JP3797796B2 - インク受容層付記録用シートおよびインク受容層形成用塗布液 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、PET、塩化ビニルなどの樹脂製フィルムシート、紙、鋼板、布等の印刷に用いられるシート上にインク受容層が形成されたインク受容層付記録用シートに関する。さらに詳しくは、印刷に際して、滲みがなく、濃度が一様に、かつ鮮明に印刷することが可能であり、かつ耐水性、耐候性、退色性に優れ、しかも充分な強度を有する印刷物を得ることが可能なインク受容層付記録用シートに関する。
【0002】
また本発明は、前記のインク受容層の形成するための塗布液、および前記インク受容層付記録用シートの製造方法に関する。
【0003】
【発明の技術的背景】
インクジェット方式による印刷は、従来の多色印刷やカラー写真方式と同様の画質の印刷が可能であり、しかも高速化、多色化が容易であり、さらに部数の少ない場合は従来の印刷方式に比較して低コストであることから、種々の用途に普及しつつある。
【0004】
従来、インクジェット方式で印刷する場合、シート上にポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーをコーティングして受容層を形成した記録用シートが用いられ、水性のインクによる印刷が行われていたが、水溶性ポリマーを用いているために耐水性がなく、高湿度環境下や水濡れした場合に画質が低下する問題があった。またインクの吸収性も充分でなく、このため鮮明で高精度の画像が得られないという問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、水溶性ポリマーとシリカやアルミナなどの微粒子を含むインク受容層を基材表面に形成した記録用シートが提案されている。たとえば、特開昭62−149475号公報には、平均粒子径が1〜50μmのンの球状粒子を用いることにより、画質を損なうことなくインクの吸収性を向上できることが記載されている。また、特公平3−24906号公報には、多孔室のカチオン性水和アルミニウム酸化物を含む受容層を有する記録媒体が水溶性染料インクでの印刷に好適であることが記載されている。特公平4−19037号公報には、カチオン性コロイダルシリカを含む受理層を有する記録媒体は水溶性染料インクでの印刷に好適であることが記載されている。特公平4−115984号公報には、擬ベーマイトアルミナからなる層の上に、多孔性シリカからなる層を設けた記録用シートが記載されている。特開平6−55829号公報には、平均粒子径が2〜50μm、平均細孔直径が8〜50nm、細孔容積が0.8〜2.5cc/gの多孔性シリカ粒子の層を有し、その上層にアルミナまたはアルミナ水和物を含む多孔質層を有する記録用シートが形成されている。
【0006】
しかしながら、これらの記録用シートは、ほとんどが染料系インクによる印刷を対象としたものであり、染料系インクは、使用される染料が紫外線照射、あるいは酸素、オゾンとの接触により変色するなど耐候性、退色性が劣るため、印刷物が経時的に変色したり脱色するなどの欠点があった。このような問題は、印刷物が屋外において使用される場合に顕著である。
【0007】
このため、インクジェット印刷方式であっても、耐候性に優れた顔料系インクが使用されるようになっている。
しかしながら、顔料粒子は、通常10〜500nmの粒子径を有する粒子であり、従来の受容層では、このような大きな粒子を効果的に吸収できる細孔を有していないため、顔料粒子が受容層に吸収されず受容層表面に残存し、耐水性が不十分であったり、磨耗によって顔料粒子が除かれ色落ちするという問題があった。
【0008】
ところで、本発明者等は、顔料系インクに好適に使用しうる記録用シートとして、特願平9−361212号において、平均粒子径が2〜1000nmの範囲にある疎水性と親水性の酸化物粒子を配合したインク受容層を基材表面に設けた記録用シートを出願しているが、この記録用シートは、染料系インクを使用する場合、染料インクの溶解・溶出が生じ、インクの定着性が不充分である場合があった。
【0009】
このため、顔料系インク、染料系インクのいずれを用いた印刷に対し、好適に使用可能な記録用シートの出現が望まれていた。
【0010】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、印刷に際して、滲みがなく、濃度が一様に、かつ鮮明に印刷することが可能であり、かつ耐水性、耐候性、退色性に優れ、しかも充分な強度を有する印刷物を得ることが可能なインク受容層付記録用シートを提供することを目的としている。
【0011】
また本発明は、前記のインク受容層の形成するための塗布液、および前記インク受容層付記録用シートの製造方法を提供することを目的としている。
【0012】
【発明の概要】
本発明に係るインク受容層付記録用シートは、酸化物粒子としてシリカまたはシリカ・アルミナ粒子を含むインク受容層が形成されたインク受容層付記録用シートであって、
(i)酸化物粒子表面にカチオン性水和金属化合物が担持され、
(ii)酸化物粒子のゼータ電位が、正であり、かつ60mV以下であり、さらに、
インク受容層が3.4〜2000nmの範囲の細孔を有し、3.4〜30nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0.2〜1.8ml/gの範囲にあり、
30〜2000nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0 . 1〜1 . 5ml/gの範囲にあることを特徴としている。
【0013】
前記カチオン性水和金属化合物は、pH3〜6の範囲で酸化物粒子表面に担持されたものであり、かつ、下記式(1)で表される化合物である。
[M2(OH)nX(2a-n)/b]m (1)
(式中、MはAl3+、Xはアニオンであり、aは金属カチオンの価数、bはアニオンの価数を示し、1<n<5、n<2aであり、1≦mである。)
前記酸化物粒子の平均粒子径が2〜1000nmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明に係るインク受容層形成用塗布液は、酸化物粒子としてシリカまたはシリカ・アルミナ粒子とバインダーとが、水および/または有機溶媒からなる溶媒に分散されてなるインク受容層形成用塗布液であって、
(i)酸化物粒子表面にカチオン性水和金属化合物が担持され、
(ii)酸化物粒子のゼータ電位が、正であり、かつ60mV以下であり、
酸化物粒子にカチオン性水和金属化合物をpH3〜6の範囲で担持させたものであり、前記カチオン性水和金属化合物が、下記式(1)で表される化合物であることを特徴としている。
[M2(OH)nX(2a-n)/b]m (1)
(式中、Mは3価以上のAl 3+ 金属カチオン、Xはアニオンであり、aは金属カチオンの価数、bはアニオンの価数を示し、1<n<5、n<2aであり、1≦mである。)
【0016】
本発明に係るインク受容層付記録用シートの製造方法は、前記インク受容層形成用塗布液を、基材シート上に塗布し、乾燥したのち、加熱することを特徴としている。
【0018】
【発明の具体的説明】
以下、本発明に係るインク受容層付記録用シート、インク受容層形成用塗布液について説明する。
【0019】
[インク受容層付記録用シート]
本発明に係るインク受容層付記録用シートは、基材シートと、基材シート上に形成されたインク受容層とからなる。
【0020】
基材シート
先ず、本発明に用いられる基材シートについて説明する。
本発明に用いられる基材シートとしては、特に限定されないが、PET、塩ビなどの樹脂製フィルムシート、各種紙、鋼板、布等が用いられる。
【0021】
インク受容層
次に、インク受容層について説明する。
前記基材シート上に形成されるインク受容層は、酸化物粒子とバインダーとから構成される。
【0022】
酸化物粒子としては、
(i)表面にカチオン性水和金属化合物が担持され、かつ
(ii)ゼータ電位が、正であり、かつ60mV以下、好ましくは5〜50mVの範囲にあるものが使用される。
【0023】
なお、酸化物粒子のゼータ電位が負の場合は、染料系インクの定着性が不充分となり、滲みが生じたり、耐水性が不充分となることがあり、ゼータ電位が60mVを超えた酸化物粒子は得ることが困難である。なお、本発明におけるゼータ電位は、MATEC社製ゼータ電位測定装置(ESA−8000)により、酸化物粒子分散液の全酸化物濃度が3重量%となるように純水で希釈した分散液を用いて測定する。
【0024】
前記カチオン性水和金属化合物としては、下記式(1)で表される化合物が好適である。
[M2(OH)nX(2a-n)/b]m (1)
(式中、Mは3価以上の金属カチオン、Xはアニオンであり、aは金属カチオンの価数、bはアニオンの価数を示し、1<n<5、n<2aであり、1≦mである。
【0025】
金属カチオンとしては、3価または4価の金属カチオンが好ましく、さらにAl3+、Zr4+、Ti4+、Ga4+等の金属カチオンは好ましく、特にAl3+が好ましい。金属カチオンがAl3+であると、安定なカチオン性水和金属化合物の溶液が得られ、染料系インクの安定性を向上させることができる。アニオンは塩素、臭素、フッ素、ヨウ素などハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、有機アニオン等が挙げられる。
【0026】
このようなカチオン性水和金属化合物は、公知の方法によって製造することが可能であり、例えば水酸化アルミニウムを塩酸に加圧下または溶解助剤を加えて溶解し(塩化アルミニウム)、これに硫酸などの重合促進剤の存在下で熟成することによって得ることができる。(ポリ塩化アルミニウム[Al2(OH)3Cl3]m)
【0027】
このようなカチオン性水和金属化合物の酸化物粒子表面への担持は、酸化物粒子を水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の溶媒またはこれらの混合溶媒に分散させた分散液に、前記カチオン性水和金属化合物の溶液を混合し、必要に応じてアルカリを添加して、ゼータ電位が0mV以上、好ましくは5mV以上となるpHにすることによって行われる。この時のpHは、使用する酸化物粒子の種類および混合比によっても異なるが、3〜9の範囲にあればよい。
【0028】
カチオン性水和金属化合物と酸化物粒子との混合比は、酸化物に換算した重量比で0.005〜0.2の範囲にあることが望ましい。0.005未満の場合は染料インクの定着性が不充分な場合があり、0.2を超えても染料インクの定着性が向上しないことがある。
【0029】
また、下記式(2)で表される金属塩の水溶液を酸化物粒子分散液に添加した後アルカリを添加し、pHを上記範囲にすることによっても表面にカチオン性水和金属化合物が担持された酸化物粒子を得ることができる。
【0030】
[MXa/b]m (2)
(式中、M、X、a、bおよびmは、前記(1)式と同じである。)
本発明で使用する酸化物粒子としては、平均粒子径が2〜1000nm、好ましくは5〜500nmの範囲にあるものが好ましい。酸化物粒子の平均粒子径が2nm未満では、インク受容層に細孔径が30nm以上の細孔が形成できず、顔料系インクの顔料粒子を受容層に吸収する速度が遅くなったり、充分に吸収できないことがある。また、酸化物粒子の平均粒子径が1000nmを越えると、インク受容層の強度が低下したり、透明性が低下し、コントラストが低下したり、滲みが生じるなどの問題が生じることもある。なお、この平均粒子径は、粒子を水に分散して撹拌した後、動的散乱法(Pacific Scientific社製:Nicomp Model 370)によって測定される。また、本発明で用いる酸化物粒子の形状は特に限定されるものではなく、球状であっても、球状以外の形状であってもよい。
【0031】
本発明で使用する酸化物粒子は、一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であってもよく、さらに、一次粒子と二次粒子とが混在していてもよい。この二次粒子とは、塗布液中で容易に一次粒子に単分散しない程度に凝集した粒子をいう。
【0032】
一次粒子は、平均粒子径が2〜100nmの範囲にあるものが望ましい。
なお、一次粒子の平均粒子径は、BET法によって測定した比表面積から、一次粒子を球と仮定したときの直径として計算して算出される。なお、本発明で使用するこのような一次粒子の中には、二次粒子がほぐれて一次粒子化したものが含まれていてもよい。
【0033】
本発明では、酸化物粒子として、表面が疎水化された酸化物粒子(疎水性酸化物粒子)と表面が疎水化されていない酸化物粒子(親水性酸化物粒子)とを混合したものを使用することができ、このような混合物中の疎水性酸化物粒子/親水性酸化物粒子の重量比は、0.01〜9、好ましくは0.02〜1.0の範囲であることが望ましい。混合比が前記範囲を外れると、平均粒子径が前記範囲にあっても所望の細孔容積および細孔分布を有するインク受容層が得られないことがある。
【0034】
このように親水性酸化物粒子と疎水性酸化物粒子を混合して用いた場合、双方の粒子が互いに配位した新たな二次粒子が形成されると考えられ、このような粒子は親水性または疎水性のバインダー中への分散性に優れている。このため、インク受容層を形成する際に、不均一な収縮による割れの発生を少なくすることができる。さらに、疎水性粒子が配合されているためにインク受容層に水の吸着あるいは侵入が起こりにくくなり、インク受容層の耐水性を向上させることができる。
【0035】
なお、酸化物粒子表面の疎水化方法は特に限定されるものではなく、たとえば上記酸化物粒子を、モノメチルシラン、モノメチルトリメトキシシランなどのカップリング剤で処理する等の方法がある。
【0036】
本発明では、このような酸化物粒子として、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛などの酸化物粒子が使用される。また、酸化物粒子として、シリカ・アルミナ、シリカ・ジルコニア、シリカ・酸化亜鉛、シリカ・マグネシア、シリカ・チタニア、シリカ・アルミナ・マグネシア、粘土鉱物などのシリカを成分として含有する複合酸化物粒子を用いることができる。
【0037】
これらの酸化物粒子は、公知の方法で製造することが可能であり、例えば金属アルコキシド、金属塩、またはこれらの混合物を熱分解する方法、または加水分解する方法などによって得ることができる。得られた酸化物粒子は、必要に応じて粉砕処理されてもよい。
【0038】
また、金属アルコキシド、金属塩を加水分解しながら粒子成長させて得られるコロイド粒子も好適に使用することができる。
このうち、とくにシリカ粒子またはシリカを成分として含む複合酸化物粒子が好適に使用される。
【0039】
バインダー
本発明で使用されるバインダーとしては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーを使用することができる。さらにこれらを変性して使用することもできる。
【0040】
バインダーの使用量は、バインダーの種類によっても異なるが、酸化物粒子の5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%であることが望ましい。
バインダー量が5重量%未満では、インク受容層と基材シートとの接着力が不足してインク受容層が剥離しやすく、またインク受容層の強度が不十分になることがあり、60重量%を越える場合はインクの受容量が低下したり、耐水性が低下することがある。
【0041】
またインク受容層は、上記酸化物粒子およびバインダーの他に、酸化防止剤、セルロース類などの有機ポリマー、バイオ繊維、無機ポリマー、無機微粒子などを含んでいてもよい。
【0042】
インク受容層形成方法
基材シート上にインク受容層を形成する方法としては公知の方法が採用でき、基材の種類によって好ましい方法を採用すればよい。
【0043】
具体的には、後述するインク受容層形成用塗布液を、スプレー法、ロールコーター法、ブレードコーター法、バーコーター法、カーテンコーター法などで、基材シート上に塗布した後、乾燥することによって形成することができる。
【0044】
インク受容層を形成する際、基材はあらかじめプライマー処理して用いてもよい。
また 平均粒子径が2〜1000nmの範囲にある酸化物粒子を水および/または有機溶媒に分散されてなるインク受容層形成用塗布液を、基材シート上に塗布し、乾燥した後、前記式(1)で表されるカチオン性水和金属化合物を酸化物粒子表面に担持させることによって形成することもできる。たとえば、必要に応じてアルカリが添加されたカチオン性水和金属化合物の溶液を、前記インク受容層形成用塗布液からインク受容層を形成する場合と同様に、スプレー法、ロールコーター法、ブレードコーター法、バーコーター法、カーテンコーター法などで、基材シート上に塗布した後、乾燥することによって、カチオン性水和金属化合物を酸化物粒子表面に担持させることができる。このときの担持量は、カチオン性水和金属化合物と酸化物粒子との比が、酸化物に換算した重量比(カチオン性水和金属化合物/酸化物粒子)で、0.005〜0.2の範囲にあることが好ましい。この場合、用いるカチオン性水和金属化合物の溶液の濃度は、カチオン性水和金属化合物と酸化物粒子との比が、上記範囲となる濃度であれば特に制限はなく、また塗布および乾燥を繰り返して行うこともできる。
【0045】
このようにして形成されたインク受容層は、少なくとも3.4〜2000nmの範囲の細孔を有していることが好ましい。
また、インク受容層は、3.4〜30nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0.2〜1.8ml/gの範囲にあるか、または30〜2000nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0.1〜1.5ml/gの範囲にあることが好ましい。
【0046】
3.4〜30nmの細孔の細孔容積が0.2ml/g未満であると、インクの吸収容量が小さく、滲みが生じ、鮮明で高精度の画像が得られないことがある。また3.4〜30nmの細孔の細孔容積が1.8ml/gより大きいと、染料の定着性が低下したり、インク受容層の強度が低くなることがある。
【0047】
また、30〜2000nmの細孔の細孔容積が0.1ml/g未満であると、顔料系インクを充分に吸収することができず、顔料粒子が受容層表面に残存し、磨耗によって剥離して色落ちすることがある。また、30〜2000nmの細孔の細孔容積が1.5ml/gより大きいと、顔料粒子の定着性が低下したり、印字後、顔料粒子の多くがインク受容層の下部(基材表面近傍)に溜まり、画像が鮮明さに欠けることがある。
【0048】
インク受容層付記録用シートを染料系インクおよび顔料系インクの双方に使用する場合、インク受容層は、3.4〜30nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0.2〜1.8ml/gの範囲にあり、30〜2000nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0.1〜1.5ml/gの範囲にあることが望ましい。
【0049】
基材シート上に形成されるインク受容層の厚さは、シートの厚さ、印刷物の用途、印刷用インクの種類などによって、任意に選定することができるが、通常5〜100μmの範囲にあることが望ましい。インク受容層の厚さが5μm未満では、インクの吸収容量が不足して、滲みが生じたり、また、インクの使用量を減じた場合は色彩が低下することがある。インク受容層の厚さが100μmより大きいものは、一回の塗工で得ることが困難であり、複数回の塗工を行うことは経済性の点で問題となるほか、塗工して乾燥する際にひび割れが生じたり剥離することがある。
【0050】
本発明では、基材シート上に形成されたインク受容層の細孔容積は、以下のような水銀圧入法によって測定される。
具体的には、作製したインク受容層付記録用シート約0.2〜0.3gを測定セル(0.5cc容積)に挿入し、QUANTA CHROME社製AUTOSCAN-60 PORPSIMETERを用いて、水銀接触角を130°とし、水銀表面張力を473dyn/cm2として、測定レンジを「高圧」に設定し、細孔分布を測定する。次いで、測定した細孔分布から3.4〜30nmおよび30〜2000nmの範囲の細孔容積を求め、測定した記録用シート中の受容層の重量から、受容層1gあたりの細孔容積を求める。
【0051】
[インク受容層形成用塗布液]
本発明に係るインク受容層形成用塗布液は、酸化物粒子とバインダーとが、水および/または有機溶媒からなる溶媒に分散されてなるインク受容層形成用塗布液であって、
(i)酸化物粒子表面にカチオン性水和金属化合物が担持され、
(ii)酸化物粒子のゼータ電位が0〜60mVの範囲にある
ことを特徴としている。
【0052】
なお、酸化物粒子、バインダー、カチオン性水和金属化合物は前記インク受容層付記録用シートで例示したものと同様である。
有機溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノールなどがあげられる。
【0053】
塗布液中の酸化物粒子の濃度は、塗布方法によって適宜選択されるが、好ましくは2〜40重量%、特に好ましくは5〜30重量%の範囲にあることが望ましい。また、バインダー量は、酸化物粒子の5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%であることが好ましい。
【0054】
このようなインク受容層付形成用塗布液は、上記各成分を混合することによって調製することができる。
また本発明に係るインク受容層形成用塗布液中には、インク受容層と基材シートとの接着性を向上させたり、インク受容層の強度、耐候性を向上させたり、またインク受容層の細孔構造を調節することを目的として、酸化防止剤、セルロース類などの有機ポリマー、バイオ繊維、無機ポリマー、無機微粒子などを含有していてもよい。
【0055】
【発明の効果】
本発明に係るインク受容層付記録用シートは、インクの吸収速度が速く、インク受容層の強度が高く、優れた耐水性、耐候性、耐熱性を有している。このため、このようなインク受容層付記録用シートは、印刷方式によらず、各種のインクを用いて印刷した場合にも印字特性に優れ、鮮明な印刷が可能である。また、インク受容層が吸収性、吸水性、耐水性および耐候性に優れているので、大型カラープリンター用白色PET、アート紙などの記録用シートとして好適に使用できる。さらに、このようなインク受容層付記録用シートを用いて得られた印刷物は、耐水性、耐候性に優れている。
【0056】
さらに、本発明のインク受容層形成用塗布液を用いることによって、前記のような優れた特性を有するインク受容層を形成することができる。
【0057】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0058】
【実施例1】
酸化物粒子の調製
SiO2濃度5重量%の水ガラス溶液に、濃度5重量%の硫酸を加えてゲルを生成させ、ゲルを濾過洗浄して固形分濃度10重量%のシリカヒドロゲルのケーキを得た。これを、ブタノールに重量比が1:1となるように混合して攪拌した後、200℃で乾燥してシリカ粒子を得た。
【0059】
このシリカ粒子を水に分散させて固形分濃度20重量%の分散液7000gを調製したのち、ポリ塩化アルミニウム水溶液(日本化薬(株)製、Al2(OH)3Cl3、濃度がAl2O3換算で10重量%)300gを撹拌しながら添加し、さらに1重量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを3.5に調整して、表面にカチオン性水和金属化合物が担持された酸化物粒子の分散液(A)を調製した。この酸化物粒子のゼータ電位は10.4mVであった。なお、ゼータ電位は、MATEC社製ゼータ電位測定装置(ESA−8000)により、酸化物粒子分散液の全酸化物濃度が3重量%となるように純水で希釈して測定した。
【0060】
インク受容層形成用塗布液の調製
上記で得た分散液(A)を固形分濃度15重量%となるように水を加え、この分散液100重量部と、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液37.5重量部を混合して塗布液を調製した。この塗布液中の酸化物粒子の平均粒子径は150nmであり、酸化物粒子を構成する一次粒子の平均径は7nmであった。
【0061】
記録用シートの調製
次いで、この塗布液をバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、乾燥後、140℃で加熱処理して記録用シートを得た。インク受容層の厚さは30μmであった。
【0062】
得られた記録用シートについて、下記のように印刷を施し、評価した。なお、インク受容層の細孔分布は、前記した水銀圧入法によって測定した。
結果を表1に示す。
[印刷]
得られた記録用シートに、純正の顔料インクおよび染料インクを用いてインクジェットプリンター(GRAPHTEC社製:Masterjet)により、2cm四方のべた塗りのパターンWを印刷した。色はマゼンタ、ブラック、シアンおよびイエローを使用し、出力の変更により濃度を変えて印刷した。
[濃度]
濃度はカラー反射計(日本電色工業製:KRDー2200)により測定した。なお、濃度は1.2以上あれば特に問題なく使用できる。
[滲み]
各印刷ドットの形状を顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。
【0063】
完全に円形であり滲みのないもの :◎
円形であるが僅かに滲みの認められるもの:○
円形であるが明らかに滲みのあるもの :△
[乾燥速度]
顕微鏡観察により、色の異なる2ドットの重なったものについて色の混合状態を観察し、以下の基準で評価した。
【0064】
色の混合の認められないもの :◎
色の混合の僅かに認められるもの :○
色の混合の明らかに認められるもの:△
[耐水性]
印刷片を水に浸漬して顔料および染料の溶出を観察し、以下の基準で評価した。
【0065】
滲みの認められないもの :◎
滲みの僅かに認められるもの :○
滲みの明らかに認められるもの :△
顔料または染料の溶出の認められるもの:×
[色落ち]
印刷部位を指で擦りあわせ、画質の変化及び指への顔料の付着の有無を調べ、以下の基準で評価した。
【0066】
画質変化および顔料の付着のないもの :○
画質変化および顔料の付着の僅かにあるもの :△
画質変化および顔料の付着の明らかにあるもの:×
【0067】
【比較例1】
インク受容層形成用塗布液の調製
実施例1と同様にして得られたシリカ粒子を水に分散させて固形分濃度15重量%の分散液とした。この分散液のpHは4.5であり、シリカ粒子のゼータ電位は−6.0mVであった。
【0068】
この分散液100重量部と、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液37.5重量部とを混合して塗布液を調製した。このような塗布液中の酸化物粒子の平均粒子径は150nmであり、酸化物粒子を構成する一次粒子の平均径は7nmであった。
【0069】
記録用シートの調製
次いで、この塗布液をバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、乾燥後、140℃で加熱処理して記録用シートを得た。インク受容層の厚さは同様に30μmであった。得られた記録用シートについて印刷を施し、評価した。
【0070】
結果を表1に示す。
【0071】
【実施例2】
酸化物粒子の調製
実施例1と同様にしてシリカ粒子を得た。
【0072】
得られたシリカ粒子の一部を、固形分濃度が10重量%となるように水とエタノールとの重量比が1:1の混合溶媒に分散させた。この分散液に、メチルトリメトキシシランを、シリカ粒子1 モルに対し、メチルトリメトキシシランが0.15モルとなるよう添加して、シリカ粒子の疎水化処理を行い、固液分離したのち、200℃で乾燥して疎水性シリカ粒子を得た。
【0073】
次いでシリカ粒子と疎水性シリカ粒子を重量比1:1で混合し、この混合粒子を水に分散させて固形分濃度20重量%の分散液7000gを調製し、これにポリ塩化アルミニウム水溶液(日本化薬(株)製、Al2(OH)3Cl3、濃度がAl2O3換算で10重量%)1190gを撹拌しながら添加し、さらに濃度1重量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを3.3に調整して、表面にカチオン性水和金属化合物が担持された酸化物粒子の分散液(B)を調製した。この酸化物粒子のゼータ電位は19.4mVであった。
【0074】
インク受容層形成用塗布液の調製
得られた分散液(B)に、固形分濃度15重量%となるように水を加え、この分散液100重量部と、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液37.5重量部を混合して塗布液を調製した。このような塗布液中の酸化物粒子の平均粒子径は160nmであり、酸化物粒子を構成する一次粒子の平均径は7nmであった。
【0075】
記録用シートの調製
次いで、この塗布液をバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、乾燥後、140℃で加熱処理して記録用シートを得た。インク受容層の厚さは30μmであった。得られた記録用シートについて実施例1と同様に印刷を施し、評価した。
【0076】
結果を表1に示す。
【0077】
【実施例3】
酸化物粒子の調製
酸化物粒子としてシリカ・アルミナ(韓佛化学製:チクソレックス 427 1次粒子径45nm、2次粒子径800nm)を用い、このシリカ・アルミナ粒子を水に分散させて固形分濃度20重量%の分散液7000gを調製し、この分散液にポリ塩化アルミニウム水溶液(日本化薬(株)製、Al2(OH)3Cl3 、濃度がAl2O3として10重量%)1400gを、撹拌しながら添加し、さらに濃度1重量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを6.0に調整して、表面にカチオン性水和金属化合物が担持された酸化物粒子の分散液(C)を調製した。この分散液のゼータ電位は45.0mVであった。
【0078】
インク受容層形成用塗布液の調製
得られた分散液(C)に固形分濃度15重量%となるように水を加え、この分散液100重量部と、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液37.5重量部とを混合して塗布液を調製した。このような塗布液中の酸化物粒子の平均粒子径は800nmであり、酸化物粒子を構成する一次粒子の平均径は45nmであった。
【0079】
記録用シートの調製
次いで、この塗布液をバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、乾燥後、140℃で加熱処理して記録用シートを得た。インク受容層の厚さは同様に30μmであった。得られた記録用シートについて実施例1と同様に印刷を施し、評価した。
【0080】
結果を表1に示す。
【0081】
【比較例2】
酸化物粒子としてアルミナゾル(触媒化成工業(株)製:カタロイド AS−3、1次粒子径9nm、2次粒子径200nm)を用いた。このアルミナゾルのpHは4.5、ゼータ電位は17.5mVであった。
【0082】
インク受容層形成用塗布液の調製
上記アルミナゾルを固形分濃度15重量%となるように水に分散させた分散液100重量部と、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液37.5重量部とを混合して表1に示す塗布液を調製した。
【0083】
記録用シートの調製
次いで、この塗布液をバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、乾燥後、140℃で加熱処理して記録用シートを得た。受容層の厚さは同様に30μmであった。得られた記録用シートについて、実施例1と同様に印刷を施し、評価した。
【0084】
結果を表1に示す。
【0085】
【実施例4】
酸化物粒子の調製
酸化物粒子として一次粒子に分散しているシリカゾル(触媒化成工業(株)製:カタロイド SI−50、1次粒子径25nm)を用い、このシリカゾルに水を加えて、固形分濃度20重量%のゾル7000gを調製し、このゾルにポリ塩化アルミニウム水溶液(日本化薬(株)製、Al2(OH)3Cl3 、濃度がAl2O3換算で10重量%)406gを撹拌しながら添加し、濃度1重量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを4.5に調整して、表面にカチオン性水和金属化合物が担持された酸化物粒子の分散液(D)を調製した。この酸化物粒子のゼータ電位は32.1mVであった。
【0086】
インク受容層形成用塗布液の調製
得られた分散液(D)に固形分濃度15重量%となるように水を加え、この分散液100重量部と、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液37.5重量部とを混合して塗布液を調製した。このような塗布液中の酸化物粒子の平均粒子径は120nmであり、酸化物粒子を構成する一次粒子の平均径は25nmであった。
【0087】
記録用シートの調製
次いで、この塗布液をバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、乾燥後、140℃で加熱処理して記録用シートを得た。インク受容層の厚さは30μmであった。得られた記録用シートについて、実施例1と同様に印刷を施し、評価した。
【0088】
結果を表1に示す。
【0089】
【比較例3】
酸化物粒子として、一次粒子に分散しているシリカゾル(触媒化成工業(株)製:カタロイド SI−50、1次粒子径25nm)を用いた。このシリカゾルのゼータ電位は、−29.2mVであった。
【0090】
インク受容層形成用塗布液の調製
上記シリカゾルを固形分濃度15重量%となるように水に分散させた分散液100重量部と、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液37.5重量部とを混合して表1に示す塗布液を調製した。
【0091】
記録用シートの調製
次いで、この塗布液をバーコーターを用いてPETフィルム上に塗布し、乾燥後、140℃で加熱処理して記録用シートを得た。しかしながら、作成したインク受容層にはクラックがみられたため、上記のような評価は実施しなかった。
【0092】
【表1】
Claims (7)
- 基材シート上に、酸化物粒子としてシリカまたはシリカ・アルミナ粒子を含むインク受容層が形成されたインク受容層付記録用シートであって、
(i)酸化物粒子表面にカチオン性水和金属化合物が担持され、
(ii)酸化物粒子のゼータ電位が、正であり、かつ60mV以下であり、
カチオン性水和金属化合物は、pH3〜6の範囲で担持させたものであり、かつ、下記式(1)で表される化合物であり、
[ M 2 ( OH ) n X (2a-n)/b ] m (1)
(式中、Mは Al 3+ 、Xはアニオンであり、aは金属カチオンの価数、bはアニオンの価数を示し、1<n<5、n<2aであり、1≦mである。)
さらに、
インク受容層が3.4〜2000nmの範囲の細孔を有し、3.4〜30nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0.2〜1.8ml/gの範囲にあり、
30〜2000nmの細孔径を有する細孔の細孔容積が0.1〜1.5ml/gの範囲にあることを特徴とするインク受容層付記録用シート。 - 前記酸化物粒子の平均粒子径が2〜1000nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のインク受容層付記録用シート。
- カチオン性水和金属化合物と酸化物粒子との混合比が、酸化物換算の重量比で、0.005〜0.2の範囲にあることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のインク受容層付記録用シート。
- 酸化物粒子としてシリカまたはシリカ・アルミナ粒子とバインダーとが、水および/または有機溶媒からなる溶媒に分散されてなるインク受容層形成用塗布液であって、
(i)酸化物粒子表面にカチオン性水和金属化合物が担持され、
(ii)酸化物粒子のゼータ電位が、正であり、かつ60mV以下であり、
酸化物粒子にカチオン性水和金属化合物をpH3〜6の範囲で担持させたものであり、
前記カチオン性水和金属化合物が、下記式(1)で表される化合物であることを特徴とするインク受容層形成用塗布液。
[M2(OH)nX(2a-n)/b]m (1)
(式中、Mは3価以上のAl3+金属カチオン、Xはアニオンであり、aは金属カチオンの価数、bはアニオンの価数を示し、1<n<5、n<2aであり、1≦mである。) - 前記酸化物粒子の平均粒子径が2〜1000nmの範囲にあることを特徴とする請求項4に記載のインク受容層形成用塗布液。
- カチオン性水和金属化合物と酸化物粒子との混合比が、酸化物換算の重量比で、0.005〜0.2の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載のインク受容層形成用塗布液。
- 請求項5または6に記載のインク受容層形成用塗布液を、基材シート上に塗布し、乾燥したのち、加熱することを特徴とするインク受容層付記録用シートの製造方法。
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