JP3790518B2 - 流動性向上剤および燃料油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料油用流動性向上剤に関する。詳しくは、ワックス含有燃料油に有用な低温流動性向上剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油中間留出油、例えば、ディーゼル燃料油、A重油等は、冬期あるいは寒冷地において低温(例えば0℃〜−30℃)にさらされると、その中に含まれるワックスが析出し、配管系のフィルターを目詰まらせたり、又、配管系内にて固化することにより不具合が発生している。
【0003】
これらの低温での流動性に関する問題点を解決するために、従来、▲1▼エチレン−飽和カルボン酸ビニルエステル系共重合体を基油に添加する方法が数多く提案されている(例えば、特許文献−1〜3参照)。
また、これらの低温流動性をより向上させるものとして、▲2▼エチレン−カルボン酸ビニル共重合体の不飽和ジカルボン酸エステルグラフト付加物及びそれら付加物とエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体を併用して添加する方法(例えば、特許文献4および5参照)、▲3▼エチレン−酢酸ビニル−2-エチルヘキサン酸ビニル共重合体(例えば、特許文献−6〜8参照)などが提案されている。
しかし、これら▲1▼、▲2▼は、ワックスの析出温度がブロードな従来の硫黄含量が高い燃料油に対しては低温流動性を向上させる効果を有しているものの、ワックスの析出温度がシャープな低硫黄燃料油に対しては低温流動性を向上させるのに必要な添加量が著しく増大し、その結果基油への溶解性が不十分になり、常温でフィルターの目詰まりを起こす問題(通油性)が生じる。
▲3▼は、▲1▼、▲2▼と比較してワックスの析出温度がシャープな低硫黄燃料油に対する低温流動性向上効果は改善されているものの、いまだ満足のいくものではなく、とりわけ極寒冷地で用いられる曇り点が低い燃料油に対する効果が不十分である。
近年、環境問題から燃料油中の硫黄含量の低減が望まれており、この低硫黄燃料油に対して少量の添加で低温流動性向上効果を発現する流動性向上剤の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献−1】
特公昭39−200692号公報
【特許文献−2】
特公昭48−23165号公報
【特許文献−3】
特開昭59−136391号公報
【特許文献−4】
特公昭58−39472号公報
【特許文献−5】
特開平10−245574号公報
【特許文献−6】
特表平10−506134号公報
【特許文献−7】
特表2001−512780号公報
【特許文献−8】
特表2001−512781号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは鋭意検討した結果、ワックスの析出温度がブロードな燃料油のみならずワックスの析出温度がシャープな低硫黄燃料油とりわけ曇り点が低い燃料油に対しても、少量の添加で低温流動性を大幅に向上でき、且つ、基油への溶解性が良好で通油性の問題のない流動性向上剤を見いだし本発明に至った。
すなわち本発明は、エチレン(a)から誘導される単位と、炭素数5〜24の分岐脂肪族飽和モノカルボン酸のビニルエステル(b)から誘導される単位を必須構成単位とする共重合体(A)からなり、(A)中の(a)のモル%が80〜88モル%であり、(a)の重量%が40〜57重量%であり、(b)のモル%が4〜20モル%であり、かつ1H-NMRで測定される(A)の分岐度が0.3〜2.2%であることを特徴とする燃料油用流動性向上剤;並びに該流動性向上剤を含有してなる燃料油添加剤組成物、並びに燃料油組成物である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明において、エチレン(a)とともに共重合体(A)を構成する炭素数5〜24(炭素数はカルボニル炭素を含む。以下同じ)の分岐脂肪族飽和モノカルボン酸のビニルエステル(b)としては、2級アルキル基を有する炭素数5〜24の脂肪族飽和モノカルボン酸のビニルエステル(b1)および3級アルキル基を有する炭素数5〜24の脂肪族飽和モノカルボン酸のビニルエステル(b2)などが挙げられる。
(b1)としては、イソ吉草酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、イソラウリン酸ビニル、イソステアリン酸ビニル、イソテトラコサン酸ビニルなどが挙げられる。
(b2)としては、ネオペンタン酸ビニル、ネオノナン酸ビニル、ネオデカン酸ビニル、ネオウンデカン酸ビニルなどが挙げられる。
これら(b)のうち好ましいものは(b2)であり、特に好ましいものは(b2)のうちの炭素数8〜15のものである。
【0007】
共重合体(A)中には、(a)および(b)とともに、さらに炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のビニルエステル(c)および/またはその他の単量体から誘導される単位を含むこともできる。より低温流動性が向上する点で(c)から誘導される単位を含むことが好ましい。
(c)としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニル、イソブタン酸ビニルなどが挙げられ、これらのうち酢酸ビニルが好ましい。
【0008】
(d)としては、炭素数3〜40の1−オレフィン(d1)、不飽和カルボン酸ハイドロカルビルエステル(d2)およびその他のビニル単量体(d3)が挙げられる。
(d1)としては、直鎖または分岐の1−オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、1-オクテン、1-ドデセン、1-テトラデセンおよび1-オクタデセンなどが挙げられる。
(d1)のうち好ましいものは、炭素数3〜14の1−オレフィンであり、さらに好ましいものは、プロピレン、1-ブテンおよび4-メチルペンテン-1である。
(d2)としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル{不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、(イソ)クロトン酸などのモノカルボン酸;およびフマル酸、マレイン酸、イタコン酸などのジカルボン酸]の炭素数1〜24の直鎖または分岐を含むアルキル(メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、2-ヘチルヘキシル、デシル、ドデシル、ステアリル、ベヘニルなど)モノもしくはジエステル};不飽和カルボン酸アリールエステル[前述と同様の不飽和カルボン酸の炭素数6〜12のアリール(フェニル、ナフチルなど)モノもしくはジエステル];不飽和カルボン酸アラルキルエステル[前述と同様の不飽和カルボン酸の炭素数7〜11のアラルキル(ベンジル、フェニルエチルなど)モノもしくはジエステル]などが挙げられる。
(d2)のうち、好ましいものは不飽和カルボン酸アルキルエステルであり、さらに好ましいものはアルキル基の炭素数が1〜12の不飽和カルボン酸アルキルエステルである。
その他のビニル単量体(d3)としては、
炭素数6〜18の脂環式炭化水素系ビニル単量体[シクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ノルボルネン、ピネン、インデン、ビニルシクロヘキセンなど];ハイドロカルビルアルケニルエーテル[炭素数1〜12の直鎖又は分岐アルキル基を有するアルキルアルケニル(アルケニル基の炭素数2〜4)エーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、オクチルアリルエーテル、ドデシルアリルエーテルなど)、アリールビニルエーテル(フェニルビニルエーテルなど)];炭素数8〜18の芳香族炭化水素系ビニル単量体[スチレン、ビニルトルエンなど];
炭素数4〜12のビニルケトン類[メチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、フェニルビニルケトンなど];炭素数4〜12のアルカジエン[ブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,7-オクタジエンなど];ハロゲン原子含有ビニル単量体[塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニルなど];アミド基もしくはイミド基含有ビニル単量体{非置換もしくはアルキル(炭素数1〜4)置換(メタ)アクリルアミド[(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-i-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドなど]、N-ビニルカルボン酸アミド[N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなど]、および非置換もしくはハイドロカルビル(炭素数1〜12)置換マレイミド[マレイミド、フェニルマレイミド、エチルマレイミド、ドデシルマレイミドなど]など};ヒドロキシル基含有ビニル単量体{ヒドロキシル基含有芳香族ビニル単量体[p-ヒドロキシスチレンなど]、ヒドロキシアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど]、およびビニルアルコール(カルボン酸ビニル単位の加水分解により形成される)、炭素数3〜12のアルケノール[アリルアルコール、(イソ)プロペニルアルコール、1-オクテノールなど]など};1〜3級アミノ基含有単量体{炭素数2〜6のアルケニルアミン[ビニルアミン、アリルアミン、クロチルアミンなど]、非置換またはモノ−もしくはジ−アルキル(炭素数1〜6)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレートなど]、非置換またはモノ−もしくはジ−アルキル(炭素数1〜6)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリルアミド[アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなど]、非置換またはモノ−もしくはジ−アルキル(炭素数1〜6)アミノ基含有芳香族ビニル単量体[N,N-ジメチルアミノスチレンなど]、含窒素複素環含有ビニル単量体[ビニルピリジン、ビニルカルバゾールなど]など};ニトリル基またはニトロ基含有ビニル単量体[(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、ニトロスチレンなど];エポキシ基含有ビニル単量体[グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテルなど]が挙げられる。
【0009】
(A)を構成する単量体におけるエチレン(a)のモル%は、通常80〜88モル%、好ましくは81〜87モル%、さらに好ましくは82〜87モル%、特に好ましくは82〜86モル%である。
80モル%未満では低温流動性が悪化し、88モル%を超えると低温流動性が悪化するとともに通油性も低下する。
エチレン(a)の重量%は、通常40〜57重量%、好ましくは43〜56重量%、さらに好ましくは44〜55重量%である。
40重量%未満または60重量%を超えると低温流動性が悪化する。
(b)のモル%は、通常4〜20モル%、好ましくは6〜18モル%、さらに好ましくは7〜15モル%である。
(b)の重量%は、通常20〜60重量%、好ましくは26〜55重量%、さらに好ましくは35〜51重量%である。
(c)のモル%は、通常16モル%以下、好ましくは1〜13モル%、さらに好ましくは3〜11モル%である。
(d)のモル%は、通常5モル%以下、好ましくは3モル%以下である。
【0010】
(A)の分岐度は、通常0.3〜2.2%、好ましくは0.3〜2.1%、さらに好ましくは0.4〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.8%である。
0.3%未満では燃料油への溶解性が不足するため通油性が悪化し、2.2%を超えると低温流動性が不十分になる。
尚、分岐度とはエチレン(a)および他の単量体のビニル基由来のメチレン基、メチン基の総和に対する枝分かれによって生じたメチル基の比率であり、エチレンおよびビニル基由来のメチレン基とメチン基の総和100個に対する分岐由来のメチル基の個数である。
分岐度は1H-NMRによって求めることができる。たとえばエチレンと酢酸ビニルの共重合体の場合は、0.8〜0.9ppmのピーク強度[1](分岐メチル基由来)と、1.0〜1.9ppmのピーク強度[2](エチレンおよび酢酸ビニルのビニルメチレン由来)と、2.0ppm付近のピーク強度[3](酢酸ビニルのアセチルメチル基由来)と4.7〜5.0ppmのピーク強度[4](酢酸ビニルのビニルメチン由来)から下式のよって算出することができる。
分岐度(%) = [1]/3÷{([2]−[1]/3)/2+[1]/3+[4]}×100
酢酸ビニル以外の脂肪酸ビニルを含有する場合は、脂肪酸基由来のピークが[1]および[2]と重なる場合がある。その場合は脂肪酸基のカルボニル基の隣の炭素に結合しているプロトンのピークの強度[5](2.0〜2.3ppm)および4.7〜5.0ppmのピーク強度[4](脂肪酸ビニルのビニルメチン由来)から脂肪酸ビニルの含有量を求め、そのモル比から[1]および[2]と重なっている脂肪酸基の吸収を減じて算出することができる。
エチレン以外の1-オレフィンを含有している場合は、1H-NMRでは分岐と1-オレフィンの区別が困難なので、重合時の仕込量と反応率から1-オレフィンの共重合比を算出し、そのモル比から[1]および[2]と重なっている1-オレフィン側鎖の吸収を減じて算出することができる。
【0011】
(A)の重量平均分子量(以下、Mwと略記)は、好ましくは3,000〜50,000であり、さらに好ましくは4,000〜30,0000、特に好ましくは5,000〜20,000である。3,000以上にすることで低温流動性が向上し、50,000以下にすることで基油への溶解性が向上する。
(A)の数平均分子量(以下、Mnと略記)は、好ましくは1,000〜30,000であり、さらに好ましくは2,000〜20,000、特に好ましくは2,500〜10,000である。1,000以上にすることで低温流動性が向上し、30,000以下にすることで基油への溶解性が向上する。
尚、本発明においてMnおよびMwは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーによる測定値であり、ポリスチレン換算により測定した分子量である。
【0012】
本発明の共重合体(A)は、公知の方法によって得ることができる。例えば前記ビニル単量体類を溶剤中もしくは無溶剤下にラジカル重合することにより得られる。この場合、重合開始剤としては、アゾ系開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなど)や過酸化物系開始剤(例えば、ジイソプロピルパーカーボネート、ベンゾイルパーオキシド、クミルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、ジt-ブチルパーオキサイドなど)を用いることができる。
溶剤としては、脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素[トルエン、キシレン、エチルベンゼン、炭素数9の芳香族混合溶剤(トリメチルベンゼン、エチルトルエンなどの混合物)、炭素数10〜11の芳香族混合溶剤など]、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)などが挙げられる。これらの重合溶剤は重合完了後留去することもできるが、そのまま重合体(A)を溶液として使用することもできる。
分岐度を小さくするためには、重合温度を低く(通常30〜200℃、好ましくは30〜160℃)するとともに、連鎖移動剤を併用することも有効である。連鎖移動剤としては公知のメルカプタン類(ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなど)、2級アルコール(イソプロピルアルコール、s-ブタノールなど)、芳香族化合物(トルエン、キシレン、クメンなど)、アルデヒド類(プロピオンアルデヒドなど)などが使用できる。
【0013】
なお、本発明において(A)は、必ずしもそれを構成する単量体そのものを共重合する必要はなく、目的の共重合体(A)に誘導可能なモノマーを重合した後、さらに反応することで目的の(A)に誘導することもできる。例えば、エチレンと酢酸ビニルを上記公知の方法で重合した後、これを加水分解し、さらに炭素数5〜24の分岐脂肪族カルボン酸、その酸ハライドまたは酸無水物を反応せしめて目的のエチレンと炭素数5〜24の分岐脂肪族カルボン酸のビニルエステルからなる共重合体に誘導してもよい。
また、ブタジエンを共重合した後、それに水素添加してエチレン単位としてもよく、酢酸ビニルを共重合した後、エステル交換反応により分岐脂肪族カルボン酸ビニル単位に誘導してもよい。
【0014】
(A)の具体例としては以下のものなどが挙げられる。
▲1▼エチレン/ネオデカン酸ビニル/酢酸ビニル(モル比85/10/5)共重合体
▲1▼エチレン/ネオノナン酸ビニル/酢酸ビニル(モル比86/10/4)共重合体
▲3▼エチレン/2-エチルヘキサン酸ビニル/酢酸ビニル(モル比85/11/4)共重合体
▲4▼エチレン/ネオデカン酸ビニル/酢酸ビニル(モル比87/11/2)共重合体
▲5▼エチレン/ネオウンデカン酸ビニル/イソブタン酸ビニル(モル比84/8/8)共重合体
【0015】
本発明の燃料油用添加剤組成物(以下、添加剤組成物と略記する)は、上記の(A)並びに他の添加剤および/または希釈剤(C)からなる。
他の添加剤としては、アルキル基の炭素数10〜18の不飽和カルボン酸アルキルエステルから誘導される単位を必須構成単位とする共重合体(B)が挙げられる。蒸留残さを含有する燃料油たとえばA重油などにおいて、(B)を含有させたほうが低温流動性が向上する点で好ましい。
(B)を構成する不飽和カルボン酸アルキルエステルの炭素数10〜18のアルキル基としては、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基など;不飽和カルボン酸としては(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
これらのうち好ましいものは、アルキル基の炭素数10〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエスエル、マレイン酸ジアルキルエステルおよびフマル酸ジアルキルエステルであり、さらに好ましいものは、アルキル基の炭素数10〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエスエルであり、特に好ましいものは、アルキル基の炭素数14〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエスエルである。
(B)中には、上記アルキル基の炭素数10〜18の不飽和カルボン酸アルキルエステルとともに、他の単量体を共重合することもできる。
他の単量体としては、アルキル基の炭素数1〜9(メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、2-エチルヘキシル基など)の不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸など]アルキルエスエル;アルカン酸ビニル(酢酸ビニル、イソブタン酸ビニルなど);芳香族炭化水素系ビニル単量体[スチレン、ビニルトルエンなど];並びに、前述の(b)、(c)および(d)として挙げた単量体が含まれる。
これらのうち好ましいものは、アルキル基の炭素数1〜9の不飽和カルボン酸アルキルエスエル、アルカン酸ビニルおよび芳香族炭化水素系ビニル単量体であり、さらに好ましいものは、アルキル基の炭素数1〜4の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニルおよびスチレンであり、特に好ましいものは、(メタ)アクリル酸メチルエステルおよびスチレンである。
【0016】
(B)中のアルキル基の炭素数10〜18の不飽和カルボン酸アルキルエステルの共重合比は、全単量体の重量に基づいて、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは70〜90重量%である。
(B)の重量平均分子量は、通常5,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜600,0000、さらに好ましくは50,000〜500,000である。
【0017】
(B)の具体例としては、以下のものなどが挙げられる。
▲1▼メタアクリル酸テトラデシルエステル/メタアクリル酸ペンタデシルエステル共重合体
▲2▼メタアクリル酸ヘキサデシルエステル/メタアクリル酸オクタデシルエステル共重合体
▲3▼炭素数12〜18のアルカノールの混合物のメタアクリル酸エステル/メタアクリル酸メチルエステル共重合体
▲4▼炭素数12〜18のアルカノールの混合物のメタアクリル酸エステル/メタアクリル酸メチルエステル/スチレン共重合体
▲5▼炭素数12〜18のアルカノールの混合物のメタアクリル酸エステル/メタアクリル酸メチルエステル/スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体
【0018】
添加剤組成物において、(B)を使用する場合の(A)と(B)の重量比は、好ましくは99:1〜70:30、さらに好ましくは98:2〜80:20、特に好ましくは97:3〜90:10である。(B)の比率を1%以上にすることで、より少量の添加剤で低温流動性が向上できる点で好ましく、(B)の比率を30%以下にすることで常温でのフィルター通油性も良好である。
【0019】
添加剤組成物中に含まれる他の添加剤として、さらに公知の他の添加剤たとえば、ワックス分散剤、潤滑性向上剤(オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸およびそのグリセリンエステルなど)、防錆剤(脂肪族アミンおよびその塩、有機リン酸エステル、有機スルホン酸塩など)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール類、サリチリデン誘導体など)、セタン価向上剤(アルキル硝酸エステル類、アミルナイトレート、イソプロピルナイトレートなど)、清浄分散剤、燃焼性向上剤、導電性付与剤、およびその他の流動性向上剤[公知のエチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/α-オレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル/ネオデカン酸ビニル共重合体(但し、共重合比および/または分岐度が(A)の範囲以外のもの)、ポリオールの脂肪酸エステルなど]などを含有させることもできる。
他の添加剤のうちの(B)以外の添加剤の使用量は、燃料油組成物の全重量に基づいて、通常0〜10,000ppm、好ましくは0〜5,000ppmになるような量である。
【0020】
本発明の添加剤組成物は、希釈剤(C)を含有することができる。
あらかじめ希釈剤で希釈しておくことで、燃料油などに添加する際に容易に溶解するようになり、低温流動性が発現しやすくなる点で好ましい。
(C)を含有する添加剤組成物は、(A)または(B)を(C)の存在下に重合させて、(C)で希釈された状態で得られたもの、または重合後に(C)で希釈したものであってもよい。また、上記のその他の添加剤はいずれの時点で添加してもよい。
(C)としては、脂肪族溶剤[炭素数6〜18の脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、デカリン、灯油など)];芳香族溶剤{炭素数7〜15の芳香族溶剤[トルエン、キシレン、エチルベンゼン、炭素数9の芳香族混合溶剤(トリメチルベンゼン、エチルトルエンなどの混合物)、炭素数10〜11の芳香族混合溶剤など];および後述の燃料油など挙げられる。
これらのうち好ましいものは炭素数7〜15の芳香族溶剤であり、特に好ましいものは炭素数9の芳香族混合溶剤および炭素数10〜11の芳香族混合溶剤である。
添加剤組成物中の(C)の比率は、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは10〜45重量%、特に好ましくは20〜35重量%である。(C)の比率が高いほうが燃料油などに容易に溶解する点で好ましいが、あまり多いのは経済的ではない。
添加剤組成物の曇り点は、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは−20〜75℃、特に好ましくは0〜70℃、とりわけ好ましくは10〜65℃である。曇り点を80℃以下にすることで、燃料油などの基油への溶解が容易になる。
なお、添加剤組成物の曇り点は、加温して均一溶解した後、室温に静置して徐々に冷却し、溶液が白濁し始めるる温度をもって曇り点とする。
また、添加剤組成物の100℃における動粘度は、通常200mm2/s以下、好ましくは5〜80mm2/s、さらに好ましくは10〜60mm2/sである。動粘度を200mm2/s以下にすることで、燃料油などの基油への溶解が容易になる。
なお、本発明の添加剤組成物は、その成分をそれぞれ別にして燃料油に添加することもでき、その場合の添加する順序も特に限定されない。
【0021】
本発明の流動性向上剤は、低温での流動性および低温でのフィルター通油性を向上させる効果があるため、石油中間留出油、燃料油(ディーゼル燃料油、A重油等)に有用であり、特に炭素数17〜20のワックスを含有する燃料油(該ワックスの含有量は通常1〜10%)に有用であり、該燃料油に本発明の流動性向上剤を添加した本発明の燃料油組成物として用いられる。
炭素数17〜20のワックスを含有する燃料油としては、低硫黄原油(たとえば、ミナス原油等南方系の原油)の通常の蒸留で得られるJIS1号軽油、JIS2号軽油、JIS3号軽油、JIS特3号軽油およびA重油;通常の原油から水素化脱硫処理工程を経て製造される脱硫軽油およびA重油;該脱硫軽油と直留軽油(水素化脱硫工程前の軽油)をブレンドして得られる軽油留分から製造されるJIS1号軽油、JIS2号軽油、JIS3号軽油、JIS特3号軽油およびA重油などが挙げられる。
特に、水素化脱硫処理工程を経て製造される脱硫軽油を50重量%以上使用して製造される、硫黄含有量が0.005重量%以下のJIS1号軽油、JIS2号軽油、JIS3号軽油、JIS特3号軽油および前記軽油と類似の蒸留範囲の基材に蒸留残さをブレンドして得られるA重油に有用であり、とりわけ、硫黄含有量が0.005重量%以下のJIS3号軽油、JIS特3号軽油およびそれらと類似の蒸留範囲の基材に蒸留残さをブレンドして得られるA重油に有用である。
【0022】
本発明の流動性向上剤が添加される燃料油の曇り点(測定法:JIS K2269に記載の方法)は、通常+5〜−25℃、好ましくは−8〜−25℃である。本発明の流動性向上剤は曇り点が−8〜−25℃の燃料油に添加した際に特に低温流動性の向上効果に優れる。
本発明の流動性向上剤は、燃料油組成物中に、(A)として通常10〜5000ppm含まれ、流動性、経済性の観点から、好ましくは20〜2000ppm、さらに好ましくは20〜1000ppm、特に好ましくは20〜700ppmである。
【0023】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、部はいずれも重量部を表す。
【0024】
<流動性向上剤>
実施例1
温度計および撹拌装置の付いたガラス製フラスコに、エチレン/酢酸ビニル/ネオデカン酸ビニル共重合体(X1)(エチレン/酢酸ビニル/ネオデカン酸ビニル=83/15/2モル%、分岐度1.0、Mn4300、Mw9100)50部、イソプロピルアルコール50部および水酸化カリウム10部を加え、75℃にて撹拌下4時間反応させた。反応終了後、反応混合物をビーカー中の1000部の水に撹拌下に加えた。沈殿したポリマーをろ別、水洗した後、150℃にて減圧乾燥し、部分加水分解物(1)(加水分解度=52モル%)を得た。
温度計および撹拌装置の付いたガラス製フラスコに、部分加水分解物(1)30部、ネオデカン酸無水物100部、ピリジン1部を加え、150℃にて撹拌下4時間反応させた。反応終了後、反応混合物をビーカー中の1000部のメタノールに撹拌下に加えた。上澄みをデカンテーションにより捨てた後、再度1000部のメタノールを加え撹拌洗浄した後、デカンテーションにより上澄みを捨て、沈殿物を得た。沈殿物を150℃にて減圧乾燥し、重合体(A1)からなる本発明の流動性向上剤を得た。
重合体(A1)の分析値を表1に示す。なお、構成成分の比率および分岐度は1H−NMRから求め、MnおよびMwはGPCを用いて測定した。
【0025】
実施例2
水酸化カリウムの量を12.5部に変え、ネオデカン酸無水物の量を110部に変える以外は実施例1と同様に反応し、部分加水分解物(2)(加水分解度=65モル%)を得、重合体(A2)からなる本発明の流動性向上剤を得た。
重合体(A2)の分析値を表1に示す。
【0026】
実施例3
部分加水分解物(2)30部と、ネオデカン酸無水物110部に代えて2-エチルヘキサン酸無水物91部を用いる以外は実施例2と同様にして重合体(A3)からなる本発明の流動性向上剤を得た。
重合体(A3)の分析値を表1に示す。
【0027】
実施例4
撹拌装置、加熱装置、吹き込みラインおよび滴下ラインを付したオートクレーブにシクロヘキサン300部を加え、窒素置換後、エチレンにより9.8MPaに加圧した後、80℃に昇温した。この圧力が反応の間一定になるようにエチレンを吹き込んだ。これに酢酸ビニル65部とネオウンデカン酸ビニル112部の混合物およびジイソプロピルパーオキシジカーボネートの50重量%炭化水素溶剤溶液[「パーロイルIPP−50」(日本油脂(株)製)]6部とプロピオンアルデヒド18部の混合物を2時間で滴下し、80℃にて重合した。滴下終了後、反応混合物をオートクレーブから取り出し、未反応のモノマーおよび溶媒を減圧乾燥により除去し、重合体(A-4)からなる本発明の流動性向上剤を得た。
重合体(A4)の分析値を表1に示す。
【0028】
比較例1
上記の重合体(x1)からなる流動性向上剤を比較例1の流動性向上剤とした。
比較例2
エチレン/酢酸ビニル/2-エチルヘキサン酸ビニル共重合体(X2)[エチレン/酢酸ビニル/2-エチルヘキサン酸ビニル=85/4/11モル%、分岐度3.4、Mn6800、Mw16100]からなる流動性向上剤を比較例2の流動性向上剤とした。
【0029】
【表1】
【0030】
<添加剤組成物>
製造例1
温度計、コンデンサー、窒素吹き込み管および撹拌装置の付いたガラス製フラスコに、キシレン140部を加えた後、窒素置換した。これに、77℃にて、メタクリル酸メチル34部、スチレン59部、メタクリル酸アルキル(組成は下記)318部、メタクリル酸モルホリノエチル13部およびアゾビスイソブチロニトリル1.2部の混合物を4時間で滴下した。さらに77℃にて2時間重合後、キシレン436部で希釈し、重合体(B1)を得た。
なお、重合体(B1)に用いたメタクリル酸アルキルは、メタクリル酸ドデシル/メタクリル酸トリデシル/メタクリル酸テトラデシル/メタクリル酸ペンタデシル/メタクリル酸ヘキサデシル/メタクリル酸オクタデシルの6/10/38/26/14/6(重量比)混合物である。
重合体(B1)はポリマー分41重量%のキシレン溶液であり、Mnは100,000、Mwは260,000であった。
【0031】
製造例2
製造例1と同様にして、キシレン67部を加えたフラスコ中に92℃にて、スチレン126部、メタクリル酸アルキル(アルキル組成は下記)456部、メタクリル酸ジメチルアミノエチル18部、ラウリルメルカプタン2.2部およびアゾビスバレロニトリル2.4部の混合物を2時間で滴下した。さらに92℃にて2時間重合後、キシレン333部で希釈し、重合体(B2)を得た。
なお、重合体(B2)に用いたメタクリル酸アルキルは、メタクリル酸テトラデシル/メタクリル酸ペンタデシル/メタクリル酸ヘキサデシル/メタクリル酸オクタデシルの30/20/35/15(重量比)混合物である。
重合体(B2)はポリマー分59重量%のキシレン溶液であり、Mnは30,000、Mwは57,000であった。
【0032】
製造例3
製造例1と同様にして、キシレン67部を加えたフラスコ中に92℃にて、メタクリル酸アルキル(アルキル組成は下記)600部、ラウリルメルカプタン2.2部およびアゾビスバレロニトリル2.4部の混合物を2時間で滴下した。さらに92℃にて2時間重合後、キシレン333部で希釈し、重合体(B3)を得た。
なお、重合体(B3)に用いたメタクリル酸アルキルは、メタクリル酸テトラデシル/メタクリル酸ペンタデシルの60/40(重量比)混合物である。
重合体(B3)はポリマー分59重量%のキシレン溶液であり、Mnは29,000、Mwは56,000であった。
【0033】
実施例5〜12および比較例1〜3
撹拌装置、加熱装置および温度計を備えたガラス製容器に、表2に示した重合体を表2に示した部数、および希釈剤として炭素数10〜11の石油系芳香族混合溶剤(初留点182℃〜終点204℃)を表2に示した部数加え、100℃にて均一溶解して、本発明の添加剤組成物(T1)〜(T8)および比較例の添加剤組成物(C1)〜(C3)を得た。
【0034】
【表2】
【0035】
<燃料油組成物>
実施例13〜30、比較例4〜13
表3に示す性状の燃料1〜燃料4のいずれかの燃料油(軽油またはA重油)に、表4〜7に示した添加剤組成物を表4〜7に示した添加量加えて均一に混合し、PP[流動点(℃):JIS K2269 3に記載の方法]とCFPP[低温濾過器目詰まり点(℃):JIS K2288に記載の方法]を測定することにより低温流動性を評価した。また、A重油については、修正法CFPP[低温濾過器目詰まり点修正法No.4(℃):石油学会燃料油分科会流動性専門委員会平成5年度活動報告書に記載の方法]もあわせて評価した。その結果を表4〜表7に示す。
これから明らかなように本発明の流動性向上剤および添加剤組成物は、いずれの軽油またはA重油に対しても、非常に優れた低温流動性を与える。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
【発明の効果】
本発明の流動性向上剤および燃料油添加剤組成物は、従来のものに比較して、燃料油の低温流動性の向上効果に優れ、少量の添加でCFPP(低温濾過器目詰まり点)およびPP(流動点)を低くすることができる。
とりわけ、従来の流動性向上剤および燃料油添加剤組成物では低温流動性の向上が困難であった、曇り点が低い低硫黄含量の軽油、およびA重油に対して有効である。
Claims (13)
- エチレン(a)から誘導される単位と、炭素数5〜24の分岐脂肪族飽和モノカルボン酸のビニルエステル(b)から誘導される単位を必須構成単位とする共重合体(A)からなり、(A)中の(a)のモル%が80〜88モル%であり、(a)の重量%が40〜57重量%であり、(b)のモル%が4〜20モル%であり、かつ1H-NMRで測定される(A)の分岐度が0.3〜2.2%であることを特徴とする燃料油用流動性向上剤。
- (A)が、さらに炭素数2〜4の飽和脂肪族モノカルボン酸のビニルエステル(c)から誘導される単位を必須構成単位とする共重合体である請求項1記載の流動性向上剤。
- (A)中の(c)のモル%が1〜13モル%である請求項2記載の流動性向上剤。
- (b)が、3級アルキル基を有する炭素数8〜15のモノカルボン酸のビニルエステルである請求項1〜3のいずれか記載の流動性向上剤。
- (A)の重量平均分子量が3,000〜50,000である請求項1〜4のいずれか記載の流動性向上剤。
- 請求項1〜5のいずれか記載の(A)並びに他の添加剤および/または希釈剤(C)からなる燃料油添加剤組成物。
- 他の添加剤の少なくとも1種が、アルキル基の炭素数10〜18の不飽和カルボン酸アルキルエステルから誘導される単位を必須構成単位とする共重合体(B)である請求項6記載の燃料油添加剤組成物。
- アルキル基の炭素数10〜18の不飽和カルボン酸アルキルエステルが、アルキル基の炭素数10〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルである請求項7記載の燃料油添加剤組成物。
- (C)が炭素数7〜15の炭化水素である請求項6〜8のいずれか記載の燃料油添加剤組成物。
- 燃料油添加剤組成物中の(C)の含有量が10〜45重量%である請求項6〜9のいずれか記載の燃料油添加剤組成物。
- 炭素数17〜20の炭化水素からなるワックスを含有する燃料油に対して請求項1〜5のいずれか記載の流動性向上剤、または請求項6〜10のいずれか記載の燃料油添加剤組成物を、(A)が10〜5,000ppmとなるように添加してなる燃料油組成物。
- 燃料油の曇り点が−8〜−25℃である請求項11記載の燃料油組成物。
- 燃料油の硫黄含量が0.005重量%以下である請求項11または12記載の燃料油組成物。
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