開平9−272946号公報で開示された鋼は、Alの含有量が少ないため、Bの焼入れ性向上効果が得難い場合があり、しかも、Nbを含有していないので結晶粒の粗大化を生ずる場合があった。
【0010】
特開平9−287054号公報で提案された鋼は、Siの含有量が高いために冷間鍛造性の劣化を避け難いものであった。
【0011】
特開平9−287055号公報で開示された鋼は、Mnの含有量が高いために冷間鍛造性の劣化を避け難いものであった。
【0012】
特開平2−145744号公報で開示された技術は、NbとTiが複合添加されていない。このため、この公報で提案された鋼を高周波焼入れすると、結晶粒の粗大化を生ずる場合があった。特に、機械構造用部品を高強度化することを目的に、従来に比べて高温且つ長時間の条件で高周波焼入れを行なうと、極めて粗粒化してしまう。更に、上記の公報で提案された鋼はBを必須元素として含まないので、所望の高周波焼入れ深さが得られない場合があった。しかも、Bを含まない鋼の場合には、同等の焼入れ性を有するBを含む鋼と比べて合金元素の含有量が多いため、冷間鍛造時の変形抵抗が高くなって冷間鍛造性が劣ることがあった。加えて、熱間加工や球状化焼鈍で生成したスケールが脱スケールの工程で落ちにくく、脱スケールに長時間要したりその工程が複雑になったりすることを避け難いものであった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みなされたもので、冷間鍛造における変形抵抗が小さく、高周波焼入れ性に優れ、しかも、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れしても粗粒化せず整細粒を呈する低コスト型の冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼と、その鋼を母材とした機械構造用部品及びその製造方法を提供することを目的とする。具体的には、同等のC含有量のJIS機械構造用炭素鋼に対して、冷間鍛造時における変形抵抗が10%以上低く、しかも、変形能としての割れが発生する限界の据え込み率が85%以上で、高周波焼入れした時にビッカース硬度(Hv)で400となる硬化深さをt、高周波焼入れ部の平均直径をrとしてt/rが0.3以上であり、加熱部表面温度が1150℃で保持時間が10秒というような条件で高周波焼入れしても、高周波焼入れ後の硬化部、つまり、後述する焼入れ硬化層のオーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号5以上で、且つ、整粒であることを目標とする。なお、高周波焼入れ後の硬化部である「焼入れ硬化層」はHvで400以上となる部分のことを指す。「整粒」とは、粒度番号で3以上差のない粒からなることをいう。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記(1)に示す高周波焼入れ性に優れた冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼、並びに、(2)に示す機械構造用部品及び(3)に示す機械構造用部品の製造方法を要旨とする。
【0015】
(1)重量%で、C:0.40〜0.60%、Si:0.10%を超え0.30%以下、Mn:0.10〜0.60%、B:0.0005〜0.005%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Al:0.050%を超え0.10%以下を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなり、不純物中のPは0.015%以下、Sは0.015%以下、Cuは0.10%以下、Niは0.10%以下、Crは0.15%以下、Moは0.10%以下、Nは0.005%以下、Oは0.005%以下であることを特徴とする冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼。
【0016】
(2)母材が上記(1)に記載の化学組成を有し、球状化された炭化物とオーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号5以上の整粒の焼入れ硬化層を備える機械構造用部品。
【0017】
(3)1200℃以上に加熱後に熱間加工され、次いで、球状化焼鈍された上記(1)に記載の化学組成を有する鋼材を、冷間鍛造して所定の形状に成形し、その後高周波焼入れすることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
【0018】
なお、上記(2)でいう「焼入れ硬化層」とは、既に述べたように焼入れでHv400以上となった部分のことを指し、「整粒」とは、粒度番号で3以上差のない粒からなることをいう。
【0019】
本発明者らは、球状化焼鈍後に冷間鍛造し、次いで従来よりも高温長時間での高周波焼入れによって製造される機械構造用部品の母材となる鋼の化学組成について調査・検討を行った。その結果、下記の知見を得た。
【0020】
〈1〉NbとTiを複合添加した鋼が凝固する際に析出するニオブチタン炭窒化物〔NbTi(CN)〕は粗大であるため、高周波焼入れ時のオーステナイト粒の粗大化防止には効果がない。しかし、前記の〔NbTi(CN)〕を微細化すると、所謂「ピン止め作用」が発揮されるので、オーステナイト粒の粗大化を防止することができる。
【0021】
〈2〉〔NbTi(CN)〕を微細化するには、熱間加工の際の加熱温度を高くして一旦素地に固溶させ、次の加工・冷却時に再析出させれば良い。
【0022】
〈3〉前記の微細な〔NbTi(CN)〕によるオーステナイト粒の粗大化防止は、特に鋼のMn含有量が低い場合に大きく発揮され、加熱部表面温度が1150℃で保持時間が10秒というような、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れしても粗粒化せず整細粒となる。
【0023】
〈4〉Mn含有量を低く抑えるとともに適正量のSi、Nb、Ti、Al及びBを含有させた鋼の場合、〔NbTi(CN)〕が微細であっても通常の球状化焼鈍で充分に軟化する。したがって、同等のC含有量のJIS機械構造用炭素鋼に比べて冷間鍛造時における変形抵抗は低く、しかも、変形能は充分大きい。
【0024】
〈5〉Mn、Nb、Ti、Al及びBの含有量を調整し、不純物元素としてのNの含有量を低く調整した鋼は、良好な高周波焼入れ性を有する。
【0025】
〈6〉C、Mn、Nb、Ti、Al及びBの含有量を調整し、不純物元素としてのNの含有量を低く調整した鋼は、加熱部表面温度が1150℃で保持時間が10秒というような、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れしても、前記したt/rが0.3以上を容易に満たすことができる。
【0026】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「重量%」を意味する。
【0028】
(A)母材鋼の化学組成
C:0.40〜0.60%
Cは、高周波焼入れ性に影響を及ぼす元素で、焼入れ硬化層の硬さ及び深さを確保して機械構造用部品に所望の機械的性質を付与するのに有効な元素である。しかし、その含有量が0.40%未満では添加効果に乏しい。一方、0.60%を超えて含有させると、球状化焼鈍しても充分に軟化せずに冷間鍛造性が劣化したり、靭性の劣化や焼割れの発生を招くことがある。したがって、Cの含有量を0.40〜0.60%とした。
【0029】
Si:0.10%を超え0.30%以下
Siは、鋼の脱酸の安定化及び強度を高める効果がある。更に、Siを添加した鋼は、熱間加工のための加熱中に低融点酸化物であるファイアライト(Fe2SiO4)を生成するので、その融点(1173℃)以上に加熱すれば、脱スケール性が極めて良好になる。しかし、その含有量が0.10%以下では添加効果に乏しい。一方、0.30%を超えて含有量させると、冷間鍛造時の変形抵抗が大きくなって冷間鍛造性の低下を招く。したがって、Siの含有量を0.10%を超え0.30%以下とした。なお、好ましくはSiを0.15%を超えて含有させるのが良い。
【0030】
Mn:0.10〜0.60%
Mnは、鋼中のSを固定して熱間加工性を高めるとともに強度を確保するために有効な元素で、0.10%以上含有させることが必要である。一方、Mnの含有量が0.60%を超えると、変形抵抗が大きくなって冷間鍛造性の劣化をきたす。したがって、Mnの含有量を0.10〜0.60%とした。なお、Mn含有量は0.10〜0.40%とすることが好ましい。
【0031】
B:0.0005〜0.005%
Bは、冷間鍛造性を阻害することなく良好な高周波焼入れ性を確保するのに有効な元素である。しかし、その含有量が0.0005%未満では添加効果に乏しい。一方、0.005%を超えて含有させるとその効果が飽和するばかりか、粒界脆化を招く場合がある。したがって、Bの含有量を0.0005〜0.005%とした。
【0032】
Nb:0.005〜0.05%
Nbは、Tiと結合して〔NbTi(CN)〕を形成するが、この〔NbTi(CN)〕を微細に析出させると、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れした場合でも粗粒化を防止することができる。しかし、その含有量が0.005%未満では所望の効果が得られない。一方、0.05%を超えると、変形抵抗を増加させることが避けられず、又、粗大な未固溶炭窒化物が残留して冷間鍛造性の劣化を招くことがある。したがって、Nbの含有量を0.005〜0.05%とした。なお、Nb含有量の上限は0.03%とすることが好ましく、0.02%とすれば一層好ましい。
【0033】
Ti:0.005〜0.05%
Tiは、Nbと結合して〔NbTi(CN)〕を形成するが、この〔NbTi(CN)〕を微細に析出させると、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れした場合でも粗粒化を防止することができる。しかし、その含有量が0.005%未満では添加効果に乏しい。一方、0.05%を超えると、変形抵抗を増加させることが避けられず、又、粗大な未固溶炭窒化物が残留して冷間鍛造性の劣化を招くことがある。したがって、Tiの含有量を0.005〜0.05%とした。なお、Ti含有量の上限は0.03%とすることが好ましく、0.015%とすれば一層好ましい。
【0034】
Al:0.050%を超え0.10%以下
Alは、脱酸作用を有する。更に、窒化物を生成して鋼中のNを固定するので、冷間鍛造時の加工硬化を抑制する作用がある。又、鋼中Nの固定によってBの高周波焼入れ性向上効果を確保するのにも有効である。しかし、その含有量が0.050%以下では添加効果に乏しい。一方、0.10%を超えて含有させると、冷間鍛造時に鋼の変形能が低下する。したがって、Alの含有量を0.050%を超えて0.10%以下とした。
【0035】
本発明においては、不純物元素としてのP、S、Cu、Ni、Cr、Mo、N及びOを下記のとおりに制限する。
【0036】
P:0.015%以下
Pは、冷間鍛造時の変形能を低下させてしまう。特に、Pの含有量が0.015%を超えると、冷間鍛造時の変形能の低下が著しくなる。したがって、不純物元素としてのPの含有量を0.015%以下とした。
【0037】
S:0.015%以下
Sも冷間鍛造時の変形能を低下させてしまう。特に、Sの含有量が0.015%を超えると、冷間鍛造時の変形能の低下が著しくなる。したがって、不純物元素としてのSの含有量を0.015%以下とした。
【0038】
Cu:0.10%以下
Cuは変形抵抗を高めて冷間鍛造性を劣化させてしまう。特に、Cuの含有量が0.10%を超えると、冷間鍛造性の劣化が著しくなる。したがって、不純物元素としてのCuの含有量を0.10%以下とした。なお、Cu含有量は0.05%以下に規制することが好ましい。
【0039】
Ni:0.10%以下
Niは変形抵抗を高めて冷間鍛造性を劣化させてしまう。更に、球状化焼鈍後のスケール除去を困難にする。特に、Niの含有量が0.10%を超えると、冷間鍛造性の低下とスケール除去性の低下が著しくなる。したがって、不純物元素としてのNi含有量を0.10%以下とした。なお、Ni含有量は0.05%以下に規制することが好ましい。
【0040】
Cr:0.15%以下
Crも変形抵抗を高めて冷間鍛造性を劣化させてしまう。更に、球状化焼鈍後のスケール除去を困難にする。特に、Crの含有量が0.15%を超えると、冷間鍛造性の低下とスケール除去性の低下が著しくなる。したがって、不純物元素としてのCr含有量を0.15%以下とした。なお、Cr含有量は0.10%以下に規制することが好ましい。
【0041】
Mo:0.10%以下
Moは変形抵抗を高めて冷間鍛造性を劣化させてしまう。更に、球状化焼鈍後のスケール除去を困難にしてしまう。特に、Moの含有量が0.10%を超えると、冷間鍛造性の低下とスケール除去性の低下が著しくなる。したがって、不純物元素としてのMo含有量を0.10%以下とした。なお、Mo含有量は0.05%以下に規制することが好ましい。
【0042】
N:0.005%以下
Nは、変形抵抗を高めて冷間鍛造性を劣化させてしまう。更に、容易にBと結びついてBNを形成するので、Bの高周波焼入れ性向上効果が確保できなくなる。特に、Nの含有量が0.005%を超えると、冷間鍛造性の低下が著しくなるとともにBの高周波焼入れ性向上効果が得難くなる。したがって、不純物元素としてのN含有量を0.005%以下とした。なお、N含有量は0.004%以下に規制することが好ましく、0.003%以下とすれば一層好ましい。
【0043】
O(酸素):0.005%以下
Oは、酸化物を形成して冷間鍛造時の変形能を低下させてしまう。特に、Oの含有量が0.005%を超えると、冷間鍛造時の変形能の低下が著しくなる。したがって、不純物元素としてのOの含有量を0.005%以下とした。
【0044】
(B)熱間加工
NbとTiを複合添加した上記(A)に記載の化学組成を有する鋼は、その凝固組織中に粗大な〔NbTi(CN)〕が存在するものである。この粗大な〔NbTi(CN)〕は、後の冷間鍛造における加工割れの起点となり、又、高周波焼入れ時のオーステナイト粒の粗大化防止にも効果を有さない。
【0045】
しかしながら、熱間圧延を初めとする熱間加工の際の加熱温度を1200℃以上の高い温度とすれば、〔NbTi(CN)〕は一旦素地に固溶し、次の加工・冷却時に微細に再析出するので、所謂「ピン止め作用」が発揮できるので、オーステナイト粒の粗大化防止が可能となる。したがって、熱間加工の加熱温度を1200℃以上とした。なお、この加熱温度の上限は特に規定する必要はないが、加熱のためのエネルギーコストを抑え、更に、スケールロスを抑えて歩留りを高めるために、1350℃とすることが好ましい。
【0046】
(C)球状化焼鈍
前記(A)に記載の化学組成を有する鋼は、上記(B)に記載の条件で加熱された後熱間で加工され、更に、冷間鍛造時の変形抵抗を下げるために球状化焼鈍を施される。この球状化焼鈍は特に規定されるものではなく、通常の方法で行えば良い。
【0047】
(D)冷間鍛造
熱間加工後に球状化焼鈍された前記(A)に記載の化学組成を有する鋼材は、冷間鍛造を施されて所定の形状の機械構造用部品に成形される。この冷間鍛造の方法は特に規定されるものではなく、通常の方法で行えば良い。
【0048】
なお、冷間鍛造で所定の形状に成形された機械構造用部品の高周波焼入れ後の硬化部(焼入れ硬化層)が、安定して後述するJIS度番号5以上のオーステナイト結晶粒度の整粒組織を確保できるようにするために、冷間鍛造は被加工部品において最も大きな加工が加わる部分での加工量が下記(a)式で表される相当歪で2.5以下となるように行うのが良く、相当歪で2.0以下となるように行えば一層好ましい。
【0049】
ε={(ε1 2+ε2 2+ε3 2)×2/3}1/2・・・・(a)。
ここで、(a)式におけるε1、ε2、ε3は主方向の対数歪である。
【0050】
(E)高周波焼入れ
前記(A)に記載の化学組成を有し、熱間加工後に球状化焼鈍され、その後で冷間鍛造されて所定の形状に成形された鋼材は、高周波焼入れされて、あるいは、必要に応じて高周波焼入れ後に焼戻しが施されて、所望の機械的性質を有する機械構造用部品に仕上げられる。
【0051】
機械構造用部品の焼入れ硬化層におけるオーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号で5を下回ったり、整粒でない、つまり混粒である場合には、熱処理歪が生ずることに加えて、靭性が低下し、硬さ(強度)のばらつきが生じ、特に、機械構造用部品の強度が高い場合の靭性の低下は著しいものである。したがって、機械構造用部品の焼入れ硬化層を、JIS粒度番号5以上のオーステナイト結晶粒度の整粒であるように規定した。なお、JIS粒度番号は6以上であることが好ましい。オーステナイト結晶粒は小さければ小さいほど、つまりJIS粒度番号は大きければ大きいほど靭性は向上するので、JIS粒度番号には上限を設けなくて良い。
【0052】
前記(A)に記載の化学組成を有する本発明に係る鋼は、通常の条件、つまり加熱部表面温度が950℃程度で保持時間が数秒程度である条件での高周波焼入れに対しては、結晶粒が粗大化することはなく、オーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号5以上の整細粒が得られる。更に、加熱部表面温度が1150℃で保持時間が10秒というような、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れしてもオーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号5以上の整細粒が得られるように調整されたものである。このため、高周波焼入れの方法は特に規定されるものではない。
【0053】
なお、冷間鍛造後に高周波焼入れした鋼材の捩り強度は、高周波焼入れ深さとしてのHvで400以上となる硬化深さに依存し、t/rが0.3未満では捩り強度が小さくなる。したがって、高周波焼入れされる部品が大型である場合、つまりrが大きい場合には、通常の条件で高周波焼入れするとt/rで0.3以上が得られないことがある。このような場合には、t/rで0.3以上を確保するために、例えば既に述べたような、加熱部表面温度が1150℃で保持時間が10秒というような、従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れすることが必要になる。前記(A)に記載の化学組成を有する本発明に係る鋼は、そうした場合であっても結晶粒が粗大化することはないのである。
【0054】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0055】
【実施例】
表1、表2に示す化学組成を有する鋼を通常の方法によって試験炉を用いて溶製した。表1における鋼A〜D、I、Lは化学組成が本発明で規定する含有量の範囲内にある本発明例の鋼、表2における鋼a〜rは成分のいずれかが本発明で規定する含有量の範囲から外れた比較例の鋼である。比較例の鋼のうち鋼p、鋼q及び鋼rはそれぞれJIS規格のS40C、S50C及びS58Cに相当する鋼である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
次いで、これらの鋼を通常の方法によって鋼片にした後、1100℃あるいは1250℃に加熱して熱間鍛造し、直径65mmの丸棒とした。この後、C含有量に応じて通常の方法で球状化焼鈍を行った。
【0059】
上記のようにして得られた直径が65mmの丸棒のR/2部(Rは丸棒の半径)から、直径が15mmで長さが22.5mmの冷間加工用試験片を切り出し、500t高速プレス機による通常の方法で冷間(室温)拘束型据え込み試験を行い、割れが発生する限界の据え込み率を測定した。なお、据え込み率が85%まで、各条件ごとに5回の据え込み試験を行い、5個の試験片のうち3個以上に割れが発生する最小の加工率(据え込み率)を限界据え込み率として評価した。据え込み率85%で3個以上割れを生じないものは、そこで試験を終了した。
【0060】
更に、すべての鋼の限界据え込み率以下である60%の据え込み率(最も大きな加工が加わる試験片中心部における相当歪は1.5)の場合の変形抵抗を測定した。なお、図1に示すように、変形抵抗をCの含有量で整理し、JIS規格のS40C、S50C及びS58Cに相当する鋼p、鋼q及び鋼rの変形抵抗から求めた直線をJIS機械構造用鋼の変形抵抗とし、鋼A〜D、I、Lの本発明例の鋼及び鋼a〜oの比較例の鋼の変形抵抗と比較した。
【0061】
又、上記の直径65mmの丸棒から、直径が63mmで長さが50mmの試験片を切り出し、通常の方法によって冷間で直径が40mmまで前方押し出し加工(減面率60%(最も大きな加工が加わる試験片側表面部、つまり、試験片最外層の相当歪で1.3))を行った。この直径40mmに冷間で押し出し加工したものから長さ50mmの試験片を採取し、これに高周波焼入れを行った。高周波加熱は、平均加熱速度を200℃/秒として、次の2条件で行った。すなわち、周波数20kHz、加熱部表面温度950℃、保持時間2秒の一般的な高周波加熱条件、及び、硬化深さを大きくして高強度化するための周波数20kHz、加熱部表面温度1150℃、保持時間10秒の高温・長時間での高周波加熱条件である。なお、冷却媒体には水を用いた。
【0062】
高周波焼入れを行った後、通常の方法によって表面硬度とHvで400となる硬化深さ(つまり、焼入れ硬化層の深さ)tを測定した。次いで、電気炉を用いて150℃で30分の焼戻しを行い、通常の方法によって高周波焼入れ後の硬化部、つまり焼入れ硬化層のオーステナイト結晶粒度を測定した。
【0063】
表3及び表4に上記の試験結果をまとめて示す。なお、本実施例におけるrは直径40mmの試験片の半径、つまり20mmである。
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
表3から、化学組成が本発明で規定する含有量の範囲内にある本発明例の鋼A〜D、I、Lを母材とし、熱間鍛造時に1250℃で加熱を行ったもの(試験番号1〜4、9、12)は、同等のC含有量のJIS機械構造用炭素鋼に対して据え込み率60%(試験片各部の平均相当歪で1.0)での変形抵抗が10%以上低く、変形能としての割れが発生する限界の据え込み率は85%以上である。しかも、t/rが0.3以上であり、加熱部表面温度1150℃、保持時間10秒という従来よりも高温且つ長時間の条件で高周波焼入れしても、焼入れ硬化層のオーステナイト結晶粒度はJIS粒度番号5以上で整粒である。
【0067】
表4から、化学組成が本発明で規定する含有量の範囲内にある本発明例の鋼であっても、熱間鍛造時の加熱温度が1100℃と本発明の規定を下回る場合(試験番号15)には、限界の据え込み率が85%に達していない。
【0068】
又、比較例の鋼を母材とする場合には、(イ)同等のC含有量のJIS機械構造用炭素鋼に対して変形抵抗の低下代が10%に満たない、(ロ)限界の据え込み率が85%に満たない、(ハ)高周波焼入れした時のt/rが0.3未満である、(ニ)高周波焼入れ後の硬化部、つまり焼入れ硬化層のオーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号5未満であるか、オーステナイト結晶粒度はJIS粒度番号5以上であるものの混粒である、のいずれか1つ以上に該当する。このため、冷間鍛造性と高周波焼入れ性とが両立しない。
【0069】
【発明の効果】
本発明鋼は、球状化焼鈍後の冷間鍛造性と高周波焼入れ性に優れ、しかも加熱部表面温度1150℃、保持時間10秒というような高温・長時間の条件で高周波焼入れしても粗粒化せず整細粒を呈するので、機械構造用部品、なかでも自動車の足廻り部品である等速ジョイントなどの母材として利用することができる。この機械構造用部品は、本発明の方法によって比較的容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 変形抵抗とCの含有量との関係を示す図である。
Claims (3)
- 重量%で、C:0.40〜0.60%、Si:0.10%を超え0.30%以下、Mn:0.10〜0.60%、B:0.0005〜0.005%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Al:0.050%を超え0.10%以下を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなり、不純物中のPは0.015%以下、Sは0.015%以下、Cuは0.10%以下、Niは0.10%以下、Crは0.15%以下、Moは0.10%以下、Nは0.005%以下、O(酸素)は0.005%以下であることを特徴とする冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼。
- 母材が請求項1に記載の化学組成を有し、球状化された炭化物とオーステナイト結晶粒度がJIS粒度番号5以上の整粒の焼入れ硬化層を備える機械構造用部品。
- 1200℃以上に加熱後に熱間加工され、次いで、球状化焼鈍された請求項1に記載の化学組成を有する鋼材を、冷間鍛造して所定の形状に成形し、その後高周波焼入れすることを特徴とする機械構造用部品の製造方法。
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