JP3806091B2 - タイヤ成形用金型の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳造によって製造されるタイヤ成形用金型の製造方法に関し、特に、タイヤ全周にわたった連続的な溝を形成するための細骨をタイヤ成形用金型に形成する製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
タイヤ成形用金型は、複数に分割された金型ピースを組み付けることにより形成されており、タイヤ形状を幅方向に2分割することにより構成される上下分割型(2ピースモールド)と、半径方向(円周方向)に7〜13程度に分割することにより構成される上下一体型(セクショナルモールド)との2種類のタイヤ成形用金型が使用されている。
【0003】
いずれの金型においても、鋭い角を有した凹ブロック形状部分やサイプ金属薄板などの薄肉凸形状部分を多数有していることから、機械加工による製造が不向きであり、このため、鋳造によって製造されている。鋳造においては、鋳型が崩壊性を有し、アンダーカット等の複雑応への自由度が高く、鋳型での組立加工が簡易に行え、金型の分割形状を略一体形状で鋳造でき、かつ、寸法精度が高い上、鋳型コストが低いメリットがあることから石膏鋳造法が用いられている。
【0004】
図25は、石膏鋳造法によって2ピースモールドを作製する手順を示す。まず、(a)に示すように石膏、樹脂などを用いてタイヤの原形(マスターモデル)1を機械加工で作製し、(b)で示すようにシリコーンゴムなどによって原形1を反転したゴム型2を作製する。そして、(c)で示すようにゴム型2を上下に分割した鋳型3を石膏によって反転作製し、この鋳型3を焼成乾燥した後、(d)で示すように複数角度で切断し、(e)で示すように組み立ててリング状の鋳型4とする。そして、この鋳型4を鋳枠5で囲み、鋳枠5内にアルミニウム合金等の合金溶湯6を充填して鋳造することにより鋳物とし、この鋳物に対して不要部分の除去のための機械加工を行い、その後、(g)で示すように型合わせを行ってタイヤ成形用金型7とする。
【0005】
図26は、石膏鋳造法によってセクショナルモールドを作製する手順を示し、図25と同様に、(a)で示すタイヤの原形1を反転した(b)のゴム型2を作製した後、(c)及び(d)で示すように石膏によって鋳型3を作製し、(e)で示すように組み立てて鋳型4とする。その後は、図25と同様に、アルミニウム合金等の鋳造金属による鋳造を行い、鋳物を型合わせして(f)で示すタイヤ成形用金型7とする。
【0006】
かかるセクショナルモールドにおいては、円周方向に複数分割したセクターブロックを組み合わせることにより金型7が組み立てられるが、この場合には、図27及び図28に示す2つの組み合わせが行われる。図27は、複数のセクターブロック8をリング状に組み合わせる場合に、ダミーセクター9をセクターブロック8の一部に用いてリング状とするものである。この場合には、金型の鋳造に用いられる鋳型をリング状に組み立てる際に、各セクターブロック8に対応する分割鋳型の両端に仕上げ加工代となる余肉部(図示省略)を設定すると共に、鋳型に対して鋳造金属による鋳造を行う際に、ダミーセクター9に対応したダミー鋳型(図示省略)を用いている。図28においては、ダミーセクター9を用いることなく、隣接するセクターブロック8を相互に直接に接触させてリング状に組み合わせるものである。
【0007】
タイヤの外周面に対して溝を形成する場合、タイヤ成形用金型の金型本体に対し、溝を形成するための骨部を鋳出しによって突出するように形成するが、厚さが2〜3mm程度以下の肉薄の骨部(サイプ)では、強度不足となるため、金型本体の金属材料よりも強度の大きな材料からなる金属薄板(サイプ金属薄板)を用い、この金属薄板を鋳包みすることによって金型本体に付与することがなされている。例えば、金型本体がアルミニウム合金の場合には、高強度の金属薄板として鉄系合金やニッケル系合金が用いられる。これらの金属は、タイヤを構成するゴムと融着することがないと共に、アルミニウム合金の鋳包みの際に溶損しないためである。
【0008】
図29は、金属薄板(サイプ金属薄板)を鋳包みによって金型本体に付与する手順を示す。まず、(a)で示すように、サイプ金属薄板に対応したモデル用金属薄板10を原形1に設置した状態で、反転して(b)で示すゴム型2を作製し、このゴム型2に(c)で示すように金属薄板11を差し入れる。そして、(d)で示すように石膏によってゴム型2を反転して鋳型4を作製する際に、金属薄板11を鋳型4に移し換える。このとき、金属薄板11はその一部が鋳型4から露出しており、この状態の鋳型4に対して鋳造を行うことにより金属薄板11を金型本体12に鋳包む。鋳包まれた金属薄板11は(e)で示すように、その一部が金型本体12から露出しており、この露出部分でタイヤの外周面に溝を形成することができる。
【0009】
ところで、タイヤの外周面の360°全周にわたる連続的な溝を形成する場合には、金属薄板11の間で隙間がないような連続した細骨を金型本体12に形成する必要がある。このような全周にわたる連続的な溝は、例えばトラックやバスのタイヤにおけるトレッド幅の両端近傍に、幅1〜3mm、深さ5〜20mm程度で形成される細溝、ナローリブが該当する。
【0010】
このような隣接する金属薄板11を隙間なく金型本体12に設ける必要性から、予め鋳型4に対して金属薄板11を隙間なく取り付けておき、この状態で鋳造して金属薄板11を鋳包むことが行われるが、この場合には、鋳造時の入熱による金属薄板11の熱膨張と、金型本体12の凝固・冷却収縮によって、隣接する金属薄板11が鋳型4において予め設置されていた位置からズレを生じてしまうか、鋳型4における金属薄板11近傍の部分を破壊する問題が発生する。
【0011】
このため、鋳型4に設置する金属薄板11の間に、適切なクリアランスを設けける必要があるが、このクリアランスは経験に基づいたものであり、上述した不具合の発生確率が高いものとなっている。また、金属薄板を隣接させて鋳包むことができた場合でも、完成した金型では、金属薄板の熱膨張特性等に起因して隣接する金属薄板間に隙間が生じることも発生している。このような不具合が生じた場合には、隣接している金属薄板の先端部近傍付近を相互に溶接して隙間を埋める修復作業が必要となっている。
【0012】
以上のような不具合に対し、従来では、金属薄板を横長円弧状に成形すると共に先端側に複数のスリットを形成し、このスリットが露出するように金属薄板を石膏鋳型に嵌め込んで固定し、鋳型への固定状態でアルミニウム合金からなる鋳造金属を鋳造して、先端側のスリット形成部分を鋳包むことがなされている。金属薄板の鋳包み部分にスリットを形成することにより、熱膨張によって鋳包み部分で発生する歪みを抑制すると共に、鋳包み部分での鋳型の破壊を防止するためである(特許文献1参照)。
【0013】
【特許文献1】
特許第3065939号公報(第4頁、第8図−第9図)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来方法では、鋳包みに対処できるのは、図27に示すセクターブロックの両端に余肉を設けたセクショナルモールドだけであり、図25に示す2ピースモールドや、図28に示すセクターブロックに余肉を設けないセクショナルモールドには適用することができない問題を有している。
【0015】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、第1の目的は、鋳型における隣接した金属薄板のクリアランスを定量的に導出可能とすることにより、全ての種類のタイヤ成形用金型の外周面の360°全周にわたって隙間を極限まで少なくした状態で複数の金属薄板を突き合わせて鋳包むことが可能なタイヤ成形用金型の製造方法を提供することにある。
【0016】
第2の目的は、隣接している金属薄板の間のクリアランスに多少のバラツキが生じても、鋳包まれる金属薄板の鋳型に対する位置ずれを防止することが可能なタイヤ成形用金型の製造方法を提供することにある。
【0017】
第3の目的は、鋳包まれた金属薄板に、熱膨張特性からクリアランスが発生しても、溶接を用いることなく隙間をなくすことが可能なタイヤ成形用金型の製造方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明のタイヤ成形用金型の製造方法は、複数の金属薄板を部分的に露出させた状態で長手方向に連続するようにリング状の鋳型の外周面に取り付けた後、前記露出部分を鋳造金属によって鋳包むことにより、タイヤの全周にわたる連続的な溝を形成するための細骨を金型本体に形成する方法であって、金属薄板それぞれの鋳包み部分における長手方向での鋳造金属の凝固・冷却収縮量をΔ、金属薄板それぞれの長手方向の熱膨張量をΔLTE、隣接する金属薄板に挟まれている鋳型材料の圧縮限界寸法ΔPCとしたとき、隣接する金属薄板の間の隙間Δmを下記の条件によって設定することを特徴とする。
(1)Δ≧ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=Δ
(2)Δ<ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=ΔLTE+ΔPC
この発明では、隣接する金属薄板の隙間Δmを、Δ≧ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=Δと設定し、Δ<ΔLTE +ΔPC の時は、Δm=ΔLTE+ΔPCと設定することにより、金属薄板の隙間を極小とした状態で位置ズレを発生させることなく、金属薄板を鋳包むことができる。従って、全ての種類のタイヤ成形用金型の外周面の360°全周にわたる細骨を形成することができ、タイヤに対して全周にわたる溝を形成することができる。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、前記長手方向の寸法設定及び熱膨張率に関連する金属薄板の材料選定を、Δ≧ΔLTE+ΔPCの条件を満足するように行うことを特徴とする。
【0020】
この発明では、Δ≧ΔLTE+ΔPCを満足するように、金属薄板の長さ及び金属薄板の材料を組み合わせることにより、金属薄板の間の隙間をほとんどゼロとすることができるため、タイヤ全周にわたる溝を形成するための細骨を確実に形成することができる。
【0021】
請求項3の発明のタイヤ成形用金型の製造方法は、円周方向に複数分割したセクターブロックをリング状に組み合わせた金型本体に対し、成形されるタイヤの全周にわたる連続的な溝を形成するための細骨を形成する方法であって、前記各セクターブロックに対応した分割鋳型の外周面に対し、複数の金属薄板を部分的に露出させた状態で長手方向に連続的に且つ分割鋳型の両端に余肉部を残すように取り付けた後、前記露出部分を鋳造金属によって鋳包むことにより前記細骨を形成するのに際し、前記セクターブロックにおける金属薄板の鋳包み部分での鋳造金属の円周方向の凝固・冷却収縮量をΣΔ、セクターブロックにおける金属薄板の長手方向の熱膨張量の総和をΣΔLTE、セクターブロックにおける隣接する金属薄板に挟まれている鋳型材料の圧縮限界寸法の総和ΣΔPCとしたとき、隣接する金属薄板の間の隙間Δm及び余肉部ΔSを下記の条件によって設定することを特徴とする。
【0022】
この発明は、セクターブロックに対応した分割鋳型の両端に余肉部を残して製造する方法であり、ΣΔ≧ΣΔLTE+ΣΔPCの時は、Δm=Δ,ΔS≧ΣΔ/2 と設定しΣΔ<ΣΔLTE+ΣΔPCの時は、Δm=(ΔPC,Δの内で大きい方), ΔS≧(ΣΔLTE+ΣΔPC)/2と設定することにより、金属薄板の隙間を極小とした状態で位置ズレを発生させることなく、金属薄板を鋳包むことができる。このため、タイヤ成形用金型の外周面の360°全周にわたる細骨を形成することができ、タイヤに対して全周にわたる溝を形成することができる。
【0023】
請求項4の発明は、請求項3記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、前記金属薄板の鋳包み部分における長手方向での鋳造金属の凝固・冷却収縮量Δと、隣接する金属薄板に挟まれている鋳型材料の圧縮限界寸法ΔPCとが、Δ≧ΔPCとなるように金属薄板の長手方向の寸法を設定することを特徴とする。
【0024】
この発明では、Δ≧ΔPCを満足するように金属薄板の長さを設定することにより、金属薄板の間の隙間をほとんどゼロとすることができるため、タイヤ全周にわたる溝を形成するための細骨を確実に形成することができる。
【0025】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、前記金属薄板の鋳包み部分における両端部のみをΔmより大きな隙間となるように設定することを特徴とする。
【0026】
この発明では、金属薄板の鋳包み部分の両端部にΔmより大きな隙間を設定することにより、鋳造金属の凝固・冷却収縮の際に金属薄板の間の鋳造金属を排出することができる。これにより、金属薄板の間の隙間をゼロに近づけることができ、円周方向で連続した細骨を確実に形成することができる。
【0027】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、金属薄板の長手方向に沿ったレール状突起を金属薄板における鋳型への埋設部分に仮固定した状態で鋳造を行い、鋳造後にレール状突起を除去することを特徴とする。
【0028】
この発明では、金属薄板にレール状突起を取り付けることにより、金属薄板が鋳型の半径方向に位置ズレすることを防止することができる。
【0029】
請求項7の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、金属薄板における鋳型への埋設部分にアンカーを仮固定した状態で鋳造を行い、鋳造後にアンカーを除去することを特徴とする。
【0030】
この発明では、金属薄板にアンカーを取り付けるため、金属薄板が鋳型の半径方向に位置ズレすることを防止することができる。
【0031】
請求項8の発明は、請求項6または7記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、前記レール状突起及びアンカーとして金属材料を用い、金属薄板への仮固定を抵抗溶接によって行うこと特徴とする。
【0032】
このように抵抗溶接を行うことにより、レール状突起及びアンカーの仮固定及び鋳造後における除去を簡単に行うことができる。
【0033】
請求項9の発明は請求項1〜8のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、隣接する金属薄板における鋳型からの露出部分の先端側に相互に重なり合うオーバーハング部を形成し、鋳造後にオーバーハング部を塑性変形させて隣接する金属薄板の間の隙間をなくすことを特徴とする。
【0034】
オーバーハング部を設け、このオーバーハング部を塑性変形させて金属薄板の隙間をなくすため、鋳包まれた金属薄板に熱膨張特性からクリアランスが発生しても、溶接することなく金属薄板の隙間をなくすことができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、図1〜図17において、図25〜図29と同一の部材には同一の符号を付して対応させてある。なお、以下の実施形態では、鋳造金属の材料としてアルミニウム合金を、鋳型の材料として石膏を、金属薄板として鉄系合金或いはニッケル合金を用いるものである。
【0036】
2ピースモールド及び余肉部を設定しないセクショナルモールドの製造では、鋳型を360°の全周にわたって真円に組立てて鋳造するものであり、金属薄板の鋳包みの際に、次の要素が金属薄板の寸法変化及び絶対位置変化に影響する。
【0037】
(1)鋳造直後から溶湯凝固完了までの間に発生する金属薄板の熱膨張
(2)リング状の鋳物における溶湯凝固直後から鋳物冷却までの間に発生する凝固・冷却収縮による金属薄板の半径縮小方向への(平行)移動
(3)溶湯凝固直後から鋳物冷却までの間に発生する金属薄板の冷却収縮
(4)溶湯凝固直後から鋳物冷却までの間におけるリング状の鋳物の凝固・冷却収縮によって金属薄板の鋳包み部分を介して発生する金属薄板の圧縮弾性変形
そして、これらの金属薄板の寸法変化及び絶対位置変化の間に二次的に作用する要因として次の要素が存在する。
【0038】
(i) 突き合わせられた金属薄板の間に入り込んでいるアルミニウム合金の圧縮抵抗
(ii)突き合わせられた金属薄板の間に充填されている石膏鋳型の圧縮抵抗
図1は、石膏鋳型4に対する金属薄板11の取付状態を示す。石膏鋳型4はリング状となっており、金属薄板11は鋳型4の外周面に植え込み状に取り付けられる。なお、それぞれの金属薄板には、ロッキングホール11a及びクロスベントホール11bが厚さ方向に貫通している。ロッキングホール11aは鋳造時にアルミニウム合金が入り込んでおり、この状態で冷却によってアルミニウム合金が凝固することにより金属薄板11との強固な結合を行うように作用する。クロスベントホール11bは、タイヤ成形時における空気抜きを行うものである。金属薄板11は、ロッキングホール11a形成部分が鋳型4の外周面から露出するように鋳型4に取り付けられるものであり、この露出部分がアルミニウム合金によって鋳包まれる。
【0039】
図1において、リング状の鋳型4における金属薄板11が植え込まれている部分の直径をφD、鋳物(金型)における金属薄板11が鋳包まれている部分の直径をφd、リング状の鋳型4での金属薄板11の分割数をN、円周率をπとした場合、隣接する金属薄板11の間での隙間(クリアランス)ΔをΔ=(φD−φd)×π/Nと設定する。
【0040】
なお、隣接している金属薄板11の間にクリアランスを全く設定しない場合には、隣接している金属薄板11が鋳造時の熱膨張で相互に干渉するため、金属薄板11の半径方向に位置ズレが発生するばかりでなく、その後の溶湯の凝固・冷却収縮時にも金属薄板11が干渉するため、鋳物の直径収縮に抗する力が発生すると同時に、金属薄板11にも大きな圧縮歪みが作用し、金属薄板11が厚さ方向にずれたり、座屈変形による湾曲が必然的に発生するものである。
【0041】
図1の状態で、アルミニウム合金の溶湯を鋳枠内に充填して鋳造を行うと、鋳造時の入熱で金属薄板11が約650℃まで加熱される。このとき、金属薄板11固有の熱膨張率により金属薄板11の材質毎に熱膨張する絶対量ΔLTEが異なっている。この熱膨張量ΔLTEと金属薄板11の間に充填されている鋳型4の圧縮限界寸法ΔPCの和が隣接している金属薄板11のクリアランスΔを超えると、超えた分の寸法を確保できる位置まで金属薄板11に位置ズレΔHDが発生する。図2は、金属薄板の位置ズレを示し、(a)は金属薄板11が均一に位置ズレした状態を、(b)は不均一に位置ズレした状態を示す。
【0042】
図3は金属薄板11単体についての鋳造前後の形状変化を示し、(a)は鋳造前、(b)は鋳造後の状態である。同図に示すように、金属薄板11の長手方向の長さ(円周方向の長さ)はLpであり、鋳型4に埋設されている高さはHpに設定されている。鋳造前後では、金属薄板11は長さ方法に沿ってΔLTE、高さ方向に沿ってΔHTEだけ熱膨張する。そして、ΔLTEは鋳型4の円周方向の左右に均等に膨張し、ΔHTEは鋳型4の半径拡大方向に膨張する。なお、図3において、符号15は、鋳造されるアルミニウム合金の溶湯を示す。
【0043】
図4は、隣接している金属薄板11の鋳造前後における干渉状態であり、(a)は鋳造前を、(b)は鋳造後における均一の位置ズレを、(c)は鋳造後における不均一の位置ズレを示す。
【0044】
金属薄板11が隣接している場合、Δ≦ΔLTE+ΔPCとなるときに、金属薄板11が相互に干渉する。この相互に干渉する寸法分ΔLTE+ΔPC−Δは、金属薄板11の鋳型4に対する半径拡大方向へのズレによって開放される(或いは、鋳型4の破壊することにより開放される)。金属薄板11全体における半径方向への位置ずれ量ΔHDは、ΔHD=(N×((ΔLTE+ΔPC)−Δ))/2πとなる。なお、金属薄板11の間に充填された石膏の圧縮限界寸法ΔPCについては、鋳造金属がアルミニウム合金の場合、その凝固前では、「ゼロ」とみなせるため、考慮する必要がないものである。
【0045】
図5は溶湯15が凝固・冷却した後の鋳物の状態であり、(a)は金属薄板11が均一に位置ズレした場合、(b)は不均一に位置ズレした場合を示す。金属薄板11が鋳型における初期位置に対してずれると、そのままの状態で溶湯の凝固・冷却による収縮が発生する。そして、金属薄板11個々の絶対位置は、ずれたままで収縮と共に金属薄板11の全体が円周方向に圧縮負荷を受けながら半径縮小方向に平行移動する。このとき、金属薄板11自体も冷却収縮して初期寸法に復元する。
【0046】
図6は、隣接している金属薄板11の鋳造前後における位置変化及び寸法変化であり、(a)は鋳造前を、(b)は鋳造直後を、(c)は溶湯の凝固・冷却後を示す。なお、図6(c)における破線部分は、アルミニウム合金の溶湯の凝固・冷却収縮前の形状である。
【0047】
図6に示すように、鋳造直後・溶湯凝固前の熱膨張完了時点で、鋳包み側(または石膏鋳型に埋設されている側)における金属薄板11の間にアルミニウム合金の溶湯15が挟まれた状態となった場合には、溶湯15の凝固・冷却収縮時に、挟まれている溶湯が障害となって金属薄板11のクリアランスをゼロとする突き合わせを阻止する作用が発生する。
【0048】
溶湯15が凝固する前は、ΔAC≒0となり得る(圧縮強度がゼロのため)が、凝固前は、挟み込まれたバリ厚分が弾性変形できる範囲で縮むことはあっても、ほとんど変化しない状態となる(ΔAC=ΔC)。なお、溶湯15が凝固する前の金属薄板11の熱膨張でΔC≒0となっている場合には、ΔAC≒0となる。
【0049】
これに対し、鋳型4の内部においては、金属薄板11の間に挟まれている石膏が溶湯15の凝固・冷却の収縮の際に簡単に破壊され、排除された石膏が金属薄板11の周辺に押し込まれるため、溶湯15の凝固・冷却時は、ΔPC≒0とみなすことができる。これは、石膏の強度がアルミニウム合金の強度に比べて極めて小さいためである。
【0050】
また、鋳造熱履歴による金属薄板11の熱膨張・収縮量よりもアルミニウム合金の鋳物の凝固冷却収縮量が約3倍〜5倍と大きいため、この差分の圧縮歪みが金属薄板11に作用する。すなわち、金属薄板11の鋳包み部分とロッキングホール11aを介して圧縮されるため、金属薄板11が圧縮弾性変形するが、溶湯15のアルミニウム合金が金属薄板11に比べて強度が極めて小さく、金属薄板11の長さ寸法が短い場合には圧縮弾性変形量が微小となるため無視することができる。
【0051】
図7及び図8は、セクターブロック8(図8及び図27参照)を単位とし、このセクターブロック8をリング状に組み合わせると共に隣接しているセクターブロックの間に余肉部17を設定して作製されるセクショナルモールドの製造を示す。鋳型においては、図7及び図8に示すように、各セクターブロック8に対応する分割鋳型18が用いられ、この分割鋳型18をリング状に組み立てて鋳造が行われて金属薄板11の鋳包みが行われる。図7において、符号19は、一つのセクターブロックの単位を示す。
【0052】
図7に示すように、一のセクターブロック8に対応する分割鋳型18には、ロッキングホール11a形成部分が露出するように複数の金属薄板11が植え込み状に取り付けられる。このとき、各分割鋳型18の両端に余肉部17を残すように金属薄板11が取り付けられる。従って、余肉部17が鋳造時における金属薄板11の熱膨張の逃げ領域として作用する。
【0053】
余肉部17を設けた場合における金型の製造は、上述した図1〜図6と同様であるが、溶湯の凝固前において金属薄板11が熱膨張により、隣接している金属薄板11と干渉した場合、その干渉量の各セクターブロックにおける総和量が余肉部17で開放される。このため、図1〜図6のように、金属薄板11の半径方向の位置ずれ量ΔHDは発生しないか、発生しても無視できる程度となる。
【0054】
金属薄板11として使用される鋼材(鉄系合金)またはニッケル合金は、室温から650℃での熱膨張率が0.7〜1.1%程度であり、鋳造金属として用いられるアルミニウム合金の円周方向の凝固・冷却による収縮率(0.7〜1.3%)と略一致している。このため、クリアランスΔをΔ=(φD−φd)×π/Nに設定した場合、鋳造時の溶湯の凝固完了までに金属薄板11が熱膨張するΔLTEとΔとが略一致し、ΔAC≒0の状態となる。このため、上述した(4)溶湯凝固直後から鋳物冷却までの間におけるリング状の鋳物の凝固・冷却収縮によって金属薄板の鋳包み部分を介して発生する金属薄板の圧縮弾性変形及び、(i)突き合わせられた金属薄板の間に入り込んでいるアルミニウム合金の圧縮抵抗の2つの要素については、鋳包み時の金属薄板11の位置、寸法変化に関して考慮する必要がなくなる。
【0055】
なお、以上の説明において、石膏の圧縮限界寸法ΔPCは、石膏材料の種類や接触する金属薄板の端面の形状によって数値が異なるため、製造に先立つ実験によって予め算出することが好ましい。
【0056】
次に、2ピールモールド及び余肉部を設けないセクショナルモールドの製造について説明する。
【0057】
上述のように設定した隣接する金属薄板11の間での隙間(クリアランス)Δ(Δ=(φD−φd)×π/N)は、金属薄板11の長手方向の長さ(円周方向の長さ)Lp及び鋳物における金属薄板11が鋳込まれている部分での直径(円周長)方向の収縮率αにより、Δ=Lp×αと記載することができる。
【0058】
また、1枚の金属薄板11の鋳造時における長手方向(円弧長)での熱膨張率ΔLTEは、金属薄板11の室温から鋳造時の入熱によって加熱される最高温度までの間の熱膨張率をρとしたとき、ΔLTE=Lp×ρによって算出することができる。
【0059】
さらに、隣接した金属薄板11に挟まれている鋳型材料の圧縮限界寸法ΔPCは、使用する鋳型の材料やその調合条件によって異なるため、予備実験によって求めることができる。また、上述したΔHD=(N×((ΔLTE+ΔPC)−Δ))/2πから、ΔPC=2πΔHD/N+Δ−ΔLTEによって算出することができる。
【0060】
以上の条件から、鋳型4に取り付けられている金属薄板11の間のクリアランスΔmを以下の(1)及び(2)のように設定する。
【0061】
(1)Δ≧ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=Δ
(2)Δ<ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=ΔLTE+ΔPC
すなわち、ΔmをΔまたはΔLTE+ΔPCの内の大きな値に合わせるものである。
【0062】
これにより、金属薄板11の位置ズレが発生することなく、且つ金属薄板11の間の隙間も極小化した状態で、鋳型上で突き合わせた金属薄板11をタイヤ成形用金型の金型本体に鋳包ませることが可能となる。
【0063】
なお、金属薄板11の間に侵入している鋳型材料の圧縮限界寸法ΔPCについては、金属薄板11の突き合わせ部分に、鋳型材料の逃げのための形状を付与することにより小さくすることが可能である。図9は、このための一実施形態を示し、隣接している金属薄板11における鋳型4への埋め込み部分に、切欠部19を対応するように形成している。この切欠部19を形成することにより、金属薄板11の熱膨張の際に金属薄板11の間の鋳型材料が破壊されるため、ΔPCをゼロに近づけることが可能となる。
【0064】
上述したΔ ≧ ΔLTE+ΔPC のときは、完成したタイヤ成形用金型において、金属薄板間の隙間は、殆どゼロにすることができるのに対して、 Δ < ΔLTE+ΔPC の場合は、金属薄板11の間に、平均値でΔLTE+ΔPC−Δ の隙間が発生する。これに対しては、使用する金属薄板11の熱膨張率に基づいた材質及び金属薄板11の円弧長LP(即ち、骨の分割数N)を選択して、Δ≧ΔLTE+ΔPCの条件を満足させることが可能となる。
【0065】
次に、この円弧長に対する金属薄板11の材質選択を例により説明する。
【0066】
[例1]
ΔPC=0.4mmであり、金属薄板11の鋳包み部分における鋳物の収縮率αが11/1000(1.1%)であったとき(即ち、Δ=0.011・LP)、Δ≧ΔLTE+ΔPC は即ち、0.011・LP ≧ LP×ρ+0.4を満たすLP(金属薄板1枚当りの円弧長)とρ(金属薄板の室温〜約650℃の間の熱膨張率)との組合わせを選択することにより満足することができる。表1及び表2は、このためのLP及び金属薄板11の材質を示すものであり、これらの表から、LP≧60mmとし、金属薄板11としてコバールを用いることにより金属薄板11の間の隙間をゼロに近づけることが可能となる。
【0067】
【表1】
【表2】
[例2]
ΔPC=0.3mmで、金属薄板11の鋳包み部分における鋳物の収縮率αが11/1000(1.1%)であったとき(即ち、Δ=0.011・LP)、Δ≧ΔLTE+ΔPC は即ち、0.011・LP ≧ LP×ρ+0.3を満たすLP(金属薄板1枚当りの円弧長)とρ(金属薄板の室温〜約650℃の間の熱膨張率)との組合わせを選択することにより満足することができる。表3及び表4は、このためのLP及び金属薄板11の材質を示すものであり、これらの表から、LP≧50mmでは、金属薄板11の材質としてコバールを選択し、LP≧80mmでは、金属薄板11の材質として、コバール、SUS631またはMASICを選択することにより金属薄板11の間の隙間をゼロに近づけることが可能となる。
【0068】
【表3】
【表4】
なお、表5は、金属薄板11の材質における化学成分を示している。
【0069】
【表5】
次に、図7に示すように、セクターブロックの間に余肉部17を設けて作製する金型の製造について説明する。この金型においては、複数に分割された金属薄板11を、隙間を極小にした状態で鋳包ませ、且つ、鋳造時の鋳型からの金属薄板の位置ズレ発生を防止するため、次の変数を規定する。
【0070】
1)セクターブロック1単位における分割された金属薄板11の鋳物での円弧長の凝固冷却収縮量ΣΔ
このΣΔは、ΣΔ=(φD−φd)×π/N ×1/nと規定することができる。
【0071】
ここで、φDはリング状の鋳型における金属薄板11が植え込まれている部位の直径、φdは鋳物(金型)における金属薄板11が鋳包まれている部位の直径、Nは鋳物(金型)における金属薄板11により形成される骨の分割数(金属薄板の突き合わせ数)、πは円周率、nはセクターブロックの数(セクター分割数)である。
【0072】
かかるΣΔは、ΣΔ=LP×α×N/nと規定することも可能である。ここで、LPは金属薄板一枚当りの鋳物面上での円弧長、αは鋳物(金型)における金属薄板11が鋳包まれている部位での直径(円周長)収縮率、Nは鋳物(金型)における金属薄板で形成される骨の分割数(金属薄板突き合わせ数)、nはセクターブロック数(セクター分割数)である。
【0073】
2)分割された金属薄板11の金型面での円弧長の鋳造時の熱膨張量ΔLTEのセクターブロック1単位の総和ΣΔLTE
このΣΔLTEは、ΣΔLTE=Lp×ρ×N/nとなる。ここで、Lpは金属薄板1枚当たりの鋳物面上での円弧長、ρは金属薄板11における室温から鋳造時の入熱で加熱される最高温度までの間の熱膨張率である。
【0074】
3)隣接した金属薄板11の間に挟まれている鋳型材料の溶融凝固前における金属薄板の熱膨張時での圧縮限界寸法ΔPCのセクターブロック1単位における総和ΣΔPC
このΣΔPCは、ΣΔPC=ΔPC×N/nと規定することができる。なお、ΔPCは過去の不具合の事例や実験結果から算出することができる。
【0075】
以上の3つの変数から、鋳型上で隣接した金属薄板の間に設けるクリアランスΔmと、セクターブロック1単位に対応する分割鋳型18の両端に設定すべき余肉部ΔSとを以下の条件で設定する。
【0076】
(1)ΣΔ≧ΣΔLTE+ΣΔPCの時は、Δm=Δ、ΔS≧ΣΔ/2、
(2)ΣΔ<ΣΔLTE+ΣΔPCの時は、Δm=ΔPC 、ΔS≧(ΣΔLTE+ΣΔPC)/2
このようにΔm及びΔSを設定することにより、タイヤ成形用金型の金型本体に対し、半径方向の位置ズレが発生することなく、且つ隙間も極小化した状態で、金属薄板を鋳包ませることが可能となる。
【0077】
なお、図8において、鋳型4の余肉部17の設定における過不足で、所定の直径の鋳枠5(図25参照)に鋳型を組み込んでいった場合に、最後の鋳型が組み終わった後で、隙間が生じるときは、ダミー鋳型9を嵌め込んで隙間を消失させる。なお、金属薄板11を鋳込む際には、分割鋳型の余肉部17に金属薄板11を設ける必要はないものである。
【0078】
図10は、分割鋳型18の両端に余肉部17を設けた場合の鋳造を示し、(a)は金属薄板11の熱膨張前を、(b)は金属薄板11の熱膨張後を、(c)は溶湯の凝固・冷却後を示す。金属薄板11の熱膨張前においては、分割鋳型18の製品部範囲内に金属薄板11が存在しているが、熱膨張後には余肉部17にはみ出す可能性が存在する。このはみ出し量が分割鋳型18両端における余肉部の寸法ΔSを上回ると、隣接するセクターブロックの金属薄板と相互に干渉することになり、金属薄板が半径拡大方向に位置ズレすることがあるが、上述した条件でΔSを設定することにより、これを防止することができる。
【0079】
また初期に設定した金属薄板の間のクリアランスΔmとして、鋳造時の金属薄板の熱膨張量ΔLTEと金属薄板の間の鋳型への圧縮限界寸法ΔPCの和と、金属薄板一枚当りにおける鋳物の金型面での円弧長の凝固冷却収縮量Δのうち、どちらか大きい方となる値を設定しておかないと、熱膨張の際に金属薄板11が半径拡大方向に位置ズレしたり、凝固・冷却収縮の際に金属薄板が座屈変形することがあるが、上述した条件でΔmを設定することにより、これを防止することができる。
【0080】
以上の余肉部17を設けた金型の製造において、ΣΔ ≧ ΣΔLTE+ΣΔPC のときは、完成した金型において、金属薄板11の間の隙間を殆どゼロとすることができるのに対して、ΣΔ < ΣΔLTE+ΣΔPC の場合は、ΔPC>Δのときに、金属薄板間に平均値でΔPC−Δ の隙間が発生する。これを防止するため、Δ≧ΔPCとなるように金属薄板の長手方向の寸法(円弧長)Lpを設定するものである。例えば、ΔPC=0.4mmで、金属薄板11の鋳包み部分におけるリング状の鋳物の収縮率αが11/1000(1.1%)であった場合(即ち、Δ=0.011・LP)、Δ≧ΔPCを満足するためには、0.011・LP≧0.4mmであれば良いことになり、LPをLP≧36.4mmと設定することにより、金属薄板間での隙間の発生を防止することができる。
【0081】
このような設定では、上述した例1及び例2のように熱膨張率に関する金属薄板11の材質の考慮をしなくても良いところから設計の自由度を高めることができるメリットがある。
【0082】
以上の発明では、金属薄板11の熱膨張率と溶湯としてのアルミニウム合金の熱膨張率とが略一致することから、ΔAC≒0となるため、アルミニウム合金の圧縮限界寸法ΔACについて考慮していない。しかしながら、金属薄板11の材質としてコバールのような低熱膨張材(室温〜650℃の熱膨張率ρ=0.435%)を用いた場合は、鋳物の収縮率(0.7〜1.3%)に比べて、金属薄板11の熱膨張量が小さいため、鋳造時における金属薄板の熱膨張後も、無視できない寸法の隙間が金属薄板の間に生じる可能性がある。この状態で溶湯が凝固すると、金属薄板11の鋳包み側の金属薄板の隙間に入り込んだ溶湯分が、溶湯の凝固・冷却収縮時に生じる金属薄板の間の隙間を縮める作用に抵抗する。
【0083】
これを防止するため、本発明においては、金属薄板11の鋳包み部分における両端部のみをΔmより大きな隙間となるように設定するものである。例えば、金属薄板11の鋳包み部側の両端を切り欠き形状とし、鋳造時に金属薄板間の鋳包み部に入り込んだ溶湯が溶湯の凝固・冷却収縮の際の塑性流動で金属薄板の間から排出されやすい形状とする。
【0084】
図11(a)及び(b)は、この実施形態を示し、金属薄板11における鋳包み部分(ロッキングホール11aの形成部分)の両端に切欠部21を形成するものである。
【0085】
図12は、切欠部21を設けた場合における鋳造であり、(a)は溶湯の凝固直後を、(b)は溶湯が冷却して鋳物となった状態を示す。溶湯の凝固・冷却収縮により(a)の矢印で示すように、金属薄板11の間に挟まれている溶湯が、金属薄板11の板厚方向だけなく、鋳物の半径方向にも排出される。これにより、結果的にΔACをゼロに近づけることが可能となる。なお、この場合、金属薄板11の間に挟み込まれた溶湯の肉厚が大きくなった分だけ、その部分が吸収することができる弾性変形量も大きくなり、これによってもΔACを小さくすることが可能となっている。
【0086】
図13は、金属薄板11における鋳型4への埋設部分にレール状突起23を仮固定した構成を示す。レール状突起23は埋設部分における長手方向に沿って溶接することにより取り付けられており、鋳造金属の鋳造後に除去されるようになっている。符号24は、レール状突起23の溶接箇所を示す。
【0087】
図14は、金属薄板11における鋳型4への埋設部分に対し、アンカー25を仮固定した構成を示す。アンカー25は金属薄板11から鋳型4の内部に入り込む長さを有している。
【0088】
以上のようなレール状突起23及びアンカー25を設けることにより、鋳型4の半径方向への金属薄板11の滑りに対して大きな抵抗となるため、金属薄板11が熱膨張しても半径方向へ位置ズレすることが少なくなる。また、鋳造後にこれらのレール状突起23及びアンカー25を除去することにより、タイヤ成形時の支障となることがない。かかるレール状突起23及びアンカー25の仮固定は、鋳造時の入熱や金属薄板11の熱膨張で外れることがなく、かつ鋳造後に簡単に金属薄板11から除去できるように行われる。
【0089】
図15は、かかるレール状突起23及びアンカー25を仮固定する方法を示す。なお、図示例ではレール状突起23を示しているが、アンカー25についても同様に適用できるものである。この方法では、レール状突起23として鋼材等の金属材料を用い、正電極26及び負電極27によって金属薄板11及びレール状突起23を挟み込んだ抵抗溶接を行う。この抵抗溶接により、金属薄板11及びレール状突起23の間に溶け込み部28が形成されてレール状突起23が仮止めされる。かかる抵抗溶接の条件としては、例えば、電極26、27として純銅を用い、その直径を0.8〜2.0mmとし、10〜50W・secの溶接電力によって行うことができる。これにより、溶け込み部28を極小とすることができ、鋳造後におけるレール状突起23の除去を簡単に行うことができる。
【0090】
図16は、隣接する金属薄板11にオーバーハング部31、32を形成するものである。オーバーハング部31、32は鋳型4からの露出部分の先端側に相互に重なり合うように形成されるものであり、この実施形態では、オーバーハング部32が斜めに切り欠かれ、オーバーハング部31がオーバーハング部32を覆うようになっている。
【0091】
金属薄板11の間に隙間が生じた場合、図16(b)で示すように、一方のオーバーハング部31をカシメ等により塑性変形させて他方のオーバーハング部32に重ね合わせ、その後、(c)で示すように隆起部分を切削加工して金属薄板11の高さを均一にする。これにより、溶接によって隙間を埋める必要がなくなり、隙間を消失させる作業が簡単となる。
【0092】
図17(a)〜(c)は、このようなオーバーハング部31、32を設けない場合を示し、金属薄板11の間に隙間が生じた場合には、金属薄板11の間を肉盛溶接して肉盛部33を形成し、その後、肉盛部33を切削して高さを調整する面倒な処理が必要となる。
【0093】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例により説明すると、全ての実施例で使用した原材料,鋳造条件を以下に示す。
【0094】
1)マスターモデル(原型):合成木材(ケミウッド材)のNC加工により製作
2)ゴム型:ポリサルファイド系ゴム材(スムースオン社製 FMC201)+石膏裏打ち型
3)石膏鋳型:(株)ノリタケジプサム製 G-6非発泡石膏(混水率60%で調合)
4)アルミニウム:JIS AC4C材 (Si:7%,Cu:0.8%,Mg:0.4%,Fe:0.5%,Al:bal.)
5)鋳込み温度:660℃(±3℃)
6)使用した金属薄板の材質:表6に示す組成の鋼材
【表6】
図18はこの実施例で作製した2ピースモールドを、図19はこの実施例で作製したセクショナルモールドを示す。2ピースモールドでは、厚さ2.0mm、高さ20mmの細骨部を、鋳包み寸法5mmとした金属薄板の鋳包みで対応し、セクショナルモールドでは、厚さ1.2mm、高さ10mmの細骨部を金属薄板の鋳包みで対応した。
【0095】
実施例では、金属薄板の材質、鋳型上でのクリアランスΔmを変化させて鋳造を行った鋳物から金属薄板の半径方向の位置ズレΔHDと金属薄板の間隙間ΔMDを評価した。
【0096】
図20は、実施例1〜3、実施例7及び比較例1、2における金属薄板11の形状を示し、図21は、実施例8における金属薄板11の形状を示し、図22は、実施例7における金属薄板11の形状を示す。各図における数字はmmである。また、図22におけるアンカー25は、L字形状に成形されており、その上部がパーカッション溶接によって金属薄板11に仮固定されている。アンカー25としては、0.6mm厚のSUS304を用い、電極の直径1.0mm、15W・secの溶接条件で一箇所に溶接した。このアンカー25は鋳造後において人手によって簡単に取り外すことができた。図23は、比較例3における金属薄板11の形状を示し、図24は、実施例4〜6及び比較例4、5における金属薄板11の形状を示す。以上の実施例及び比較例において、ロッキングホール11aは直径2mmで2箇所に形成し、クロスベントホール11bは直径0.8mmで3箇所に形成している。
【0097】
表7及び表8は、以上の実施例及び比較例における条件及び結果の一覧を示す。
【0098】
【表7】
【表8】
また、実施例及び比較例では、以下の条件によって作製したものである。
【0099】
☆実施例1は、請求項1の条件(2)の例であり、請求項5も使用
☆比較例2は、請求項1の条件(2)を意図的に外した場合の例であり、請求項5も使用
☆実施例2は、請求項1の条件(1)の例であり、請求項5も使用
☆比較例2は、請求項1の条件(1)を意図的に外した場合の例であり、請求項5も使用
☆実施例3は、請求項2の例であり、金属薄板としてコバール材以外を使用する場合で、金型金属薄板の間の隙間ΔMDを殆どゼロにできるようにに設計した例で、請求項5も使用
☆比較例3は、実施例2で請求項5を使用しなかった場合の例
☆実施例7は、実施例1相当の条件で、請求項7,8を使用した場合の例
この実施例7では、アンカーの存在により鋳物での金属薄板の位置ズレが効果的に防止されていることが判る。
【0100】
☆実施例8は、実施例1で請求項9を使用した場合の例
この実施例8では、鋳物で金属薄板の間にできた隙間を金属薄板に設けた突起形状部をカシメ込み、切削仕上げすることで、金属薄板の先端部近傍の隙間をゼロにすることができた。
【0101】
☆ 実施例4は、請求項3の条件(1)の例
☆ 比較例4は、請求項3の条件(1)を意図的に外した例
☆ 実施例5は、請求項3の条件(2)の例
☆ 比較例5は、請求項3の条件(2)を意図的に外した例
☆ 実施例6は、請求項4の例であり、SUS304を用いて金属薄板の間の隙間をゼロにするための分割数設定を行った例
なお、実施例4〜6及び比較例4、5においては、請求項5を同時に使用した例である。
【0102】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、隣接する金属薄板の隙間ΔmをΔ≧ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=Δと設定し、Δ<ΔLTE +ΔPC の時は、Δm=ΔLTE+ΔPCと設定することにより、金属薄板の隙間を極小とした状態で位置ズレを発生させることなく、金属薄板を鋳包むことができ、全ての種類のタイヤ成形用金型の外周面の360°全周にわたる細骨を形成することができる。
【0103】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて、金属薄板の長さ及び金属薄板の材料を組み合わせることにより、金属薄板の間の隙間をほとんどゼロとすることができる。
【0104】
請求項3の発明によれば、セクターブロックに対応した分割鋳型の両端に余肉部を残して製造際に、ΣΔ≧ΣΔLTE+ΣΔPCの時は、Δm=Δ,ΔS≧ΣΔ/2 と設定しΣΔ<ΣΔLTE+ΣΔPCの時は、Δm=(ΔPC,Δの内で大きい方), ΔS≧(ΣΔLTE+ΣΔPC)/2と設定することにより、金属薄板の隙間を極小とした状態で位置ズレを発生させることなく、金属薄板を鋳包むことができ、タイヤ成形用金型の外周面の360°全周にわたる細骨を形成することができる。
【0105】
請求項4の発明によれば、請求項3の発明の効果に加えて、Δ≧ΔPCを満足するように金属薄板の長さを設定することにより、金属薄板の間の隙間をほとんどゼロとすることができる。
【0106】
請求項5の発明によれば、請求項1〜4の発明の効果に加えて、金属薄板の鋳包み部分の両端部にΔmより大きな隙間を設定することにより、鋳造金属の凝固・冷却収縮の際に金属薄板の間の鋳造金属を排出することができ、金属薄板の間の隙間をゼロに近づけることができる。
【0107】
請求項6の発明によれば、請求項1〜5の発明の効果に加えて、金属薄板にレール状突起を取り付けることにより、金属薄板が鋳型の半径方向に位置ズレすることを防止することができる。
【0108】
請求項7の発明によれば、請求項1〜5の発明の効果に加えて、金属薄板にアンカーを取り付けることにより、金属薄板が鋳型の半径方向に位置ズレすることを防止することができる。
【0109】
請求項8の発明によれば、請求項6及び7の発明の効果に加えて、レール状突起及びアンカーの仮固定及び鋳造後における除去を簡単に行うことができる。
【0110】
請求項9の発明によれば、請求項1〜8の発明の効果に加えて、オーバーハング部を塑性変形させて金属薄板の隙間をなくすため、鋳包まれた金属薄板に熱膨張特性からクリアランスが発生しても、溶接することなく金属薄板の隙間をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋳型に金属薄板を取り付けた状態を示す断面図である。
【図2】鋳造時の熱膨張によって金属薄板が変化する状態を示す断面図である。
【図3】単一の金属薄板に対する寸法設定を示す断面図である。
【図4】隣接した金属薄板における鋳造時の変化を示す断面図である。
【図5】鋳造後における金属薄板の変化を示す断面図である。
【図6】隣接した金属薄板における鋳造時の変化を示す断面図である。
【図7】余肉部を設けた場合の断面図である。
【図8】余肉部を設けた場合における鋳型とセクターブロックとの関係を示す断面図である。
【図9】隣接する金属薄板の間に逃げ形状を設けた断面図である。
【図10】余肉部を設けた製造における変化を示す断面図である。
【図11】金属薄板の長手方向の上端部に大きな隙間を設けた状態を示す断面図である。
【図12】図11の鋳造時における変化を示す断面図である。
【図13】金属薄板にレール状突起を設けた状態図である。
【図14】金属薄板にアンカーを設けた状態図である。
【図15】金属薄板に対してレール状突起を溶接する状態を示す断面図である。
【図16】金属薄板にオーバーハング部を設けた場合の処理を示す断面図である。
【図17】金属薄板にオーバーハング部を設けない場合の処理を示す断面図である。
【図18】実施例及び比較例によって作製される2ピースモールドの部分断面図である。
【図19】実施例及び比較例によって作製されるセクショナルモールドの部分断面図である。
【図20】実施例1〜3、実施例7、比較例1、2に用いる金属薄板の正面図である。
【図21】実施例8に用いる金属薄板の正面図である。
【図22】実施例7に用いる金属薄板の状態図である。
【図23】比較例3で用いる金属薄板の正面図である。
【図24】実施例4〜6、比較例4、5で用いる金属薄板の正面図である。
【図25】2ピースモールドを作製する手順を示す工程図である。
【図26】セクショナルモールドを作製する手順を示す工程図である。
【図27】余肉部を設けた場合のセクショナルモールドの断面図である。
【図28】余肉部を設けない場合のセクショナルモールドの断面図である。
【図29】金属薄板を鋳込む手順を示す工程図である。
【符号の説明】
4 鋳型
8 セクターブロック
11 金属薄板
15 鋳造金属(溶湯)
17 余肉部
18 分割鋳型
Claims (9)
- 複数の金属薄板を部分的に露出させた状態で長手方向に連続するようにリング状の鋳型の外周面に取り付けた後、前記露出部分を鋳造金属によって鋳包むことにより、タイヤの全周にわたる連続的な溝を形成するための細骨を金型本体に形成する方法であって、
金属薄板それぞれの鋳包み部分における長手方向での鋳造金属の凝固・冷却収縮量をΔ、金属薄板それぞれの長手方向の熱膨張量をΔLTE、隣接する金属薄板に挟まれている鋳型材料の圧縮限界寸法ΔPCとしたとき、隣接する金属薄板の間の隙間Δmを下記の条件によって設定することを特徴とするタイヤ成形用金型の製造方法。
(1)Δ≧ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=Δ
(2)Δ<ΔLTE+ΔPC の時は、Δm=ΔLTE+ΔPC - 前記長手方向の寸法設定及び熱膨張率に関連する金属薄板の材料選定を、Δ≧ΔLTE+ΔPCの条件を満足するように行うことを特徴とする請求項1記載のタイヤ成形用金型の製造方法。
- 円周方向に複数分割したセクターブロックをリング状に組み合わせた金型本体に対し、成形されるタイヤの全周にわたる連続的な溝を形成するための細骨を形成する方法であって、
前記各セクターブロックに対応した分割鋳型の外周面に対し、複数の金属薄板を部分的に露出させた状態で長手方向に連続的に且つ分割鋳型の両端に余肉部を残すように取り付けた後、前記露出部分を鋳造金属によって鋳包むことにより前記細骨を形成するのに際し、前記セクターブロックにおける金属薄板の鋳包み部分での鋳造金属の円周方向の凝固・冷却収縮量をΣΔ、セクターブロックにおける金属薄板の長手方向の熱膨張量の総和をΣΔLTE、セクターブロックにおける隣接する金属薄板に挟まれている鋳型材料の圧縮限界寸法の総和ΣΔPCとしたとき、隣接する金属薄板の間の隙間Δm及び余肉部ΔSを下記の条件によって設定することを特徴とするタイヤ成形用金型の製造方法。
- 前記金属薄板の鋳包み部分における長手方向での鋳造金属の凝固・冷却収縮量Δと、隣接する金属薄板に挟まれている鋳型材料の圧縮限界寸法ΔPCとが、Δ≧ΔPCとなるように金属薄板の長手方向の寸法を設定することを特徴とする請求項3記載のタイヤ成形用金型の製造方法。
- 前記金属薄板の鋳包み部分における両端部のみをΔmより大きな隙間となるように設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法。
- 金属薄板の長手方向に沿ったレール状突起を金属薄板における鋳型への埋設部分に仮固定した状態で鋳造を行い、鋳造後にレール状突起を除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法。
- 金属薄板における鋳型への埋設部分にアンカーを仮固定した状態で鋳造を行い、鋳造後にアンカーを除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法。
- 前記レール状突起及びアンカーとして金属材料を用い、金属薄板への仮固定を抵抗溶接によって行うこと特徴とする請求項6または7記載のタイヤ成形用金型の製造方法。
- 隣接する金属薄板における鋳型からの露出部分の先端側に相互に重なり合うオーバーハング部を形成し、鋳造後にオーバーハング部を塑性変形させて隣接する金属薄板の間の隙間をなくすことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のタイヤ成形用金型の製造方法。
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JP2004216622A (ja) | 2004-08-05 |
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