JP3794140B2 - 紡機の糸切れ検出方法及び糸切れ検出装置 - Google Patents

紡機の糸切れ検出方法及び糸切れ検出装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は各錘のスピンドルを各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動するリング精紡機、リング撚糸機等の紡機における糸切れ検出方法及び糸切れ検出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
紡出中に糸切れが生じた場合、その糸切れを速やかに修復するために糸切れを確実にかつ早期に検出することが望ましい。そのため、紡機には糸切れ検出装置が設けられている。一方、近年、精紡機機台の多数錘化、スピンドル回転速度の高速化、騒音低減、省エネルギー等を図るため、精紡機機台の全錘を1台のモータで駆動する代わりに各錘毎にスピンドル駆動用のモータを設けた装置が提案されている。そして、各錘毎にスピンドルを別個のモータで駆動する装置の特質を生かした糸切れ検出方法が提案されている。
【0003】
例えば、特開平6−57560号公報には、各錘に設けられたモータに供給される電流を計測する電流センサを設けるとともに、その出力から電流変化率を求め、電流変化率が設定値を超えたときに糸切れと判断する方法が開示されている。
【0004】
また、特開平9−13235号公報には図8に示すようなリング精紡機の駆動システムが開始されている。このシステムでは、各錘のスピンドルの駆動モータ51毎にインバータ52が設けられ、インバータ52は導線53を介して直流電源ネットワーク54に接続されている。直流電源ネットワーク54は唯一の整流器55から給電される。各インバータ52は制御導線56と共通の導線57とを介してモータ制御機構58と結合されており、モータ制御機構58により駆動モータ51が所望の回転数で回転されるように制御される。導線53には各インバータ52に供給される電流を検出する測定ユニット59が結合されている。各測定ユニット59は評価ユニット60に接続されている。そして、評価ユニット60は各インバータ52の平均出力と各々のインバータ52の出力の差を求め、その値が所定量以上のときに糸切れと判断する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特開平6−57560号公報に開示された装置では、電流の変化率が大きな時に糸切れと判断するため、玉揚げ時に糸切れが発生した場合には、再起動時点から糸切れ状態にあるため電流変化率が大きく変化することはなく、糸切れを検出できない。また、スピンドルモータの始動直後はモータのトルク変動が大きく、トルク変動に伴う電流変化率と糸切れに伴う電流変化率の区別が難しいという問題がある。
【0006】
一方、特開平9−13235号公報に開示された方法では、全錘のインバータ52の出力の平均値と、各錘のインバータ52の出力との差が所定の値以上ずれると糸切れと判断することにより、玉揚げ時に糸切れが発生した錘であっても糸切れ検出が可能となる。しかし、リング精紡機等では、スピンドル上のボビンに糸が巻取られるため、巻取り開始からの時間経過とともにスピンドル駆動用のモータに加わる負荷が変化する。また、巻取り時にリングレールが昇降運動を繰り返し、リングレールの位置によりスネルワイヤからトラベラに至る糸のバルーン形状が異なり、それによっても負荷が変化する。そして、巻取り途中で糸切れが発生した錘は他の錘に比較して巻量が少なくなり、駆動用モータに掛かる負荷も小さくなる。従って、単純に平均値からずれている錘が糸切れ錘と判断する特開平9−13235号公報に開示された方法では、糸切れが発生して修復に時間がかかって巻量が異なる状態となった錘に対しては糸切れの誤検出が多くなるという問題がある。
【0007】
本発明は前記の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は各錘のスピンドルを各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動する紡機において、糸切れの発生によって他の錘と巻量が異なる状態になった錘があっても、各錘に対して正確に糸切れの有無を検出できる紡機の糸切れ検出方法及び糸切れ検出装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明の糸切れ検出方法では、多数の錘を装備するとともに各錘のスピンドルを各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動する紡機において、機台の始動時から糸切れ検出時期までに糸切れ経歴のある錘と、糸切れ経歴のない錘とを区別して糸切れ経歴のない巻量の同じ錘について各錘のモータに供給される電流値を所定時期に一斉に検出してその平均値を求めるとともに、該平均値と各錘の電流値とに基づいて糸切れの有無を判断し、かつ糸切れ経歴により巻量が他の錘より少なくなった錘は、当該錘の糸切れ検出時における巻量に対応する前記糸切れ経歴のない錘における同じ巻量での平均値と当該錘の電流値とに基づいて糸切れの有無を判断する。
【0009】
請求項2に記載の発明では、多数の錘を装備するとともに各錘のスピンドルを各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動する紡機において、全錘を統括する主制御部と、各錘毎に設けられ各錘のモータに供給される電流を計測する電流検出手段と、各錘毎に設けられ当該錘の電流検出手段の出力を前記主制御部からの指令に基づいて所定時期に入力するとともに、その計測データをディジタルの電流値データとして前記主制御部に送信する副制御部と、機台の始動時から糸切れ経歴のない錘の電流値データの平均値を演算する演算手段と、前記平均値と各錘の電流値データとに基づいて糸切れ経歴のない各錘の糸切れの有無を判断する第1の判断手段と、前記第1の判断手段の判断時に使用された電流値データの平均値をそれに対応する巻量とともに逐次記憶する記憶手段と、糸切れ経歴のある錘の電流値データと、前記記憶手段に記憶されたデータから求めたその電流値データの計測時における当該錘の巻量と等しい巻量に対する平均値とに基づいて当該錘の糸切れの有無を判断する第2の判断手段とを備えた。
【0010】
請求項3に記載の発明では請求項2に記載の発明において、前記第2の判断手段は前回の糸切れ判断時に糸切れと判断された錘について、当該錘の電流値データと前記記憶手段に記憶されたデータから求めたその電流値データの計測時における当該錘の巻量と等しい巻量に対する平均値とに基づいて、当該錘で糸継ぎが為されたか否かを判断する。
【0011】
請求項4に記載の発明では請求項2又は請求項3に記載の発明において、全錘は複数のグループに分割され、前記副制御部は各錘毎に設けられた第1の副制御部と、前記グループ毎に1台設けられ第1の副制御部と前記主制御部との間の信号の授受を中継する第2の副制御部とからなる。
【0012】
請求項5に記載の発明では請求項2〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の判断手段は各錘の電流値からその平均値及び標準偏差を演算するとともに、電流値データが平均値から標準偏差の所定割合以上ずれた錘を糸切れと判断する。
【0013】
請求項6に記載の発明では請求項2〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記第2の判断手段は巻量及びスピンドル回転数の違いによる補正を行った前記電流値を使用して糸切れ判断を行う。
【0014】
請求項7に記載の発明では請求項2〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記両判断手段は起動・停止時以外のときに糸切れ判断を行う。
請求項1に記載の発明では、各錘のスピンドルがそれぞれ各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動される。糸切れの検出は、機台の始動時から糸切れ検出時期までに糸切れ経歴のある錘と、糸切れ経歴のない錘とを区別して行われる。糸切れ経歴のない巻量の同じ錘については、各錘のモータに供給される電流値が所定時期に一斉に検出され、その平均値が求められるとともに、該平均値と各錘の電流値とに基づいて糸切れの有無が判断される。また、糸切れ経歴により巻量が糸切れ経歴のない錘より少なくなった錘については、当該錘の糸切れ検出時における巻量に対応する前記糸切れ経歴のない錘における同じ巻量での平均値と、当該錘の電流値とに基づいて糸切れの有無が判断される。
【0015】
請求項2に記載の発明では、各錘のスピンドルが各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動される。各錘のモータに供給される電流は各錘毎に設けられた電流検出手段によって計測される。電流検出手段の出力は主制御部からの指令に基づいて所定時期に副制御部に入力されるとともに、その計測データがディジタルの電流値データとして前記主制御部に送信される。機台の始動時から糸切れ経歴のない錘の電流値データの平均値が演算手段によって演算される。そして、第1の判断手段において、前記平均値と各錘の電流値データとに基づいて糸切れ経歴のない各錘の糸切れの有無が判断される。前記第1の判断手段の判断時に使用された電流値データの平均値がそれに対応する巻量とともに記憶手段に逐次記憶される。また、第2の判断手段において、糸切れ経歴のある錘の電流値データと、前記記憶手段に記憶されたデータから求めたその電流値データの計測時における当該錘の巻量と等しい巻量に対する平均値とにより当該錘の糸切れの有無が判断される。
【0016】
請求項3に記載の発明では請求項2に記載の発明において、前回の糸切れ判断時に糸切れと判断された錘について、前記第2の判断手段により、当該錘で糸継ぎが為されたか否かが判断される。この判断は、当該錘の電流値データと前記記憶手段に記憶されたデータから求めたその電流値データの計測時における当該錘の巻量と等しい巻量に対する平均値とに基づいて行われる。
【0017】
請求項4に記載の発明では請求項2又は請求項3に記載の発明において、全錘は複数のグループに分割され、各錘毎に設けられた第1の副制御部と主制御部との間の信号の授受が第2の副制御部によって中継される。
【0018】
請求項5に記載の発明では請求項2〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、各錘の電流値からその平均値及び標準偏差が前記第1の判断手段によって演算される。そして、電流値データが平均値から標準偏差の所定割合以上ずれた錘が糸切れと判断される。
【0019】
請求項6に記載の発明では請求項2〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、糸切れ経歴により巻量が少なくなった錘の糸切れ検出時に、前記第2の判断手段により巻量及びスピンドル回転数の違いによる補正が行われた電流値が使用される。
【0020】
請求項7に記載の発明では請求項2〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、起動・停止時以外のときに前記両判断手段により糸切れ判断が行われる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をリング精紡機に具体化した一実施の形態を図1〜図6に従って説明する。図1(a)に示すように、紡機の各スピンドル1にはそれぞれスピンドル駆動用モータ(以下、スピンドルモータという)2が設けられている。スピンドルモータ2としては三相誘導モータが使用され、スピンドルモータ2は共通のモータ駆動装置3に接続された電源線4に対して給電線5を介して接続されている。電源線4には多数のスピンドルモータ2(1個のみ図示)が並列に接続されている。リングレール6及びドラフトパート駆動系(図示せず)はスピンドルモータ2と別のモータ(図示せず)で駆動されるようになっている。
【0022】
各錘の3本の給電線5の任意の1本には各スピンドルモータ2に供給される電流を計測する電流検出手段としての電流センサ7が設けられている。電流センサ7としては変流器型センサ、ホール素子型センサ等が好ましいが分流器型センサでもよい。電流センサ7は第1の副制御部としての電流計測装置8に接続されている。電流計測装置8は電流センサ7の出力電圧信号(変流器型センサの場合は電流/電圧変換後の電圧信号)を適切に増幅するアンプと、増幅後の信号を処理するローパスフィルタ(いずれも図示せず)とを備えている。また、電流計測装置8はマイクロコンピータを備え、前記ローパスフィルタの処理信号をA/D変換器(いずれも図示せず)を介してディジタルデータとして常時取り込み可能となっている。
【0023】
給電線5には各錘毎にリレーの常閉接点(いずれも図示せず)が設けられ、糸切れ信号に基づいて該リレーが励磁されて当該常閉接点が開き、当該錘のスピンドルモータ2への電力供給が停止されるようになっている。
【0024】
全錘は複数のグループに分割され、図1(b)に示すように、電流計測装置8は複数錘(例えば、48錘)を1グループとして、それぞれ第2の副制御部としてのセクション制御ユニット9に通信ライン10を介して接続されている。各セクション制御ユニット9は全錘を統括する主制御部としての主制御装置11に通信ライン10を介して接続されている。通信ライン10はシリアル・インタフェース12を使用したマルチドロップ接続が採用されている。シリアル・インタフェース12として例えばRS−485が使用されている。
【0025】
各電流計測装置8及び各セクション制御ユニット9により、各錘毎に設けられた電流センサ7の出力を主制御装置11からの指令に基づいて所定時期に入力するとともに、その計測データをディジタルの電流値データとして主制御装置11に送信する副制御部が構成されている。各セクション制御ユニット9は当該セクション制御ユニット9に接続されたグループの電流計測装置8と、主制御装置11との間の信号の授受を中継する。
【0026】
図1(b)に示すように、主制御装置11は演算手段、第1の判断手段及び第2の判断手段としての中央処理装置(以下、CPUという)13を備えている。主制御装置11はプログラムメモリ14、記憶手段としての作業用メモリ15、入力装置16及び入出力インタフェース17を備えている。CPU13は入出力インタフェース17を介して巻量検出手段18に接続されている。巻量検出手段18にはフロントローラ(図示せず)の回転数を積算するカウンタが使用され、CPU13はそのカウント値からその時の巻量を演算する。
【0027】
プログラムメモリ14は読出し専用メモリ(ROM)よりなり、プログラムデータと、その実行に必要な各種データとが記憶されている。プログラムデータには種々の繊維原料、紡出糸番手及び撚り数等の紡出条件と、定常運転時のスピンドル回転速度、ドラフト駆動系及びリフティング駆動系のモータの回転速度との対応データや、種々の巻量における回転数と供給電流量との関係を示すマップ等がある。このマップは紡出条件によって異なり、予め紡出試験を行って又は理論的に求められる。作業用メモリ15は読出し及び書替え可能なメモリ(RAM)よりなり、入力装置16により入力されたデータやCPU13における演算処理結果等を一時記憶する。
【0028】
CPU13は機台の始動時から糸切れ経歴のない錘の電流値データの平均値及び標準偏差を演算し、その平均値と各錘の電流値データとに基づいて糸切れ経歴のない各錘の糸切れの有無を判断する。CPU13は平均値と各錘の電流値データとの差が、前記標準偏差の複数倍(この実施の形態では3倍)より大きなときに糸切れと判断する。この時CPU13は第1の判断手段として機能する。CPU13は所定周期(例えば数十ミリ秒)で前記糸切れ判断を行うとともに、その時の平均値及び標準偏差をそれに対応する巻量とともに逐次作業用メモリ15に記憶させる。但し、スピンドルモータ2のトルク変動が大きな起動時及び停止時には糸切れ検出を行わない。
【0029】
作業用メモリ15には巻量を記憶する記憶領域が各錘に対応して設けられ、CPU13は糸切れが発生した錘について、糸継ぎが為されると糸切れの間に巻き取られるべきであった巻量を演算し、作業用メモリ15の前記記憶領域に記憶させる。CPU13は糸切れ経歴のある錘の電流値データと、前記記憶手段に記憶されたデータ及び巻始めからの巻量から求めたその電流値データの計測時における当該錘の巻量と等しい巻量に対する平均値及び標準偏差とにより当該錘の糸切れの有無を判断する。この時CPU13は第2の判断手段として機能する。
【0030】
CPU13は糸切れ経歴のある錘について糸切れを判断する場合、当該錘の電流検出時における巻量及びスピンドル回転数と、その巻量における前記平均値のスピンドル回転数との違いによる補正を行った電流値を使用して糸切れ判断を行うようになっている。
【0031】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。精紡機の運転に先立って繊維原料、紡出糸番手、撚り数等の紡出条件が入力装置16により入力される。そして、精紡機の運転が開始されると、主制御装置11のCPU13は入力された紡出条件に基づいて各モータ駆動装置3に速度指令信号を出力する。モータ駆動装置3は各スピンドルモータ2を主制御装置11からの指令信号に対応する所定の回転速度となるように制御する。また、ドラフトパート駆動系及びリフティング駆動系も主制御装置11からの指令信号に基づいてスピンドル1に対して所定の回転速度比で駆動される。
【0032】
スピンドル1の駆動は、例えば図4に示すように、始動時に急な加速が行われた後、徐々に速度が上昇され、満管近くで急な減速が行われた後、停止される。精紡機の始動時には急な加速により電流値が刻々変化し、スピンドルモータ2のトルク変動が大きく、糸切れ判断に誤りが生じ易いため、糸切れ錘の有無判断は行われない。この間、ほとんどの錘は正常に糸の巻取りが行われるが、いくつかの錘は糸切れとなる場合がある。また、停止のための減速時には急な減速により電流値が刻々変化し、糸切れ判断に誤りが生じ易いため、糸切れ錘の有無判断は行われない。
【0033】
CPU13は急な加速終了後、停止のための減速が開始されるまで、所定周期で糸切れ検出判断を行う。糸切れ検出判断は巻始めからその糸切れ検出判断時点までに糸切れが発生した錘(糸切れ経歴のある錘)と、糸切れが発生しなかった錘(糸切れ経歴のない錘)とで区別して行われる。
【0034】
CPU13は糸切れ発生錘が検出されるまでは、図5に示すフローチャートに従って糸切れ検出判断を行う。先ず、CPU13はステップS1で各錘に電流値の読み込み指令を行うとともに、その時点での紡出量(巻量)を作業用メモリ15に記憶させる。そして、CPU13から各セクション制御ユニット9に、電流センサ7からの出力信号の読み込み指令が同時に出力される。各セクション制御ユニット9はその信号を受信すると、各電流計測装置8に電流センサ7からの出力信号の読み込み指令を同時に出力する。各電流計測装置8はその指令に従ってその時点での電流センサ7の出力を読み込んで保持する。各電流計測装置8は電流センサ7の出力信号を処理してディジタルデータとして保持する。シリアル・インタフェース12を介した通信速度は10kbit /秒以上を確保できるため、各電流計測装置8に読み込まれた検出データは実質的に同時に読み込まれたものとみなしても差し支えなく、通信制御にかかる時間中にリングレール6の昇降により変化する電流の影響を実質的に受けない。なお、各電流計測装置8に保持された前記ディジタルデータは、次に電流値の読み込み及びディジタル処理が行われるまで保存され、その後、次のディジタルデータに更新される。
【0035】
次にCPU13はステップS2で、読み込んだ電流値データの送信指令を各セクション制御ユニット9を介して各電流計測装置8に出力する。そして、各電流計測装置8の電流値データが各セクション制御ユニット9を中継してCPU13に入力される。機台の始動時から最初の判断時では、空ボビンからの巻取りのため、電流値は図2に示すように巻取りが成功した錘(正常錘)に対応する分布と、糸切れ錘に対応する分布とに分かれる。各分布はほぼ正規分布として取り扱うことができる。次にCPU13はステップS3で巻取りが成功した各錘の電流値データの平均値《x》と、標準偏差σとを演算し、それらの値を前記の紡出量とともに作業用メモリ15に記憶させる。
【0036】
次にステップS4でI<《x》−3σか否かの判断、即ち平均値《x》と各錘の電流値データIとの差が標準偏差σの3倍より大きいか否かを番号の小さな錘から順に判断する。そして、差が標準偏差σの3倍より大きければCPU13は当該錘を糸切れ錘と判断して、ステップS5に進み、ステップS5で当該錘が糸切れ錘であることと、当該錘のその時点での巻量とを作業用メモリ15の所定記憶領域に記憶させる。また、CPU13は当該錘の糸切れ信号を出力する。ステップS4でノーであればステップS6に進む。次にCPU13はステップS6で糸切れ判断が全ての錘について為されたか否かを判断し、ノーであればステップS4に戻って次の錘について同様の判断を行う。ステップS6でイエスであれば糸切れ判断作業を終了する。以後、糸切れ錘が発生するまで所定周期で同様の操作を繰り返す。
【0037】
糸切れ錘は糸継ぎ作業により糸切れが修復されるまで巻取りが行われないため、巻始めから糸切れなしに巻取りが行われている錘と同じ電流値に戻る保証はない。そのため、CPU13は糸切れが発生した後は、糸切れ経歴のある錘については図6に示すフローチャートに従って糸切れ判断を行い、糸切れ経歴のない錘については図5に示すフローチャートに従って糸切れ判断を行う。
【0038】
糸切れと判断された錘については、その時点の巻量(紡出長)が作業用メモリ15に記憶されており、CPU13は次の糸切れ判断周期(糸切れ判断時)において当該錘の電流値が糸切れ時における判断基準のI<《x》−3σを満足しなくなれば糸継ぎされたと判断する。そして、CPU13はそれ以後は当該錘の巻量を別に管理する。
【0039】
次に図6のフローチャートに従って糸切れ経歴のある錘の糸切れ判断について説明する。この作業は図5のフローチャートによる作業終了後に引き続いて行われる。CPU13はステップS11で前回の糸切れ判断時において糸切れと判断された錘があるか否かを判断し、糸切れと判断された錘があれば、ステップS12に進んで糸切れ錘について錘番号の小さな順に順次糸継ぎされたか否かの判断を行う。即ち、今回の電流値Iと、前回の判断基準値の《x》−3σとの比較を行い、I<《x》−3σを満足しなくなれば糸継ぎされたと判断して、ステップS13に進んでCPU13は当該錘に糸切れの間に巻き取られるべきであった巻量を演算し、作業用メモリ15の記憶領域に記憶させる。以前に当該記憶領域に巻量が記憶されている場合は、その値に加算した値を記憶させた後、ステップS14に進む。CPU13はI<《x》−3σを満足していれば糸切れ継続中と判断して、ステップS14に進む。
【0040】
ステップS14では前回の糸切れ判断時において糸切れと判断された全錘に対するステップS12の判断が為されたか否かを判断する。そして、ノーであればステップ12に戻って判断が為されていない次の錘に対して前記と同様の処理を行い、イエスであればステップS15に進む。また、ステップS11で前回の糸切れ判断時における糸切れ錘がない場合は、ステップS15に進む。
【0041】
ステップS15においてCPU13は、前回は糸切れと判断されなかった糸切れ経歴のある錘について糸切れ判断を行う。糸切れ判断は今回の電流値Iと、その錘の現時点での巻量に対応する平均値《x》及び標準偏差σとがI<《x》−3σを満足するか否かで行われる。そして、I<《x》−3σを満足すれば糸切れと判断してステップS16に進み、当該錘が糸切れ錘であることと、当該錘のその時点での巻量とを作業用メモリ15の所定記憶領域に記憶させるとともに、当該錘の糸切れ信号を出力する。巻量は電流値の読み込み時点での巻始めからの巻量と、作業用メモリ15に記憶されている当該錘の糸切れ中の巻量との差で演算される。
【0042】
ステップS16でI<《x》−3σを満足しなければ、CPU13は糸切れ無しと判断してステップS17に進む。そして、ステップS17でステップS15の判断が必要な全錘について当該判断が為されたか否かを判断し、ノーであればステップS15に戻り、判断が為されていない次の錘に対して前記と同様の処理を行う。イエスであれば今回の糸切れ判断処理を終了する。
【0043】
スピンドルモータ2に供給される電流値はスピンドルモータ2に対する負荷トルクに比例し、負荷トルクは紡出長(巻量)に比例する。また、図3に示すように、同じ巻量であっても回転数により風損が変化してトルクが変化し、スピンドルモータ2に供給される電流も変化する。スピンドル1の回転数は満管までに例えば、図4に示すように複数回変更される。そして、糸切れ発生により糸切れ経歴のない錘に比較して巻量が少なくなった錘では、同じ巻量での平均値を使用する場合、その回転数が異なる場合が多く、単純に同じ巻量での平均値を使用すると、誤差が大きくなる。従って、この実施の形態ではCPU13はステップS15において比較すべき電流値に巻量及びスピンドル回転数の違いによる補正を行った後の電流値を使用して糸切れ判断を行う。
【0044】
CPU13から糸切れ検出信号が出力された錘は、給電線5に設けられたリレーの常閉接点が開き、当該錘のスピンドルモータ2への電力供給が停止されるようになっている。そして、作業者または糸継ぎ装置による糸継ぎが行われると、常閉接点が閉じてスピンドルモータ2が駆動される。
【0045】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(イ) 糸切れ判断を機台の始動時から糸切れ検出時期までに糸切れが発生した錘と、糸切れが発生していない錘とを区別して行い、かつ各錘の電流値が糸切れ経歴のない錘の糸切れ判断時期の電流値の平均値からの偏差にもとづいて行われる。従って、糸切れの発生によって糸切れ経歴のない錘と巻量が異なる状態になった錘があっても、各錘に対して正確に糸切れの有無を検出できる。
【0046】
(ロ) 全錘の糸切れの有無が主制御装置11により監視されるため、その情報を使ったモニタリングシステムを構築し易い。
(ハ) 前回の糸切れ判断時に糸切れと判断された錘について、糸継ぎが為されたか否かの判断が糸切れ判断に使用する電流の平均値及び標準偏差に基づいて行われる。従って、各錘毎に糸継ぎ作業完了時にオンとなる糸切れ修復報知用の手段(例えば、スイッチ)を設ける必要がない。
【0047】
(ニ) 全錘が複数のグループに分割されるとともに、各錘毎に設けられた各電流計測装置8と主制御装置11との間の信号の授受が、各グループ毎に設けられたセクション制御ユニット9によって中継されるため、多数錘のデータサンプリング時期の同期が取り易くなる。また、セクション制御ユニット9を設けずに各電流計測装置8と主制御装置11とを直接通信手段で接続した場合に比較して、通信手段の負荷が軽減される。
【0048】
(ホ) 糸切れ判断の基準値が、各錘の電流値の平均値及び標準偏差に基づいて自動的に適正な値に設定されるので、糸切れ錘の有無判断のために予め所定の値を入力する必要がなく、紡出条件に拘らず自動的に適正な糸切れ有無判断が行われる。糸切れ錘の電流値Iの値は、糸切れでない錘の電流値に比較して10〜20%程度小さく、糸切れでない錘間のばらつき(1〜2%)よりも十分大きく、糸切れ錘を確実に判定できる。
【0049】
(ヘ) 糸切れ経歴のある巻量が少なくなった錘の糸切れ検出時に、巻量及びスピンドル回転数の違いによる補正が行われた電流値が使用されるため、精度良く糸切れ有無判断が行われる。
【0050】
(ト) 起動・停止時以外のときに糸切れ判断が行われるため、誤検出の虞が少なくなる。
(チ) 起動・停止時を除いて糸切れをすぐに検出でき、糸切れ信号により当該錘のスピンドルモータ2の駆動が停止されて、スピンドル1が停止する。従って、糸切れ発生後にスピンドル1の回転が継続することによる隣接錘の糸の伴切れが防止される。また、糸切れ錘のボビンが長時間回転されることによる毛羽の発生も確実に防止される。
【0051】
なお、実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 図7に示すように、モータ駆動装置3を各錘毎に設けるとともに、電流検出手段として電流センサ7又は電流検出回路をモータ駆動装置3内に設ける。モータ駆動装置3は直流電源を交流電源に変換するインバータを備えている。そして、モータ駆動装置3に前記実施の形態の電流計測装置8の機能をも持たせる。この実施の形態では主制御装置11からのスピンドル駆動指令もセクション制御ユニット9を介して各錘のモータ駆動装置3に送信される。従って、糸切れ信号で当該錘のモータ駆動装置3がスピンドルモータ2の駆動を停止する構成とすることにより、各錘毎にリレー及びその常閉接点を設ける必要がなくなる。
【0052】
○ 糸切れ錘の判断を行う場合、平均値《x》と標準偏差σの3倍との差を基準として各錘の電流値と比較する代わりに、標準偏差σの所定割合(例えば、2倍)の値との差を基準としてもよい。また、標準偏差σを使用せずに、各錘の電流値が平均値《x》から所定の割合(例えば、10%)以上ずれたときに、糸切れと判断してもよい。この場合も、糸切れ錘の有無判断のために予め所定の値を入力する必要がない。
【0053】
○ セクション制御ユニット9を設けずに、主制御装置11と各電流計測装置8とを通信ライン10及びシリアル・インタフェース12で接続してもよい。
○ 糸切れ錘か否かの判断を主制御装置11で行う代わりに、平均値及び標準偏差の演算を主制御装置11で行い、それらの値を各電流計測装置8に送信して、電流計測装置8において糸切れ判断を行う構成としてもよい。この場合、全錘の糸切れ判断が完了するまでに要する時間を短縮できる。
【0054】
○ 平均値及び標準偏差を求める場合、糸切れでない錘の電流値の平均値及び標準偏差を求める代わりに、機台始動時から前回の糸切れ判断時点までに糸切れ経歴のない全錘の平均値及び標準偏差を求める。この場合、糸切れ判断時に取り込んだ電流値データの分布を調べることなく、より簡単に平均値及び標準偏差を演算できる。
【0055】
○ 前回の糸切れ判断時に糸切れと判断された錘で糸継ぎが為されたか否かの判断を、電流値の平均値と標準偏差に基づいて行う代わりに、糸継ぎ作業完了時にオンとなる各錘に設けられた糸切れ修復スイッチのオン信号で判断する構成としてもよい。
【0056】
○ 主制御装置11とセクション制御ユニット9との接続及びセクション制御ユニット9と電流計測装置8とをマルチドロップ接続以外の方式で接続してもよい。また、通信手段として無線通信を使用してもよい。
【0057】
○ 機台の起動・停止時にも糸切れ検出を行ってもよい。
○ 糸切れ経歴のある錘の巻量の演算を各錘毎に設けた電流計測装置8で行う構成としてもよい。例えば、糸切れ時及び糸切れ修復時に主制御装置を介して巻き量検出手段18の積算データを入力し、その値に基づいて始動時からの巻量を演算する。この場合、主制御装置11で糸切れ経歴のある各錘の巻量を演算する場合に比較して、図6に示す一連の糸切れ判断処理が終了するまでの時間を短縮できる。
【0058】
○ リング精紡機に限らず、単錘駆動方式のリング撚糸機等に適用してもよい。
前記各実施の形態から把握できる請求項記載以外の技術的思想(発明)について、以下にその効果とともに記載する。
【0059】
(1) 請求項2〜請求項7のいずれか一項に記載の発明において、前記第1及び第2の判断手段は各錘毎にそれぞれ設けられ、その判断に必要な平均値等のデータを通信手段を介して主制御部から入手する。この場合、全錘の糸切れ判断が完了するまでに要する時間を短縮できる。
【0060】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜請求項7に記載の発明によれば、各錘のスピンドルを各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動する紡機において、糸切れの発生によって他の錘と巻量が異なる状態になった錘があっても、各錘に対して正確に糸切れの有無を検出できる。
【0061】
請求項3に記載の発明によれば、前回の糸切れ判断時に糸切れと判断された錘について、糸継ぎが為されたか否かの判断を、各錘毎に糸継ぎ作業完了時にオンとなる糸切れ修復スイッチを設けずに簡単に行うことができる。
【0062】
請求項4に記載の発明によれば、多数錘のデータサンプリング時期の同期が取り易くなるとともに、通信の軽減が図れる。
請求項5に記載の発明によれば、第1の判断手段による糸切れ錘の有無判断のために予め所定の値を入力する必要がなく、紡出条件に拘らず自動的に適正な糸切れ有無判断が行われる。
【0063】
請求項6に記載の発明によれば、糸切れが発生して巻量が少なくなった錘の糸切れの有無判断がより精度良く行われる。
請求項7に記載の発明によれば、起動・停止時以外のときに糸切れ有無判断が行われるので誤判断が生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態を示すブロック回路図。
【図2】 電流値の分布を示すグラフ。
【図3】 同じ巻量でのスピンドル回転数と電流値の関係を示すグラフ。
【図4】 巻始めから満管停止までのスピンドル回転数変化を示すグラフ。
【図5】 糸切れ判断手順を示すフローチャート。
【図6】 糸切れ判断手順を示すフローチャート。
【図7】 別の実施の形態のブロック回路図。
【図8】 従来装置のブロック回路図。
【符号の説明】
1…スピンドル、2…スピンドルモータ、7…電流検出手段としての電流センサ、8…副制御部を構成する第1の副制御部としての電流計測装置、9…副制御部を構成する第2の副制御部としてのセクション制御ユニット、11…主制御部としての主制御装置、13…演算手段,第1の判断手段及び第2の判断手段としてのCPU、15…記憶手段としての作業用メモリ。

Claims (7)

  1. 多数の錘を装備するとともに各錘のスピンドルを各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動する紡機において、
    機台の始動時から糸切れ検出時期までに糸切れ経歴のある錘と、糸切れ経歴のない錘とを区別して糸切れ経歴のない巻量の同じ錘について各錘のモータに供給される電流値を所定時期に一斉に検出してその平均値を求めるとともに、該平均値と各錘の電流値とに基づいて糸切れの有無を判断し、かつ糸切れ経歴により巻量が他の錘より少なくなった錘は、当該錘の糸切れ検出時における巻量に対応する前記糸切れ経歴のない錘における同じ巻量での平均値と当該錘の電流値とに基づいて糸切れの有無を判断する紡機の糸切れ検出方法。
  2. 多数の錘を装備するとともに各錘のスピンドルを各錘毎に設けられたモータにより独立して駆動する紡機において、
    全錘を統括する主制御部と、
    各錘毎に設けられ各錘のモータに供給される電流を計測する電流検出手段と、
    各錘毎に設けられ当該錘の電流検出手段の出力を前記主制御部からの指令に基づいて所定時期に入力するとともに、その計測データをディジタルの電流値データとして前記主制御部に送信する副制御部と、
    機台の始動時から糸切れ経歴のない錘の電流値データの平均値を演算する演算手段と、
    前記平均値と各錘の電流値データとに基づいて糸切れ経歴のない各錘の糸切れの有無を判断する第1の判断手段と、
    前記第1の判断手段の判断時に使用された電流値データの平均値をそれに対応する巻量とともに逐次記憶する記憶手段と、
    糸切れ経歴のある錘の電流値データと、前記記憶手段に記憶されたデータから求めたその電流値データの計測時における当該錘の巻量と等しい巻量に対する平均値とに基づいて当該錘の糸切れの有無を判断する第2の判断手段と
    を備えた紡機の糸切れ検出装置。
  3. 前記第2の判断手段は前回の糸切れ判断時に糸切れと判断された錘について、当該錘の電流値データと前記記憶手段に記憶されたデータから求めたその電流値データの計測時における当該錘の巻量と等しい巻量に対する平均値とに基づいて、当該錘で糸継ぎが為されたか否かを判断する請求項2に記載の紡機の糸切れ検出装置。
  4. 全錘は複数のグループに分割され、前記副制御部は各錘毎に設けられた第1の副制御部と、前記グループ毎に1台設けられ第1の副制御部と前記主制御部との間の信号の授受を中継する第2の副制御部とからなる請求項2又は請求項3に記載の紡機の糸切れ検出装置。
  5. 前記第1の判断手段は各錘の電流値からその平均値及び標準偏差を演算するとともに、電流値データが平均値から標準偏差の所定割合以上ずれた錘を糸切れと判断する請求項2〜請求項4のいずれか一項に記載の紡機における糸切れ検出装置。
  6. 前記第2の判断手段は巻量及びスピンドル回転数の違いによる補正を行った前記電流値を使用して糸切れ判断を行う請求項2〜請求項5のいずれか一項に記載の紡機の糸切れ検出装置。
  7. 前記両判断手段は起動・停止時以外のときに糸切れ判断を行う請求項2〜請求項6のいずれか一項に記載の紡機の糸切れ検出装置。
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