JP3793485B2 - マイクロ波誘電体磁器組成物およびその磁器の製造方法 - Google Patents

マイクロ波誘電体磁器組成物およびその磁器の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ波誘電体、とくに、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において使用される種々の共振器材料、フィルター材料、MIC用誘電体基板材料、アンテナ材料、積層チップコンデンサー材料、アイソレータ材料等の携帯電話部品の容量素子等に用いることができるマイクロ波誘電体磁器組成物およびその磁器の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、通信技術の進歩により、自動車電話や携帯電話、PHS等の移動体通信システム、GPSが急速に普及している。そのため通信機に利用される周波数帯域が拡大し、マイクロ波帯域での利用が盛んになっている。
【0003】
このマイクロ波帯域で使用される回路には、空洞共振器、アンテナ等の部品が用いられていた。しかし、これらの部品はマイクロ波の波長と同程度の大きさになるため、自動車用電話機、携帯電話機および小型GPS装置等に適用できるような部品の小型化は不可能であった。
【0004】
これに対し、近年のマイクロ波フィルターや発信器の周波数安定化回路に誘電体共振器を用いることによって回路部品の小型化が盛んに行われ一般化しつつある。このような誘電体共振器に用いられる誘電体材料には、使用周波数帯域における誘電率(εr)が高く、マイクロ波帯域での無負荷品質係数(Q)と共振周波数(f0)との積(Q×f0、以下、Qfと略称する。)が高く、かつ共振周波数の温度係数(τf:ppm/℃)がゼロを中心に正から負に自由に制御できることが強く要望され、携帯電話部品等に用いられる容量素子材には、εrが140以上、Qfが1700GHz以上さらにはτfが任意に制御可能であることがとくに重要である。
【0005】
また、最近では使用される基板(容量素子材)も、さらに軽薄化が進み、基板厚みも0.05mmtとなりつつあるが、材料中に存在するポアの形状、大きさ、個数等で容量値(コンデンサー)にバラツキやショート品が発生する問題があり材料中のポアの制御も必要不可欠であった。
【0006】
このようなマイクロ波誘電体磁器組成物として、例えば、特開平5−211007号公報には、組成LiO−CaO−Ln−TiOで示され、LnがNdまたはSmであるマイクロ波誘電体磁器組成物が開示されている。この開示された組成物の特性として、εrが141、Qfが1215GHz、τfが+25ppm/℃があり、τfの制御がなされているものでは、εrが100前後と低いものが示されている。
【0007】
また、特開平6−243722号公報には、組成がLiO−CaO−Sm−Ln−TiOで示され、LnがNd、LaまたはPrであるマイクロ波誘電体磁器組成物が開示されており、その特性としては、εrが130、Qfが1300GHz、τfが+30ppm/℃であるものが示されている。
【0008】
さらには、特開平9−208303号公報には、BaO−SrO−Sm−Bi−La−TiO系のマイクロ波誘電体磁器組成物が開示され、その特性としては、εrが140、Qfが1650GHz、τfが+37ppm/℃であることが示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開平5−211007号に開示された組成物は、εrは141と高いが、Qfは1215と低く、且つ、τfが±15ppm/℃以内には制御しきれていない。また、τfが±15ppm/℃以内での制御ではεrは100前後と低い値に留まっている。
【0010】
また、特開平6−243722号に開示された組成物は、SmをNdO3、La、Pr11のいずれか1種に置換することによりεrを130を保ってはいるが、τfが+30ppm/℃と大きく、τfを±10ppm/℃に制御すると、εrが125となり、Qfも低下してしまうという問題がある。
【0011】
さらに、特開平9−208303号に開示された組成物は、εrが140、Qfが1650と共に高い特性を示すが、τfは+37ppm/℃と大きいという問題がある。
【0012】
このように、以上の従来技術では、何れも、近年の小型化に要求されているεr≧140、Qf≧1700、τf≦15ppm/℃、さらには正負に任意の値に制御できるという要求特性を同時に満足できる材料を得ることができないものであった。
【0013】
その最大の要因は含有されているBi、Li成分の高温焼成中における蒸発による組成比のバラツキが大きく量産化工程において安定しない事が大きな要因であった。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、上記マイクロ波誘電体の小型化に際しての、要求特性、すなわち、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において、比誘電率εrとQf、さらには、共振周波数の温度係数τfを安定して制御でき、量産化において特性バラツキの小さい量産化に適したマイクロ波誘電体磁器を得ることにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明のマイクロ波誘電体磁器組成物は、基本組成成分が、酸化物換算で、aTiO−bSrO−cBaO−dCaO−eBi−fLiO−gLn(LnはLa、Pr、Nd、Smのランタニド族元素から選択される1種または2種以上)で表わされ、
a+b+c+d+e+f+g=100モル%とした場合に、a〜gのそれぞれが、モル%で、45≦a≦71、0.4≦b≦6、0.2≦c≦18、0.2≦d≦18、0.2≦e≦10、1≦f≦13、2≦g≦15の範囲内にあり、
且つ、
bSrOとcBaO、bSrOとdCaOのそれぞれの配合比率が、
b:cが1:0.3〜1:20および
b:dが1:0.3〜1:20
であることを特徴とする。
【0016】
TiOは、マイクロ波誘電体磁器としての基本的な成分としての機能を有する。その含有量が、45モル%未満ではεrの低下をきたし目的とする高いεrを得ることができない。また71モル%を超えるとτfが正に大きく、Qfも1000以下と低くなり好ましくない。
【0017】
SrOは、高周波領域において安定した電気特性を有する。その含有量が0.4モル%未満であるとεrが低下し、さらにτfをゼロから正負に自由に制御する効果が乏しくなる。また、6モル%を超えるとεrが高くなるがQfが1000以下となりτfを目的の値に制御することが困難となる。
【0018】
BaOは、磁器の結晶粒子径を小さくすると共にεrの値を制御する作用を有する。所定の範囲内で目的の誘電特性を得ることが可能になる。その含有量が0.2モル%未満では、磁器の結晶粒子径を小さく制御する作用が乏しく、その結果容量素子などに作製した場合、高温負荷寿命においてQの劣化をきたす。また18モル%を超えると、結晶粒子径が著しく成長し機械的強度が低下するため電子部品の軽薄化への要望にそぐわなくなる。さらに高温負荷寿命においてεr、Qf共に不安定になる。
【0019】
CaO成分は磁器の結晶粒子径を小さくする作用があり、その結果機械的強度を高め安定にする。さらに高周波領域におけるQfを高くする作用があり、SrO成分との配合比率を変化させることによって1KHz〜0.1GHzの周波数領域の容量素子の温度と周波数の関係に対するC(容量値)、Q(無負荷損失係数)、C−TC(容量値の温度特性)の変化の温度特性、とくに、20℃〜80℃付近の温度特性を著しく安定にすることができる。CaOの含有量が、0.2モル%未満では磁器の結晶粒子径を小さくする効果が乏しく、その結果機械的強度が向上せず、さらに高周波領域のQfが低下する。そしてτfの温度特性も不安定になる。また、18モル%を超えるとεrの低下をきたし、τfを目的の値に制御することが困難になる。
【0020】
SrO成分とBaOとCaOの特定モル%範囲内での配合比率の変化は1〜7GHz帯高周波領域)の周波数の変化に対して、Qfおよびτfの−20℃〜80℃付近までの温度特性を著しく安定化する。SrO:BaOの配合比率が1:0.3未満ではτfの安定性が乏しく、Qfも低下し、また、1:20を超えるにつれ急激にQf、τf共に劣化する。その結果、BaOとCaOの特定モル%範囲内での配合比率で得られた素子は、IC、R、L等の他の電子部品との組み合わせにおいて今までにない安定な部材として利用できる。しかしながら、BaOとCaOの特定モル%範囲内での配合比率が1:0.3未満ではQfが低下し、また、1:20を超えるにつれεrが低下し、τfの周波数の温度特性が大きく変化する。また、SrO成分:BaO成分の比率が1:1.56であって、SrO成分:CaO成分の比率が1:1の配合比率において、周波数の変化に対して、Qfおよびτfの−20℃〜80℃付近での温度特性が著しく安定する。
【0021】
Biは磁器の焼結温度を下げ、電気特性のτfを正負の値に小さく制御する作用を有する。その含有量が0.2モル%未満ではτfを小さくし正負の値に制御する効果が乏しくなる。また、10モル%以上を超えると、磁器の焼成時にBi成分の蒸発が大きく焼結性が著しく不安定になる。その結果Qfが悪化しさらに高温負荷寿命特性が著しく劣化することになる。
【0022】
LiOは、高周波領域におけるεrを高く、τfを小さく制御する作用を有している。その含有量が1モル%未満ではτfを小さく制御する効果が乏しく、13モル%を超えると、焼成時にLi成分の蒸発が大きく磁器の気孔が増加し、εr、Qf、τfが共に不安定となり、その結果、量産化に向けた工業製品として作製するのに好ましくない。
【0023】
La、Pr、Nd、Smの何れかの酸化物を表わすLnO3は、磁器の結晶粒子径を小さく制御することができ、機械的強度を向上させ、そして、高周波領域におけるεr、Qfを安定にしτfを小さくする作用を有する。とくに、Laはεrの安定化に、また、NdはQfの向上に、さらに、Sm、Prはτfを小さくする作用を持つ。これらの成分を目的に応じて複合含有することにより、それぞれの効果を複合したより良い効果が期待できる。 その含有量が2モル%未満では電気特性の改善が望めなく、また、15モル%を超えると、磁器の焼成温度が高くなり、他の成分との固溶性が悪化し、その結果、気孔の多い磁器になる。
【0024】
上記基本成分からなる組成物は、その基本成分の合計量を100重量部として、酸化物換算でMnO 、Fe、Co、Nb、Taの中の1種または2種以上を合計を0.1〜10重量部を添加物として含有することができる。これにより、εr、Qfが高く、τfを正負の値に小さく制御することが可能になる。さらに磁器の機械的強度を高め、そして容量素子等の機能部品に用いた場合、高温高湿負荷寿命特性等を安定化することができる。個別の作用として、MnO は、磁器の焼成温度幅を広げ、焼成時の還元を防止する。その結果、高周波領域で、Qfの劣化を小さく抑える作用を有する。しかしながら、その含有量が0.1重量部未満では、焼成温度幅を広げる効果と、還元防止の効果も小さくなる。また、10重量部を超えると逆に焼結性が悪化し、磁器の結晶粒子径が増大し気孔が大きくなり寿命特性等の劣化を伴うことになる。
【0025】
Feは、磁器の焼成温度を下げQfを向上させる作用がある。しかし、0.1重量部未満では、焼成温度を下げる効果が小さくなり、また、10重量部を超えると、他の主成分との反応が大きく、また、Qfが約60℃〜80℃の高温では大きく劣化する。
【0026】
Coは、磁器の焼成温度幅を広げると共に焼成時の還元防止し、Qf、τf等の電気特性を安定にし高温負荷寿命の劣化を抑える作用がある。しかしながら、その含有量が、0.1重量部未満では焼成温度幅を広げる効果が小さく、また、10重量部を超えるとεrの低下をきたしQf、τfの特性を悪化する。
【0027】
Nbは、高周波領域におけるεrの温度変化に対するバラツキと機械的強度を安定にする作用を有する。 しかしながら、0.1重量部未満では機械的強度を安定にする効果が小さく、また、10重量部を超えると磁器の結晶粒子径が大きくなり機械的強度が低下するため好ましくない。
【0028】
Taは、磁器の結晶粒子径を小さく機械的強度を高める作用があり、容量素子等の電子部品に利用した場合、軽薄化が可能となり小型化に対応できる。また、高周波領域においてQfを高め、τfを小さく制御する。しかしながら、0.1重量部未満では磁器の結晶粒径を小さく、機械的強度の向上が小さい。また、10重量部を超えるとεrの低下を来たし好ましくない。これらの各々の添加物成分は、複合化して添加することにより、それぞれの特性が複合した効果が得られ、安定した諸特性が得られる。
【0029】
本発明のマイクロ波誘電体磁器は、上記組成からなる混合物を直径が1〜12mmの範囲内の大きさの粒状あるいは塊状のペレット状に成型し、平均気孔率が25%〜50%のAl(アルミナ)、あるいはAl−ZrSiO(アルミナ−ジルコン)、ZrO(ジルコニア)、Al−SiO(ムライト)の中の1種または2種以上の複合体の通気性多孔質焼結体容器を用い温度900℃〜1200℃の範囲内で仮焼し、得られた仮焼物を、0.3μm〜2.0μmの平均粒子径に粉砕調整して仮焼粉末を調製し、その仮焼粉末に有機バインダーを添加し成型し、前記通気性多孔質焼結体容器を用い1200℃〜1400℃の温度で焼成することによって得られる。仮焼時のペレットへの温度差を最小限度に抑え、BiおよびLi成分の蒸気圧分を一定にし、磁器組成物中の蒸発成分のガスをコントロールすることができ、量産化におけるバラツキを抑え電気特性としてεrが145以上、Qfが1700以上およびτfをゼロから正負に自由に制御可能にした。
【0030】
上記の通気性多孔質焼結体容器を用いることにより、組成物原料と仮焼温度(900℃〜1200℃)での容器との反応現象が起きにくく、また、焼結体容器であるため仮焼後の取り出し作業工程で容器成分である不純物の混入が無く、通気性多孔質焼結体で構成されているので容器の重量が軽く、通気孔があるので蒸発成分の透過性が一定になり、均質性に優れた仮焼粉末を得ることができる。
【0031】
仮焼温度である900℃〜1200℃は、本発明組成物の安定性、電気特性、および機械的特性を得るために必要な温度域であり、900℃未満では均質性に富んだ仮焼粉末が得られず、また、1200℃を超えると固相反応が進みペレット状の仮焼物が硬く粉砕および成型以降の量産工程で工数がかかると共に電気特性、機械的特性が著しく悪化する。
【0032】
仮焼粉末の平均粒子径を0.3μm〜2.0μmの範囲内に粉砕調整することによって、その後の有機バインダーを添加し、成型する工程において成型時の亀裂、ひずみ、割れの発生を防ぎ用途に応じた形状の複雑成型を可能とし、焼成後の磁器の機械的強度さらには電気特性等を安定にする効果が得られる。しかし、0.3μm未満では成型割れが起き易く好ましくない。また、2.0μmを超えるとポアが発生し易いため好ましくない。
【0033】
その後、有機バインダーを適量添加、成型し、前記通気性多孔質焼結体容器を用いて、1200℃〜1400℃の範囲内で焼成することによって、蒸発成分であるBiおよびLi成分の蒸気圧を一定にするとともに、著しく安定した諸特性を有するマイクロ波誘電体磁器が得られる。焼成温度が1200℃未満の場合は均質性において欠陥を生じ、1400℃を超えると機械的強度が著しく低下し他の諸特性も悪化する。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付の図と表に示す実施例を基に説明する。
【0035】
表1〜2は本発明の基本組成成分と諸特性の関係を示し、表3〜4は本発明の添加物および添加量と諸特性の関係を示し、表5〜6は本発明の通気性多孔質焼結体容器の気孔率と諸特性の関係を示す。
【0036】
99%以上の高純度の、TiO、SrCO、BaCO、CaCO、Bi、LiCO、LaCO、Pr11、Nd、Sm、MnCO、Fe、Co、Nb、Taの各種原料を用い、表1〜4の各配合比率になるように秤量した。純水あるいはメタノールを用い、300CCのウレタン内張りポットミルおよび高純度でφ5mm〜φ12mmの球状を有するZrOボールを用い24時間混合し、120℃で乾燥させる。乾燥粉末をアルミナ製乳鉢で粉砕し、PVA2%水溶液を8重量部添加し粒状、塊状のペレットを作製した。
【0037】
尚、原料として、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸マンガンを用いたが前記金属の酸化物に限らず、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、アルコキシドなどにより得られた粉末で、焼成後に目的の酸化物が得られるものであれば、同等の効果を期待することができる。
【0038】
このペレットを通気性多孔質焼結体容器を用い仮焼物の作製を行った。
【0039】
図1は、仮焼物の作製に使用する通気性多孔質焼結体容器の一例を示す。同図において、1は長方形の形状を有している通気性多孔質焼結体容器、2は容器の材質であるジルコニア成分、3は平均気孔率が約35%〜40%の通気孔を有するもので、空気、ガス等の気体源の通過を容易にし仮焼さらには本焼成に用いられるものである。しかし、上記容器であっても焼結性が不足し吸水性のある容器では、仮焼粉末さらには本焼成時に成型物のガスや粉末が容器内に残り安定した効果が得られない。
【0040】
この通気性多孔質焼結体容器として次の方法で作製した。まず純度99%で粒子径100μmのジルコニア原料粉末を用い、添加物として外割で酸化イットリウム2重量部さらに酸化珪素2重量部の成分比率の各原料を用いウレタン製ポットミル中に投入し、ウレタンボ−ルと水、さらに水ガラス少量を加え3時間湿式混合を行い均一に混合した。この混合物を容器の形状を有した石膏型に流し込み水分を除去した後、型より取り出し十分に乾燥させた。この成型体を高純度のアルミナ質平板上に置きカンタルヒ−タ−を用いた電気炉において焼成温度1550℃約2時間保持でジルコニア成分材質の通気性多孔質焼結体容器を得た。
本実施例では100μmのジルコニア成分材質の容器について説明したが他の成分材質および粒子径の大きな原料粉末を用いても同様な効果が得られる。
【0041】
仮焼物は粒状、塊状のペレットを図1に示す通気性多孔質焼結体容器を用い、仮焼温度800℃〜1220℃で1時間保持した。
【0042】
そして、この仮焼物を再度乳鉢で粉砕し上記ポットミルを用い粉砕混合し、粉砕粒子径0.2μm〜4.0μmになるように作製した。その後、分別された粉末原料にPVA5%水溶液を4重量部添加し、乳鉢で均一になるよう攪拌し、その後#320メッシュの篩いを用い整粒し、プレス圧1ton/cmで直径12mm、厚み7mmの円盤状に成型した。また機械的強度測定用試料として、厚み3.7mm、幅5mm、長さ25mmの成型体も同時に作製した。
【0043】
その後、前記図1に示す容器を用い、大気中にて焼成温度1180℃〜1420℃て約2時間保持で焼成しマイクロ波誘電体磁器を得た。得られた磁器の上下面を#200のダイヤモンドホイールを用い研磨しφ10mm×5mmtの測定用素子に加工した後、Hakki−Coleman法によりヒューレットパッカード社のネットワークアナライザーを用い測定周波数1〜7GHz、さらに恒温槽を用い、εr、Qf、およびτfと温度に対する変化特性を調べた(表5〜6の緒特性と対応)。機械的強度測定は島津製作所製抗折試験機を用いた。
【0044】
また、容量素子として利用するため、表3の試料、No22の誘電体磁器を厚み120μmに研磨し、その後Ag−Pt電極を形成後、(約10pFの容量素子を作製する。)ヒューレットパッカード社のLCRメーターを用い周波数1KHz〜0.1GHzの範囲内に変化させ、C(容量値)、Q(無負荷損失係数)、C−TC(容量値の温度特性)の温度に対する特性を調べた。
【0045】
組成成分を示す表1と、それに対応しての特性結果が表2に示されている。これらの表において、試料Noの欄に、無印番号のものが実施例を示し、*マークを付したものが範囲外の例である。
【0046】
【表1】
Figure 0003793485
【表2】
Figure 0003793485
試料No1は、TiOが44モル%であって、本発明の特定範囲外であって、他の成分のSrOとBaOとSrOとCaOはいずれも特定範囲内ではあり、焼成温度は最適温度である1300℃で焼成したが、その磁器は吸水性の有る焼結状態で電気特性および機械的強度も低いものであった。
【0047】
No2〜4は基本組成の成分量が特定範囲外であり、また、SrOとCaOの配合比率も範囲外であって、εr、Qfが低く、高温負荷寿命特性において著しい劣化の傾向がみられた。
【0048】
No5〜6およびNo8〜14の実施例、とくに、No8の試料は、配合原料を仮焼後の粉砕粒子径を0.5μm〜0.8μmに調整し、1300℃で焼成した。焼結体は表面が緻密で3μm〜4μmの均一な結晶粒子径を有していた。また、機械的強度は205MPaと高く、電気特性はεrが151、Qfが1750、τfが0ppm/℃と非常に優秀であり、高温負荷寿命特性においても劣化の現象は認められなかった。また、No12は、仮焼後の粉砕粒子径を0.5μm〜0.8μmに調整し、1320℃で焼成した。焼結状態も良好で機械的強度は200MPaと高く、電気特性はεrは163と高く、Qfは1800、τfは−7ppm/℃と負に小さく制御可能であった。また、結晶粒子径は3.5μm〜4.5μmであった。
【0049】
表3は、本発明の基本組成に対する添加物および添加量を示し、表4は諸特性を示す。表1,2と同様に、無印番号のものが実施例を示し、*マークを付したものが範囲外の例である。
【0050】
【表3】
Figure 0003793485
【表4】
Figure 0003793485
試料No8は、表1と2に示す添加物が添加されていない基本組成を有する本発明の実施例を示すもので、添加物成分配合の効果を示すために同表に挙げている。試料No16〜22は本発明に規定する範囲内で添加物を添加したもので、それぞれ、1270℃〜1300℃で焼成した磁器で平均結晶粒子径は約0.8μm〜3.5μmと均一であった。添加物が添加されていない試料No8と対比して、機械的強度は向上している。また電気特性のεrは安定し、Qfは著しく向上している。そしてτfは正負に自由に小さく制御することが可能で添加物の効果が認められた。
【0051】
図2は、添加物を添加した試料No22と添加物を添加していない試料No8との温度と周波数の変化に対するQf、τfの関係を示す。同図により明らかなように、試料No22は試料No8と対比して、−20℃〜80℃の温度範囲にわたって周波数が3GHzおよび7GHzにおいてもQfおよびτfの特性値の変化は小さく安定していることが認められる。
【0052】
また、図3は、試料No22を用い容量素子として作製した試料の温度と周波数の変化に対するC(容量値)、Q(無負荷損失係数)、C−TC(容量値の温度特性)の関係を示す。同図に示すように、試料No22は、1KHz〜0.1GHzの周波数の変化に対してC、Q、およびC−TCの変化は小さく、温度−20℃〜80℃の変化に対しても著しく安定した特性を示す。試料No23、24,27は、添加物が範囲外でいずれも特性的には悪いものであった。
【0053】
試料No25、26は、それぞれ、基本組成成分に、添加物としてMnO を0.2、Feを0.2、Coを0.5、Nbを2.0、Taを1.5重量部添加し、及び、MnO を0.1、Coを3.0、Nbを2.0重量部添加し、1320℃で焼成した。焼成磁器は平均結晶粒子径が約1.3μm〜2.0μmと小さく均一で、表4に示すように、機械的強度、電気特性εrは高く、Qfとτfは負に小さく制御でき著しく優れている。そして寿命特性として温度80℃、湿度85%、500時間のテスト後も、ほとんど変化は認められずマイクロ波誘電体磁器としてその優秀性が認められた。
【0054】
表5〜6は、本発明の磁器組成物の仮焼、焼成に使用する通気性多孔質焼結体容器と得られた磁器組成物の特性との関係を示す。これらの表において、焼成に使用する通気性多孔質焼結体容器が本発明の特定要件を満たす場合を試料Noに*マークを付していないNoによって示し、*を付した試料Noは、本発明の特定要件を満たしていない例を示している。具体的には、表1〜2に示す基本組成の代表例として試料No8の組成物を用い、本発明の通気性多孔質焼結体容器の気孔率と諸特性の関係で、仮焼用ペレット状成型体の大きさおよび仮焼温度と電気特性の関係を調べた。
【0055】
【表5】
Figure 0003793485
【表6】
Figure 0003793485
表5〜6より明らかなように、平均気孔率が特定範囲外の場合には、他の条件の如何に拘わらず得られた磁器は焼結状態のバラツキが大きく均一性に乏しい。
【0056】
本発明の実施例を示す試料No31〜35は、ペレット形状、仮焼温度、仮焼後の粉砕粒子径さらには焼成温度を特定範囲内で変化させた例であり、いずれも良好な磁器を得ることができ機械的強度は190MPa〜205MPaと高く電気特性も著しく安定した良好な値を示している。さらに、同じく試料No42、43は、表3〜4に示す試料No25の組成物を用いた例で、いずれも良好な電気特性を示す。
【0057】
これに対して、平均気孔率が規定範囲外の10%〜23%である通気性多孔質焼結体容器を使用した試料No28は、他の条件が満たされてはいても得られた磁器は焼結状態のバラツキが大きく均一性に乏しく量産化には不向きであった。
【0058】
また、試料No29は平均気孔率が規定範囲外の55%〜70%と大きい容器によって得られた磁器の機械的強度は低く、電気特性のεrは著しく低下の傾向を示した。試料No30は仮焼用のペレット形状が小さなものではεrが低下の傾向にあった。これはBi、Li成分の蒸発が不均一になったためと考えられる。また、No36〜41は、表より明らかなようにいずれかの条件が範囲外であるため、特性的には悪いものであった。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のBi、Li成分を含有する基本組成成分のマイクロ波誘電体磁器組成物は、それぞれの組成成分を特定範囲内で制御することによって、高周波領域におけるεrが145以上と高く、Qfが1700以上と大きく、τfをゼロから正負に自由に制御できる効果を有する。
【0060】
また、基本組成成分に、特定の添加物を添加することによって、さらに、εr、Qfが高く、τfをゼロから正負に自由に制御でき安定化できる。
【0061】
さらに、その製造過程における仮焼、焼成に際して、平均気孔率が25%〜50%の範囲内にあるアルミナもしくはアルミナ−ジルコン、ジルコニア、ムライト成分材質の通気性多孔質焼結体容器を用いることによってBi、Li成分の蒸発を最小限に抑え、良好な電気特性を有する均一なマイクロ波誘電体磁器を得ることができる。
【0062】
そして、本発明のBi、Li成分を含有する基本組成成分のマイクロ波誘電体磁器組成物は、寿命特性に優れているので多層回路基板、とくに、高周波領域において使用される共振器材料、フィルター材料、アイソレータ部品さらには容量素子材等として利用できる。
【0063】
また、機械的強度が高いので部品として、その製品形状を小さく設計でき、さらに軽薄化になると共に著しく厳しい環境下の使用状況にあっても、高い信頼性の部品を製作することが可能となり、今後の情報通信分野等の産業的分野での利用価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のマイクロ波誘電体磁器の仮焼、焼成に使用する通気性多孔質焼結体容器を示す。
【図2】 本発明のマイクロ波誘電体磁器の温度と周波数の変化に対するQf、τfの関係を示す。
【図3】 温度と周波数の変化に対するC、Q、C−TCの関係を示す。
【符号の説明】
1 通気性多孔質焼結体容器
2 ジルコニア成分
3 通気孔

Claims (3)

  1. 基本組成成分が、酸化物換算で、aTiO−bSrO−cBaO−dCaO−eBi−fLiO−gLn(LnはLa、Pr、Nd、Smのランタニド族元素から選択される1種または2種以上)で表され、
    a+b+c+d+e+f+g=100モル%とした場合に、a〜gのそれぞれが、モル%で、45≦a≦71、0.4≦b≦6、0.2≦c≦18、0.2≦d≦18、0.2≦e≦10、1≦f≦13、2≦g≦15の範囲内にあり、
    かつ、
    bSrOとcBaO、bSrOとdCaOのそれぞれの配合比率が、
    b:cが1:0.3〜1:20および
    b:dが1:0.3〜1:20であるマイクロ波誘電体磁器組成物。
  2. 基本組成成分100重量部に対して、添加物として酸化物換算でMnO 、Fe、Co、Nb、Taの中の1種または2種以上を合計を0.1〜10重量部含有する請求項1記載のマイクロ波誘電体磁器組成物。
  3. 基本組成が、酸化物換算で、aTiO−bSrO−cBaO−dCaO−eBi−fLiO−gLn(LnはLa、Pr、Nd、Smのランタニド族元素から選択される1種または2種以上)で表され、
    a+b+c+d+e+f+g=100モル%とした場合に、a〜gのそれぞれが、モル%で、45≦a≦71、0.4≦b≦6、0.2≦c≦18、0.2≦d≦18、0.2≦e≦10、1≦f≦13、2≦g≦15の範囲内にあり、
    かつ、
    bSrOとcBaO、bSrOとdCaOのそれぞれの配合比率が、
    b:cが1:0.3〜1:20および
    b:dが1:0.3〜1:20である混合物を、
    直径が1〜12mmの範囲内の大きさの粒状あるいは塊状のペレット状に成型し、
    平均気孔率が25%〜50%の範囲内にあるAlあるいはAl−ZrSiO、ZrO、Al−SiOの中の1種または2種以上の複合体の通気性多孔質焼結体容器を用い温度900℃〜1200℃の範囲内で仮焼し、
    得られた仮焼物を、0.3μm〜2.0μmの平均粒子径に粉砕調整して、仮焼粉末を調製し、
    その仮焼粉末に有機バインダーを添加し成型し、前記通気性多孔質焼結体容器を用い1200℃〜1400℃の温度で焼成するマイクロ波誘電体磁器の製造方法。
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