JP3793122B2 - カラー受像管用マスク用材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はカラーテレビやコンピュータのカラー表示装置などのカラー受像管用のマスク用材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カラーテレビやコンピュータのカラー表示装置などのカラー受像管には、所定の蛍光体に電子ビームが照射されるようにシャドウマスクやアパーチャーグリルのようなマスクが用いられている。従来、これらのマスクは湾曲したカラー受像管に装着して用いられていたが、湾曲したカラー受像管は照明などの外部光線の乱反射により目が疲労しやすく、またコーナー部の画像に歪みが生じるなどの問題があり、カラー受像管のフラット化が望まれている。
【0003】
カラー受像管において、鮮明な画像を得るためにはマスクに穿設した孔やスリットの位置がずれることなく、電子ビームを蛍光体面上に正確に照射できることが要求される。従来の湾曲したカラー受像管に用いられるマスクの場合は、曲率をもたせているためマスク中央部にたるみが生じることがなく、寸法の安定性が得られやすかった。しかし、カラー受像管をフラット化するとマスク中央部にたるみが生じやすくなり、その結果として画像に歪みが生じてしまう問題がある。この問題を解消するためには、マスクに中央部から外周部にかけて張力を付してマスクのフレームに取り付け、マスク中央部にたるみを生じることのない、いわゆる展張型マスクとする必要がある。
【0004】
そのため、フラット型のカラー受像管に用いられる展張型のマスク用材料は、高い張力を負荷した状態でフレームに溶接して取り付けられるため、高い引張強度を有している必要がある。さらに、フレームに溶接された後、マスク面を黒化する熱処理が施されるが、黒化した後もマスク中央部にたるみが生じないように張力が負荷された状態を維持する必要がある。そのため、黒化の熱処理による回復を回避するためクリープ伸びが小さいことも必要とされる。またさらに、カラー受像管は電子銃と電子ビームを映像に変換する蛍光体から構成されており、電子ビームが地磁気により偏向されないように、受像管の内部は磁気的にシールドされている必要がある。マスクは磁気シールド材としての機能も兼ね備えている必要があり、マスク用材料は磁気特性としての残留磁束密度Brが大きく、保磁力Hcが小さい、すなわち残留磁束密度Brと保磁力Hcとの比(Br/Hc)が大きいことも必要とされる。
【0005】
従来、引張強度を向上させるべく、CやNで固溶強化した低炭素鋼を用いることが試みられているが、鋼中にCやNの量が増加すると炭化物や窒化物が増加し、磁壁の移動が妨げられ、磁気特性が劣化する。また、クリープ伸びを小さく抑制させることを目的として鋼中に炭化物などを析出させる方法もあるが、析出物の殆どは粒径がμmのオーダーで大きく、磁壁の移動を妨げ、磁気特性を劣化させる。一方、熱による寸法変化の小さいFe−Ni系インバー合金をマスク材に用いることにより、マスクに張力を負荷した状態でフレームに取り付ける際の張力を小さくし、クリープ強度も小さくすることも試みられているが、インバー合金は高価であり、コスト的に不利にならざるを得ない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、引張強度が高く、クリープ伸びが小さく、且つ磁気特性に優れたカラー受像管用のマスク用材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明のカラー受像管用マスク用材料の製造方法は、Tiが0.03〜0.18質量%、Cが0.005〜0.04質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼片を、熱間圧延し酸洗した後、一次冷間圧延し次いで700〜900℃で中間焼鈍し、さらに二次冷間圧延した後、500〜650℃で時効処理することを特徴とする、カラー受像管用マスク用材料の製造方法、またはTiが0.03〜0.18質量%、Cが0.005〜0.04質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつTiとCの総含有量に対するC含有量の割合が20%以下である鋼片を、熱間圧延し酸洗した後、一次冷間圧延し次いで700〜900℃で中間焼鈍し、さらに二次冷間圧延した後、500〜650℃で時効処理することを特徴とする、カラー受像管用マスク用材料の製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本実施形態においては、TiおよびCを、TiとCの総含有量に対するC含有量の割合が20%以下となるように添加した、C:0.005〜0.04質量%、Mn:0.5質量%以下、Si:0.05質量%以下、Ti:0.03〜0.18質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる低炭素鋼を熱間圧延し、酸洗後一次冷間圧延し、次いで中間焼鈍を施し、さらに二次冷間圧延した後に時効析出処理を施して、鋼中に微細なTiC炭化物を時効析出させることにより、優れた引張強度と小さいクリープ伸び、および好適なBr/Hcを得ることが可能となった。以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0009】
本発明のカラー受像管用マスク用材料としては、真空脱ガス法を用いて脱炭および脱窒処理して鋼中の炭化物および窒化物を減少させ、熱間圧延した低炭素鋼が好ましい。次に本発明のカラー受像管用マスク用材料に適用する低炭素鋼に含有される元素の種類、およびそれらの含有量の限定理由について説明する。
【0010】
Cは鋼中に固溶するとともに、Tiと結合して微細なTiC炭化物を形成させることにより材料の硬さを増加させ、引張強度を向上させ、クリープ伸びを小さく抑制するので、0.005〜0.04質量%の範囲で含有させる必要があるが、冷間圧延後の鋼板中にC量が多すぎると炭化物が増加し、マスクに孔やスリットを穿設するために必要なエッチング特性を劣化させたり、磁壁の移動が妨げられ、また結晶粒の成長が抑制されて磁気特性を劣化させる。そのため、含有量の上限を0.04質量%とすることが好ましい。一方、含有量が0.005質量%未満であると十分な量のTiCが生成せず、引張強度を向上させ、クリープ伸びを小さく抑制するには不十分である。
【0011】
Mnは鋼中のSと結合してMnSとして固定し、熱間圧延における赤熱脆性を防止するために必要な元素であるが、磁気特性を向上させるためには含有量が少ないほど好ましく、0.5質量%を含有量の上限とする。
【0012】
Siは黒化処理により生成する黒化皮膜の密着性を劣化させるので0.3質量%を含有量の上限とする。Sは結晶粒成長の面から含有量は少ないほうが好ましく、0.05質量%を上限とする。Nについても同様で、含有量は少ないほうが好ましく、0.05質量%を上限とする。
【0013】
TiはCと結合して微細なTiC炭化物を時効析出させるのに必要な元素であり、含有量が増加するほど時効処理におけるTiCの析出量が増加し、引張強度が増大し、クリープ伸びが減少するが、0.18質量%を超えて含有させると、磁壁の移動が妨げられて磁気特性が劣化するようになる。一方、0.03質量%未満であると十分な引張強度が得られず、またクリープ伸びを小さく抑制することが困難である。
【0014】
また、上記のCおよびTiの好適な含有量の範囲内で、CとTiの総和の含有量に対するC含有量の割合が20%以下であることが好ましい。CとTiの総和の含有量に対するC含有量の割合が20%を超えると、TiC以外の粗大な炭化物が生成し、エッチング特性や磁気特性を劣化させる。
【0015】
次に、本発明の実施形態に係るカラー受像管用マスク用材料としての薄鋼板の製造方法について説明する。
真空溶解または真空脱ガス法を用いて溶製された上記の化学組成を有する低炭素鋼を熱間圧延した後、酸洗して熱間圧延工程で生じた鋼板表面の酸化皮膜を除去する。引き続き一次冷間圧延して0.2〜0.5mmの厚さの板厚とする。次いで700〜900℃で中間焼鈍して軟化処理を施す。焼鈍温度が700℃未満であると十分に軟化せず、その後に行う二次冷間圧延が極めて困難になる。一方、900℃を超える温度で焼鈍すると、その後二次冷間圧延し、次いで時効析出処理しても所要の引張強度が得られない。焼鈍法としては箱型焼鈍または連続焼鈍のいずれの焼鈍方法も適用することができる。
【0016】
次いで二次冷間圧延し、マスク材料としての所定の板厚である0.05〜0.2mmの厚さの板厚とする。その後、500〜650℃で数十秒から数時間の時効析出処理を施す。時効析出温度が500℃未満であるとTiC炭化物が十分に析出せず、必要な引張強度が得られない。一方、650℃を超える温度で時効析出処理を行うと過時効となり、炭化物が粗大化し、引張強度が低下する。時効析出処理は加熱温度および加熱時間に応じて、箱型焼鈍炉または連続焼鈍炉のいずれを用いても差し支えない。
【0017】
上記のようにして得られるカラー受像管用マスク用材料は、そのまま通常の湾曲したカラー受像管の形状に合わせてプレス成形した後フレーム枠に固着して用いることもできるし、後記するようにフラットな画面を有するカラー受像管に用いる展張型マスクとして用いることもできる。この場合、マスクは張力を負荷させた状態でフレーム枠に固着される。本発明により得られたカラー受像管用マスク用材料が展張型マスクとして用いられる場合、実際には400N/mm2を超える張力が負荷された状態になっているが、試験的には300N/mm2の負荷応力をかけ、460℃で1時間保持した時の伸びが0.3%以下であれば受像管に使用してもマスク材に弛みが生じるようなことはない。
【0018】
このような理由から、本発明により得られたカラー受像管用マスク用材料は500N/mm2以上の引張強度を有していることが必要である。引張強度が500N/mm2未満であると、上記のように300N/mm2の負荷応力をかけ、460℃で1時間保持した時の伸びが0.3%を超え、受像管に使用した際にマスク材に弛みが生じるようになる。引張強度の上限は特に規定するものではないが、900N/mm2以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明により得られたカラー受像管用マスク用材料は、磁気シールド材としての機能も兼ね備えている必要があり、鋼中の析出物を磁壁の移動を妨げて磁気特性を劣化させることのないnmのオーダーの微細析出物とする必要がある。本発明のカラー受像管用マスク用材料において時効析出するTiC炭化物は微細析出物ではあるが、磁気特性としての残留磁束密度Brが大きく、保磁力Hcが小さい、すなわち残留磁束密度Brと保磁力Hcとの比を示すBr(T)/Hc(A/m)は0.0025以上であることが好ましい。Br(T)/Hc(A/m)が0.0025未満であると電子ビームが地磁気により偏向し、歪みのない鮮明なカラー映像が得られない。
【0020】
次に、上記カラー受像管用マスク用材料によるカラー受像管用マスク製造方法について説明する。上記のようにして得られる本発明のカラー受像管用マスク用材料の両面に、水溶性カゼインレジストを塗布し、乾燥後、マスク材料の両面のレジストを一対の表裏のパターンを描いたガラス乾板を用いて、レジストをパターニングする。次いで露光、硬膜処理、ベーキング処理を行い、その後パターニングされたレジストの両面に、液温:60℃、比重:48°Beの塩化第二鉄溶液をエッチング液としてスプレイから噴霧してエッチングを行う。エッチング後水洗し、アルカリ溶液によってレジストを剥離し、洗浄、乾燥してカラー受像管用マスクとする。
【0021】
次に、上記カラー受像管用マスクをフレーム枠に取り付けた状態を説明する。本発明のカラー受像管用マスクは、前記したように、そのまま通常の湾曲したカラー受像管の形状に合わせてプレス成形した後フレーム枠に固着して用いることもできるし、以下に示すようにして、フラットなカラー受像管に用いる展張型マスクとして用いることもできる。この場合、マスクは張力を負荷させた状態でフレーム枠に固着される。この固着方法としては種々の方法があるが、溶接法がもっともよく用いられる。固着に際しては、まずフレーム枠の上下のフレームの中心部を内側に強制的に若干撓ませておき、この状態でマスクをフレームに溶接して固着する。そして、内側に撓ませておいた上下のフレームから強制的に負荷した力を除去して元の形状に戻すと、マスクに上下方向の張力が負荷された状態になる。
【0022】
また、マスクがマスク材にほぼ円形のドット孔を穿設してなるシャドウマスクの場合は、上記のフレーム枠にマスクを固着する際に、マスクの上下方向に負荷させる張力よりも小さい張力をマスクの左右方向に負荷させることも好ましい。マスクの上下方向のみならず左右方向にも張力を負荷することにより、左右方向に生じることがあるしわの発生を防止することができる。しかし、マスクの左右方向に必要以上の張力を負荷すると、穿設したドット孔の変形をもたらすので好ましくない。
【0023】
【実施例】
表1に示す化学組成を有する低炭素鋼を真空脱ガスして溶製したスラブを熱間圧延し、板厚:2.5mmの熱延板とした。これらの熱延板を硫酸酸洗した後、一次冷間圧延して板厚:0.3mmの厚さの冷延板とした。
【0024】
【表1】
【0025】
次に、これらの冷延板を表2に示す条件で中間焼鈍を施し、次いで二次冷間圧延して板厚:0.1mmの厚さの冷延板とした後、表2に示す条件で時効析出処理を施し、カラー受像管用マスク材料用供試材とした。
【0026】
このようにして得られた各マスク材料用供試材の引張強度を、テンシロンを用いて測定した。500N/mm2以上を良好な範囲とした。また、簡易型のエプスタイン式磁気測定装置を用い、10Oeの磁界をかけて残留磁束密度Br(T)と保持力Hc(A/m)を測定し、Br(T)/Hc(A/m)を求め、0.0025以上を良好とした。さらに、クリープ試験機(東海製作所製)を用いて負荷応力300N/mm2を負荷し、大気中で460℃で1時間保持した際のクリープ伸びを測定し、0.3%以下を良好とした。供試材の特性の測定結果を表3に示す。表3において、C4は二次冷間圧延ができず、評価ができなかった。
【0027】
表3に示すように、本発明のカラー受像管用マスク材料は、引張強度、Br/Hc、クリープ伸びがいずれも好適範囲にあり、フラットな展張型カラー受像管用マスクとしてマスクが弛むことなく適用可能であり、このマスクを組み込んだ本発明のカラー受像管は、電子ビームが地磁気により偏向することがなく、歪みのない鮮明なカラー画像が得られることが分かる。
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【発明の効果】
本発明により得られたカラー受像管用マスク材料は、TiとCを特定範囲の含有量で、かつTiとCの総含有量に対するC含有量の割合が20%以下となるように鋼中に含有させて熱処理によりすることにより、鋼中に微細なTiC炭化物を時効析出させているため、優れた引張強度と小さく抑制された優れたクリープ伸び、および好適なBr/Hcが得られる。そのため、この材料を、張力を負荷した状態でフレームに固着した本発明のフラットな展張型のカラー受像管用マスクは、カラー受像管に組み込んでも、使用中にマスクが弛むことがない。またこのカラー受像管用マスクを組み込んだ本発明のカラー受像管は、電子ビームが地磁気により偏向することがなく、歪みのない鮮明なカラー画像が得られる。
Claims (2)
- Tiが0.03〜0.18質量%、Cが0.005〜0.04質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼片を、熱間圧延し酸洗した後、一次冷間圧延し次いで700〜900℃で中間焼鈍し、さらに二次冷間圧延した後、500〜650℃で時効処理することを特徴とする、カラー受像管用マスク用材料の製造方法。
- Tiが0.03〜0.18質量%、Cが0.005〜0.04質量%、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつTiとCの総含有量に対するC含有量の割合が20%以下である鋼片を、熱間圧延し酸洗した後、一次冷間圧延し次いで700〜900℃で中間焼鈍し、さらに二次冷間圧延した後、500〜650℃で時効処理することを特徴とする、カラー受像管用マスク用材料の製造方法。
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